説明

マンガン酸化物の製造方法

【課題】
本発明は、マンガン酸化物を製造する際に副生する廃水溶液を再生して環境に負荷を与えないマンガン酸化物の製造方法を提供する。さらには、廃水溶液からの再生物を原料として再利用するだけでなく、安定かつ効率的にマンガン酸化物を製造することができる方法を提供するものである。
【解決手段】
マンガン塩水溶液及びアルカリ水溶液からマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する第一工程、該第一工程で回収された水溶液のpHを9以上とした後に固相と水溶液とを分離して回収する第二工程、該第二工程で回収された水溶液を電気分解して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得る第三工程を含むことを特徴とするマンガン酸化物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン酸化物の製造する方法に関する。特に、副生物の生成がなく、環境負荷が小さいマンガン酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池需要の増大に伴い、その正極材のリチウムマンガン系複合酸化物用原料であるマンガン酸化物の需要が増大している。
【0003】
リチウムマンガン系複合酸化物用原料のマンガン酸化物として、化学法により得られるマンガン酸化物が用いられている(例えば、特許文献1)。しかしながら、化学法によるマンガン酸化物の製造においては、マンガン酸化物以外にアルカリと酸との塩を含む廃水溶液が副生物として多量に生成する。
【0004】
一方で、電気分解法、いわゆる電解法による酸とアルカリの製造方法が知られている(特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−272629号公報
【特許文献2】特許3182216号公報
【特許文献3】特許3196382号公報
【特許文献4】特開平06−293986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化学法によるマンガン酸化物の工業的な製造の際に副生する廃水溶液は、その原料由来の塩を含んだ水溶液である。通常、廃水溶液は環境基準を満たすように処理された後、廃棄されていた。廃水溶液は主に硫酸ナトリウム(以下、「芒硝」とする)水溶液や、硝酸ナトリウム水溶液である場合が多く、その廃棄及び廃棄量の増加は環境に負荷を与えるものであった。
【0007】
一方、電解法により硫酸ナトリウムを硫酸と水酸化ナトリウムとに再生する技術、いわゆる芒硝電解や、硝酸ナトリウム水溶液を硝酸と水酸化ナトリウムとに再生する技術など、電解法による酸・アルカリへの再生技術(以下、「塩再生電解」とする)が開示されている。
【0008】
しかしながら、マンガン酸化物の製造の際に副生する廃水溶液に塩再生電解を適用した場合、電解が不安定になるなど連続的な電解が行なえない。そのため、化学法による工業的なマンガン酸化物の製造で排出される廃水溶液には塩再生電解は適用することはできず、工業的な規模でこれらの廃水溶液を酸・アルカリへ再生することができなかった。
【0009】
本発明はこれらの課題を解決し、マンガン酸化物を製造する際に副生する廃水溶液を酸・アルカリとして再生し、これを用いることによる環境に負荷を与えないマンガン酸化物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等はリチウムマンガン系複合酸化物の原料となるマンガン酸化物の製造方法について鋭意検討を重ねた。その結果、非常に簡便な工程を経ることによって、マンガン酸化物を製造した際の廃水溶液に塩再生電解が適用できることを見出した。これにより、当該廃水溶液を有価な原料として再生できること、さらには、これをマンガン酸化物の原料として再利用して、連続的なマンガン酸化物の製造ができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明はマンガン塩水溶液及びアルカリ水溶液からマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する第一工程、該第一工程で回収された水溶液のpHを9以上とした後に固相と水溶液とを分離して回収する第二工程、該第二工程で回収された水溶液を電気分解して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得る第三工程を含むことを特徴とするマンガン酸化物の製造方法である。
【0012】
以下、本発明のマンガン酸化物の製造方法について説明する。
【0013】
本発明の製造方法は、マンガン塩水溶液及びアルカリ水溶液からマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収することを第一工程とする。
【0014】
第一工程で使用するマンガン塩水溶液は、硫酸マンガン水溶液、塩化マンガン水溶液、又は硝酸マンガン水溶液のいずれか一種以上を例示することができる。このようなマンガン塩水溶液は、金属マンガン、又はマンガン鉱石を還元処理したマンガン還元鉱などを酸水溶液に溶解することで得られる。金属マンガン等を溶解する酸水溶液としては、硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液などを例示することができる。第一工程で使用するマンガン塩水溶液としては、硫酸マンガン水溶液又は硝酸マンガン水溶液であることが好ましく、硫酸マンガン水溶液がより好ましい。
【0015】
第一工程においてマンガン酸化物が得られれば、マンガン塩水溶液中のマンガン濃度は特に制限はない。好ましいマンガン塩水溶液中のマンガン濃度は1mol/L以上、より好ましくは1mol/L以上、5mol/L以下を例示することができる。
【0016】
第一工程で使用するアルカリ水溶液は、水酸化アルカリ金属水溶液又は水酸化アルカリ土類金属水溶液、又はアンモニア水溶液のいずれか一種以上を例示することができる。アルカリ水溶液としては、水酸化アルカリ金属水溶液であることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液であることがより好ましい。
【0017】
第一工程においてマンガン酸化物が得られれば、アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は特に制限はない。好ましいアルカリ水溶液中のアルカリ濃度は1mol/L以上、より好ましくは1mol/L以上、5mol/L以下を例示することができる。
【0018】
第一工程では、これらのマンガン塩水溶液及びアルカリ水溶液からマンガン酸化物を化学的に製造することができる。例えば、マンガン塩水溶液及びアルカリ水溶液を混合することにより、マンガン酸化物を析出させることができる。マンガン酸化物が析出した後、これをろ過等によりってマンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する。
【0019】
第一工程で製造されるマンガン酸化物の種類は、ニ酸化マンガン、二三酸化マンガン、四三酸化マンガン又はそれらの混合物を例示することができる。
【0020】
本発明の製造方法の好ましい第一工程として、マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずにマンガン酸化物を晶析させた後、マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する方法を挙げることができる。
【0021】
ここで、マンガン水酸化物を経由せずにマンガン酸化物を晶析させることとは、マンガン塩水溶液からアルカリ性領域でマンガン水酸化物結晶を析出させ、該マンガン水酸化物を酸化剤によって酸化するという工程を経ることなく、マンガン塩水溶液のpHをマンガン水酸化物の生成し難いpHとして、直接、水溶液中のマンガンイオンを酸化してマンガン酸化物を晶析することをいう。
【0022】
このような第一工程としては、マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液をpH6以上で混合してマンガン酸化物を晶析させた後、マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する方法を挙げることができる。晶析の際のpHは弱酸性から弱アルカリ性までのpHとすることが好ましい。このようなpHとすることで、充填性の高いマンガン酸化物がより晶析しやすくなる。さらに、晶析の際のpHの下限は6以上が好ましく、6.5以上であることがより好ましい。また、晶析の際のpHの上限は9以下が好ましく、8.5以下であることがより好ましい。
【0023】
さらに、第一工程における晶析は、実質的に錯化剤が共存しない状態で行なうことが好ましい。ここで、錯化剤とは、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、及びEDTAの他、これらと同様の錯化能を有するものを指す。
【0024】
本発明の製造方法は、第一工程で回収された水溶液のpHを9以上とした後に固相と水溶液とを分離して回収することを第二工程とする。このようにして得られた水溶液を第三工程で電気分解することで電解電圧が安定化する。
【0025】
水溶液のpHを上記の範囲とすることにより電解電圧が安定化する理由は必ずしも定かではない。しかしながら、pHを上記の範囲とすることにより水溶液中に僅かに溶存しているマンガンイオンによるイオン交換膜へのダメージが抑止されることが理由のひとつとして考えられる。
【0026】
第二工程では、第一工程で回収された水溶液のpHを9以上とし、10以上とすることが好ましい。水溶液のpHをこの範囲にすることで、第一工程で得られた水溶液中に残存するマンガンイオンが固相として析出する。水溶液のpHが9未満であると、水溶液中に含まれるマンガンイオンが析出せず、第三工程に送られる水溶液中の不純物濃度が高くなる。その結果、第三工程における電解中の電解電圧が安定しなくなる。第二工程における水溶液のpHは13.5以下とすることが好ましく、13以下とすることがより好ましい。
【0027】
pH調整方法は特に限定されないが、第一工程で回収された水溶液のpHに応じて酸水溶液又はアルカリ水溶液をpH調整剤として水溶液に添加することが例示できる。酸溶液としては、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸水溶液などが例示できる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液等の水酸化アルカリ金属水溶液又は水酸化アルカリ土類金属水溶液、又はアンモニア水溶液のいずれか一種以上を例示することができる。第二工程で使用するpH調整剤は、第三工程で回収される酸水溶液又はアルカリ水溶液をpH調整剤として使用することが好ましい。
【0028】
第二工程では、第一工程で回収された水溶液の標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode;SHE)に対する酸化還元電位(Oxidation−Reduction Potential;以下、「ORP」とする)を−370mV以上とすることが好ましく、−140mV以上とすることがより好ましく、−70mV以上とすることが更に好ましく、0mV以上とすることが更に好ましく、100mV以上とすることが更により好ましい。
【0029】
ORPは0mV以上であれば、その上限は特に限定されない。例えば、ORPの上限として1200mV以下、更には、160mV以下を挙げることができる。
【0030】
ORPを調整する方法は特に限定されないが、空気又は酸素を水溶液中に混合する方法、酸化剤を水溶液中に混合する方法が例示できる。
【0031】
第二工程では、第一工程で回収された水溶液中の2価の陽イオン濃度を5重量ppm以下とすることが好ましく、2重量ppm以下とすることがより好ましく、1重量ppm以下とすることがより好ましい。2価の陽イオンの濃度を少なくすることで、次いで第三工程で行われる塩再生電解で使用する電解膜等が劣化しにくくなる。これにより、より長期間、連続的にマンガン酸化物を製造することができる。2価の陽イオンの中でも特にマグネシウムイオン(Mg2+)及びカルシウムイオン(Ca2+)が、上記の濃度とすることが好ましい。
【0032】
pHを調整後の水溶液若しくはpH及びOPR調整後の水溶液は、これをろ過等することによって、マンガンと上記のイオンを含んだ固相と水溶液とを分離して回収することができる。マンガンと上記のイオンを含んだ固相は回収し、これを第一工程で使用するマンガン塩水溶液の原料として再利用することができる。
【0033】
本発明の製造方法では、第二工程で回収された水溶液を電気分解(以下、「電解」ともいう)して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得ることを第三工程とする。
【0034】
固相を分離した後の水溶液は電解する。これにより、水溶液を酸水溶液とアルカリ水溶液とに分離することができる。
【0035】
電解の方法は、水溶液中の塩を酸とアルカリとに分離できる方法であれば特に限定されない。本発明の製造方法に適用できる電解の方法としては、例えば、カチオン交換膜により陽極室と陰極室に分離された2室型電解による電解法や、カチオン交換膜とアニオン交換膜により陽極室、中間室、陰極室に分離された3室型電解による電解法が例示できる(図1)。
【0036】
本発明の製造方法における電解に使用する電極、カチオン交換膜、アニオン交換膜等は、特に制限はない。電極として、ガス発生型電極又はガス拡散型電極を例示することができ、電極の材質も通常用いられる電極を使用することができる。また、カチオン交換膜としてナフィオン膜や、アニオン交換膜としてセレミオン膜などを例示することができる。
【0037】
本発明の第三工程における電解温度は使用するカチオン交換膜又はアニオン交換膜の耐熱性により適宜調整することができる。炭化水素系のカチオン交換膜又はアニオン交換膜を使用した場合、電解温度として55℃以下、さらには50℃未満、また更には40℃以下を例示することができる。
【0038】
第三工程では、第二工程において回収された水溶液を電解するため、安定して塩再生電解を行うことができる。そのため、電解中の電解電圧は変動が少なく、例えば、50時間以上の電解において電解電圧の変動が1V以下、さらには0.1V以下、またさらには0.05V以下とすることができる。
【0039】
本発明の製造方法では、第三工程で得られる酸水溶液又はアルカリ水溶液若しくはその両者を、第一工程又は第二工程若しくはその両者で利用することが好ましい。これにより、廃水溶液が回収できるだけでなく、これらをマンガン酸化物の原料として再利用することができる。
【0040】
第三工程により得られるアルカリ水溶液は、第一工程のマンガン酸化物製造の際に添加するアルカリ水溶液や、第二工程におけるpH調整剤として使用できる。
【0041】
一方、第三工程により得られる酸水溶液は、第一工程で使用されるマンガン塩水溶液を調製する際の酸水溶液として使用できるだけでなく、第二工程におけるpH調整剤として使用することもできる。
【0042】
さらに、第三工程で得られる酸水溶液及びアルカリ水溶液は、酸及びアルカリとして任意の用途に使用することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の製造方法は、マンガン酸化物を製造する際に副生する廃水溶液を再利用した、環境に負荷を与えないマンガン酸化物の製造方法とすることができる。さらには、廃水溶液からの再生物を原料として再利用できるだけでなく、安定かつ効率的にマンガン酸化物を製造することができる方法とすることができる。
【0044】
さらには、本発明の第二工程、及び第三工程により、マンガン酸化物製造時の廃水溶液を用いた酸及びアルカリの製造方法とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】電解槽の概要(A:2室型電解槽、B:3室型電解槽)
【図2】本発明の製造方法のプロセス概要
【実施例】
【0046】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(pHの測定)
市販のpHメーター(商品名:pH METER D51、堀場製作所製)を用い、各工程の水溶液のpHを測定した。
(標準水素電極に対する酸化還元電位の測定)
機器市販のORPメーター(商品名:pH METER D52、堀場製作所製)を用い、各工程の水溶液のORPを測定した。
(組成分析)
各工程で水溶液は、誘電結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により、その組成を分析した。
【0047】
実施例1
(第一工程)
2mol/Lの硫酸マンガン水溶液と2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とを混合してマンガン酸化物を含む懸濁水溶液を得た。混合条件は、温度を80℃、pHを8.5とした。
【0048】
得られたマンガン酸化物は、結晶相をXRDで分析した。その結果、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガンであることが分った。さらに、当該四三酸化マンガンの粒子形状をSEM観察により確認した。その結果、当該四三酸化マンガンは球状の粒子形態をしており、水酸化マンガンに由来する六角板状の粒子は確認されなかった。これにより、当該四三酸化マンガンは、マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに晶析したものであることが分かった。
【0049】
得られた懸濁水溶液をろ過し、四三酸化マンガンと芒硝水溶液とを得た。得られた芒硝水溶液の濃度は0.66mol/Lであった。
【0050】
(第二工程)
第一工程で得られた芒硝水溶液に硫酸と空気を混合し、当該芒硝水溶液のpHを10とした。なお、この際の芒硝水溶液のORPは100mVであった。pH調整後のマンガンイオンを含む芒硝水溶液をろ過分離し、マンガンを含む固相と芒硝水溶液とを得た。
【0051】
マンガンを含む固相は硫酸マンガンの原料として再利用した。
【0052】
(第三工程)
第二工程で得られた芒硝水溶液を電気分解し、硫酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0053】
電気分解は、陽極室と陰極室に分離された2室型電解槽を用いて電解で行なった。2室型電解槽において、陽極室と陰極室はカチオン交換膜(ナフィオン膜,デユポン社製)により分離した。陽極電極には白金電極を使用し、陰極電極にはニッケル電極使用した。
【0054】
陽極室には第二工程で得られた芒硝水溶液を添加し、陰極室へは水を添加しながら電解を行なった。芒陽極室から排出される硫酸濃度、及び陰極室から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度が、それぞれ2mol/L及び11mol/Lになるようにして硝水溶液及び水の流量を調整し、電解を行なった。また、電解の電流密度は20A/dmとし、電解温度は40℃とした。電解電圧は電解開始から10時間経過後も安定し、硫酸と水酸化ナトリウム水溶液を連続的に得ることができた。
【0055】
陽極室から得られた硫酸は硫酸マンガンの原料及び第二工程のpH調整に使用した。また、陰極室から得られた水酸化ナトリウムは第一工程及び第二工程のpH調整に利用した。
【0056】
この様な第一工程から第三工程を連続的に行い、連続的に四三酸化マンガンを製造することができた。
【0057】
実施例1におけるマンガン酸化物の製造方法のフロー図を図2に示した。
【0058】
実施例2
陽極室、中間室及び陰極室からなる3室型電解槽を2室型電解槽の代わりに第三工程で使用したこと以外は、実施例1と同様にしてマンガン酸化物を得た。
【0059】
3室型電解槽において、陽極室と中間室はアニオン交換膜(セレミオン膜,旭硝子社製)で分離し、中間室と陰極室はカチオン交換膜(ナフィオン膜,デュポン社製)で分離した。陽極電極として白金陽極を使用し、陰極電極としてニッケル電極を使用した。
【0060】
中間室に第二工程で得られた芒硝水溶液を添加し、陽極室及び陰極室には水を流入しながら電解を行なった。陽極室から排出される硫酸濃度及び陰極室から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度が、それぞれ2mol/L及び11mol/Lになるように芒硝水溶液及び水の流量を調整して電解を行なった。また、電解の電流密度は20A/dmとした。電解電圧は電解開始から10時間経過後も安定し、硫酸と水酸化ナトリウム水溶液を連続的に得ることができた。
【0061】
陽極室から得られた硫酸は硫酸マンガンの原料及び第二工程のpH調整に使用した。また、陰極室から得られた水酸化ナトリウムは第一工程及び第二工程のpH調整に利用した。
【0062】
この様な第一工程から第三工程を連続的に行い、連続的に四三酸化マンガンを製造することができた。
【0063】
実施例3
(第一工程)
2mol/Lの硫酸マンガン水溶液と4mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とを混合してマンガン酸化物を含む懸濁水溶液を得た。混合条件は、温度を80℃、pHを7とした。
【0064】
得られたマンガン酸化物は、結晶相をXRDで分析した。その結果、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガンであることが分った。さらに、当該四三酸化マンガンの粒子形状をSEM観察により確認した。その結果、当該四三酸化マンガンは球状の粒子形態をしており、水酸化マンガンに由来する六角板状の粒子は確認されなかった。これにより、当該四三酸化マンガンは、マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに晶析したものであることが分かった。
【0065】
得られた懸濁水溶液をろ過し、四三酸化マンガンと芒硝水溶液とを得た。得られた芒硝水溶液の濃度は1.2mol/Lであった。
【0066】
(第二工程)
第一工程で得られた芒硝水溶液に硫酸と空気を混合し、当該芒硝水溶液のpHを13.4とした。なお、この際の芒硝水溶液のORPは−134mVであった。pH調整後のマンガンイオンを含む芒硝水溶液をろ過分離し、マンガンを含む固相と芒硝水溶液とを得た。
【0067】
得られた芒硝水溶液はマンガン、マグネシウム、カルシウムの濃度が、いずれも検出限界以下であった。
【0068】
マンガンを含む固相は硫酸マンガンの原料として再利用した。
【0069】
(第三工程)
第二工程で得られた芒硝水溶液を使用したこと以外は、実施例2と同様な方法で電解し、硫酸及び水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0070】
電解開始後の電解電圧及び電開始72時間後の電解電圧は、それぞれ4.60V及び4.59Vあり、電圧変動は0.01Vであった。これにより、安定して硫酸と水酸化ナトリウム水溶液を連続的に得ることができた。
【0071】
陽極室から得られた硫酸は硫酸マンガンの原料及び第二工程のpH調整に使用した。また、陰極室から得られた水酸化ナトリウムは第一工程及び第二工程のpH調整に利用した。
【0072】
この様な第一工程から第三工程を連続的に行い、連続的に四三酸化マンガンを製造することができた。
【0073】
実施例4
(第一工程)
実施例3と同様な方法で、マンガン酸化物を含む懸濁水溶液を得た。
【0074】
(第二工程)
第一工程で得られた芒硝水溶液に硫酸と空気を混合し、当該芒硝水溶液のpHを13とした。なお、この際の芒硝水溶液のORPは−203mVであった。pH調整後のマンガンイオンを含む芒硝水溶液をろ過分離し、マンガンを含む固相と芒硝水溶液とを得た。
【0075】
得られた芒硝水溶液はマンガン及びマグネシウムの濃度は、いずれも検出限界以下であり、カルシウムの濃度が0.4ppmであった。
【0076】
マンガンを含む固相は硫酸マンガンの原料として再利用した。
【0077】
(第三工程)
当該第二工程で得られた芒硝水溶液を用いたこと、中間室への芒硝水溶液の供給速度を300mLにしたこと以外は、実施例3と同様に電気分解を行った。
【0078】
電解開始後の電解電圧及び電開始72時間後の電解電圧は、それぞれ3.73V及び3.95Vあり、電圧変動は0.02Vであった。これにより、安定して硫酸と水酸化ナトリウム水溶液を連続的に得ることができた。
【0079】
陽極室から得られた硫酸は硫酸マンガンの原料及び第二工程のpH調整に使用した。また、陰極室から得られた水酸化ナトリウムは第一工程及び第二工程のpH調整に利用した。
【0080】
この様な第一工程から第三工程を連続的に行い、連続的に四三酸化マンガンを製造することができた。
【0081】
実施例5
(第一工程)
2mol/Lの硫酸マンガン水溶液の代わりに2mol/Lの硝酸マンガン水溶液を使用したこと以外は実施例4と同様な方法により、マンガン酸化物を得た。
【0082】
得られたマンガン酸化物は、結晶相をXRDで分析した。その結果、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガンであることが分った。さらに、当該四三酸化マンガンの粒子形状をSEM観察により確認した。その結果、当該四三酸化マンガンは球状の粒子形態をしており、水酸化マンガンに由来する六角板状の粒子は確認されなかった。
【0083】
得られた懸濁水溶液をろ過し、四三酸化マンガンと硝酸塩水溶液とを得た。得られた硝酸塩水溶液の硝酸ナトリウム濃度は2.1mol/Lであった。
【0084】
(第二工程)
第一工程で得られた硝酸塩水溶液に4mol/Lの水酸化ナトリウムを添加し、pHを13とした。その後、60分間、空気を吹き込むことにより、固相を析出させた。固相の析出後、ろ過により、マンガンを含む固相と硝酸塩水溶液とを得た。
【0085】
得られた硝酸塩水溶液のpHは13.4、ORPは−215mVであり、硝酸ナトリウム濃度が1.7mol/L、及び、マンガン、マグネシウム、カルシウムの濃度は、いずれも0.3重量ppm未満であった。
【0086】
マンガンを含む固相は硝酸マンガンの原料として再利用した。
【0087】
(第三工程)
得られた硝酸塩水溶液を使用したこと、電解電流密度を10A/dmとしたこと、及び電解温度を40℃としたこと以外は実施例3と同様な方法で電解を行った。
【0088】
電解開始後の電解電圧及び電開始72時間後の電解電圧は、それぞれ3.95V及び3.95Vあり、電圧変動は0Vであった。これにより、安定して硫酸と水酸化ナトリウム水溶液を連続的に得ることができた。
【0089】
陽極室から得られた硫酸は硫酸マンガンの原料及び第二工程のpH調整に使用した。また、陰極室から得られた水酸化ナトリウムは第一工程及び第二工程のpH調整に利用した。
【0090】
この様な第一工程から第三工程を連続的に行い、連続的に四三酸化マンガンを製造することができた。
から第三工程を連続的に行い、連続的に四三酸化マンガンを製造することができた。
【0091】
比較例1
第二工程において、第一工程で得られたマンガンイオンを含む芒硝水溶液に硫酸混合し、マンガンイオンを含む当該芒硝水溶液のpHを4とし、なおかつ、ORPを−50mVとした以外は実施例1と同様にしてマンガン酸化物を得た。
【0092】
第一工程からマンガン酸化物は得られた。しかしながら、第三工程において電解電圧は、電解時間が経過するに従って上昇し、電解開始から10時間経過したときに電解電圧が1V上昇したため、電解を中止した。
【0093】
本比較例では電解電圧が安定せず、連続的な電解ができないだけでなく、得られる酸水溶液及びアルカリ水溶液を用いた連続的なマンガン酸化物の製造ができなかった。
【0094】
実施例及び比較例より、本発明の製造方法により、マンガン酸化物の製造時に排出される廃水溶液を、50時間以上、さらには72時間以上の塩再生電解できることが確認できた。さらに、廃水溶液から得た酸・アルカリを用い、連続的に四三酸化マンガンが製造できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、リチウム二次電池の正極材料として用いられるリチウムマンガン複合酸化物の原料であるマンガン酸化物の製造に使用することができる。
【0096】
さらには、本発明はマンガン酸化物製造時の廃水溶液の処理方法、又は、マンガン酸化物製造時の廃水溶液を用いた酸・アルカリの製造方法としても使用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1:原料水溶液
2:水
3:酸水溶液
4:アルカリ水溶液
5:陽極
6:陰極
7:カチオン交換膜
8:アニオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン塩水溶液及びアルカリ水溶液からマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する第一工程、該第一工程で回収された水溶液のpHを9以上とした後に固相と水溶液とを分離して回収する第二工程、該第二工程で回収された水溶液を電気分解して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得る第三工程を含むことを特徴とするマンガン酸化物の製造方法。
【請求項2】
第二工程において、第一工程で回収された水溶液の標準水素電極に対する酸化還元電位を−370mV以上とすることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第三工程で得られる酸水溶液又はアルカリ水溶液若しくはその両者を、第一工程又は第二工程若しくはその両者で利用することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
マンガン塩が、硫酸マンガン又は硝酸マンガンのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
アルカリが、水酸化アルカリ金属であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28523(P2013−28523A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130909(P2012−130909)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】