説明

マンガン酸塩及びその製造方法並びにこれを用いた添加剤

【課題】
本発明は各種材料に添加剤として用いられるマンガン酸化物に関するものである。特に各種材料に強化材、補強材として使用され、分散性に優れるだけでなく、高強度の複合材料を与え、さらには安全性の高いマンガン酸化物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
結晶構造が層状であり、粒子形状が柱状であるマンガン酸塩を提供する。マンガン酸塩の結晶構造は、α-NaMnO、Birnessite型構造、又はβ-NaMnOの群から選ばれるいずれか1種以上であることが好ましい。さらには、平均長径が5μm以上75μm以下、平均短径が1.5μm以上10μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、摩擦材、塗料、潤滑材、耐熱材、断熱材、紙、軽金属など高分子材料や金属材料の補強材等として用いられる添加剤、特に無機系単繊維、無機系ウィスカーとして適したマンガン酸塩とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種材料の母材(マトリックス)の特性を向上させるため、これらに添加するウィスカーや短繊維と呼ばれる無機化合物からなる添加剤が用いられている。添加剤の中でもチタン酸カリウムの単結晶ウィスカーである6−チタン酸カリウム繊維は、耐熱性、機械的強度、並びに化学安定性が特に優れおり、更に、SiCなどのウィスカーに比べて安価である。そのため、6−チタン酸カリウム繊維は、プラスチック、摩擦材、塗料、潤滑材、耐熱材、断熱材、紙などへの添加剤として広く使用されている(例えば、特許文献1〜2)。
【0003】
しかしながら、6−チタン酸カリウム繊維などのウィスカーは使用する際に粉塵となりやすい。そのため、これを吸引することによる安全性の問題、例えば、発がん性の問題を有する。例えば、繊維の径が0.25以下、長さ8μm以上の繊維は腫瘍性が高いとされ、また、直径が3μm以下、長さが5μm以上かつ長さと直径との比が3以上の繊維は吸入性繊維とされ、発がん性の危険性を有する物質とされている(例えば、特許文献3)。
【0004】
一方、マンガン化合物は、その高い導電性のため、電池材料として検討されている。近年、マンガン化合物として繊維状のマンガン化合物、いわゆるマンガンナノワイヤーが報告されている(特許文献3、非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−55219号公報
【特許文献2】特開2000−313620号公報
【特許文献3】特開2000−256013号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. F. Stanton, Biological effect of asbestos (1973)
【非特許文献2】A. Eftekhari, Mater. Res. Bull.,40,2205 (2005)
【非特許文献3】M. M. Doeff, J. Electrochem. Soc.,143,2507 (1996)
【非特許文献4】E. Hosono, J. Power Sources,182,349 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はプラスチック、摩擦材、塗料、潤滑材、耐熱材、断熱材、紙、軽金属などの高分子材料や金属材料など、各種材料に添加剤として用いられるマンガン酸化物に関するものである。特に各種材料に強化材、補強材として使用され、分散性に優れるだけでなく、高強度の複合材料を与えるマンガン酸化物及びその製造方法を提供することを目的とする。さらには、いわゆる吸入性繊維にも該当せず、安全性にも優れたマンガン化合物及びその製造方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題に鑑み鋭意検討した。その結果、従来のマンガン化合物繊維に比べて平均短径が大きく、安全性の高い柱状のマンガン酸塩を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は結晶構造が層状であり、粒子形状が柱状であるマンガン酸塩である。
【0010】
以下、本発明のマンガン酸塩について説明する。
【0011】
本発明のマンガン酸塩は結晶構造が層状である。層状の結晶構造として、α-NaMnO(単斜晶、空間群C2/m)、Birnessite型構造、及びβ-NaMnO(斜方晶、空間群Pmnm)の群から選ばれるいずれか1種以上であることが好ましく、α‐NaMnOもしくはβ‐NaMnOのいずれかあることがより好ましく、α‐NaMnO及びβ‐NaMnOであることが好ましい。
【0012】
本発明のマンガン酸塩の結晶相は必ずしも単一相である必要はない。結晶構造が層状であれば、混合相であってもよい。
【0013】
本発明のマンガン酸塩は、その粒子形状が柱状である。粒子形状が柱状とは、例えば、アスペクト比が2以上であることが挙げられる。本発明のマンガン酸塩の粒子形状が柱状となることで、これを添加剤として用いたときのマトリックスと複合した際に得られる複合材料の特性、特に機械的特性が高くなる。
【0014】
本発明のマンガン酸塩は、平均アスペクト比が3以上30以下であることが好ましい。平均アスペクト比がこの範囲であることで、マンガン酸塩の粒子形状が、いわゆる柱状(もしくはウィスカー状)となりやすい。これにより、マンガン酸塩の粒子形状が添加剤としてより適した形状になる。平均アスペクト比は5以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。平均アスペクト比が5以上であることで樹脂などと複合化した場合の機械的強度が高くなる傾向にある。また、平均アスペクト比は30以下、好ましくは20以下、更に好ましくは15以下であれば、本発明のマンガン酸塩が添加剤としてより使用しやすい粉体形状となる。
【0015】
本発明のマンガン酸塩の平均短径は1.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。平均短径が1.5μm以上であることで安全性が高くなりやすく、3μm以上であることで吸入性繊維に該当せず一層安全性が高くなる。一方、平均短径が1.5μm以上であれば、その安全性が高くなるため、その上限に特に制限はない。そのため、平均短径の上限としては10μm以下を挙げることができる。
【0016】
本発明のマンガン酸塩の平均長径は5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。平均長径が5μm以上であることで、樹脂などと複合化した際の機械的強度が低下しにくくなる。一方、平均長径の上限値は50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。平均長径が50μm以下であることで、マンガン酸塩自体の分散性が低下することがなく、添加剤として使用したときに母材(マトリックス)との混合性が高くなりやすい。さらには、樹脂と混錬する際に、折損の可能性が低くなりやすい。
【0017】
なお、平均長径と平均短径は平均長径≧平均短径の関係を有する。平均長径、平均短径、及び平均アスペクト比は、例えば、以下の実施例に示した方法で測定できる値である。
【0018】
本発明のマンガン酸塩の組成は、(1)式で表されることが好ましい。
【0019】
MnO2+y・・・(1)
(但し、Mはアルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくとも1種、0.8≦x≦2、0≦y≦0.1)
(1)式において、Xは0.8≦x≦2であることが好ましく、1.0≦X≦1.5であることがより好ましい。Xがこの範囲であることで、短径の大きい柱状マンガン酸塩粒子が得られやすい。
【0020】
(1)式において、Li、Na、K、Mg及びCaの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Na、K、Caのいずれか1種以上であることがより好ましく、Naであることが更に好ましい。これらのアルカリ金属又はアルカリ土類金属は入手しやすいため、工業的に有利である。
【0021】
例えば、(1)式において、Mがナトリウム(Na)である場合、モル比で0.3≦Na/Mn≦1.5であることが好ましく、0.3≦Na/Mn≦1であることがより好ましい。Mがこの範囲であることで、短径が大きい粒子形状のマンガン酸塩の粒子が得られやすくなる。
【0022】
次に、本発明のマンガン酸塩の製造方法について説明する。
【0023】
本発明のマンガン酸塩は、特定の粒子径の原料を用い、これを焼成することではじめて製造することができる。すなわち、本発明のマンガン酸塩は、平均粒子径が0.1μm以上4.5μm以下のマンガン酸化物を、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物もしくはその両者と混合し、焼成することによって製造することができる。
【0024】
本発明の製造方法において、マンガン酸化物の平均粒子径は0.1μm以上4.5μm以下であり、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上1μm以下であることが更に好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることが更により好ましい。マンガン酸化物の平均粒子径をこの範囲にすることで、本発明のマンガン酸塩が得られる。また、マンガン酸化物の平均粒子径を0.1μm以上3μm以下とすることで、単離性の高い均一な粒子形状のマンガン酸塩が得られる傾向がある。
【0025】
本発明の製造方法において、原料のマンガン酸化物の酸素組成や結晶構造は得られるマンガン酸塩への影響は小さい。そのため、原料のマンガン酸化物としては、電解二酸化マンガン、化学法二酸化マンガン、四酸化三マンガン、三酸化二マンガン又はオキシ水酸化マンガンなどのいずれか1種以上を例示することができる。これらのマンガン酸化物の中でも、電解二酸化マンガン、化学法二酸化マンガン又は四酸化三マンガンであることが好ましく、電解二酸化マンガン又は四三酸化マンガンであることがより好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物若しくはその両者(以下、「アルカリ金属化合物等」と称す)は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む炭酸塩、水酸化物、硝酸塩などを例示できる。
【0027】
アルカリ金属化合物等は、Li、Na、K、Mg又はCaのいずれか1種以上を含んだ化合物であることが好ましく、Na、K、Caのいずれか1種以上を含んだ化合物であることがより好ましく、Naを含んだ化合物であることが更に好ましい。アルカリ金属化合物等がNaを含んだ化合物(ナトリウム化合物)である場合、アルカリ金属化合物等として、過マンガン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム又は硝酸ナトリウムなどが例示でき、好ましくは炭酸ナトリウムを例示することができる。
【0028】
本発明の製造方法において、アルカリ金属化合物等の平均粒子径は0.1μm以上4.5μm以下であり、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上1μm以下であることが更に好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であることが更により好ましい。アルカリ金属化合物等の平均粒子径をこの範囲とすることで、マンガン酸化物との反応性が向上し、得られるマンガン酸塩の組成が均一になりやすい。
【0029】
本発明の製造方法において、マンガン酸化物とアルカリ金属化合物等の混合比は、モル比で1.0≦M/Mn≦2.0であることが好ましく、1.1≦M/Mn≦1.6であることがより好ましい(Mはアルカリ金属化合物等に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属)。M/Mnモル比を1.0以上とすることで、板状粒子が生成しにくくなり、得られるマンガン酸塩の粒子形状が均一になりやすい。
【0030】
本発明の製造方法では、マンガン酸化物とアルカリ金属化合物等とを混合する。混合方法は、マンガン酸化物とアルカリ金属化合物等が均一になれば特に制限はなく、任意の方法により行うことができる。混合方法として、例えば、ミキサー、タンブラー又はブレンダーなどの混合装置を用いた方法や、湿式混合した後、スプレードライヤーにより混合物を造粒する方法が挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法では、混合されたマンガン酸化物とアルカリ金属化合物等とを焼成する。焼成温度は800℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがより好ましい。 本発明の焼成時間はマンガン酸塩の結晶化が進行すれば特に制限はないが、極端に長時間にする必要はなく、例えば、12時間以上100時間以下、好ましくは12時間以上50時間以下が挙げられる。
【0032】
焼成雰囲気については特に制限はないが、大気などの酸素雰囲気、窒素などの非酸素雰囲気が例示できるが、簡便であるため大気で行なうことが好ましい。
【0033】
なお、焼成雰囲気が酸素雰囲気下である場合は、焼成温度が1000℃以上であることが好ましい。また、焼成雰囲気が非酸素雰囲気である場合は、焼成温度が800℃以上であることが好ましい。焼成温度をこの範囲の温度とすることで、得られるマンガン酸化物の形状が柱状になりやすい。
【0034】
焼成方法は特に制限されず、マッフル炉、ロータリーキルン、流動焼成炉などを使用した各種の焼成方法を用いることができる。
【0035】
本発明の製造方法では、焼成する前に混合物を仮焼することが好ましい。か焼温度は400℃以上800℃以下であることが好ましく、450℃以上750℃以下であることがより好ましく、500℃以上700℃以下であることが更に好ましい。か焼温度を400℃以上とすることでマンガン酸化物とアルカリ金属化合物等が反応する。一方、か焼温度が800℃以下であることで粉体同士の凝集を生じさせずにマンガン酸化物とアルカリ金属化合物等が反応させることができる。
【0036】
本発明の製造方法では、か焼後の混合物(以下、「か焼粉」と称す)を再度、混合することが好ましい。これにより、か焼粉の凝集をなくすことができ、かつ、焼成後に得られるマンガン酸塩の組成がより均一になり、不純物の生成を抑制することができる。
【0037】
本発明の製造方法では、得られたマンガン酸塩を洗浄することが好ましい。これにより、遊離アルカリ金属等が除去することができ、添加剤等として使用した際にアルカリ金属等の溶出が抑制される。更に、マンガン酸塩を分散させることができる。
【0038】
洗浄方法は、遊離アルカリ金属等が除去されれば特に制限はない。好ましい洗浄方法としては、純水中もしくは酸溶液中で焼成後のマンガン酸塩を攪拌した後、洗浄液の最終pHが8以下となるまで洗浄することが挙げられる。なお、酸溶液としては特に制限はなく、塩酸、硫酸又は硝酸などの鉱酸などを例示でき、廃液処理の点で塩酸を洗浄に使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明のマンガン酸塩は、強度、耐熱性、並びに分散性にも優れた柱状のマンガン酸塩であるため、高分子材料や金属材料などの各種材料の添加剤、特に補強や強化を目的とする添加剤として使用できる。また、比較的大きい短径を有するため、WHOの定める吸入性繊維に該当しない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】α−NaMnOの結晶構造モデルを示す図
【図2】α−NaMnOの粉末X線回折パターンを示す図
【図3】β−NaMnOの結晶構造モデルを示す図
【図4】β−NaMnOの粉末X線回折パターンを示す図
【図5】実施例1のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを示す図
【図6】実施例1のマンガン酸塩の粒子形状を示す図(図中のスケールは10μm)
【図7】実施例2のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを示す図
【図8】実施例2のマンガン酸塩の粒子形状を示す図(図中のスケールは10μm)
【図9】実施例3のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを示す図
【図10】実施例3のマンガン酸塩の粒子形状を示す図(図中のスケールは10μm)
【図11】実施例4のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを示す図
【図12】実施例4のマンガン酸塩の粒子形状を示す図(図中のスケールは10μm)
【図13】比較例1のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを示す図
【図14】比較例1のマンガン酸塩の粒子形状を示す図(図中のスケールは10μm)
【図15】比較例2のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを示す図
【図16】比較例2のマンガン酸塩の粒子形状を示す図(図中のスケールは10μm)
【図17】比較例3のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを示す図
【図18】比較例3のマンガン酸塩の粒子形状を示す図(図中のスケールは10μm)
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0042】
(マンガン酸化物の平均粒子径)
原料として使用したマンガン酸化物の平均粒子径は以下の様に測定した。マンガン酸化物0.5gを0.1N−アンモニア水50mL中に投入し、10秒間超音波照射して分散スラリーとした。分散スラリーをマイクロトラックHRA(HONEWELL製)に所定量投入し、レーザー回折法で体積分布の測定を行なった。得られた体積分布から、体積平均粒子径を求めて平均粒子径とした。
【0043】
(マンガン酸塩の平均長径、平均短径、アスペクト比)
平均長径、平均短径および平均アスペクト比は、マンガン酸塩のSEM観察から求めた。短径、長径は20以上の粒子について測定し、それぞれの平均値を平均短径、平均長径とした。また、平均アスペクト比は各粒子のアスペクト比の平均値を用いた。
【0044】
(結晶相の同定)
マンガン酸塩を、一般的なX線回折装置(マックサイエンス社製MXP−3)を使用して測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から100°の範囲で測定した。
【0045】
(化学組成の測定)
マンガン酸塩の化学組成はICP発光分析を用いて測定した。
【0046】
実施例1
Mn(東ソー(株)、ブラウノックス、平均粒子径0.2μm)と炭酸ナトリウム(キシダ化学、特級、平均粒子径0.3μm)とをNa/Mnモル比が1.1となるように混合して混合物を得た。
【0047】
得られた混合物を、大気中で600℃、5時間か焼して、か焼粉を得た。か焼粉を乾式混合した後、マッフル炉で大気中、1100℃、48時間焼成してマンガン酸塩を得た。なお、か焼時および焼成時の昇温速度及び降温速度は100℃/hrとした。
【0048】
得られたマンガン酸塩は純水中で30分攪拌した後、ろ過することで洗浄した。洗浄後のマンガン酸塩を110℃、3時間、大気中で乾燥させ、実施例1のマンガン酸塩を得た。評価結果を表1に示した。また、得られたマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを図5に示し、粒子形状を図6に示した。
【0049】
図5より、得られたマンガン酸塩の結晶構造は、β−NaMnOとα−Na0.70MnO2.05類縁構造の混合相であることが分った。なお、実施例1のマンガン酸塩の粉末X線回折パターンにおいては、α−Na0.70MnO2.05類縁構造の特徴的なピークである2θ(Cu−Kα)=15.8〜15.9°のピークが確認された。また、得られたマンガン酸塩は、平均長径が47μm、平均短径が3.0μmの柱状粒子であった。
【0050】
実施例2
焼成温度を1000℃とした以外は実施例1と同様に混合、か焼、乾式混合及び焼成してマンガン酸塩を得た。結果を表1に示した。また、得られたマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを図7に示し、粒子形状を図8に示した。
【0051】
得られたマンガン酸塩の得られたマンガン酸塩の結晶相は、α−NaMnO、β−NaMnOおよびα−Na0.70MnO2.05類縁構造の混合相であることがわかった。また、得られたマンガン酸塩は、平均長径が20μm、平均短径が2.3μmの柱状粒子であった。
【0052】
実施例3
Na/Mnモル比が1.6となるように混合した以外は実施例1と同様な方法で実施例3のマンガン酸塩を得た。結果を表1に示した。また、得られたマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを図9に示し、粒子形状を図10に示した。
【0053】
得られたマンガン酸塩の結晶相は、β−NaMnOが主相であり、α−NaMnO、α−Na0.70MnO2.05類縁構造が副生相であることが分った。また、粒子形状は、平均長径が44μm、平均短径が3.6μmの柱状粒子であった。
【0054】
実施例4
Na/Mnモル比が0.8となるように混合した以外は実施例1と同様な方法で実施例3のマンガン酸塩を得た。結果を表1に示した。また、得られたマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを図11に示し、粒子形状を図12に示した。
【0055】
得られたマンガン酸塩の結晶相は、α−Na0.70MnO2.05類縁構造、β−NaMnOの混合相であることが分った。また、粒子形状は、平均長径が49μm、平均短径が4.1μmの柱状粒子と六角板状粒子の2種類が確認された。
【0056】
実施例5
(マンガン酸塩と熱可塑性樹脂との複合化)
ポリフェニレンサルファイド樹脂(東ソー(株)製、商品名サスティールPPS、GS−40、以下、「PPS樹脂」と称す)に、実施例1で得られたマンガン酸塩を、重量比でPPS樹脂:マンガン酸塩=6:4となるように添加し、300℃で溶融、混錬した後、押出成型機で成型し、本発明のマンガン酸塩で強化した高分子材料(以下、「繊維強化樹脂」と称す)を得た。なお、PPS樹脂とマンガン酸塩の混錬時に著しい粘度上昇はなかった。
【0057】
(樹脂強度の定性評価)
繊維強化樹脂を直径1cmの円筒状ペレットを長さ30cmに裁断し、樹脂強度測定用の試験片(以下、「複合材試験片」と称す)を作製した。また、比較対象として、同一形状のPPS樹脂のみからなる試験片(以下、「比較試験片」と称す)を使用した。
【0058】
強度測定は、試験片に同様な荷重をかけ、その形状変化を観測する定性的な評価とした。その結果、比較試験片と比べて複合材試験片は形状変化が少なかった。これより、本発明のマンガン酸塩が補強ウィスカーとして機能していることが示唆された。
【0059】
比較例1
焼成温度を700℃とした以外は実施例1と同様に混合、か焼、乾式混合及び焼成してマンガン酸塩を得た。結果を表1に示した。また、得られたマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを図13に示し、粒子形状を図14に示した。
【0060】
得られたマンガン酸塩の結晶相は、α−Na0.70MnO2.05類縁構造、α−NaMnOの混合相であることが分った。また、粒子形状は、平均長径2.6μm、平均短径1.6μmと比較的アスペクト比が低い柱状粒子であることが分った。
【0061】
比較例2
Na/Mnモル比が0.6となるように混合した以外は実施例1と同様な方法で実施例3のマンガン酸塩を得た。結果を表1に示した。また、得られたマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを図15に示し、粒子形状を図16に示した。
【0062】
得られたマンガン酸塩の結晶相は、α−Na0.70MnO2.05類縁構造であることが明らかとなった。また、粒子形状は柱状ではなく、板状であった。
【0063】
比較例3
原料のMnに代えて平均粒子径32μmの電解二酸化マンガン(東ソー(株)、HMR−AF)とした以外は実施例1と同様な方法でマンガン酸塩を得た。結果を表1に示した。また、得られたマンガン酸塩の粉末X線回折パターンを図17に示し、粒子形状を図18に示した。
【0064】
得られたマンガン酸塩の結晶相は、β−NaMnOを主相としα−Na0.70MnO2.05が副生相として確認された。また、粒子形状は、原料の二酸化マンガンの粒子形状を反映して直径40μm程度の粒状であった。
【0065】
粒状粒子は長径10μm、短径3μm程度の柱状一次粒子が焼結することにより構成されており、柱状を呈する一次粒子への解離が困難であった。
【0066】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のマンガン酸塩は、高分子材料や金属材料、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等への充填材、補強材などの添加剤として使用できる。その樹脂組成物は自動車用ブレーキなどの摺動部材、内外装材、電子機器などの構造部材だけでなく、電子部品材料等、広く使用できる。
【符号の説明】
【0068】
●:α−NaMnO
▲:β−NaMnO
■:α−Na0.70MnO2.05

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造が層状であり、粒子形状が柱状であるマンガン酸塩。
【請求項2】
結晶構造が、α-NaMnO、Birnessite型構造、及びβ-NaMnOの群から選ばれるいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のマンガン酸塩。
【請求項3】
平均長径が5μm以上75μm以下、平均短径が1.5μm以上10μm以下である請求項1又は2に記載のマンガン酸塩。
【請求項4】
平均長径が10μm以上50μm以下、平均短径が3.0μm以上10μm以下である請求項1乃至3のいずれかに記載のマンガン酸塩。
【請求項5】
平均アスペクト比が3以上50以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のマンガン酸塩。
【請求項6】
(1)式で表されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のマンガン酸塩。
MnO2+y・・・(1)
(但し、Mはアルカリ金属及びアルカリ土類金属の群から選ばれる少なくとも1種、0.8≦x≦2、0≦y≦0.1)
【請求項7】
Xが1.0以上1.5以下であることを特徴とする請求項6に記載のマンガン酸塩。
【請求項8】
Mが、Li、Na、K、Mg及びCaの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6又は7に記載のマンガン酸塩。
【請求項9】
平均粒子径が0.1μm以上4.5μm以下のマンガン酸化物を、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物もしくはその両者と混合し、焼成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のマンガン酸塩の製造方法。
【請求項10】
平均粒子径が0.1μm以上4.5μm以下のマンガン酸化物を、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物もしくはその両者と混合し、か焼した後に焼成することを特徴とする請求項9に記載のマンガン酸塩の製造方法。
【請求項11】
焼成温度が低くとも800℃であることを特徴とする請求項10に記載のマンガン酸塩の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれかに記載のマンガン酸塩を含むことを特徴とする添加剤。
【請求項13】
請求項1乃至8のいずれかに記載のマンガン酸塩を含む高分子材料。
【請求項14】
請求項1乃至8のいずれかに記載のマンガン酸塩を含む軽合金材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−91579(P2013−91579A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234033(P2011−234033)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】