説明

マンコンベア監視装置及びマンコンベア

【課題】エスカレータ制御盤に供給されるAC100Vの電力線を利用した電力線搬送通信において、十分なS/Nを確保して安定した通信を行なう。
【解決手段】エスカレータ10の運転制御を行なうエスカレータ制御盤14と、このエスカレータ制御盤内に設けられ、供給されるAC200Vを電源としてエスカレータのモータ34を駆動するインバータ32と、エスカレータ制御盤内に電源として供給されるAC100V電力線20に接続され、この電力線を通信路としてエスカレータを遠隔管理する管理センタ38と通信する通信装置36とを備えて構成され、エスカレータ制御盤内のAC200V電力線のインバータが接続された位置より電源上流側にインバータから発生するノイズを抑制するノイズフィルタ72を設け、かつエスカレータ制御盤内のAC100V電力線の通信装置が接続された位置より電源下流側にローパスフィルタ74を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータや動く歩道などのマンコンベアを監視するマンコンベア監視装置及び該マンコンベア監視装置を備えたマンコンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エスカレータや動く歩道などのマンコンベアについて、不具合時の迅速な対応を図るべく、遠隔のビル管理室或いは監視センタなどからマンコンベアを監視することが行なわれている。
【0003】
例えば特許文献1に記載されているように、エスカレータの乗場上下部等に設置した監視カメラの監視画像情報を通信装置に取込み、電話回線或いはブロード回線を利用して管理室に送信して、地震復旧運転を開始する前に、監視画像を参照して乗客の有無や障害物の有無を判定するシステムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、エスカレータの運転状況を示す制御信号、及び監視カメラからの監視画像情報をPHS(Personal Handy−Phone System)端末装置に取込み、PHS回線網を介して保守監視センタに送信して、保守監視センタから遠隔的にエスカレータを監視するシステムが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2008−13358号公報
【特許文献2】特開2007−137556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来技術では、通信装置に電話回線等を接続する必要があるが、電話回線等の通信ケーブルは通信装置が設けられる例えばエスカレータ制御盤まで敷設されているわけではないので、エスカレータ制御盤と電話回線等の間に新たに通信ケーブルを敷設する必要が生じる。
【0007】
また、特許文献2に記載された従来技術においても、エスカレータ制御盤からの信号を1台のPHS端末装置で取込む場合には、エレベータ制御盤と1台のPHS端末装置間でのデータ授受のために通信ケーブルを新たに敷設する必要が生じる。
【0008】
すなわち、いずれの従来技術においても、エスカレータ制御盤には電力を供給するための電力線が接続されているが、この電力線を通信路として利用して通信する電力線搬送通信について考慮はなされていない。この電力線をそのまま利用してエスカレータ制御盤からの監視情報等を伝送することができれば、新たなケーブルやケーブル敷設工事が不要となり、監視用通信システムを容易にかつ短時間で構築することができるので好ましい。
【0009】
ところで、近年のマンコンベアは、マンコンベア制御盤に、マンコンベアの照明などのために例えば単相交流としてAC100Vが供給されるとともに、マンコンベアを駆動するモータなどのために三相交流としてAC200Vが供給されている。このようなマンコンベアにおいてAC100Vの電力線を利用して電力線搬送通信を行なうことを考えた場合、十分なS/Nを確保して安定した通信を行なうことを考慮する必要がある。
【0010】
すなわち、最近のマンコンベアは、制御盤小型化、性能向上、省エネ運転などのためにインバータが採用されており、マンコンベアのモータはインバータを介して三相AC200Vで駆動されている。この場合、インバータのスイッチング素子のスイッチングノイズが三相AC200Vの電力線に重畳し、この高周波スイッチングノイズがマンコンベア制御盤内で隣接するAC100Vの電力線に誘導されることにより、電力線搬送通信のS/Nが悪化する場合がある。
【0011】
そこで、本発明は、マンコンベア制御盤に供給される単相交流の電力線を利用した電力線搬送通信において、十分なS/Nを確保して安定した通信を行なうことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のマンコンベア監視装置は、マンコンベアの運転制御を行なうマンコンベア制御盤と、このマンコンベア制御盤内に設けられ、供給される三相交流を電源としてマンコンベアのモータを駆動するインバータと、マンコンベア制御盤内に電源として供給される単相交流の電力線に接続され、この電力線を通信路としてマンコンベアを遠隔管理する管理センタと通信する通信装置(電力線搬送通信装置)とを備えて構成され、マンコンベア制御盤内の三相交流の電力線のインバータが接続された位置より電源上流側にインバータから発生するノイズを抑制するノイズフィルタが設けられ、かつマンコンベア制御盤内の単相交流の電力線の通信装置が接続された位置より電源下流側にローパスフィルタが設けられてなることを特徴としている。
【0013】
すなわち、三相交流(例えば三相AC200V)の電力線に設けられたノイズフィルタにより、インバータから発生して三相交流電力線に重畳されるノイズ(高周波スイッチングノイズ)が電源上流側に伝播するのを抑制することができる。これに加えて、単相交流(例えば単相AC100V)の電力線に設けられたローパスフィルタにより、単相交流電力線に誘導されたインバータ起因のノイズが電源上流側、言い換えれば通信装置と管理センタとの通信路に伝播するのを抑制することができる。したがって、マンコンベア制御盤に供給される単相交流の電力線を利用した電力線搬送通信において、インバータ起因のノイズを抑制でき、その結果、十分なS/Nを確保して安定した通信を行なうことができる。
【0014】
また、本発明のマンコンベア監視装置において、通信装置をマンコンベア制御盤内の単相交流の受電端部に設け、ローパスフィルタを単相交流の電力線の通信装置が接続された位置より電源下流側の近傍に設けるのが好ましい。これによれば、マンコンベア制御盤内においてインバータ起因のノイズが単相交流電力線のローパスフィルタより電源上流側に誘導されて電力線搬送通信のS/Nが悪化するのを抑制することができる。
【0015】
また、ローパスフィルタは単相交流の電力線に接続されたコンデンサの接続位置と単相交流の電力線の通信装置が接続された位置との間に直列にインダクタンス素子が設けられて形成されたローパスフィルタとすることができる。すなわち、単相交流の電力線のインピーダンスがマンコンベア制御盤内で単相交流電力線に接続される機器の影響、或いはローパスフィルタを形成するコンデンサの影響等により低くなり、通信信号が減衰してS/Nが悪化することがある。この点、単相交流の電力線におけるローパスフィルタを形成するコンデンサが接続された位置と通信装置が接続された位置との間に直列にインダクタンス素子を設けることにより、通信装置側からみた単相交流電力線(通信路)のインピーダンスが高くなり通信信号の減衰を抑制することができる。
【0016】
また、ノイズフィルタを、マンコンベア制御盤内の三相交流の電力線のインバータが接続された位置より電源上流側の近傍に設けて、インバータ起因のノイズがマンコンベア制御盤内に拡散するのを抑制することができる。また、ノイズフィルタをマンコンベア制御盤内の三相交流の受電端部に設けて、インバータ起因のノイズが三相交流の電力線を伝播してマンコンベア制御盤外に伝播するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マンコンベア制御盤に供給される単相交流電源の電力線を利用した電力線搬送通信において、十分なS/Nを確保して安定した通信を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を適用してなるマンコンベア監視装置の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一機能部品については同一符号を付して重複説明を省略する。また、以下の説明ではマンコンベアの一例としてエスカレータを例示するが、エスカレータの他に動く歩道やエレベータなどのマンコンベアに本発明を適用することもできる。
【0019】
図1は、本実施形態のエスカレータ監視装置及びこのエスカレータ監視装置を備えてなるエスカレータの全体構成を示す図である。図1に示すように、エスカレータ10のトラス10a内の上部には上部機械室12が形成されており、上部機械室12内には、エスカレータ制御盤14(マンコンベア制御盤ともいう)が設置されている。また、トラス10a内の下部には下部機械室16が形成されており、下部機械室16にはエスカレータ制御盤18が設置されている。
【0020】
エスカレータ制御盤14には、単相交流としてAC100V電力線20及び三相交流として三相AC200V電力線22が接続されており、それぞれAC100V電源、三相AC200V電源が供給されるようになっている。AC100V電源は電力系統から100Vブレーカ盤24及び100Vブレーカ盤24に設けられた100Vブレーカ26を介して供給される。また、AC200V電源は電力系統から200Vブレーカ盤28及び200Vブレーカ盤28に設けられた200Vブレーカ30を介して供給される。なお、図1では、100Vブレーカ26と200Vブレーカ30は別々のブレーカ盤に設置されているが、同一のブレーカ盤に設置されていてもよい。
【0021】
AC100V電源は、エスカレータ制御盤14内の例えばエスカレータの動作を制御するマイコンなどの各種部品や、エスカレータの欄干照明などに供給される他、トラス10a内のAC100V電力線20aを介して下部機械室16のエスカレータ制御盤18にも供給される。
【0022】
一方、AC200V電源は、エスカレータ制御盤14内に設けられたインバータ32に供給され、インバータ32及びAC200V電力線22aを介してトラス10a内に設けられたエスカレータ駆動用のモータ34を駆動する。なお、トラス10a内部には、エスカレータ制御盤14,18、モータ34の他、図示していないが移動手すり駆動装置などエスカレータに必要な各種装置が組み込まれている。また、エスカレータ制御盤18には、非常用の停止スイッチの検出器などが備えられている。
【0023】
また、エスカレータ制御盤14内のAC100V電力線20には通信装置36(電力線搬送通信装置)が接続されている。本実施形態のエスカレータ監視装置は、AC100V電力線20を通信路としてエスカレータ10を遠隔管理する管理センタ38に設けられた管理装置と通信するよう構成されている。すなわち、エスカレータ10側の電力線搬送の通信装置36と、管理センタ38と専用通信線40を介して接続された管理センタ38側の電力線搬送の通信装置42(電力線搬送通信装置)との間で、AC100V電力線20を介して通信が行なわれるようになっている。
【0024】
図2は、通信装置36の概略構成を示す図である。図2に示すように、通信装置36は、入力データ編集回路44と、入力データ編集回路44からの出力信号が入力される変調回路46と、変調回路46からの出力信号が入力される送信アンプ48と、送信アンプ48からの出力信号が入力される結合器50と、結合器50からの出力信号が入力される受信アンプ52と、受信アンプ52からの出力信号が入力される復調回路54とを備えて構成されている。
【0025】
入力データ編集回路44には、エスカレータ10の監視情報として、例えば非常停止スイッチ状態信号56、モータ電源喪失信号などの発報情報58、機器の状態を監視するための保守情報60(機器状態信号、振動データなど)、及びエスカレータの利用状況をカメラで監視する監視画像情報62などが取り込まれる。
【0026】
取り込まれた監視情報は、変調回路46に入力され、変調回路46では電力線を通信路として通信するために所定の変調方式(BPSK、QPSK、QAM、スペクトル拡散など)に従って入力データを変調して送信アンプ48に通信信号を出力する。送信アンプ48に入力されたデータは、送信アンプ48で増幅され、結合器50を介してAC100V電力線20に重畳される。
【0027】
一方、通信装置42からAC100V電力線20を介して送られた通信信号は、結合器50を介して受信アンプ52に入力され、増幅された後、復調回路54において復調されて入力データ編集回路44に入力される。入力データ編集回路44は、通信装置42からの通信要求信号に応じたり、独自に発報情報の通信などの入力データの編集を行なったりする。
【0028】
これにより、通信装置36に入力されたエスカレータ10の監視情報は、AC100V電力線20を通信路として通信装置42に通信され、専用通信線40を介して管理センタ38の管理装置に送信される。この結果、管理センタ38の管理装置によるエスカレータ10の遠隔監視が可能になる。管理センタ38には複数のエスカレータからの通信信号が送られるようになっており、複数のエスカレータを同時に遠隔監視することが可能になっている。
【0029】
ところで、エスカレータ10の監視情報は、エスカレータ10が動作中にも通信されることになる。ここで、インバータ32はAC200V電力線22に接続されるが、インバータ32を構成するスイッチング素子(例えばIGBT、バイポーラトランジスタ、FET、サイリスタ等の半導体スイッチング素子)のオン・オフ動作によって電磁ノイズが発生する。
【0030】
この電磁ノイズは、スイッチング素子がオンあるいはオフした際に、回路内の配線によるインダクタンスや浮遊容量及びスイッチング素子のスイッチング速度によって決まる高周波ノイズである。このノイズはAC200V電力線22に重畳されるが、この高周波ノイズが隣接するAC100V電力線20に誘導されることが実験により分かった。
【0031】
特に、誘導についてはエスカレータ制御盤14内での誘導が支配的である。すなわち、図3はエスカレータ制御盤14の内部構成の概略の一例を示す図であるが、この図に示すように、エスカレータ制御盤14内には、インバータ32をはじめ各種部品が設けられており、AC100V電力線20,20a(二重線)及びAC200V電力線22,22a(太線)が混在して敷設されている。また、エスカレータ制御盤14の小型化の要請などの理由によりエスカレータ制御盤14のサイズには限界があるので、AC100V電力線20,20aとAC200V電力線22,22aとの相互距離を離すことにも限界がある。そのため、エスカレータ制御盤14内ではインバータ32に起因するノイズの誘導が支配的になる。
【0032】
なお、図3に示すように、エスカレータ制御盤14内には、インバータ32の制御等を行うマイコン64と、マイコン64にAC100VからのDC電源を供給するAC/DCコンバータ66と、AC100Vの欄干照明、コンセント等への出力側に設けられた遮断器68(FFB)及びバリスタ70(ZNR)などが設けられている。
【0033】
図4,5は、電力線搬送通信の特性評価するために、インバータ32の停止時及び動作時にAC100V電力線20に重畳されるノイズ特性を測定した結果を示す図である。図4に示すように、AC200V電源が供給されていない状態(200Vブレーカ30がオフの時)のAC100V電力線20(活線状態)のノイズは、約2MHz以上の周波数ではノイズレベルが約10dBμVとかなり低いことが分かる。
【0034】
一方、図5に示すように、インバータ32動作時のAC100V電力線20(活線状態)のノイズは、例えば通信帯域2〜30MHzにおいて、ノイズレベルが60dBμV程度になる周波数帯域が複数存在し、広い周波数帯域においてノイズレベルが高いことが分かった。上述のように、エスカレータ制御盤14内では、AC100V電力線20,20aとAC200V電力線22,22aが比較的密接して敷設されていることにより、インバータ32動作によってAC200V電力線22,22aに重畳するノイズやインバータからのノイズがAC100V電力線20,20aに誘導されることが分かった。
【0035】
このような実験結果を評価した結果、AC100V電力線20,20aに誘導するノイズは数百kHzから数十MHzまで及び、かつノイズレベルも比較的高いことが分かった。画像を含めた監視情報の通信としては数MBPS程度あるいはこれ以上の通信速度が必要であり、通信信号の周波数帯域も数MHz或いはこれ以上の周波数帯域が必要となる。このため、通信信号の周波数帯域とノイズの帯域がほぼ同一になり、かつノイズレベルが高い周波数帯域が多いため、AC100V電力線を利用した電力線搬送通信では十分なS/Nを確保できなくなり安定した通信ができない場合がある。特に高い通信速度が必要となる画像通信は十分な通信速度が得られないという問題が生じるおそれがある。
【0036】
そこで、本実施形態では、エスカレータ制御盤14内のAC200V電力線22のインバータが接続された位置より電源上流側にインバータから発生するノイズを抑制するノイズフィルタ72が設けられている。また、エスカレータ制御盤14内のAC100V電力線20の通信装置36が接続された位置より電源下流側にローパスフィルタ74が設けられている。
【0037】
図6,7はノイズフィルタ72の構成例を示す図である。また、図8はローパスフィルタ74の構成例を示す図である。図6,7に示すように、ノイズフィルタは、インダクタンス素子であるコイルL1,L2とコンデンサC、或いはコイルL1とコンデンサCで構成することができる。また、図8に示すように、ローパスフィルタ74は、インダクタンス素子であるコイルL1とコンデンサCで構成することができる。
【0038】
本実施形態によれば、AC200V電力線に設けられたノイズフィルタ72により、インバータ32から発生してAC200V電力線22aに重畳されるノイズ(高周波スイッチングノイズ)が電源上流側、つまりAC200V電力線22側に伝播するのを抑制することができる。これに加えて、AC100V電力線に設けられたローパスフィルタ74により、AC100V電力線20aに誘導されたインバータ起因のノイズが電源上流側、言い換えれば通信装置と管理センタとの通信路に相当するAC100V電力線20に伝播するのを抑制することができる。したがって、エスカレータ制御盤14に供給されるAC100V電力線を利用した電力線搬送通信において、インバータ起因のノイズを抑制でき、その結果、十分なS/Nを確保して安定した通信を行なうことができる。
【0039】
特に、図3に示すように、通信装置36を、エスカレータ制御盤14内のAC100Vの受電端部に設け、かつローパスフィルタ74をAC100V電力線20の通信装置36が接続された位置より電源下流側の近傍に設けることが好ましい。これによれば、エスカレータ制御盤14内において、インバータ32起因のノイズがAC100V電力線20のローパスフィルタ74より電源上流側に誘導されて電力線搬送通信のS/Nが悪化するのを抑制することができる。
【0040】
また、ノイズフィルタ72を、エスカレータ制御盤14内のAC200V電力線のインバータ32が接続された位置より電源上流側の近傍に設けて、インバータ32起因のノイズがエスカレータ制御盤14内に拡散するのを抑制することもできる。また、ノイズフィルタ72を、エスカレータ制御盤14内のAC200Vの受電端部に設けて、インバータ32起因のノイズがAC200V電力線22に伝播してエスカレータ制御盤14外に伝播するのを抑制するようにすることもできる。
【0041】
ところで、AC100V電力線を利用した電力線搬送通信においては、インバータ起因のノイズの他にも、S/Nを悪化させる要因が存在し得る。すなわち、AC100V電力線20における通信信号の減衰が問題となる。AC100V電力線20のインピーダンスは、エスカレータ制御盤14内でAC100V電力線に接続される機器、エスカレータ制御盤14内に設けられたバリスタ70、或いは図8に示すようにローパスフィルタ74を構成するコンデンサCなどの影響で低くなるということが分かった。
【0042】
図9は、AC100V電力線20の通信信号の減衰特性の測定結果を示す図である。図9に示すように、周波数が高くなることにより信号レベルが減衰しており、かつ10MHz以上では急激に減衰していることが分かる。
【0043】
すなわち、AC100V電力線を利用した電力線搬送通信におけるS/Nの低下要因は、上述のインバータ32に起因する誘導ノイズ及びAC100V電力線20のインピーダンス低下に起因する通信信号の減衰が存在する。このため、上述のインバータ32に起因する誘導ノイズの抑制に加えて、AC100V電力線20のインピーダンスを向上させることが、AC100V電力線を利用した電力線搬送通信におけるS/Nの向上に有効となる。
【0044】
このため、ローパスフィルタ74は、AC100V電力線20に接続されたコンデンサCの接続位置とAC100V電力線20の通信装置36が接続された位置との間に直列にインダクタンス素子を設けて形成するのがさらに好ましい。
【0045】
図10〜図13は、ローパスフィルタ74の構成例を示す図である。図10〜図13に示すように、ローパスフィルタ74は、例えば2MHz〜30MHzの信号に対して通信装置36側から見たローパスフィルタ74のインピーダンスが高くなるようにするために、AC100V電力線20と直列にインダクタンス素子としてコイルL2或いはフェライトコアL2が設けられている。
【0046】
これによれば、通信装置36側から見たローパスフィルタ74のインピーダンスが高くなるので、通信に用いられる周波数の通信信号がコンデンサCによって吸収されて減衰してS/Nが悪化するのを抑制することができる。
【0047】
なお、AC200V電力線22では電力線搬送通信を実施する様にしていないため、図7のようにAC200V電力線22にインダクタンス素子としてのコイルL2を設けずコンデンサCが取り付けられる構成であっても問題ない。
【0048】
以上、本実施形態によれば、エスカレータ10の監視情報を通信装置36に取込んでAC100V電力線20を用いて電力線搬送通信する場合に、ローパスフィルタ74を設けることによって、インバータ32及びAC200V電力線からAC100V電力線に誘導されるノイズが通信路であるAC100V電力線20に伝播されるのを抑制することができる。また、ノイズフィルタ72を設けることにより、インバータ32起因のノイズがAC200V電力線22に伝播するのを抑制することができる。したがって、安定した電力線搬送通信が可能になる。
【0049】
特に、AC100V供給側にインダクタンス素子としてコイルL2或いはフェライトコアL2を設置してローパスフィルタ74を構成することにより、通信信号の周波数帯域に対するローパスフィルタ74のインピーダンスを高くすることができる。したがって、AC100V電力線20に接続される機器などに起因してAC100V電力線20にインピーダンスが低くなって通信信号が減衰するのを抑制できる。さらに、ローパスフィルタ74による通信信号自体の信号吸収を抑制することができる。
【0050】
つまり、本実施形態によれば、ノイズフィルタ72やローパスフィルタ74によりノイズの伝播を抑制し、かつインダクタンス素子であるコイルL2或いはフェライトコアL2を含めてローパスフィルタ74を構成することにより通信信号の信号減衰を抑制することにより、通信信号のS/Nレベルを高くして安定した高速通信を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態のエスカレータ監視装置及びこのエスカレータ監視装置を備えてなるエスカレータの全体構成を示す図である。
【図2】通信装置の概略構成を示す図である。
【図3】エスカレータ制御盤の内部構成の概略の一例を示す図である。
【図4】インバータの停止時にAC100V電力線に重畳されるノイズ特性を測定した結果を示す図である。
【図5】インバータの動作時にAC100V電力線に重畳されるノイズ特性を測定した結果を示す図である。
【図6】ノイズフィルタの構成例を示す図である。
【図7】ノイズフィルタの構成例を示す図である。
【図8】ローパスフィルタの構成例を示す図である。
【図9】AC100V電力線の通信信号の減衰特性の測定結果を示す図である。
【図10】ローパスフィルタの構成例を示す図である。
【図11】ローパスフィルタの構成例を示す図である。
【図12】ローパスフィルタの構成例を示す図である。
【図13】ローパスフィルタの構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10 エスカレータ
14 エスカレータ制御盤
18 エスカレータ制御盤
20,20a AC100V電力線
22,22a AC200V電力線
24 100Vブレーカ盤
26 100Vブレーカ
28 200Vブレーカ盤
30 200Vブレーカ
32 インバータ
34 モータ
36 通信装置
38 管理センタ
72 ノイズフィルタ
74 ローパスフィルタ
L1 コイル
L2 コイル,フェライトコア
C コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンコンベアの運転制御を行なうマンコンベア制御盤と、該マンコンベア制御盤内に設けられ、供給される三相交流を電源として前記マンコンベアのモータを駆動するインバータと、前記マンコンベア制御盤内に電源として供給される単相交流の電力線に接続され、該電力線を通信路として前記マンコンベアを遠隔管理する管理センタと通信する通信装置とを備え、
前記マンコンベア制御盤内の前記三相交流の電力線の前記インバータが接続された位置より電源上流側に前記インバータから発生するノイズを抑制するノイズフィルタが設けられ、
前記マンコンベア制御盤内の前記単相交流の電力線の前記通信装置が接続された位置より電源下流側にローパスフィルタが設けられてなることを特徴とするマンコンベア監視装置。
【請求項2】
前記通信装置は、前記マンコンベア制御盤内の前記単相交流の受電端部に設けられ、前記ローパスフィルタは前記単相交流の電力線の前記通信装置が接続された位置より電源下流側の近傍に設けられてなる請求項1のマンコンベア監視装置。
【請求項3】
前記ローパスフィルタは、前記単相交流の電力線に接続されたコンデンサの接続位置と前記単相交流の電力線の前記通信装置が接続された位置との間に直列にインダクタンス素子が設けられて形成されたローパスフィルタである請求項2のマンコンベア監視装置。
【請求項4】
前記ノイズフィルタは、前記マンコンベア制御盤内の前記三相交流の電力線の前記インバータが接続された位置より電源上流側の近傍に設けられてなる請求項3のマンコンベア監視装置。
【請求項5】
前記ノイズフィルタは、前記マンコンベア制御盤内の前記三相交流の受電端部に設けられてなる請求項3のマンコンベア監視装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項のマンコンベア監視装置を備えてなるマンコンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−143758(P2010−143758A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326118(P2008−326118)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】