説明

マルチチャネル・オーディオ信号の空間合成

本発明は、和信号を空間的に合成して少なくとも2つの出力信号を得るための方法であって、前記和信号は、空間パラメータと一緒に、オリジナルのマルチチャネル信号のマトリックス化によるパラメトリック符号化により出力される方法において、当該方法は、前記和信号を無相関化して、無相関信号(d)を得るステップ(Decorr.)と、係数が前記空間パラメータ(R,I)に依存する合成マトリックス(M Minq)を、前記出力信号を得るために前記和信号に適用すると共に前記無相関信号に適用するステップ(Synth.)とを含み、少なくとも1つの空間パラメータの少なくとも1つの値範囲について、前記合成マトリックスの係数は、該合成マトリックスを適用する前記ステップにより得られる前記出力信号のそれぞれにおける無相関信号の量に関する定量的関数(q)を最小化するための基準に従って決定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチチャネル・オーディオ信号の符号化(coding)/復号化(decoding)の分野に関する。
更に詳しくは、本発明は、マルチチャネル・オーディオ信号のパラメトリック符号化/復号化に関する。
【0002】
このタイプの符号化/復号化は、復号化の際に聴取者の空間認知(spatial perception)が再構築されるような、空間パラメータの抽出に基づいている。
【0003】
このような符号化技術は、英語表現で「BCC(Binaural Cue Coding)」として知られ、それは、一方では、聴覚上の空間インデックス(auditory spatialization indices)を抽出(extract)して符号化することを目的とし、他方では、オリジナルのマルチチャネル信号のマトリクス化から生じるモノラルまたはステレオ信号を符号化することを目的とする。
【0004】
このパラメトリック・アプローチは、低スループットの符号化である。この符号化アプローチの主要な利益は、既に存在するブロードキャストシステムと符号化フォーマットを用いて得られる圧縮フォーマットのレトロ・コンパチビリティ(retrocompatibility)を保証しながら、マルチチャネル・デジタルオーディオ信号を圧縮するための従来の処理手順よりも良好な圧縮率を可能にすることである。
【0005】
従って、本発明は、更に詳しくは、低減された数の送信チャネルに基づく3D音場(sound scene)の空間復号化(spatial decoding)に関する。
【背景技術】
【0006】
MPEG標準ISO/IEC 23003-1:2007の文書、および、Breebaart,J.、Hotho,G.、Koppens,J.、Schuijers,E.、Oomen,W.、van de Par,S.らによる、「Journal of the Audio Engineering Society 55-5(2007)331-351」における“Background, concept, and architecture for the recent MPEG surround standard on multichannel audio compression”と題された文書に記載されているMPEGサラウンド標準は、マルチチャネル・オーディオ信号を符号化/復号化するための特定の構成について述べている。
【0007】
図1は、このような符号化/復号化システムを示し、このシステムでは、符号化器(encoder)100は、オリジナルのマルチチャネル信号Sのチャネルを(110で)マトリクス化(matrixing)することにより和信号(sum signal)Sを構成(英語表現では“ダウンミックス(downmix)”)し、そして、パラメータ抽出モジュール120を介して、上記オリジナルのマルチチャネル信号の空間コンテンツを特性化するパラメータPの縮小されたセットを供給する。
【0008】
復号器150では、マルチチャネル信号は、合成モジュール160により再構成(S’)され、この合成モジュール160は、送信される上記パラメータP及び上記和信号を一度に同時に取り入れる。
【0009】
上記和信号は、低減された数のチャネルを含む。これらのチャネルは、送信(transmission)または記憶(storage)の前に従来のオーディオ符号化器によって符号化されてもよい。典型的には、上記和信号は、2つのチャネルを含み、従来のステレオ放送との互換性を有する。従って、送信または記憶の前に、この和信号は、従来の任意のステレオ符号化器によって符号化することができる。そして、符号化された信号は、空間データ(spatial data)を無視しつつ上記和信号を再構成する対応の復号化器を備えた装置との互換性を有する。
【0010】
MPEGサラウンド標準は、空間データを表すための特定の構成を採用し、符号化器は、それぞれが低減された数のチャネルに関する空間パラメータを抽出することを可能にする低減された数の基本符号化ブロックに基づいて構成されたツリー状符号化構造に依存している。次のような2つの基本的タイプの符号化ブロックが存在する。
− TTO(英語表現では、“Two To One”)ブロック。それは、2つのチャネル間の空間パラメータを抽出して、これら2つのチャネルに基づいてモノラルの和信号を構成することを可能にする。
− TTT(英語表現では、“Three To Two”)ブロック。それは、3つのチャネル間の空間パラメータを抽出して、これら3つのチャネルに基づいて2つのチャネルを含む和信号を構成することを可能にする。
【0011】
図2は、6チャネル(L,R,C,LFE,L,R)を含む5.1マルチチャネル信号に基づくモノラル信号Sを得るための、TTOブロック(TTO,TTO,TTO,TTO,TTO)を用いた符号化ツリーまたは符号化構成の第1の例を示す。
【0012】
図3は、5.1信号に基づくステレオ信号SlおよびSrを得るための、TTOブロックとTTTブロックとを一度に同時に用いた第2の典型的な符号化構成を示す。
【0013】
従って、受信されるモノラルまたはステレオ信号の復号化は、図2および図3に示されるものに対して対称的な復号化ツリーを用いることにより実施される。
【0014】
よって、図2のツリーにより符号化された信号の復号化のために、復号化は、一連の再構成ステップとしてとらえられてもよい。
【0015】
この場合、第1の復号化ステップは、ブロックTTOにより抽出された空間パラメータと和信号に基づいてブロックTTOの入力信号に対応する信号を再構成することにあり、そして、次のステップは、前のステップで再構成された信号と、ブロックTTOにより抽出された空間パラメータとに基づいてブロックTTOの入力信号に対応する信号を再構成することにあり、その後、復号化は、符号化されたマルチチャネル信号の全てのチャネルが再構成されるまで同様に繰り返される。実際には、復号化器は、モノラルの和信号から、より小さいサイズの種々のTTOおよびTTTブロックのマトリックスの組合せにより再構成される6チャネルへ直接的にパス(pass)することを可能とするマトリックスを構成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、TTOブロックを復号化するためのMPEGサラウンド標準で採用される技術は、反対位相(phase opposition)のチャネルを含むマルチチャネル信号の符号化について極めて不利な制限を課す。
【0017】
この復号化技術は、2003年10月30日付けでWO03/090206A1の番号で発行された、“signal synthesizing”と題された特許出願(出願人:Koninklijke Philips Electronics N.V.、発明者:Dirk J.Breebaart)において更に詳細に述べられている。
【0018】
この技術は、図4を参照して示されるように、無相関信号(decorrelated signal)dを得るために和信号sをフィルタリングすることにより、410で無相関ステップを実施することにある。従って、得られた無相関信号および和信号は、その後、特定の空間パラメータに適合する2つの信号lおよびrを生成するために、空間パラメータRおよびIに応じて、合成マトリックスMにより合成モジュール420で処理される。ここで、パラメータRおよびIは、それぞれ、マルチチャネル信号のチャネル間のエネルギー比(energy ratio)と、マルチチャネル信号のチャネルについてのチャネル間相関(interchannel correlation)インデックスである。
【0019】
信号sおよびdのマトリックス化(matrixing)は、次の関係に従って実施される。
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、このマトリックス化は上述した制限を呈し、それは、この手順を、負のチャネル間相関を呈するマルチチャネル・オーディオ信号の符号化に適したものとしない。
【0022】
特に、このような技術は、チャネル間で反対位相を含む楽音信号(ambiophonic signals)の復号化には向かない。
【0023】
実際には、チャネル間相関Iは負(negative)であり、とりわけ、それが−1に近い場合には、信号lおよびrを合成するために使用される無相関信号の比率が極めて重要になり、或る典型的なケースでは、使用される和信号sの量を明確に超える。最も問題のあるケースでは、0dBのレベルのチャネル間差(interchannel difference)について、即ちR=1について、チャネル間相関Iは−1になる傾向を示す場合、混合マトリックスは次のマトリックスになる傾向を示すことに注目されたい。
【0024】
【数2】

【0025】
このマトリックスは、再構成された信号
【0026】
【数3】

【0027】
に対応し、それは、それらの表現に和信号を含んでおらず、無相関信号のみを使用している。従って、再構成された信号の波形は、信号sの影響を受ける無相関(decorrelation)に完全に依存するので、制御されない。
【0028】
極端なケースにおける前述の例で示される再構成問題は、また、RおよびIの他の値についても発生し、Iが−1に近いほど、いっそう顕著(marked)になる。従って、再構成されたチャネルの波形は、これらのケースでは、それがあたかもオリジナルの信号に対するもののようではなく、これにより、再構成された信号の量を不必要に制限しない。
【0029】
この制限の影響は、信号が、−1に近いチャネル間相関を有する多数のチャネルを呈する場合、さらにいっそう顕著(marked)である。この場合、2よりも多いチャネルが、近い波形(close waveforms)を有するが、それらの幾つかは反対位相にある。
【0030】
オリジナルのマルチチャネル信号の復元(restitution)期間で、近い波形を有するこれらの種々のチャネルの信号は、所望の音場を再構成することを可能にする建設的(constructive)および破壊的(destructive)な干渉(interference)を生成する復元ゾーンで相互に作用(interact)する。
【0031】
復号化の後、チャネルの波形は、以前に示唆した問題のために著しく変形されるであろう。
【0032】
さらに、復号化に含まれる各TTOブロック復号化器が異なる無相関フィルタを使用するので、波形の変形は、種々のチャネルについて同じにはならないであろう。
【0033】
そして、再構成されたチャネルは、もはや、オリジナルの信号におけるように、復元期間での音場の再構成を可能とする干渉および近波形(close waveform)を有さず、そして、もはやオリジナルの信号におけるように現れない。このことは、一方では、音場の貧弱な空間再構成に終わり、他方では、可聴副作用(audible artifacts)の生成をもたらし、波形の違いは、知覚可能な雑音要素の生成を引き起こす。
【0034】
本発明は、上記状況を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
この目的のため、本発明は、和信号を空間的に合成して少なくとも2つの信号を取得するための方法を提案するものであり、上記和信号は、空間パラメータと一緒に、オリジナルのマルチチャネル信号のマトリックス化によるパラメトリック符号化により出力される。本方法は、
− 上記和信号を無相関化して無相関信号を得るステップと、
− 係数が上記空間パラメータに依存する合成マトリックスを、前記出力信号を得るために上記和信号に適用すると共に上記無相関信号に適用するステップと、
を含み、
少なくとも1つの空間パラメータの少なくとも1つの値範囲について、上記合成マトリックスの係数が、上記合成マトリックスを適用するステップにより得られる出力信号のそれぞれにおける無相関信号の量に関する定量的関数(quantitative function)(q)を最小化するための基準に従って決定されることを特徴とする。
【0036】
従って、信号のそれぞれにおける無相関信号の量を取り入れることにより、その結果、信号を合成するステップにおいて、無相関信号のみが合成マトリックスに含まれる上述の典型的なケースを回避するすることが可能である。従って、本発明による本方法は、所定の値範囲にある空間パラメータがこのような状況を引き起こすケースを取り扱うことを可能にする。
【0037】
特定の実施形態では、上記定量的関数(quantitative function)は、上記無相関信号に適用される合成マトリックスの係数の絶対値における増加が、これらの同じ係数に適用される上記関数の値を増加させるような関数である。
【0038】
このような定量的関数の最小化は、出力信号における入力信号の波形との良好な整合性(compliance)を保証することを可能にする合成マトリックスの係数を定義することを可能にする。
【0039】
更に具体的かつ単純には、このような定量的関数は、無相関信号のエネルギー関数であってもよい。
【0040】
この関数は、上述の特性と良好に適合する。
【0041】
更に一般的方法では、上記定量的関数は、次のタイプのものである。
【0042】
【数4】

【0043】
ただし、pは1以上の整数である。
【0044】
特定の実施形態において、上記空間パラメータは、マルチチャネル信号のチャネル間のエネルギー比のパラメータ(R)と、マルチチャネル信号のチャネル間相関のパラメータ(I)であり、値範囲は、チャネル間相関パラメータが負である範囲である。
【0045】
従って、本発明は、更に具体的には、負のチャネル間相関を呈するマルチチャネル信号について適合する。
【0046】
従って、チャネル間相関パラメータの負の値について、またはこのパラメータの任意の値についてのみ実施されてもよい。
【0047】
他の実施形態では、別の定量的関数は、空間パラメータの値範囲ごとに選択される。
【0048】
そして、種々の合成マトリックスに与えることが望ましい相対有意差(relative significance)を変調(modulate)することが可能である。従って、パラメータの特定の範囲について、最新技術で定義されているようなマトリックスに有意な重みを与えることが可能であり、逆に言えば、他のパラメータ範囲について、本発明の要旨の範囲内で合成マトリックスに有意な重みを与えることが可能である。従って、或る動作範囲において既存のシステムとの互換性を保ち、特定の範囲においてシステムの品質を改善することが可能である。更に、種々の基準に従って得られる多数の合成マトリックスを用いる可能性は、全動作範囲についてシステムの全体的品質を最適化することを可能にする。
【0049】
本発明は、また、少なくとも2つの出力信号を発生させる和信号を空間的に合成するための装置に関し、上記和信号は、空間パラメータと一緒に、オリジナルのマルチチャネル信号のマトリックス化を実施するパラメトリック符号化装置によって出力される。本装置は、
− 上記和信号を無相関化して無相関信号を得るための手段(510)と、
− 係数が空間パラメータに依存する合成マトリックス(M Minq)を、前記出力信号を得るために上記和信号に適用すると共に上記無相関化された信号に適用するための手段(520)と、
を備え、
少なくとも1つの空間パラメータの少なくとも1つの値範囲について、上記合成マトリックスの係数が、上記合成マトリックスを適用するための手段により得られる出力信号のそれぞれにおける無相関信号の量に関する定量的関数(quantitative function)を最小化するための基準に従って決定されることを特徴とする。
【0050】
本発明は、上述したような合成装置を備えた復号化器に関する。
【0051】
本発明は、また、上述したような復号化器を備えたマルチメディア機器を対象とする。
【0052】
限定されるものではないが、このような機器は、例えば、携帯電話、電子手帳、またはデジタルコンテンツリーダ、コンピュータ、ラウンジデコーダ(“セット・トップ・ボックス”)であってもよい。
【0053】
最後に、本発明は、プロセッサによって実行されたときに、上述したような本方法のステップを実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラムを対象とする。
【0054】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、単なる非制限的な例により与えられる以下の説明を読み進めるにつれて、よりいっそう明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】前述したような最新の従来技術によるパラメトリック符号化/復号化システムを示す図である。
【図2】5.1タイプのマルチチャネル信号のケースにおけるMPEGサラウンド標準による、前述したような符号化ツリーの例を示す図である。
【図3】5.1タイプのマルチチャネル信号のケースにおけるMPEGサラウンド標準による、前述したような符号化ツリーの例を示す図である。
【図4】前述したようなTTOブロックについての復号化システムのステートを示す図である。
【図5】本発明による、TTOブロックの復号化のための合成装置を示す図である。
【図6】特定の実施形態によるTTOブロックの復号化のための合成装置を示す図である。
【図7】本発明による、5.1タイプのマルチチャネル信号のケースにおける復号化器を示す図である。
【図8】本発明による、少なくとも1つの合成装置を備えたマルチメディア機器の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図5は、本発明の実施形態を示す。それは、TTOブロックの復号化のための合成装置(TTO−1)を示す。この装置は、無相関モジュール(decorrelation module)510を備え、受信された信号sを無相関化(decorrelationg)するステップを実施する機能を有し、上記信号sは、マルチチャネル信号のマトリックス化による符号化で得られる和信号(sum signal)である。
【0057】
この無相関化ステップは、例えば、前述のMPEGサラウンド標準に記述されている。
【0058】
この無相関化された信号dと上記和信号は、マトリックスM Minqを用いた合成モジュール(synthesis module)520に取り込まれ、このマトリックスM Minqの係数は、受信された空間パラメータ(spatialization parameters)RおよびIに依存し、出力信号lおよびrを生じさせる。
【0059】
更に詳しくは、上記信号lおよびrは、次式(3)のマトリックス化によって生成される。
【0060】
【数5】

【0061】
また、次の条件に適合する。
− 全エネルギーが保存され、即ち次式(4)が成り立つ。
11+h12+h21+h22=1 (4)
− lとrとの間のエネルギー比がRに等しく、即ち次式(5)が成り立つ。
11+h12=R(h21+h22) (5)
− lとrとの間の正規化された相互相関(intercorrelation)がIに等しく、即ち次式(6)が成り立つ。
【0062】
【数6】

【0063】
最初の2つの条件を用いて、次式(7)を得る。
【0064】
【数7】

【0065】
従って、解は次式(8)の形式で記述される。
【0066】
【数8】

【0067】
そして、第2の条件は、次式(9)のように記述されてもよい。
cos(a)cos(b)+sin(a)sin(b)=I (9)
即ち、cos(a−b)=Iである。
【0068】
従って、問題に対するマトリックス解は、
【0069】
【数9】

【0070】
の形式でパラメータ化(parameterize)されたマトリックスのセットであり、次式(10)のように表される。
【0071】
【数10】

【0072】
従って、αの2つの値があり得る。βの値は、RおよびIに依存し、そして、負の値を含んで、相関値Iが何であろうとも、再構成された信号に導入される無相関信号dの量(quantity)を制限するために、本発明の実施形態に従って選択される。
【0073】
従って、値βの選択は、信号の再構成のためのマトリックス化に取り込まれる無相関信号の量(quantity)に関する定量的関数(quantitative function)qを導入することにより形式化(formalize)されてもよい。
【0074】
一般的方法では、定量的関数qは、無相関信号に適用される合成マトリックスの係数の絶対値における増加が、これらの同じ係数に適用される関数qの値を増加させるような関数である。
【0075】
従って、この定量的関数qは、次の条件を満たすような関数である。
− 全ての実数x,x’,yについて、|x’|≧|x|であれば、q(x’,y)≧q(x,y)である。
− 対称的に、全ての実数x,y,y’について、|y’|≧|y|であれば、q(x,y’)≧q(x,y)である。
【0076】
そして、固定されたIおよびRについて、βの値は、次式(11)の関数を最小化することにより選択される。
【0077】
【数11】

【0078】
上述の条件に適合する多数の定量的関数が選択されてもよく、βについて満足のいく選択をなすことを可能にするであろう。
【0079】
従って、例えば、関数qは、次式(12)のようなタイプの関数である。
【0080】
【数12】

【0081】
ここで、pは1以上の整数である。
【0082】
特定の実施形態では、定量的関数qは無相関信号のエネルギー関数である。
【0083】
従って、関数qは、次式(13)のようである。
【0084】
q(x,y)=x+y (13)
【0085】
従って、ここで述べる本発明の実施形態による、満足のいく再構成を保証するβの値は、再構成される信号における無相関信号dの全エネルギーを最小化するように選択される。
【0086】
そして、次の数式(14)を最小化するβを探す。
【0087】
【数13】

【0088】
数式(14)は、即ち、次式(15)のようである。
【0089】
【数14】

【0090】
これは、次式(16)を最大化することになる。
【0091】
【数15】

【0092】
gの導関数は、次式(17)、(18)のようになる。
【0093】
【数16】

【0094】
それは、次式(19)の場合にゼロになる。
【0095】
【数17】

【0096】
従って、採用されるβの値は、次の式を満たす値であって実にgの最大値に対応する値から選択される。
【0097】
【数18】

【0098】
従って、図5は、ここではTTO−1と呼ばれる、TTOブロックを復号化するための合成装置を表し、この合成装置TTO−1は、和信号を無相関化するためのモジュール510と、上記無相関化された信号および和信号に対して合成マトリックスを適用する機能を有する合成モジュール520とを備える。この合成マトリックスの係数は、上述したような無相関信号の量に関する定量的関数qを最小化するための基準に従って決定される。
【0099】
また、図5は、本発明による空間合成方法のステップを示し、このステップにおいて、少なくとも2つの出力信号lおよびrが和信号sに基づいて得られる。上記和信号は、マルチチャネル信号をマトリックス化し、また、空間パラメータを供給するにより、パラメトリック符号化から出力される。
【0100】
上記合成装置により実施される本方法は、
− 和信号を無相関化して無相関信号を得るステップ(Decorr.)と、
− 係数が空間パラメータ(I,R)に依存する合成マトリックス(M Minq)を上記無相関信号(d)に適用すると共に上記和信号(s)に適用して、上記出力信号を得るステップとを含む。
【0101】
この方法は、少なくとも1つの空間パラメータの少なくとも1つの値範囲について、合成マトリックスの係数が、合成マトリックスを適用するステップにおいて取り入れられる無相関信号の量に関する定量的関数を最小化するための基準に従って決定されるような方法である。
【0102】
図5を参照して説明した上述の実施形態において、上記空間パラメータは、オリジナルのマルチチャネル信号のチャネル間のエネルギー比と、この同じ信号のチャネル間相関の大きさ(measure)を指定するパラメータである。
【0103】
また、パラメトリック符号化により出力される他の空間パラメータを選択することもできる。これらのパラメータは、例えば、マルチチャネル信号のチャネル間の位相シフトを指定するパラメータ、または、オーディオチャネルの一時的なエンベロープのパラメータであることができる。
【0104】
図6は、本発明の他の実施形態を示し、この実施形態では、受信される空間パラメータ、ここではチャネル間相関パラメータIの少なくとも1つの値範囲に応じて、異なる合成マトリックスが選択される。
【0105】
図6に示される例は、2つのタイプの合成マトリックスを示す。
【0106】
第1の合成マトリックスMは、例えば、MPEGサラウンド標準における最新技術に述べられているものである。対応する合成モジュールは630で示されている。この合成マトリックスは、ここでは、パラメータIが正の場合に、無相関信号dに適用されると共に和信号sに適用される。
【0107】
パラメータIが負の場合、合成マトリックスM Minqは、図5を参照して説明したものとなる。対応する合成モジュールは620で表されている。
【0108】
従って、この実施形態により実施される本方法は、負のチャネル間相関を呈するマルチチャネル信号を効率的に処理することを可能にする。
【0109】
このタイプのマルチチャネル信号は、例えば、両音(ambiphonic)タイプの信号である。実際に、このタイプの信号は、反対位相のチャネルを示す。両音のピックアップから生じる信号の特性要素(characteristic element)は、M.Gerzonによる、“Hierarchical System of Surround Sound Transmission for HDTV”または“Ambisonic Decoder for HDTV”と題された論文で説明されている。
【0110】
変形の実施形態では、多数の合成マトリックスが、空間パラメータの値の別の範囲について提供されてもよい。
【0111】
従って、受信されたパラメータの値に応じて種々の合成マトリックスに与えることが望ましい相対有意差(relative significance)を変調することが可能である。
【0112】
従って、例えば、パラメータの特定の範囲について最新技術で述べられるようなマトリックスMに有意の重みを与えること、反対に、他のパラメータ範囲について本発明の趣旨内の合成マトリックスM Minqに有意の重みを与えることが可能である。
【0113】
そして、或る動作範囲における既存のシステムとの互換性が保たれる。空間パラメータの特定の値範囲における合成の品質における改善がこの実施形態で提供される。
【0114】
更に、種々の基準に従って得られる多数の合成マトリックスの使用の可能性は、全動作範囲について合成の全体的品質を最適化することを可能にする。
【0115】
例えば、少なくとも1つの空間パラメータの値が低いか、或いは反対に有意であるかどうかに応じて、種々の合成マトリックスを使用することを可能にする。
【0116】
従って、この変形の実施形態においては、相関インデックスIの正の値については最新技術で述べられるようなマトリックスMが使用され、相関インデックスIの負の値についてはマトリックスM Minqが使用されるように、2つの合成マトリックスが使用される。
【0117】
また、例えば、次のような種々の動作範囲を規定することも可能である。
・ I>0について、マトリックスMinter=Mが使用される。
・ 0≧I>−0.25について、2つのマトリックスの補間Minter=αM+1(1−α)MMinqが使用される。
・ −0.25≧I>−1について、マトリックスMinter=MMinqが使用される。
【0118】
図5または図6に示されるこのタイプの装置TTO−1は、例えば、デジタル信号復号化器に統合される。このようなタイプの復号化器は、例えば、図7を参照して説明される。
【0119】
この図に示される復号化器は、典型的には、5.1タイプのマルチチャネル信号を復号化するために提供される。従って、この復号化器は、受信した信号Sに基づいて、6チャネル(L,R,C,LFE,Ls,Rs)からなるマルチチャネル信号を得るための本発明による複数の装置TTO−1(TTO−1,TTO−1,TTO−1,TTO−1,TTO−1)を備える。
【0120】
この複数の合成装置からなる復号化モジュール730は、全く明白に、オリジナルのマルチチャネル信号について使用された符号化ツリーに従って異なる方法で構成されることができる。
【0121】
図7に示されるような復号化器は、復号化器から生じる一時的和信号Sのサブバンドベースの周波数信号への変換(またはダウンミックス(downmix))を実施する機能を有する分析モジュールQMF(英語表現では、“Quadrature Mirror Filter”)を備える。そして、この周波数バンドベース(band-based)の信号は、復号化モジュール730の入力として供給される。上記復号化モジュールからの出力に関し、処理された信号は、QMF合成モジュール720に入力され、このQMF合成モジュール720は、逆変換を実施して、得られたマルチチャネル信号をテンポラル・ドメイン(temporal domain)に戻す機能を有する。
【0122】
これらのQMF分析およびQMF合成モジュールは、例えば、MPEGサラウンド標準に記載されているようなものであることができる。
【0123】
図7に示されるような復号化器は、オリジナルのマルチチャネル信号のパラメトリック符号化から生じる空間パラメータPを符号化器から受信する。
【0124】
典型的には、これらのパラメータは、チャネル間エネルギー比のパラメータ、チャネル間相関値の大きさのパラメータ、または、チャネル間位相シフト、または最後に、一時的エンベロープのパラメータであってもよい。
【0125】
この復号化器700は、ラウンジデコーダ即ち“セット・トップ・ボックス”、コンピュータまたは他の携帯電話、デジタルコンテンツリーダ、パーソナル電子手帳などのようなマルチメディア機器に統合されてもよい。
【0126】
図8は、このようなマルチメディア機器の例を示し、それは、とりわけ、例えば、通信ネットワークにより、または、マルチチャネル・サウンドピックアップにより、圧縮されたマルチチャネル・サウンド信号を受信する機能を有する入力モジュールEを備える。
【0127】
これらのマルチチャネル信号は、オリジナルの信号のマトリックス化により和信号Sおよび空間パラメータPを発生させるパラメトリック符号化手順により圧縮されている。この符号化は、代替のモードで、マルチメディア機器に備えられることができる。
【0128】
この機器は、ここではストレージ及び/又はワークメモリMEMを備えたメモリブロックBMと協調動作するプロセッサPROCによるハードウェア用語で表された本発明による1又は2以上の合成装置を備える。
【0129】
メモリブロックは、有利には、コンピュータプログラムを含み、このコンピュータプログラムは、プロセッサによって実行されたときに本発明の要旨内の本方法のステップを実行するためのコード命令を含み、とりわけ、受信された和信号を無相関化して無相関信号を得るステップと、係数が空間パラメータに依存する合成マトリックスを、少なくとも2つの出力信号を得るために上記和信号に適用すると共に上記無相関信号に適用するステップとを含む。上記合成マトリックスは、少なくとも1つの空間パラメータの少なくとも1つの値範囲について、その係数が、上記合成マトリックスを適用するステップにおいて取り込まれる無相関信号の量に関する定量的関数を最小化するための基準に従って決定される。
【0130】
典型的には、図5の記載は、このようなコンピュータプログラムのアルゴリズムのステップを採用する。また、上記コンピュータプログラムは、装置のリーダにより読み取り可能に又は機器のメモリ空間へのダウンロード可能なようにサポートするメモリ上に格納されることができる。
【0131】
従って、メモリブロックは、上述したように規定されるような合成マトリックスの係数を含む。
【0132】
このメモリブロックは、図6を参照して述べたような本発明の他の実施形態では、受信した空間パラメータの値範囲に応じて無相関信号に適用されると共に和信号に適用される多数の合成マトリックスを規定する係数を含むことができる。
【0133】
同様に、機器のプロセッサは、また、図7を参照して説明したような復号化器の分析および合成のステップの実行のための命令を含むことができる。
【0134】
説明したようなマルチメディア機器は、また、ラウドスピーカのタイプの復元手段により、または、このマルチチャネル信号を送信する機能を有する通信手段により、再構成されたマルチチャネル信号S’を配信するための出力Sを備える。
【符号の説明】
【0135】
510:無相関モジュール
520:合成モジュール
620:合成モジュール
630:合成モジュール
700:復号化器
710:QMF分析モジュール
720:QMF合成モジュール
730:復号化モジュール
800:マルチメディア機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
和信号を空間的に合成して少なくとも2つの出力信号を得るための方法であって、前記和信号は、空間パラメータと一緒に、オリジナルのマルチチャネル信号のマトリックス化によるパラメトリック符号化により出力されるものである方法において、
当該方法は、
− 前記和信号を無相関化して、無相関信号(d)を得るステップ(Decorr.)と、
− 係数が前記空間パラメータ(R,I)に依存する合成マトリックス(M Minq)を、前記出力信号を得るために前記和信号に適用すると共に前記無相関信号に適用するステップ(Synth.)と、
を含み、
少なくとも1つの空間パラメータの少なくとも1つの値範囲について、前記合成マトリックスの係数は、該合成マトリックスを適用する前記ステップにより得られる前記出力信号のそれぞれにおける無相関信号の量に関する定量的関数(q)を最小化するための基準に従って決定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記定量的関数は、前記無相関信号に適用される前記合成マトリックスの係数の絶対値における増加が、これらの同一の係数に適用される前記関数の値を増加させるような関数であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記定量的関数は、前記無相関信号のエネルギー関数であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記定量的関数は、下式のタイプの関数であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【数1】

但し、pは1以上の整数である。
【請求項5】
前記空間パラメータは、前記マルチチャネル信号のチャネル間のエネルギー比のパラメータ(R)と、前記マルチチャネル信号のチャネル間相関のパラメータ(I)であり、値範囲は、前記チャネル間相関パラメータが負である範囲であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記空間パラメータの値範囲ごとに、異なる定量的関数が選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
空間的に和信号を合成して少なくとも2つの出力信号を発生させるための装置であって、前記和信号は、空間パラメータと一緒に、オリジナルのマルチチャネル信号のマトリックス化を実施するパラメトリック符号化装置により出力されるものである装置において、
当該装置は、
− 前記和信号を無相関化して無相関信号を得るための手段(510)と、
− 係数が前記空間パラメータに依存する合成マトリックス(M Minq)を、前記出力信号を得るために前記和信号に適用すると共に前記無相関信号に適用するための手段(520)と、
を備え、
少なくとも1つの空間パラメータの少なくとも1つの値範囲について、前記合成マトリックスの係数は、該合成マトリックスを適用するための前記手段により得られる前記出力信号のそれぞれにおける無相関信号の量に関する定量的関数を最小化するための基準に従って決定されることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項7に記載された少なくとも1つの合成装置を備えたデジタルオーディオ信号復号化器。
【請求項9】
請求項8に記載された復号化器を備えたマルチメディア機器。
【請求項10】
プロセッサによって実行されると、請求項1ないし6の何れか1項記載の方法のステップを実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−525999(P2011−525999A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515543(P2011−515543)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051146
【国際公開番号】WO2010/004155
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(591034154)フランス・テレコム (290)