説明

マンデロニトリル化合物の製造方法

【課題】従来の方法は、マンデロニトリル化合物の収率が低い点で、必ずしも充分満足できる製造方法ではなかった。
【解決手段】溶媒中、下式(1)で示されるベンズアルデヒド化合物と、金属シアン化物及びシアン化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種とを、相間移動触媒の存在下で反応させる工程を含むことを特徴とする下式(2)で示されるマンデロニトリル化合物又はその塩の製造方法。


(式中、Qは、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基等を表す。Xは、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は保護されていてもよい水酸基を表す。Mは、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)、スルフィニル基(−SO−)、スルホニル基(−SO−)、−NR−又は単結合を表し、Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜9のアシル基を表す。nは、0、1又は2を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンデロニトリル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリル等の式(2)

(式中、Qは、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12の複素環基、置換基を有していてもよいメチレンアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の置換スルホニル基を表す。Xは、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は保護されていてもよい水酸基を表す。Mは、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)、スルフィニル基(−SO−)、スルホニル基(−SO−)、−NR−又は単結合を表し、Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜9のアシル基を表す。nは、0、1又は2を表す。)
で示されるマンデロニトリル化合物は、例えば、医農薬の製造原料又は製造中間体として有用である。
【0003】
マンデロニトリル化合物の製造方法として、例えば、特許文献1には、エーテルと水との混合溶媒中、2−(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドとシアン化カリウムと塩化アンモニウムとを混合することにより、2−(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドシアンヒドリンを得る方法が記載されている。また、特許文献2には、メタノールと水との混合溶媒中、2−(4−クロロ−α−メチルベンジリデンアミノオキシメチル)ベンズアルデヒドと、シアン化ナトリウムと亜硫酸水素ナトリウムとを混合することにより、2−(4−クロロ−α−メチルベンジリデンアミノオキシメチル)ベンズアルデヒドシアンヒドリンを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−17052号公報(参考例8)
【特許文献2】特開平9−95462号公報(実施例11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1及び2記載の方法は、マンデロニトリル化合物の収率が低い点で、必ずしも充分満足できる製造方法ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討し、本発明に至った。
【0007】
即ち本発明は、以下の通りである。
【0008】
〔1〕 溶媒中、式(1)

(式中、Qは、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12の複素環基、置換基を有していてもよいメチレンアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の置換スルホニル基を表す。Xは、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は保護されていてもよい水酸基を表す。Mは、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)、スルフィニル基(−SO−)、スルホニル基(−SO−)、−NR−又は単結合を表し、Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜9のアシル基を表す。nは、0、1又は2を表す。)
で示されるベンズアルデヒド化合物と、金属シアン化物及びシアン化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種とを、相間移動触媒の存在下で反応させる工程を含むことを特徴とする式(2)

(式中、Q、X、M及びnはそれぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示されるマンデロニトリル化合物又はその塩の製造方法。
【0009】
〔2〕 前記溶媒が、アルコールを含む前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 前記溶媒が、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及びハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種と、水と、アルコールとの混合溶媒である前記〔1〕記載の製造方法。
〔4〕 前記溶媒が、pH6〜8に調整されたものである前記〔3〕記載の製造方法。
〔5〕 前記溶媒が、酢酸又は塩酸と混合することによりpH6〜8に調整されたものである前記〔4〕記載の製造方法。
【0010】
〔6〕 前記相間移動触媒が、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩又はクラウンエーテルである前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法。
〔7〕 前記相間移動触媒が、臭化テトラn−ブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム及び塩化メチルトリブチルアンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法。
〔8〕 金属シアン化物及びシアン化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種の使用量が、前記式(1)で示されるベンズアルデヒド化合物1モルに対して、1.2モル〜3.0モルの範囲である前記〔1〕〜〔7〕のいずれか記載の製造方法。
〔9〕 Qが置換基を有していてもよいフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である前記〔1〕〜〔8〕のいずれか記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マンデロニトリル化合物を優れた収率で製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、溶媒中、式(1)で示されるベンズアルデヒド化合物(以下、「化合物(1)」ということがある)と、金属シアン化物及びシアン化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、「シアノ化剤」ということがある)とを、相間移動触媒の存在下で反応させる工程(以下、「本反応」ということがある)を有することを特徴とする式(2)で示されるマンデロニトリル化合物又はその塩(以下、「化合物(2)」ということがある)の製造方法である。
【0013】
式(1)及び式(2)において、Qで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基における、炭素数1〜14の炭化水素基としては、例えば、炭素数6〜14のアリール基、炭素数1〜14のアルキル基、炭素数2〜14のアルケニル基、炭素数2〜14のアルキニル基が挙げられる。
【0014】
炭素数6〜14のアリール基としては、例えばフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が挙げられ、かかる炭素数6〜14のアリール基は、置換可能な位置に、例えば、1〜5個の本反応に不活性な置換基を有していてもよく、好ましくは、1〜4個の置換基を有していてもよく、より好ましくは、1〜3個の置換基を有していてもよい。複数の置換基を有する場合、それら置換基はそれぞれ独立であり、複数の置換基が同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。炭素数6〜14のアリール基が任意で有する置換基としては、例えば、以下の群P1から選ばれる少なくとも一種の基が挙げられる。ここで、以下において、低級とは、その基に含まれる炭素数が1〜8であることを意味し、好ましくは、その基に含まれる炭素数は6以下であり、より好ましくは、その基に含まれる炭素数は4以下である。
【0015】
群P1:
メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の低級アルキル基; エテニル基、2−プロペニル基、クロチル等の低級アルケニル基; エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基等の低級アルキニル基; シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の低級シクロアルキル基; メトキシメチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基等の、低級アルコキシ基を有する低級アルキル基; シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の低級シクロアルケニル基; アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基等の低級アルカノイル基; トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基等のトリ−低級アルキルシリル基; ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、2,3−ジクロロプロピル等のハロ低級アルキル基; ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジ−低級アルキルアミノ基; フェニル基; ベンジル基、フェネチル基等の、フェニル基を有する低級アルキル基; スチリル基、シンナミル基等の、フェニル基を有する低級アルケニル基; 3−フリルメチル基、2−フリルエチル基等の、フリル基を有する低級アルキル基; 3−フリルビニル基、2−フリルアリル基等のフリル基を有する低級アルケニル基; フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子; ニトロ基; シアノ基; メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等の低級アルキルチオ基; メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基; ホルミル基; ホルミル基等で保護されていてもよいアミノ基; メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノ−低級アルキルアミノ基; メチルカルボニルアミノ基等の低級アルキルカルボニル基でモノ置換されているアミノ基; −ORで示される基(Rは、水素原子又は以下の群P2から選ばれる基を表す。) 並びに −CH−G−R’[Gは、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)又は−NR’’−(ここで、R’’は水素原子又は低級アルキル基を表す)を表し、R’は、フェニル基;2−クロロフェニル基、4−フルオロフェニル基等のハロフェニル基;2−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基等の低級アルコキシフェニル基;ピリジル基又はピリミジニル基を表す。]
【0016】
群P2:
メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基; エテニル基、2−プロペニル基、クロチル基等の低級アルケニル基; エチニル基、2−プロピニル基、3−ブチニル基等の低級アルキニル基; ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、2,3−ジクロロプロピル基等のハロ低級アルキル基; アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等の低級アルカノイル基; フェニル基等のアリール基; 3−メトキシフェニル、4−エトキシフェニル等の低級アルコキシフェニル基; 3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基等のニトロフェニル基; ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の、フェニル基を有する低級アルキル基; 3−シアノフェニルメチル基、4−シアノフェニルエチル基等の、シアノフェニル基を有する低級アルキル基; ベンゾイル基; テトラヒドロピラニル基; ピリジル基; トリフルオロメチルピリジル基; ピリミジニル基; ベンゾチアゾリル基; キノリル基; ベンゾイルメチル基、ベンゾイルエチル基等の、ベンゾイル基を有する低級アルキル基 並びに ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基等の、低級アルキル基を有するベンゼンスルホニル基
【0017】
置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基は、好ましくは、置換基を有していてもよいフェニル基であり、より好ましくは、式(3)

(式中、U、V及びWはそれぞれ独立に、水素原子又は上述の群P1から選ばれる基である。)
で表される基である。式(3)において、U、V及びWはそれぞれ独立に、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロ低級アルキル基、低級アルコキシ基を有する低級アルキル基、−ORで示される基、低級アルキルチオ基、保護されていてもよいアミノ基又はモノ−低級アルキルアミノ基又はジ−低級アルキルアミノ基である。
【0018】
U、V及びWはそれぞれ独立に、好ましくは、水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、メチルチオ基又はジメチルアミノ基であり、より好ましくは、水素原子、塩素原子、メチル基又はメトキシ基である。
【0019】
Qで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基における、炭素数1〜14のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。
【0020】
Qで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基における、炭素数2〜14のアルケニル基としては、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1,3−ヘキサジエニル基、2,4−ヘキサジエニル基、3,5−ヘキサジエニル基が挙げられ、好ましくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、より好ましくは炭素数3〜6のアルケニル基である。
【0021】
Qで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基における、炭素数2〜14のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基が挙げられ、好ましくは炭素数2〜6のアルキニル基であり、より好ましくは炭素数2〜4のアルキニル基である。
【0022】
Qで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基における、炭素数1〜14のアルキル基、炭素数2〜14のアルケニル基及び炭素数2〜14のアルキニル基は、置換可能な位置に本反応に不活性な置換基を有していてもよく、これらアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基が任意で有する置換基としては、例えば、U、V及びWにおいて例示したハロゲン原子、低級アルキルチオ基、保護されていてもよいアミノ基が挙げられ、また例えば、後述するR及びRにおける低級アルキルスルフィニル基、低級アルキルスルホニル基が挙げられ、また例えば、Qにおいて例示した置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、また例えば、後述する置換基を有していてもよい炭素数3〜12の複素環基が挙げられ、さらに例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜8のアルコキシ基(当該アルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜4である)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子(該ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子である)を有するハロアルコキシ基(具体的には、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、クロロメトキシ基等)、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜8のアルコキシ基(当該アルコキシ基の炭素数は、好ましくは1〜4である)を有するアルコキシアルコキシ基(具体的には、メトキシメトキシ基、2−メトキシエトキシ基、エトキシメトキシ基等);式(5)

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキル基、アシル基、低級アルキルチオ基、低級アルキルスルフィニル基、低級アルキルスルホニル基、保護されていてもよいアミノ基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基を表すか、或いはRとRとが結合してヘテロ原子を含んでいてもよい単環若しくは多環を形成する。)で示される基が挙げられる。
【0023】
又はRで表される置換基を有していてもよい低級アルキル基としては、例えば、U、V及びWにおいて例示した低級アルキル基、ハロ低級アルキル基、低級アルコキシ基を有する低級アルキル基と同様のものが挙げられ、好ましくは、メチル基又はエチル基である。
又はRで表されるアシル基としては、例えば、低級アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基等が挙げられる。該低級アルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が挙げられる。該アリールカルボニル基としては、例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基等の炭素数7〜15のアリールカルボニル基が挙げられる。
又はRで表される低級アルキルチオ基、保護されていてもよいアミノ基としては、それぞれU、V及びWにおいて例示した低級アルキルチオ基と同様の基、保護されていてもよいアミノ基と同様の基が挙げられる。
【0024】
又はRで表される低級アルキルスルフィニル基としては、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基が挙げられ、好ましくは、メチルスルフィニル基である。
又はRで表される低級アルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基等が挙げられ、好ましくは、メチルスルホニル基である。
又はRで表されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数3〜7のシクロアルキル基が挙げられ、好ましくは、炭素数5〜6のシクロアルキル基が挙げられる。
【0025】
又はRで表される置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基(例えば、1−ナフチル基)、フルオレニル基等の炭素数6〜14のアリール基が挙げられ、好ましくは、フェニル基である。該アリール基は、置換可能な位置に、例えば1〜3個の置換基を有していてもよい。該アリール基が任意で有する置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい低級アルキル基、−ORで示される基(Rは、前記と同じ意味を表す。)、低級アルキルチオ基、保護されていてもよいアミノ基、ニトロ基、フェニル基、シアノ基等が挙げられる。
【0026】
又はRで表されるアリール基が任意で有する置換基としてのハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。置換基を有していてもよい低級アルキル基としては、U、V及びWにおいて例示した低級アルキル基、ハロ低級アルキル基、低級アルコキシ基を有する低級アルキル基と同様のものが挙げられ、好ましくは、低級アルキル基又はハロ低級アルキル基であり、より好ましくは、メチル基又はトリフルオロメチル基である。−ORで示される基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の低級アルコキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基、クロチルオキシ基等の低級アルケニルオキシ基;エチニルオキシ基、プロパルギルオキシ基、ブチニルオキシ基等の低級アルキニルオキシ基;ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、クロロメトキシ基等のハロ低級アルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基が挙げられ、好ましくは、メトキシ基、アリルオキシ基、プロパルギルオキシ基又はジフルオロメトキシ基である。低級アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基が挙げられ、好ましくは、メチルチオ基又はエチルチオ基であり、より好ましくは、メチルチオ基である。保護されていてもよいアミノ基としては、例えば、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノ−低級アルキルアミノ基;ジメチルアミノ基等のジ−低級アルキルアミノ基が挙げられる。
【0027】
又はRで表される置換基を有していてもよい複素環基としては、環内にたとえば1〜4個、好ましくは1〜2個のヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子)を含有する複素環基が挙げられ、例えば、ピリジル基、ピリダジニル基、ピラゾリル基、ピリミジニル基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノリル基、キナゾリニル基、ピラジニル基、モルホリノ基、ピペラジニル基が挙げられる。複素環基は、好ましくは、フリル基(例えば、2−フリル基)、チエニル基(例えば、2−チエニル基)、ピリジル基(例えば、2−ピリジル基)、ピラジニル基(例えば、2−ピラジニル基)、ピリミジニル基(例えば、2−ピリミジニル基)又はモルホリノ基である。該複素環基は、置換可能な位置に置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、R又はRで表されるアリール基が任意で有する置換基と同様の基が挙げられる。
【0028】
とRとが結合して形成されるヘテロ原子を含んでいてもよい単環若しくは多環は、R及びRと、これらがそれぞれ結合する炭素原子及び窒素原子と共に形成される、ヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子)を含有していてもよい4〜8員環であり、該環は縮合環を形成していてもよい。かかる単環若しくは多環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、インダン環、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン環、5,6,7,8−テトラヒドロキノリン環、4,5,6,7−テトラヒドロベンゾ[b]フラン環が挙げられる。
【0029】
Qで表される置換基を有していてもよい炭素数3〜12の複素環基における、炭素数3〜12の複素環基としては、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる1〜4個のヘテロ原子を環構成原子として含有する5〜7員複素環基が挙げられる。これらの複素環基は、さらに別の複素環またはベンゼン環と縮合環を形成していてもよい。炭素数3〜12の複素環基としては、例えば、ピリジン−2−イル基、ピリジン−3−イル基等のピリジル基; ピリミジン−4−イル基、ピリミジン−2−イル基等のピリミジニル基; キノリン−4−イル基等のキノリル基; キナゾリン−4−イル基等のキナゾリニル基; ベンゾチアゾール−2−イル基等のベンゾチアゾリル基; ピラゾール−5−イル基等のピラゾリル基が挙げられ、好ましくはピリジル基である。かかる炭素数3〜12の複素環基は、置換可能な位置に、例えば、1〜5個の本反応に不活性な置換基を有していてもよく、好ましくは、1〜4個の置換基を有していてもよく、より好ましくは、1〜3個の置換基を有していてもよい。複数の置換基を有する場合、それら置換基はそれぞれ独立であり、複数の置換基が同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0030】
Qで表される置換基を有していてもよいメチレンアミノ基は、例えば式(4)

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキル基、アシル基、低級アルキルチオ基、低級アルキルスルフィニル基、低級アルキルスルホニル基、保護されていてもよいアミノ基、低級シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基を表すか、或いはRとRとが結合してヘテロ原子を含んでいてもよい単環若しくは多環を形成する。)で表される基である。R又はRで表される置換基を有していてもよい低級アルキル基、アシル基、低級アルキルチオ基、低級アルキルスルフィニル基、低級アルキルスルホニル基、保護されていてもよいアミノ基、低級シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基、RとRとが結合して形成されるヘテロ原子を含んでいてもよい単環若しくは多環は、それぞれ、上述のR又はRで表される置換基を有していてもよい低級アルキル基、アシル基、低級アルキルチオ基、低級アルキルスルフィニル基、低級アルキルスルホニル基、保護されていてもよいアミノ基、低級シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基、RとRとが結合して形成されるヘテロ原子を含んでいてもよい単環若しくは多環と同様のものが挙げられる。
【0031】
Qで表される置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアシル基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいフェニルカルボニル基、置換基を有していてもよいナフチルカルボニル基、置換基を有していてもよい複素環基を有するカルボニル基が挙げられる。かかるアシル基における置換基を有していてもよいアルキル(基)としては、U、V及びWにおいて例示した低級アルキル基、ハロ低級アルキル基、低級アルコキシ基を有する低級アルキル基と同様のものが挙げられ、置換基を有していてもよいフェニル(基)、置換基を有していてもよいナフチル(基)、置換基を有していてもよい複素環基としては、それぞれQにおいて例示した基と同様のものが挙げられる。
【0032】
Qで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜14の置換スルホニル基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいフェニルスルホニル基、置換基を有していてもよいナフチルスルホニル基、置換基を有していてもよい複素環基を有するスルホニル基が挙げられる。かかる置換スルホニル基における置換基を有していてもよいアルキル(基)としては、U、V及びWにおいて例示した低級アルキル基、ハロ低級アルキル基、低級アルコキシ基を有する低級アルキル基と同様のものが挙げられ、置換基を有していてもよいフェニル(基)、置換基を有していてもよいナフチル(基)、置換基を有していてもよい複素環基としては、それぞれQにおいて例示した基と同様のものが挙げられる。
【0033】
Qは、好ましくは、式(3)で表される基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいピリミジニル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよいキナゾリニル基、置換基を有していてもよいベンゾチアゾリル基、置換基を有していてもよいピラゾリル基、または式(4)で表される基である。
【0034】
Xは水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は保護されていてもよい水酸基を表し、Xが複数である場合、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよい。Xで表されるハロゲン原子としては、例えば、群P1において例示したハロゲン原子と同様のものが挙げられ、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、U、V及びWにおいて例示した低級アルキル基、ハロ低級アルキル基、低級アルコキシ基を有する低級アルキル基と同様のものが挙げられ、保護されていてもよい水酸基としては、上述の−ORで示される基と同様のものが挙げられ、Xは、好ましくは水素原子である。
【0035】
で表される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、U、V及びWにおいて例示した低級アルキル基と同様のものが挙げられ、好ましくは、メチル基である。Rで表される炭素数1〜9のアシル基としては、例えば、ホルミル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等の低級アルキル基を有するカルボニル基並びにベンゾイル基が挙げられ、好ましくは、アセチル基である。
【0036】
Mは、好ましくは、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)又は−NR−であり、より好ましくは、オキシ基(−O−)である。
【0037】
nは、好ましくは、0又は1であり、より好ましくは1である。
【0038】
化合物(1)は、好ましくは、Qが置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよい複素環基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが0又は1である化合物;或いは、Qが式(3)で表される基(Rが低級アルキル基であり、Rが置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいモルホリノ基である)であり、Xが水素原子であり、Mがアシルアミノ基であり、nが1である化合物であり、より好ましくは、Qが置換基を有していてもよいフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物である。
【0039】
好ましい化合物(1)として、具体的には、例えば、Qがフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが0である化合物;Qが3,4−ジメチルフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが0である化合物;Qが3,5−ジメチルフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが0である化合物;Qが2−メチルフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが2,5−ジメチルフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが4−クロロ−2−メチルフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが2,5−ジメチルフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン−2−イル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが3,5−ジクロロピリジン−2−イル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが3−トリフルオロメチル−5−クロロピリジン−2−イル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが3−クロロピリジン−2−イル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qがα−メチル−4−クロロベンジリデンアミノ基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qがα−メチル−4−メトキシベンジリデンアミノ基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qが4,α−ジメチルベンジリデンアミノ基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物;Qがα−メチル−4−トリフルオロメチルベンジリデンアミノ基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物が挙げられ、Qが2,5−ジメチルフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である化合物がより一層好ましい。
【0040】
本反応で使用されるシアノ化剤としては、例えば、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化水素が挙げられる。シアノ化剤は、水に溶解させて用いることもできるし、メタノール等のアルコールに溶解させて用いることもできる。シアノ化剤の使用量は、化合物(1)1モルに対して、好ましくは1.2モル〜3.0モルの範囲であり、より好ましくは1.5モル〜2.0モルの範囲である。尚、シアン化物の使用量が3.0モルよりも多い場合、未反応のシアノ化剤がより多く残存する傾向にある。
【0041】
本反応で使用される相間移動触媒としては、例えば、臭化テトラn−ブチルアンモニウム(以下、「TBAB」ということがある。)、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化メチルトリブチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩;塩化テトラn−ブチルホスホニウム等の四級ホスホニウム塩;15−クラウン−5、18−クラウン−6等のクラウンエーテルが挙げられ、好ましくは、四級アンモニウム塩であり、より好ましくは、臭化テトラn−ブチルアンモニウム又は塩化メチルトリブチルアンモニウムである。相間移動触媒は、必要に応じて二種以上を用いることができる。相間移動触媒の使用量は、ベンズ化合物(1)1モルに対して、例えば0.001モル〜1モルの範囲であり、好ましくは0.01モル〜0.1モルの範囲である。相間移動触媒の非存在下で本反応を行うと、オルト位に所定の置換基を有する化合物(1)の反応性が低く、十分な転化率が得られない傾向にある。
【0042】
本反応は、溶媒中で行われ、例えば、有機溶媒中又は有機溶媒と水との混合溶媒中で行われる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、エチレングリコール、1−ブタノール等のアルコール(該アルコールの炭素数は、好ましくは1〜4である);ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチル等のエステル;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素;n−へキサン、n−へプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素が挙げられる。溶媒は、化合物(2)の収率を向上させる点で、アルコール、エーテル、エステル等の極性の高い有機溶媒を含むものであることが好ましく、アルコールを含むものであることがより好ましい。また、溶媒は、本反応の終了後にシアノ化剤の除去を容易にする点で、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及びハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、「低極性溶媒」ということがある)と、水とを用いることが好ましい。本反応は、アルコールを含む溶媒中で行うことが好ましく、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及びハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒と、水と、アルコールとの混合溶媒中で行うことがより好ましい。
有機溶媒の使用量は、化合物(1)1重量部に対して、例えば0.5重量部〜10重量部の範囲であり、好ましくは1重量部〜5重量部の範囲である。水の使用量は、化合物(1)1重量部に対して、例えば0.3重量部〜5重量部の範囲であり、好ましくは0.5重量部〜2重量部の範囲である。
【0043】
本反応に水を用いる場合、本反応中における溶媒のpHを調整することが好ましく、化合物(2)の収率を向上させる点で、溶媒をpH5〜9に調整することがより好ましく、溶媒をpH6〜8に調整することがさらに好ましく、溶媒をpH7.2〜7.6に調整することがより一層好ましい。
【0044】
本反応中における溶媒のpHは、例えば、酸及び/又は塩基を添加することにより調整される。かかる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、酪酸、クエン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸;塩酸(塩化水素の水溶液)、硫酸、りん酸、硫酸水素ナトリウム、塩化アンモニウム等の無機酸が挙げられる。酸は、必要に応じて二種以上用いることができる。酸は、pHの調整が容易である点で、酸性度の低い有機酸が好ましく、酢酸がより好ましい。酸の使用量は、シアノ化剤1モルに対して、1モル程度〜1.1モル程度の範囲であり、上述した所定のpHになる量を使用するのが好ましい。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。塩基は、本反応における水のpHが、例えば5未満である場合、また例えば6未満である場合、また例えば7未満である場合に用いられる。
【0045】
本反応は、例えば、以下の(a)〜(d)に記載される方法により行うことができる。
(a)有機溶媒、水、相間移動触媒及び化合物(1)の混合物に、シアノ化剤の水溶液を加え、そこへ、酸を一括添加又は滴下する方法;
(b)有機溶媒、水、相間移動触媒及び化合物(1)の混合物に、シアノ化剤の水溶液と酸とを並行して添加する方法;
(c)有機溶媒、水、相間移動触媒及び化合物(1)の混合物に、酸を加え、そこへ、シアノ化剤の水溶液を一括添加又は滴下する方法;
(d)シアノ化剤の水溶液、酸及び相間移動触媒の混合物に、有機溶媒に溶解させた化合物(1)を加える方法。
本反応は、好ましくは、本反応中における水のpHを好ましい範囲に調整する点で、(a)に記載される方法又は(b)に記載される方法により行われる。シアノ化剤の水溶液及び/又は酸を滴下する場合、滴下時間は、例えば0.5時間〜20時間の範囲であり、好ましくは1時間〜10時間の範囲である。
【0046】
本反応の反応温度は、例えば−20℃〜50℃の範囲から選択される温度であり、好ましくは0℃〜30℃の範囲から選択される温度である。本反応では、化合物(1)、シアノ化剤及び必要に応じて酸を混合した後、好ましくは0.5時間〜20時間の範囲、より好ましくは1時間〜10時間の範囲、保温して攪拌する。
【0047】
本反応の終了後、化合物(2)を優れた収率で得ることができる。化合物(2)は、必要に応じて精製してもよく、例えば、本反応により得られる反応混合物に塩酸(塩化水素の水溶液)や硫酸水溶液等の酸性水を添加した後、油水分離し、得られる油層から溶媒等を除去することにより、化合物(2)を精製することができる。この際、油層中にp−トルエンスルホン酸やリン酸2−エチルヘキシルなどの安定化剤を添加するのが好ましい。また、油水分離した後に、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素;n−へキサン、n−へプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素を貧溶媒として添加する、又は、油水分離した後に冷却操作に付す等により、化合物(2)を晶析させることもできる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。以下、高速液体クロマトグラフィーにより反応混合物を分析し、反応混合物中に含まれる化合物(1)及び化合物(2)の量を決定し、化合物(1)の転化率及び残存率、並びに化合物(2)の収率を算出した。
【0049】
<実施例1>
実施例1
200mLフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド10.02g(含量94.6重量%、0.039モル)、キシレン20.05g、メタノール14.26g、水3.87g及びTBAB0.26g(含量98.0重量%、0.0008モル)を入れて混合した後、撹拌しながら10℃に冷却した。続いて、該混合物に、シアン化ナトリウム2.98g(含量97.0重量%、0.059モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.5モル))を水8.70gに溶解させた水溶液を加え、酢酸3.68g(含量99.7重量%、0.061モル)を水0.42gに溶解させた水溶液を0.5時間で滴下した。滴下後の水層のpHは7.76であり、酢酸0.26gを加えpH調整を行いpH7.37とした。pH調整後、反応混合物を10℃で3時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は95.9%、残存率は4.1%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は95.9%であった。
【0050】
実施例2
200mLフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド20.03g(含量94.6重量%、0.079モル)、キシレン40.01g、メタノール28.38g、水7.01g及びTBAB0.52g(含量98.0重量%、0.002モル)を入れて混合した後、撹拌しながら10℃に冷却した。続いて、該混合物に、シアン化ナトリウム5.58g(含量97.0重量%、0.11モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.4モル))を水16.25gに溶解させた水溶液を加え、酢酸6.89g(含量99.7重量%、0.11モル)を水0.77gに溶解させた水溶液を0.5時間で滴下した。滴下後の水層のpHは7.86であり、酢酸0.43gを加えpH調整を行いpH7.38とした。pH調整後、反応混合物を10℃で3時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は95.6%、残存率は4.4%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は95.6%であった。
【0051】
実施例3
200mLフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド10.03g(含量98.2重量%、0.040モル)、キシレン20.64g、メタノール14.83g及び塩化ベンジルトリエチルアンモニウム0.22g(含量98.0重量%、0.001モル)を入れて混合した後、撹拌しながら10℃に冷却した。続いて、シアン化ナトリウム3.11g(含量97.0重量%、0.062モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.5モル))を水9.06gに溶解させた水溶液と、酢酸3.84g(含量99.7重量%、0.064モル)を水4.42gに溶解させた水溶液とを、該混合物にpH6〜8に保ちながら0.5時間で並行して滴下した。滴下後の水層のpHは7.61であり、酢酸0.25gを加えpH調整を行いpH7.12とした。pH調整後、反応混合物を10℃で7時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は96.4%、残存率は3.6%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は96.4%であった。
【0052】
実施例4
200mLフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド20.03g(含量94.6重量%、0.079モル)、キシレン39.78g、メタノール28.38g、水7.70g及びAliquat(登録商標)175 0.50g(含量75重量%、0.002モル)を入れて混合した後、撹拌しながら10℃に冷却した。続いて、該混合物に、シアン化ナトリウム5.97g(含量97.0重量%、0.12モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.5モル))を水17.40gに溶解させた水溶液を加え、酢酸7.37g(含量99.7重量%、0.12モル)を水0.83gに溶解させた水溶液を0.5時間で滴下した。滴下後の水層のpHは7.96であり、酢酸0.60gを加えpH調整を行いpH7.39とした。pH調整後、反応混合物を10℃で4時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は96.2%、残存率は3.8%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は96.2%であった。
【0053】
実施例5
200mlフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド10.01g(含量94.6重量%、0.039モル)、キシレン20.00g、メタノール14.18g、水3.08g及びTBAB0.26g(含量98.0重量%、0.0008モル)を入れて混合した後、撹拌しながら10℃に冷却した。続いて、該混合物に、シアン化ナトリウム2.40g(含量97.0重量%、0.048モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.2モル))を水7.00gに溶解させた水溶液を加え、酢酸2.96g(含量99.7重量%、0.049モル)を水0.34gに溶解させた水溶液を0.5時間で滴下した。滴下後の水層のpHは7.39であり、反応混合物を10℃で7時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は92.4%、残存率は7.6%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は92.4%であった。
【0054】
実施例6
200mlフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド10.01g(含量98.2重量%、0.039モル)、キシレン20.67g、メタノール15.00gおよびTBAB0.14g(含量98.0重量%、0.0004モル)を入れて混合した後、撹拌しながら10℃に冷却した。続いて、シアン化ナトリウム3.10g(含量97.0重量%、0.061モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.5モル))を水9.08gに溶解させた水溶液と、酢酸3.82g(含量99.7重量%、0.063モル)を水4.44gに溶解させた水溶液とを、該混合物にpH6〜8に保ちながら0.5時間で並行して滴下した。滴下後の水層のpHは7.73であり、酢酸0.20gを加えpH調整を行いpH7.20とした。pH調整後、反応混合物を10℃で6時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は95.6%、残存率は4.4%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は95.6%であった。
【0055】
比較例1
200mLフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド15.00g(含量94.6重量%、0.059モル)、メチルtert−ブチルエーテル46.47g及び水5.81gを入れて混合した後、撹拌しながら10℃に冷却した。続いて、該混合物に、シアン化ナトリウム4.47g(含量97.0重量%、0.089モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.5モル))を水13.03gに溶解させた水溶液を加え、酢酸5.53g(含量99.7重量%、0.092モル)を水0.62gに溶解させた水溶液を0.5時間で滴下した。滴下後の水層のpHは7.73であり、酢酸0.16gを加えpH調整を行いpH7.39とした。pH調整後、反応混合物を10℃で4時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は40.2%、残存率は59.8%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は40.2%であった。
【0056】
比較例2
200mLフラスコに、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド10.03g(含量94.6重量%、0.040モル)及びメタノール47.30gを入れて室温にて混合した。続いて、該混合物に、シアン化ナトリウム2.99g(含量97.0重量%、0.059モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.5モル))を加え、飽和亜硫酸水素ナトリウム9.87g(0.095モル)を水23.50gに溶解させた水溶液を0.5時間で滴下した。滴下後の水層のpHは7.03であった。反応混合物を室温で7時間撹拌し、この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は84.4%、残存率は15.6%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は84.4%であった。
【0057】
実施例7
200mLフラスコに、シアン化ナトリウム5.57g(含量97.0重量%、0.11モル(2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド1モルに対して1.4モル))を水16.22gに溶解させた水溶液を加え、続いて2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒド20.04g(含量94.6重量%、0.079モル)、キシレン39.86g及びTBAB0.52g(含量98.0重量%、0.002モル)を入れて室温にて混合した。続いて、35%塩酸11.97g(含量35重量%、0.11モル)を0.5時間で滴下した。滴下後のpHは0.33であり、このときの2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は85.3%、残存率は14.7%であった。反応系内に27%水酸化ナトリウム水溶液を0.56g加えpH調整を行いpH7.19とした。pH調整後、反応混合物を室温で7時間撹拌した。この反応混合物を分析したところ、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)ベンズアルデヒドの転化率は91.9%、残存率は8.1%であり、2−(2,5−ジメチルフェノキシメチル)マンデロニトリルの収率は91.9%であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
マンデロニトリル化合物は、例えば、医農薬の製造原料又は製造中間体として有用である。本発明により、マンデロニトリル化合物を優れた収率で製造できるため、本発明はマンデロニトリル化合物の製造方法として産業上利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中、式(1)

(式中、Qは、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜12の複素環基、置換基を有していてもよいメチレンアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜15のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の置換スルホニル基を表す。Xは、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基又は保護されていてもよい水酸基を表す。Mは、オキシ基(−O−)、チオ基(−S−)、スルフィニル基(−SO−)、スルホニル基(−SO−)、−NR−又は単結合を表し、Rは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜9のアシル基を表す。nは、0、1又は2を表す。)
で示されるベンズアルデヒド化合物と、金属シアン化物及びシアン化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種とを、相間移動触媒の存在下で反応させる工程を含むことを特徴とする式(2)

(式中、Q、X、M及びnはそれぞれ前記と同じ意味を表す。)
で示されるマンデロニトリル化合物又はその塩の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が、アルコールを含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及びハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種と、水と、アルコールとの混合溶媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、pH6〜8に調整されたものである請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、酢酸又は塩酸と混合することによりpH6〜8に調整されたものである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記相間移動触媒が、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩又はクラウンエーテルである請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
前記相間移動触媒が、臭化テトラn−ブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム及び塩化メチルトリブチルアンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
金属シアン化物及びシアン化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種の使用量が、前記式(1)で示されるベンズアルデヒド化合物1モルに対して、1.2モル〜3.0モルの範囲である請求項1〜7のいずれか記載の製造方法。
【請求項9】
Qが置換基を有していてもよいフェニル基であり、Xが水素原子であり、Mがオキシ基(−O−)であり、nが1である請求項1〜8のいずれか記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−219074(P2012−219074A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88128(P2011−88128)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】