説明

マルチフィラメントの開繊性の評価方法および装置

【課題】マルチフィラメントの開繊性を簡便で、かつ定量的に評価できる、マルチフィラメントの開繊性の評価方法および評価装置を提供する。
【解決手段】マルチフィラメントを開繊処理した直後に該マルチフィラメントの開繊性を評価する方法または装置であって、前記評価方法または評価装置が以下の(a)、(b)、及び(c)の手段を含むことを特徴とするマルチフィラメントの開繊性の評価方法。
(a)開繊処理された直後のマルチフィラメントを、微粘着性を有する基材上に接着する手段
(b)基材上に接着された開繊フィラメントを、一定の投光条件下で画像として取り込む手段
(c)前記の取り込まれた画像を画像解析により、前記開繊フィラメント上においてマルチフィラメントがモノフィラメント単体の厚さに開繊、分離された領域の割合を算出する手段

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメントを開繊処理した後、基材上に固定して開繊シートを作製し、前記開繊シートから取得した画像より、マルチフィラメントがモノフィラメント単体に分離された領域の割合を算出することにより、マルチフィラメントの開繊性を定量的に評価する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチフィラメントを開繊した後、樹脂を含浸し、半硬化して得られるプリプレグは繊維補強材料(FRP)として用いられる。近年、特に半導体基板材料のFRP用途においては、半導体基板のサイズ低減により、マルチフィラメントを均一かつ薄く一方向に配列させた開繊フィラメントのシートを作製する必要が生じている。理想的には、開繊処理後のマルチフィラメントが、モノフィラメント単体ごとに完全に分離されることにより、平均厚さがモノフィラメント平均直径と同等であるような開繊フィラメントのシートを作製することが望まれる。
【0003】
開繊処理とは、多本数のモノフィラメントを集束して得られるマルチフィラメントを、再度モノフィラメント単体に分離しようとする処理のことを意味する。
また、開繊性とは、マルチフィラメントをモノフィラメントへ分離する際の”バラけやすさ”を意味する。工業的にマルチフィラメントを開繊処理する方法としては、一定の張力でマルチフィラメントを複数の丸棒でしごくことによって開繊させる方法が、簡便であるため広く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
マルチフィラメントの開繊方法において、開繊性を支配する要因としては、フィラメント搬送張力、構成フィラメント数、丸棒の材質(形状、径、表面粗度、摩擦係数など)、丸棒の配列方法、などが挙げられる。
【0005】
開繊されたマルチフィラメントに働く力学的機構について、理論的に検討された結果が報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1には、前記開繊処理において、搬送張力を増加させる、構成フィラメント数を低減させる、丸棒とフィラメントの摩擦係数を下げる、丸棒の配列方法を変更する、など諸条件を最適化することにより、開繊状態を最適化することが可能であること、特に、構成フィラメント数の低減を行い、搬送張力を増加させれば、開繊シートにおけるフィラメント層の厚みを実質的にモノフィラメント一層と同等にすることも可能であることが記載されている。
【0006】
しかしながら、実際上、前記の開繊処理工程におけるマルチフィラメントの開繊性は、マルチフィラメント内に生じるモノフィラメント間の交絡と、マルチフィラメント全体にかかっている撚りの程度により大きく影響される。これらの交絡や撚りの程度が甚だしい場合には、マルチフィラメントの開繊性は著しく悪化する。また、交絡や撚りを含むマルチフィラメントを過大な張力で無理やり開繊しようとすれば、交絡糸部分に過度の応力集中が生じ、単糸切れが頻発するという問題も生じる。
【0007】
このような事情から、開繊処理におけるマルチフィラメントの開繊性を向上させるためには、(a)マルチフィラメントの紡糸工程におけるフィラメントの走行方法を見直すことにより、モノフィラメント間の交絡を低減させる、あるいは(b)開繊処理を行う工程において、巻き出し時に不要な撚りがフィラメントにかからないようにする、などの改善が行われている。
【0008】
しかしながら、これら諸々の改善効果を定量的に比較評価し、開繊処理フィラメントの品質を向上、維持していくためには、開繊処理を行った後の開繊フィラメント内における交絡、撚りの開繊性への影響の程度を正確に判別する手法が必要である。
【0009】
従来、マルチフィラメント内の交絡程度を判別するために、走行しているマルチフィラメントへレーザー光を照射し、マルチフィラメントの太さの変化を検知することによりマルチフィラメント内の交絡箇所数をカウントする方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0010】
しかしながら、前記の方法は、開繊されたフィラメント内の状態を直接評価する方法ではないため、定量性に欠けるという問題があった。
【0011】
また、開繊処理を行ってマルチフィラメントの交絡程度を判断する手法として、5〜15gfの張力下で走行する交絡を含んだマルチフィラメントを、凸面に接触させながら開繊し、開繊フィラメントの幅の変化を光学的に検出することにより、交絡程度をカウントする方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0012】
しかしながら、この方法において、低張力による開繊では開繊幅が十分に広がらず、さらに開繊されたフィラメントの幅の変動をカウントするだけでは、開繊処理によって得られる開繊フィラメント内の均一性を定量的に評価することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】繊維機械学会誌 vol51,No.2,65,1998
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭60−009961号公報
【特許文献2】特開昭58−104266号公報
【特許文献3】特開昭54−043092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、前記の問題点を解決することにあり、マルチフィラメントを開繊処理した直後の開繊フィラメント状態において、マルチフィラメントの開繊性を簡便で、かつ定量的に評価できる、マルチフィラメントの開繊性の評価方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決することができる本発明のマルチフィラメントの開繊性の評価方法および装置は、以下の構成よりなる。
すなわち、本発明のマルチフィラメントの開繊性の評価方法は、マルチフィラメントを開繊処理した直後に該マルチフィラメントの開繊性を評価する方法であって、前記評価方法が以下の(a)、(b)、及び(c)の手段を含むことを特徴とするマルチフィラメントの開繊性の評価方法である。
(a)開繊処理された直後のマルチフィラメントを、微粘着性を有する基材上に接着する手段
(b)基材上に接着された開繊フィラメントを、一定の投光条件下で画像として取り込む手段
(c)前記の取り込まれた画像を画像解析により、前記開繊フィラメント上においてマルチフィラメントがモノフィラメント単体の厚さに開繊、分離された領域の割合を算出する手段
【0017】
また、本発明のマルチフィラメントの開繊性の評価装置は、マルチフィラメントを開繊処理した直後に該マルチフィラメントの開繊性を評価する装置であって、前記評価装置が前記の(a)、(b)、及び(c)の手段を含むことを特徴とするマルチフィラメントの開繊性の評価装置である。
【0018】
また、前記開繊性の評価手段が、(d)開繊フィラメントを撮影した画像において、該画像中における開繊フィラメントの幅方向、両端の一対のモノフィラメントよりも内側の領域における構成画素数Nを輝度別に分類し、(e)前記画素数Nの中から、あらかじめ規定された参照輝度範囲に含まれる画素数Nを算出し、Nに対するNの割合(S=N/N)を求めることにより行われ、前記の参照輝度範囲が、(f)マルチフィラメントを構成しているモノフィラメントのうち1本を、前記の微粘着性基材上に孤立させて接着し、(g)基材上に固定された該モノフィラメントを前記の一定の投光条件下で画像として取り込む手段により画像を取得し、(h)該画像を構成する画素を、X軸に輝度、Y軸に画素数をとったヒストグラムで表したときに観察されるモノフィラメント由来画素成分の単一ピーク形状について、該ピーク頂点とピーク半値全幅両端を結ぶ2本の直線と、X軸との2点の交点により挟まれる領域として規定することが好ましい。
【0019】
さらに、前記の微粘着性を有する基材の接着力が、180°ピール試験(JIS Z 0237)測定値において0.5N/cm以下であることが好ましい。
【0020】
また、マルチフィラメントを開繊する際に、前記の微粘着性を有する基材上に固定した開繊フィラメントから該基材を再度剥離する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマルチフィラメントの開繊性の評価方法および評価装置によれば、開繊処理が行われた直後の開繊フィラメント内において、開繊性すなわち、マルチフィラメントがモノフィラメント単体に分離された領域の割合を定量的に評価することが可能であり、開繊フィラメント内における交絡や撚りの影響を定量的に評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いる開繊装置の概略図1である。
【図2】本発明で用いる開繊装置の概略図2である。
【図3】基材上に固定したモノフィラメント周辺の輝度分布の平均値である。
【図4】図3におけるモノフィラメント由来の画素成分からなるピークから参照輝度範囲を決定するための説明図である。
【図5】実施例1〜3のS値(開繊性の指標)の経時変化を示した図である。
【符号の説明】
【0023】
1:マルチフィラメント送り出し装置
2:マルチフィラメント
3:開繊処理装置
4:微粘着性基材の送り出し装置
5:開繊フィラメントが基材上に固定化されたシート
6:画像撮影装置
7:巻き取り機構
8:基材の再剥離装置
9:後加工への搬送方向
10:モノフィラメント由来の画素成分によるピーク
11:モノフィラメント周辺の基材のみの画素成分によるピーク
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、図1に示されるような構成の装置が好適に用いられる。
マルチフィラメントの送り出し装置1から送り出されたマルチフィラメント2は、開繊処理装置3で開繊処理され、微粘着性を有する基材にマルチフィラメントを固定する工程4により、開繊直後の状態が保持されたままのシート状物5として搬送される。続いて、一定の投光条件下で、ビデオカメラ等の光学記録装置を備えた画像撮影装置6により開繊フィラメント上の領域が連続的に撮影され、画像化される。
【0025】
このとき撮影された画像は、開繊フィラメントの幅方向、両端の1対のモノフィラメントより内側の全ての領域が網羅されるよう取得される。開繊フィラメントの幅は、フィラメントの数、フィラメントの直径、あるいは開繊処理における諸条件に対して変化する。
【0026】
画像撮影装置6は、開繊フィラメントの全幅が網羅できれば1台であってもよいし、必要に応じて、開繊フィラメントの幅方向に複数台を並列させて、開繊フィラメントの全幅を網羅するように、各画像を合成する処理が行われる。
【0027】
画像撮影装置6は、電荷結合素子(CCD)を備えたビデオマイクロスコープ、撮影された画像を処理する画像処理ソフトウェア、一定光量で投光するための照明装置によって構成されており、いずれも公知の装置を使用できる。
【0028】
投光照明は、透過照明あるいは落射照明のいずれも用いることができる。フィラメントの材質と、開繊フィラメントを固定する基材の光透過性が良好な場合には、透過照明を用いることが望ましい。また、フィラメントの材質と、開繊フィラメントを固定する基材の光透過性が著しく悪い場合には、落射照明を用いることが望ましい。
【0029】
開繊処理装置3において行われる開繊方法は、前記の特許文献1に示される、丸棒でマルチフィラメントをしごく方法が簡便であり好ましい。評価対象となるマルチフィラメントの材質によって、丸棒の材質や配列性、フィラメントの搬送張力などの諸条件を変更し、開繊処理を最適に行うことができる。
【0030】
開繊処理直後の開繊フィラメントを固定する基材は、微粘着性を有することが好ましい。特に好ましくは、前記微粘着テープの粘着力が180°ピール試験(JIS Z 0237)測定値において、0.5N/cm以下の基材である。
開繊フィラメントが開繊直後の状態のまま固定されることで、容易に静止画像を撮影することができる。また、マルチフィラメントが、張力により再度集束することを抑制することができる。
【0031】
画像を撮影された開繊フィラメントのシート状物5は、図1の巻き取り工程7に示されるように基材上に開繊フィラメントを固定したまま巻き取り、プリプレグ製造工程における樹脂含浸などの後工程へ用いることが可能である。あるいは、図2に示されるように、微粘着性基材を再度剥離する工程8を経て、後工程9へ直接搬送する方法を選択することもできる。これらの方法いずれを用いても、微粘着性の基材を除去したあとに、開繊フィラメントを後加工に供することが可能である。
【0032】
画像撮影装置6において、前記の一定の投光条件下で、開繊フィラメントの撮影が行われる。この際、画像はグレイスケールとして記録され、該画像を構成する画素は、輝度別に分類される。一定の参照輝度範囲に含まれる画素数Nの全画素数Nに対する割合S値(S=N/N)を算出し、開繊シートにおいてマルチフィラメントがモノフィラメント単体に分離された領域の割合を求める。
【0033】
このとき、前記の一定の参照輝度範囲を、以下のように決定する。
マルチフィラメントを構成するモノフィラメントのうち1本を、基材上に孤立して固定し、該モノフィラメントを、前記した一定の投光条件と同一の条件下で、グレイスケールの画像として記録する。
【0034】
続いて、該画像を構成する画素成分を、X軸に輝度、Y軸に画素数をとったヒストグラムで示す。マルチフィラメントを構成する全てのモノフィラメントについてのヒストグラム群を取得し、図3のような該ヒストグラム群の平均状態を取得する。取得された該ヒストグラムの平均状態において、観察されるモノフィラメント由来成分の単一ピーク形状10について、該ピーク頂点とピーク半値全幅両端を結ぶ2本の直線と、X軸(Y=0)との2つの交点により挟まれる領域を参照輝度範囲として決定する(図4)。
【0035】
前記のように、モノフィラメント単体の厚みを透過した光量、あるいはモノフィラメント単体の形状に由来した光の反射量に対応する輝度範囲を参照輝度範囲として決定する。次いで、開繊フィラメントの画像中において、該参照輝度範囲に収まる画素数をカウントすることにより、マルチフィラメントがモノフィラメント単体に分離された領域の割合をS値(S=N/N)を定量的に評価することが可能である。
【0036】
また、このときの一定投光量の条件における光量とは、画像を構成する画素を輝度別に分類したときのヒストグラム全体の形状が、輝度範囲全幅内に余裕を持って収まる状態であることが好ましい。極端に暗い、あるいは明るい光量条件下では、精度良く画像評価を行うことはできない。画像はグレイスケールで取得され、階調は8bit以上であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて、本発明を説明する。
本発明において、実施例は本発明の実施態様を示す代表例であり、下記の実施例によって制限を受けるものでない。また、明細書に開示された本発明の主旨に適合し得る範囲で、適当な変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれるものである。
【0038】
フィラメント数166本、モノフィラメント平均直径10μm、丸型断面のポリベンザゾールのマルチフィラメントについて、紡糸工程を変化させ、交絡程度が異なるサンプルを3種類作製し、実施例に用いた。
【0039】
各実施例における開繊性の評価方法には、以下の方法を用いた。図1に示すように巻き出し装置より巻きだされた各種ポリベンザゾールのマルチフィラメントを、開繊処理工程3により開繊処理した。続いて、基材巻き出し装置4から巻きだされた微粘着性を有する基材の粘着面上へ、開繊フィラメントを固定化し、開繊フィラメントのシート状物5を得た。
【0040】
マルチフィラメントの搬送速度は3m/minとし、搬送張力は0.98Nとした。
【0041】
開繊処理工程3においては、マルチフィラメントをしごく丸棒として、直径6mmの梨地加工金属ガイドロールを使用し、5本平行に8.5mm間隔で配置させた状態で、各種ポリベンザゾールのマルチフィラメントをジグザグに通糸、走行させて開繊処理した。
【0042】
開繊フィラメントを固定化する基材には、テープ厚さ65μm、180°ピール試験(JIS Z 0237)の測定接着力が0.22N/cmのポリエチレン製透明表面保護テープ(スリーエム社製、#332)を用いた。
【0043】
基材上に固定された開繊フィラメントのシート5は一定投光量条件の下で、CCDカメラを備えた透過光型光学顕微鏡システムを用いて5倍視野にて50分間、2分間隔で画像撮影した。画像は8bitのグレイスケール画像として取得した。
【0044】
開繊フィラメントの画像は、幅方向、両端の1対のモノフィラメントよりも内側の領域を全て網羅するように取得して評価を行った。該領域を構成するN個の画素を輝度別に分類し、全画素数Nに対する参照輝度範囲に含まれる画素数Nの割合であるS値(S= N/N)を求めた。
【0045】
参照輝度範囲は、以下のように決定した。
長さ5cmに切断したポリベンザゾールのマルチフィラメントを手で注意深く選り分けて、構成フィラメント数である166本に分離した。その後、全てのモノフィラメントを前記基材上に重ならないよう、孤立させた状態で固定した。これらのモノフィラメントを全て、開繊フィラメントの画像を撮影する条件と同じ投光条件の下で、光学記録装置6を用いて画像化し、該画像を構成する画素を分類し、X軸に輝度、Y軸に画素数をとった図3に示されるヒストグラムを得た。このヒストグラム上におけるモノフィラメント寄与を示す単一ピークについて、図4に示すように、該ピーク頂点とピーク半値全幅両端を結ぶ2本の直線と、X軸との2つの交点により挟まれる領域を参照閾値としてあらかじめ決定した。
【0046】
(実施例1)
メタンスルホン酸溶液に溶解、希釈させて測定した固有粘度[η]が24dL/gであるポリベンゾオキサゾールをポリリン酸に溶解させた、14質量%のポリベンザゾール/ポリリン酸ドープを用いて、フィラメント数166本、モノフィラメント直径10μmになるような条件で紡糸を行った。
【0047】
ポリベンザゾールドープを紡糸口金より押し出した後、一定長さの空間で延伸を行い、適当な位置で集束させてマルチフィラメント状に形成した。その後、フィラメント状ドープは、集束された状態で、凝固性流体中に導入し、凝固を行った。凝固後のマルチフィラメントは、交絡を与えないようにウェットな状態のまま即座にワインダーを用いてボビンに巻き取った。巻き取り速度は200m/分で5分間巻き取った。
【0048】
その後、巻き取った糸はボビンごと静水中で、残留リン濃度が5000ppm以下になるように、16時間緩やかに中和、洗浄した。その後、ボビンを80℃の静置乾燥機中で4時間乾燥させた。乾燥後のマルチフィラメントの残存水分率は1.3質量%であった。さらに油剤(EO(エチレンオキサイド)/PO(プロピレンオキサイド)共重合体5質量%エマルジョン水)をギアポンプで定量供給したセラミックガイド上で、マルチフィラメントに対して、油剤が0.7質量%付着するように、マルチフィラメントを走行させながら付与して、再度巻き取った。全ての工程で、マルチフィラメントに交絡や撚りを不用意に与えないように細心の注意を払った。以上の方法により作製されたポリベンザゾールのマルチフィラメントの開繊性を、前述した開繊性の評価方法により評価した。
【0049】
(実施例2)
凝固を行うまでは実施例1と同様に行った。
凝固後のポリベンザゾールのマルチフィラメントは、複数の回転ロールを設置した洗浄ボックス内へ導入し、無機塩基を溶解させた洗浄液を激しくスプレー噴霧することにより、積極的にマルチフィラメントに対して交絡を与えながら、残留リン濃度が5000ppm以下になるよう中和、洗浄処理を行った。次いで、洗浄されたマルチフィラメントを水分率が2質量%以下になるように乾燥処理した。乾燥後のマルチフィラメントはギアポンプで定量供給したセラミックガイド上で、実施例1で使用した油剤をマルチフィラメントに対して0.7質量%付着させた後に巻き取った。巻き取り速度は200m/分で5分間巻き取った。巻き取り後のマルチフィラメントの水分率は1.6質量%であった。以上の方法により作製されたポリベンザゾールのマルチフィラメントの開繊性を、前述した開繊性の評価方法により評価した。
【0050】
(実施例3)
巻き取りまで実施例2と同様に行った。
巻き取った後のポリベンザゾールのマルチフィラメントを一度ボビンから巻き出し、さらにインターレースノズル内に導入して交絡を付与してから再度巻き取った。以上の方法により作製されたポリベンザゾールのマルチフィラメントの開繊性を、前述した開繊性の評価方法により評価した。
【0051】
(結果のまとめ)
図5に本発明を用いて、各種ポリベンザゾールのマルチフィラメントの開繊処理を50分間行い、2分ごとに画像撮影と画像解析を行い、前述したS値を算出、比較した結果を示す。
【0052】
実施例1では交絡数が極めて少ないため、開繊性が安定して高かった。S値の平均値は0.50であった。実施例2は、スプレー噴霧時によるマルチフィラメント内の交絡が影響し、開繊性が悪かった。S値の平均値は0.26であった。実施例3はインターレース加工により、実施例2よりもさらに開繊性が不良であり、S値の平均値は0.20であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に示されるマルチフィラメントの開繊性の評価方法あるいは評価装置を用いることにより、開繊処理が行われた直後の開繊フィラメントの状態、すなわちマルチフィラメントがモノフィラメント単体に分離された領域の割合を定量的評価することが可能であり、また開繊性に及ぼす交絡や撚りの影響を定量的に評価することが可能である。プリプレグ製造等の後加工における品質の向上、維持に大きく寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメントを開繊処理した直後に該マルチフィラメントの開繊性を評価する方法であって、前記評価方法が以下の(a)、(b)、及び(c)の手段を含むことを特徴とするマルチフィラメントの開繊性の評価方法。
(a)開繊処理された直後のマルチフィラメントを、微粘着性を有する基材上に接着する手段
(b)基材上に接着された開繊フィラメントを、一定の投光条件下で画像として取り込む手段
(c)前記の取り込まれた画像を画像解析により、前記開繊フィラメント上においてマルチフィラメントがモノフィラメント単体の厚さに開繊、分離された領域の割合を算出する手段
【請求項2】
前記開繊性の評価手段が、
(d)開繊フィラメントを撮影した画像において、該画像中における開繊フィラメントの幅方向、両端の一対のモノフィラメントよりも内側の領域における構成画素数Nを輝度別に分類し、
(e)前記画素数Nの中から、あらかじめ規定された参照輝度範囲に含まれる画素数Nを算出し、Nに対するNの割合(S=N/N)を求めること
により行われ、
前記の参照輝度範囲が、(f)マルチフィラメントを構成しているモノフィラメントのうち1本を、前記の微粘着性基材上に孤立させて接着し、(g)基材上に固定された該モノフィラメントを請求項1に記載の一定の投光条件下で画像として取り込む手段により画像を取得し、(h)該画像を構成する画素を、X軸に輝度、Y軸に画素数をとったヒストグラムで表したときに観察されるモノフィラメント由来画素成分の単一ピーク形状について、該ピーク頂点とピーク半値全幅両端を結ぶ2本の直線と、X軸との2点の交点により挟まれる領域として規定すること、を特徴とする請求項1に記載のマルチフィラメントの開繊性評価方法。
【請求項3】
前記の微粘着性を有する基材の接着力が、180°ピール試験(JIS Z 0237)測定値において0.5N/cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマルチフィラメントの開繊性評価方法。
【請求項4】
前記の微粘着性を有する基材上に固定した開繊フィラメントから該基材を再度剥離する工程を含むことを特徴とするマルチフィラメントの開繊方法。
【請求項5】
マルチフィラメントを開繊処理した直後に該マルチフィラメントの開繊性を評価する装置であって、前記評価装置が以下の(a)、(b)、及び(c)の手段を含むことを特徴とするマルチフィラメントの開繊性の評価装置。
(a)開繊処理された直後のマルチフィラメントを、微粘着性を有する基材上に接着する手段
(b)基材上に接着された開繊フィラメントを、一定の投光条件下で画像として取り込む手段
(c)前記の取り込まれた画像を画像解析により、前記開繊フィラメント上においてマルチフィラメントがモノフィラメント単体の厚さに開繊、分離された領域の割合を算出する手段

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−52334(P2011−52334A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200220(P2009−200220)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】