マンガン窒化物結晶、及び負の熱膨張材料
【課題】広い温度範囲において適用可能であり、かつ容易に使用することができる熱膨張抑制剤ならびにこれを用いたゼロまたは負の熱膨張材料を提供する。
【解決手段】少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含む熱膨張抑制剤。ならびに、ガラス、樹脂、セラミック、金属又は合金(但しこれらはマンガン窒化物結晶ではない)に、上記熱膨張抑制剤を添加又は混合してなる、負の熱膨張材料を採用する。
【解決手段】少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含む熱膨張抑制剤。ならびに、ガラス、樹脂、セラミック、金属又は合金(但しこれらはマンガン窒化物結晶ではない)に、上記熱膨張抑制剤を添加又は混合してなる、負の熱膨張材料を採用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度上昇による熱膨張を抑制するための、熱膨張抑制剤ならびにこれを用いたゼロまたは負の熱膨張材料、熱膨張抑制方法、および熱膨張抑制剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、物質は温度上昇に伴って熱膨張することが知られている。そのため、温度変化が起こるデバイスに使用する部品については種々の問題が起こる。
そこで、これまでに、各種の温度による熱膨張抑制法が検討されている。例えば、特開2003−146693号公報には、−40℃〜100℃の温度範囲において−1×10-6/℃〜−12×10-6/℃の負の線膨張率を有するセラミックスあるいはガラスセラミックスを採用することが記載されている。そして、このようなセラミックスあるいはガラスセラミックスとして、β−石英固溶体またはβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶とするセラミックスあるいはガラスセラミックス、またはZrおよびHfの少なくともいずれかを含むリン酸タングステン酸塩またはタングステン酸塩を主結晶とする多結晶体セラミックスが挙げられている。
しかしながら、実際に使用するには種々の条件が必要であり、熱膨張抑制剤としては、充分と言えるものではない。
【0003】
また、これまでに、化学式Mn3XN(XはNi、Zn、GaまたはAgである。)で表されるペロフスカイト型マンガン窒化物が、反強磁性秩序の形成にともない、低温磁気秩序相で格子が大きくなる現象(磁気体積効果)を示すことが知られている(非特許文献1:J. P. Bouchaud et al., C. R. Acad. Sc. Paris C 262, 640 (1966).、非特許文献2:J. P. Bouchaud, Ann. Chim. 3, 81 (1968).、非特許文献3:D. Fruchart et al., Solid State Commun. 9, 1793 (1971).、非特許文献4:R. Fruchart et al., J. Phys. (Paris) 32, C 1−982 (1971).、非特許文献5:D. Fruchart et al., Proc. Intern. Conf. Magn. 4, 572 (1974).、非特許文献6:Ph. l'Heritier et al., Mat. Res. Bull. 14, 1089 (1979).、非特許文献7:Ph. l'Heritier et al., Mat. Res. Bull. 14, 1203 (1979).、非特許文献8:W. S. Kim et al., Phys. Rev. B 68, 172402 (2003).)。しかし、この現象は鋭い1次の相転移で、おおむね転移幅が1℃以内と狭く、工業的な熱膨張抑制剤として使用することはできないものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. R. Acad. Sc. Paris C 262, 640 (1966).
【非特許文献2】Ann. Chim. 3, 81 (1968).
【非特許文献3】Solid State Commun. 9, 1793 (1971).
【非特許文献4】J. Phys. (Paris) 32, C 1−982 (1971).
【非特許文献5】Proc. Intern. Conf. Magn. 4, 572 (1974).
【非特許文献6】Mat. Res. Bull. 14, 1089 (1979).
【非特許文献7】Mat. Res. Bull. 14, 1203 (1979).
【非特許文献8】Phys. Rev. B 68, 172402 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、従来の熱膨張抑制剤より、著しく適用範囲が広く、かつ、容易に使用することができる熱膨張抑制剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、鋭意検討した結果、驚くべきことに、マンガン窒化物の原子置換を行うことにより、10℃以上の温度域にわたって、緩やかな負の熱膨張が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下の手段により達成された。
(1)マンガン窒化物結晶を含む熱膨張抑制剤。
(2)少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
(3)下記一般式(1)で表される組成からなる結晶であり、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するマンガン窒化物を含む、(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(1)
Mn4-XAXB
(一般式(1)中、Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4(但し、xは整数ではない)であり、または、Aは、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか2種以上の原子からなり、かつ、前記原子の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4であり、さらに、Bは、一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
(4)前記一般式(1)が、下記一般式(2)で表される(3)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA22はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上であり(ただし、A21およびA22は、同一ではなく、また、Mnでない)、0≦x2<1、0<y2<1、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
(5)下記一般式(2−2)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2−2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A22はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA21とA22は同一でない)、0≦x2<1、0.35<y2<0.8、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(6)下記一般式(2−3)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2−3)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−3)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、x2は0であり、0.35<y2<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(7)下記一般式(2−4)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2−4)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−4)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、0<x2<0.2、0.35<y2<0.7であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(8)前記一般式(1)が、下記一般式(3)で表される(3)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(3)
Mn3-x3A31y3A321+x3-y3B
(一般式(3)中、A31は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA32はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上の原子からなり(ただし、A31およびA32は、同一ではなく、また、Mnでない)、0<x3<1、0<y3<2、かつ、1+x3−y3>0であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
(9)下記一般式(4)で表される組成からなるマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(4)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4)中、A41は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A42はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA41とA42は同一でない)、A43は、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(10)下記一般式(4−2)で表される組成からなるマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(4−2)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4−2)中、A41は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A42はGeまたはSnであり、A43は、Fe、Taのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(11)下記一般式(5)で表される組成からなるマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(5)
Mn4-x5A51x5B
(一般式(5)中、A51は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、0.6<x5<1.3(但し、x5は1ではない)であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(12)前記マンガン窒化物は、ペロフスカイト型である(1)および(3)〜(11)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(13)少なくとも、下記一般式(10)で表される化合物の2種以上を、焼結してなるペロフスカイト型マンガン窒化物を含み、かつ、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(10)
Mn3A1N
(一般式(10)中、A1は、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかである。)
(14)少なくとも、Mn2Nと、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか、またはこれらの窒化物から選択される2種以上を焼結してなり、かつ、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
(15)Niよりも格子の熱収縮作用を有する原子の少なくとも1種と、Snよりも磁気相転移にともなう体積変化を緩慢にする作用を有する原子の少なくとも1種を含み、かつ、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
(16)前記マンガン窒化物が、さらに、Fe、Ta、CrおよびNbの少なくとも1種を含む(15)に記載の熱膨張抑制剤。
(17)線膨張率が、−100×10-6/℃〜−3×10-6/℃である(1)〜(16)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(18)少なくとも15℃の温度域に渡って負の熱膨張率を有する(1)〜(17)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(19)前記マンガン窒化物中の窒素原子は、0より多く15%以下の割合で炭素原子に置換されている(1)〜(18)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(20)(1)〜(19)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤を含むゼロ熱膨張材料。
(21)(1)〜(19)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤を含む負の熱膨張材料。
(22)(1)〜(19)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤を用いた熱膨張抑制方法。
(23)下記一般式(10)で表される組成からなる結晶の熱膨張率を測定する工程と、前記一般式(10)で表される組成からなる結晶の一部を、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子の少なくとも1種(但し、該原子が1種のみのときは、MnおよびA1ではない)に変えたものの熱膨張率を測定する工程と、これらの熱膨張率から、少なくとも10℃の温度域に渡って負の熱膨張率を有する組成からなる結晶の条件を選択する工程を含む熱膨張抑制剤の製造方法。
一般式(10)
Mn3A1N
(一般式(10)中、A1は、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかである。)
(24)前記一般式(10)で表される組成からなる結晶の一部を、Fe、Ta、CrおよびNbの少なくとも1種で変えることによって、動作温度を制御する工程を含む(23)に記載の熱膨張抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
第1に、マンガン窒化物の磁気転移温度幅、すなわち、負の熱膨張を示す温度域を、例えば、100℃以上にも広げることが可能になり、また、負膨張率の線形性も、例えば、70℃程度以上にわたっても、確保できるようになった。これにより、マンガン窒化物が工業的な熱膨張抑制剤として利用可能となった。
【0008】
第2に、本発明の熱膨張抑制剤は、従来から知られていた熱膨張抑制剤より、広い温度範囲に適用可能となった。そして、この負の熱膨張が高い温度域でも得られることとなった。従って、例えば、200℃以上に加熱されることのある材料についても、熱膨張を抑制することが可能となった。この結果、高温環境で使用する部材や、複数の部品を接合したデバイス等においても、適当な熱膨張抑制剤を選択することにより、その調整が可能になった。
【0009】
第3に、本発明の熱膨張抑制剤は、等方的な体積膨張を行うため、例えばSiO2のように、焼結の程度等に左右されることなく、材料への適用が容易となった。
【0010】
第4に、本発明の熱膨張抑制剤は、対象とするものの熱膨張率や温度上昇に応じて、精密に制御することが容易である。従って、特定の温度範囲において熱膨張がゼロの材料や従来品より大きな負の熱膨張(例えば、線膨張率−30μ/℃以上)を有する材料を提供することも可能となった。この結果、樹脂、有機物等熱膨張の大きな材料に対しても熱膨張を抑制することが可能となった。また、精密部品においても好ましく使用可能となった。
【0011】
第5に、本発明の熱膨張抑制剤は、粉末の状態で利用することができるため、セラミックのように任意の形状に焼き固めることが可能となった。また、原材料に混合しやすいものとなった。
【0012】
第6に、本発明の熱膨張抑制剤は、窒化物であるため、対象とするものの機械的強度を高める、あるいは強度を維持することになった。
【0013】
第7に、本発明の熱膨張抑制剤は、金属的性質を示すため、高い電気伝導、熱伝導など、金属としての性質を備えているという特長を有する。
【0014】
第8に、本発明の熱膨張抑制剤は、安価で環境にやさしい素材のみで構成することができるため、コスト面や環境面でも好ましいものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図2】図2は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図3】図3は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図4】図4は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図5】図5は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図6】図6は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図7】図7は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図8】図8は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図9】図9は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図10】図10は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図11】図11は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図12】図12は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤(高圧窒素処理)の効果を示す図である。
【図13】図13は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤(高圧窒素処理)の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0017】
また、本発明におけるマンガン窒化物は、特に断らない限り、通常の結晶格子(特に、ペロフスカイト型のマンガン窒化物)において生じうる原子の欠陥や過剰がないものをもって記載しているが、この種の結晶格子において通常生じうる欠陥や過剰があっても、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の範囲内に含まれる趣旨である。
【0018】
本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物は、少なくとも10℃の温度域に渡って負の熱膨張率を有するものであり、例えば、下記一般式(1)で表される組成からなるものである。
一般式(1)
Mn4-XAXB
(一般式(1)中、Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4(但し、xは整数ではない)であり、または、Aは、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか2種以上の原子からなり、かつ、前記原子の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4であり、さらに、Bは、一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、Aの原子がAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかの原子からなる場合、Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであることが好ましく、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかがであることがより好ましく、Gaであることがさらに好ましい。
一方、Aの原子がAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか2種以上の原子からなる場合、その原子の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、他の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Cr、Fe、Ge、Nb、Sn、Ta、Pt、Zrのいずれかであることが好ましい。より好ましくは、Aの原子が、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれか1種以上と、Ge、Sn、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれか1種以上を含む場合である。
もちろん、Aは3種以上の原子であってもよい。Aが3種の原子からなる場合、少なくとも、1種が、Fe、Ta、Nbのいずれかであることが好ましく、FeとZnとGe、FeとCuとGe、FeとGaとGe、FeとInとGe、TaとCuとGe、NbとZnとSnの組み合わせが好ましい例として挙げられる。
【0019】
また、xに関し、Aが1種の原子からなる場合、0<x<4(但し、xは整数ではない)であり、好ましくは、0<x<2(但し、xは整数ではない)であり、より好ましくは0.6<x<1.3(但し、xは整数ではない)であり、さらに好ましくは、0.8<x<1.1(但し、xは整数ではない)である。一方、Aが2種以上の原子からなる場合、0<x<4であり、好ましくは、0<x<2であり、より好ましくは0.6<x<1.4であり、さらに好ましくは0.83<x<1.15である。
また、Bは、一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子であり、好ましくは、一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である(以下の一般式についても同じ)。
【0020】
さらに、一般式(1)は、下記一般式(2)〜(4)で表されるものが好ましい。
一般式(2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA22はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上であり(ただし、A21およびA22は、同一ではなく、また、Mnでない)、0≦x2<1、0<y2<1、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、A21はNi、Cu、Zn、Ga、Ag、Inのいずれかが好ましく、Cu、Zn、Ga、Inがさらに好ましい。A22は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Ge、Snのいずれかであることが好ましく、Cu、Zn、Ga、In、Ge、Snのいずれかであることがさらに好ましい。また、x2についても、0≦x2<0.2であることが好ましく、0≦x2<0.1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。一方、y2については、0.35<y2<0.8であることが好ましく、0.4<y2<0.7であることがより好ましく、0.4<y2<0.65であることがさらに好ましい。
【0021】
ここで、一般式(2)は、より具体的には、一般式(2−2)〜一般式(2−4)で表されるものを例としてあげることができる。
一般式(2−2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A22はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA21とA22は同一でない)、0≦x2<1、0.35<y2<0.80、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、x2について、0≦x2<0.17であることが好ましく、0≦x2<0.1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。一方、y2については、0.4<y2<0.7であることがより好ましく、0.4<y2<0.65であることがさらに好ましい。
【0022】
一般式(2−3)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−3)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、x2は0であり、0.35<y2<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
一般式(2−3)において、0.4<y2<0.75であることがより好ましく、0.4<y2<0.65であることがさらに好ましい。
【0023】
一般式(2−4)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−4)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、0<x2<0.2、0.35<y2<0.7であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
一般式(2−4)において、x2については0<x2<0.17であることが好ましく、0<x2<0.15であることがより好ましく、0<x2<0.13であることがさらに好ましい。一方、y2については、0.4<y2<0.65であることが好ましく、0.4<y2<0.63であることがより好ましい。
【0024】
一般式(3)
Mn3-x3A31y3A321+x3-y3B
(一般式(3)中、A31は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA32はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上の原子からなり(ただし、A31およびA32は、同一ではなく、また、Mnでない)、0<x3<1、0<y3<2、かつ、1+x3−y3>0であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、A31はNi、Cu、Zn、Ga、Ag、Inのいずれかが好ましく、Cu、Zn、Ga、Inがさらに好ましい。A32は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Ge、Snのいずれかであることが好ましく、Cu、Zn、Ga、In、Ge、Snのいずれかであることがさらに好ましい。また、x3についても、0<x3<0.2であることが好ましく、0<x3<0.15であることがより好ましく、0<x3<0.1であることがさらに好ましい。一方、y3については、0.35<y3<0.8であることが好ましく、0.4<y3<0.7であることが好ましく、0.4<y3<0.6であることがさらに好ましい。
【0025】
一般式(4)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4)中、A41は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A42はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA41とA42は同一でない)、A43は、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、x4について、0<x4<0.2であることが好ましく、0<x4<0.15であることがより好ましく、0<x4<0.1であることがさらに好ましい。一方、y4については、0.35<y4<0.7であることが好ましく、0.4<y4<0.6であることがより好ましい。
ここで、一般式(4)は、より具体的には、一般式(4−2)で表されるものを例としてあげることができる
一般式(4−2)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4−2)中、A41は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A42はGeまたはSnであり、A43は、Fe、Taのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、x4について、0<x4<0.2であることが好ましく、0<x4<0.15であることがより好ましい。一方、y4については、0.35<y4<0.7であることが好ましく、0.4<y4<0.6であることがより好ましい。
【0026】
一般式(5)
Mn4-x5A51x5B
(一般式(5)中、A51は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、0.6<x5<1.3(但し、x5は1ではない)であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
一般式(5)において、0.8<x5<1.1(但し、x5は1ではない)がより好ましい。
【0027】
また、本発明で用いるマンガン窒化物として、少なくとも、下記一般式(10)で表される化合物の2種以上を、焼結してなるペロフスカイト型マンガン窒化物を採用することができる。
一般式(10)
Mn3A1N
(一般式(10)中、A1は、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかである。)
さらに、少なくとも、Mn2Nと、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかの原子またはこれらの窒化物から選択される2種以上を焼結してなるペロフスカイト型マンガン窒化物を採用することもできる。
【0028】
本発明で用いるマンガン窒化物は、例えば、少なくとも、Niよりも格子の熱収縮作用を有する原子と、Snよりも磁気相転移にともなう体積変化を緩慢にする作用を有する原子とを含むマンガン窒化物である。さらに、好ましくは、これらに、Fe、Ta、CrおよびNbの少なくとも1種を含むマンガン窒化物である。
【0029】
ここで、Niよりも格子の熱収縮作用を有する原子とは、例えば、非特許文献1〜8の記載より、把握されるものである。一方、Snよりも体積変化を緩慢にする作用を有する原子とは、本願発明者が明らかにした概念であって、後述する実施例に示されるとおり、該原子を含めることによって、Snよりも体積変化を緩慢にする作用を有する原子をいう。具体的には、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInおよびGeを好ましい例として挙げることができる。
【0030】
さらに、Fe、Ta、CrおよびNbは、動作温度を制御する作用を有する。
【0031】
本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物は、ペロフスカイト型結晶構造であることが好ましい。そして、本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物は、立方晶系、および、立方晶系がわずかにひずんだもの(例えば、六方晶系、単斜晶系、斜方晶系、正方晶系、三方晶系等)のいずれであってもよいが、立方晶系が好ましい。
【0032】
本発明の熱膨張抑制剤では、窒素原子の一部が炭素原子等で置換されていてもよく、置換の割合は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。炭素原子以外に置換されていてもよい原子としては、特に定めるものではないが、B、S、O、Pを好ましい例として、S、O、Pをより好ましい例として挙げることができる。
さらに、窒素原子は、マンガン窒化物の結晶格子の中心に存在することが好ましい。ここでの窒素原子等は、通常のマンガン窒化物において生じうる窒素原子等の欠陥や過剰がなかった場合に中心に存在することをいう。例えば、立方晶系がわずかにひずんだものについては、立方晶系における八面体中心に相当する位置をいう。従って、本発明の趣旨を逸脱しない限り、例えば、Mn3Cu0.5Ge0.5Nにおいて、Mn:N(一部置換されたC等を含む)が、3:1.05や3:0.95となっても、本発明に含まれる趣旨である。
【0033】
そして、本発明の熱膨張抑制剤は、少なくとも10℃の温度域、好ましくは、少なくとも15℃の温度域、より好ましくは、少なくとも20℃の温度域、さらに好ましくは、少なくとも30℃の温度域、最も好ましくは、少なくとも40℃以上の温度域に渡って負の熱膨張率を有する。この場合の線膨張率は、0/℃未満、好ましくは−1×10-6/℃〜−100×10-6/℃、より好ましくは−5×10-6/℃〜−100×10-6/℃、さらに好ましくは−10×10-6/℃〜−100×10-6/℃である。また、このような負の熱膨張率が認められる温度範囲は、(1)−20℃〜100℃の間、(2)100℃以上(好ましくは100℃から250℃)、(3)−20℃以下(好ましくは−100℃〜−20℃の間)、(4)−200℃〜−100℃の間のいずれか1つ以上であることが好ましい。
【0034】
以下、本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物の好ましい例を挙げる。本発明の熱膨張抑制剤がこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。さらに、下記に記載されたマンガン窒化物に含まれる窒素原子の一部が炭素原子等に置換されているものも、好ましい例として挙げることができる。
【0035】
Mn3Cu0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、Mn3Cu0.35〜0.55Ge0.45〜0.65N(より好ましくは、Mn3Cu0.50〜0.55Ge0.45〜0.50N)、Mn3Cu0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn3Cu0.43〜0.63Ge0.37〜0.57N、Mn3Cu0.45〜0.65Ge0.35〜0.55N、Mn3Cu0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、Mn3Cu0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N、Mn3Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn3Zn0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、Mn3Ag0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、Mn3In0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、Mn3Ga0.55〜0.75Ge0.25〜0.45N、Mn3Ga0.5〜0.7Sn0.3〜0.5N、Mn3Ga0.7〜0.9Sn0.1〜0.3N、Mn3Cu0.4〜0.6Sn0.4〜0.6N、Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.45〜0.65Ge0.35〜0.55N、Mn2.90〜2.92Cr0.08〜0.10GaN、Mn2.75〜2.95Nb0.05〜0.25Zn0.4〜0.6Sn0.4〜0.6N、Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Cu0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、Mn2.80〜2.90Ta0.10〜0.20Cu0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、Mn3.0〜3.2Zn0.3〜0.5Ge0.4〜0.5N、Mn3.05〜3.15Zn0.3〜0.5Ge0.35〜0.55N、Mn3.0〜3.2Ga0.4〜0.6Ge0.3〜0.5N、Mn3.0〜3.2Ga0.5〜0.7Ge0.4〜0.6N、Mn3.03〜3.23Ga0.57〜0.77Ge0.1〜0.3N、Mn3.05〜3.25Ga0.45〜0.65Ge0.2〜0.4N、Mn3.07〜3.27Ga0.53〜0.73Ge0.1〜0.3N、Mn3.1〜3.3Ga0.5〜0.7Ge0.1〜0.3N、Mn3Ga0.7〜0.9Ge0.1〜0.3N0.94〜0.96C0.04〜0.06、Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.92〜0.94C0.06〜0.08、Mn3Ga0.60〜0.70Ge0.30〜0.40N0.92〜0.94C0.06〜0.08、Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.89〜0.91C0.09〜0.11、Mn3Cu0.4〜0.6Ga0.4〜0.6N、Mn3Cu0.4〜0.6Ni0.4〜0.6N、Mn3In0.65〜0.85Co0.15〜0.35N、Mn3.10〜3.20Ge0.80〜0.90N、Mn3Cu0.70〜0.90Pd0.10〜0.30N。
【0036】
本発明の熱膨張抑制剤は、例えば、通常材料が示す熱膨張を相殺する温度補償材として利用することができ、特定の温度範囲において負に膨張する、負の熱膨張材料を作製することができる。さらに、特定の温度範囲においては、正にも負にも膨張しない、ゼロ熱膨張材料をも作製できる。また、本発明の熱膨張抑制剤は、熱膨張の抑制もしくは制御にも用いることができる。例えば、熱による膨張が大きい材料に添加することにより、該材料の許容範囲内まで、熱膨張を抑制(低下)させることができる。または、他の材料に混合して、目的の熱膨張の大きさを有する材料を作製することができる。
本発明の熱膨張抑制剤を、負の熱膨張材料またはゼロ熱膨張材料として使用する場合、その材料の種類は本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではなく、ガラス、樹脂、セラミック、金属や合金等広く公知の材料に適用することができる。特に、本発明の熱膨張抑制剤は、粉末状の状態で利用することができるため、セラミック等のように任意の形状に焼き固めることができるものにも好ましく採用することができる。
【0037】
本発明の熱膨張抑制剤は、公知の方法に従って製造することができる。例えば、窒素ガス0.5〜10気圧下、500〜1000℃の温度で、10〜100時間加熱・焼成することにより得られる。特に、高圧窒素(例えば、7〜10気圧)で処理を行なうことにより、負の熱膨張率を示し始める温度を低下させることができ、また、線膨張率を小さく(負の膨張性を大きく)することができる。
さらに、本発明の熱膨張抑制剤は、酸素アニール処理を行なってもよい。酸素アニール処理としては、例えば、酸素0.5〜3気圧下、300〜500℃で、10〜100時間処理するとよい。このように酸素アニール処理を行なうことにより、負の線膨張率が認められた最低温度を上昇させることができ、また、線膨張率を大きく(負の膨張性を小さく)することができる。
【0038】
磁気体積効果とは、金属磁性体において、磁気モーメントの伸長に対応して、体積が増大する現象である。一般式(1)で表されるマンガン窒化物が示す、磁気転移点における体積変化は、磁気体積効果の典型例として理解されている。したがって、これらのマンガン窒化物における体膨張は、すなわち、磁気モーメントの伸長と同義であり、体積変化を見ることで、磁気モーメントの大きさ(強磁性体の場合であれば、磁化の大きさ)を知ることができる。
磁気転移点において不連続的に体積が増大する、すなわち、磁気モーメントが不連続的に伸長するなら、転移点近傍において、磁化過程におけるエントロピー変化が大きくなり、磁気冷凍装置の作業物質として好ましく用いることができる(磁気冷凍における冷却能力はこのエントロピー変化に比例する。)。それゆえ、一般式(1)で表される組成からなる強磁性のマンガン窒化物は、磁気冷却用磁性材料として好ましく用いることができる。ここで、磁気冷却用磁性材料とは、例えば、高温領域で磁気的に冷却を行うために用いる材料であり、フレオンガス等を用いることなしに、磁気冷却装置等で冷却する場合の冷却媒体として用いるものである。より具体的には、特開平11−238615号公報の段落番号0017〜0018に記載の磁気冷却装置における磁気冷却用材料として、また、特開2002−106999号公報に記載の磁気冷凍装置の磁気作業物質として用いることができる。
特に、一般式(1)で表される組成からなり、Snよりも体積変化を緩慢にする作用を有する原子(Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInおよびGe等)を含むマンガン窒化物を磁気冷却用磁性材料として採用することにより、急激な体積変化に由来する衝撃を和らげるとともに、大きな磁気モーメント伸長を、ある一定の幅を持った温度域にわたり持続的に生じさせ、一つの組成が磁気冷却剤として機能する温度域を広げることができる。
さらに、一般式(1)で表される組成からなり、Fe、Ta、CrまたはNbを含むマンガン窒化物を磁気冷却用磁性材料として、採用することにより、磁気冷却用磁性材料の動作温度を制御できるため好ましい。
さらにまた、一般式(1)で表される組成からなるマンガン窒化物は、他の磁気冷却用磁性材料と併用して、または、他の磁気冷却用磁性材料の補助剤としても用いることができる。
そのほか、一般式(1)で表される組成からなるマンガン窒化物は蓄冷剤等としても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0040】
(1)熱膨張抑制剤の作製
Mn3A1NおよびMn3A2N(A1およびA2は、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Pd、Ag、InまたはSn、以下同じ)を、Mn2NおよびAがMn:A1またはA2=3:1のモル比になるよう秤量・撹拌した後、石英管に真空封入(〜10-3 torr)し、500〜770℃で60〜70時間加熱・焼成して得た。但し、Mn3GaNは、Mn2NとGaNとを原料とし、窒素ガス1気圧、760℃で60時間加熱・焼成して得た。また、Mn4Nについては金属Mnを原料とし、窒素ガス1気圧、450℃で120時間加熱・焼成して得た。
そして、Mn3A11-x1A2x1Nは、上記の方法で作製したMn3A1NとMn3A2Nの粉末を目的のモル比(1−x1):(x1)で混合・撹拌した後、錠剤型に押し固めて、真空封入もしくは窒素ガス1気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱を行い、焼成・焼結して得た。
Mn3GaCは、Mn、Ga、C(炭素原子)を、順に、3:1:1.05のモル比で、秤量・撹拌した後、石英管に真空封入(〜10×-3 torr)し、550〜850℃で80〜120時間加熱・焼成して得た。ここで、Cの比率が1.05であるのは、焼成中の炭素欠損を補うためである。得られたMn3GaCを用い、下記組成となるよう、例えば、Mn3Ga1-xA2xN1-yCyの場合、Mn3GaN、Mn3A2N、Mn3GaCの粉末を(1−x−y): x: yのモル比で混合・撹拌した後、錠剤型に押し固めて、石英管に真空封入し、800℃、60〜80時間加熱・焼成して、炭素置換体を得た。
Mn3-x2A3x2A11-x3A2x3Nは、原料をMn2N、単体A3(Fe、Ta、CrおよびNb)もしくはA34N、単体A1、A2として、Mn:A3:A1:A2=(3−x2):x2:(1−x3):x3のモル比となるよう秤量・撹拌した後、石英管に真空封入したものを650〜770℃で60〜70時間加熱してまず粉末試料を作製し、それを錠剤型に押し固めたものを真空封入もしくは窒素ガス1気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱を行い、焼結して得た。
上記の試料作製において、原料は全て純度99.9%以上の粉末であった。原料粉などの撹拌は全て窒素ガス中で行った。なお、用いた窒素ガスはフィルター(日化精工、DC−A4およびGC−RX)により水分と酸素を除去した。作製した試料は粉末X線回折(デバイ・シェラー法)により評価し、単相、室温で立方晶であることを確認した。
(1−1)高圧窒素処理
さらに、一部の試料においては、上記(1)において、窒素ガス1気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱を行い、焼結した後、窒素ガス8気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱処理を行なった。
【0041】
(2)膨張率の測定
熱による線膨張率の測定にはストレイン・ゲージ(共和電業、KFL−02−120−C1−11)を用いた。4×4×1mm3の板状に成形した焼結体試料に、接着剤(共和電業、PC−6)を用いてストレイン・ゲージを貼り付けた。文書用ダブルクリップ(コクヨJ−35)で挟むことで荷重をかけた状態で、窒素ガス1気圧の雰囲気のもと、80℃で1時間、130℃で2時間、150℃で2時間維持した後、クリップをはずして、さらに窒素ガス1気圧の雰囲気のもと、150℃で2時間維持して、焼き付けを行った。ストレイン・ゲージの抵抗値Rは物理特性評価システム(カンタム・デザイン、PPMS6000)で測定した。参照試料として無酸素銅板(純度99.99%)を用い、その銅板に同様の方法で焼き付けたストレイン・ゲージの抵抗歪み値ΔR/Rをまず測定した。次にCuについての線膨張率の文献値[G. K. White and J. G. Collins, J. Low Temp. Phys. 7, 43 (1972); G. K. White, J. Phys. D: Appl. Phys. 6, 2070 (1973)] から、試料に焼き付けたストレイン・ゲージの抵抗歪み値から差し引くべき補正値を算出した。それを用いて試料の線膨張率ΔL/Lを求めた。なお、等方的な物質の場合、体膨張率ΔV/Vを3で割ったものが、線膨張率に相当し、本実施例のものはすべて等方的なものである。
【0042】
(3)以下、結果を図に示す。
ここで、図1は、Mn3CuxGe1-xNの線膨張率を測定したものであって、図中の数字(0.5、0.55.0.6.0.7)は、xに相当する値である。同様に、図2も、Mn3CuxGe1-xNの線膨張率を測定したものであって、図中の数字(0.45、0.5)は、xに相当する値である。図3〜図11は、図中に示したマンガン窒化物の線膨張率を測定したものある。
下記表1に、具体的数値を示す。ここで、Tminは、負の線膨張率が認められた最低温度を、Tmaxは、今回測定した範囲内で、負の線膨張率が確実に認められた最高温度を示す。従って、Tmin〜Tmaxの温度域(ΔTで表す)では、少なくとも、負の線膨張率が確実に認められることになるが、必ずしも、この範囲に限定されるものではない。すなわち、本実施例では、127℃(400K)までしか測定されていないため明確ではないが、例えば、図2に示されるマンガン窒化物では、負の線膨張率のTmaxが、127℃よりも高い温度であることは容易に推測できるからである(表1中、*127と記載。)。もちろん、実験誤差によって、上記TminやTmaxよりも広い温度域において、負の線膨張率を含む場合がありうることも考慮されるべきである。
また、表1中、(N2-8atm)記載されている試料は、上記高圧窒素処理を行なった試料である。
【0043】
【表1】
【0044】
図12および図13に示すとおり、高圧窒素処理をすることにより、Tminの温度を低下させることが可能になった。この結果、さらに、線膨張を起こす領域を調整しやすくなった。また負の膨張性を大きくすることが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の熱膨張抑制剤は、通常材料が示す熱膨張を相殺する温度補償材として利用することができ、特定の温度範囲において温度上昇とともに収縮する、負の熱膨張材料を作製することができる。さらに、特定の温度範囲においては、正にも負にも膨張しない、ゼロ熱膨張材料をも作製できる。
具体的には、温度による形状や寸法の変化を嫌う精密光学部品や機械部品、ファイバーグレーティングの温度補償材、プリント回路基板、熱スィッチ、歯科材料、冷凍機部品などに利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度上昇による熱膨張を抑制するための、熱膨張抑制剤ならびにこれを用いたゼロまたは負の熱膨張材料、熱膨張抑制方法、および熱膨張抑制剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、物質は温度上昇に伴って熱膨張することが知られている。そのため、温度変化が起こるデバイスに使用する部品については種々の問題が起こる。
そこで、これまでに、各種の温度による熱膨張抑制法が検討されている。例えば、特開2003−146693号公報には、−40℃〜100℃の温度範囲において−1×10-6/℃〜−12×10-6/℃の負の線膨張率を有するセラミックスあるいはガラスセラミックスを採用することが記載されている。そして、このようなセラミックスあるいはガラスセラミックスとして、β−石英固溶体またはβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶とするセラミックスあるいはガラスセラミックス、またはZrおよびHfの少なくともいずれかを含むリン酸タングステン酸塩またはタングステン酸塩を主結晶とする多結晶体セラミックスが挙げられている。
しかしながら、実際に使用するには種々の条件が必要であり、熱膨張抑制剤としては、充分と言えるものではない。
【0003】
また、これまでに、化学式Mn3XN(XはNi、Zn、GaまたはAgである。)で表されるペロフスカイト型マンガン窒化物が、反強磁性秩序の形成にともない、低温磁気秩序相で格子が大きくなる現象(磁気体積効果)を示すことが知られている(非特許文献1:J. P. Bouchaud et al., C. R. Acad. Sc. Paris C 262, 640 (1966).、非特許文献2:J. P. Bouchaud, Ann. Chim. 3, 81 (1968).、非特許文献3:D. Fruchart et al., Solid State Commun. 9, 1793 (1971).、非特許文献4:R. Fruchart et al., J. Phys. (Paris) 32, C 1−982 (1971).、非特許文献5:D. Fruchart et al., Proc. Intern. Conf. Magn. 4, 572 (1974).、非特許文献6:Ph. l'Heritier et al., Mat. Res. Bull. 14, 1089 (1979).、非特許文献7:Ph. l'Heritier et al., Mat. Res. Bull. 14, 1203 (1979).、非特許文献8:W. S. Kim et al., Phys. Rev. B 68, 172402 (2003).)。しかし、この現象は鋭い1次の相転移で、おおむね転移幅が1℃以内と狭く、工業的な熱膨張抑制剤として使用することはできないものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. R. Acad. Sc. Paris C 262, 640 (1966).
【非特許文献2】Ann. Chim. 3, 81 (1968).
【非特許文献3】Solid State Commun. 9, 1793 (1971).
【非特許文献4】J. Phys. (Paris) 32, C 1−982 (1971).
【非特許文献5】Proc. Intern. Conf. Magn. 4, 572 (1974).
【非特許文献6】Mat. Res. Bull. 14, 1089 (1979).
【非特許文献7】Mat. Res. Bull. 14, 1203 (1979).
【非特許文献8】Phys. Rev. B 68, 172402 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、従来の熱膨張抑制剤より、著しく適用範囲が広く、かつ、容易に使用することができる熱膨張抑制剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、鋭意検討した結果、驚くべきことに、マンガン窒化物の原子置換を行うことにより、10℃以上の温度域にわたって、緩やかな負の熱膨張が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下の手段により達成された。
(1)マンガン窒化物結晶を含む熱膨張抑制剤。
(2)少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
(3)下記一般式(1)で表される組成からなる結晶であり、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するマンガン窒化物を含む、(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(1)
Mn4-XAXB
(一般式(1)中、Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4(但し、xは整数ではない)であり、または、Aは、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか2種以上の原子からなり、かつ、前記原子の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4であり、さらに、Bは、一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
(4)前記一般式(1)が、下記一般式(2)で表される(3)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA22はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上であり(ただし、A21およびA22は、同一ではなく、また、Mnでない)、0≦x2<1、0<y2<1、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
(5)下記一般式(2−2)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2−2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A22はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA21とA22は同一でない)、0≦x2<1、0.35<y2<0.8、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(6)下記一般式(2−3)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2−3)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−3)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、x2は0であり、0.35<y2<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(7)下記一般式(2−4)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(2−4)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−4)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、0<x2<0.2、0.35<y2<0.7であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(8)前記一般式(1)が、下記一般式(3)で表される(3)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(3)
Mn3-x3A31y3A321+x3-y3B
(一般式(3)中、A31は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA32はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上の原子からなり(ただし、A31およびA32は、同一ではなく、また、Mnでない)、0<x3<1、0<y3<2、かつ、1+x3−y3>0であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
(9)下記一般式(4)で表される組成からなるマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(4)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4)中、A41は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A42はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA41とA42は同一でない)、A43は、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(10)下記一般式(4−2)で表される組成からなるマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(4−2)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4−2)中、A41は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A42はGeまたはSnであり、A43は、Fe、Taのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(11)下記一般式(5)で表される組成からなるマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(5)
Mn4-x5A51x5B
(一般式(5)中、A51は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、0.6<x5<1.3(但し、x5は1ではない)であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
(12)前記マンガン窒化物は、ペロフスカイト型である(1)および(3)〜(11)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(13)少なくとも、下記一般式(10)で表される化合物の2種以上を、焼結してなるペロフスカイト型マンガン窒化物を含み、かつ、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
一般式(10)
Mn3A1N
(一般式(10)中、A1は、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかである。)
(14)少なくとも、Mn2Nと、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか、またはこれらの窒化物から選択される2種以上を焼結してなり、かつ、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するペロフスカイト型マンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
(15)Niよりも格子の熱収縮作用を有する原子の少なくとも1種と、Snよりも磁気相転移にともなう体積変化を緩慢にする作用を有する原子の少なくとも1種を含み、かつ、少なくとも10℃の温度域にわたって負の熱膨張率を有するマンガン窒化物を含む(1)に記載の熱膨張抑制剤。
(16)前記マンガン窒化物が、さらに、Fe、Ta、CrおよびNbの少なくとも1種を含む(15)に記載の熱膨張抑制剤。
(17)線膨張率が、−100×10-6/℃〜−3×10-6/℃である(1)〜(16)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(18)少なくとも15℃の温度域に渡って負の熱膨張率を有する(1)〜(17)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(19)前記マンガン窒化物中の窒素原子は、0より多く15%以下の割合で炭素原子に置換されている(1)〜(18)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤。
(20)(1)〜(19)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤を含むゼロ熱膨張材料。
(21)(1)〜(19)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤を含む負の熱膨張材料。
(22)(1)〜(19)のいずれか1項に記載の熱膨張抑制剤を用いた熱膨張抑制方法。
(23)下記一般式(10)で表される組成からなる結晶の熱膨張率を測定する工程と、前記一般式(10)で表される組成からなる結晶の一部を、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子の少なくとも1種(但し、該原子が1種のみのときは、MnおよびA1ではない)に変えたものの熱膨張率を測定する工程と、これらの熱膨張率から、少なくとも10℃の温度域に渡って負の熱膨張率を有する組成からなる結晶の条件を選択する工程を含む熱膨張抑制剤の製造方法。
一般式(10)
Mn3A1N
(一般式(10)中、A1は、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかである。)
(24)前記一般式(10)で表される組成からなる結晶の一部を、Fe、Ta、CrおよびNbの少なくとも1種で変えることによって、動作温度を制御する工程を含む(23)に記載の熱膨張抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
第1に、マンガン窒化物の磁気転移温度幅、すなわち、負の熱膨張を示す温度域を、例えば、100℃以上にも広げることが可能になり、また、負膨張率の線形性も、例えば、70℃程度以上にわたっても、確保できるようになった。これにより、マンガン窒化物が工業的な熱膨張抑制剤として利用可能となった。
【0008】
第2に、本発明の熱膨張抑制剤は、従来から知られていた熱膨張抑制剤より、広い温度範囲に適用可能となった。そして、この負の熱膨張が高い温度域でも得られることとなった。従って、例えば、200℃以上に加熱されることのある材料についても、熱膨張を抑制することが可能となった。この結果、高温環境で使用する部材や、複数の部品を接合したデバイス等においても、適当な熱膨張抑制剤を選択することにより、その調整が可能になった。
【0009】
第3に、本発明の熱膨張抑制剤は、等方的な体積膨張を行うため、例えばSiO2のように、焼結の程度等に左右されることなく、材料への適用が容易となった。
【0010】
第4に、本発明の熱膨張抑制剤は、対象とするものの熱膨張率や温度上昇に応じて、精密に制御することが容易である。従って、特定の温度範囲において熱膨張がゼロの材料や従来品より大きな負の熱膨張(例えば、線膨張率−30μ/℃以上)を有する材料を提供することも可能となった。この結果、樹脂、有機物等熱膨張の大きな材料に対しても熱膨張を抑制することが可能となった。また、精密部品においても好ましく使用可能となった。
【0011】
第5に、本発明の熱膨張抑制剤は、粉末の状態で利用することができるため、セラミックのように任意の形状に焼き固めることが可能となった。また、原材料に混合しやすいものとなった。
【0012】
第6に、本発明の熱膨張抑制剤は、窒化物であるため、対象とするものの機械的強度を高める、あるいは強度を維持することになった。
【0013】
第7に、本発明の熱膨張抑制剤は、金属的性質を示すため、高い電気伝導、熱伝導など、金属としての性質を備えているという特長を有する。
【0014】
第8に、本発明の熱膨張抑制剤は、安価で環境にやさしい素材のみで構成することができるため、コスト面や環境面でも好ましいものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図2】図2は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図3】図3は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図4】図4は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図5】図5は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図6】図6は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図7】図7は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図8】図8は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図9】図9は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図10】図10は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図11】図11は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤の効果を示す図である。
【図12】図12は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤(高圧窒素処理)の効果を示す図である。
【図13】図13は、本発明の他の一の熱膨張抑制剤(高圧窒素処理)の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0017】
また、本発明におけるマンガン窒化物は、特に断らない限り、通常の結晶格子(特に、ペロフスカイト型のマンガン窒化物)において生じうる原子の欠陥や過剰がないものをもって記載しているが、この種の結晶格子において通常生じうる欠陥や過剰があっても、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の範囲内に含まれる趣旨である。
【0018】
本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物は、少なくとも10℃の温度域に渡って負の熱膨張率を有するものであり、例えば、下記一般式(1)で表される組成からなるものである。
一般式(1)
Mn4-XAXB
(一般式(1)中、Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4(但し、xは整数ではない)であり、または、Aは、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか2種以上の原子からなり、かつ、前記原子の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつ、0<x<4であり、さらに、Bは、一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、Aの原子がAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかの原子からなる場合、Aは、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであることが好ましく、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかがであることがより好ましく、Gaであることがさらに好ましい。
一方、Aの原子がAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか2種以上の原子からなる場合、その原子の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、他の少なくとも1種は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Cr、Fe、Ge、Nb、Sn、Ta、Pt、Zrのいずれかであることが好ましい。より好ましくは、Aの原子が、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれか1種以上と、Ge、Sn、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれか1種以上を含む場合である。
もちろん、Aは3種以上の原子であってもよい。Aが3種の原子からなる場合、少なくとも、1種が、Fe、Ta、Nbのいずれかであることが好ましく、FeとZnとGe、FeとCuとGe、FeとGaとGe、FeとInとGe、TaとCuとGe、NbとZnとSnの組み合わせが好ましい例として挙げられる。
【0019】
また、xに関し、Aが1種の原子からなる場合、0<x<4(但し、xは整数ではない)であり、好ましくは、0<x<2(但し、xは整数ではない)であり、より好ましくは0.6<x<1.3(但し、xは整数ではない)であり、さらに好ましくは、0.8<x<1.1(但し、xは整数ではない)である。一方、Aが2種以上の原子からなる場合、0<x<4であり、好ましくは、0<x<2であり、より好ましくは0.6<x<1.4であり、さらに好ましくは0.83<x<1.15である。
また、Bは、一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子であり、好ましくは、一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である(以下の一般式についても同じ)。
【0020】
さらに、一般式(1)は、下記一般式(2)〜(4)で表されるものが好ましい。
一般式(2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA22はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上であり(ただし、A21およびA22は、同一ではなく、また、Mnでない)、0≦x2<1、0<y2<1、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、A21はNi、Cu、Zn、Ga、Ag、Inのいずれかが好ましく、Cu、Zn、Ga、Inがさらに好ましい。A22は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Ge、Snのいずれかであることが好ましく、Cu、Zn、Ga、In、Ge、Snのいずれかであることがさらに好ましい。また、x2についても、0≦x2<0.2であることが好ましく、0≦x2<0.1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。一方、y2については、0.35<y2<0.8であることが好ましく、0.4<y2<0.7であることがより好ましく、0.4<y2<0.65であることがさらに好ましい。
【0021】
ここで、一般式(2)は、より具体的には、一般式(2−2)〜一般式(2−4)で表されるものを例としてあげることができる。
一般式(2−2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−2)中、A21は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A22はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA21とA22は同一でない)、0≦x2<1、0.35<y2<0.80、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、x2について、0≦x2<0.17であることが好ましく、0≦x2<0.1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。一方、y2については、0.4<y2<0.7であることがより好ましく、0.4<y2<0.65であることがさらに好ましい。
【0022】
一般式(2−3)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−3)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、x2は0であり、0.35<y2<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
一般式(2−3)において、0.4<y2<0.75であることがより好ましく、0.4<y2<0.65であることがさらに好ましい。
【0023】
一般式(2−4)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
(一般式(2−4)中、A21は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A22はGeまたはSnであり、0<x2<0.2、0.35<y2<0.7であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
一般式(2−4)において、x2については0<x2<0.17であることが好ましく、0<x2<0.15であることがより好ましく、0<x2<0.13であることがさらに好ましい。一方、y2については、0.4<y2<0.65であることが好ましく、0.4<y2<0.63であることがより好ましい。
【0024】
一般式(3)
Mn3-x3A31y3A321+x3-y3B
(一般式(3)中、A31は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、かつA32はAl、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれか1種以上の原子からなり(ただし、A31およびA32は、同一ではなく、また、Mnでない)、0<x3<1、0<y3<2、かつ、1+x3−y3>0であり、さらに、Bは一部が炭素原子等で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、A31はNi、Cu、Zn、Ga、Ag、Inのいずれかが好ましく、Cu、Zn、Ga、Inがさらに好ましい。A32は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Ge、Snのいずれかであることが好ましく、Cu、Zn、Ga、In、Ge、Snのいずれかであることがさらに好ましい。また、x3についても、0<x3<0.2であることが好ましく、0<x3<0.15であることがより好ましく、0<x3<0.1であることがさらに好ましい。一方、y3については、0.35<y3<0.8であることが好ましく、0.4<y3<0.7であることが好ましく、0.4<y3<0.6であることがさらに好ましい。
【0025】
一般式(4)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4)中、A41は、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInのいずれかであり、A42はCo、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、Cd、In、GeおよびSnのいずれかであり(ただしA41とA42は同一でない)、A43は、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、x4について、0<x4<0.2であることが好ましく、0<x4<0.15であることがより好ましく、0<x4<0.1であることがさらに好ましい。一方、y4については、0.35<y4<0.7であることが好ましく、0.4<y4<0.6であることがより好ましい。
ここで、一般式(4)は、より具体的には、一般式(4−2)で表されるものを例としてあげることができる
一般式(4−2)
Mn3-x4A41y4A421-y4A43x4B
(一般式(4−2)中、A41は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、A42はGeまたはSnであり、A43は、Fe、Taのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
ここで、x4について、0<x4<0.2であることが好ましく、0<x4<0.15であることがより好ましい。一方、y4については、0.35<y4<0.7であることが好ましく、0.4<y4<0.6であることがより好ましい。
【0026】
一般式(5)
Mn4-x5A51x5B
(一般式(5)中、A51は、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInのいずれかであり、0.6<x5<1.3(但し、x5は1ではない)であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
一般式(5)において、0.8<x5<1.1(但し、x5は1ではない)がより好ましい。
【0027】
また、本発明で用いるマンガン窒化物として、少なくとも、下記一般式(10)で表される化合物の2種以上を、焼結してなるペロフスカイト型マンガン窒化物を採用することができる。
一般式(10)
Mn3A1N
(一般式(10)中、A1は、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかである。)
さらに、少なくとも、Mn2Nと、Al、Si、Scおよび周期表の第4〜6周期の4A〜5B族の原子のいずれかの原子またはこれらの窒化物から選択される2種以上を焼結してなるペロフスカイト型マンガン窒化物を採用することもできる。
【0028】
本発明で用いるマンガン窒化物は、例えば、少なくとも、Niよりも格子の熱収縮作用を有する原子と、Snよりも磁気相転移にともなう体積変化を緩慢にする作用を有する原子とを含むマンガン窒化物である。さらに、好ましくは、これらに、Fe、Ta、CrおよびNbの少なくとも1種を含むマンガン窒化物である。
【0029】
ここで、Niよりも格子の熱収縮作用を有する原子とは、例えば、非特許文献1〜8の記載より、把握されるものである。一方、Snよりも体積変化を緩慢にする作用を有する原子とは、本願発明者が明らかにした概念であって、後述する実施例に示されるとおり、該原子を含めることによって、Snよりも体積変化を緩慢にする作用を有する原子をいう。具体的には、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInおよびGeを好ましい例として挙げることができる。
【0030】
さらに、Fe、Ta、CrおよびNbは、動作温度を制御する作用を有する。
【0031】
本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物は、ペロフスカイト型結晶構造であることが好ましい。そして、本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物は、立方晶系、および、立方晶系がわずかにひずんだもの(例えば、六方晶系、単斜晶系、斜方晶系、正方晶系、三方晶系等)のいずれであってもよいが、立方晶系が好ましい。
【0032】
本発明の熱膨張抑制剤では、窒素原子の一部が炭素原子等で置換されていてもよく、置換の割合は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。炭素原子以外に置換されていてもよい原子としては、特に定めるものではないが、B、S、O、Pを好ましい例として、S、O、Pをより好ましい例として挙げることができる。
さらに、窒素原子は、マンガン窒化物の結晶格子の中心に存在することが好ましい。ここでの窒素原子等は、通常のマンガン窒化物において生じうる窒素原子等の欠陥や過剰がなかった場合に中心に存在することをいう。例えば、立方晶系がわずかにひずんだものについては、立方晶系における八面体中心に相当する位置をいう。従って、本発明の趣旨を逸脱しない限り、例えば、Mn3Cu0.5Ge0.5Nにおいて、Mn:N(一部置換されたC等を含む)が、3:1.05や3:0.95となっても、本発明に含まれる趣旨である。
【0033】
そして、本発明の熱膨張抑制剤は、少なくとも10℃の温度域、好ましくは、少なくとも15℃の温度域、より好ましくは、少なくとも20℃の温度域、さらに好ましくは、少なくとも30℃の温度域、最も好ましくは、少なくとも40℃以上の温度域に渡って負の熱膨張率を有する。この場合の線膨張率は、0/℃未満、好ましくは−1×10-6/℃〜−100×10-6/℃、より好ましくは−5×10-6/℃〜−100×10-6/℃、さらに好ましくは−10×10-6/℃〜−100×10-6/℃である。また、このような負の熱膨張率が認められる温度範囲は、(1)−20℃〜100℃の間、(2)100℃以上(好ましくは100℃から250℃)、(3)−20℃以下(好ましくは−100℃〜−20℃の間)、(4)−200℃〜−100℃の間のいずれか1つ以上であることが好ましい。
【0034】
以下、本発明の熱膨張抑制剤に含まれるマンガン窒化物の好ましい例を挙げる。本発明の熱膨張抑制剤がこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。さらに、下記に記載されたマンガン窒化物に含まれる窒素原子の一部が炭素原子等に置換されているものも、好ましい例として挙げることができる。
【0035】
Mn3Cu0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、Mn3Cu0.35〜0.55Ge0.45〜0.65N(より好ましくは、Mn3Cu0.50〜0.55Ge0.45〜0.50N)、Mn3Cu0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn3Cu0.43〜0.63Ge0.37〜0.57N、Mn3Cu0.45〜0.65Ge0.35〜0.55N、Mn3Cu0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、Mn3Cu0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N、Mn3Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn3Zn0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、Mn3Ag0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、Mn3In0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、Mn3Ga0.55〜0.75Ge0.25〜0.45N、Mn3Ga0.5〜0.7Sn0.3〜0.5N、Mn3Ga0.7〜0.9Sn0.1〜0.3N、Mn3Cu0.4〜0.6Sn0.4〜0.6N、Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.45〜0.65Ge0.35〜0.55N、Mn2.90〜2.92Cr0.08〜0.10GaN、Mn2.75〜2.95Nb0.05〜0.25Zn0.4〜0.6Sn0.4〜0.6N、Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Cu0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、Mn2.80〜2.90Ta0.10〜0.20Cu0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、Mn3.0〜3.2Zn0.3〜0.5Ge0.4〜0.5N、Mn3.05〜3.15Zn0.3〜0.5Ge0.35〜0.55N、Mn3.0〜3.2Ga0.4〜0.6Ge0.3〜0.5N、Mn3.0〜3.2Ga0.5〜0.7Ge0.4〜0.6N、Mn3.03〜3.23Ga0.57〜0.77Ge0.1〜0.3N、Mn3.05〜3.25Ga0.45〜0.65Ge0.2〜0.4N、Mn3.07〜3.27Ga0.53〜0.73Ge0.1〜0.3N、Mn3.1〜3.3Ga0.5〜0.7Ge0.1〜0.3N、Mn3Ga0.7〜0.9Ge0.1〜0.3N0.94〜0.96C0.04〜0.06、Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.92〜0.94C0.06〜0.08、Mn3Ga0.60〜0.70Ge0.30〜0.40N0.92〜0.94C0.06〜0.08、Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.89〜0.91C0.09〜0.11、Mn3Cu0.4〜0.6Ga0.4〜0.6N、Mn3Cu0.4〜0.6Ni0.4〜0.6N、Mn3In0.65〜0.85Co0.15〜0.35N、Mn3.10〜3.20Ge0.80〜0.90N、Mn3Cu0.70〜0.90Pd0.10〜0.30N。
【0036】
本発明の熱膨張抑制剤は、例えば、通常材料が示す熱膨張を相殺する温度補償材として利用することができ、特定の温度範囲において負に膨張する、負の熱膨張材料を作製することができる。さらに、特定の温度範囲においては、正にも負にも膨張しない、ゼロ熱膨張材料をも作製できる。また、本発明の熱膨張抑制剤は、熱膨張の抑制もしくは制御にも用いることができる。例えば、熱による膨張が大きい材料に添加することにより、該材料の許容範囲内まで、熱膨張を抑制(低下)させることができる。または、他の材料に混合して、目的の熱膨張の大きさを有する材料を作製することができる。
本発明の熱膨張抑制剤を、負の熱膨張材料またはゼロ熱膨張材料として使用する場合、その材料の種類は本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではなく、ガラス、樹脂、セラミック、金属や合金等広く公知の材料に適用することができる。特に、本発明の熱膨張抑制剤は、粉末状の状態で利用することができるため、セラミック等のように任意の形状に焼き固めることができるものにも好ましく採用することができる。
【0037】
本発明の熱膨張抑制剤は、公知の方法に従って製造することができる。例えば、窒素ガス0.5〜10気圧下、500〜1000℃の温度で、10〜100時間加熱・焼成することにより得られる。特に、高圧窒素(例えば、7〜10気圧)で処理を行なうことにより、負の熱膨張率を示し始める温度を低下させることができ、また、線膨張率を小さく(負の膨張性を大きく)することができる。
さらに、本発明の熱膨張抑制剤は、酸素アニール処理を行なってもよい。酸素アニール処理としては、例えば、酸素0.5〜3気圧下、300〜500℃で、10〜100時間処理するとよい。このように酸素アニール処理を行なうことにより、負の線膨張率が認められた最低温度を上昇させることができ、また、線膨張率を大きく(負の膨張性を小さく)することができる。
【0038】
磁気体積効果とは、金属磁性体において、磁気モーメントの伸長に対応して、体積が増大する現象である。一般式(1)で表されるマンガン窒化物が示す、磁気転移点における体積変化は、磁気体積効果の典型例として理解されている。したがって、これらのマンガン窒化物における体膨張は、すなわち、磁気モーメントの伸長と同義であり、体積変化を見ることで、磁気モーメントの大きさ(強磁性体の場合であれば、磁化の大きさ)を知ることができる。
磁気転移点において不連続的に体積が増大する、すなわち、磁気モーメントが不連続的に伸長するなら、転移点近傍において、磁化過程におけるエントロピー変化が大きくなり、磁気冷凍装置の作業物質として好ましく用いることができる(磁気冷凍における冷却能力はこのエントロピー変化に比例する。)。それゆえ、一般式(1)で表される組成からなる強磁性のマンガン窒化物は、磁気冷却用磁性材料として好ましく用いることができる。ここで、磁気冷却用磁性材料とは、例えば、高温領域で磁気的に冷却を行うために用いる材料であり、フレオンガス等を用いることなしに、磁気冷却装置等で冷却する場合の冷却媒体として用いるものである。より具体的には、特開平11−238615号公報の段落番号0017〜0018に記載の磁気冷却装置における磁気冷却用材料として、また、特開2002−106999号公報に記載の磁気冷凍装置の磁気作業物質として用いることができる。
特に、一般式(1)で表される組成からなり、Snよりも体積変化を緩慢にする作用を有する原子(Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rh、Pd、Ag、CdおよびInおよびGe等)を含むマンガン窒化物を磁気冷却用磁性材料として採用することにより、急激な体積変化に由来する衝撃を和らげるとともに、大きな磁気モーメント伸長を、ある一定の幅を持った温度域にわたり持続的に生じさせ、一つの組成が磁気冷却剤として機能する温度域を広げることができる。
さらに、一般式(1)で表される組成からなり、Fe、Ta、CrまたはNbを含むマンガン窒化物を磁気冷却用磁性材料として、採用することにより、磁気冷却用磁性材料の動作温度を制御できるため好ましい。
さらにまた、一般式(1)で表される組成からなるマンガン窒化物は、他の磁気冷却用磁性材料と併用して、または、他の磁気冷却用磁性材料の補助剤としても用いることができる。
そのほか、一般式(1)で表される組成からなるマンガン窒化物は蓄冷剤等としても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0040】
(1)熱膨張抑制剤の作製
Mn3A1NおよびMn3A2N(A1およびA2は、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Pd、Ag、InまたはSn、以下同じ)を、Mn2NおよびAがMn:A1またはA2=3:1のモル比になるよう秤量・撹拌した後、石英管に真空封入(〜10-3 torr)し、500〜770℃で60〜70時間加熱・焼成して得た。但し、Mn3GaNは、Mn2NとGaNとを原料とし、窒素ガス1気圧、760℃で60時間加熱・焼成して得た。また、Mn4Nについては金属Mnを原料とし、窒素ガス1気圧、450℃で120時間加熱・焼成して得た。
そして、Mn3A11-x1A2x1Nは、上記の方法で作製したMn3A1NとMn3A2Nの粉末を目的のモル比(1−x1):(x1)で混合・撹拌した後、錠剤型に押し固めて、真空封入もしくは窒素ガス1気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱を行い、焼成・焼結して得た。
Mn3GaCは、Mn、Ga、C(炭素原子)を、順に、3:1:1.05のモル比で、秤量・撹拌した後、石英管に真空封入(〜10×-3 torr)し、550〜850℃で80〜120時間加熱・焼成して得た。ここで、Cの比率が1.05であるのは、焼成中の炭素欠損を補うためである。得られたMn3GaCを用い、下記組成となるよう、例えば、Mn3Ga1-xA2xN1-yCyの場合、Mn3GaN、Mn3A2N、Mn3GaCの粉末を(1−x−y): x: yのモル比で混合・撹拌した後、錠剤型に押し固めて、石英管に真空封入し、800℃、60〜80時間加熱・焼成して、炭素置換体を得た。
Mn3-x2A3x2A11-x3A2x3Nは、原料をMn2N、単体A3(Fe、Ta、CrおよびNb)もしくはA34N、単体A1、A2として、Mn:A3:A1:A2=(3−x2):x2:(1−x3):x3のモル比となるよう秤量・撹拌した後、石英管に真空封入したものを650〜770℃で60〜70時間加熱してまず粉末試料を作製し、それを錠剤型に押し固めたものを真空封入もしくは窒素ガス1気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱を行い、焼結して得た。
上記の試料作製において、原料は全て純度99.9%以上の粉末であった。原料粉などの撹拌は全て窒素ガス中で行った。なお、用いた窒素ガスはフィルター(日化精工、DC−A4およびGC−RX)により水分と酸素を除去した。作製した試料は粉末X線回折(デバイ・シェラー法)により評価し、単相、室温で立方晶であることを確認した。
(1−1)高圧窒素処理
さらに、一部の試料においては、上記(1)において、窒素ガス1気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱を行い、焼結した後、窒素ガス8気圧の雰囲気で800℃、60時間の加熱処理を行なった。
【0041】
(2)膨張率の測定
熱による線膨張率の測定にはストレイン・ゲージ(共和電業、KFL−02−120−C1−11)を用いた。4×4×1mm3の板状に成形した焼結体試料に、接着剤(共和電業、PC−6)を用いてストレイン・ゲージを貼り付けた。文書用ダブルクリップ(コクヨJ−35)で挟むことで荷重をかけた状態で、窒素ガス1気圧の雰囲気のもと、80℃で1時間、130℃で2時間、150℃で2時間維持した後、クリップをはずして、さらに窒素ガス1気圧の雰囲気のもと、150℃で2時間維持して、焼き付けを行った。ストレイン・ゲージの抵抗値Rは物理特性評価システム(カンタム・デザイン、PPMS6000)で測定した。参照試料として無酸素銅板(純度99.99%)を用い、その銅板に同様の方法で焼き付けたストレイン・ゲージの抵抗歪み値ΔR/Rをまず測定した。次にCuについての線膨張率の文献値[G. K. White and J. G. Collins, J. Low Temp. Phys. 7, 43 (1972); G. K. White, J. Phys. D: Appl. Phys. 6, 2070 (1973)] から、試料に焼き付けたストレイン・ゲージの抵抗歪み値から差し引くべき補正値を算出した。それを用いて試料の線膨張率ΔL/Lを求めた。なお、等方的な物質の場合、体膨張率ΔV/Vを3で割ったものが、線膨張率に相当し、本実施例のものはすべて等方的なものである。
【0042】
(3)以下、結果を図に示す。
ここで、図1は、Mn3CuxGe1-xNの線膨張率を測定したものであって、図中の数字(0.5、0.55.0.6.0.7)は、xに相当する値である。同様に、図2も、Mn3CuxGe1-xNの線膨張率を測定したものであって、図中の数字(0.45、0.5)は、xに相当する値である。図3〜図11は、図中に示したマンガン窒化物の線膨張率を測定したものある。
下記表1に、具体的数値を示す。ここで、Tminは、負の線膨張率が認められた最低温度を、Tmaxは、今回測定した範囲内で、負の線膨張率が確実に認められた最高温度を示す。従って、Tmin〜Tmaxの温度域(ΔTで表す)では、少なくとも、負の線膨張率が確実に認められることになるが、必ずしも、この範囲に限定されるものではない。すなわち、本実施例では、127℃(400K)までしか測定されていないため明確ではないが、例えば、図2に示されるマンガン窒化物では、負の線膨張率のTmaxが、127℃よりも高い温度であることは容易に推測できるからである(表1中、*127と記載。)。もちろん、実験誤差によって、上記TminやTmaxよりも広い温度域において、負の線膨張率を含む場合がありうることも考慮されるべきである。
また、表1中、(N2-8atm)記載されている試料は、上記高圧窒素処理を行なった試料である。
【0043】
【表1】
【0044】
図12および図13に示すとおり、高圧窒素処理をすることにより、Tminの温度を低下させることが可能になった。この結果、さらに、線膨張を起こす領域を調整しやすくなった。また負の膨張性を大きくすることが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の熱膨張抑制剤は、通常材料が示す熱膨張を相殺する温度補償材として利用することができ、特定の温度範囲において温度上昇とともに収縮する、負の熱膨張材料を作製することができる。さらに、特定の温度範囲においては、正にも負にも膨張しない、ゼロ熱膨張材料をも作製できる。
具体的には、温度による形状や寸法の変化を嫌う精密光学部品や機械部品、ファイバーグレーティングの温度補償材、プリント回路基板、熱スィッチ、歯科材料、冷凍機部品などに利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2−2)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶。
一般式(2−2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
一般式(2−2)中、A21、A22、B、x2、およびy2は、以下のi)またはii)の何れかの条件を満たす。
i)A21およびA22は、(A21、A22)=(Ni、Ge)、(Ni、Sn)、(Cu、Ge)、(Cu、Sn)、(Zn、Ge)、(Zn、Sn)、(Ga、Ge)、(Ga、Sn)、(In、Ge)および(In、Sn)のいずれかであり、0<x2<1、0.35<y2<0.8、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。
ii)A21およびA22は、(A21、A22)=(Ni、Ge)、(Ni、Sn)、(Zn、Ge)、(Zn、Sn)、(Ga、Sn)および(In、Ge)のいずれかであり、x2=0であり、0.35<y2<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。
【請求項2】
下記一般式(4)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶。
一般式(4)
Mn3-x4A41y4A421−y4A43x4B
(一般式(4)中、A41およびA42は、(A41、A42)=(Ni、Ge)、(Ni、Sn)、(Cu、Ge)、(Cu、Sn)、(Zn、Ge)、(Zn、Sn)、(Ga、Ge)、(Ga、Sn)、(In、Ge)および(In、Sn)のいずれかであり、A43は、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
【請求項3】
下記1)〜26)の何れか一つの組成からなるマンガン窒化物結晶。
1)Mn3Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、
2)Mn3Zn0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、
3)Mn3Ag0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、
4)Mn3In0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、
5)Mn3Ga0.5〜0.7Sn0.3〜0.5N、
6)Mn3Ga0.7〜0.9Sn0.1〜0.3N、
7)Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、
8)Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、
9)Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、
10)Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.45〜0.65Ge0.35〜0.55N、
11)Mn2.90〜2.92Cr0.08〜0.10GaN、
12)Mn2.75〜2.95Nb0.05〜0.25Zn0.4〜0.6Sn0.4〜0.6N、
13)Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Cu0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、
14)Mn2.80〜2.90Ta0.10〜0.20Cu0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、
15)Mn3.0〜3.2Zn0.3〜0.5Ge0.4〜0.5N、
16)Mn3.05〜3.15Zn0.3〜0.5Ge0.35〜0.55N、
17)Mn3.03〜3.23Ga0.57〜0.77Ge0.1〜0.3N、
18)Mn3.05〜3.25Ga0.45〜0.65Ge0.2〜0.4N、
19)Mn3.07〜3.27Ga0.53〜0.73Ge0.1〜0.3N、
20)Mn3.1〜3.3Ga0.5〜0.7Ge0.1〜0.3N、
21)Mn3Ga0.7〜0・9Ge0.1〜0.3N0.94〜0.96C0.04〜0.06、
22)Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.92〜0.94C0.06〜0.08、
23)Mn3Ga0.60〜0.70Ge0.30〜0.40N0.92〜0.94C0.06〜0.08、
24)Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.89〜0.91C0.09〜0.11、
25)Mn3In0.65〜0.85Co0.15〜0.35N、
26)Mn3Cu0.70〜0.90Pd0.10〜0.30N
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のマンガン窒化物結晶を含む、負の熱膨張材料。
【請求項5】
ガラス、樹脂、セラミック、金属又は合金(但しこれらはマンガン窒化物結晶ではない)に、マンガン窒化物結晶を添加又は混合してなる、負の熱膨張材料。
【請求項6】
上記マンガン窒化物結晶が請求項1〜3の何れか一項に記載のものである、請求項5に記載の負の熱膨張材料。
【請求項1】
下記一般式(2−2)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶。
一般式(2−2)
Mn3+x2A21y2A221-x2-y2B
一般式(2−2)中、A21、A22、B、x2、およびy2は、以下のi)またはii)の何れかの条件を満たす。
i)A21およびA22は、(A21、A22)=(Ni、Ge)、(Ni、Sn)、(Cu、Ge)、(Cu、Sn)、(Zn、Ge)、(Zn、Sn)、(Ga、Ge)、(Ga、Sn)、(In、Ge)および(In、Sn)のいずれかであり、0<x2<1、0.35<y2<0.8、かつ、1>x2+y2であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。
ii)A21およびA22は、(A21、A22)=(Ni、Ge)、(Ni、Sn)、(Zn、Ge)、(Zn、Sn)、(Ga、Sn)および(In、Ge)のいずれかであり、x2=0であり、0.35<y2<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。
【請求項2】
下記一般式(4)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶。
一般式(4)
Mn3-x4A41y4A421−y4A43x4B
(一般式(4)中、A41およびA42は、(A41、A42)=(Ni、Ge)、(Ni、Sn)、(Cu、Ge)、(Cu、Sn)、(Zn、Ge)、(Zn、Sn)、(Ga、Ge)、(Ga、Sn)、(In、Ge)および(In、Sn)のいずれかであり、A43は、Fe、Ta、CrおよびNbのいずれかであり、0<x4<0.3かつ0.35<y4<0.8であり、さらに、Bは一部が炭素原子で置換されていてもよい窒素原子である。)
【請求項3】
下記1)〜26)の何れか一つの組成からなるマンガン窒化物結晶。
1)Mn3Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、
2)Mn3Zn0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、
3)Mn3Ag0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、
4)Mn3In0.65〜0.85Ge0.15〜0.35N、
5)Mn3Ga0.5〜0.7Sn0.3〜0.5N、
6)Mn3Ga0.7〜0.9Sn0.1〜0.3N、
7)Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、
8)Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、
9)Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.4〜0.6Ge0.4〜0.6N、
10)Mn2.87〜2.89Fe0.11〜0.13Zn0.45〜0.65Ge0.35〜0.55N、
11)Mn2.90〜2.92Cr0.08〜0.10GaN、
12)Mn2.75〜2.95Nb0.05〜0.25Zn0.4〜0.6Sn0.4〜0.6N、
13)Mn2.93〜2.95Fe0.05〜0.07Cu0.3〜0.5Ge0.5〜0.7N、
14)Mn2.80〜2.90Ta0.10〜0.20Cu0.5〜0.7Ge0.3〜0.5N、
15)Mn3.0〜3.2Zn0.3〜0.5Ge0.4〜0.5N、
16)Mn3.05〜3.15Zn0.3〜0.5Ge0.35〜0.55N、
17)Mn3.03〜3.23Ga0.57〜0.77Ge0.1〜0.3N、
18)Mn3.05〜3.25Ga0.45〜0.65Ge0.2〜0.4N、
19)Mn3.07〜3.27Ga0.53〜0.73Ge0.1〜0.3N、
20)Mn3.1〜3.3Ga0.5〜0.7Ge0.1〜0.3N、
21)Mn3Ga0.7〜0・9Ge0.1〜0.3N0.94〜0.96C0.04〜0.06、
22)Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.92〜0.94C0.06〜0.08、
23)Mn3Ga0.60〜0.70Ge0.30〜0.40N0.92〜0.94C0.06〜0.08、
24)Mn3Ga0.6〜0.8Ge0.2〜0.4N0.89〜0.91C0.09〜0.11、
25)Mn3In0.65〜0.85Co0.15〜0.35N、
26)Mn3Cu0.70〜0.90Pd0.10〜0.30N
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のマンガン窒化物結晶を含む、負の熱膨張材料。
【請求項5】
ガラス、樹脂、セラミック、金属又は合金(但しこれらはマンガン窒化物結晶ではない)に、マンガン窒化物結晶を添加又は混合してなる、負の熱膨張材料。
【請求項6】
上記マンガン窒化物結晶が請求項1〜3の何れか一項に記載のものである、請求項5に記載の負の熱膨張材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−140324(P2012−140324A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53250(P2012−53250)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2006−527870(P2006−527870)の分割
【原出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2006−527870(P2006−527870)の分割
【原出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
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