説明

マンコンベアの移動手摺用加温装置

【課題】マンコンベアで使用される移動手摺を簡単に且つ短時間で温めることができ、外気温の低下によって移動手摺が硬化しても、マンコンベアの通常走行を早期に再開することができるようにする。
【解決手段】マンコンベアの移動手摺の往路側及び帰路側を案内する往路側レール9及び帰路側レール10の各案内部15に、その長手に沿って電熱線16を設ける。そして、上記各電熱線16の両端部間に、加温制御装置14によってそれぞれ電圧を印加することにより、移動手摺の往路側及び帰路側を温めるための熱を電熱線16から発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータや動く歩道等のマンコンベアで使用される移動手摺用加温装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道といったマンコンベアでは、一般に、横断面C字状を呈する無端状の移動手摺が使用され、乗客が移動する際に乗る踏段と同期するように、この移動手摺が駆動されている。
【0003】
マンコンベアで使用される移動手摺には、通常、ゴム材料が多く使用されているため、移動手摺は、外気温の低下とともに硬くなる特性を有している。このため、寒冷地では、例えば、建物内の暖房が止められてしまう夜間に移動手摺の柔軟性が失われることがあり、かかる場合は、マンコンベアを朝起動させても、移動手摺の走行が開始されないことがあった。
【0004】
このような事情に鑑み、移動手摺を温めることができる装置を備えたマンコンベアも提案されている(例えば、特許文献1参照)。このマンコンベアでは、移動手摺の走行を案内する案内レールの内部空間に電熱線を配置することにより、通電によって上記電熱線を発熱させて、移動手摺の凍結を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−269142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のものでは、案内レールの内部空間に断熱材が敷き詰められ、この断熱材上に電熱線が配置されている。このため、案内レール内部の空気を介してしか移動手摺に熱を伝えることができず、熱効率が著しく悪いといった問題があった。即ち、移動手摺が一旦硬化してしまうと、走行に必要な柔軟性が移動手摺に回復するまでに長時間を要してしまう。
【0007】
また、特許文献1に記載のものでは、電熱線が移動手摺の往路側の下方にしか配置されていない。このため、移動手摺の帰路側の構成(走行経路等)によっては、往路側のみ温めても、移動手摺全体に作用する走行抵抗を十分に低下させることができず、その後にマンコンベアを起動しても、移動手摺の走行が開始されない、或いは、移動手摺が踏段と同期しないことがあった。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、マンコンベアで使用される移動手摺を簡単に且つ短時間で温めることができ、外気温の低下によって移動手摺が硬化しても、マンコンベアの通常走行を早期に再開することができるマンコンベアの移動手摺用加温装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るマンコンベアの移動手摺用加温装置は、無端状を呈する移動手摺の往路側の走行を案内し、移動手摺と第1案内部で接触する往路側レールと、移動手摺の帰路側の走行を案内し、移動手摺と第2案内部で接触する帰路側レールと、第1案内部の内部に設けられ、往路側レールの長手に沿って配置された第1電熱線と、第2案内部の内部に設けられ、帰路側レールの長手に沿って配置された第2電熱線と、第1電熱線の両端部間、及び、第2電極線の両端部間にそれぞれ電圧を印加することにより、第1電熱線及び第2電熱線を発熱させる加温制御装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、マンコンベアで使用される移動手摺を簡単に且つ短時間で温めることができ、外気温の低下によって移動手摺が硬化しても、マンコンベアの通常走行を早期に再開することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マンコンベアの全体構成を示す側面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺用加温装置を示す要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1はマンコンベアの全体構成を示す側面図、図2はこの発明の実施の形態1におけるマンコンベアの移動手摺用加温装置を示す要部構成図である。以下においては、マンコンベアの一例として、上下階床間の移動の際に利用されるエスカレータの構成について具体的に説明し、動く歩道等の他の例については、その説明を省略する。
【0014】
図1及び図2において、1は上下階床間に架け渡されたエスカレータの主枠、2は下部乗降口、3は上部乗降口、4は踏段、5は踏段4の走行制御等、エスカレータ全体の制御を司る制御盤である。上記踏段4は、エスカレータの乗客が下部乗降口2及び上部乗降口3間を移動する際に乗るためのものである。この踏段4は、踏段チェーン6に多数連結されることによって全体として無端状に構成され、下部乗降口2及び上部乗降口3間を循環移動している。
【0015】
また、7はエスカレータの移動手摺(図示せず)の走行を案内するための案内レール、8は移動手摺を摩擦駆動方式等によって駆動し、案内レール7に沿って走行させる手摺駆動装置である。なお、上記移動手摺は、踏段4に乗って移動する乗客が把持するために備えられたものであり、その要部がゴム材料から構成されている。
【0016】
上記案内レール7は、無端状を呈する移動手摺を下部乗降口2及び上部乗降口3間で循環移動させるための構成を有している。具体的に、案内レール7は、図1に示すA区間に配置された往路側レール9、B区間に配置された帰路側レール10、C区間に配置された下部ニュアルレール11、D区間に配置された上部ニュアルレール12の4本のレールによってその要部が構成される。
【0017】
往路側レール9は、移動手摺の往路側(上部側)の走行、即ち、移動手摺のうち、踏段4に乗った乗客が把持する部分の走行を案内するためのレールである。この往路側レール9は、例えば、欄干13の上縁部に沿って設けられている。
帰路側レール10は、移動手摺の帰路側(下部側)の走行、即ち、移動手摺のうち、下部乗降口2及び上部乗降口3のインレットガード間に配置された部分の走行を案内するためのレールである。この帰路側レール10は、例えば、踏段4の側方に配置されたスカートガードや主枠1内に設けられている。
【0018】
下部ニュアルレール11は、下部乗降口2において移動手摺の走行を案内するためのレールである。即ち、下部ニュアルレール11は、下部乗降口2において移動手摺を上下反転させるための機能を有している。また、上部ニュアルレール12は、上部乗降口3において移動手摺の走行を案内するためのレールであり、上部乗降口3において移動手摺を上下反転させるための機能を有している。
【0019】
上記構成を有するエスカレータが、例えば、寒冷地の建物に据え付けられている場合、冬季になると、外気温の低下とともに移動手摺が硬化してしまう恐れがある。このため、上記エスカレータには、加温制御装置14が備えられており、上記案内レール7にも特有の構成が備えられている。
なお、以下においては、横断面略C字状を呈する一般的な形状の移動手摺がエスカレータに備えられている場合について説明する。
【0020】
案内レール7には、少なくとも往路側レール9及び帰路側レール10の双方に、図2に示す構成の案内部15が備えられている。この案内部15は、移動手摺の動き(走行)を所定の方向に拘束するために、移動手摺に実際に接触する部分を構成する。
【0021】
具体的に、案内部15は、所定の厚み及び幅を有し、且つ適度な強度を有する棒状部材(例えば、金属製の棒状部材)等からなり、移動手摺の内側に形成された空間内に配置される。なお、案内部15の一側部15aと他側部15bとは、対向する移動手摺の内側面形状に合わせた凸状の曲面を呈している。また、案内部15の一側部15a及び他側部15b間には、移動手摺が走行する際の抵抗(即ち、移動手摺との接触面積)を低減させるため、その長手に沿って凹部15cが形成されている。
【0022】
そして、上記構成を有する案内部15には、一側部15a及び他側部15bの内部に、案内部15の長手全体に渡って電熱線16が設けられている。この電熱線16は、中間部が案内部15の一端内部で折り返されることにより、その一端部側が、案内部15の一側部15aにその長手に渡って配置されている。また、電熱線16の他端部側は、案内部15の他側部15bに、その長手に渡って配置されている。
【0023】
一方、加温制御装置14は、往路側レール9及び帰路側レール10の各案内部15に埋め込まれた電熱線16を発熱させて、移動手摺の往路側及び帰路側の双方を温めるための機能を有している。即ち、加温制御装置14は、各案内部15内の電熱線16の両端部間にそれぞれ電圧を印加して電熱線16に電流を流すことにより、移動手摺を温めるための熱を各電熱線16から発生させる。
【0024】
上記機能を有するため、加温制御装置14には、例えば、電源17、制御用の電源制御ユニット18、加温温度制御用の可変抵抗19が備えられ、これらが電熱線16に対して直列に接続されている。
上記電源制御ユニット18は、電源17のON/OFF機能や可変抵抗19の調節機能を有している。例えば、電源制御ユニット18は、外気温や時刻、移動手摺の温度等の各条件或いは組み合わせ条件に基づき、電源17のON/OFF制御を実施する。
【0025】
上記構成を有する移動手摺用加温装置の使用により、移動手摺の往路側及び帰路側の双方を簡単に且つ短時間で温めることができるようになる。このため、例えば、外気温が低下することによって移動手摺が硬化しても、移動手摺の柔軟性を短時間で回復させることができ、エスカレータの通常走行を早期に再開させることが可能となる。
【0026】
即ち、各電熱線16を発熱させることにより、往路側レール9及び帰路側レール10の各案内部15をその内部から直接温めることができるため、熱効率が極めて良く、移動手摺を短時間で所定の温度まで上昇させることができる。また、電熱線16が案内部15の一側部15a及び他側部15bにその長手に沿って配置されているため、移動手摺の湾曲部分を特に効率良く温めることができ、加温後に移動手摺の走行が開始されないといった従来の不具合を確実に解消することが可能となる。
【0027】
また、案内部15に埋め込まれた電熱線16は、その全体或いは要部が、案内部15の内部において案内部15と接触するため、電熱線16で発生した熱を効率良く移動手摺に伝えることができる。即ち、案内部15のうち、少なくとも、電熱線16に接触する部分と移動手摺に接触する部分との間を金属で構成することにより、電熱線16で発生した熱を効率良く移動手摺に伝えることができるようになる。
【0028】
なお、本実施の形態においては、案内レール7のうち、往路側レール9及び帰路側レール10の各案内部15に電熱線16を設ける場合について説明した。しかし、これは単に一例を示したものであり、可能であれば、下部ニュアルレール11及び上部ニュアルレール12の各案内部にも電熱線16を設け、加温制御装置14によって加温制御を行っても良い。
かかる構成によれば、移動手摺全体を早期に温めることが可能となり、エスカレータの通常走行を更に早く再開させることができるようになる。
【0029】
また、上記構成及び機能を有する移動手摺用加温装置は、新規エスカレータへの適用は当然のこと、既設のエスカレータに対しても適用することが可能である。
具体的には、先ず、既設エスカレータの移動手摺を取り外して、往路側レール9及び帰路側レール10(の各案内部15)を上記構成を有するものに取り替える。そして、加温制御装置14を、主枠1内等、適切な場所に設置する。このような簡単な作業により、上記効果を奏するように既設エスカレータを改修することができる。
【0030】
なお、上記改修において下部ニュアルレール11及び上部ニュアルレール12の取り替えを行わない場合、往路側レール9及び帰路側レール10の各案内部15が熱伝導率の高い部材(例えば、金属製部材)、下部ニュアルレール11及び上部ニュアルレール12の各案内部が熱伝導率の低い部材(例えば、樹脂製部材)であっても何ら問題が生じることはない。
【符号の説明】
【0031】
1 主枠、 2 下部乗降口、 3 上部乗降口、 4 踏段、 5 制御盤、
6 踏段チェーン、 7 案内レール、 8 手摺駆動装置、 9 往路側レール、
10 帰路側レール、 11 下部ニュアルレール、 12 上部ニュアルレール、
13 欄干、 14 加温制御装置、 15 案内部、 15a 一側部、
15b 他側部、 15c 凹部、 16 電熱線、 17 電源、
18 電源制御ユニット、 19 可変抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状を呈する移動手摺の往路側の走行を案内し、前記移動手摺と第1案内部で接触する往路側レールと、
前記移動手摺の帰路側の走行を案内し、前記移動手摺と第2案内部で接触する帰路側レールと、
前記第1案内部の内部に設けられ、前記往路側レールの長手に沿って配置された第1電熱線と、
前記第2案内部の内部に設けられ、前記帰路側レールの長手に沿って配置された第2電熱線と、
前記第1電熱線の両端部間、及び、前記第2電極線の両端部間にそれぞれ電圧を印加することにより、前記第1電熱線及び前記第2電熱線を発熱させる加温制御装置と、
を備えたことを特徴とするマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項2】
前記第1電熱線は、前記第1案内部の内部で前記第1案内部に接触し、
前記第2電熱線は、前記第2案内部の内部で前記第2案内部に接触し、
前記第1案内部は、前記第1電熱線及び前記移動手摺に接触する部分間が金属からなり、
前記第2案内部は、前記第2電熱線及び前記移動手摺に接触する部分間が金属からなる
ことを特徴とする請求項1に記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項3】
前記移動手摺は、横断面C字状を呈し、
前記第1案内部及び前記第2案内部は、前記移動手摺の内側に形成された空間内にそれぞれ配置され、
前記第1電熱線は、前記移動手摺の内側面に対向する前記第1案内部の一側部と他側部とに、前記往路側レールの長手に沿ってそれぞれ配置され、
前記第2電熱線は、前記移動手摺の内側面に対向する前記第2案内部の一側部と他側部とに、前記帰路側レールの長手に沿ってそれぞれ配置された
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項4】
前記第1電熱線は、一端部側が前記第1案内部の一側部に前記往路側レールの長手に沿って配置されるとともに、中間部が折り返されて、他端部側が前記第1案内部の他側部に前記往路側レールの長手に沿って配置され、
前記第2電熱線は、一端部側が前記第2案内部の一側部に前記帰路側レールの長手に沿って配置されるとともに、中間部が折り返されて、他端部側が前記第2案内部の他側部に前記帰路側レールの長手に沿って配置された
ことを特徴とする請求項3に記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項5】
マンコンベアの両乗降口で前記移動手摺の走行を案内し、前記移動手摺と第3案内部で接触するニュアルレールと、
前記第3案内部の内部に設けられ、前記ニュアルレールの長手に沿って配置された第3電熱線と、
を備え、
前記加温制御装置は、前記第3電熱線の両端部間に電圧を印加することにより、前記第3電熱線を発熱させる
ことを特徴とする請求項1に記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。
【請求項6】
マンコンベアの両乗降口で前記移動手摺の走行を案内し、前記移動手摺と第3案内部で接触するニュアルレールと、
を備え、
前記ニュアルレールの前記第3案内部は、樹脂からなり、電熱線を備えていないことを特徴とする請求項1に記載のマンコンベアの移動手摺用加温装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215383(P2010−215383A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65909(P2009−65909)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】