説明

マンナン結合タンパク質のがん組織診断及び治療用途

【課題】がんの内視鏡治療のためのがん病変部の正確な範囲診断が可能な、新規がん組織診断マーカーを提供すること。
【解決手段】マンナン結合タンパク質(MBP)を含有してなる、大腸がんの組織診断剤、内視鏡治療補助剤、予後診断剤及び転移抑制剤。内視鏡の送水チャネル又は鉗子チャネルを通じて、MBPを含有する組織診断剤が散布される、大腸がんの内視鏡治療用装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンナン結合タンパク質を用いたがん組織診断及びがん切除術補助剤、あるいはがん転移抑制剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんマーカーとしては様々な糖鎖抗原が既に知られている。例えば、CA19-9は消化器系がんマーカーとして良く知られており、がん血清診断に日常的に用いられている。しかし、血清診断で陽性と判断されても、がんがどの臓器、どの組織に存在しているのかを知ることはできない。そこで、次に、内視鏡を用いて、疑わしい組織の一部を切除して組織染色を行い、顕微鏡下でがんか否かを観察することになる。
【0003】
また、内視鏡機器の進歩に伴って、内視鏡はがんの診断のみならず、治療にも応用されてきている。例えば、胃の粘膜がんに対しては、内視鏡的粘膜切除術(EMD)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が第一選択となっており、大腸のポリープに対しても、内視鏡的切除術(ポリペクトミー)が一般的治療として広く行われている。
このような内視鏡治療の普及に伴い、がん病変の正確な範囲診断が求められるようになってきている。従来、通常観察だけでは範囲の同定が困難な場合には、例えば色素を散布したり、蛍光物質を静注したりして、がん病変部と非がん部との境界を明瞭にする手法が用いられているが、必ずしも十分とは言えない。あるいは、超音波内視鏡、狭帯域光画像システム(NBI)、自家蛍光画像観察システム(AFI)などと拡大内視鏡とを組み合わせた範囲の同定も行われているが、特別な内視鏡機器を必要とするため汎用性を欠く。
したがって、一般的な内視鏡を用いて、従来の色素法と同様に迅速かつ簡便で、且つがん病変の正確な範囲の同定が可能な新規診断法の開発が望まれている。
【0004】
ところで、マンナン結合タンパク質(MBP)は酵母マンナンを固定化したアフィニティーカラムにより、ウサギ血清から初めて単離された動物レクチンであり、哺乳動物の血清中に広く分布している。MBPはマンノース、N-アセチルグルコサミン、フコースに結合特異性を有するCa2+依存性のレクチン(C型レクチン)である。MBPは外来微生物の細胞表面に存在する糖鎖リガンドを認識し、レクチン経路と呼ばれる補体活性化カスケードを活性化することにより、先天性免疫に重要な役割を担っている。
【0005】
本発明者らは、SW1116細胞株等のある種の結腸がん細胞がMBPにより免疫染色されることを見出した(非特許文献1)。次いで、SW1116細胞を移植したヌードマウスにMBPを発現するワクシニアウイルスベクターを投与したところ、顕著な腫瘍退縮が認められた。意外にも、補体活性化能を持たない変異MBP遺伝子を組み込んだウイルスを投与しても腫瘍の増殖が抑制されたことから、本発明者らは、この抗腫瘍効果をMBP依存的細胞性細胞傷害作用(MDCC)と名づけた(非特許文献2)。
【0006】
しかしながら、初代ヒト組織におけるMBPリガンドの発現は未だ調べられておらず、該リガンドのがんマーカーとしての実用性やMBPを用いたヒトがん治療の可能性については未解明のままであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ohta, Y and Kawasaki, T., Glycoconj. J., 11: 304-308 (1994)
【非特許文献2】Ma, Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96: 371-375 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、がんの内視鏡治療のためのがん病変部の正確な範囲診断が可能な、新規がん組織診断マーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、大腸がんにおいて、MBPが正常組織あるいは非がん部組織には結合せず、がん組織のみに特異的に結合することを見出した。この事実を利用すれば、まず腸内に蛍光標識したMBPを投与し、ついで蛍光内視鏡で腸内を観察することにより、がん組織と非がん部組織との境界を明確に同定することができるので、モニターを通じてがん細胞を目で確認しながら、がん組織の切除が可能となる。MBPはすべての大腸がん患者で発現しているわけではないが、血清マーカーとの相関分析により、MBP染色陽性患者では血清CEAレベルが低値で、MBP染色陰性患者では高値であること、また、がん粘膜ではMBP染色陽性患者の約8割がCA19-9陰性であるのに対し、MBP染色陰性患者の約2/3がCA19-9陽性であることが明らかとなり、MBP染色陰性の場合でも、血清CEAレベル及び/又はCA19-9の組織発現とを組み合わせることにより、高確度に大腸がんの診断を行えることを見出した。
さらに、MBPリガンド発現の延命効果について検討した結果、リンパ節転移のない大腸がん患者では、MBP染色陽性患者の方がMBP染色陰性患者と比較して有意に生存率が高かったが、すでにリンパ節に転移している大腸がん患者では、MBPリガンド発現の有無と生存率との間に相関は見られなかった。このことは、MBPが転移抑制効果を有し、転移のない早期大腸がんの治療薬として有効であることを示唆している。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の通りである。
〔1〕マンナン結合タンパク質(MBP)を含有してなる、大腸がん組織診断剤。
〔2〕MBPを含有してなる、大腸がんの内視鏡治療補助剤。
〔3〕さらにCa2+を含有してなる、上記〔1〕又は〔2〕記載の剤。
〔4〕MBPが蛍光色素で標識されている、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤。
〔5〕MBPとは異なる蛍光色素で標識された抗CA19-9抗体と組み合わせてなる、上記〔4〕記載の剤。
〔6〕内視鏡の送水チャネル又は鉗子チャネルを通じて、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の剤が散布される、大腸がんの内視鏡治療用装置。
〔7〕内視鏡が蛍光内視鏡である、上記〔6〕記載の装置。
〔8〕MBPを含有してなる、転移を有しない大腸がん患者の予後診断剤。
〔9〕MBPを含有してなる大腸がん治療剤であって、転移を有しない大腸がん患者に投与されることを特徴とする、剤。
〔10〕MBPを含有してなる、大腸がんの転移抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
MBPは、大腸がん患者の患部において、非がん部組織と結合することなくがん組織のみに特異的に結合するので、これを利用して、MBPを患者に投与して内視鏡で観察することにより、がん組織の正確な範囲診断が可能となり、生検して病理細胞学的検査を行うことなく、大腸がんの内視鏡治療を行うことができる。また、MBP発現は、血清CEAレベルやがん組織でのCA19-9発現と逆相関するので、これらのがんマーカーとの併用によりMBP染色陰性の場合にはこれらのマーカーを検査することにより、漏れなく大腸がんの診断が可能である。
さらに、MBPリガンドを発現する転移のない大腸がん患者はMBP染色陰性患者と比べて生命予後が良好であるので、転移のない大腸がん患者、特にMBP染色陽性患者にMBPを投与することにより、がんの転移を抑制し、ひいては生命予後を改善することができる。また、MBPリガンドとCA19-9とはがん組織において逆相関することが明らかとなったので、転移のないMBP染色陰性患者に対しては、例えば抗CA19-9抗体とMBPとのイムノコンジュゲートを用いることにより、がん組織へMBPをターゲッティングしてMBP依存的細胞性細胞傷害作用(MDCC)を誘導することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】MBPは大腸がん組織をがん特異的に染色することを示す図である。Aは高度に分化した大腸がんのS字結腸組織をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した写真である。B−Dは、Aと同様の組織(連続切片)をMBPで染色した際の非がん部(B)、がん組織(C)及びがん部と非がん部の境界領域(D)の拡大写真である。E−Fは、中程度の分化度の大腸がん組織(E)及び粘液性がん(F)のMBP染色写真である。B−Fにおいて、Ca2+はカルシウム存在下、EDTAはカルシウムキレート剤であるEDTA存在下で染色した結果をそれぞれ示す。
【図2】MBPによる大腸がんの染色には、ルイス式(Le)糖鎖のフコース残基が関与することを示す図である。Aは、大腸がん組織(がん組織と非がん部組織を含む)へのMBPの結合(None)は、フコース特異的植物レクチンAALで阻害されるが、高マンノース型糖鎖特異的植物レクチンConAでは阻害されないことを示す。Bは、大腸がん組織のHE染色像であり、上パネルは下パネルの一部の拡大像を示す。C−Dは、Bと同様の組織(連続切片)の、MBPと抗ルイスa(Lea)抗体(C)又は抗ルイスb(Leb)抗体(D)との二重染色像を示す。
【図3】大腸がん患者の術前血中CEA(A)及びCA19-9(B)濃度の、MBP染色の有無による比較解析の結果を示す図である。
【図4】大腸がん患者の生命予後の、MBP染色の有無による比較解析の結果を示す図である。Aは大腸がん患者全体、Bは追跡開始時においてリンパ節転移がみられなかった患者集団、Cは追跡開始時に既にリンパ節転移がみられた患者集団での結果をそれぞれ示す。横軸は追跡開始からの日数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、標識されたマンナン結合タンパク質(MBP)を含有してなる、大腸がん組織診断剤を提供する。ここで「大腸がん」とは、盲腸、結腸及び直腸のいずれかに発生するいかなるがんをも包含する。また、ここで「組織診断」とは、大腸のどの組織・領域にがんが存在するか、あるいはしないのかを直接的に診断することを意味し、大腸組織の一部を採取(生検)して検査する場合と、組織を切除することなくそのままの位置で(in situ)検査する場合のいずれをも包含するが、本発明は内視鏡検査及び内視鏡治療と組み合わせた場合に、本発明の作用効果が最も発揮されるので、好ましい態様においては、in situで診断が行われる。
【0014】
本発明の組織診断剤の適用対象は、大腸がんに罹患しているか、罹患していることが疑われる哺乳動物であれば特に制限はなく、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター等のいずれであってもよいが、好ましくはヒトである。後述の実施例からも明らかなように、すべての大腸がん患者のがん組織においてMBPに対するリガンドが発現しているわけではないが、他の大腸がん血清マーカーとの関係でいえば、MBP染色陽性患者ではがん胎児性抗原(CEA)の血清レベルがMBP染色陰性患者に比べて低値を示す傾向にあるので、便潜血検査が陽性にもかかわらず血清CEAレベルが比較的低値(例えば、ヒトであれば10ng/ml以下、あるいは5ng/ml(基準値)以下など)を示す患者は、MBPによる組織染色の対象として好ましく例示される。
【0015】
本発明の組織診断剤は、必須の成分としてマンナン結合タンパク質(MBP)を含有することを特徴とする。MBPはヒトをはじめとする哺乳動物の血清中に広く分布している。使用されるMBPは、検査対象である哺乳動物と同種のMBPを使用することが好ましいが、検査対象の内在性MBPリガンドに特異的に結合し得る限り、異種動物由来のMBPを用いることもできる。
MBPは、例えば、哺乳動物から採取した血清を、MBPが認識して結合する糖鎖、例えばマンナン等を固定化したアフィニティーカラムで処理し、吸着画分を溶出することにより単離することができる(例えば、Biochem. Biophys. Res. Commun. 1980;95:658-664, J. Biochem. 1983;94:937-947等を参照)。あるいは、MBPは既知のMBP遺伝子のヌクレオチド配列をもとに、常法により哺乳動物の肝臓由来RNAやcDNAライブラリーからMBPをコードする核酸を単離し、例えばCOS-1細胞等の適当な宿主で発現させて、その培養上清から組換えMBPを回収することによっても調製することができる(J. Biochem. 1994;115:1148-1154を参照)。
【0016】
MBPは、任意の標識剤により直接的もしくは間接的に標識される。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。
標識剤として、好ましくは蛍光色素が用いられる。蛍光色素としては、例えば、Alexa Fluor 350(励起波長(Ex): 346nm、蛍光波長(Em): 442nm)、AMCA(Ex: 353nm、Em: 440nm)、フルオレスカミン(Ex: 390nm、Em: 460nm)、フルオレセイン(Ex: 494nm、Em: 521nm)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC; Ex: 498nm、Em: 522nm)、Alexa Flor 488(Ex: 495nm、Em: 519nm)、Alexa Fluor 555(Ex: 555nm、Em: 565nm)、Cy3(Ex: 550nm、Em: 570nm)、Alexa Fluor 546(Ex: 556nm、Em: 573nm)、フィコエリスリン(PE; Ex: 488nm、Em: 578nm)、ローダミンB イソチオシアネート(RITC; Ex: 570nm、Em: 595nm)、テキサスレッド(Ex: 596nm、Em: 615nm)、Alexa Fluor 594(Ex: 590nm、Em: 619nm)、フィコシアニン(PC; Ex: 620nm、Em: 650nm)、Cy5(Ex: 643nm、Em: 667nm)、Cy7(Ex: 743nm、Em: 767nm)などが用いられる。MBPと標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
【0017】
MBPを間接的に標識する手段としては、例えば、上記いずれかの標識剤で標識された抗MBP抗体を用いる方法が挙げられる。大腸がん組織を患者から採取して病理細胞学的診断を行う場合には、MBPを間接的に標識する方法も好ましく用いることができるが、大腸がん組織をそのままの位置で(in situ)検出・同定する場合には、間接法は煩雑であるため、MBPを直接標識する方が望ましい。
【0018】
本発明の組織診断剤に含まれるMBPの濃度は、MBPががん組織に結合した際に、MBPに結合した標識剤によってがん組織が可視化されるのに十分である限り特に制限はないが、例えば、約0.1nM〜約1000mM、好ましくは約1nM〜約100mMの範囲から適宜選択される。本発明の組織診断剤は、MBPを水もしくは適当な水性溶媒、例えば注射用水、生理食塩水、リンゲル液などに溶解して調製することができる。
【0019】
本発明の組織診断剤は、製薬学的に許容される他の添加物を含有することができる。そのような添加物としては、例えば、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
安定化剤の好適な例としては、ヒト血清アルブミン(HSA)、ピロ亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、メタ亜硫酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
pH調節剤の好適な例としては、塩酸、水酸化ナトリウムなどの酸または塩基が上げられる。
無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
保存剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
【0020】
MBPはCa2+依存性のレクチンであるので、MBPリガンドとの結合にはCa2+を要求する。in situの組織染色などにおいては、細胞環境内に十分量のCa2+が内在している場合があるが、単離した大腸がん組織などでは、組織標本とMBPとの接触に際してCa2+を添加することが好ましい。例えば、塩化カルシウム等のカルシウム塩を、本発明の組織診断剤中に、例えば約1〜約1000mM、好ましくは約10〜100mMとなるように配合することができる。
【0021】
上述のとおり、MBPは大腸がん患者の正常組織や非がん部組織には結合しないが、すべての大腸がん患者のがん組織においてMBPに対するリガンドが発現しているわけではないので、すべての大腸がん組織にMBPが結合するわけではない。従って、患者の大腸組織においてMBPとの結合が検出された場合は、該患者は大腸がんに罹患していると診断することができるが、MBPとの結合が検出されなかったとしても、必ずしも大腸がんではないと診断することはできない。しかしながら、他のがん特異的糖鎖抗原を認識する抗体と組み合わせることで、MBPリガンドを発現していない大腸がん患者の組織診断が可能となる。
【0022】
具体的に使用され得る糖鎖抗原としては、シアリルルイスa(sLea)抗原であるCa19-9やシアリルルイスx(sLex)抗原であるSLX、CSLEX、NCC-ST-439等が挙げられる。後述の実施例より、MBPはがん細胞上に発現するルイスb(Leb)抗原を特異的に認識して結合すると考えられる(但し、抗Leb抗体染色の結果は、Leb抗原が非がん部組織でも発現している場合があることを示すが、その場合でもMBPはがん組織のLeb抗原のみを認識することから、MBPは単純なLeb構造ではなく、がん細胞上で発現するLeb抗原に特異的なより複雑な構造を認識していると考えられる)。言い換えれば、MBPにより認識されないがん細胞は、その表面上にLeb抗原ではなく、別の種類のがん特異的糖鎖抗原を発現していることが示唆される。従って、Leb抗原以外のがん特異的糖鎖抗原として知られるsLea抗原やsLex抗原の発現を調べることで、MBPリガンドを発現しない大腸がんを検出・診断することが可能である。後述の実施例によれば、sLea抗原であるCA19-9の発現はMBPリガンドの発現と有意な逆相関を示しており、この理論の正しさを裏付けている。
【0023】
従って、本発明の組織診断剤は、一実施態様において、上記のMBPを含有してなる試薬を、sLea抗原又はsLex抗原に対する抗体、好ましくは抗CA19-9抗体と組み合わせることを特徴とする。ここで抗CA19-9抗体は、MBPとともに1つの試薬中に共存させてもよいし、あるいは別個の試薬として調製してもよい。CA19-9は消化器がんをはじめとする種々のがんに対する血清マーカーとして実用させており、抗CA19-9抗体は臨床検査薬として市販されている。抗CA19-9抗体を別個の試薬として調製する場合、上記MBP含有試薬と同様にして、必要に応じて製薬学的に許容される添加物を配合して調製することができる。抗CA19-9抗体もMBPと同様に直接的もしくは間接的に標識剤で標識される。標識剤としては、MBPについて例示したものが同様に挙げられるが、MBPの標識に用いたものと異なる標識剤、好ましくは蛍光色素を使用することが望ましい。MBPの標識に用いる蛍光色素と、抗CA19-9抗体の標識に用いる蛍光色素とは、蛍光波長の差が大きく色調の鑑別が容易なもの同士(例えば青〜緑色蛍光色素と黄〜赤色蛍光色素)を組み合わせて用いることが好ましい。
【0024】
MBPを用いれば、in situでの大腸がん組織の検出・同定が可能であり、特に非がん部組織に結合することなく、がん組織のみを特異的に認識して結合するので、がん組織と非がん部組織との境界を明確に可視化することができる。従って、MBPを含有する本発明の組織診断剤は、内視鏡的粘膜切除術(EMD)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)等の大腸がんの内視鏡治療における補助剤として、術中のリアルタイムながん組織の範囲診断に用いることができる。
【0025】
本発明の組織診断剤を内視鏡治療補助剤として用いる場合、該薬剤は大腸がんが疑われる大腸組織の表面に送達される限り、いかなる方法によって投与されてもよいが、特に好ましい態様においては、内視鏡の送水ノズルを通じて、標的とする大腸組織に散布される。本発明で使用される内視鏡としては、現在、内視鏡治療の目的で医療機関で使用されているいかなるものも利用可能であり、ファイバースコープと電子スコープのいずれであってもよいが、好ましくは、テレビモニタによる画像観察や画像の修正及び動画保存が可能な電子スコープである。いずれの場合にも送気・送水用のチャネルと様々な処置具を挿通し内視鏡先端にガイドするための鉗子チャネルとが標準装備されている。
【0026】
送気・送水チャネルは、送気ポンプから常時内視鏡内にガスが送り込まれており、通常は操作部の送気・送水ボタンの穴からガスを逃しているが、送気の際には送気・送水ボタンを塞ぐと送気・送水チャネルの弁が開き、内視鏡先端部にガスが送られ、送水の際には送気・送水ボタンを押し込むと、送気系の回路が閉じてその送気圧が送水タンク内の圧力を上げることにより、タンク内の液が押出されて内視鏡先端部から送水される仕組みになっている。そこで、送水タンクにMBPを含有してなる液剤を入れておけば、送気・送水ボタンを押し込むことにより、所望の大腸組織表面に該液剤を散布することができる。あるいは、送気・送水チャネルは該液剤を洗浄する/吹き飛ばすための送水・送気手段として用い、鉗子チャネルに散布チューブ(色素内視鏡において色素液を散布するための処置具として市販されている)を挿通し、該散布チューブを通じてMBP含有液剤を標的部位に散布することもできる。この場合、散布チューブを交換することで、異なる液剤(例えば、別個に調製した抗CA19-9抗体含有液剤や、MBPを間接的に標識する場合の標識抗MBP抗体含有液剤など)を、内視鏡内部を洗浄することなく連続的に送液することができるので、好都合である。
【0027】
上記のようにして標的大腸組織にMBP含有液剤を散布した後、がん組織に発現するMBPリガンドとMBPとの結合反応に十分な時間(例えば、約1-約30分)静置し、その後、非特異的に組織表面に吸着している未反応のMBPを、例えば、送気・送水チャネルから送気・送水することで除去/洗浄するか、あるいは操作部の吸引ボタンを押し込んで、吸引ポンプに繋がるチャネルと鉗子チャネルとを接続することにより、残余のMBP含有液剤を吸引することにより除き、がん組織表面上に形成されたMBPリガンド-MBP複合体を、MBPに結合した標識剤を可視化することにより検出する。例えば、標識剤として蛍光色素を用いた場合には、使用した蛍光色素の励起光を発する光源装置を内視鏡のライトガイドに接続して蛍光を観察することもできるが、汎用性を考慮すれば、通常のキセノンランプの光源装置を内視鏡のライトガイドに接続する際に、特定の励起波長のみを通すフィルターを光源の前におけばよい。励起フィルターを交換することにより、種々の蛍光色素の蛍光を通常の光源を備える内視鏡装置を用いて観察することが可能である。また、必要に応じて内視鏡先端部の対物レンズのみに着脱可能なフィルター(蛍光色素が発する蛍光波長のみを通すフィルター)を装着することにより、より明瞭に蛍光を観察することができる。
【0028】
上記のようにして、MBPに結合した標識剤を可視化することにより、がん組織と非がん部組織との境界が明瞭に観察されるので、次いで、鉗子チャネルを通じて、スネア、局注針、把持鉗子、ITナイフ等の各種ナイフなどの種々の処置具を挿通し、標識剤により可視化されたがん組織を、その形状や深度などに応じて、ポリペクトミー、EMR又はESDなどの術式を用いて切除することができる。MBP含有液剤によりがん組織が可視化されなかった場合、即ち、がん組織がMBPリガンドを発現していないことが確認された場合には、抗CA19-9抗体などのシアリルルイスa(sLea)もしくはシアリルルイスx(sLex)抗原に対する抗体を含有する液剤を用いて、同様にがん組織の可視化を試みる。首尾よくがん組織が可視化されれば、同様の方法により内視鏡治療を実施すればよい。尚、哺乳動物の正常細胞表面はシアル酸を末端に持つ複合型糖鎖に覆われているため、抗CA19-9抗体などを用いた場合には、がん組織と非がん部組織との境界が必ずしも明確に同定できないおそれもあるので、そのような場合には、鉗子チャネルに生検鉗子を挿通して大腸組織を採取し、該組織標本を作製して病理細胞学的検査を行い、がん組織の正確な範囲を確認した上で内視鏡治療を実施することが好ましい。
【0029】
後述の実施例に示されるとおり、リンパ節転移のない大腸がん患者においては、MBPリガンドを発現している患者の方が、該リガンドを発現していない患者と比較して生命予後が良好である。したがって、本発明の組織診断剤は、転移を有しない大腸がん患者の予後診断剤としても有用である。MBPによる組織診断でMBPリガンドを発現していないことが判明した大腸がん患者においては、がん切除後の経過観察において再発・転移の早期発見を徹底し、予後管理に努めるべきである。一方、MBPリガンドを発現していることが判明した大腸がん患者においては、補助的療法として、後述するMBP投与によるがん転移抑制及び/又は増殖抑制の適用を検討することができる。
【0030】
本発明者らが既に報告したように、MBPリガンドを発現するある種の大腸がん細胞を移植したヌードマウスでは、MBP発現ウイルスの投与によりMBP依存的細胞性細胞傷害作用(MDCC)が誘導されて腫瘍の退縮を認める。このことから、リンパ節転移のない大腸がん患者において、MBPリガンドを発現している患者の方が、該リガンドを発現していない患者よりも生命予後が良好である理由として、MBPリガンドを発現する患者では、MBPのMDCC作用によってがんの転移や増殖が抑制されていることが示唆される。従って、本発明はまた、転移を有しない大腸がん患者を投与対象とする、MBPを含有してなる大腸がんの治療剤、特に転移抑制剤を提供する。投与対象となる大腸がん患者は、MBPががん組織を認識して結合する必要があるので、原則的にはMBPリガンドを発現している患者でなければならない。但し、MBPリガンドとCA19-9のがん組織での発現は逆相関するので、MBPリガンドを発現していない患者の多くはCA19-9を発現している。このことを利用して、例えば抗CA19-9抗体を用いて、MBPリガンドを発現していない大腸がん組織にMBPをターゲッティングすることができる。
【0031】
MBPは常套手段に従って製剤化することができる。例えば、経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。かかる注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記化合物またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、上記化合物またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。
【0032】
上記の経口用または非経口用医薬組成物は、MBPの投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。かかる投薬単位の剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが例示され、それぞれの投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mgのMBPが含有されていることが好ましい。
【0033】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
MBPの投与量は、その作用、投与ルート、患者の重篤度、年齢、体重、薬物受容性などにより差異はあるが、例えば、成人1日あたりMBP量として約0.0008〜約25mg/kg、好ましくは約0.008〜約2mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0035】
実施例1 大腸がん粘膜のおけるMBP染色の有無と患者の臨床病理学的特徴との関係
大腸がん患者98例について、がん粘膜にMBPによる組織染色を行い、MBPリガンドの発現を調べた。その結果、98例中35例でMBPリガンドの発現が認められた。MBP染色の有無と患者の臨床病理学的特徴との関係を表1にまとめた。年齢60歳以上でMBP染色陽性率が有意に高かったが、性別、腫瘍サイズ、リンパ節転移、腫瘍ステージ、組織学的分化度、腫瘍の局在性とMBP染色との間には相関はみられなかった。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2 MBPは大腸がん組織をがん特異的に染色する。
分化度の高い大腸がんを有する患者から生検を行って採取したS字結腸組織を、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した。結果を図1Aに示す。がん粘膜組織(cancer mucosa)と、その近傍に非がん部位(noncancerous mucosa)が存在している様子が観察された。次に、図1Aと同様の組織標本(連続切片)を作製し、MBPで染色した。組織スライドを、精製MBP、anti-MBP monoclonal antibody、Alexa Flour 488 anti-mouse IgGの順にてカルシウム存在下において反応させた。図1A中のB(非がん部)、C(がん組織)及びD(がん部と非がん部との境界領域)の拡大染色像を図1B−Dにそれぞれ示す。非がん部(B)においてMBPによる染色はほとんどみられなかったが、がん組織(C)において染色された。がん部、非がん部の境界上(D)においてもMBPによるがん特異的な染色がみられた。MBPによる染色は、カルシウムキレート剤であるEDTA処理によってほぼ消失した。また、MBPによって染色される部位は粘膜固有層中の陰窩であり、分化度の高いがんでは陰窩の頂端面が特に強く染色された。一方、MBPは、中程度の分化度のがんでは陰窩の頂端だけではなく細胞質や基底外側まで染色し(図1E)、粘液性がんでは貯留粘液中にわたってがん組織を染色した(図1F)。即ち、がんの分化度の違いによってMBPによる染色パターンも変化した。
【0038】
実施例3 MBPによる大腸がんの染色には、ルイス式(Le)糖鎖のフコース残基が関与する。
MBPは大きく分けて高マンノース型糖鎖とLe糖鎖に強く結合することが知られている。このうち、植物レクチンConAは高マンノース型糖鎖に、AALはLe糖鎖に主に結合する。そこで、これらの植物レクチンを阻害剤として、あらかじめ大腸がん組織に反応させておいた後、MBPを加え、実施例2と同様にして大腸がん組織を染色した(図2A)。その結果、ConA存在下において、MBPによる染色は、阻害剤無しの場合(None)とほとんど変化がなかったのに対して、AAL存在下においてはMBPによる染色が顕著に阻害された。16例のMBP染色陽性の大腸がん組織標本について阻害剤(ConA、AAL)の効果を調べた結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
次に、別の大腸がん組織をHE染色した。その染色像を図2Bに示す。がん組織(弱拡大視野左上部)と非がん組織(右下部)が存在している様子が観察された。図2Bと同様の組織標本(連続切片)を作製し、MBP及び抗Lea抗体又はMBP及び抗Leb抗体で二重染色した。その結果、MBPはがん組織特異的に大腸組織を染色した。抗Lea抗体は正常組織も染色し、がん部位においてはMBPによる染色部位との共染色はほとんどみられなかった(図2C)。一方、抗Leb抗体との二重染色では、多くのがん組織においてMBPとの共染色が観察された(図2D)。但し、抗Leb抗体による染色は、患者によっては正常組織も染色した。MBPはその場合においても正常組織を染色せず、がん組織上のLebとのみ共局在した。このことから、MBPは単純なLeb構造ではなく、Lebを含む、より複雑な構造を認識していることが強く示唆された。大腸がん粘膜におけるMBPリガンドとLea/Leb糖鎖との発現相関解析の結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
実施例4 大腸がん患者の術前血中CEA、CA19-9濃度のMBP染色の有無との比較解析
MBP組織染色陽性15名、陰性18名(計33名)の大腸がん患者の術前血中CEA及びCA19-9濃度を測定し、比較した。結果を図3に示す。CEAについては、MBP染色陽性のがん患者は陰性患者に比べて血中濃度が有意に低かった(図3A)。一方、CA19-9については、MBP組織染色の有無により血中濃度に有意差はみられなかった(図3B)。
【0043】
実施例5 大腸がん患者の生命予後のMBP染色の有無との比較解析
MBP組織染色陽性35名、陰性62名(計97名)の大腸がん患者の生存分析をKaplan-Meier法を用いて行った。結果を図4に示す。大腸がん患者全体でみると、MBP染色の有無と患者の生命予後との間に有意な相関性はみられなかった(図4A)。しかし、追跡開始時においてリンパ節転移がみられなかった集団(リンパ節分類: N0)において、同様の比較を行ったところ、MBP染色が陽性を示した大腸がん患者(18名)は陰性患者(28名)に比べて有意に生存率が高かった(図4B、上パネル)。一方で、追跡開始時において既にリンパ節転移がみられていた集団(リンパ節分類: N1,N2又はN3)では、MBP組織染色の有無により生命予後に差はみられなかった(図4B、下パネル)。
【0044】
実施例6 大腸がん粘膜におけるCEA又はCA19-9とMBPリガンドとの発現相関解析
MBP組織染色陽性14例、陰性40名(計54例)の大腸がん粘膜組織標本について、抗CEA抗体、抗CA19-9抗体を用いた免疫組織染色を行った。結果を表4に示す。MBPリガンドとCA19-9の組織発現の間に逆相関が認められた。一方、MBPリガンドとCEAの組織発現の間には相関はみられなかった。
【0045】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0046】
大腸がんは米国では3番目に多いがんであり、がん死の原因としては2番目に多く、生涯における罹患率は約7%にのぼっている。我が国でも、胃がんを抜き、肺がんに次いで多いがんとなっている。大腸がんの検診としては、便潜血検査が最も一般的であるが、早期がんでは約半数、進行がんでも1割程度が偽陰性となり、見落とされる可能性がある。CEAやCA19-9などの血清がんマーカーを用いた検査でも必ずしも高値を示すとは限らない。そのため、できるだけ大腸内視鏡による精度の高い検診を受けることが望ましい。本発明のMBPによる組織染色を内視鏡検査と組み合わせることにより、MBPリガンドを発現する大腸がん患者を極めて高確度に診断することが可能となる。特にMBP染色陽性患者は陰性患者に比べて血清CEA値が低値を示す傾向にあるので、大腸がんが疑われるが血清CEAが比較的低値であるような患者の内視鏡による確定診断に特に有用である。
また、MBPは非がん部組織には結合せずがん組織のみに結合するので、MBP組織染色によってがん部と非がん部との境界を明確に判別することができ、正確ながん組織の範囲診断が可能となるので、内視鏡を用いたがん切除術をより確実に行うことができる。
さらに、MBPはがんの転移を抑制することでがんの進展を抑制する効果があるので、転移のないMBPリガンドを発現する大腸がん患者に対するがん転移抑制剤、がん増殖抑制剤としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンナン結合タンパク質(MBP)を含有してなる、大腸がん組織診断剤。
【請求項2】
MBPを含有してなる、大腸がんの内視鏡治療補助剤。
【請求項3】
さらにCa2+を含有してなる、請求項1又は2記載の剤。
【請求項4】
MBPが蛍光色素で標識されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
MBPとは異なる蛍光色素で標識された抗CA19-9抗体と組み合わせてなる、請求項4記載の剤。
【請求項6】
内視鏡の送水チャネル又は鉗子チャネルを通じて、請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤が散布される、大腸がんの内視鏡治療用装置。
【請求項7】
内視鏡が蛍光内視鏡である、請求項6記載の装置。
【請求項8】
MBPを含有してなる、転移を有しない大腸がん患者の予後診断剤。
【請求項9】
MBPを含有してなる大腸がん治療剤であって、転移を有しない大腸がん患者に投与されることを特徴とする、剤。
【請求項10】
MBPを含有してなる、大腸がんの転移抑制剤。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−6801(P2013−6801A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141255(P2011−141255)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(504177284)国立大学法人滋賀医科大学 (41)
【Fターム(参考)】