説明

マルチストランド鋼製ワイヤロープ

本発明の一つの態様は、マルチストランド鋼製ワイヤロープ(28、32、36、46、50)に関し、該鋼製ワイヤロープは、コア(30、34、)の上に螺旋状に撚り合わせられた複数のストランド(3、10、38)を有し、その特徴は、該ストランドの少なくとも一部が、深いストランド(10、38)、即ち、高さ幅の比が1より大きいストランドであるということである。本発明の別の態様は、該深いストランド(10、38)それ自体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、マルチストランド(multi-strand)鋼製ワイヤロープ、および、ワイヤロープの個々のストランド(線束)に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチストランド鋼製ワイヤロープは、複数のストランドへと紡がれた複数の鋼製ワイヤ(スチールワイヤー)を有しており、そして、それらストランドは、1つ以上の層になって、典型的には、コア(芯)の周囲に螺旋状に撚り合わせられている。図1は、従来の単層のマルチストランド鋼製ワイヤロープ(数字1で全般的に示す)の典型例を示している。ロープ1は、コア2を有し、該コアの周囲にストランド(複数)3が単層に撚り合わせられている。コア2は、典型的には、サイザル(sisal)などの繊維、ポリプロピレンなどの合成のポリマー性素材、または、他の鋼製ワイヤストランドで作られ、あるいは、コアの領域は空いていてもよい。この従来の構造の例では、数字4が各々のストランドのコアを表し、数字5がストランドの内側のワイヤを表し、そして数字6がストランドの外側のワイヤを表している。外側のワイヤ6が、ストランド全体としての螺旋の方向とは反対の螺旋の方向で撚り合わされている場合、ロープは、普通撚り(ordinary or regular lay)の構造であるとされる。ワイヤ6がストランド自体と同じ螺旋の方向で撚り合わされている場合には、ロープは、ラング撚り(Lang's lay)の構造であるとされる。
【0003】
複数ストランドの単層を有するロープ(本明細書では、便宜上「単層ロープ(single layer ropes)」と呼ぶ)は、引張荷重がかかったときに、通常、トルクを生成する。この結果としては、ロープの一端が自由に回転するならば、生成されたトルクを軽減するために、ロープが全体としてほどける傾向があるということである。このほどけることは、ある種の用途、例えば、回転を抑制されていない荷重を持ち上げるためにロープを使用する用途では、非常に望ましくないものとなり得る。そのような場合、回転しない(non-spin)ロープが使用される。そのようなロープは、通常、1つより多い層のストランドを有し、外側の層のストランドは、内側の層のストランドの上に撚り合わせられるが、それは、内側の層のストランドに対して反対の螺旋の方向へと撚り合わせられている。このようにして、ロープが引張荷重のもとにあるときに、各々の層によって、生成されるトルクを相殺する試みがなされている。
【0004】
本明細書では、便宜上、ストランドの層を1より多く有するロープを「複数層」ロープと呼ぶ。
【0005】
複数層ロープは、ロープがほどけようとする傾向に抵抗し得るとはいえ、通常、単層ロープよりも安定でなく、かつ丈夫でない。また、単層のロープの磁気的な非破壊検査は、複数層のロープでの場合よりも正確かつ信頼できるものである傾向がある。
【0006】
公知の鋼製ワイヤロープのストランドは、種々の形状を取り得る。円筒状のストランドの一例を図2に示しており、数字7および8はそれぞれ、ストランドの「高さ」および「幅」を示している。ストランドの「高さ」は、撚り合わせられたロープにおいて、示されたY−Y軸に対応する半径方向で測定されたストランドの断面の寸法である。
【0007】
ストランドの「幅」は、撚り合わせられたロープにおいて、図示したX−X軸に対応する円周方向または接線方向における断面測定値である。図2のストランドのような円筒状のストランドの場合には、高さ:幅の比は、1(unity)に実質的に等しく、また、該ストランドのX−X軸に関する曲げ剛性(bending stiffness)は、Y−Y軸に関する曲げ剛性に実質的に等しい。
【0008】
図3は、公知の三角形のストランドの一例を示しており、コア4は、正三角形(equilateral)の断面形状を有している。この場合、高さ:幅の比は、典型的には0.98のオーダーとなり、即ち、1に近いものとなる。結果として、X−X軸に関する曲げ剛性は、ここでもまた、Y−Y軸に関する曲げ剛性に実質的に等しい。
【0009】
図4は、ワイヤ9で構成された「2本を覆う8本のワイヤ(8オーバー2ワイヤ、8 over 2 wire)」のストランドとして知られる、別の公知のストランドの形状の一例を示している。この場合、高さ:幅の比は、1より実質的に小さく、例えば約0.69であり得る。このようなストランドのX−X軸に関する曲げ剛性は、そのY−Y軸に関する曲げ剛性よりも実質的に小さい。
【発明の概要】
【0010】
発明の要旨
本発明によれば、マルチストランド鋼製ワイヤロープが提供され、当該鋼製ワイヤロープは、コアの上に螺旋状に撚り合わせられた複数のストランドを有し、該ストランドの少なくともいくつかが、深い(deep)ストランド、即ち、高さ:幅の比が、1より大きい、好ましくは、1.04以上のストランドである。
【0011】
好ましい実施形態では、当該ロープは、単層の構造である。例えば、コアの上に螺旋状に撚り合わせられた単層の深いストランドが有り、かつ、他のストランドが無いものであってもよい。代替的には、コアの上に撚り合わせられた、深いストランドと他のストランドの両方を含んだ単層のストランドであってもよい。
【0012】
各々の深いストランドは、正三角形でない三角形の断面形状を有するコアを備えてもよい。代替的には、各々の深いストランドは、断面において、概して半径方向に配置されたワイヤの平行な列を有してもよい。
【0013】
本発明に従ってさらに、マルチストランド鋼製ワイヤロープのためのストランドが提供され、該ストランドは、高さ:幅の比が1.04以上である深いストランドである。上記のように、当該ストランドは、正三角形でない三角形の断面形状を有するコアを有し、かつ、該コアの上に撚り合わせられたワイヤを有してもよく、あるいは、該ストランドは、断面において、概して半径方向に配置されたワイヤの平行な列を有してもよい。
【0014】
図面の簡単な説明
これより、例示のみの目的で添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、従来のマルチストランド鋼製ワイヤロープを示している。
【図2】図2から図4は、マルチストランド鋼製ワイヤロープで使用される種々の従来のストランド構造を示している。
【図3】図2から図4は、マルチストランド鋼製ワイヤロープで使用される種々の従来のストランド構造を示している。
【図4】図2から図4は、マルチストランド鋼製ワイヤロープで使用される種々の従来のストランド構造を示している。
【図5】図5は、本発明によるマルチストランド鋼製ワイヤロープの深いストランドを示している。
【図6】図6から図10は、本発明による種々のマルチストランド鋼製ワイヤロープを示している。
【図7】図6から図10は、本発明による種々のマルチストランド鋼製ワイヤロープを示している。
【図8】図6から図10は、本発明による種々のマルチストランド鋼製ワイヤロープを示している。
【図9】図6から図10は、本発明による種々のマルチストランド鋼製ワイヤロープを示している。
【図10】図6から図10は、本発明による種々のマルチストランド鋼製ワイヤロープを示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
図1に見られるマルチストランド鋼製ワイヤロープは、図2から図4に見られる種々のストランド構造を有するとして、上で説明されている。
【0017】
図5は、本発明による深い(deep)ストランド10を示している。該ストランド10は、コア12を有し、該コアは、等しい長さの2つの辺14および16と、より短い第3の辺18とを持った、正三角形でない(non-equilateral)、二等辺三角形の断面形状を有する。鋼製ワイヤの内側の層20は、コア12上で螺旋状に撚り合わせられ、かつ、該鋼製ワイヤの外側の層22は、該内側のワイヤ上で螺旋状に撚り合わせられている。
【0018】
図5では、数字24がストランド10の断面の高さを示している。従来のロープおよびストランドについての上記記載と同様に、これが、ストランドの半径方向の寸法であり、即ち、ロープの中心軸に対して半径方向で測定された、マルチストランド鋼製ワイヤロープにおいて撚り合わせられたときのストランドの断面の寸法である。
【0019】
数字26は、ストランド10の断面の幅を示しており、これは即ち、ロープへと撚り合わせられたときの、半径方向に対して垂直に測定された、円周方向のまたは接線方向のストランドの断面の寸法である。図5では、パラメーターは、高さ:幅の比が1.12のオーダーであるようなものとなっている。
【0020】
便宜上、図5のストランド10を、深い三角形のストランドと呼ぶ。本発明による深いストランドは、ワイヤの複数の層の代わりに、ワイヤの単一の層のみを有する、図5におけるような成形されたコアを有してもよいことは理解されよう。
【0021】
図6は、マルチストランド鋼製ワイヤロープ28の断面図を示しており、該鋼製ワイヤロープは、コア30と、該コアの上に単層で螺旋状に撚り合わせられた図5のタイプの5つの密接に隣接しかつ等しく配置された深い三角形のストランド10とを有している。
【0022】
図7は、単層のマルチストランド鋼製ワイヤロープ32の断面図を示しており、該鋼製ワイヤロープは、コア34と、該コアの上に単層で螺旋状に撚り合わせられた図5のタイプの9つの密接に隣接しかつ等しく配置された深い三角形のストランド10とを有している。
【0023】
図8は、単層のマルチストランド鋼製ワイヤロープ36の断面図を示しており、鋼製ワイヤロープ36は、図5の深い三角形のストランド10とは異なる形状を有する深いストランドを備えている。この場合、各々の深いストランド38は、10本の鋼製ワイヤ40を有し、これら鋼製ワイヤは、該ストランドの高さ42がその幅44よりも大きくなるように、即ち、高さ:幅の比が1より大きくなるように、平行な列41で、概して半径方向に伸びるように構成されている。高さ:幅の比は、例えば1.46:1のオーダーであってよい。
【0024】
図8では、3つの深いストランド38が、互いに離れて、かつ図2に関して上述したストランド3に類似した3つの従来の丸いストランドと円周状に交互に、配置されている。
【0025】
図9は、深いストランド38を備えた単層のマルチストランド鋼製ワイヤロープ46の断面図を示している。ここでもまた、各々の深いストランド38の高さ:幅の比は、1より大きく、図8におけるのと同様に、1.46:1のオーダーであってよい。
【0026】
図9の実施形態は、図2のタイプの4つの丸いストランド3と交互になって離れて配置された4つの深いストランド38があるという点で、図8の実施形態とは異なっている。
【0027】
図10は、4つの密接に隣接した深いストランド38および4つの丸いストランド3を備えた単層のマルチストランド鋼製ワイヤロープ50の断面図を示している。
【0028】
丸いストランド3は、深いストランド38の間を埋めるものとして螺旋状に撚り合わせられているが、構造が事実上単層の構造のままとなるように、深いストランド38を覆ってはいない。
【0029】
上記のとおり、単層のマルチストランドのロープに引張荷重がかかったときに、該ロープにかかる引張力はトルク(即ち、該ロープをほどく傾向がある力)を生成すると理解されている。本発明は、ロープにおける引張力は、せん断力を発生させるトルクの成分と、長手方向の力の成分とに分解され得るという本発明者による理解に基づいている。本発明者はさらに、単層のマルチストランドのロープが引張荷重のもとでほどける傾向を低減するために、ロープのストランドの適当な軸についての曲げ剛性が、該ストランドのねじり剛性(即ち、該ストランドの該軸について作用し、せん断を生成する印加トルク力のもとでの、捩れに対する該ストランドの抵抗力)に対して増加されるべきであることを認識した。
【0030】
高さ:幅の比が1を上回ること(大抵の場合は、かなりの量である)の結果として、上述した深いストランド10および38は、対応する該比率が1以下である従来のストランドの構成と比べて、図6における軸A−A(これは、半径方向に対して垂直であり、かつ、図2から4における軸X−Xに対応している)についての曲げ剛性の増加を示すであろう。
【0031】
従って、図6から10に示したロープは、引張荷重のもとでほどける傾向が低減されているか、あるいは、そのようなロープは、負荷がかかったときに、そのようなほどける傾向が全くないか、または、わずかにねじれる傾向すら有し得ることが分かる。
【0032】
さらには、ロープがロープ全体として、引張荷重のもとでほどける傾向が適切に低減されるためには、3つより少ない深いストランドがある場合でさえも何らかの有益なほどけるのに抗する効果が経験されるであろうことは理解されるであろうが、軸A−Aに関する所望の増加した曲げ剛性を有する3つ以上の深いストランドがあるべきというのが、最も好都合であると考えられる。
【0033】
留意すべきは、本発明の原理が、種々の異なるタイプのマルチストランド鋼製ワイヤロープに対して適用できるということであって、該種々のマルチストランド鋼製ワイヤロープには、右撚りまたは左撚り(right hand or left hand lay)を伴うロープが含まれ、ラング撚りまたは普通撚りを伴うロープが含まれ、ストランドがコアにわたって単一のワイヤの層を有する単純なストランドであるロープが含まれ、ワイヤが異なる層において同一の螺旋の方向に撚り合わせられているのかまたは異なる螺旋の方向に撚り合わせられているのかに関わらず、ストランドがコアの上に撚り合わせられた2つ以上のワイヤの層を有する複合のストランドであるロープが含まれ、ストランドのコアが組まれた(plaited)構造であるのかまたはその他の構造であるのかに関わらず、ストランドが金属または非金属のコアを有するロープが含まれ、ロープのコアが金属または非金属あるいはストランドまたは他の形状であるロープが含まれ、かつ、ストランドおよび/またはロープ自体が包み込まれたロープが含まれる。
【0034】
本発明の主な利点は単層のロープにおいて実現されるであろうが、ロープがほどける傾向の低減は、複数層のロープの場合でも同様に達成され得ることが想定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチストランド鋼製ワイヤロープであって、当該ロープは、
コアの上に螺旋状に撚り合わせられた複数のストランドを有し、
その特徴が、該ストランドの少なくとも一部が、深いストランド、即ち、高さ:幅の比が1より大きいストランドであることである、
前記マルチストランド鋼製ワイヤロープ。
【請求項2】
当該ロープの深いストランドの高さ:幅の比が、1.04以上である、請求項1に記載のマルチストランド鋼製ワイヤロープ。
【請求項3】
当該ロープが単層の構造である、請求項2に記載のマルチストランド鋼製ワイヤロープ。
【請求項4】
当該ロープが、コアを有し、かつ、該コアの上に螺旋状に撚り合わせられた単層の深いストランドを有し、かつ他のストランドを有しない、請求項3に記載のマルチストランド鋼製ワイヤロープ。
【請求項5】
当該ロープが、コアを有し、かつ、該コアの上に撚り合わせられた、深いストランドおよび他のストランドの両方を含む単層を有する、請求項3に記載のマルチストランド鋼製ワイヤロープ。
【請求項6】
各々の深いストランドが、正三角形でない三角形の断面形状を有するコアを備えている、先行する請求項のいずれか1項に記載のマルチストランド鋼製ワイヤロープ。
【請求項7】
各々の深いストランドが、断面において、概して半径方向に配置されたワイヤの平行な列を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のマルチストランド鋼製ワイヤロープ。
【請求項8】
マルチストランド鋼製ワイヤロープのためのストランドであって、当該ストランドが、高さ:幅が1.04以上の比を持った深いストランドであることであることを特徴とする、前記ストランド。
【請求項9】
当該ストランドが、正三角形でない三角形の断面形状を有するコアと、該コアの上に撚り合わせられたワイヤとを有する、請求項8に記載の深いストランド。
【請求項10】
当該ストランドが、断面において、概して半径方向に配置されたワイヤの平行な列を有する、請求項8に記載の深いストランド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−508450(P2010−508450A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535176(P2009−535176)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054432
【国際公開番号】WO2008/053447
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(509126184)
【Fターム(参考)】