説明

マルチノズルインクジェットヘッド

【目的】 効率よくインク吐出可能なマルチノズルインクジェットヘッドの製造を簡単にする。
【構成】 スリット状の流路穴1aが所定間隔で穿設された複数の流路基板1と、表裏両面に流路穴1aと対応する電極2,3を有する圧電材料からなる複数の振動板4とが、交互に積層固着してある。この積層体の最上層には下面に電極5,上面に全面電極6を有する上板7が、最下層には上面に電極8,下面に全面電極9を有する下板10が積層固着してある。流路基板1には流路穴1aと連通するノズル1bが穿設してある。振動板4と上板7には各流路穴1aと対向するインク供給孔11が穿設され、インク供給部材12が接合されて、インクが全流路穴1aに供給される。インク吐出すべき流路穴1aの上下に位置する振動板4の電極2,3にそれぞれ逆向きの電界を加えて振動板4を変形させ、流路穴1aの容積を減少させ内部のインクに加圧してノズル1bより吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はマルチノズルインクジェットヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、複数のノズルに対応するインク流路を形成し、各インク流路を区画する流路側壁を撓ませることにより流路容積を減少させ、内部のインクに加圧することによりインクをノズルから吐出させる構成のインクジェットヘッドがある(特開昭63−247051号公報、特開昭63−252750号公報など)。これらは、ノズルの配列方向に互いに間隔を有する多数の平行な流路を有しており、この流路は天部、底部、側壁により区画されており、流路の一端には複数のノズルを有するノズルプレートが固着され、多端にはインク供給手段が連結されている。この側壁の少なくとも一部は圧電材料からなり、変形を生じさせて流路内のインクに加圧しノズルから外部へ吐出させるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来例では、効果的な流路壁変形を得るためには側壁を高くする必要があり、また、印字の高密度化のためノズル間隔を狭めるには側壁の厚みを薄くする必要がある。したがって、側壁を薄くかつ高くすることが望ましく、そのために流路となる溝を形成する加工が難しくなっている。
【0004】そこで本発明の目的は、製造が簡単で高密度化が容易に達成でき、しかも効率よく確実にインク滴の吐出動作の制御が可能なマルチノズルインクジェットヘッドを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のマルチノズルインクジェットヘッドは、複数のスリット状の流路穴が所定間隔毎に穿設されている複数の流路基板と、各流路穴と対向するように両面に複数の電極がそれぞれ形成された圧電材料からなる複数の振動板とが交互に積層固着されており、振動板に穿設されているインク供給孔を介してインクが全流路穴に供給される構成である。
【0006】この振動板は厚みすべり振動モードの圧電材料からなり、電極は流路穴の幅の実質的に半分の幅を有するものである。
【0007】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。図1に本発明に係るマルチノズルインクジェットヘッドの第1の実施例の完成状態の斜視図を、図2R>2にその展開斜視図をそれぞれ示している。
【0008】合成樹脂やガラスなど任意の材質により形成され、インク流路をなすスリット状の流路穴1aが所定間隔で複数穿設された流路基板1と、圧電材料からなり表裏両面に流路穴1aと対向する電極2,3が設けてある振動板4とが、交互に積層された状態で固着されている。そしてこの積層体の最上層には圧電材料からなり下面に電極5,上面に全面電極6を有する上板7が、最下層には圧電材料からなり上面に電極8,下面に全面電極9を有する下板10がそれぞれ積層固着されている。
【0009】流路基板1には、流路穴1aから外部へ連通する小径(30〜60μm程度)のノズル1bが穿設されている。また、振動板4および上板7には、各流路穴1aと対向するようにインク供給孔11が穿設されている(図2参照)。上板7のインク供給孔11上には、インク供給部材12が接合されおり、インク供給部材12には、図示しないインクタンクよりインクが供給されるためのパイプ12aが設けられている。
【0010】図2に示すように電極2からは導通部2aが一体的に延出しており、同様にその他の電極3,5,8からも導通部(図示せず。)が延出しており、これらの導通部は、図示しない電力供給手段に接続されている。
【0011】この実施例の作動を図3を参照して以下に説明する。振動板4Aの電極2A,3Aに図示しない電力供給手段より電界を加えると、その部分が下向きに撓み変形し、振動板4Bの電極2B,3Bに、上記電極2A,2Bとは反対向きの電界を加えると、その部分が上向きに撓み変形する。従って、図3に示すように流路穴1aの容積が減少され、内部のインクに圧力が加わりノズル1b(図1参照)から外部へ吐出する。具体的には、流路幅方向に沿って分極された厚みすべり振動モードの圧電材料(分極方向を矢印Xで示す)からなる振動板4を用い、その表裏両面に電極2,3を形成して分極方向Xに直行する方向(厚み方向)に電界を印加しているため、電極2,3の両端部(図3左右)において上下に変位する(変位方向を矢印Yで示す)。そこで電界の向きを調整することによって、振動板4Aは下向きに、振動板4Bは上向きに撓むようにしてあり、流路穴1a内のインクに加圧するようになっている。このような厚みすべり振動モードの圧電材料において、電極2,3は流路穴1aの半分程度の幅に形成してあるため、流路の中心部付近が最大変位となるように変形し効率よくインク滴吐出が行える。
【0012】なお、図3に示したのは振動板4に挟まれた流路穴1aからインクを吐出する場合の例であるが、最上位の流路穴1aからインクを吐出する場合は、上板7の電極5,全面電極6と、振動板4の電極2,3とにそれぞれ電界が加えられ、最下位のノズル1bからインク吐出する場合は、振動板4の電極2,3と、下板10の電極8,全面電極9とに、それぞれ電界が加えられる。実質的には図3に示したのと同様の作動となる。全面電極6,9は共通電極として用いており、これと対応する電極5,8に通電された場合にその部分の振動板(圧電材料)4のみに電界が加わる。そして、電極5,8に通電されていない部分の振動板4には電界は加わらない。このようにして振動板4または上板7,下板10において部分的に撓み変形を生じさせ、インク滴吐出動作を制御することができる。
【0013】上記実施例では、流路穴1aと連通するノズル1bを流路基板1自体に穿設した構成であるが、流路基板1と別にノズルを穿設した部材を設ける構成とすることもできる。このような実施例を図4に示している。この構成は、第1の実施例と実質的に同様な構成の振動板4と、先端部が開口された流路穴13aを有する流路基板13(前述の実施例における流路基板1とは流路穴の端部が開口部となっており小径のノズルを有していない点が唯一の相違点である。)とが交互に積層固着されている。そして、最上層に上板7、最下層に下板10が固着されている。このような、上板7、流路基板13、振動板4、下板10からなる積層体の先端部に、各流路穴13aに対応するノズル14aが穿設されたノズルプレート14が固着されている。この実施例でも、第1の実施例と同様に、インク吐出すべき流路穴1aに対応する振動板4の上下両面の電極2,3または上板7の電極5,全面電極6、下板10の電極8,全面電極9に通電して変形させ、インクの吐出を行う。
【0014】なお、上記2つの実施例では薄板状の部材(振動板や流路基板)を平面的に積層した状態で使用するものであるが、これを90度回転した状態で使用することももちろん可能である。こうすることによって、縦方向に特に高密度を要求される場合にも、横方向に特に高密度を要求される場合にも対応可能である。
【0015】
【発明の効果】本発明に係るマルチノズルインクジェットヘッドによると、流路側壁の変形によりインクに加圧する構成ではないため薄く高い側壁を形成する必要がなく、薄板状の振動板と流路基板とを交互に積層することにより容易に製造できるため、製造工程が簡略化する。
【0016】また、流路穴全域にわたって振動板の変形が行われるため流路容積減少の効率がよい。特に、厚みすべり振動モードの圧電材料からなる振動板を用いる場合、電極を流路穴の幅の実質的に半分の幅に形成すると、流路穴の中心部が最大変位となるように振動板が変形するため、効率よく流路穴内のインクに加圧できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るマルチノズルインクジェットヘッドの第1の実施例の斜視図
【図2】第1の実施例の展開斜視図
【図3】第1の実施例のインク滴吐出状態を示す説明図
【図4】第2の実施例の展開斜視図
【符号の説明】
1,13 流路基板
1a,13a 流路穴
2,3,2A,3A,2B,3B 電極
4,4A,4B 振動板
11 インク供給孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のスリット状の流路穴が所定間隔毎に穿設されている複数の流路基板と、上記各流路穴と対向するように両面に複数の電極がそれぞれ形成された圧電材料からなる複数の振動板とが交互に積層固着されており、上記振動板に穿設されているインク供給孔を介してインクが上記全流路穴に供給されていることを特徴とするマルチノズルインクジェットヘッド。
【請求項2】 上記振動板は厚みすべり振動モードの圧電材料からなり、上記電極は上記流路穴の幅の実質的に半分の幅を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のマルチノズルインクジェットヘッド。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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