説明

マルチフィラメント糸の交絡処理装置および交絡処理方法

【課題】合成繊維細繊度マルチフィラメント糸条に交絡品位に優れた集束性を付与する交絡処理装置および交絡処理方法を提供する。
【解決手段】糸条に交絡を付与する流体噴射孔15を糸条走行方向と交差する方向に備え、流体噴射孔が開口する開口面を有するノズル板と、開口面に対向し噴射流体が衝突する衝突面23を有する対向部22と、ノズル板と対向部とに囲まれた糸道部を設けたマルチフィラメント糸の交絡処理装置において、糸道部における糸条の入口側、出口側のうち少なくとも入口側に、開口面の法線方向における開口面と衝突面との距離が、糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように衝突面が連続的に湾曲し、少なくとも入口側に、糸道部を真の糸道部と排気部とに分離する分離部材24、24’を設けるとともに、分離部材の排気部側の面の法線方向における排気部側の面と対向部の衝突面との距離が、糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維マルチフィラメント糸、特に単糸細繊度糸からなるマルチフィラメント糸条に交絡品位に優れた集束性を付与するマルチフィラメント糸の交絡処理装置および交絡処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融紡糸されてくる合成繊維マルチフィラメント糸の製造プロセスにおいて、該マルチフィラメント糸に集束性を与えるために、交絡処理装置の糸走行路を走行する前記マルチフィラメント糸に流体を噴射し、マルチフィラメント糸を構成する単糸フィラメント同士を絡ませ、相互に交絡を付与する処理が行われている。この交絡処理は、本来、集束性を伴わずに溶融紡糸されてくる合成繊維マルチフィラメント糸に集束性を与えて取扱い性を向上させるために行うものである。
【0003】
かかる交絡処理は、合成繊維の溶融紡糸速度の著しい高速化に伴い、近年でも、均斉かつ均一に効率良く行う手法の検討がされ具体的な提案もなされている(特許文献1、2)。
【0004】
この特許文献1においてなされている提案は、対向面が緩やかに中高に湾曲され糸道の入り口及び出口に向かって外向きに広げられていることで、交絡の均一性や糸道清掃の容易化及び汚れの堆積防止を狙ったものである。
【0005】
また特許文献2においてなされている提案は、糸条導入部、ノズル部及び糸条導入部より内径の小さい糸条取り出し部からなり、外部から糸条導入部側から糸条導入パイプを設けることで、排出流による糸条の振動に基づく騒音の抑制を狙ったものである。
【0006】
しかし特許文献1においてなされている提案では、その目標レベルの前提は、高速ではあるものの、実施例などに表されている如くに、特に、せいぜい、フィラメント本数は70本以下、単糸繊度(単フィラメント太さ)は1.6デシテックス以上というものであって(特許文献1の8項の表1、同じく特許文献1の10項の段落8〜9)、近年の単糸細繊度化(例えば、フィラメント本数70本以上、単糸繊度1.0デシテックス以下(概して、0.1〜1.0デシテックス程度、より実際工業的には0.3〜1.0デシテックス程度))であってかつ高速度での処理が要求されるものには十分でなかった。また、噴射孔より噴出されたエアーは湾曲部のコアンダー効果(粘性によって流体が物の表面に沿って流れる現象)によりそのほとんどが湾曲に沿って流れ排気されるが、糸条の出入り口部において、糸道と排気部が分離されていないため、流れの方向がコントロールされずに排気される一部のエアーの作用により糸条が振動することで糸条の単糸同士の接触や、糸条と糸道壁面との接触により毛羽やたるみが発生するため、要求される交絡品位に対して遙かに劣るものであり、得られた交絡糸を次工程で使用する上で十分な性能を有するものではなかった。
【0007】
さらに、特許文献2に開示された提案では、糸条導入部に糸条導入パイプを設けることで糸の振動を抑制し騒音の低下さえる効果はあるが、噴射孔から噴射され装置外へ排出されるエアーはその一部が糸条導入パイプの内部を通過することわけであり、通過する際に発生するエアーの流れの力により、糸条導入パイプ内を進行する糸条の走行を妨げる不具合を創出するため、その不具合が糸条に単糸の毛羽や弛みが発生する原因となる。更に糸導入部の内径より糸取り出し部の内径が小さくなる構成を採用した結果、噴射されたエアーは、排出される方向がコントロールされないままそのほとんどが糸導入側に不規則に排出されるため、その結果糸条導入パイプ内を通過するエアーの量が増え、交絡品位に悪影響を及ぼす毛羽や弛みの発生を助長させるので、糸ダメージの低減が要求される糸へ交絡処理するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平5−503963号公報
【特許文献2】特許第2907882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、近年の、特に、単糸細繊度化(例えば、フィラメント本数70本以上、単糸繊度1デシテックス以下(概して、0.1から1.0デシテックス程度))であって、かつ高速度での処理が要請される合成繊維マルチフィラメント糸において、原糸交絡を与え得た新規な合成繊維マルチフィラメント糸を製造するのに好適に用いられるマルチフィラメント糸の交絡処理装置と交絡処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成する本発明のマルチフィラメント糸の交絡処理装置は、以下の(1) の構成からなる。
(1)糸条走行方向と交差する方向に設けられ糸条に交絡を付与する流体噴射孔を備え、かつ、前記流体噴射孔が開口する開口面を有するノズル板と、前期開口面に対向し噴射された流体が衝突する衝突面を有する対向部と、前記ノズル板と前記対向部とに囲まれ前記糸条が通過する糸道部とを設けたマルチフィラメント糸の交絡処理装置において、前記糸道部における前記糸条の入口側、出口側のうち少なくとも前記入口側に、前記開口面の法線方向における前記開口面と前記衝突面との距離が、前記糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように前記衝突面が連続的に湾曲する湾曲部を有し、かつ、少なくとも前記入口側に、前記糸道部を真の糸道部と排気部とに分離する分離部材を設けるとともに、該分離部材の排気部側の面の法線方向における前記排気部側の面と前記対向部の衝突面との距離が、前記糸道部の端部に向かうつれ拡大するように構成することを特徴とするマルチフィラメント糸の交絡処理装置。
【0011】
また、かかる本発明のマルチフィラメント糸の交絡処理装置において、より具体的に好ましくは、以下の(2) 〜(4) の構成を有するものである。
(2)導入部長さLと、流体噴射孔の噴射孔径Dとの関係が次式を満足することを特徴とする(1)のマルチフィラメント糸の交絡処理装置。
【0012】
3<L/D<10
(3)オフセット高さeと流体噴射孔の噴射孔径Dとの関係が次式を満足することを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載のマルチフィラメント糸の交絡処理装置。
【0013】
0.3<e/D<3
(4)上記(1)から(3)いずれかに記載のマルチフィラメント糸の交絡処理装置を用いてマルチフィラメント糸に交絡を付与することを特徴とするマルチフィラメント糸の交絡処理方法。
【発明の効果】
【0014】
請求項1から3にかかる本発明によれば、特に、細繊度化(例えば、フィラメント本数70本以上、単糸繊度1デシテックス(概して、0.1から1.0デシテックス以下))であって、かつ高速度での処理が要請される合成繊維マルチフィラメント糸において、好適な原糸交絡を有する新規なマルチフィラメント糸の交絡処理装置が提供される。また、請求項4にかかる本発明によれば、特に上述の優れた合成繊維マルチフィラメント糸を製造することができる優れたマルチフィラメント糸の交絡処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる糸条の交絡処理装置の構造を概略的に示した概略斜視図である。
【図2】図1に示した流体交絡処理装置1の内部構造を概略的に示した概略斜視図である。
【図3】図1と図2に示した流体交絡処理装置を1の概略平面モデル図である。
【図4】対向部の衝突面が、糸道部における少なくとも入口側が、糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように連続的に湾曲する湾曲部に分離部材を設けたことを示した交絡処理装置1の概略平面図である。
【図5】対向部の衝突面が、糸道部における少なくとも入口側が、糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように連続的に湾曲する湾曲部に分離部材を設けた別の具体例を示した交絡処理装置1の概略平面図である。
【図6】実施例で採用したポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を溶融紡糸して流体交絡処理に供して、流体交絡マルチフィラメント糸を製造するプロセスの一例をモデル的に示したものである。
【図7】従来の交絡処理装置の内部構造を概略的に示した概略斜視図である。
【図8】対向部の衝突面が、糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように連続的に湾曲する湾曲部を有する従来の交絡処理装置の内部構造を概略的に示した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、更に詳しく本発明について、説明する。
【0017】
本発明にかかるマルチフィラメント糸の交絡処理装置により交絡を付与するマルチフィラメント糸は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの合成繊維フィラメントからなり、その単糸(単フィラメント)繊度が0.1から1.0デシテックスのフィラメント群から構成される。
【0018】
上記マルチフィラメント糸は、近年であれば、通常、引取り速度が3000m/分以上などの高速紡糸により製造され、いわゆるPOY糸(部分配向未延伸糸)として製造されるものである。単糸繊度は、0.1から1.0デシテックスの範囲であることが重要で、1.0デシテックスよりも大きい場合には、単繊維としても、もしくは糸全体としても、あるいは布帛としても剛性感が強くなり、本発明の所期の目的の一つであるソフト感や柔らかいふくらみ感を醸し出す風合いを有した生地を得ることが難しくなる。単糸繊度は、その加減は0.1デシテックス程度までが良く、より実際工業的には0.3〜1.0デシテックス程度の範囲内とするのが最も好ましい。単糸繊度が0.1デシテックス以下になると製糸性が悪化し生産性に劣る。また、風合いを最も生かす点で、ポリエチレンテレフタレート繊維を代表とするポリエステル系合成繊維で構成するのが最も好ましいものである。
【0019】
本発明にかかるマルチフィラメント糸の交絡処理装置は、糸条走行方向と交差する方向に設けられ糸条に交絡を付与する流体噴射孔を備え、かつ、前記流体噴射孔が開口する開口面を有するノズル板と、前期開口面に対向し噴射された流体が衝突する衝突面を有する対向部と、前記ノズル板と前記対向部とに囲まれ前記糸条が通過する糸道部とを設けたマルチフィラメント糸の交絡処理装置において、前記糸道部における前記糸条の入口側、出口側のうち少なくとも前記入口側に、前記開口面の法線方向における前記開口面と前記衝突面との距離が、前記糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように前記衝突面が連続的に湾曲する湾曲部を有し、かつ、少なくとも前記入口側に、前記糸道部を真の糸道部と排気部とに分離する分離部材を設けるとともに、該分離部材の排気部側の面の法線方向における前記排気部側の面と前記対向部の衝突面との距離が、前記糸道部の端部に向かうつれ拡大するように構成することを特徴とするマルチフィラメント糸の交絡処理装置である。
【0020】
このように、本発明の交絡処理装置は、前記糸道部を真の糸道部と排気部とに分離する分離部材を設ける構成にするとともに、前記衝突面を連続的に湾曲する湾曲部を有するようにしたので、連続的に湾曲する湾曲部の作用により発生するコアンダー効果により、流体噴射孔より噴射されたエアーのほとんどが対向面に衝突後、湾曲面に沿って流れ排出されるとともに、前記分離部材で前記真の糸道部と排気部を分離したので、糸条と排気エアーの接触をほぼ完全に回避できるのでエアーによる糸条の振動を抑制することが可能となり、その結果、毛羽やタルミを発生させることなく糸条に均一に交絡を付与することが可能となる。
【0021】
また、前記糸道部の端部に向かうにつれ前記対向部の衝突面と前記分離部材の前記排気部側の面との間隙が拡大するようにしたので、分離されたエアーは流れを妨げられることなく円滑に装置外へ排気される。
【0022】
本発明において、毛羽や弛みを抑制するのに重要なことは、噴射エアーで交絡処理する直前の糸条の挙動を安定させダメージを受けにくくさせることであり、交絡処理される直前において糸条の単糸のバラケを抑え、エアーの排出による糸条の振動を抑制することが重要である。よって、交絡処理する直前の糸条の状態を安定させダメージを受けにくくさせるためには、糸条の入口部に前記分離部材及び湾曲部を設け、噴射孔から噴射されたエアーを速やかに排気し糸条とエアーを分離することが重要である。なお、図4に示すように、糸条の出口側においては、すでに糸条に交絡が処理され糸条の品位は決定しているので、糸条のセンタリングや、エアーが安定して排気できるのであれば省くことも可能である。
【0023】
本発明にかかるマルチフィラメント糸の交絡処理装置は、導入部長さLと、流体噴射孔の噴射孔径Dとの関係が次式を満足することを特徴とする請求孔1記載のマルチフィラメント糸の交絡処理装置である。
【0024】
3<L/D<10
L/Dを3よりも大きくすることで、交絡を付与するための時間が十分確保することができるので均一で安定した交絡が付与できるとともに、L/Dを10以下にすることで、交絡の安定性が増し、毛羽やたるみの発生を抑えながら交絡を付与することが可能となる。
【0025】
さらに、本発明にかかるマルチフィラメント糸の交絡処理装置は、オフセット高さeと流体噴射孔の噴射孔径Dとの関係が次式を満足することを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載のマルチフィラメント糸の交絡処理装置である。
【0026】
0.3<e/D<3
上記e/Dを0.3より大きくすることで、流体噴射口から噴射されたエアーが対向面の湾曲部に沿って、真の糸道部を通ることなくスムーズに装置外へ排気されるので、糸条とエアーの接触による振動がほぼ回避できるので、毛羽やたるみの発生を抑えることが可能となるともに、e/Dを3以下にすることで、噴射された流体の力を糸条に十分作用させることができるので、マルチフィラメントを集束させるに十分な交絡を毛羽やたるみの発生を抑制しつつ付与することができる。
【0027】
図1は、本発明にかかる糸条の交絡処理装置の構造の一例を概略的に示した概略斜視図であり、交絡処理装置1は、ノズルブロック10、上板11、下板12からなっており、ノズルブロック10には流体噴射孔15が形成され糸条Yに交絡を施す。
【0028】
同図において13は走行する糸条Yが交絡を付与しながら通過する糸道部であり、14は糸条Yに交絡を付与するため流体噴射孔15から噴射されたエアーを排気する排気口である。
【0029】
16はスリット部であり、交絡処理装置1に連続走行する糸条を糸通しする際に糸導入部として用いられるものであり糸条Yが装置外へ飛び出さない程度のわずかな隙間を上板11の下面と下板12の上面により形成されノズルブロック10へボルト17で固定されている。
【0030】
図2には交絡処理装置1から上板11と下板12を除きその内部構造を表した概略斜視図である。図において、ノズルブロック10には、真の糸道部21、21’、排気部25、25’が溝加工からなっており、真の糸道部21、21’と排気部25、25’は分離部材24、24’によって分離点Gを基点に上下に分離されている。22は流体噴射口から噴射されたエアーが衝突面23を有する対向部であり、衝突面23は糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように連続的に湾曲している。
【0031】
図3は、図1と図2に示した交絡処理装置1の概略平面モデル図であり、流体噴射孔15が開口する開口面Fと前記流体噴射部15から噴射されたエアーが衝突する衝突面23の前記開口面Fの法線方向FLの距離が、上記糸道部13における前記糸条の入口側、出口側双方に糸道部13の端部に向かうにつれ拡大するように連続的に湾曲しており、前記糸条の入口側、出口側双方に前記糸道部13を真の糸道部21、21’と排気部25、25’とに分離する分離部材24、24’を有し、該分離部材24、24’の分離部材排気側面K、K’と前記衝突面23の前記ぶり部材排気側面K、K’の法線方向FK、FK’における距離が、上記糸道部13における前記糸条の入口側、出口側双方に糸道部13の端部に向かうにつれ連続的に拡大することを説明するモデル図であり、流体噴射孔15の噴射孔径Dとの関係や、分離部材の分離点Gを通過し流体噴射孔の中心軸CLに対する垂線と中心軸CLとが交差する点P1と、分離点Gから点P1までの長さである導入部長さLと、中心軸CLと湾曲部を構成する稜線との交点P2とを結ぶ距離で表されるオフセット高さeと噴射孔径Dの関係、分離部材24、24’の排出角θを説明するための概略モデル図でもある。
【0032】
本発明において、糸条の入口側における対向部の衝突面が湾曲していないと、コアンダー効果が生じづらいので、流体噴射孔から噴射されたエアーは流れがコントロールされないまま糸道内を通過し排気されるので、流れの乱れが抑制できず、糸条の一部の単糸繊維が弛んだり、弛んだ単糸繊維が糸道壁面との擦過により切断し毛羽となり、糸条の品位を低下させてしまうという問題がある。なお、糸条の出口側においては、糸条の交絡が行われた後であるため、対向部の衝突面は、特に湾曲していなくても上記問題は発生しない。
【0033】
分離部材の真の糸道部側の面は、糸条へのダメージを避けるため糸道と平行であることが好ましい。
【0034】
また、分離部材の排気部側の面の形状は、対向する衝突面との間隔が糸道の端部に向かって広がっているのであれば、平面や湾曲面など連続する一様な面であってもかまわない。この条件が満たされるのであれば、分離部材24、24’の排出角θは、特に規定されないが、5°<θ<15°にすることが好ましい。
【0035】
また、分離部材により、少なくとも糸条の入り口側の糸道部を真の糸道部と排気部とに分離しないと、上記湾曲部のコアンダー効果により流れの方向がコントロールできなかったわずかな排気エアーが直接糸条に触れることで、本発明が目標とするさらに毛羽や弛みの発生が少なく高品位な交絡糸を得ることができないという問題がある。
【0036】
また、本発明は、分離部材の分離点(G)と流体噴射孔の中心軸(CL)との距離で表される導入部長さ(L)と、噴射孔の噴射孔径(D)の関係が以下の(1)式の範囲を満足するようにすることが好ましい。
3<L/D≦10 …(1)
L/Dが3以下だと、糸条が運動する領域が狭くなるので安定した交絡付与処理が難しくなり、L/Dが10よりも大きいと交絡は安定するが糸条と糸道壁面とが接触する機会が増加することで毛羽やタルミが多くなる方向であり、均質さが強く要求される原糸への交絡という観点からは好ましくないものである。
【0037】
また、本発明は、流体噴射孔の中心軸(CL)と湾曲部の稜線とが交差する点P1と、分離部材の分離点(G)との距離で表されるオフセット高さ(e)と、流体噴射孔の噴射孔径(D)の関係が以下の(2)式の範囲を満足するようにすることが好ましい。
0.3<e/D≦3 …(2)
e/Dが0.3以下だと、流体噴射孔から噴射されたエアーを十分排気する隙間が得られないので、排気部から排気できずに漏れ出したエアーが、真の糸道部を通じて流れ出すため毛羽やタルミが多くなる方向であり、e/Dが3より大きいと分離点(G)と糸条との接触が強くなり糸にダメージを与えることになり毛羽や弛みの抑制ためには好ましくないものである。
【0038】
図5は、対向部の衝突面が、糸道部における少なくとも入口側が、糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように連続的に湾曲する湾曲部に分離部材を設けた別の具体例を示した交絡処理装置1の概略平面図である。
【0039】
本図に示す構造で、狙いとする交絡性能と毛羽抑制効果が得られるのであれば、湾曲部及び分離部材を入口側にのみに設ければ良いので、ノズルの構造を単純化することが出きるので、製造コストを抑制することが出きる。
【0040】
図6は本発明にかかる交絡処理装置を用いマルチフィラメント糸を製造するためのマルチフィラメント糸の製造装置の概略図であり、130は図示しない紡糸口金より紡出された熱可塑性溶融ポリマーに工程通過性を向上させるためマルチフィラメント糸に油剤付与する給油ガイドである。100、110は3000m/分前後の引き取り速度においてマルチフィラメント糸を延伸し搬送する第1、第2ゴデットローラで、120は延伸し搬送されたマルチフィラメント糸を巻き取る巻取機である。
【実施例】
【0041】
以下の実施例において、交絡数の測定と判定、毛羽数の測定と判定、バラツキの測定と判定は以下の手法によったものである。
(1)交絡数の測定と評価:
本発明の各実施例および比較例で得られた各ポリエステル部分配向未延伸糸について、ロッシールド社製自動連続交絡度試験器R−2072を用い、プリテンションを10CN、トリップテンションを17CNとし、交絡部の測定回数を20回に設定して試料糸を走行させて、交絡部が20回カウントされるまでに要した糸長さ(走行糸長さ)を測定し、試料糸1mあたりに存在する交絡部の回数を数として求めた。
【0042】
上記測定を5回実施しその平均値を求め評価した。
【0043】
交絡数についての判定は、糸1m長さ当たりの交絡数が、2個未満を「不良」として表1では「×」で表記し、2個以上5個未満を「普通」として表1では「△」で表記し、5個以上15未満を「良」として表1では「○」で表記し、15以上を「最良」として表1では「◎」で表記し、「普通」以上を合格とし、「不良」は不合格とした。
(2)毛羽数の測定と判定
本発明の各実施例・比較例で得られた各ポリエステル部分配向未延伸糸について、東レ・エンジニアリング株式会社製毛羽計数装置DT−105を用いて、S型検出器により検出高さを0.5mmに設定し、パッケージの解舒速度を500m/分として、50000mの糸長さについて測定して、そのまま糸10000m長さ当たりに存在する毛羽数として求めた。
【0044】
毛羽数についての判定は、糸10000m長さ当たりの毛羽数が、15個を越えるものを「不良」とし「×」で表記し、10個を越え15以下のもの「普通」として「△」で表記し、5個を超え10個以下のものを「良」として「○」で表記し、5個以下を「最良」として「◎」で表記し、「普通」以上を合格とし、「不良」は不合格とした。
【0045】
実施例1〜11、比較例1〜2
表1に示した各種ディメンジョンの条件の交絡処理装置を用いて、実施例1〜11については図1に示した装置を、比較例1については図7の装置、比較例2については図8の装置を使用し130dtex、フィラメント本数144本のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を溶融紡糸して流体交絡処理に供して巻取り速度3000m/分で巻き取り、流体交絡マルチフィラメント糸を製造した。
【0046】
交絡処理装置は、表1に示した条件の他、噴射孔径1.0mmとしたものを用い、流体(圧空)噴射圧力を0.3MPaとし、交絡処理を施した。このときの紡糸張力は35gであった。
【0047】
各実施例および比較例で得られた各ポリエステル部分配向未延伸糸の糸質を表1に示した。
【0048】
【表1】

【符号の説明】
【0049】
1:交絡処理装置
10:ノズルブロック
11:上板
12:下板
13:糸道部
14:排気口
15:流体噴射孔
16:スリット部
17:ボルト
21、21’:真の糸道部
22:対向部
23:衝突面
24、24’:分離部材
25、25’:排気部
L:導入部長さ
φD:噴射孔径
e:オフセット高さ
θ°:排出角
F:開口面
FL:開口面の法線
K,K’:分離部材排気側面
FK,FK’:分離部材排気面の法線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条走行方向と交差する方向に設けられ糸条に交絡を付与する流体噴射孔を備え、かつ、前記流体噴射孔が開口する開口面を有するノズル板と、前記開口面に対向し噴射された流体が衝突する衝突面を有する対向部と、前記ノズル板と前記対向部とに囲まれ前記糸条が通過する糸道部とを設けたマルチフィラメント糸の交絡処理装置において、前記糸道部における前記糸条の入口側、出口側のうち少なくとも前記入口側に、前記開口面の法線方向における前記開口面と前記衝突面との距離が、前記糸道部の端部に向かうにつれ拡大するように前記衝突面が連続的に湾曲する湾曲部を有し、かつ、少なくとも前記入口側に、前記糸道部を真の糸道部と排気部とに分離する分離部材を設けるとともに、該分離部材の排気部側の面の法線方向における前記排気部側の面と前記対向部の衝突面との距離が、前記糸道部の端部に向かうつれ拡大するように構成することを特徴とするマルチフィラメント糸の交絡処理装置。
【請求項2】
導入部長さLと、流体噴射孔の噴射孔径Dとの関係が次式を満足することを特徴とする請求項1に記載のマルチフィラメント糸の交絡処理装置。
3<L/D<10
【請求項3】
オフセット高さeと流体噴射孔の噴射孔径Dとの関係が次式を満足することを特徴とする請求1または2に記載のマルチフィラメント糸の交絡処理装置。
0.3<e/D<3
【請求項4】
上記請求項1から3のいずれかに記載のマルチフィラメント糸の交絡処理装置を用いてマルチフィラメント糸に交絡を付与することを特徴とするマルチフィラメント糸の交絡処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97374(P2012−97374A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245887(P2010−245887)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】