説明

マレイン酸のホモポリマーおよびその塩のスケール防止剤および粘着防止剤としての使用

【課題】マレイン酸ホモポリマーおよびその塩のスケール防止剤および粘着防止剤としての使用。
【解決手段】触媒系として過酸化水素水と次亜燐酸ナトリウムとを用い、次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸のモル比を0.2〜1、好ましくは0.35〜0.6にして、マレイン酸を重合するプロセスで得られるホモポリマーの、スケール防止剤および粘着防止剤としての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイン酸のホモポリマーおよびその塩のスケール防止剤および粘着防止剤としての使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スケール沈殿(entartage)とは水中に含まれる無機塩が温度および媒体中でのその濃度によって種々の硬さで壁に粘着する沈殿物の形で沈着する作用を意味する。この沈殿は多くの理由(バイオフィルムおよび腐食差の現象を悪化させる)から、工業プロセスの生産の観点、特にエネルギーおよび熱の観点で好ましくない。さらに、沈殿によって設備の運転が完全停止し、設備の洗浄やスケーリングで損傷した部品の交換が必要になることもある。
【0003】
最もよく見られるスケールはマグネシウムおよび炭酸カルシウムをベースにした沈着物によるものである。無機塩の沈殿を防止し、スケールの形成を減らすことが主たる機能を有する添加剤が古くから知られている。そうした添加剤は2つのグループすなわちホスホン酸塩のグループと、ゲル相クロマトグラフィまたはGPCで測定した分子量が低い(5000g/モル以下)の水溶性カルボン酸ポリマーのグループとに分かれる。本明細書で分子量は重量分子量を意味する。
【0004】
非特許文献1に記載されているように、ホスホン酸塩は結晶成長機構を妨げる作用をする。そうした製品は多くの文献に記載されており、その例として特許文献1〜特許文献7があるが、これらに限定されるものではない。
【0005】
これらの中で当業者に周知のカテゴリーは有機ホスホン酸、特にHEDPまたは1−ヒドロキシ−エチリデン−1,1−ジホスホン酸(C2872)をベースにしたものである。そのスケール低減剤としての効果は多くの研究の対象となっている。例としては非特許文献2〜5が挙げられる。
【0006】
しかし、ホスホン酸塩には2つの大きな欠点がある。第1の欠点は環境問題である。燐は湖沼および河川の富栄養化(すなわち、湖沼および河川を「窒息」させる)原因である。これは栄養分の過度の増加によるもので、それによって藻類および水性植物の生成量が増大し、酸素が過剰に消費される。第2の欠点は経済問題である。燐は現在限りある天然資源で、その市場価格は副生成物、例えば肥料の分野における燐酸塩の季節的需要に非常に左右される。従って、用いる燐の量をできるだけ制限することが重要である。
【0007】
当業者に周知なスケール防止剤の第2グループは低分子量(GPCで測定して一般に5000g/モル以下)のカルボン酸ポリマーのグループである。最も普及しているのはアクリル酸ベースおよびマレイン酸ベースのホモポリマーおよびコポリマーである。これらは、フリーラジカル源の存在下、水または適当な有機溶剤中でモノマーを重合して得られる。多くの合成方法が存在する。例としては特許文献8〜17が挙げられる。これらの文献の差は、ベースをマレイン資源にするかアクリル資源にするか、ホモポリマーかコポリマーか、任意成分のコモノマーをいかに選択するか、合成条件、例えば反応媒体、フリーラジカル源、温度等をいかに選択するかである。
【0008】
しかし、有機ホスホン酸資源にするか、カルボン酸ポリマーにするかに関わりなく、これら低分子量の化合物は完全に満足のいくものではない。それは、当業者が求めているものがスケール形成防止能力の他に、壁に対する粘着防止能力にあるためである。この第1の特性はテストポリマーの存在下で特定の塩の組成物を含む水中に生成した沈殿物の質量を測定して求め、第2の特性は壁に粘着する沈殿物の質量を測定して評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1 392 610号公報
【特許文献2】欧州特許第1 392 609号公報
【特許文献3】欧州特許第1 351 889号公報
【特許文献4】欧州特許第1 152 986号公報
【特許文献5】米国特許第5 772 893号明細書
【特許文献6】米国特許第5 298 221号明細書
【特許文献7】米国特許第5 221 487号明細書
【特許文献8】欧州特許第0 058 073号公報
【特許文献9】欧州特許第0 108 909号公報
【特許文献10】欧州特許第0 441 022号公報
【特許文献11】欧州特許第0 491 301号公報
【特許文献12】欧州特許第0 561 722号公報
【特許文献13】欧州特許第0 569 731号公報
【特許文献14】欧州特許第0 818 423号公報
【特許文献15】米国特許第5 175 361号公報
【特許文献16】米国特許第5 244 988号明細書
【特許文献17】欧州特許第0 819 704 B1号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「ホスホン酸塩によるスケール防止機構」(議事録、国際水会議、西ペンシルベニア技術協会(1983年)、第44回、26〜34)
【非特許文献2】「量子化学法を用いたATMPおよびHEDPのスケーリング防止能力に関する研究」(Huagong Shikan(2008),22(2),pp-1-5)
【非特許文献3】「腐食防止剤PBTCA、HEDPおよびATMPの研究」(Cailiao Kexue Yu Gongyi (2006),14(6),pp-608-611)
【非特許文献4】「水晶振動子マイクロバランスを用いたチャネルフローセル内のHEDPによるスケール防止の研究」(Electrochimica Acta(2001), 46(7), pp.973-985)
【非特許文献5】「水性媒体中の炭素鋼の腐食防止剤としての有機ホスホン酸塩HEDPおよびPBTAの挙動」(Revista Iberoamericana de Corrosion y Proteccion (1990),21(5),pp.187-91)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、上記の特性を最適に提供するポリマーの発見を続け、従来のポリマーが満足のいくものではなかったことを証明した。すなわち、従来のポリマーが上記文献でも示されているようにスケール防止剤としては有効であるが、その粘着防止特性は有効ではなかった。
【0012】
本発明者はさらに、公知の多くのポリマーの中で、この問題を解決する全く独特なクラス、すなわち、以下で説明するように、過酸化水素水と次亜燐酸ナトリウムとをベースにした系を触媒として使用した特定の方法で得られるマレイン酸のホモポリマーのクラスを同定した。
【0013】
これらのポリマーの沈殿防止性は他の触媒系を用いて得られたアクリル酸およびマレイン酸のホモポリマーおよびコポリマーの沈殿防止性よりも高い。本発明の一つの変形例では、スケール防止性はHEDPと同じレベルであるが、粘着防止性はHEDPよりはるかに向上することも示される。換言すれば、この変形例ではこれまでバランスしなかったスケール防止性と粘着防止性とをバランスさせることができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、触媒系として過酸化水素水と次亜燐酸ナトリウムとを用い、次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸のモル比を0.2〜1、好ましくは0.35〜0.6にして、マレイン酸を重合するプロセスで得られるホモポリマーの、スケール防止剤および粘着防止剤としての使用にある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記プロセスの一部は特許文献17に開示されているが、燐を含む化合物と被重合モノマー化合物とのモル比は0.005〜0.49であり、この比は本発明の比とは異なる。
【0016】
さらに、本発明と特許文献17に開示の発明とが「重複」することはない。すなわち、この重複があるか否かは、両者の生成物がその化学構造中に重複領域を有するか否かを調べる前に、先ず、両方の発明が対象生成物に対して同じ機能をするか否かで決まる。本発明はその場合に該当せず、本発明はスケール防止剤および粘着防止剤のダブルの機能剤としてのポリマーの使用であり、これは特許文献17には開示がない。
【0017】
さらに、上記特許文献17はマレイン酸のコポリマーまたはアクリル酸のホモポリマーまたはコポリマーに焦点が合わされ、この文献で請求され且つ実証されている全てはこれらに関するもので、マレイン酸のホモポリマーに関する記載は全くない。さらに、この文献およびその他の文献では、スケール防止作用と粘着防止作用とを最適にバランスさせるために次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸のモル比を0.35〜0.6の好ましい範囲に選択することは奨励されていない。
【0018】
この結果がHEDPの場合よりはるかに低い燐の重量比率で得られるということは重要である。燐はHEDPでは質量の30%を占めるが、本発明ポリマー(次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸のモル比=1の場合)では質量のわずか14%である。この質量比率は大幅に低下され、本発明の好ましい変形例では7.1〜10.4%である。
【0019】
本発明の第1の対象は、触媒系として過酸化水素水と次亜燐酸ナトリウムとを用い、次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸のモル比を0.2〜1、好ましくは0.35〜0.6にして、マレイン酸を重合するプロセスで得られるホモポリマーのケール防止剤かつ粘着防止剤の両方の機能剤としての使用にある。
【0020】
マレイン酸を重合するプロセスで得られる本発明のホモポリマーの使用のさらに他の特徴は、上記プロセスを、過酸化水素水をフリーラジカルおよびその他任意のフリーラジカル発生剤を分解する試薬の非存在下且つペルオキシ塩またはその他の移動剤の非存在下で行うことにある。
【0021】
本発明の第1変形例では、マレイン酸の重合プロセスで得られる上記ホモポリマーの使用のさらに他の特徴は、必要量の次亜燐酸ナトリウムの全て重合反応中に水のみを収容した反応器の底部(pied)に添加することにある。
【0022】
本発明の第2変形例では、無水マレイン酸の重合プロセスで得られる上記ホモポリマーの使用のさらに他の特徴は、次亜燐酸ナトリウムの必要量の全部または一部を、マレイン酸の全部または一部の存在下で、酸性状態または塩基溶液を用いて部分的または完全に中和した状態で、重合開始前に、反応器の底部へ添加し且つ過酸化水素水を分解させる金属および/または金属塩を添加せずに上記のホモポリマーを得る反応を行う点にある。
【0023】
本発明の使用のさらに他の特徴は、上記ホモポリマーの気相クロマトグラフィ(GPC)で測定した分子量が400g/モル〜2000g/モル、好ましくは400〜900g/モルである点にある。
【0024】
マレイン酸のホモポリマーの使用のさらに他の特徴は、洗浄組成物、好ましくは食洗機用洗浄剤および水処理用組成物の中から選択される水溶性配合物で用いられることにある。
【0025】
本発明は以下の実施例からより良く理解できよう。本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1
この実施例では各種の洗浄性ポリマーの洗浄剤用途での使用を説明する。各ポリマーのスケール防止性および沈殿スケールに対する粘着防止性を測定した。
ドイツの洗浄剤製造業組合によって1999年11月に公開された下記文献に基づいた本発明者の定義した手順に従ってポリマーをテストする。
【非特許文献6】「食洗機用洗浄剤の洗浄性能を確かめる方法」(ドイツの洗浄剤製造業組合(IKW-Industriverband Korperpflege und Waschmittel e.V)によって1999年11月に公開)
【0027】
この文献の1頁には食洗に使用可能な平均洗浄剤組成物が挙げられている。
下記の洗浄剤組成物を選択する:
メタケイ酸ナトリウム 48.4g
炭酸ナトリウム 48.4g
テストポリマー 3.2g
【0028】
本発明者は、日々の変化にさらされる天然水を用いるより、硬度を可溶性カルシウムおよびマグネシウム塩で増強し且つアルカリ度を炭酸水素ナトリウムで高めた合成水を用いた。
【0029】
用いた溶液は下記組成を有する:
カルシウム塩およびマグネシウム塩の溶液:
二水和塩化カルシウム 6.62g/L
六水和塩化マグネシウム 3.05g/L
炭酸水素ナトリウム溶液:
炭酸水素ナトリウム 0.6g/L
【0030】
12.5%の上記混合物を含む洗浄剤混合物溶液。
初めに入念に洗浄および乾燥させたガラスフラスコ内で秤量してテストの準備をする:
蒸留水 425g
カルシウム塩とマグネシウム塩の溶液 25g
洗浄剤混合物の溶液 25g
炭酸水素ナトリウム溶液 25g
【0031】
均質化したフラスコを密封し、毎分100回の往復動で撹拌し、80℃に加熱された湯の浴中に入れる。2時間のテストの後、フラスコを浴から取り出して室温で放冷する。
次いで、水のサンプルを取り、これを0.45マイクロメータフィルターに通し、沈殿塩を除去する。この濾過サンプルの硬度をEDTA錯滴定を用いて分量測定して溶液中に残るアルカリ土類塩の質量を定量化し、テスト中に生成した沈殿物の質量を得る。
次いで、フラスコを空にし、蒸留水で入念に洗浄する。このとき、壁に粘着したスケールを機械的に除去しないよう注意する。次いで、各フラスコを2%硝酸溶液で洗浄し、洗浄で得られた溶液を慎重に回収し、溶液の硬度をEDTA錯滴定分量測定を用いて測定する。この操作によってテスト中に生成した粘着スケールの質量を決定できる。
得られた2つの結果を用いて定量化する:
テストポリマーの沈殿防止性(生成したスケールの質量で表される)
テストポリマーの粘着防止性(壁に粘着したスケールの質量で表される)
【0032】
テスト番号1
このテストは対照例(すなわちポリマーを用いないテスト)に対応する。
【0033】
テスト番号2
このテストは本発明ではない場合を示す。このテストでは、本発明触媒系とは異なる触媒系を用いて得られるアクリル酸とエチルアクリレートとのコポリマーで実施する。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で0.015gの硫酸鉄と176gの水とから成る底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。73℃に加熱したこの底部チヤージに下記のものをポンプを用いて2時間かけて添加する:
(1) 第1ビーカー中の388gのアクリル酸と35gのエチルアクリレートと10gの水との混合物、
(2) 第2ビーカー中の3.43gの過硫酸ナトリウムを36gの水に溶かしたもの、
(3) 第3ビーカー中の179gの40%重亜硫酸ナトリウム溶液。
次いで、生成物を70℃で1時間加熱した後、水酸化ナトリウムでpH=7に中和する。
【0034】
テスト番号3
このテストは本発明でない場合を示す。このテストでは、本発明の触媒系とは異なる触媒系で得られるアクリル酸のホモポリマーを用いる。
このポリマーはアクリル酸、過酸化水素、鉄塩および溶剤を用いる当業者に周知のプロセス(いわゆるフェントン合成)で得られる。
撹拌、温度計および冷却系を備えた0.5リットルのガラス反応器内で0.27gの硫酸鉄と112gのイソプロピルアルコールと0.5gの硫酸ヒドロキシルアミンとから成る底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。この底部チヤージを81℃に加熱し、下記のものをポンプを用いて2時間かけて添加する:
(1) 第1ビーカー中の244gのアクリル酸、
(2) 第2ビーカー中の9gの硫酸ヒドロキシルアミンを67gの水に溶かしたもの、
(3) 第3ビーカー中に130倍量の過酸化水素水で調製した39gの溶液。
次いで、この生成物を80℃で1時間加熱する。
イソプロパノールを蒸留し、蒸留中に水で置換した後、ポリマーを50%水酸化ナトリウムで中和し、48%の濃度でpH7を達成する。その分子量(重量)は1900g/モルである。
【0035】
テスト番号4
このテストは本発明でない場合を示す。このテストでは、本発明触媒系およびテスト番号3で用いたものとは異なる触媒系で得られるアクリル酸のホモポリマーを用いる。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で0.11gの硫酸鉄と0.015gの硫酸銅と214gの水とから成る底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。この底部チヤージを95℃に加熱し、下記のものをポンプを用いて2時間かけて添加する:
(1) 第1ビーカー中の303gのアクリル酸、
(2) 第2ビーカー中の26gの次亜燐酸ナトリウムを100gの水に溶かしたもの、
(3) 第3ビーカー中の130倍量の19gの過酸化水素水を35gの水に溶かしたもの。
次いで、この生成物を95℃で1時間加熱し、次いで水酸化ナトリウムでpH=7に中和する。
【0036】
テスト番号5
このテストも本発明でない場合を示す。このテストでは本発明触媒系およびテスト番号3およびテスト番号4で用いたものとは異なる触媒系で得られるアクリル酸のホモポリマーを用いる。
撹拌、温度計および冷却系を備えた1リットルのガラス反応器内で0.011gの硫酸鉄と124gの水とから成る底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。この底部チヤージを80℃に加熱し、下記のものをポンプを用いて2時間かけて添加する:
(1) 第1ビーカー中の270gのアクリル酸の混合物、
(2) 第2ビーカー中の3.3gの過硫酸ナトリウムを60gの水に溶かしたもの、
(3) 第3ビーカー中の114gの重亜硫酸ナトリウムの40%溶液。
次いで、この生成物を80℃で1時間加熱し、次いで水酸化ナトリウムでpH=7に中和する。
【0037】
テスト番号6
このテストも本発明でない場合を示す。このテストでは本発明触媒系を用い、本発明の条件下で得られたアクリル酸のホモポリマーを用いる。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で144gのアクリル酸と144gの水酸化ナトリウムの50%溶液と82gの次亜燐酸ナトリウムと130gの水とから成る底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。この底部チヤージの温度を90℃に上げ、130倍量の20gの過酸化水素水と、100gの水とを含むチヤージを調製する。このチヤージを、93℃に加熱した反応器に添加する。2時間後、無色透明の溶液中にポリマーが得られる。得られた生成物は分子量が1035g/モルの無色透明な生成物である。次亜燐酸/アクリル酸モル比は0.386である。
【0038】
テスト番号7
このテストも本発明でない場合を示す。このテストでは本発明触媒とは異なる特許文献18に開示の方法で作った触媒系で得られた無水マレイン酸のホモポリマーを用いる。
【特許文献18】英国特許第1 411 1063号公報
【0039】
テスト番号8
このテストも本発明でない場合を示し、HEDPを用いた場合である。
【0040】
テスト番号9
このテストは本発明である。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で98gの無水マレイン酸と、144gの水酸化ナトリウムの50%溶液と、81.6gの次亜燐酸ナトリウムと、106gの水とから成る底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。この底部チヤージの次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸モル比は0.77に等しい。底部チヤージの温度を沸点に上げて130倍量の20gの過酸化水素水と、100gの水とを含む底部チヤージを調製する。この底部チヤージを沸点に加熱した反応器に添加する。2時間後、無色透明の溶液中にポリマーが得られる。得られた生成物は分子量(重量)が560g/モルの無色透明の生成物である。
【0041】
テスト番号10
このテストも本発明である。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で、底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。この底部チヤージは196gの無水マレイン酸と、288gの水酸化ナトリウムの50%溶液と、60gの次亜燐酸ナトリウムと、100gの水とから成る。、次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸モル比は0.28に等しい。チヤージの温度を沸点に上げし130倍量の20gの過酸化水素水と、100gの水とを含むチヤージを調製する。このチヤージを沸点に加熱した反応器に添加する。2時間後、無色透明の溶液中にポリマーが得られる。得られた生成物は分子量(重量)が680g/モルの無色透明の生成物である。
【0042】
テスト番号11
このテストも本発明である。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で、底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。このチヤージは110gの無水マレイン酸と、144gの水酸化ナトリウムの50%溶液と、106gの次亜燐酸ナトリウムと、106gの水とから成る。次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸モル比は0.95に等しい。チヤージの温度を沸点に上げて130倍量の20gの過酸化水素水と、100gの水とを含むチヤージを調製する。このチヤージを沸点に加熱した反応器に添加する。2時間後、無色透明の溶液中でポリマーが得られる。得られた生成物は、分子量(重量)が445g/モルの無色透明の生成物である。
【0043】
テスト番号12
このテストも本発明である。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。これは98gの無水マレイン酸と、144gの水酸化ナトリウムの50%溶液と、81.6gの次亜燐酸ナトリウムと、106gの水と、0.015gの硫酸銅(CuSO4*5H2O)と、0.107gの硫酸鉄(FeSO4*7H2O)とから成る。次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸モル比は0.77に等しい。チヤージの温度を沸点に上げて130倍量の20gの過酸化水素水と、100gの水とを含むチヤージを調製する。このチヤージを沸点に加熱した反応器に添加し、2時間後、無色透明の溶液中でポリマーが得られる。得られた生成物は分子量(重量)が465g/モルの無色透明の生成物である。
【0044】
テスト番号13
このテストも本発明である。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。このチヤージは196gの無水マレイン酸と、288gの水酸化ナトリウムの50%溶液と、126gの次亜燐酸ナトリウムと、130gの水とから成る。次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸モル比は0.59に等しい。チヤージの温度を沸点に上げて130倍量の20gの過酸化水素水と、100gの水とを含むチヤージを調製する。このチヤージを沸点に加熱した反応器に添加し、2時間後、無色透明の溶液中でポリマーが得られる。得られた生成物は分子量(重量)が610g/モルの無色透明の生成物である。
【0045】
テスト番号14
このテストも本発明である。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。これは196gの無水マレイン酸と、288gの水酸化ナトリウムの50%溶液と、106gの次亜燐酸ナトリウムと、130gの水とから成る。次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸モル比は0.50に等しい。チヤージの温度を沸点に上げて130倍量の20gの過酸化水素水と、100gの水とを含むチヤージを調製する。このチヤージを沸点に加熱した反応器に添加し、2時間後、無色透明の溶液中でポリマーが得られる。得られた生成物は、分子量(重量)が640g/モルの無色透明の生成物である。
【0046】
テスト番号15
このテストも本発明である。
撹拌、温度計および冷却系を備えた2リットルのガラス反応器内で底部チヤージ(charge, pied cuve)とよばれるチヤージを室温で調製する。これは200gの無水マレイン酸と、186.3gの水酸化ナトリウムの50%溶液と、82.5gの次亜燐酸ナトリウムと、328.7gの水とから成る。次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸モル比は0.38に等しい。チヤージの温度を沸点に上げて130倍量の29.2gの過酸化水素水と、42.8gの水とを含むチヤージを調製する。このチヤージを沸点に加熱した反応器に添加し、2時間後、ポンプを洗浄し、無色透明の溶液中にポリマーが得られる。得られた生成物は、分子量(重量)が715g/モルの無色透明の生成物である。
【0047】
上記の各テストでは最初にスケール防止効果を調べた。[表1]には上記テストでスケール防止効果の高いもの、すなわち生成したスケールの質量が小さいものから順に並べた。
【表1】

【0048】
ホモM:マレイン酸のホモポリマー
ホモAA:アクリル酸のホモポリマー
コポAA/EA:アクリル酸とエチルアクリレーとのコポリマー
モル比:次亜燐酸ナトリウムとマレイン酸とのモル比
【0049】
2つの異なるグループが存在する:
グループ1:高いスケール防止効果が得られるグループ(すなわちスケールの質量が120mg以下である本発明のホモポリマー)
グループ2:並みのスケール防止作用が得られるグループ(すなわち、生成したスケールの質量が120mg以上である従来技術のアクリル酸およびマレイン酸のポリマー)
【0050】
この結果は(1)無水マレイン酸のホモポリマーを選択し、(2)本発明の特定触媒系を極めて正確な比率で選択することでえられる。
特に下記の点に注目すべきである:
(1)本発明と異なる触媒系で作ったマレイン酸のホモポリマーは効果が低い(テスト番号7)
(2)本発明と同じ触媒系を同じ比率で作ったアクリル酸のホモポリマーも同様に効果が低い(テスト番号6)。
【0051】
HEDPは最も有効な生成物であるが、その燐濃度は過度に高い(生成物の質量の30%を占める)ため、当業者を満足させることはできない。
さらに、スケール防止効果がほぼ同じグループ2の生成物の中で、粘着防止性の点でより有効なものを求めた。[表2]では対応するテストを粘着防止効果の高いもの、すなわち、壁に粘着したスケールの質量の小さいものから順に並べ、さらに、HEDPで得られた結果もを示した。
【表2】

【0052】
この表から、本発明の好ましい変形例に対応するテスト(次亜燐酸ナトリウムとマレイン酸とのモル比が0.35〜0.6)ではるかに良い結果が得られ、他の本発明ポリマーだけでなく、HEDPと比べてもはるかに良い結果が得られることが明らかである。
【0053】
実施例2
この実施例では、種々の洗浄性ポリマーの水処理用途での使用を説明する。沈殿スケールに対する各ポリマーのスケール防止性および粘着防止性を測定した。
下記の特徴を有する天然水を用い、本発明者の定義した手順でポリマーをテストした:
カルシウム−マグネシウム硬度=420ppmの炭酸カルシウム当量、
アルカリ度=290ppmの炭酸カルシウム当量。
【0054】
この天然水に2活性ppmのテストポリマーと添加剤を添加し、密閉されたガラスフラスコに保存し、80℃の温度に撹拌した湯浴中に60分間入れ、その後、フラスコを浴から取り出し、室温に放冷する。
次いで、水のサンプルを取り、これを0.45マイクロメータフィルターに通し、沈殿塩を除去する。EDTA錯滴定を用いてこの濾過サンプルの硬度の分量を測定して溶液中のアルカリ土類塩の残留率を定量化し、テスト中の沈殿物の生成率を得た。
次いで、フラスコを空にし、蒸留水で入念に洗浄する。このとき、壁に粘着したスケールを機械的に除去しないよう注意する。次いで、各フラスコを2%硝酸溶液で洗浄し、洗浄で得られた溶液を慎重に回収し、溶液の硬度をEDTA錯滴定分量測定で測定した。この操作によってテスト中に生成した粘着スケールの量を決定できる。
得られた2つの結果を用いて下記の性能を定量化する:
テストポリマーの沈殿防止性(生成したスケールの質量で表される)
テストポリマーの粘着防止性(壁に粘着したスケールの質量に基づく)
【0055】
この実施例では対照例(従来技術)として市販のHEDPのみをテストした。
本発明では、好ましい変形例に対応するポリマーのみ、すなわち上記実施例のテスト番号12、13、14で用いた生成物をテストした。結果は[表3]に示した。ポリマーのスト番号は上記実施例と同じである。
【表3】

【0056】
この結果から、本発明のポリマーの優位性と、次亜燐酸ナトリウムとマレイン酸とのモル比として0.35〜0.6の範囲を選択する有益性は明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒系として過酸化水素水と次亜燐酸ナトリウムとを用い、次亜燐酸ナトリウム/マレイン酸のモル比を0.2〜1、好ましくは0.35〜0.6にして、マレイン酸を重合するプロセスで得られるホモポリマーの、スケール防止剤および粘着防止剤としての使用。
【請求項2】
マレイン酸を重合するプロセスを過酸化水素水をフリーラジカルおよびその他任意のフリーラジカル発生剤に分解する試薬の非存在下で且つ任意のペルオキシ塩または他の移動剤の非存在下で行う請求項1に記載の使用。
【請求項3】
マレイン酸を重合するプロセスを、必要量の全ての次亜燐酸ナトリウムを重合反応中に、水のみを収容した反応器の底部へ添加して行う請求項2に記載の使用。
【請求項4】
次亜燐酸ナトリウムの必要量の全部または一部を、マレイン酸の全部または一部の存在下で、酸性状態または塩基溶液を用いて部分的または完全に中和した状態で、重合開始前に、反応器の底部へ添加し且つ上記モポリマーを得る反応を過酸化水素水を分解させる金属および/または金属塩を添加せずに行う請求項2に記載の使用。
【請求項5】
気相クロマトグラフィ(GPC)で測定した上記ホモポリマーの分子量が400g/モル〜2000g/モル、好ましくは400〜900g/モルである請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
洗浄組成物、好ましくは食洗機用洗浄剤および水処理用組成物の中から選択される水溶性配合物での請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2012−525242(P2012−525242A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506590(P2012−506590)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000682
【国際公開番号】WO2010/125434
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(398051154)コアテツクス・エス・アー・エス (35)
【Fターム(参考)】