説明

マルトトリオース生成アミラーゼとその製造方法並びに用途

【課題】 マルトトリオースの工業的製造により適したマルトトリオース生成アミラーゼとその製造方法並びに用途を提供することを課題とする。
【解決手段】 顕著に高い比活性を有する新規なマルトトリオース生成アミラーゼとその製造方法、マルトトリオース生成アミラーゼ産生能を有する微生物、当該酵素を用いたマルトトリオース又はこれを含む糖質の製造方法、及び、当該酵素を用いたマルトトリイトール又はこれを含む糖アルコールの製造方法を提供することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉質を加水分解してマルトトリオースを生成するマルトトリオース生成アミラーゼとその製造方法並びに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオースなどのマルトオリゴ糖は、澱粉質を各種アミラーゼで加水分解することにより工業的に製造されている。マルトトリオースは、D−グルコース3分子がα−1,4グルコシド結合を介して結合した三糖であり、低甘味、非結晶性、保水性が大きいなどの優れた物性を有していることから、食品加工の観点から有用な糖質素材として注目されている。
【0003】
これまで、澱粉質からマルトトリオースを生成するアミラーゼとしては、主として、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来の酵素(特許文献1、非特許文献1を参照)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)由来の酵素(特許文献2及び3、非特許文献2を参照)、及び、ミクロバクテリウム・インペリアレ(Microbacterium imperiale)由来の酵素(特許文献4、非特許文献3を参照)が開示されており、その詳細な性質が報告されている。酵素反応の条件によって異なるものの、これらの酵素を用いることにより澱粉質から固形物当たり40乃至70質量%のマルトトリオースを含有する糖液を製造することができる。
【0004】
しかしながら、上記ストレプトマイセス・グリセウス及びバチルス・ズブチリス由来の酵素は、微生物による酵素の生産性が低いか、又は、酵素が工業的使用に耐える性質を有していない(特許文献4を参照)などの問題点があった。現在、マルトトリオースの製造には、ミクロバクテリウム・インペリアレ由来のマルトトリオース生成アミラーゼが採用されているものの、ミクロバクテリウム・インペリアレ由来の酵素には、比活性(酵素蛋白当たりの活性)が低いという問題があり、マルトトリオースを製造する上で多量の酵素を要することから、結果的にマルトトリオースの製造コストの高騰を招いていた。
【0005】
特許文献5には、ミクロバクテリウム・インペリアレ由来のマルトトリオース生成アミラーゼについて、その使用量を低減した高純度マルトトリオース含有糖液の製造方法が提案されているものの、当該製造方法にはイオン交換クロマトグラフィーを用いた分画工程が組み込まれており、製造コストの低減は限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭57−6915号公報
【特許文献2】特公昭59−39957号公報
【特許文献3】特公昭60−15315号公報
【特許文献4】特許第2964042号公報
【特許文献5】特開平11−235193号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】若生ら、澱粉科学,第23巻,第3号,175乃至181頁(1979年)
【非特許文献2】Y. Takasaki et al.,Agric. Biol. Chem.,第49巻、第4号,1091乃至1097頁(1985年)
【非特許文献3】Y. Takasaki et al.,Agric. Biol. Chem.,第55巻,第3号,687乃至692頁(1991年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マルトトリオースの工業的製造により適したマルトトリオース生成アミラーゼとその製造方法並びに用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、澱粉質に作用し、マルトトリオースを生成する新しい酵素に期待を込めて、目的とする酵素を産生する微生物を広く検索してきた。その結果、京都府京都市の土壌から、新たに分離したストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する新規微生物、H65が培地中にマルトトリオース生成アミラーゼを産生することを見出した。このH65由来のマルトトリオース生成アミラーゼを精製し、その性質について詳細に検討したところ、本酵素は、意外にも、従来公知のマルトトリオース生成アミラーゼと比べ、顕著に高い比活性を有しており、また、従来公知の酵素がマルトテトラオースに作用させた場合、マルトトリオースとD−グルコースとを生成するのに対して、本酵素はマルトースを生成するという特徴を有することが判明した。顕著に高い比活性を有する本酵素は、より少量の酵素蛋白で安価なマルトトリオース製造を可能にするものであり、本発明者らは、本酵素とその製造方法を確立するとともに、本酵素を用いたマルトトリオース又はこれを含む糖質の製造方法、さらには、得られるマルトトリオース又はこれを含む糖質を水素添加することを特徴とするマルトトリイトール又はこれを含む糖アルコールの製造方法を確立することにより本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、顕著に高い比活性を有する新規なマルトトリオース生成アミラーゼとその製造方法、マルトトリオース生成アミラーゼ産生能を有する微生物、当該酵素を用いたマルトトリオース又はこれを含む糖質の製造方法、及び、当該酵素を用いたマルトトリイトール又はこれを含む糖アルコールの製造方法を提供することによって上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、澱粉質を原料として、マルトトリオース又はこれを含む糖質を、より少量の酵素量で安価に製造し、市場に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】マルトトリオース生成アミラーゼの至適pHを示す図である。
【図2】マルトトリオース生成アミラーゼの至適温度を示す図である。
【図3】マルトトリオース生成アミラーゼのpH安定性を示す図である。
【図4】マルトトリオース生成アミラーゼの温度安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、澱粉質からマルトトリオースを生成するマルトトリオース生成アミラーゼに関するものである。本発明のマルトトリオース生成アミラーゼは、下記の理化学的性質を有している:
(1)作用
澱粉質に作用してマルトトリオースを生成し、マルトテトラオースに作用してマルトースを生成する;
(2)基質特異性
澱粉、アミロース、アミロペクチン及びグリコーゲンに作用し、シクロデキストリン、デキストラン及びプルランには実質的に作用しない;
(3)分子量
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)において、53,000±10,000ダルトン;
(4)至適pH
40℃、20分間反応の条件下で5.5乃至6.5;
(5)至適温度
pH6.5、20分間反応の条件下で50℃;
(6)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で少なくともpH6.0乃至7.5の範囲で安定;
(7)温度安定性
1mM Ca2+イオン存在下、pH6.5、10分間保持の条件下で50℃まで安定;
(8)酵素活性に対する金属イオンの影響
Cu2+イオン、Hg2+イオン、Zn2+イオンにより阻害されるが、Fe2+イオン、Fe3+イオン、Al3+イオンにより実質的に阻害されない;
(9)精製酵素標品の比活性
電気泳動的に単一にまで精製した酵素標品において、1%(w/v)の可溶性澱粉溶液(pH6.5)中、40℃で反応させる条件下で、1分間に1μmolのD−グルコースに相当する還元力を生成する酵素量を活性1単位と定義した場合の酵素活性値と、牛血清アルブミンを標準蛋白としてブラッドフォード法により測定した蛋白質量とから算出される比活性が、900単位/mg−蛋白以上である。
【0014】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの酵素活性は、以下に示す方法により測定することができる。
<マルトトリオース生成アミラーゼの活性測定法>
1mMの塩化カルシウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH6.5)に溶解した2%(w/v)可溶性澱粉溶液2.0mlに、適宜希釈した酵素液2.0mlを加え、全量4.0ml、基質濃度1%(w/v)として、40℃で反応させ、生成するマルトトリオースを含む反応液の還元力をソモギー・ネルソン法で定量する。活性1単位は、上記条件下で、1分間に1μmolのD−グルコースに相当する還元力を生成する酵素量と定義する。
【0015】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの比活性は、酵素活性を上記活性測定法にて求め、酵素蛋白量を常法の、蛋白に対し色素を結合させ比色法により蛋白定量を行うブラッドフォード(Bradford)法により、牛血清アルブミンを標準蛋白として定量し、通常、酵素蛋白1mg当たりの酵素活性として求めることができる。本発明のマルトトリオース生成アミラーゼは、その電気泳動的に単一にまで精製した酵素標品について比活性を算出すると900単位/mg−蛋白以上の顕著に高い値を示すことを特徴とする。
【0016】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの給源としては、本発明者らが土壌より単離した微生物H65又はその変異株などが好適に用いられる。以下、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの産生能を有する微生物H65の同定試験結果を示す。なお、同定試験は、『放線菌の同定実験法』(日本放線菌学会編、日本学会事務センター、1985年)に準じて行った。
【0017】
<A:細胞形態>
(1) 無機塩・澱粉寒天培地、27℃
通常0.5×10μm以上の糸状菌。グラム陽性。よく伸長する基生菌糸を形成。白色の気菌糸を形成。
【0018】
<B:培養性質>
(1) 無機塩・澱粉寒天培地、27℃
形状: 円形 大きさは14日間で2乃至3mm
周縁: 全縁
隆起: 扁平状
光沢: なし
表面: ラフ
色調: 不透明、紫色
【0019】
<C:生理学的性質>
(1) メラニン様色素の生成 : 陽性
(2) 可溶性色素の生成 : 陽性(赤紫色)
(3) 澱粉の加水分解 : 陽性
(4) 生育可能NaCl濃度 : 0〜4%
(5) 細胞壁型 : I型
(6) 炭素化合物の利用 : D−グルコース、D−フルクトース、スクロース、サリシン
(7) 16S rDNA配列: ストレプトマイセス・シンナモネンシス(Streptomyces cinnamonensis)ATCC12308と99.2%の相同性を示す。
【0020】
以上の菌学的性質に基づいて、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)』第4巻(1989年)及び上記した『放線菌の同定実験法』を参考にして、公知菌との異同を検討した。その結果、本菌は、ストレプトマイセス・シンナモネンシス(Streptomyces cinnamonensis)に分類される微生物であることが判明した。これらの結果に基づき、本発明者らは、本菌を新規微生物ストレプトマイセス・シンナモネンシス H65と命名し、平成22年6月8日付で日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、受託番号 FERM P−21971として受託された。
【0021】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼを製造する上で、上記微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、マルトトリオース生成アミラーゼを産生しうる栄養培地であればよく、合成培地及び天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が生育に利用できる物であればよく、例えば、植物由来の澱粉やフィトグリコーゲン、動物や微生物由来のグリコーゲン、また、これらの部分分解物やD−グルコース、D−フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトールなどの糖質又は糖アルコール、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸又はそれらの塩も使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択できる。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素源及び、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素源を適宜用いることができる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などの塩類を適宜用いることができる。更に、必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなども適宜用いることができる。
【0022】
培養は、通常、温度15乃至37℃でpH5.5乃至10の範囲、好ましくは温度20乃至34℃でpH5.5乃至8.5の範囲から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は当該微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは10時間乃至150時間である。また、培養条件における培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないものの、通常は、0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、攪拌したりするなどの手段を適宜採用する。また、培養方式は、回分培養又は連続培養のいずれでもよい。
【0023】
このようにして微生物を培養した後、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼを含む培養物を回収する。マルトトリオース生成アミラーゼ活性は、主に培養物の除菌液に認められ、除菌液を粗酵素液として採取することも、培養物全体を粗酵素液として用いることもできる。培養物から菌体を除去するには公知の固液分離法が採用される。例えば、培養物そのものを遠心分離する方法、あるいは、プレコートフィルターなどを用いて濾過分離する方法、平膜、中空糸膜などの膜濾過により分離する方法などが適宜採用される。除菌液はそのまま粗酵素液として用いることができるものの、一般的には、濃縮して用いられる。濃縮法としては、硫安塩析法、アセトン及びアルコール沈殿法、平膜、中空膜などを用いた膜濃縮法などを採用することができる。
【0024】
更に、マルトトリオース生成アミラーゼ活性を有する除菌液及びその濃縮液を用いて、マルトトリオース生成アミラーゼを公知の方法により固定化することもできる。例えば、イオン交換体への結合法、樹脂及び膜などとの共有結合法・吸着法、高分子物質を用いた包括法などを適宜採用することができる。
【0025】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼは、粗酵素液をそのまま又は濃縮して用いることができるものの、必要に応じて、公知の方法によって、さらに分離・精製して利用することもできる。例えば、培養液の除菌液を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析した後、斯界において汎用される陰イオン又は陽イオン交換カラムクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどを用いて精製することにより、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼを電気泳動的に単一な酵素として得ることができる。
【0026】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼを用いてマルトトリオースを製造する際の原料基質としては、澱粉質が好適に用いられる。本発明でいう澱粉質とは、澱粉、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンなどや、それらをアミラーゼ又は酸などによって部分的に加水分解して得られるアミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトオリゴ糖などの澱粉部分分解物などを意味する。アミラーゼで分解した澱粉部分分解物としては、例えば、『ハンドブック・オブ・アミレーシズ・アンド・リレイテッド・エンザイムズ(Handbook of Amylases and Related Enzymes)(1988年)パーガモン・プレス社(東京)に記載されている、α−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーゼ(EC 3.2.1.98)などのアミラーゼを用いて澱粉、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンなどを分解して得られる部分分解物を用いることができる。更には、部分分解物を調製する際、プルラナーゼ(EC 3.2.1.41)、イソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)などの澱粉枝切酵素を作用させることも随意である。
【0027】
澱粉としては、例えば、とうもろこし、小麦、米など由来の地上澱粉であっても、また、馬鈴薯、さつまいも、タピオカなど由来の地下澱粉であっても使用することができ、好ましくは、これら澱粉を糊化、液化して得られる液化澱粉溶液を使用する。その澱粉の部分分解の程度は、デキストロース・エクイバレント(DE)で約20以下、望ましくは約12以下、更に望ましくは約5以下が好適である。
【0028】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼを澱粉質に作用させるに際し、澱粉質溶液の濃度は特に限定されないが、工業的には、濃度5%(w/v)以上が好適であり、この条件下で、マルトトリオースを有利に製造することができる。反応温度は反応が進行する温度、即ち55℃付近までで行えばよい。好ましくは30乃至45℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、4.5乃至8.0の範囲、好ましくはpH5.0乃至7.5の範囲に調整するのがよい。酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的とする酵素反応の進行により適宜選択すればよい。
【0029】
例えば、濃度10%(w/v)の澱粉又は澱粉部分分解物の水溶液に本発明のマルトトリオース生成アミラーゼを作用させることにより、通常、固形物当たりマルトトリオースを40質量%以上含有する糖化液を得ることができる。
【0030】
また、このマルトトリオース生成反応の際、他の酵素を更に同時併用して、糖化液中のマルトトリオース含量を増加させることも有利に実施できる。例えば、イソアミラーゼ、プルラナーゼなどの澱粉枝切酵素を併用することにより、糖化液のマルトトリオースの含量を、通常、固形物当たり60質量%以上に増加させることができる。
【0031】
上記の反応によって得られた反応液は、そのままマルトトリオース含有糖液として用いることができるものの、一般的には、マルトトリオース含有糖液はさらに精製して用いられる。精製方法としては、糖の精製に用いられる通常の方法を適宜採用すればよく、例えば、活性炭による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコール及びアセトンなど有機溶媒による分別、更には、適度な分離性能を有する膜による分離などの1種又は2種以上の精製方法が適宜採用できる。
【0032】
高純度のマルトトリオース含有糖質を得るための方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、目的物の含量を向上させたマルトトリオース又はこれを含む糖質を有利に製造することができる。この際、固定床方式、移動床方式、疑似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0033】
このようにして得られたマルトトリオース含有糖質、又はその含量を向上させた糖質は、通常、マルトトリオースを、固形物当たり、10質量%以上、望ましくは40質量%以上、さらに望ましくは60質量%以上含有しており、通常、これを濃縮することによりシラップ状製品とする。このシラップ状製品は、更に乾燥、粉砕することにより粉末状製品にすることも随意である。
【0034】
本発明の方法で得られるマルトトリオース又はこれを含む糖質は、シラップ又は粉末の形態で甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬部外品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0035】
さらに、本発明の方法で得られるマルトトリオース含有糖質は、さらに、常法によりラネーニッケルなど触媒の存在下で水素添加することにより、容易にマルトトリイトール含有糖アルコールに変換することができ、さらにシラップ状又は粉末状製品とすることも容易である。とりわけ、この方法で得られるマルトトリイトールは結晶性の糖アルコールであることから、マルトトリイトール含有糖アルコールを製造した後、晶析、分蜜などの工程を加えることにより、結晶マルトトリイトールを製造することも有利に実施できる。
【0036】
以下、実験により本発明を具体的に説明する。
【0037】
<実験1:マルトトリオース生成アミラーゼの生産>
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#4』、松谷化学工業株式会社製)1.5%(w/v)、酵母抽出物(商品名『ポリペプトン』、日本製薬株式会社製)0.5%(w/v)、酵母抽出物(商品名『酵母エキスS』、日本製薬株式会社製)0.1%(w/v)、リン酸二カリウム0.1%(w/v)、リン酸一ナトリウム・2水和物0.06%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.05%(w/v)、硫酸第二鉄・7水和物0.001%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.001%(w/v)、炭酸カルシウム0.3%(w/v)、及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコに50ml入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却した後、ストレプトマイセス・シンナモネンシス H65(受託番号 FERM P−21971)を接種し、27℃、230rpmで48時間回転振盪培養したものを種培養とした。
【0038】
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#4』、松谷化学工業株式会社製)3.6%(w/v)、酵母抽出物(商品名『ミースト顆粒S』、アサヒフード&ヘルスケア株式会社製)2.0%(w/v)、酵母抽出物(商品名『酵母エキスS』、日本製薬株式会社製)0.4%(w/v)、リン酸二カリウム0.1%(w/v)、リン酸一ナトリウム・2水和物0.06%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.05%(w/v)、硫酸第二鉄・7水和物0.001%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.001%(w/v)、炭酸カルシウム0.3%(w/v)、及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコ120本に50mlずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却した。次いで、種培養液を三角フラスコ1本につき約0.5ml接種し、27℃、230rpmで48時間回転振盪培養した。培養後、培養液を遠心分離(8,000rpm、30分間)して菌体を除き、培養上清(約5,300ml)を得た。得られた培養上清のマルトトリオース生成アミラーゼ活性を測定したところ、該酵素活性を約0.24単位/ml含んでいた。
【0039】
<実験2:マルトトリオース生成アミラーゼの精製>
実験1で得た培養上清(全活性約1,280単位)に、80%飽和となるように硫安を添加、溶解し、4℃、24時間放置することにより塩析した。生成した塩析沈殿物を遠心分離(13,500rpm、20分間)にて回収し、1mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH6.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、粗酵素液として約250mlを得た。粗酵素液中のマルトトリオース生成アミラーゼの全活性は約620単位であった。この粗酵素液を『セパビーズ(Sepabeads) FP−DA13』ゲル(三菱化学株式会社製)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー(ゲル容量200ml)に供した。マルトトリオース生成アミラーゼ活性は、1mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸(pH6.5)で平衡化した『セパビーズ FP−DA13』ゲルに吸着せずに、非吸着画分に溶出した。この活性画分を回収し、終濃度1Mとなるように硫安を添加して4℃、24時間放置した後、遠心分離して不溶物を除き、『ブチル−トヨパール(Butyl−Toyopearl) 650M』ゲル(東ソー株式会社製)を用いた疎水クロマトグラフィー(ゲル容量22ml)に供した。マルトトリオース生成アミラーゼ活性は、1M硫安及び1mM塩化カルシウムを含む20mM酢酸緩衝液(pH6.5)で平衡化した『ブチル−トヨパール 650M』ゲルに吸着し、硫安濃度1Mから0Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、硫安濃度約0.5M付近に溶出した。この活性画分を回収し、1mM塩化カルシウムを含む10mM MOPS緩衝液(pH6.5)に対して透析し、『スーパーデックス(Superdex) 75』ゲル(ジーイーヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィー(ゲル容量121ml)に供し、溶出液の活性画分を回収して精製酵素標品とした。この精製の各工程におけるマルトトリオース生成アミラーゼの全活性、比活性及び収率を表2に示す。なお、精製の各工程における蛋白量は、牛血清アルブミンを標準蛋白としたブラッドフォード法により定量した。
【0040】
【表1】

【0041】
得られたマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品を5乃至20%(w/v)濃度勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であり、純度の高い標品であった。本精製酵素標品の活性と蛋白質量から算出した本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの比活性は961単位/mg−蛋白であった。また、本精製酵素標品の280nmの吸光度(A280nm)当たりの活性は721単位であった。
【0042】
<実験3:マルトトリオース生成アミラーゼの性質>
【0043】
<実験3−1:分子量>
実験2の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(5乃至20%(w/v)濃度勾配)に供し、酵素の蛋白バンドの移動度と同時に泳動した分子量マーカー(ジーイーヘルスケア・ジャパン株式会社製)の移動度とを比較することにより分子量を測定したところ、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの分子量は53,000±10,000ダルトンであることが判明した。
【0044】
<実験3−2:酵素の至適pH及び至適温度>
実験2の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品を用いて、酵素の至適pH及び至適温度を活性測定法に準じて調べた。これらの結果を図1(至適pH)及び図2(至適温度)にそれぞれ示した。本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの至適pHは、40℃、20分間反応の条件下で5.5乃至6.5であり、至適温度は、pH6.5、20分間反応の条件下で、50℃であることが判明した。
【0045】
<実験3−3:酵素のpH安定性及び温度安定性>
実験2の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品を用いて、本酵素のpH安定性及び温度安定性を調べた。pH安定性は、本酵素を各pHの100mM緩衝液中で4℃、24時間保持した後、pHを6.5に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。温度安定性は、酵素溶液(10mM MOPS緩衝液、pH6.5)を1mM塩化カルシウム存在下で各温度に10分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。これらの結果を図3(pH安定性)及び図4(温度安定性)にそれぞれ示した。図3から明らかなように、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼは、pH6.0乃至7.0の範囲で安定であり、また、図4から明らかなように、50℃まで安定であることが判明した。
【0046】
<実験3−4:酵素活性に及ぼす金属イオンの影響>
実験2の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品を用いて、酵素活性に及ぼす金属イオンの影響を、濃度1mMの各種金属塩存在下で活性測定法に準じて調べた。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表4の結果から明らかなように、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼ活性は、Cu2+イオンで99%、Zn2+イオンで91%、Hg2+イオンで96%阻害され、また、Fe2+イオン、Fe3+イオン及びAl3+イオンでは実質的に阻害されないことが判明した。さらに金属イオンのキレート剤であるEDTAによって完全に阻害されることも判明した。
【0049】
<実験4:各種糖質への作用>
各種糖質を用いて、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの基質特異性を調べた。マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、α−、β−又はγ−シクロデキストリン、アミロース、可溶性澱粉、グリコーゲン、デキストラン又はプルランを含む水溶液を調製した。これらの基質溶液に、終濃度50mMとなるようにMOPS緩衝液(pH6.5)を、終濃度1mMとなるように塩化カルシウムをそれぞれ加えた後、実験2の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品を基質固形物1グラム当たり1単位ずつ加え、基質濃度を2%(w/v)になるように調整し、40℃で24時間作用させた。酵素反応前後の反応液中の糖質を調べるため、展開溶媒としてn−ブタノール、ピリジン、水混液(容量比6:4:1)を、また、薄層プレートとして『キーゼルゲル60』(アルミプレート、10×20cm、メルク社製)を用い、2回展開するシリカゲル薄層クロマトグラフィーを行い、糖質を分離した。硫酸−メタノール法にて発色させ、分離した糖質を検出し、それぞれの糖質に対する酵素作用の有無、強さの程度及び生成物を確認した。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3の結果から明らかなように、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼは、試験した糖質のうち、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、アミロースによく作用し、可溶性澱粉、グリコーゲンにも作用して、これら全ての基質からマルトトリオースを生成した。一方で、マルトテトラオースに作用させた場合、意外にも、生成物はマルトースであり、マルトトリオースをほとんど生成しなかった。これらの結果より、本酵素はグルコース重合度が5以上の澱粉質からマルトトリオースを生成し、マルトテトラオースからはマルトースを生成する基質特異性を有することが判明した。
【0052】
<実験5:澱粉質からのマルトトリオースの製造>
実験2の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品を用い、澱粉質からのマルトトリオース生成条件について検討した。
【0053】
<実験5−1:酵素作用量の影響>
基質として澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社製)を用い、基質濃度30%(w/v)、終濃度20mM酢酸緩衝液(pH6.0)と終濃度1mM塩化カルシウムを含む基質溶液を調製した。これに、実験2の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼ精製標品を固形物1グラム当たり5、10又は20単位加え、50℃、pH6.0で反応させた。各酵素作用量につき反応液を反応4、8、24、48及び72時間の時点で少量ずつ採取し、100℃で10分間熱処理して酵素を失活させ、下記のHPLC法にて反応液の糖組成を求めた。なお、酵素無添加で72時間保持した基質溶液の糖組成を対照とした。結果を表4に示す。
【0054】
<HPLC分析条件>
装置:『LC−10AD』(株式会社島津製作所製)
カラム:『Shodex SUGAR KS801』(昭和電工株式会社製)
溶離液:脱イオン水
流速:0.5ml/分
カラム温度:60℃
試料インジェクション:1%(w/v)溶液を20μl
検出:示差屈折計RID−10A(株式会社島津製作所製)
【0055】
【表4】

【0056】
表4に示すように、マルトトリオース生成アミラーゼを単独で上記澱粉部分分解物に作用させた場合、反応液固形物中のマルトトリオース含量は、最大約49質量%に達することが判明した。マルトトリオース含量が最大値に達した時点においてもグルコース重合度5以上の糖質が約34質量%残存し、これはリミットデキストリンと推察された。表4の結果から、酵素作用量を固形物1グラム当たり10単位とし、72時間作用させる条件で、酵素反応はほぼ終点に達すると考えられた。また、実験4に示すとおり、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼはマルトテトラオースをマルトトリオースとD−グルコースとに加水分解せず、マルトースを生成する酵素であるため、反応液糖組成においてD−グルコースの含量は1質量%未満と微量であった。
【0057】
<実験5−2:マルトトリオース生成に及ぼす澱粉枝切酵素の添加効果>
マルトトリオース生成アミラーゼ精製標品の酵素作用量を固形物1グラム当たり10単位とし、澱粉枝切酵素としてのイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当り5,000単位添加した以外は実験5−1と同じ方法で酵素反応を行い、実験5−1に記載のHPLC法にて反応液の糖組成を求めた。結果を表5に示す。なお、対照の基質溶液の糖組成は表4から転記した。
【0058】
【表5】

【0059】
表5の結果から明らかなように、マルトトリオース生成アミラーゼとイソアミラーゼを併用することにより、反応液固形物中のマルトトリオース含量は約62質量%まで増加し、澱粉枝切酵素の併用がマルトトリオースの増収に効果的であることがわかった。
【0060】
<実験5−3:マルトトリオース生成に及ぼす基質濃度の影響>
基質濃度を1、2.5、5、10、20又は30%(w/v)とし、反応時間を72時間とした以外は実験5−2と同じ方法で酵素反応を行い、実験5−1に記載のHPLC法にて反応液の糖組成を求めた。結果を表6に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
表6に示すように、本実験の条件下では、基質濃度が高くなるほど反応液固形物中のマルトトリオース含量は増加し、基質濃度10及び20%(w/v)で最大の糖組成当たり約65質量%に達したものの、基質濃度を30%(w/v)まで高めるとマルトトリオース含量は約62質量%まで減少した。
【0063】
<公知菌由来のマルトトリオース生成アミラーゼとの比較>
上記した本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの性質を、従来公知のマルトトリオース生成アミラーゼの性質、すなわち、非特許文献1、2及び3にそれぞれ開示されているストレプトマイセス・グリセウス NA−468由来の酵素、バチルス・ズブチリス G3由来の酵素、及び、ミクロバクテリウム・インペリアレ由来の酵素の性質とそれぞれ比較した結果を表7に示した。
【0064】
【表7】

【0065】
本発明のマルトトリオース生成アミラーゼは、至適pH、至適温度などの酵素的性質においては、従来公知の酵素とほぼ同等であるものの、その比活性は、非特許文献1記載の活性の定義(表7における「定義2」)に合わせて換算し、ストレプトマイセス・グリセウス NA−468由来の酵素の比活性と比較したところ、約5.3倍高い値であった。また、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼの比活性を、280nmにおける吸光度(A280nm)当たりの酵素活性(表7における「定義3」)にて、バチルス・ズブチリス G3由来酵素及びミクロバクテリウム・インペリアレ由来酵素の比活性とそれぞれ比較したところ、約70倍及び約13倍と顕著に高いものであった。このことは、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼが、最も少量の蛋白量でマルトトリオースを生産できることを意味している。
【0066】
また、上記の従来公知のマルトトリオース生成アミラーゼが、マルトテトラオースに作用させた場合に、マルトトリオースとD−グルコースを生成する酵素であるのに対し、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼは、マルトースを生成する点で全く異なっており、新規なマルトトリオース生成アミラーゼであるといえる。因みに、本発明のマルトトリオース生成アミラーゼが有するこの特性は、D−グルコース含量の低いマルトトリオース含有シラップを製造する上で、上記の従来公知の酵素よりも有利に利用できる。
【実施例1】
【0067】
<マルトトリオース生成アミラーゼ粗酵素液の調製>
ストレプトマイセス・シンナモネンシス H65(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受託番号 FERM P−21971)を実験1の方法に準じて、種培養した。続いて、容量30lのファーメンターに、澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#4』、松谷化学工業株式会社製)3.6%(w/v)、酵母抽出物(商品名『ミースト顆粒S』、アサヒフード&ヘルスケア株式会社製)2.0%(w/v)、酵母抽出物(商品名『酵母エキスS』、日本製薬株式会社製)0.4%(w/v)、リン酸二カリウム0.1%(w/v)、リン酸一ナトリウム・2水和物0.06%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物0.05%(w/v)、硫酸第二鉄・7水和物0.001%(w/v)、硫酸マンガン・5水和物0.001%(w/v)、炭酸カルシウム0.3%(w/v)、及び水からなる液体培地を約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液1%(v/v)を接種し、温度27℃、pH5.5乃至8.0に保ちつつ、72時間通気培養した。培養後、濾紙を用いて除菌濾過し、約16lの培養濾液を回収し、更に、その濾液をUF膜濃縮し、総活性2,240単位の本発明のマルトトリオース生成アミラーゼを含む濃縮酵素液約1lを回収した。
【実施例2】
【0068】
<マルトトリオース含有シラップの調製>
馬鈴薯澱粉を濃度約30質量%澱粉乳とし、これに濃度0.1質量%となるように炭酸カルシウムを加え、pH6.0に調整し、これにα−アミラーゼ(商品名『ターマミル60L』、ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を澱粉固形物グラム当り0.2質量%になるように加え、95℃で10分間反応させ、次いで120℃に20分間オートクレーブし、更に約40℃に急冷してDE約3の液化溶液を得、これに実施例1の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼを含む濃縮液を澱粉固形物1グラム当り10単位の割合になるように加え、pH6.0、温度50℃で72時間反応させた。その反応液を95℃に加熱し30分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して、固形物当りマルトトリオースを50.9%含む濃度70質量%のシラップを得た。
【0069】
本品は、温和な低甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、風味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、各種飲食物に有利に利用できる。
【実施例3】
【0070】
<マルトトリオース含有シラップの調製>
タピオカ澱粉を濃度約20質量%澱粉乳とし、これに濃度0.1質量%となるように炭酸カルシウムを加え、pH6.0に調整し、これにα−アミラーゼ(商品名『ターマミル60L』,ノボザイムズ・ジャパン株式会社販売)を澱粉固形物グラム当り0.2質量%になるように加え、95℃で10分間反応させ、次いで120℃に20分間オートクレーブし、更に約40℃に急冷してDE約3の液化溶液を得、これに実施例1の方法で得たマルトトリオース生成アミラーゼを含む濃縮液を澱粉固形物1グラム当り10単位とイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉固形物1グラム当り5,000単位の割合になるように加え、pH6.0、温度50℃で70時間反応させた。その反応液を95℃に加熱し30分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して、固形物当りマルトトリオースを65.4%含む濃度70質量%のシラップを得た。
【0071】
本品は、温和な低甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、風味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、各種飲食物に有利に利用できる。
【実施例4】
【0072】
<高純度マルトトリオース含有粉末の調製>
実施例3の方法で得たシラップを原糖液として、強酸性カチオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK−530、Na型、三菱化学株式会社製)を用いたカラム分画を行なった。樹脂を内径12cmのジャケット付きステンレス製カラム10本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長20mとした。カラム内温度60℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.13で流して分画し、溶出液の糖組成をHPLC法でモニターし、マルトトリオース含有画分を採取し、精製し、濃縮し、噴霧乾燥して、マルトトリオース含有粉末を固形物当たり収率約54%で得た。本品は、固形物当たり、マルトトリオースを83.3質量%、その他の糖質を16.7質量%含有していた。
【0073】
本品は、温和な低甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、風味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、各種飲食物に有利に利用できる。
【実施例5】
【0074】
<高純度マルトトリイトール含有粉末の調製>
実施例4の方法で得たマルトトリオース含有粉末を、常法に従ってラネーニッケルを触媒として用い、水素添加することにより還元性糖質を糖アルコールに変換し、常法にて精製、濃縮し、真空乾燥した後粉砕して、マルトトリイトール含有粉末を固形物当たり収率約90%で得た。本品は、固形物当たり、マルトトリイトール82.6質量%、マルチトール12.5質量%、及びその他の糖アルコールを4.9質量%含有していた。
【0075】
本品は、温和な低甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、風味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、各種飲食物に有利に利用できる。また、本品は、実質的に還元力を示さず、アミノカルボニル反応を起こし難い糖アルコールであることから、褐変などの懸念なく、各種組成物に配合することができる。
【実施例6】
【0076】
<結晶マルトトリイトールの製造>
実施例4の方法で得たマルトトリオース含有粉末を、常法に従ってラネーニッケルを触媒として用い、水素添加することにより還元性糖質を糖アルコールに変換した後、常法にて精製し、減圧下で加熱濃縮することにより濃度約80%とし、種晶として結晶マルトトリイトールを固形物当たり2%添加した後、徐冷することにより晶析した。得られたマスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、結晶を回収し、乾燥して結晶マルトトリイトールを固形物当たり収率約60%で得た。本品は、固形物当たり、マルトトリイトール98.2質量%、マルチトール1.4質量%、及びその他の糖アルコールを0.4質量%含有していた。本品はダイエット甘味料、保湿剤などとして各種組成物に配合することができる。
【実施例7】
【0077】
<ハードキャンディー>
濃度55%蔗糖溶液100質量部に実施例4の方法で得たマルトトリオース含有粉末50質量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸0.6質量部および適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。本品は歯切れ、呈味、風味とも良好で、蔗糖の晶出も起こさず、吸湿性少なく、ダレも起こさない安定で高品質のハードキャンディーである。
【実施例8】
【0078】
<加糖練乳>
原乳100質量部に実施例3の方法で得たマルトトリオース含有シラップ4質量部および蔗糖2重量を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して製品を得た。本品は、温和な甘味で風味も良く、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
【実施例9】
【0079】
<カスタードクリーム>
コーンスターチ100質量部、実施例2の方法で得たマルトトリオース含有シラップ100質量部、トレハロース含水結晶60質量部、蔗糖40質量部、および食塩1質量部を充分に混合し、鶏卵280質量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1、000質量部を徐々に加え、更に火にかけて攪拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、風味良好で、澱粉の老化も抑制された、高品質のカスタードクリームである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、マルトトリオース又はこれを含む糖質を、さらにはマルトトリイトール又はこれを含む糖アルコールを、シラップ、粉末などの形態で大量・安価に製造し提供することが可能となる。本発明は、食品分野をはじめとして、化粧品、医薬品など種々の利用分野における産業的意義はきわめて大きい。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の理化学的性質を有するマルトトリオース生成アミラーゼ:
(1)作用
澱粉質に作用させるとマルトトリオースを生成し、マルトテトラオースに作用させるとマルトースを生成する;
(2)基質特異性
澱粉、アミロース、アミロペクチン及びグリコーゲンに作用し、シクロデキストリン、デキストラン及びプルランには実質的に作用しない;
(3)分子量
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)において、53,000±10,000ダルトン;
(4)至適pH
40℃、20分間反応の条件下で5.5乃至6.5;
(5)至適温度
pH6.5、20分間反応の条件下で50℃;
(6)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で少なくともpH6.0乃至7.5の範囲で安定;
(7)温度安定性
1mM Ca2+イオン存在下、pH6.5、10分間保持の条件下で50℃まで安定;
(8)酵素活性に対する金属イオンの影響
Cu2+イオン、Hg2+イオン、Zn2+イオンにより阻害されるが、Fe2+イオン、Fe3+イオン、Al3+イオンにより実質的に阻害されない;
(9)精製酵素標品の比活性
電気泳動的に単一にまで精製した酵素標品において、1%(w/v)の可溶性澱粉溶液(pH6.5)中、40℃で反応させる条件下で、1分間に1μmolのD−グルコースに相当する還元力を生成する酵素量を活性1単位と定義した場合の酵素活性値と、牛血清アルブミンを標準蛋白としてブラッドフォード法により測定した蛋白質量とから算出される比活性が、900単位/mg−蛋白以上である。
【請求項2】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物に由来する請求項1記載のマルトトリオース生成アミラーゼ。
【請求項3】
ストレプトマイセス属に属する微生物が、ストレプトマイセス・シンナモネンシス(Streptomyces cinnamonensis) H65(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受託番号 FERM P−21971)又はその変異株である請求項1記載のマルトトリオース生成アミラーゼ。
【請求項4】
請求項1記載のマルトトリオース生成アミラーゼの産生能を有するストレプトマイセス属に属する微生物を培養し、得られる培養物からマルトトリオース生成アミラーゼを採取することを特徴とするマルトトリオース生成アミラーゼの製造方法。
【請求項5】
ストレプトマイセス属に属する微生物が、ストレプトマイセス・シンナモネンシス H65(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受託番号 FERM P−21971)又はその変異株である請求項4記載のマルトトリオース生成アミラーゼの製造方法。
【請求項6】
ストレプトマイセス・シンナモネンシス H65(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受託番号 FERM P−21971)又はその変異株である請求項1記載のマルトトリオース生成アミラーゼ産生能を有する微生物。
【請求項7】
澱粉質に、請求項1乃至3のいずれかに記載のマルトトリオース生成アミラーゼを作用させマルトトリオースを生成させる工程と、得られるマルトトリオース又はこれを含有する糖質を採取する工程とを含んでなることを特徴とするマルトトリオース又はこれを含有する糖質の製造方法。
【請求項8】
マルトトリオースを生成させる工程において、澱粉枝切酵素を併用することを特徴とする請求項7記載のマルトトリオース又はこれを含有する糖質の製造方法。
【請求項9】
澱粉質に、請求項1乃至3のいずれかに記載のマルトトリオース生成アミラーゼを作用させマルトトリオースを生成させる工程と、得られるマルトトリオース又はこれを含有する糖質を水素添加する工程と、得られるマルトトリイトール又はこれを含有する糖アルコールを採取する工程とを含んでなることを特徴とするマルトトリイトール又はこれを含有する糖アルコールの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−16309(P2012−16309A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155319(P2010−155319)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】