説明

マルチフェロイック記憶媒体

【課題】高密度データ記憶のための媒体を提供する。
【解決手段】データ記憶媒体は、マルチフェロイック薄膜と、マルチフェロイック薄膜中に形成された強磁性記憶ドメインとを含む。マルチフェロイック薄膜は、BiFeO又は任意のその他の強誘電性および反強磁性材料の少なくとも1つを含むように形成される。強磁性記憶ドメインは、イオン注入プロセスによってマルチフェロイック薄膜中に形成される。データ記憶媒体を採用したデータ記憶システムもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ記憶技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気データ記憶デバイスの容量を増やそうとする場合、磁気データ記憶媒体における書込み性能、粒径および磁気異方性の間でバランスを取る必要がある。書込みヘッドは限られた磁場しか生成できず、この上限は、材料中で実現できる最大体積磁化、導体を通って流すことのできる最大電流密度およびヘッドと媒体との間の間隔によって決まる。媒体中の異方性を書込みヘッドによって書き込みできるレベルにまで低下させ、粒径を許容できる信号対雑音比を維持するのに十分なように小さくすれば、媒体は、大きい面積密度まで熱的安定性を保てない。これは超常磁性限界と呼ばれる。
【0003】
強誘電性(FE)データ記憶媒体は、電場によって書き込めるという特徴を有し、更に薄膜デバイスで非常に大きい電場を生成することが可能である。すなわち、薄膜デバイスによって非常に大きい異方性を持つFE媒体への書込みが可能になり、非常に小さいドメイン(そして狭いドメイン壁)を有する熱的に安定なFE媒体への書込みが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチフェロイック材料(自発FE歪みおよび磁気秩序のような複数の秩序パラメータを有する材料)は、同一のデバイスにいくつかの機能を集積できるため、魅力的である。FEと磁気秩序の両方を同時に呈するマルチフェロイック材料は、強誘電マグネットとも呼ばれる。単一相のマルチフェロイック材料は、通常、室温よりも十分低い遷移温度を示し、また弱い残留FEおよび磁気分極を示すことから実用的でない。例外の一つは、BiFeOであり、これは、室温より十分高い遷移温度、高いスイッチング可能な強誘電性分極を有するが、反強磁性秩序のために残留磁化が消失するという性質を有する。媒体ディスクから磁気抵抗性リードバックを行うため、あるいは、固体記憶デバイスの磁化方位検出のための電子を運ぶ電流を分極させるためのいずれかのために、適度に大きい残留磁化が必要である。垂直で、自己集合されたエピタキシャルの三次元へテロ構造などの合成マルチフェロイック材料は、強いフェロイック特性を示すが、作製が困難であり、例えばデータ記憶媒体に必要とされる長距離秩序に欠ける。更に、合成マルチフェロイック材料の典型的なドメイン・サイズは、約100nmであり、高密度のデータ記憶のためには、10nmよりも小さいビット・サイズが必要とされる。ドメインとは、単一のフェロイック・マトリクス(FE又は磁気的)中に含まれるフェロイック(FE又は磁気的)材料の塊の1つを意味する。このように、室温において安定性の高いFEおよび磁気的秩序を有する単一相のマルチフェロイック材料を生成することが大いに望まれる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】発明の1つの態様に従うデータ記憶媒体の模式図である。
【図2】発明の1つの態様に従うデータ記憶システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の1つの態様は、マルチフェロイック薄膜と、マルチフェロイック薄膜中に形成された強磁性記憶ドメインとを含むデータ記憶媒体を提供することである。マルチフェロイック薄膜は、BiFeO又は任意のその他の強誘電性および反強磁性材料の少なくとも1つを含むよう形成される。強磁性記憶ドメインは、マルチフェロイック薄膜中にイオン注入プロセスによって形成できる。
【0007】
本発明の別の1つの態様は、記録ヘッドと、記録ヘッドに隣接するデータ記憶媒体とを含むデータ記憶システムを提供することである。データ記憶媒体は、マルチフェロイック薄膜と、マルチフェロイック薄膜中に形成された強磁性記憶ドメインとを含む。マルチフェロイック薄膜は、BiFeO又は任意のその他の強誘電性および反強磁性材料の少なくとも1つを含むように形成される。強磁性記憶ドメインは、マルチフェロイック薄膜中にイオン注入プロセスによって形成できる。
【0008】
本発明の別の1つの態様は、マルチフェロイック材料の層と、マルチフェロイック材料の層中に形成された強磁性記憶ドメインとを含むビット・パターン状マルチフェロイック記憶媒体を提供することである。
【0009】
これらおよびのその他各種の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読めば明らかになる。
【実施例】
【0010】
1つの態様において、発明は、例えば、BiFeOなどの単一相のマルチフェロイック材料から局所的なイオン注入によって得られるスイッチング可能な強誘電性および自発磁化に関連する。リソグラフィ・マスクを通してマルチフェロイック薄膜にイオン注入することによって、データ記憶に使用できる高い残留磁化を有するピラー又はドメインのパターンが生成される。入射イオンは、らせん状の反強磁性秩序(G型)を擾乱し、埋め込まれたピラーの形に巨視的な非ゼロ磁化のパッチを生じさせる。母材のマルチフェロイック材料中の強誘電性と反強磁性との間の強い結合は、未注入マトリクス中の強誘電性と注入領域の磁気秩序との間の強い結合につながる。この結合効果は、未注入領域と注入領域との間の局在化したスピン間の強い交換相互作用によって媒介される。
【0011】
1つの態様では、発明は、イオン注入プロセスによる、単一相の反強磁性および強誘電性膜から高い強誘電性および磁性の分極を持つマルチフェロイック材料の作製を提供する。このように設計された材料は、例えば記憶媒体として採用でき、イオン注入された各領域は、ビット・パターン状の媒体中に、例えば上方又は下方の磁化の形で情報を記憶する。これらのパッチは、リソグラフィによって定義され、従って、自己集合される強誘電性−強磁性のビット・パターン状媒体とは対照的に、長距離秩序が容易に実現できる。ビット・パターン状媒体中の長距離秩序は、回転ディスク(例えば、ハード・ディスク・ドライブ)や固定媒体(例えば、固体ディスク)を含む任意の記憶方式に関して望ましい要件である。発明は、またEAMR(電気でアシストされる磁気記録)方式用の磁歪性の高い材料の必要性を排除する。これは、この場合の磁電気的結合がストレスによってではなく、交換相互作用によって仲介されるためである。更に、イオン注入条件の調節が可能であれば、強誘電性−反強磁性マトリクス中に埋め込まれた磁性球を生成することもできる。更に、ピラー磁化は、マトリクスの反強磁性秩序によってピン止めされるので、強磁性秩序を安定化するための最小のピラー・サイズやKが必要でなくなる。
【0012】
発明の1つの態様に従えば、室温の強誘電性および反強磁性秩序を有する単一相材料は、適切なイオン注入プロセスを使用することによって、強化された自発磁化を示すように設計できる。最初に、イオン注入は、超交換相互作用を引き起こす遷移金属−酸素−遷移金属のボンドを切ることによって反強磁性秩序を分断する。次に、熱アニールなどのイオン注入後のプロセスによって、あるいはイオン注入プロセスの間に、大きい室温の巨視的磁化を有する新しい構造的/化学的相が形成される。このことが、例えばFe、Ni、Co又はMnイオン、あるいは任意のその他適当なイオンでもって実行されれば、イオン注入後のプロセスに依存することなく、望ましい磁気的相が形成できる。更に、Pt又はCrなどの非磁性元素を追加してイオン注入すれば、望ましい強磁性相の安定化に有益である。イオン注入の方向に沿って注入された原子が均一な濃度で分布することが必要であり、これはイオン注入パラメータを変化させることによって実現できる。
【0013】
「バルク」の反強磁性材料から、それに隣接して高い巨視的磁化の相(ピラー)が作製されるので、それらは磁気交換作用を通して互いに強く相互作用する。この結果ピラーの磁化のピン止めが起こり、そのスイッチングは、強誘電性秩序に対する磁気電気結合を介して周囲の反強磁性構造を局所的に変更することによりアシストされる。電場を加えることによって、強誘電性分極の方向が変わり、それによって反強磁性構造が変化する。弱い磁場を電場に重ねることで、ピラー磁化を望ましい方向に揃えることができる。
【0014】
図1は、発明の1つの態様によるデータ記憶媒体10の模式図である。発明の1つの態様で、データ記憶媒体10はピット・パターン状記憶媒体である。発明の別の態様では、データ記憶媒体10はマルチフェロイックなビット・パターン状記憶媒体である。
【0015】
図1をまた参照すると、データ記憶媒体10はマルチフェロイック材料の層12を含む。媒体10は、またここに説明したように、イオン注入プロセスによってマルチフェロイック材料の層12中に形成される「ピラー」によって一般に表される複数の強磁性記憶ドメイン14を含む。ドメイン14は、層12を形成するマルチフェロイック材料の領域12a(図2参照)によって隔てられる。媒体10は、またその上に層12が形成される、例えばSrTiOで緩衝されたSiから形成された基板13を含む。基板13は、その上に形成されるソフトな磁性層を含み、これは、ヘッドによって生成された磁束のリターンを許容する。マルチフェロイック材料の層12は、BiFeO又は任意のその他の強誘電性および反強磁性材料の少なくとも1つを含むように形成される。発明の1つの態様で、層12は強誘電性である。発明の別の態様では、層12は反強磁性である。発明の別の1つの態様で、層12は反響磁性および強誘電性である。マルチフェロイック材料の層12は、スパッタリング、パルス・レーザ堆積、又は気相堆積(CVD)などの物理的又は化学的気相堆積プロセスによって形成される。
【0016】
図1をまた参照すると、マルチフェロイック材料の層12中に注入される強磁性記憶ドメイン14は、例えば「上方」又は「下方」磁化状態の形で情報を記憶するので、従って情報は記憶のためにデータ記憶媒体10に書き込まれ、またドメイン14に記憶された情報は、リードバック・プロセスによって読み出される。強磁性記憶ドメイン14は、FePt又はCoCrPtなどのように、Fe、Co、Ni、Mnの少なくとも1つ又はそれらの合金を含むように形成される。
【0017】
既に述べたように、強磁性記憶ドメイン14は、イオン注入プロセスによってマルチフェロイック材料の層12中に注入される。イオン注入は非平衡技術であり、高エネルギーに加速された荷電粒子による照射を通して、標的(基板)材料の表面領域中に原子が導入される。このプロセスは熱力学的考慮による制約を受けず、他の方法では実現できない濃度および分布でのドーパント(又は欠陥/損傷センター)の導入を可能とし、その結果類のない材料加工能力を提供する。注入時に、イオンは基板原子との一連の独立した二体衝突を通して、それらが有する併進運動エネルギーを失いながら停止に至る。エネルギーは、基本的に、原子核との衝突を通して弾性的に、またそれらの電子雲に対して非弾性的に失われる。注入された原子又はイオン注入によって生成される変位原子の分布は、ガウス分布のピークおよび幅によってそれぞれ定義される投影飛程および分散によって統計的に表現される。
【0018】
図2は、発明の1つの態様に従って構築された装置、例えば、データ記憶システムの一部分の模式図である。装置は、データ記憶媒体10に隣接して位置する記録ヘッド20を含む。発明の1つの態様で、記録ヘッド10はデータ記憶媒体10に接触する。記録ヘッド20は書込み極22およびリターン極24を含む。書込み極22およびリターン極24は、ヨーク26によって磁気的に結び付けられる。書込み極22から発して、媒体10を通りリターン極24へ延びる磁束を生成するためにコイル28中の電流が使用される。電極30は書込み極22の近くに位置する。この例で、電極30は絶縁材料32の層によって書込み極22から電気的に絶縁される。電圧源34は電極30に接続され、またこの例で媒体10に接続される。電圧源は電極30と媒体10との間に電圧を確立し、それによって媒体10を電場に晒す。電場はターン・オンおよびオフされ、書込み時にのみオンとされる。印加される電場はマルチフェロイック領域12a中の強誘電性分極をスイッチする。マルチフェロイック領域12a中の強誘電性ドメインと反強磁性ドメインとの間の基本的な結合作用のせいで、反強磁性状態もまた影響される。イオン注入で形成された磁気ドメイン14は、領域12aの反強磁性ドメインと密に接するので、前者は、後者との間で強い磁気交換相互作用を経験し、その結果、電場が印加されるとドメイン14中で磁化方向および/又は磁気異方性の変化が生ずる。電場に重ねて同時に印加される弱い磁場が書込み極22によって生成され、それは、磁気ドメイン14が望ましい方向に揃うのを妨害する付加的なエネルギー障壁を克服するために必要である。
【0019】
従って、発明の1つの態様に従えば、図2に示された記録ヘッド20は、磁場書込み要素および電場書込み要素を含むことは理解されるであろう。両要素は、ここで述べたようにデータ記憶媒体10と協力して働き、例えば、マルチフェロイックなビット・パターン状データ記憶媒体を有するデータ記憶システムを提供する。データは、従来の磁気ハード・ディスク・ドライブのリードバック方式と同じように取り出される。
【0020】
上で述べた実施およびその他の実施は、以下の請求項の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0021】
10 データ記憶媒体
12 マルチフェロイック材料の層
12a マルチフェロイック領域
13 基板
14 強磁性記憶ドメイン
20 記録ヘッド
22 書込み極
24 リターン極
26 ヨーク
28 コイル
30 電極
32 絶縁層
34 電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ記憶媒体であって、
マルチフェロイック薄膜と、
該マルチフェロイック薄膜中に形成された強磁性記憶ドメインと、
を含むデータ記憶媒体。
【請求項2】
請求項1記載のデータ記憶媒体であって、前記マルチフェロイック薄膜がBiFeOである前記データ記憶媒体。
【請求項3】
請求項1記載のデータ記憶媒体であって、前記マルチフェロイック薄膜が強誘電性である前記データ記憶媒体。
【請求項4】
請求項1記載のデータ記憶媒体であって、前記マルチフェロイック薄膜が反強磁性である前記データ記憶媒体。
【請求項5】
請求項1記載のデータ記憶媒体であって、前記強磁性記憶ドメインが、イオン注入によって前記マルチフェロイック薄膜中に形成される前記データ記憶媒体。
【請求項6】
請求項1記載のデータ記憶媒体であって、強磁性記憶ドメインが、Fe、Co、NiおよびMnの少なくとも1つを含むように形成される前記データ記憶媒体。
【請求項7】
請求項1記載のデータ記憶媒体であって、ビット・パターン状記憶媒体として構成された前記データ記憶媒体。
【請求項8】
データ記憶システムであって、
記録ヘッドと、
該記録ヘッドに隣接したデータ記憶媒体と、
を含み、該データ記憶媒体は、
マルチフェロイック薄膜と、
該マルチフェロイック薄膜中に形成された強磁性記憶ドメインと、
を含むデータ記憶システム。
【請求項9】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記マルチフェロイック薄膜がBiFeOである前記データ記憶システム。
【請求項10】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記マルチフェロイック薄膜が強誘電性である前記データ記憶システム。
【請求項11】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記マルチフェロイック薄膜が反強磁性である前記データ記憶システム。
【請求項12】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記強磁性記憶ドメインが、イオン注入によって前記マルチフェロイック薄膜中に形成される前記データ記憶システム。
【請求項13】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記強磁性記憶ドメインが、Fe、Co、NiおよびMnの少なくとも1つを含むように形成される前記データ記憶システム。
【請求項14】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、ビット・パターン状記憶媒体として構成された前記データ記憶システム。
【請求項15】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記記録ヘッドは、磁場書込み要素を含む前記データ記憶システム。
【請求項16】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記記録ヘッドは、電場書込み要素を含む前記データ記憶システム。
【請求項17】
請求項8記載のデータ記憶システムであって、前記記録ヘッドは、磁場書込み要素および電場書込み要素を含む前記データ記憶システム。
【請求項18】
ビット・パターン状マルチフェロイック記録媒体であって、
マルチフェロイック材料の層と、
該マルチフェロイック材料の層中に形成された強磁性記憶ドメインと、
を含むビット・パターン状マルチフェロイック記録媒体。
【請求項19】
請求項18記載のビット・パターン状マルチフェロイック記録媒体であって、前記マルチフェロイック材料がBiFeOである前記ビット・パターン状マルチフェロイック記録媒体。
【請求項20】
請求項18記載のビット・パターン状マルチフェロイック記録媒体であって、前記強磁性記憶媒体が、イオン注入によって前記マルチフェロイック材料の層中に形成される前記ビット・パターン状マルチフェロイック記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−176784(P2010−176784A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89850(P2009−89850)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(500373758)シーゲイト テクノロジー エルエルシー (278)
【Fターム(参考)】