説明

マルチフォーマットの光送信装置

【課題】QPSK光送信装置を用いてBPSK光を安定して生成し、単一装置で複数の伝送方式に対応することで、装置生産コスト削減を図る。
【解決手段】第1の位相変調部12aと第2の位相変調部12bに入力されるデータ信号の出力形態を、2並列か直列かに切り替えられる機能を持つフレーマ16を備える。フレーマ16は複数のデータフォーマットから任意のフォーマットのデータ信号を選択して出力する機能を有する。また、受光素子14と第1の制御回路15aの間に反転回路19を設ける。第1の制御回路15aに入力される電気信号は当該回路15aの前に反転回路19に入力されることになる。これにより、第1の位相変調部12aに入力されるデータ信号を遮断し、反転回路19を反転設定として第1の位相変調部12aの透過率を最小点に固定させ、残る一方のデータ信号によって生成された光出力信号の振幅調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムに用いられるマルチフォーマットの光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光通信システムの大容量化・長距離化に伴い、高感度化や多値化が容易で、かつ、光スペクトルの有効活用や長距離伝送特性にも優れる、位相変調を利用したシステムが広く普及し始めている。
【0003】
これまでにもBPSK(Binary Phase Shift Keying:二位相変位変調)方式やQPSK(Quadrature Phase Shift Keying:四位相変位変調)方式が実用化されている。また、多値の強度変調信号を直交位相変調することで、位相情報と振幅情報を組み合わせたQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交位相変位変調)方式も活発に研究されている。
【0004】
一般的なQPSK光発生の過程を、図6a、図6b、図6c、図6dを用いて説明する。図6aに示すように、QPSK方式に用いる光送信装置は、光源1と第1の位相変調部2aと第2の位相変調部2bとπ/2位相シフト部3とから成るQPSK位相変調器100と、受光素子4と、第1の制御回路5aと、第2の制御回路5bと、第1の変調器ドライバ7aと、第2の変調器ドライバ7bとを備える。ちなみに、第1の位相変調部2aと第2の位相変調部2bは光位相に依存する透過特性を有する。
【0005】
まず、光源1より出力された光信号が分岐され、第1の位相変調部2aと第2の位相変調部2bに入力される。第1の位相変調部2aに入力された光信号は第1のデータ信号によって、第2の位相変調部2bに入力された光信号は第2のデータ信号によって、それぞれ光位相変調がかけられる。
【0006】
図6b、図6cは、それぞれ第1、第2のBPSK位相変調光を説明するグラフである。左下図は、位相変調部を駆動するドライバ出力(変調器ドライバを通過したデータ信号)波形と時間の関係を示したグラフ、左上図は、位相変調部の印加電圧と透過率の関係を示したグラフ、右上図は、左下図のドライバ出力波形と左上図の位相変調部の透過率の関係のときに、位相変調器から出力される光信号の強度と時間の関係を示したグラフ、右下図は信号空間ダイヤグラム(データ信号を2次元の複素平面で表現した図)を示している。これらのグラフのように、第1、第2各々のデータ信号の電圧のピーク値を、位相変調部の透過率最大点のうち近接する2つの点の電圧値と一致させることで、データ信号の‘0’と‘1’に対応して相対光位相が‘0’と‘π’となる2つのBPSK光が発生する。
【0007】
さらに、図6cに示すように、π/2位相シフト部3でこれらBPSK光の相対位相がπ/2(直交)になるようにしてから2つの光を合波する。
【0008】
図6dは、第1、第2の位相変調光を合波したQPSK位相変調光を説明するグラフである。上図は、信号空間ダイヤグラム、下図は、QPSK光位相変調器から出力される光信号の強度と時間の関係を示しているが、これらのグラフのように、前述の合波により光信号の位相状態がπ/4、3π/4、5π/4、7π/4の4値をもつQPSK光が生成される。
【0009】
最近では、図6aの光送信装置を並列にして、共通の光源を分離して得られる直交偏波光を各々に入力する偏波多重のQPSK方式も盛んに研究されている。
【0010】
このようにQPSK方式では、1パルス当たり4相、即ち2ビットの情報を付与できることから、BPSK方式と比較すると、1/2の信号帯域で同じ情報を伝送することが可能である。一方、BPSK方式では、1パルス当たり2相、即ち1ビットの情報しか付与できないが、パルス間の位相差がQPSK方式より大きいことから、QPSK方式に比べ、雑音耐力に優れ、高感度な伝送特性が得られる。
【0011】
こうした特徴の違いから、実際のシステム設計では、伝送距離や伝送容量に応じて伝送方式が使い分けられており、方式に応じて変調器などの光学部品や高速回路なども専用のものが使われている。
【0012】
QPSK光を正確に生成するためには、2つのBPSK光を安定して生成することが重要である。図7(a)(b)(c)は、従来の光送信装置のドライバ出力と位相変調部の透過特性及び位相変調部から出力される光信号強度のアイダイヤグラム(信号波形の遷移を多数サンプリングして重ね合わせたグラフ)の関係を示したものであり、それぞれ、左下図は、位相変調部を駆動するドライバ出力波形と時間の関係を示したグラフ、左上図は、位相変調部の印加電圧と透過率の関係を示したグラフ、右上図は、左下図のドライバ出力波形と左上図の位相変調部の透過率の関係のときに、位相変調部から出力される光信号の強度と時間の関係を示したグラフである。図7(a)が最適の状態であり、前述の通り、ドライバ出力のピーク値が、2つの近接する透過率最大点の電圧値と一致した状態である。これは、ドライバ出力振幅が、位相変調部の半波長電圧Vπの2倍の電圧であり、且つ、その中点の電圧が透過率最小点(以下、null点と記載)の電圧にあるのと等価である。この最適状態の位相変調部の印加電圧を、動作最適点又は単に動作点と呼称する。
【0013】
この状態では、位相遷移が起きる瞬間にnull点を通過することで起きる消光状態領域以外は、透過率最大光が出力されるので、位相変調部から出力される光信号のアイダイヤグラムは、図7(a)に示すように殆どの時間領域で透過率最大値をとる。
【0014】
しかし位相変調部には、透過率が時間と共に電圧方向に変動するDCドリフトが存在することが知られている。位相変調部の駆動状態を一旦最適に設定しても、このDCドリフトによって時間とともに最適点からずれることとなる。
【0015】
透過率のDCドリフトによって生じるアイダイヤグラムの変化の様子を図7(b)と(c)に示す。DCドリフトと共に出力レベルが低下し、DCドリフト量がVπになると、位相遷移点のみで光出力が現れ、それ以外の殆どの時間領域では消光状態となる。こうした経時変動を抑制するため、図6aに示すような、受光素子4と第1の制御回路5aと第2の制御回路5bからなる制御ループによって、ドライバ出力中点の電圧が常にnull点の電圧に一致するよう制御されるのが一般的である。ちなみに、受光素子4と第1の制御回路5aと第2の制御回路5bからなる制御ループをABC(Auto Bias Control:自動バイアス制御)回路と呼称することもある。
【0016】
制御ループの動作について簡単に説明すると、まず、QPSK光を分岐して得られるモニタ光を受光素子4によって光電変換する。変換後の電気信号は分岐され、第1の制御回路5aと第2の制御回路5bにそれぞれ入力される。第1の制御回路5aと第2の制御回路5bは、交互に、位相変調部から出力される光信号の平均強度が最大となるように、第1の位相変調部2aと第2の位相変調部2bのDCバイアスを制御するというものである。
【0017】
図8は、null点の電圧とドライバ出力中点の電圧との差(ΔV=null点電圧−中点電圧)に対する位相変調部から出力される光信号の平均強度との関係である。DCドリフトによって位相変調部の出力は最大透過光レベルから低下するため、位相変調部から出力される光信号の平均強度もDCドリフトと共に低下するが、前述のように制御ループがDCバイアスを制御することによって、位相変調部から出力される光信号の平均強度は最大となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第3679320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
光通信装置のコストにおいて光部品の占める割合は依然大きく、伝送方式に応じて専用の構成部品を使い分ける方法を踏襲するのでは量産効果によるコストダウンが期待できない。これに対し、共通の部品で複数の伝送方式に対応できれば、量産効果によるコストダウンが期待できる。
【0020】
図6aからも明らかなように、QPSK光を発生させるに当たり、QPSK光位相変調器100には、BPSK光を作製する位相変調部が2つ用いられているので、このうちの一方だけを使用することができれば、同じ位相変調器でQPSK方式とBPSK方式の両方に対応できるはずである。
【0021】
しかし、従来技術に係るQPSK光送信装置では、仮に片方の位相変調部にのみデータ信号を入力してBPSK光送信装置として用いようとした場合、次のような課題が顕在化する。
【0022】
データ信号を入力しない位相変調部の制御ループは、データ信号入力の有無に関わらず常に位相変調部の透過率が最大になるよう電圧によって制御してしまう。このため、この透過率最大光が干渉光として、もう一方の位相変調部で生成されたBPSK光と合波され、受信装置側での受信感度を劣化させてしまう。
【0023】
また、データ信号を入力しない位相変調部の制御ループの機能を停止してnull点に調整したとしても、DCドリフトによって透過光が洩れ出すことになる。このように、QPSK光送信装置に従来から具備される機能を停止させるだけではBPSK光送信装置として用いることができない。
【0024】
本発明は、光送信装置に新たな機構を設けることにより、前述の問題を解決する装置を提供することを目的とする。尚、電気通信において異なる位相変調方式を組み合わせるという先行例がある(特許文献1参照)が、本発明はそれを光通信で行う場合の具体的な制御装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決する第1の発明に係る光送信装置は、
外部からの切り替え信号によって複数のデータフォーマットから任意のフォーマットのデータ信号を選択して出力する機能を有するフレーマと、
光信号の出力を分岐して得られる2つの光信号のそれぞれに、前記フレーマからの前記データ信号に基づき2つの位相変調部によって光位相変調をかけ、当該位相変調部から出力された2つの前記光信号に所定の相対光位相差を与えた後、合波する構成の光位相変調器と、
前記光位相変調器から出力された前記光信号を分岐して得られるモニタ光信号を光電変換する受光素子、外部からの切り替え信号によって前記データフォーマットに対応して前記受光素子の出力を反転もしくは非反転する反転回路、及び前記反転回路の出力に基づき前記位相変調部の動作点を制御する制御回路からなる制御ループとを備えることで、
前記位相変調器の動作点を変更し、前記データフォーマットに最適な前記光位相変調器の動作点制御を実現することを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決する第2の発明に係る光送信装置は、
外部からの切り替え信号によって複数のデータフォーマットから任意のフォーマットのデータ信号を選択して出力する機能を有するフレーマと、
光信号の出力を分岐して得られる2つの光信号のそれぞれに、前記フレーマからの前記データ信号に基づき2つの位相変調部によって光位相変調をかけ、当該位相変調部から出力された2つの前記光信号に所定の相対光位相差を与えた後、合波する構成の光位相変調器と、
前記光位相変調器から出力された前記光信号を分岐して得られるモニタ光信号を光電変換する受光素子、当該受光素子の出力を低周波信号で検波することで微小変調信号を検出する同期検波回路、外部からの切り替え信号によって前記データフォーマットに対応して前記同期検波回路の出力を反転もしくは非反転する反転回路、当該反転回路によって反転もしくは非反転とされた前記同期検波回路の出力を基に前記位相変調部を制御する制御回路、及び当該制御回路の出力に前記データ信号と比べて低速な前記低周波信号を加算して前記位相変調部に帰還することにより、前記位相変調部から出力される前記光信号にそれぞれ前記微小変調をかける経路からなる制御ループとを備えることで、
前記データフォーマットに最適な前記光位相変調器の動作点制御を実現することを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決する第3の発明に係る光送信装置は、
上記第1または2の発明に係る光送信装置において、
前記フレーマの出力部と前記光位相変調器とを接続する電気経路に、外部からの切り替え信号によってシャットダウンする機能を備えることで、
前記シャットダウン機能によって前記光位相変調器への前記データ信号を遮断することを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決する第4の発明に係る光送信装置は、
上記第2または3の発明に係る光送信装置において、
反転設定の前記制御ループと非反転設定の前記制御ループを交互に動作させる制御用クロックを備え、
前記各制御ループに、一方の前記制御ループが動作している期間は、もう一方は前記保持回路により制御が切り替わるタイミングでの制御値を保持する保持回路を備えることで、
前記制御ループの出力に加算される前記低周波信号を発生する低周波発振回路を単一とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
上記第1の発明に係る光送信装置によれば、位相変調器の動作点を変更し、データフォーマットに最適な光位相変調器の動作点制御を実現することができる。
【0030】
上記第2の発明に係る光送信装置によれば、さらに、同期検波回路を備えることで、よりデータフォーマットに最適な光位相変調器の動作点制御を実現することができる。
【0031】
上記第3の発明に係る光送信装置によれば、さらに、シャットダウン機能によって光位相変調器へのデータ信号を遮断することで、よりデータフォーマットに最適な光位相変調器の動作点制御を実現することができる。
【0032】
上記第4の発明に係る光送信装置によれば、さらに、制御ループの出力に加算される低周波信号を発生する低周波発振回路を単一とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1に係る光送信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る光送信装置のドライバ出力と位相変調部の透過特性及び位相変調部から出力される光信号強度の関係を示したものであり、(a)は最適な状態、(b)はnull点がドライバ出力の中点電圧よりも低い状態、(c)はnull点がドライバ出力の中点電圧よりも高い状態を示したグラフである。(a)(b)(c)共に、左下図は、位相変調部を駆動するドライバ出力波形と時間の関係を示したグラフ、左上図は、位相変調部の印加電圧と透過率の関係を示したグラフ、右上図は、左下図のドライバ出力波形と左上図の位相変調部の透過率の関係のときに、位相変調部から出力される光信号の平均強度と時間の関係を示したグラフである。
【図3】本発明の実施例2に係る光送信装置の構成を示すブロック図である。
【図4】反転回路の設定による動作点の変更を説明したものであり、(a)は非反転設定時、(b)は反転設定時のグラフである。(a)(b)共に、上図は、位相変調器から出力される光信号の平均強度と、ドライバ出力の中点電圧とnull点の電圧の差との関係を示したグラフ、下図は、同期検波出力波形と、ドライバ出力の中点電圧とnull点の電圧の差との関係を示したグラフである。
【図5】本発明の実施例3に係る光送信装置の構成を示すブロック図である。
【図6a】従来の光送信装置の構成を示すブロック図である。
【図6b】第1の位相変調部から出力される第1のBPSK位相変調光を説明するグラフである。左下図は、位相変調部を駆動するドライバ出力波形と時間の関係を示したグラフ、左上図は、位相変調部の印加電圧と透過率の関係を示したグラフ、右上図は、左下図のドライバ出力波形と左上図の位相変調部の透過率の関係のときに、位相変調器から出力される光信号の強度と時間の関係を示したグラフ、右下図は信号空間ダイヤグラムを示している。
【図6c】第2の位相変調部から出力された後にπ/2シフト部を通過する第2のBPSK位相変調光を説明するグラフである。左下図は、位相変調部を駆動するドライバ出力波形と時間の関係を示したグラフ、左上図は、位相変調部の印加電圧と透過率の関係を示したグラフ、右上図は、左下図のドライバ出力波形と左上図の位相変調部の透過率の関係のときに、位相変調部から出力される光信号の強度と時間の関係を示したグラフ、右下図は信号空間ダイヤグラムを示している。
【図6d】第1、第2の位相変調光を合波したQPSK位相変調光を説明するグラフである。上図は、信号空間ダイヤグラム、下図は、QPSK光位相変調器から出力される光信号の強度と時間の関係を示している。
【図7】従来の光送信装置のドライバ出力と位相変調部の透過特性及び位相変調部から出力される光信号強度の関係を示したものであり、(a)は最適な状態、(b)はnull点がドライバ出力の中点電圧よりも低い状態、(c)はnull点がドライバ出力の最大点と最小点に一致した状態を示したグラフである。(a)(b)(c)共に、左下図は、位相変調部を駆動するドライバ出力波形と時間の関係を示したグラフ、左上図は、位相変調部の印加電圧と透過率の関係を示したグラフ、右上図は、左下図のドライバ出力波形と左上図の位相変調部の透過率の関係のときに、位相変調部から出力される光信号の強度と時間の関係を示したグラフである。
【図8】ドライバ出力中点と位相変調部の透過null点との差による位相変調部から出力される光信号の平均強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る光送信装置を、実施例により図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0035】
本発明の実施例1に係る光送信装置は図1に示すように、従来技術と同様、光源11と第1の位相変調器12aと第2の位相変調器12bとπ/2シフト器13とから成るQPSK光位相変調器200と、受光素子14と、第1の制御回路15aと、第2の制御回路15bと、第1の変調器ドライバ17aと、第2の変調器ドライバ17bとを備える(光源11は図6における光源1と同一である。他も同様である)。
【0036】
まず、光源11からの光信号が2つに分岐されて第1の位相変調部12aと第2の位相変調部12bに入力されるようになっており、第1の位相変調部12aには第1のデータ信号が、第2の位相変調部12bには第2のデータ信号が加わることにより、各光信号に光位相変調がかけられる。その後、第1の位相変調部12aから出力された光信号はπ/2位相シフト部13において位相がπ/2シフトされ、第2の位相変調部12bから出力された光信号と合波されて、QPSK光が生成される。当該QPSK光を分岐して得られるモニタ光は受光素子14によって光電変換される。変換後の電気信号は分岐され、第1の制御回路15aと第2の制御回路15bに入力される。第1の制御回路15aと第2の制御回路15bは、交互に、光信号出力の平均強度が最大となるように、第1の位相変調部12aと第2の位相変調部12bのDCバイアスを制御する。ここまでは従来技術と同様である。
【0037】
ここで、本発明の実施例1に係る光送信装置は、第1の位相変調部12aと第2の位相変調部12bに入力されるデータ信号の出力形態を、2並列か直列かに切り替えられる機能を持つフレーマ16を備える。フレーマ16は複数のデータフォーマットから任意のフォーマットのデータ信号を選択して出力する機能を有する。また、第1の変調器ドライバ17aと第1の位相変調部12aの間にはシャットダウン部18が設けられている。
【0038】
さらに、受光素子14と第1の制御回路15aの間に反転回路19を設ける。すると、第1の制御回路15aに入力される電気信号は、当該回路15aの前に反転回路19に入力されることになる。
【0039】
本装置をQPSK方式に用いる場合、外部からの切り替え信号によってフレーマ16出力形態を2並列に、シャットダウン部18を無効に、そして反転回路19を非反転に設定する。この設定により、従来技術と変わらず、2つの制御回路は、位相変調部から出力される光信号の平均強度が最大となるよう、第1の位相変調部12aと第2の位相変調部12bのDCバイアスを交互に制御することができる。
【0040】
次に、本装置をBPSK方式に用いる場合は、切り替え信号によってフレーマ16出力形態を直列に(第1のデータ信号出力が無出力)、シャットダウン部18を有効に、反転回路19を反転設定にする。この設定により、直列信号(第2のデータ信号)が入力される第2の位相変調部12bについては通常の光信号出力の平均強度が最大となる制御を行う。
【0041】
一方このとき、ドライバ出力の無い第1の位相変調部12aは、光電変換後の電気信号が反転された信号を基にDCバイアス制御がなされる。図2(a)(b)(c)は、本装置のドライバ出力と位相変調部の透過特性及び位相変調部から出力される光信号強度の関係を示したものであり、それぞれ、左下図は、位相変調部を駆動するドライバ出力波形と時間の関係を示したグラフ、左上図は、位相変調部の印加電圧と透過率の関係を示したグラフ、右上図は、左下図のドライバ出力波形と左上図の位相変調部の透過率の関係のときに、位相変調部から出力される光信号の平均強度と時間の関係を示したグラフである。ドライバ出力の電圧が中点電圧に固定されているため、位相変調部から出力される光信号の平均強度も一定となる。当該強度は、前述のように、通常はドライバ出力が透過最大点に一致すれば最大に、null点に一致すれば最小になるが、今は反転回路19が反転設定となっているため、第1の制御回路15aに伝えられる情報は反転情報となる。すなわち、ドライバ出力が透過率最大点の電圧に一致している場合はnull点として、null点に一致している場合は透過率最大点として伝えられる。これにより、第1の位相変調部12aのDCバイアスはnull点の電圧に制御される。
【0042】
つまり、シャットダウン機能によって一方のデータ信号を遮断し、当該データ信号を送信する配線が接続されている位相変調部の、制御ループの反転回路を反転設定として、当該位相変調部の透過率を最小点に固定させ、残る一方のデータ信号によって生成された光出力信号の振幅調整を行うということである。
【0043】
このようにして、ドライバ出力の無い第1の位相変調部12aからの光信号出力を消光させることが出来る結果、BPSK方式に適用しても光の干渉などによる特性劣化が生じない。
【0044】
本発明の実施例1に係る装置は、光源11から第1の位相変調部12a、第2の位相変調部12bへ出力された光信号が、データ信号と同期したクロックでパルス変調された光パルス信号でも同様の効果が得られる。
【0045】
また、本装置をBPSK方式に用いる場合に、フレーマ16からのデータ信号が確実に遮断され、且つ、ドライバ出力も中点で固定されるのであれば、シャットダウン部18は省略できる。
【0046】
尚、本発明の実施例1に係る装置では、図1に示すようにπ/2位相シフト部13が接続されている側の位相変調部を第1の位相変調部12aとし、当該位相変調部12a側の回路にシャットダウン部18と反転回路19が接続されているが、当然、シャットダウン部18と反転回路19を第2の位相変調部12b側の回路に接続することも可能である。但し、その場合はπ/2位相シフト部13が接続されている側の位相変調部でBPSK光を生成することになる。
【0047】
ちなみに、本発明の実施例1に係る装置では、単体のQPSK光位相変調器200について述べたが、光源11からの光を偏波分離し各々の分岐光に2つのQPSK光位相変調器200を接続する偏波多重QPSK方式にも適用が可能である。
【実施例2】
【0048】
本発明の実施例2に係る光送信装置は、実施例1に係る装置に同期検波の動作を付与したものである。
【0049】
本装置は図3に示すように、実施例1に係る装置と同様、光源21と第1の位相変調部22aと第2の位相変調部22bとπ/2シフト器23とから成るQPSK光位相変調器300と、受光素子24と、第1の制御回路25aと、第2の制御回路25bと、第1の変調器ドライバ27aと、第2の変調器ドライバ27bと、フレーマ26とを備える(光源21は図1における光源11と同一である。他も同様である)。
【0050】
実施例1に係る装置との装置構成の差分は、本装置には、データ信号より十分低速な低周波信号を発信する第1の低周波発振回路31aと、同じく第2の低周波発振回路31bが具備され、各々の出力が、第1の制御回路25aと第2の制御回路25bの出力に加算されて第1の位相変調部22aと第2の位相変調部22bにそれぞれ印加されていること、また、受光素子24出力を各々の低周波信号で同期検波する第1の同期検波回路30aと第2の同期検波回路30bが具備されていること、そして、第1の変調器ドライバ27aと第1の位相変調部22aの間と、第2の変調器ドライバ27bと第2の位相変調部22bの間に、それぞれ第1のシャットダウン部28a、第2のシャットダウン部28bが具備されていること、さらに、第1の反転回路29aと第2の反転回路29bを備え、第1の反転回路29aは第1の同期検波回路30aと第1の制御回路25aの間に、第2の反転回路29bは第2の同期検波回路30bと第2の制御回路25bの間にそれぞれ配置されていることである。
【0051】
ドライバ出力の中点電圧とnull点の電圧との差ΔVと同期検波出力特性の関係を図4(a)(b)に示す。それぞれ上図は位相変調部から出力される光信号の平均強度と、ドライバ出力の中点電圧とnull点の電圧の差との関係を示したグラフであるが、この図からもわかるように、動作最適点であるΔV=0では位相変調部から出力される光信号の平均強度は最大となり、同期検波出力が正から負に右下がりの反転をする(図4(a)下図)。従来技術では、第1の制御回路25aと第2の制御回路25bはこの右肩下がりの零点を目標として制御を行う。
【0052】
しかし、この同期検波特性を第1の反転回路29aと第2の反転回路29bによって反転させると、第1の制御回路25aと第2の制御回路25bはやはり右肩下がりの零点を目標として制御を行うが、これによって固定するのは位相変調部から出力される光信号の平均強度の最大点ではなく、最小点である(図4(b)下図)。
【0053】
以上のことから、本装置をQPSK方式に用いる場合は、外部からの切り替え信号によってフレーマ26出力形態を2並列に、第1のシャットダウン部28aと第2のシャットダウン部28bを無効に、そして第1の反転回路29aと第2の反転回路29bを非反転に設定すれば、第1の制御回路25aと第2の制御回路25bは、位相変調部からの光信号出力の平均強度が最大、すなわちDCバイアスが最適となるよう、第1の位相変調部22aと第2の位相変調部22bのDCバイアスを交互に制御する。
【0054】
そして、本装置をBPSK方式に用いる場合は、切り替え信号によってフレーマ16出力を直列に(第1のデータ信号が無出力)、第1のシャットダウン部28aを有効に、第1の反転回路29aを反転設定にする。この設定では、第1の位相変調部22aは図4(b)下図に示した通りnull点に制御される。
【0055】
このようにして、ドライバ出力の無い位相変調部から出力される光信号を消光させることが出来る結果、BPSK方式に適用しても光の干渉などによる特性劣化が生じない。
【0056】
ちなみに、本発明の実施例2に係る装置では、単体のQPSK光位相変調器300について述べたが、光源21からの光を偏波分離し各々の分岐光に2つのQPSK光位相変調器300を接続する偏波多重QPSK方式にも適用が可能である。
【実施例3】
【0057】
本発明の実施例3に係る光送信装置は図5に示すように、実施例2に係る装置と同様、光源41と第1の位相変調部42aと第2の位相変調部42bとπ/2シフト器43とから成るQPSK光位相変調器400と、受光素子44と、第1の制御回路45aと、第2の制御回路45bと、第1の変調器ドライバ47aと、第2の変調器ドライバ47bと、フレーマ46と、第1のシャットダウン部48aと、第2のシャットダウン部48bと、第1の反転回路49aと、第2の反転回路49bとを備える(光源41は、図3における光源21と同一である。他も同様である)。
【0058】
実施例2に係る装置との差分は、データ信号より十分低速な低周波信号を発信する低周波発振回路51と同期検波回路50がそれぞれ1つだけである点と、第1の制御回路45aと第2の制御回路45bの出力部に第1の保持回路53aと第2の保持回路53bを配置し、低周波信号に比べ低速な周波数制御用クロック52によって交番的に制御信号の通過と保持を行う点である。
【0059】
また、前述の実施例1又は実施例2に係る装置と同様に、QPSK方式かBPSK方式かに応じて、切り替え信号によってシャットダウン機能と反転回路の設定を行う。
【0060】
その後、第1の位相変調部42aのDCバイアスを制御する場合は第1の保持回路53aを通過にし、第2の保持回路53bは保持状態に、そして第2の位相変調部42bのDCバイアスを制御する場合は第2の保持回路53bを通過にし、第1の保持回路53aは保持状態にすることを交番的に繰り返す。すなわち、反転設定の制御ループと非反転設定の制御ループを交互に動作させ、一方が動作している期間は、もう一方の制御ループは制御が切り替わるタイミングでの制御値を保持する。
【0061】
これにより、本発明の実施例3に係る光送信装置は、単一の低周波発振回路51のみでQPSK方式とBPSK方式のどちらの制御にも対応することが可能である。
【0062】
ちなみに、本発明の実施例3に係る装置では、単体のQPSK光位相変調器400について述べたが、光源41からの光を偏波分離し各々の分岐光に2つのQPSK光位相変調器400を接続する偏波多重QPSK方式にも適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、光通信システムに用いられるマルチフォーマットの光送信装置として好適である。
【符号の説明】
【0064】
1,11,21,41 光源
2a,12a,22a,42a 第1の位相変調部
2b,12b,22b,42b 第2の位相変調部
3,13,23,43 π/2位相シフト部
4,14,24,44 受光素子
5a,15a,25a,45a 第1の制御回路
5b,15b,25b,45b 第2の制御回路
16,26,46 フレーマ
7a,17a,27a,47a 第1の変調器ドライバ
7b,17b,27b,47b 第2の変調器ドライバ
18 シャットダウン部
28a,48a 第1のシャットダウン部
28b,48b 第2のシャットダウン部
19 反転回路
29a,49a 第1の反転回路
29b,49b 第2の反転回路
30a 第1の同期検波回路
30b 第2の同期検波回路
31a 第1の低周波信号発振回路
31b 第2の低周波信号発振回路
50 同期検波回路
51 低周波信号発生器
52 制御用クロック
53a 第1の保持回路
53b 第2の保持回路
100,200,300,400 QPSK光位相変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの切り替え信号によって複数のデータフォーマットから任意のフォーマットのデータ信号を選択して出力する機能を有するフレーマと、
光信号の出力を分岐して得られる2つの光信号のそれぞれに、前記フレーマからの前記データ信号に基づき2つの位相変調部によって光位相変調をかけ、当該位相変調部から出力された2つの前記光信号に所定の相対光位相差を与えた後、合波する構成の光位相変調器と、
前記光位相変調器から出力された前記光信号を分岐して得られるモニタ光信号を光電変換する受光素子、外部からの切り替え信号によって前記データフォーマットに対応して前記受光素子の出力を反転もしくは非反転する反転回路、及び前記反転回路の出力に基づき一方の前記位相変調部の動作点を制御する制御回路からなる制御ループとを備えることで、
前記光位相変調器の動作点を変更し、前記データフォーマットに最適な前記光位相変調器の動作点制御を実現することを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
外部からの切り替え信号によって複数のデータフォーマットから任意のフォーマットのデータ信号を選択して出力する機能を有するフレーマと、
光信号の出力を分岐して得られる2つの光信号のそれぞれに、前記フレーマからの前記データ信号に基づき2つの位相変調部によって光位相変調をかけ、当該位相変調部から出力された2つの前記光信号に所定の相対光位相差を与えた後、合波する構成の光位相変調器と、
前記光位相変調器から出力された前記光信号を分岐して得られるモニタ光信号を光電変換する受光素子、当該受光素子の出力を低周波信号で検波することで微小変調信号を検出する同期検波回路、外部からの切り替え信号によって前記データフォーマットに対応して前記同期検波回路の出力を反転もしくは非反転する反転回路、当該反転回路によって反転もしくは非反転とされた前記同期検波回路の出力を基に前記位相変調部を制御する制御回路、及び当該制御回路の出力に前記データ信号と比べて低速な前記低周波信号を加算して前記位相変調部に帰還することにより、前記位相変調部から出力される前記光信号にそれぞれ前記微小変調をかける経路からなる制御ループとを備えることで、
前記光位相変調器の動作点を変更し、前記データフォーマットに最適な前記光位相変調器の動作点制御を実現することを特徴とする光送信装置。
【請求項3】
前記フレーマの出力部と前記光位相変調器とを接続する電気経路に、外部からの切り替え信号によってシャットダウンする機能を備え、
前記シャットダウン機能によって前記光位相変調器への前記データ信号を遮断することを特徴とする請求項1または2に記載の光送信装置。
【請求項4】
反転設定の前記制御ループと非反転設定の前記制御ループを交互に動作させる制御用クロックを備え、
前記各制御ループに、一方の前記制御ループが動作している期間は、もう一方は前記保持回路により制御が切り替わるタイミングでの制御値を保持する保持回路を備えることで、
前記制御ループの出力に加算される前記低周波信号を発生する低周波発振回路を単一とすることを特徴とする請求項2または3に記載の光送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−62699(P2013−62699A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200133(P2011−200133)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591230295)NTTエレクトロニクス株式会社 (565)
【Fターム(参考)】