説明

マルトシルトレハロースを含有することを特徴とする被膜剤および当該被膜剤を塗布した食品

【課題】
光沢の付与とともに、食品の風味劣化を抑制できる、品質保持効果の高い皮膜剤とその皮膜剤を塗布した食品とを提供することを目的とする。
【解決手段】
マルトシルトレハロース水溶液を含有することを特徴とする食品用被膜剤、および当該被膜剤を塗布した食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルトシルトレハロース水溶液を含有することを特徴とする被膜剤、および当該被膜剤を塗布した食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、特に油脂性菓子の表面に光沢を付与するための艶付方法としては、セラック・エタノール溶液を使用するのが一般的である。しかし、セラック・エタノール溶液を直接油脂性菓子に被覆した場合には、充分な光沢が得られないことがある。この問題を解決するために砂糖、水飴等の糖類とアラビアガム、デキストリン、澱粉等のコロイド物質を配合した被膜剤を掛けて光沢を出した後に、セラック・エタノール溶液を掛けて好ましい光沢を得る艶付方法が提案されている(非特許文献1)。
【0003】
また、セラックに代わって、とうもろこし蛋白であるツェインをエタノール/またはイソプロパノールに溶解した溶液に液状脂肪酸および/またはポリグリセリン脂肪酸エステルを配合し、該混合溶液を使用して食品に艶出しする方法が開示されている(特許文献1)。
さらに、有機溶剤を使用せずに油脂性菓子の表面に綺麗な艶を付与する方法、すなわちセラックと塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩の水溶液と、増粘剤および/または糖を含む液状の艶付用組成物を使用して油脂性菓子表面に艶を付与する方法も開示されている(特許文献2)。
【非特許文献1】Industrial Chocolate Manufacture And Use-Third : 297頁〜298頁
【特許文献1】特開平10−108630号公報
【特許文献2】特開2005−58105号公報
【0004】
しかし、前記非特許文献1記載の方法は、予め油脂性菓子に水分を含んだ被膜剤を被覆した後、水分を送風等の方法で除去、乾燥させ、しかる後に、セラック・エタノール溶液で被覆するが、この方法では油脂性菓子の風味劣化は避けられない。
【0005】
また、特許文献1または特許文献2に開示された艶付方法も、油脂性菓子表面に光沢を付与できるが、該油脂性菓子の風味劣化を防止する効果は得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光沢の付与とともに、風味劣化を抑制し、品質保持効果の高い皮膜剤とその皮膜剤を塗布した食品とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、マルトシルトレハロース水溶液を含有する被膜剤を塗布することによって、前記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下を包含する。
(1)マルトシルトレハロース水溶液を含有することを特徴とする食品用被膜剤。
(2)食品が油脂性菓子である前記(1)に記載の被膜剤。
(3)前記(1)に記載の被膜剤が塗布された食品。
(4)前記(2)に記載の被膜剤が塗布された油脂性菓子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、食品、中でも特に油脂性菓子表面に良好な光沢を付与でき、且つ良好な風味を高いレベルで維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の皮膜剤は、マルトシルトレハロース水溶液を含有することを特徴としている。本発明の被膜剤の構成成分は、マルトシルトレハロースを水溶液の状態で含有していること以外は特に制限されるものではなく、糖類やエタノール、またはデキストリン、澱粉、アラビアガムなどのコロイド物質等、多様な物質を使用することが可能である。
【0010】
マルトシルトレハロースを含有する本発明の被膜剤は、その組成中にマルトシルトレハロースを2重量%以上含有することが望ましい。被膜剤に含有されるマルトシルトレハロース量が2重量%を下回る場合、本発明の目的が充分に達成されないので好ましくない。
【0011】
本発明において食品とは、本発明の被膜剤を塗布できるものであれば特に限定されない。
【0012】
本発明において油脂性菓子とは、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定めるチョコレート生地及びその加工品に限定されるものではなく、準チョコレート生地やファットクリーム生地、及びそれらの加工品も含む。
【0013】
油脂性菓子の成形方法についても特に制限されるものではなく、モールド成型法、回転釜を使用したアーモンドなどの可食物へのチョコレートコーティング法、エンロービング法等、あらゆる方法で成形した油脂性菓子を対象とできる。
【0014】
本発明の被膜剤を調製するには、前記構成成分を充分に混合すればよい。
また本発明の被膜剤を塗布した食品を得るには、コーティングの定法に従って前記被膜剤を塗布すればよいが、例えば、回転釜中で転動する食品に前記被膜剤を添加し、釜の回転を続けて食品表面に均一に広げた後、送風乾燥して前記被膜剤に含まれていた水分を除去すればよい。したがって、本発明の被膜剤を塗布した食品は水分が除去されていてよい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明にするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
エタノール15重量部、水7重量部、マルトシルトレハロースを50%含有する水飴(「ハローデックス」;株式会社林原商事製)78重量部を混合し、被膜剤を調製した。
次に、アーモンド粒表面に均一にチョコレート生地をコーティングしたアーモンドチョコボール500g(約4g/粒)を回転釜(有限会社飯田製作所製:口径300mm)に入れ、35回/分の速度で回転させた状態で、前述の被膜剤1gを添加して塗布した。次いで、20℃、相対湿度50%の空気を、該回転釜内で回転転動しているアーモンドチョコボール表面に送風し、被膜剤中の水分を乾燥・除去した。さらに前記被膜剤の塗布および水分の乾燥・除去操作をもう1度繰り返し、アーモンドチョコボール表面に被膜剤による光沢を付与した。
【0016】
その後、アーモンドチョコボール表面にさらに充分な光沢を付与するため、前記回転釜内で回転転動しているアーモンドチョコボールに、セラック−エタノール溶液(「ドラッグC-25」;株式会社岐阜セラック社製;以下、上艶剤と呼ぶ)4gを添加した。次いで、前記上艶剤がアーモンドチョコボール表面全体に塗布されるよう10秒回転させた後回転を停止し、前記と同じ20℃、相対湿度50%の空気を送風し、上艶剤中のエタノールを除去して、チョコボール表面に良好な艶を付与した。得られたチョコボールを、アルミを蒸着した袋に入れ、密閉して20℃条件下で保管した。
【0017】
[比較例1]
実施例1において用いた被膜剤に含まれる水飴「ハローデックス」(株式会社林原商事製)78重量部の代わりに、還元水飴「HS−20」(株式会社林原商事社製)を78重量部使用した以外は、実施例1と同様に処理して艶を付与したアーモンドチョコボールを得て、実施例1と同様に保管した。
【0018】
[実施例2]
エタノール15重量部、水7重量部、水飴「ハローデックス」(株式会社林原商事製)7.8重量部、還元水飴「HS−20」(株式会社林原商事社製)70.2重量部を混合し、被膜剤を調製した。この被膜剤を使用して実施例1と同様にアーモンドチョコボールに艶を付与し、さらに実施例1と同様に保管した。
【0019】
[実施例3]
エタノール15重量部、水7重量部、水飴「ハローデックス」(株式会社林原商事製)23.4重量部と還元水飴「HS−20」(株式会社林原商事社製)54.6重量部を混合し、被膜剤を調製した。この被膜剤を使用して実施例1と同様にアーモンドチョコボールに艶を付与し、さらに実施例1と同様に保管した。
【0020】
[実施例4]
実施例1においてエタノール、及び水を使用せず、マルトシルトレハロースを50%含有する水飴「ハローデックス」(株式会社林原商事製)だけを被膜剤として、実施例1と同様に処理して艶を付与したアーモンドチョコボールを得て、実施例1と同様に保管した。
【0021】
[実施例5]
エタノール15重量部、水7重量部、水飴「ハローデックス」(株式会社林原商事製)4重量部、還元水飴「HS−20」(株式会社林原商事社製)74重量部を混合し、被膜剤を調製した。この被膜剤を使用して実施例1と同様にアーモンドチョコボールに艶を付与し、さらに実施例1と同様に保管した。
【0022】
これら実施例1〜5のアーモンドチョコボールと比較例1のアーモンドチョコボールを、20℃条件下で保管後2ヶ月経過した時点で、チョコレート専門パネリストにより官能評価した結果、実施例1〜5のいずれのアーモンドチョコボールも、比較例1に比して、より製造時に近い良好な風味を維持しているという評価結果となった。
【0023】
さらに実施例3のアーモンドチョコボールと比較例1のアーモンドチョコボールを、製造後5ヶ月半経過した時点で、チョコレート専門パネリストにより下記の評価指標で嗜好値によって評価した。評点は0.1刻みとした。結果を表1に示す。いずれのパネリストも実施例3のアーモンドチョコボールのほうがおいしいと評価した。

評価指標

+2:非常においしい
+1:かなりおいしい
0:ふつう
−1:あまりおいしくない
−2:まったくおいしくない


【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトシルトレハロース水溶液を含有することを特徴とする食品用被膜剤。
【請求項2】
食品が油脂性菓子である請求項1に記載の被膜剤。
【請求項3】
請求項1記載の被膜剤が塗布された食品。
【請求項4】
請求項2記載の被膜剤が塗布された油脂性菓子。

【公開番号】特開2010−11808(P2010−11808A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175810(P2008−175810)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】