説明

マルチユニット型有機EL素子とその製造方法

【課題】 有機発光層を複数積層してなるマルチユニット型有機EL素子において、発光効率(光取り出し効率)を向上させること。
【解決手段】 透明基板上に透明電極が設けられ、該透明電極上に少なくとも1種類以上の発光層と導電性中間層が交互に複数層積層され、さらにその上に対向電極が設けられたマルチユニット型有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子において、導電性中間層として透明導電性カーボン層を含む1層以上の構成からなる中間層を用いることにより発光効率(光取り出し効率)の良好なマルチユニット型有機EL素子となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層を複数層積層して構成されるマルチユニット型有機(エレクトロルミネッセンス)EL素子において、発光層間に存在する導電性中間層が原因となる光取り出し効率の低下を防止し、結果として光取り出し効率の向上が可能となるマルチユニット型有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に変わる次の照明材料として有機または無機EL素子が注目され多くの研究がされている。また、テレビに代表されるディスプレイ部材においても液晶方式やプラズマ方式に変わる方式として有機EL方式が注目されている。
【0003】
有機ELは透明電極と対電極間に有機化合物または有機金属化合物からなる発光層が形成された発光素子であり、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーを光として取り出すことで発光素子として機能する。このような自発光デバイスのため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また上記発光層の材料により種々の波長の光を発光することができるため、演色性の高い光を得ることができる。
【0004】
有機EL素子では、素子の長寿命化、高効率化が重要な課題であり、対策として例えば特許文献1および2に開示されているように、中間導電層を介して複数の有機発光層が積層されたいわゆるマルチユニット型有機EL素子により走査線電流を抑制し、応答速度を向上させることが可能となっている。
【特許文献1】特開平11−329748号公報
【特許文献2】国際公開WO2004/095892号パンフレット
【非特許文献1】筒井哲夫監修、「有機ELハンドブック」、271ページ、2004年(リアライズ理工センター)
【非特許文献2】斉藤秀俊監修、「DLC膜ハンドブック」、495ページより、2006年(NTS社出版)
【非特許文献3】J.Krc et al.,Progress in Photovoltaics 11(2003)15.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチユニット型有機EL素子に用いられる中間導電層は、層内を等電位に保つとともに、片面より正孔を、もう片面より電子を注入する機能を有するものが使用されており、特許文献1には金属薄膜や金属酸化物、半導体などが開示されている。中でも金属酸化物が主に使用されている。これらの化合物は可視領域で比較的透明であるが、バンドギャップが可視領域〜近紫外領域に存在する場合があり、その吸収ロスによる発光効率の低下が懸念される。一方、上記領域にバンドギャップが無い化合物では、発光層との接合がとりにくく、発光素子として機能させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は以下の構成を有するものである。
【0007】
1). 透明基板上に透明電極が設けられ、該透明電極上に少なくとも1種類以上の発光層と導電性中間層が交互に複数層積層され、さらにその上に対向電極が設けられたマルチユニット型有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子において、該導電性中間層が透明導電性カーボン層を含む1層以上の構成からなることを特徴とするマルチユニット型有機EL素子。
【0008】
2). 透明導電性カーボン層が、(A)結晶質または非晶質構造である、(B)550nmの波長での屈折率が1.25〜1.75の間である、(C)X線光電子分光法により測定した、結合中のSP3の割合が60%以上であることを同時に満たすことを特徴とする、1)に記載のマルチユニット型有機EL素子。
【0009】
3). カーボン層が高周波プラズマ化学的気相堆積法(CVD)により形成され、原料ガスとして使用されるメタンガス及び水素ガスが、メタンガスの流量をV(CH4)、水素ガスの流量をV(H2)とした時に、式1の関係を満足するように混合ガスを調整されていることを特徴とする、1)または2)に記載のマルチユニット型有機EL素子の製造方法。
0.05≦V(CH4)/(V(CH4)+V(H2))≦1.0 (式1)。
【0010】
4). カーボン層がカーボンをターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により形成され、且つキャリアガスとして、水素またはアルゴン中に二酸化炭素が50体積%以下添加することを特徴とする1)または2)に記載のマルチユニット型有機EL素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明導電性カーボン層を導電中間層とすることで、マルチユニット型有機EL素子において、中間層による光の吸収・反射ロスが少なくなり、結果として光取り出し効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一は「透明基板上に透明電極が設けられ、該透明電極上に少なくとも1種類以上の発光層と導電性中間層が交互に複数層積層され、さらにその上に対向電極が設けられたマルチユニット型有機EL素子において、該導電性中間層が透明導電性カーボン層であることを特徴とするマルチユニット型有機EL素子」である。
【0013】
有機EL素子において、輝度を向上するための手段としては電流密度の向上がある。しかし、電流密度の向上はそのまま素子の寿命を短くすることになる。マルチユニット型有機EL素子は、このような電流密度(輝度)と寿命のトレードオフの関係を回避することができる効果的な手段であることが上記特許文献1に述べられている。これは、マルチユニット構造とすることで外部量子効率がユニット数にほぼ比例して向上することに起因していると推定される(非特許文献1)。また、種々の波長の光源を積層したマルチユニット型有機EL素子を用いることで、小面積で白色光を得ることが可能となる。
【0014】
ダイヤモンドライクカーボンを代表とするカーボン層は、表面の摩擦低下を目的としてコーティングされている。また、近年は太陽電池や化合物半導体高速電子デバイスに用いる低誘電率膜などへの応用が期待されている(非特許文献2)。
【0015】
しかし、カーボン層は導電性を得るためには構造中のSP2成分を多くする必要があり、その場合には色が黒くなり、光線透過率が下がる傾向がある。
【0016】
本発明では、光線透過率低下を防ぎ、且つマルチユニット型有機EL素子の中間導電層材料として機能するカーボン層を見出した。
【0017】
以下、本発明に係るマルチユニット型有機EL素子の代表的な態様を説明する。
【0018】
図1は本発明に係るマルチユニット型有機EL素子の模式的な断面図である。透明基板1の上に透明電極2と対電極3が形成され、その間に有機発光層41〜43が形成される。有機発光層41と42および42と43の間には、本発明の導電性中間層51と52が形成される。形成順序としては、基板1上に透明電極2を形成し、有機発光層41、導電性中間層51と積層し、最後に対電極3が形成される。有機発光層の積層数は2層以上であれば何層でも良く、その都度有機発光層間に導電性中間層を形成することで、本発明の目的を達成するマルチユニット型有機EL素子を作製することができる。
【0019】
上記透明基板1については、少なくとも可視光領域で無色透明であり透明導電層を形成可能なものであれば硬質または軟質な材料に限定されずに使用することができる。硬質な材料であれば、例えばソーダガラスやホウ珪酸ガラス、サファイヤガラス、石英ガラスなどのガラス基板やセラミックや硬質プラスチックなどが挙げられる。軟質な材料であれば、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフテレート(PBT)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルムやシクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0020】
上記基板1には、透明電極の付着性を向上させる目的で表面処理を施すことができる。表面処理としては例えばシランカップリング剤やチタンカップリング剤によるプライマー処理や、接着剤を薄膜コーティングする処理が上げられる。処理方法については特に限定されず、基板表面を均一に処理可能な方法であればどのような方法でも構わない。例えば、スプレー塗布やディッピングによる塗布、ロールコートやスピンコート法などの手法や、CVD法などによる手段が挙げられる。
【0021】
本発明における透明電極2には透明導電酸化物の中でも、酸化亜鉛や酸化錫や酸化インジウムまたはその混合物、酸化チタンなどが挙げられるが、透明性の高さとカーボン膜の製膜時に発生する水素プラズマに対して還元反応が起こらないという点から酸化亜鉛が用いられる。上記透明電極には抵抗制御や安定性を目的としてドーピング剤を添加することができる。ドーピング剤としては例えば、アルミニウムやガリウム、ホウ素を含む化合物やリン、窒素を含む化合物などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0022】
透明電極の形成方法としては、均一な薄膜が形成される手段であれば特に限定されない。例えば、スパッタリングや蒸着などのPVD法や、各種CVD法などの気相堆積法などの他に、透明電極の原料を含む溶液をスピンコート法やロールコート法、スプレー塗布やディッピング塗布などにより塗布した後に加熱処理などで透明電極を形成する方法が挙げられるが、ナノメートルレベルの薄膜を形成しやすいという観点から気相堆積法が好ましい。
【0023】
有機発光層2は、有機ELの場合は正孔輸送層・発光層・電子輸送層が陽極側から順に積層される。正孔輸送層の材料としてはベンジン、スチリルアミン、トリフェニルメタン、ポルフィリン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキサゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、およびこれらの誘導体、ポリシラン化合物、ビニルカルバゾール化合物、チオフェン化合物、アニリン化合物などの複素環式共役系のモノマーやオリゴマー、ポリマーが挙げられる。
【0024】
発光層の材料としては、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベンの他に、キノリン、フェナントロリン、ビピリジン、ピリジン、アミノ基を有する化合物、分子中にホスフィンやホスファイトを含有する化合物、アセチルアセトン、ターピリジン、ジカルボニルやその誘導体を配位子とした金属錯体や、ジトルイルビニルビフェニルなどが挙げられる。
【0025】
電子輸送層の材料としては、キノリン、ペリレン、ビススチリル、ピラジンやこれらの誘導体が挙げられる。誘電体の材料としては、二酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素、酸化タンタル、酸化チタンやチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、タンタル酸バリウムのような強誘電体も用いられる。
【0026】
有機発光層2の形成方法としては、蒸着やスパッタのような気相堆積法、インクジェットやスプレー、ロールコートなどの液相からの製膜方法などが挙げられる。形成方法については、材料に依存する面が大きく、材料にあわせた製膜方法を任意に選択することが好ましい。
【0027】
中間導電層51〜52について説明する。
【0028】
中間導電層51〜52に用いるカーボン膜はダイヤモンドライクカーボンのような水素化アモルファスカーボンやグラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレンのように炭素原子が主成分となる化合物により形成される。窒素やリン、ホウ素などのドーピングによって導電性を向上させることが可能であるが、ドーピングを施さなくても十分な導電性が期待される。
【0029】
中間導電層はカーボン膜のみから形成することも可能であるが、有機発光層との電気的接合の観点から接合層を設けても良い。接合層には酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫や酸化チタンまたはその複合酸化物などを任意に選択して使用することができる。これらの接合層の膜厚は、光学的に影響の少ない範囲が好ましく、具体的には200Å以下が好ましい。
【0030】
以下には、中間導電層のうちのカーボン膜について詳細に説明する。
【0031】
カーボン膜は結晶質または非晶質構造のどちらの構造でも本発明に必要なカーボン膜を形成することができる。結晶性については、上述のようなカーボンの同素体や組成が大きく影響し、結合水素がないものは結晶性となりやすい傾向がある。また、本発明においては、ダイヤモンドライクカーボンのような非晶質カーボン中に、結晶質のカーボン構造がクラスター状態で分布しているような構造でも本発明の目的を達成可能である。結晶性については、TEMやAFMなどで形状を直接観察することも可能であるが、その他X線回折や電子線回折などでも知見を得ることができる。
【0032】
カーボン膜の屈折率は550nmの波長において1.25〜1.75が好ましい。屈折率が本発明の範囲である場合、カーボン層に反射防止機能が付与され、光線透過率の向上につながる。この手法では、白色の発光においても「高屈折率材料(発光層)−低屈折率(カーボン膜)」の積層により光取り出しを向上させることが可能であるが、光の干渉効果を利用して特定の波長のみの光取り出しを向上させることも可能である。さらに、発光層とカーボン膜界面の形状が適度な凹凸構造を有することで、光の全反射を抑制することで更なる光取り出しの向上が可能となる。本発明のカーボン層は製膜の条件、特にガス流量比により屈折率を上記の範囲で制御可能である。
【0033】
カーボン膜における、X線光電子分光スペクトルの解析から得られるカーボン結合中のSP3の割合は60%以上が好ましい。さらには60〜90%、特には65〜90%が好ましい。SP3の割合が小さい場合は、グラファイト的な構造に近くなり、光線透過率の低下の原因となる。また、SP2結合が多い場合は吸水性が高くなり耐久性が低下する可能性がある。またSP3の割合が大きい場合は、導電性が劣り透明導電膜の機能を果たさなくなる可能性がある。
【0034】
このようなカーボン膜の作製方法は、高周波プラズマCVD法を用いることで、本発明に必要なカーボン膜を形成することができる。高周波プラズマCVD法における原料ガスはメタンガスと水素ガスが用いられ、その体積比を制御することでカーボン膜の特性を制御することが可能となるが、本発明に重要な特性を有するためにはメタンガスの流量をV(CH4)、水素ガスの流量をV(H2)とした時に、下記式の範囲で原料ガスを制御することが好ましい。
【0035】
0.05≦V(CH4)/(V(CH4)+V(H2))≦1.0 式(1)。
【0036】
体積比の制御は製膜装置にマスフローコントローラーを設置することで、良い精度で制御可能である。これらのガス体積比は、主に水接触角に影響を与え、ガス体積比が上記範囲から逸脱すると、本発明に必要な水接触角を得ることができず、結果として高温高湿環境下での耐久性の低下へとつながる。電源のパワーについては0.05〜15W/cm2が好ましい。低パワーでは製膜速度が遅くなり生産性に大きな影響を与える可能性がある。逆に高すぎるパワーでは、イオン化したガスにより基材の透明導電酸化物層をエッチングしてしまう可能性があるため好ましくない。
【0037】
また本発明のカーボン層は、マグネトロンスパッタ法においても形成可能である。マグネトロンスパッタ法によりカーボン層を形成する場合、ターゲット材料には一般的なカーボンを使用することができる。キャリアガスとしては、二酸化炭素・水素・アルゴンの中から2種類以上のガスを選択し、且つそれぞれのガスの体積をV(二酸化炭素)・V(水素)・V(アルゴン)とした時に下記式の範囲でキャリアガスを制御することで本発明に必要なカーボン層を形成可能である。
【0038】
0.01≦V(二酸化炭素)/(V(二酸化炭素)+V(水素))≦0.30 式(2)
0.01≦V(二酸化炭素)/(V(二酸化炭素)+V(アルゴン))≦0.30 式(3)。
【0039】
体積比の制御は製膜装置にマスフローコントローラーを設置することで、良い精度で制御可能である。これらのガス体積比は、主に水接触角に影響を与え、ガス体積比が上記範囲から逸脱すると、本発明に必要な水接触角を得ることができず、結果として高温高湿環境下での耐久性の低下へとつながる。さらに、水素量が多くなると、発生した水素原子とメタンや二酸化炭素の反応により炭素原子が高密度に堆積しやすくなり、結果として高屈折率のカーボン層となり、本発明のような光線透過率の向上にはつながらない。
【0040】
アルゴン量が多くなると、カーボン層はよりグラファイト的なものとなり、カーボン層の色が黒っぽくなり、透明導電膜には適さない。電源のパワーについては0.05〜15W/cm2が好ましい。低パワーでは製膜速度が遅くなり生産性に大きな影響を与える可能性がある。逆に高すぎるパワーでは、イオン化したガスにより基材の透明導電酸化物層をエッチングしてしまう可能性があるため好ましくない。電源については、直流電源や高周波電源などがあり、何れの電源も使用できるが、高周波電源の方が製膜速度が高く、ターゲット付近に堆積する絶縁炭素物質の影響が小さいなど、生産性の観点から好ましい。
【0041】
中間導電層の膜厚は100〜1500Åが好ましく、特に200〜1200Åが使用する上で好ましい。カーボン層の膜厚が厚い場合は導電性の低下の原因となる。中間導電層の膜厚は、透明導電酸化物層2の膜厚や中間導電層の屈折率により任意の膜厚を設定することができる。例えば、一次元の光学シミュレータを使用することで、中間導電層の屈折率と膜厚の最適値を近似的に得ることができる(非特許文献3)。
【0042】
裏面電極3はアルミニウムや銀などの金属電極を使用する。裏面電極3の形成方法としては、スパッタリング法や蒸着法などの気相堆積法で製膜できる。
【0043】
有機発光層43と裏面電極3の間に、電気的接合の向上や、有機発光層と裏面電極間での原子拡散の防止を目的とした層を設けることができる。具体的には酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫などの金属酸化物を使用することができる。
【0044】
さらに、光取り出し効率の向上を目的として、有機発光層43と裏面電極3または有機発光層43と上記金属酸化物層との間に層を設けることができる。該層は導電性で且つ低屈折率のものであるとより光取り出し効率が向上する。例えば、中間導電層に用いるカーボン膜を使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
具体的な測定装置について説明する。エリプソメトリーはジェイ・エー・ウーラム社製の分光エリプソメーターVASEを使用した。結晶性は原子間力顕微鏡(AFM)(装置名Nano−R Pacific Nanotechnology社製)を用いて、結晶粒子の有無など表面状態を評価した。構造中のSP3結合割合は、X線光電子分光(XPS)測定(装置名S−Probe ESCA Model2803(Surface Science Instruments社製))より得られる結合エネルギーのデータを解析することで算出した。輝度の測定は、素子に通電する電流の電流密度を1.5mA/cm2と一定にした場合の輝度を、分光放射輝度計(CS1000、ミノルタ製)を用いた。
【0047】
(実施例1)
無アルカリガラス(商品名OA−10、膜厚0.7mm、日本電気硝子社製)に、酸化インジウム・酸化錫複合化合物(ITO)を1000Åスパッタ製膜した。その上に正孔輸送層としてN,N−(ナフタレン−1−イル)−N,N−ジフェニルベンジジン(NPB)を蒸着法により800Å製膜した。さらにその上にトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を600Å製膜し、発光層と電子輸送層とした。その上に、導電性中間層としてプラズマCVDによりカーボン膜を製膜した。
【0048】
製膜条件は、原料ガスとしてメタンを用い、100Paの圧力下、10WのRFパワーをかけ20分間製膜することで500Åのカーボン膜を形成した。その上に、NPB−Alq3−カーボン膜-NPB-Alq3を同様に積層し、その上に800Åの酸化亜鉛膜を形成した。その上に銀を蒸着により2000Å形成し、3層の有機発光層を有するマルチユニット型有機EL素子を作製した。
【0049】
導電性中間層に用いたカーボン膜について、AFMより非晶質であった。エリプソメーターにより測定した屈折率は、550nmの波長で1.40であった。また、XPSの測定結果から、このカーボン膜のSP3比は65%であった。このようにして作製したマルチユニット型有機EL素子の輝度は300cd/m2であった。
【0050】
(実施例2)
導電性中間層のカーボン膜製膜条件を、原料ガスをメタンと水素の圧力比を1:19とする以外は実施例1と同様にして3層の有機発光層を有するマルチユニット型有機EL素子を作製した。このカーボン膜について、赤外吸収スペクトルの結果から水素含有であることを確認した。エリプソメーターにより測定した屈折率は、550nmの波長で1.72であった。また、XPSの測定結果から、このカーボン膜のSP3比は75%であった。このようにして作製したマルチユニット型有機EL素子の輝度は400cd/m2であった。
【0051】
(実施例3)
導電性中間層として、酸化亜鉛100Å/カーボン膜500Åとした以外は、実施例1と同様に3層の有機発光層を有するマルチユニット型有機EL素子を作製した。上記酸化亜鉛はスパッタにより製膜した。カーボン膜は実施例1と同条件で製膜した。このようにして作製したマルチユニット型有機EL素子の輝度は400cd/m2であった。
【0052】
(実施例4)
導電性中間層として、酸化亜鉛100Å/カーボン膜500Å/酸化亜鉛100Åとした以外は、実施例1と同様に3層の有機発光層を有するマルチユニット型有機EL素子を作製した。上記酸化亜鉛はスパッタにより製膜した。カーボン膜は実施例1と同条件で製膜した。このようにして作製したマルチユニット型有機EL素子の輝度は400cd/m2であった。
【0053】
(実施例5)
導電性中間層のカーボン膜製膜条件を、原料ガスを二酸化炭素と水素の圧力比を1:9とした、カーボンをターゲットとしたマグネトロンスパッタ法で作製した以外は実施例1と同様にして3層の有機発光層を有するマルチユニット型有機EL素子を作製した。このカーボン膜について、AFMより非晶質であった。エリプソメーターにより測定した屈折率は、550nmの波長で1.65であった。また、XPSの測定結果から、このカーボン膜のSP3比は75%であった。このようにして作製したマルチユニット型有機EL素子の輝度は400cd/m2であった。
【0054】
(実施例6)
導電性中間層のカーボン膜製膜条件を、原料ガスを二酸化炭素とアルゴンの圧力比を1:9とした、カーボンをターゲットとしたマグネトロンスパッタ法で作製した以外は実施例1と同様にして3層の有機発光層を有するマルチユニット型有機EL素子を作製した。このカーボン膜について、AFMより結晶質であった。エリプソメーターにより測定した屈折率は、550nmの波長で1.25であった。また、XPSの測定結果から、このカーボン膜のSP3比は75%であった。このようにして作製したマルチユニット型有機EL素子の輝度は500cd/m2であった。
【0055】
(比較例1)
導電性中間層として、ITOを100Åとする以外は、実施例1と同様に3層の有機発光層を有するマルチユニット型有機EL素子を作製した。このようにして作製したマルチユニット型有機EL素子の輝度は250cd/m2であった。
【0056】
以上の結果から、マルチユニット型有機EL素子の導電性中間層をカーボン膜とすることで、一定の電流密度における輝度が従来のものよりも向上することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のマルチユニット型有機EL素子の1例の断面説明図
【符号の説明】
【0058】
1 透明基板
2 透明電極
3 裏面電極
41〜43 有機発光層
51〜52 中間導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に透明電極が設けられ、該透明電極上に少なくとも1種類以上の発光層と導電性中間層が交互に複数層積層され、さらにその上に対向電極が設けられたマルチユニット型有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子において、該導電性中間層が透明導電性カーボン層を含む1層以上の構成からなることを特徴とするマルチユニット型有機EL素子。
【請求項2】
透明導電性カーボン層が、(A)結晶質または非晶質構造である、(B)550nmの波長での屈折率が1.25〜1.75の間である、(C)X線光電子分光法により測定した、結合中のSP3の割合が60%以上であることを同時に満たすことを特徴とする、請求項1に記載のマルチユニット型有機EL素子。
【請求項3】
カーボン層が高周波プラズマ化学的気相堆積法(CVD)により形成され、原料ガスとして使用されるメタンガス及び水素ガスが、メタンガスの流量をV(CH4)、水素ガスの流量をV(H2)とした時に、式1の関係を満足するように混合ガスを調整されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のマルチユニット型有機EL素子の製造方法。
0.05≦V(CH4)/(V(CH4)+V(H2))≦1.0 (式1)
【請求項4】
カーボン層がカーボンをターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により形成され、且つキャリアガスとして、水素またはアルゴン中に二酸化炭素が50体積%以下添加することを特徴とする請求項1または2に記載のマルチユニット型有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−301885(P2009−301885A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155462(P2008−155462)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】