説明

マンデヴィラ属植物の人工交配方法

【課題】マンデヴィラ(Mandevilla)属植物の人工交配方法の提供。
【解決手段】マンデヴィラ(Mandevilla)属植物の人工交配方法であって、以下のステップ:
(1)人工交配に先立って、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1つ以上を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させ、そして
(2)花粉を提供する父親品種(父本)から予め採取した花粉を該露出した柱頭に塗布して、該母本を該父本と人工交配させる、
を含む前記人工交配方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンデヴィラ(Mandevilla)属植物の人工交配方法に関する。より詳細には、本発明は、育種素材として、つる咲きタイプ(サントリーフラワーズ(株))(海外での販売名称はPrettyタイプ)を用いたマンデヴィラ(Mandevilla)属植物の人工交配方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンデヴィラ属(Genus Mandevilla)植物(ディプラデニア(Dipladenia)ともいう。)は、キョウチクトウ科(family Apocynaceae)に属する、つる性の木本又は直立の草本で、熱帯アメリカ、例えば、メキシコからアルゼンチンにかけて約130種が原生している。
園芸的には1868年頃に英国にて、マンデヴィラ・スプレンデンス(Mandevilla splendens)を片親に(もう片方の親は不明)、マンデヴィラxアマビリス(Mandevilla x amabilis(syns. M. amonea)が作出された。1960年には米国で、M. amoneaとラベルされた株から得られた実生が開花し、これが現在でも広く流通する“Alice du Pont“(日本名「ローズジャイアント(Rose Giant)」)となった(以下、非特許文献1、2参照)。
【0003】
2000年頃までは、園芸的に流通している品種は、主にこの“Alice du Pont”とその自然突然変異の枝代わり品種や放任受粉させて得られた実生から選抜された品種、又はやはり来歴が不明なマンデヴィラ・サンデリ(Mandevilla sanderi)とその枝代わりや放任受粉による実生選抜品種、あるいは野生種のままであるマンデヴィラ・ラクサ(Mandevilla laxa)(Chilean Jasmine)やマンデヴィラ・ボリビエンシス(Mandevilla boliviensis)といったものが存在するにすぎなかった(以下、特許文献1参照)。
【0004】
サントリーフラワーズ(株)は、1998年に、大輪咲きタイプ「ホワイト」(Mandevilla amabilis x boliviensis 'Sunmandeho'、品種登録出願第8721号)を販売した(以下、特許文献2参照)。
【0005】
また、サントリーフラワーズ(株)は、2003年には、同じく大輪咲きタイプ「ピンク」(Mandevilla hybrida 'Sunmandecos'、品種登録出願第14756号)を販売した(以下、特許文献4参照)。
【0006】
サントリーフラワーズ(株)は、2005年には、つる咲きタイプ「レッド」(Madevilla hybrida 'Sunmanderemi')(以下、特許文献5参照、品種登録出願第15862号)、「トロピカルピーチ」(Mandevilla hybrida 'Sunmandetomi')(以下、特許文献6参照、品種登録出願第15863号)を販売し、つる咲きタイプ「ルビーピンク」(Sunparagropi)(品種登録出願第24471号)、つる咲きタイプ「レッドベルベット」(Mandevilla hybrida ‘Sunpararenga’)(以下、特許文献14参照、品種登録出願第23333号)、及びつる咲きタイプ(海外ではPrettyタイプと呼称)「Sundaville Pretty Rose」(Mandevilla hybrida 'Sunparaprero')(以下、特許文献15参照)を販売した。
【0007】
サントリーフラワーズ(株)は、2007年には、大輪咲き「クリムゾンキング」(Mandevilla hybrida 'Sunmandecrikin')(以下、特許文献7参照、品種登録出願第17409号)を販売した。
【0008】
サントリーフラワーズ(株)は、同年、早咲きタイプ「クリムゾン」(Mandevilla hybrida 'Sunmandecrim')を販売した(以下、特許文献3参照、品種登録出願第14755号)。
サントリーフラワーズ(株)は、早咲きタイプ「ルージュ」(Mandevilla hybrida 'Sunmandecripi')(以下、特許文献8参照、品種登録出願第23604号)、「ミルキーピンク」(Mandevilla hybrida 'Sunparapibra')(以下、特許文献9参照、品種登録出願第24470号))も販売している。
【0009】
上記大輪咲き「クリムゾンキング」と早咲きタイプ「クリムゾン」は、今までには無かった真紅のマンデヴィラであり、これらの新品種の登場により、市場は拡大を始め、サントリーフラワーズ(株)の競合各社もマンデヴィラの育種に取り組み始めた。
【0010】
以下の特許文献10(譲受人、Syngenta Participations AG)には、母体として特許文献3に記載された早咲きタイプ「クリムゾン」と同一であるフランスにおいて'Sundaville'(登録商標)Red, 'Moulin Rouge'として提供された品種、父体として特許文献1に記載された'Helle'として記載された'My Fair Lady'TMとして提供された品種を交配させて得たMandevilla sanderi (Hemsl.) Woodson 'Fisrix Pinka'という新品種が記載されている。
【0011】
また、以下の特許文献11〜13(譲受人、Floraquest Pty. Ltd.、及びProtected Plant Promotions Australia Pty. Ltd.)には、母体としてコードナンバーX02.5で識別されるMandevilla hybrida、父体として特許文献3に記載された早咲きタイプ「クリムゾン」(Mandevilla hybrida 'Sunmandecrim')を交配させて得たMandevilla hybrida 'Ginger'なる新品種が記載されている。
【0012】
近年の温暖化の影響か、日本の夏は「熱帯」になるとも囁かれている。マンデヴィラ属植物は、真夏の猛暑続きでも旺盛に成長し、秋11月(降霜)頃まで長期間花を楽しむことができる。一般に、サントリーフラワーズ株式会社が販売するサンパラソル(登録商標)の内、早咲きタイプ、つる咲きタイプの開花時期は5〜9月であり、大輪咲きの開花時期は7〜10月である(以下、非特許文献3参照)。
夏に咲くツル植物といえばアサガオが定番だったが、近年アサガオと肩を並べる夏の人気者となった。生育旺盛なツルを利用して、あんどん仕立てやアーチ仕立て、ネットやフェンス仕立てなど、庭を立体的に演出できるのもマンデヴィラの魅力である(以下、非特許文献4参照)。
【0013】
また、鉢物類全般の販売が伸び悩む中、マーケットサイズは大きいとはいえないが、マンデヴィラは、順調に販売が伸びている珍しい品目である(以下、非特許文献5参照)。
また、マンデヴィラは、日本国内だけでなく欧米においても順調に販売が伸びてきており、欧米では既に年間1000万本以上の販売数量に達し、さらに伸びると予想されている。
【0014】
しかしながら、マンデヴィラ属植物は、図1に示すように、花の構造が特殊であり、人為的な受粉による人工交配が技術的に難しく、前記したように約130種以上も原種が存在するにも拘わらず、園芸的に利用されているのは10数種に過ぎず、前記したように、新品種は、自然交配による実生選抜や、つる咲きタイプ以外の品種を用いて、人工交配した例しか報告されていない。
人工交配が技術的に難しいことは、手間のかかる作業を一定時間期間内に完了しなければならない状況下、処理量の制約につながり、一度に他品種の組合せでの交配を困難にしている。また、マンデヴィラ属植物においては、自家受粉や従来の人工交配方法では、結実率(交配成功率)が低く、交配種子量が少なく、組合せ数が制限されている。その結果、試験圃場での組み合わせ能力検定の規模が小さくなり、反復を必要とする本試験を行うことができず、得られた種子の評価は予備能力検定に留まり、組み合わせ能力の評価期間を延長せざるを得ないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国植物特許第9117号公報
【特許文献2】米国植物特許第11556号公報
【特許文献3】米国植物特許第15539号公報
【特許文献4】米国植物特許第15202号公報
【特許文献5】米国植物特許第16449号公報
【特許文献6】米国植物特許第16363号公報
【特許文献7】米国植物特許第17736号公報
【特許文献8】米国植物特許第18578号公報
【特許文献9】米国植物特許第19649号公報
【特許文献10】米国植物特許第20644号公報
【特許文献11】米国植物特許第20776号公報
【特許文献12】米国植物特許第20777号公報
【特許文献13】米国植物特許第20919号公報
【特許文献14】米国植物特許第20542号公報
【特許文献15】米国植物特許第19399号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】The New York Botanical Garden Illustrated Encyclopedia of Horticulture, Vol.6, p. 2129-2130, Garland Publishing, Inc. (1981)
【0017】
【非特許文献2】Mbberley's Plant-book, Third Edition, p. 520, Cambridge University Press (2008)
【0018】
【非特許文献3】サントリーフラワーズ株式会社、SUNTORY 「FLOWER & GREEN 花とグリーンの最新春夏カタログ2010」、2009年9月発行
【非特許文献4】NHK 趣味の園芸2007年7月号、p.18-24、NHK出版
【非特許文献5】FAJ鉢物レポート4月(http://www.faj.co.jp), Vol. 38, 平成21年3月15日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
マンデヴィラ属植物の市場を更に拡大していくためには、目新しさのある新品種を継続的に投入する必要があるが、以下に詳細に説明するように花の構造が特殊であり人工交配が難しい。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、人工交配方法によりマンデヴィラ属植物の新品種を効率的に開発していくために、できるだけ手間がかからず、処理量を制約せず、一度に他品種の組合せでの交配を可能にし、交配種子量が多く、組み合わせ数を制限しない、結実率の高い人工交配方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討し、実験を重ねた結果、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の少なくとも1つを、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させることにより、交配作業効率と結実率とを同時に高めることができることを見出し本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]マンデヴィラ(Mandevilla)属植物の人工交配方法であって、以下のステップ:
(1)人工交配に先立って、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1つ以上を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させ、そして
(2)花粉を提供する父親品種(父本)から予め採取した花粉を該露出した柱頭に塗布して、該母本を該父本と人工交配させる、
を含む前記人工交配方法。
【0022】
[2]前記ステップ(2)の後に、以下のステップ:
(3)人工交配直後に前記柱頭が露出した葯全体を包み込むように、一端を封止した筒状ストローを挿入する、
をさらに含む、前記[1]に記載の人工交配方法。
【0023】
[3]前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、前記[1]又は[2]に記載の人工交配方法。
【0024】
[4]前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、2個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、前記[1]又は[2]に記載の人工交配方法。
【0025】
[5]前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、3個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、前記[1]又は[2]に記載の人工交配方法。
【0026】
[6]前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、4個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、前記[1]又は[2]に記載の人工交配方法。
【0027】
[7]前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、5個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、前記[1]又は[2]に記載の人工交配方法。
【0028】
[8]前記母本及び父本の内の少なくとも一方が、つる咲きタイプ「レッド」(Madevilla hybrida 'Sunmanderemi')(品種登録出願第15862号)、つる咲きタイプ「トロピカルピーチ」(Mandevilla hybrida 'Sunmandetomi') (品種登録出願第15863号)、つる咲きタイプ「ルビーピンク」(Sunparagropi) (品種登録出願第24471号)、つる咲きタイプ「レッドベルベット」(Mandevilla hybrida ‘Sunpararenga’)(品種登録出願第23333号)、又はつる咲きタイプ「Sundaville Pretty Rose」(Mandevilla hybrida 'Sunparaprero')(米国植物特許第19399号公報)のいずれかである、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の人工交配方法。
【0029】
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の人工交配方法により生産されたマンデヴィラ(Mandevilla)属植物若しくはその子孫又はその組織、部分若しくは栄養増殖体。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るマンデヴィラ属植物の人工交配方法は、交配作業効率と結実率とを同時に高められたものであるため、該人工交配方法によりマンデヴィラ属植物の新品種を効率的に開発していくことができる。
また、育種素材として、葯のサイズが大きい「つる咲きタイプ」を用いれば、交配作業効率がさらに高まり、また、該タイプは、他のタイプに比較して、分枝数(挿し木からの育苗過程における主茎から3節以上伸びている枝の数)が多いため、該タイプを育種素材として用いれば、一株当たりで交配できる花の数が多くなり、交配の効率をさらに上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】マンデヴィラ属植物の雌蕊、柱頭、雄蕊との位置関係を示す図である。
【図2】雄蕊と柱頭との合着部分を露出された図面に代わる写真である。
【図3】雄蕊と柱頭との合着部分の大きさ((A)×(B))、及び葯の長さ(C)を指示する図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、前記したように、マンデヴィラ(Mandevilla)属植物の人工交配方法であって、以下のステップ:
(1)人工交配に先立って、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1つ以上を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させ、そして
(2)花粉を提供する父親品種(父本)から予め採取した花粉を該露出した柱頭に塗布して、該母本を該父本と人工交配させる、
を含む前記人工交配方法である。
【0033】
まず、マンデヴィラ属植物の特殊な花の構造について説明する。
図1と図2に示すように、マンデヴィラ属植物においては、雌蕊の柱頭の周囲に、5個の雄蕊が合着しており、人工交配を行うためには、柱頭を露出させ、これに、予め採集した父本の花粉を塗布する必要がある。柱頭と雄蕊は合着しており、該合着部と雄蕊が葯を形成し、葯には花粉が詰まっており、また、柱頭と子房の間の雌蕊の一部は細い花柱を形成し、該合着を剥離しようとして過度の外力を加えることにより、該花柱が切断されてしまう。該切断は人工交配の失敗を意味する。したがって、マンデヴィラ属植物の人工交配においては、該花柱を切断しないように雌蕊の柱頭に合着した雄蕊をどのようにして剥離し、柱頭を露出させるかが肝要となる。また、マンデヴィラ属植物においては、種子の成熟期間が6ヶ月程度と通常の植物に比べて非常に長くかかるため、交配後、種子がある程度成熟するまでの期間、該花柱を切断しないよう維持し、かつ乾燥を防止しながらに種子を成熟させることが重要となる。
【0034】
例えば、ペチュニアでは、花の構造は単純であり、雄蕊と雌蕊の区別は容易であり、蕾の時に、雄蕊のみを、除去し(除雄し)、開花時に他品種の花粉を、残存した雌蕊に塗布すればよい。該除去は、ピンセット等を用いて単に雄蕊を引きちぎればよい。
【0035】
これに反し、マンデヴィラ属植物の場合には、前記したように該花柱を切断しないように雌蕊の柱頭に合着した雄蕊を剥離しなければ、人工交配は成功しない。
【0036】
前記したように、従来、マンデヴィラ属植物は、主に自然交配による実生選抜により品種改良が行われてきた。早咲きタイプ「クリムゾン」と別の種との人工交配や手持ちの無名種どおしの人工交配が文献中に報告されているものの、かかる人工交配法の手順の詳細は明らかにされていないし、競合者により生産されている品種の形状から判断すると、競合者においては、現在でも、品種改良は主に自然交配による実生選抜により行われていると思われる。
【0037】
従来技術による人工交配法としては、例えば、柱頭に合着した雄蕊を剥離することなく、雄蕊の外から細い針様の道具を突き刺して交配する方法、合着した柱頭部を残して雄蕊を含む葯を切断する方法などであったと推定されるが、これらの方法では、「母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の全部又は一部を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる」本発明に係る方法に比較して、前記花柱を切断してしまう確率が高まったり、葯を切断することにより、自家花粉が散乱してしまうため、他家受粉による人工交配率は低下してしまうおそれがある。
【0038】
本発明に係るマンデヴィラ属植物の人工交配方法は、「母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1つ以上を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる」ことにより、その他の方法に比較して作業効率を高めつつ、該花柱の偶発的な切断による人工交配の失敗を回避することにより翻って人工交配の成功率を高め、さらに該花柱が切断されない場合であっても、前記した従来技術の方法に比較して人工交配の成功率が保持されるという予想外の発見に、一部基づくものである。
【0039】
前記「母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1つ以上を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる」ステップ(1)に先立って、蕾又は花の花弁部分を剃刀等で切除して葯を露出させた後、該ステップ(1)における合着部分の剥離を、場合により拡大鏡下、ピンセット等を用いて実施することができる。図2は、花弁を切除し、1個の雄蕊を剥離した後の写真である。
尚、前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させるところの雄蕊の数は、1個、2個、3個、4個又は5個であることができる。しかしながら、前記した花柱の偶発的な切断による人工交配の失敗を回避するためには、該個数はできるだけ少ない方がよく、好ましくは2個以下、より好ましくは1個である。
【0040】
本発明に係る人工交配法においては、前記したように、柱頭を露出させた後に、「花粉を提供する父親品種(父本)から予め採取した花粉を、該露出した柱頭に塗布して、該母本を該父本と人工交配させる」ステップ(2)を実施する。
花粉を提供する父親品種(父本)から予め花粉を採取する際には、単に、蕾又は花から葯を除去し、葯内の花粉を取り出せばよく、採取した花粉は、人工交配に先立って密閉容器内に保存しておけばよい。尚、花粉提供父親品種(父本)は、母親品種(母本)と同じ品種であっても、マンデヴィラ属の他品種であってもよい。前記したように、マンデヴィラ属植物は自家受粉の成功率が低いことが経験的に分かっているので、本発明に係る人工交配方法は、父本と母本が同一品種である場合にも有用である。
【0041】
次いで、好ましくは、柱頭が露出した葯全体を包み込むように、一端を封止した筒状ストローを挿入する」ステップ(3)を実施する。かかるステップ(3)は、花柱を切断することなく維持し、露出した柱頭が乾燥することを防止するために実施される。
【0042】
本発明に係る人工交配方法においては、母本及び父本の内の少なくとも一方として、つる咲きタイプ「レッド」(Madevilla hybrida 'Sunmanderemi')(品種登録出願第15862号)、つる咲きタイプ「トロピカルピーチ」(Mandevilla hybrida 'Sunmandetomi') (品種登録出願第15863号)、つる咲きタイプ「ルビーピンク」(Sunparagropi) (品種登録出願第24471号)、「つる咲きタイプ「レッドベルベット」(Mandevilla hybrida ‘Sunpararenga’)(品種登録出願第23333号)、又はつる咲きタイプ「Sundaville Pretty Rose」(Mandevilla hybrida 'Sunparaprero')(米国植物特許第19399号公報)のいずれかを用いることが好ましい。
第一の理由は、図3及び以下の表1に示すように、大輪咲きタイプや早咲きタイプに比較して、つる咲きタイプは、合着した葯全体の長さ(C)の点、及び柱頭と雄蕊の合着部分の長さ(A)と幅(B)の点で、剥離作業がし易いことにある。
【0043】
【表1】

【0044】
表1中のデータは、以下の手順により、各部位の大きさを測定した結果を纏めたものである。
1年以上温室(最低16℃で維持、23℃で天窓開放)内で栽培した植物から、開花2〜3日の花各品種5花を採取した。採取した花を、直ちに剃刀の刃で適当な位置で切断し、20倍の倍率のニコン(株)製実体顕微鏡で、各部位を観察した。各部位の長さをミツトヨ(株)製のノギスで測定した。
【0045】
表1に示すように、つる咲きタイプにおける「合着した葯全体の長さ(C)」は9.6mmであり、早咲きタイプにおける9.3、大輪咲きタイプにおける7.3mmに比較して、長くなっている。すなわち、つる咲きタイプは、葯が大きいため、ピンセット等を用いた細かい作業がし易く、剥離作業を比較的短時間に行うことができるため、作業効率が向上する。
また、つる咲きタイプにおける「柱頭と雄蕊の合着部分の長さ(A)」と「柱頭と雄蕊の合着部分の長さ幅(B)」の積は、1.3mm×0.4mm(全品種平均)であり、それぞれ、早咲きタイプにおける1.3mm×0.7mm(全品種平均)、及び大輪咲きタイプにおける1.4mm×0.5mm(全品種平均)に比較して、総じて小さくなっている。すなわち、つる咲きタイプでは、合着部分の面積が小さいため、不所望に花柱を切断する危険性が低下し、かつ、剥離自体が容易となる。また、合着部分の面積が小さいことは、つる咲きタイプを父本として用いる場合に、葯から花粉を取り出す作業の効率が高くなる点でも有利である。
【0046】
本発明に係る人工交配方法において、母本及び父本の内の少なくとも一方としてつる咲きタイプを用いることが好ましい第二の理由は、つる咲きタイプは、他のタイプに比較して、挿し木した際の増殖において、主茎から3節以上伸びている枝の数(=分枝数)が多いため、該タイプを母本として用いれば、一株当たりで交配できる花の数が多くなり、交配の効率をさらに上げることができるからである。
【0047】
温室内で栽培していた植物から、2009年11月に挿し木を行い、2010年1月に充分に移植可能な根量の幼植物体を得、これを同年2月上旬に内径7.5cmのポリポットに定植した。このポリポット苗を温室内で管理し、同年5月上旬に屋外(滋賀県東近江市)にて21cmポットに定植し、3週間後に、主茎から3節以上伸びている枝の数を測定してそれを分枝数とした。
表1に示すように、つる咲きタイプの平均分枝数は2.5〜4.3であり、早咲きタイプの平均分枝数1.7、及び大輪咲きタイプの平均分枝数1.7〜2.0に比較して、大きいことが分かる。交配親としての植物を栽培した場合に、枝の数が多くなるということは、人工交配に供する花数が一株あたりで多くなることを意味するので、つる咲きタイプを母本又は父本あるいはその両方として用いることにより、人工交配作業の効率をさらに向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るマンデヴィラ属植物の人工交配方法は、交配作業効率と結実率とを同時に高められたものであるため、マンデヴィラ属植物の新品種を人工交配方法により効率的に開発するための手段として、好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンデヴィラ(Mandevilla)属植物の人工交配方法であって、以下のステップ:
(1)人工交配に先立って、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1つ以上を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させ、そして
(2)花粉を提供する父親品種(父本)から予め採取した花粉を該露出した柱頭に塗布して、該母本を該父本と人工交配させる、
を含む前記人工交配方法。
【請求項2】
前記ステップ(2)の後に、以下のステップ:
(3)人工交配直後に前記柱頭が露出した葯全体を包み込むように、一端を封止した筒状ストローを挿入する、
をさらに含む、請求項1に記載の人工交配方法。
【請求項3】
前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、1個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、請求項1又は2に記載の人工交配方法。
【請求項4】
前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、2個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、請求項1又は2に記載の人工交配方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、3個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、請求項1又は2に記載の人工交配方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、4個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、請求項1又は2に記載の人工交配方法。
【請求項7】
前記ステップ(1)において、母親品種(母本)の雌蕊の柱頭の周囲に合着した5個の雄蕊の内、5個を、該合着部分を剥離することにより除去して、該柱頭を露出させる、請求項1又は2に記載の人工交配方法。
【請求項8】
前記母本及び父本の内の少なくとも一方が、つる咲きタイプ「レッド」(Madevilla hybrida 'Sunmanderemi')(品種登録出願第15862号)、つる咲きタイプ「トロピカルピーチ」(Mandevilla hybrida 'Sunmandetomi') (品種登録出願第15863号)、つる咲きタイプ「ルビーピンク」(Sunparagropi) (品種登録出願第24471号)、つる咲きタイプ「レッドベルベット」(Mandevilla hybrida ‘Sunpararenga’)(品種登録出願第23333号)、又はつる咲きタイプ「Sundaville Pretty Rose」(Mandevilla hybrida 'Sunparaprero')(米国植物特許第19399号公報)のいずれかである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の人工交配方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の人工交配方法により生産されたマンデヴィラ(Mandevilla)属植物若しくはその子孫又はその組織、部分若しくは栄養増殖体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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