説明

マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬としてのイバブラジンの使用

【課題】マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬の提供。
【解決手段】イバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、およびその薬学的に許容しうる酸との付加塩およびその水和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【化1】


で示されるイバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシ−ビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、およびその薬学的に許容しうる酸との付加塩、および前記付加塩の水和物の、マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬としての使用に関する。
【0002】
イバブラジンおよびその薬学的に許容しうる酸との付加塩、さらに詳細にはその塩酸塩、ならびに前記付加塩の水和物は、非常に有益な薬理学的特性および治療的特性を有する。これらは、直接的かつ選択的に心臓ペースメーカー活動を低下させ、動脈圧に影響を及ぼすことなく負の変時特性(心拍数の減少)を与えるので、心筋虚血に関連する様々な心血管疾患、たとえば狭心症および心筋梗塞の治療、予防、および予後の改善において、ならびに慢性心不全において、これらを使用することを検討することが可能になる。
【0003】
イバブラジンおよびその薬学的に許容しうる酸との付加塩、さらに詳細にはその塩酸塩の調製および治療における使用は、欧州特許明細書EP0534859に記載されている。
【0004】
本出願人は、イバブラジンおよびその付加塩、さらに詳細にはその塩酸塩が、マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬としてこれらを使用することを可能にする有益な特性を有することを今回見いだした。
【0005】
マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影、すなわちMSCT−CA(マルチスライスコンピュータ断層撮影冠動脈造影)は、MDCT−CA(多検出器コンピュータ断層撮影冠動脈造影)とも称し、冠動脈を調べ、冠動脈疾患、特に冠動脈の狭窄(狭窄症)または閉塞を画像化することにより検出し、さらに血管の組織および透過性を評価し、粥状斑を組織レベルで特徴付けることを可能にする高速非侵襲技術である。この方法は、その侵襲的性質のために危険性がある心臓カテーテル法による従来の血管造影技術を使用する必要性を回避する。
【0006】
マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法においては、患者にヨード造影剤を注射して、冠動脈の管腔を不透明にする。次いで多列(すなわち、多検出器)スキャナーを用いてX線で照射することにより、画像取得をおこなう。
【0007】
冠動脈は、内径が小さく蛇行した動きの速い血管であり、したがって画像化が困難である。したがって、冠動脈を正確に分析するためには、高空間・時間分解能が必要とされる。分解能が高いほど、列の数が多くなる。多列スキャナーは一般的に4〜64の検出器を有する。最新のスキャナーは64の検出器を備えており、場合によっては、この技法の時間分解能を増大させる二重X線源を備えている。
【0008】
他方、動きアーチファクトのために、画質は、高い心拍数により影響を受ける。
【0009】
本出願人は、イバブラジンが、この手法の準備行為として、心拍数を低下させることができることを今回見いだした。この特性により、心拍数が高く、マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法を受ける患者において、イバブラジンを使用して、得られる画像の品質を改善することを検討することが可能になる。加えて、心拍数の減少の結果として、照射を減少させることを考慮できる可能性がある。
【0010】
本発明は、したがってマルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法において診断薬として使用するための組成物を得る際の、イバブラジンの使用、その薬学的に許容しうる酸との付加塩の使用、および前記塩の水和物の使用に関する。
【0011】
組成物は、経口または静脈内経路、好ましくは静脈内経路による投与に適した形態である。
【0012】
有用な投与量は、検査を受ける者の安静時心拍数により変化し、1回の投与あたり2〜20mgの範囲である。
【0013】
静脈内経路による投与は、ボーラスまたは灌流によりおこなう。
【0014】
ボーラスは、好ましくは30秒未満持続する急速投与を意味すると理解される。
【0015】
静脈内経路による投与に適した組成物は、注射液、または投与前に溶媒中に溶解させる凍結乾燥物の形態にすることができる。注射液は、好ましくは生理食塩水である。注射液中のイバブラジン塩基の濃度は、好ましくは1〜5mg/mlである。式(I)の活性成分の注射液中のパーセンテージは、好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0016】
式(I)の活性成分の凍結乾燥物中のパーセンテージは、好ましくは10〜50重量%である。
【0017】
イバブラジン、その薬学的に許容しうる酸との付加塩の1つ、または前記付加塩の1つの水和物の1つに加えて、経口経路による投与に適した組成物は、一つ以上の賦形剤または担体、たとえば希釈剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、吸収剤、着色剤、甘味料を含む。
【0018】
非限定的例として:
・希釈剤としては:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセロール、
・滑沢剤としては:シリカ、タルク、ステアリン酸ならびにそのマグネシウム塩およびカルシウム塩、ポリエチレングリコール、
・結合剤としては:ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリビニルピロリドン(PVP)、
・崩壊剤としては:寒天、アルギン酸およびそのナトリウム塩、発泡性混合物
を挙げることができる。
【0019】
経口経路により投与される組成物中の式(I)の活性成分のパーセンテージは、好ましくは3〜50重量%である。
【0020】
実施例1:臨床試験。健常ボランティアにおける心拍数に対するイバブラジン塩酸塩のi.v.投与の効果。
安静時の心拍数(横臥位)をT0で測定した。対象に、次いで16mgのイバブラジン塩基を含むイバブラジン塩酸塩の溶液(処置群、n=8)またはプラセボ(対照群、n=2)のi.v.ボーラスを投与した。安静時の心拍数(横臥位)をT0+30分で再度測定した。
結果:
イバブラジンで処置した対象において、心拍数は対照群の心拍数よりも16%低かった。
【0021】
実施例2:臨床試験。マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法を受ける患者において、心拍数に対するイバブラジン塩酸塩のi.v.投与の影響。
この研究のために選択された患者は、安静時の心拍数が70bpmに等しいか、またはそれ以上であった。患者の安静時の心拍数をT0で測定した。心拍数が70bpm〜79bpmである患者に、10mgのイバブラジン塩基を含むイバブラジン塩酸塩の溶液(処置群)またはプラセボ(対照群)のi.v.ボーラスを投与した。心拍数が80bpmに等しいか、またはそれ以上である患者に、15mgのイバブラジン塩基を含むイバブラジン塩酸塩の溶液(処置群)またはプラセボ(対照群)のi.v.ボーラスを投与した。安静時の心拍数をボーラス注射後に連続して測定した。心拍数が65bpmより低くなったらすぐに、患者に対して冠動脈造影をおこなった。患者に造影剤を注射した。次いで、少なくとも64の検出器を有する多列スキャナーを用いてX線照射により画像取得をおこなった。
【0022】
実施例3:10mg/5mlを含む注射液:
それぞれイバブラジン塩基10mgを含む1000個のアンプルの調製用処方:
イバブラジン塩酸塩........10.78g
塩化ナトリウム.............45g
注射用水..............5リットル
構成成分を一緒に混合し、結果として得られる溶液を、それぞれ10mlの容量を有するアンプル1000個に分注した。
【0023】
実施例4:15mg/7.5mlを含む注射液:
それぞれイバブラジン塩基15mgを含む1000個のアンプルの調製用処方:
イバブラジン塩酸塩........16.17g
塩化ナトリウム...........67.5g
注射用水............7.5リットル
構成成分を一緒に混合し、結果として得られる溶液を、それぞれ10mlの容量を有するアンプル1000個に分注した。
【0024】
実施例5:静脈内経路による投与のための凍結乾燥物
実施例2の構成成分を一緒に混合し、結果として得られる溶液を、それぞれ10mlの容量を有するアンプル1000個に分注し、これを次いで凍結乾燥した。
【0025】
実施例6:経口経路による投与のための組成物
それぞれイバブラジン塩基5mgを含む錠剤1000個の調製用処方:
イバブラジン塩酸塩.........5.39g
トウモロコシデンプン..........20g
無水コロイド状シリカ.........0.2g
マンニトール...........63.91g
ポビドン(PVP)...........10g
ステアリン酸マグネシウム.......0.5g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、その薬学的に許容しうる酸との付加塩または該塩の水和物の、マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬として使用するための組成物の製造における使用。
【請求項2】
マルチスライスコンピュータ断層撮影による冠動脈造影法における診断薬として使用するための、イバブラジン、すなわち3−{3−[{[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル}(メチル)アミノ]プロピル}−7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンゾアゼピン−2−オン、その薬学的に許容しうる酸との付加塩または該塩の水和物を、一つ以上の薬学的に許容しうる賦形剤と組み合わせて含む組成物。
【請求項3】
静脈内経路による投与に適していることを特徴とする、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
注射液の形態の、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
経口経路による投与に適していることを特徴とする、請求項2記載の組成物。

【公開番号】特開2013−49699(P2013−49699A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−242503(P2012−242503)
【出願日】平成24年11月2日(2012.11.2)
【分割の表示】特願2009−254783(P2009−254783)の分割
【原出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】