説明

マンニトール含有シロスタゾール口腔内崩壊散剤

本発明は、有効成分としてシロスタゾール、および70重量%以上のマンニトールを含む散剤であって、口腔内で崩壊し、水なしで服用可能となる口腔内崩壊散剤を提供する。該散剤はシロスタゾールの適応対象となる患者、特に高齢の患者および嚥下障害を呈する患者に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は口腔内で崩壊するシロスタゾール経口散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シロスタゾールは、下記式(1)で示される6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルであって、高い血小板凝集抑制作用を示すほか、ホスホジエステラーゼ阻害作用、抗腫瘍作用、降圧作用、消炎作用などを有することから、抗血栓剤、脳循環改善剤、消炎剤、抗腫瘍剤、降圧剤、抗喘息剤、さらにホスホジエステラーゼ阻害剤として広く用いられており、既にシロスタゾール錠であるプレタール錠50およびプレタール錠100(大塚製薬、いずれも登録商標)が販売されている(特許文献1参照)。更に「脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制」の効能・効果が追加承認となっている薬剤である。
【化1】

【0003】
プレタール錠の使用状況を調査した結果の中で、これの年齢別の分布によれば、65歳以上の高齢の患者が全体の約74%を占めており(2001年1月から6月の市場調査)、また2003年から新たに適応対象となった脳梗塞患者の年齢別の分布によれば、65歳以上の患者が占める割合は約83.6%であった(表1)。いずれにしても、シロスタゾール錠を用いる患者においては高齢者の占める割合が高いことがわかる。
【表1】

一般に摂食・嚥下機能は、年齢が高くなるとともに低下してくるといわれており、高齢者の割合が高いシロスタゾール錠服用患者にとってより服用しやすい剤型の開発が望まれていた。
【0004】
更に、シロスタゾール錠の適応対象となった脳梗塞患者の中には、嚥下障害を呈する患者の存在が知られている。これらの患者への投薬は、障害が重度の場合(唾液誤嚥、食物誤嚥)には粉砕した薬剤を胃瘻や経管栄養チューブから投与されるが、障害が軽度から中等度の場合(水分誤嚥、機会誤嚥)は、ゼリーやプリン、粥などと一緒に内服する、または水の代わりにトロミ付きの液体で内服する等工夫して経口投与されるのが実情である。なお、水分誤嚥、機会誤嚥の患者は、飲水は困難であるが唾液の飲み込みは可能であることが知られている。
【0005】
1988年より厚生省の補助金で行われたシルバーサイエンス研究の中で、「高齢者に投与最適な新規製剤及び新規包装容器の作成研究」を担当した杉原らは、高齢者を対象に将来希望する剤型等についてアンケート調査を行った。その結果、半固形状のゼリー、ヨーグルト、プリン等の剤型を希望する患者が多かったと報告している。
更に杉原らは、この研究の中で高齢者に投与される薬剤が患者により安全かつ確実に服用させるための剤型として、水なしで服用可能な口腔内溶解型製剤とペースト状製剤の研究を行っている。この研究の中で、128例の被験者(平均年齢77.4±8.5歳)に医薬品を含有しない口腔内溶解型製剤を、73例の被験者(平均年齢78.4±9.1歳)に医薬品を含まないペースト状製剤をそれぞれ投与し、製剤の服用難易度等を調査した結果、口腔内溶解型製剤では「飲みやすい」、「投与しやすい」との回答がそれぞれ82.2%、75.8%であり、ペースト状製剤ではそれぞれ60.6%、72.1%であった。このことから、両製剤とも高齢者にとって服薬が容易な剤型であると結論付けられている。
このように剤型に対するニーズが多様化する中、シロスタゾールにおいても種々多様な製剤化の研究が行われてはいるものの(特許文献2参照)、シロスタゾールの適応対象となる多くの患者、特に高齢の患者および嚥下障害を呈する患者に対して医薬品の適正使用を実施する上で、より使用しやすい剤型の開発が更に望まれていた。
【特許文献1】特開昭56−49378号公報
【特許文献2】特開2001−163769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなニーズに応え、当該技術分野で広く用いられている口腔内崩壊錠である、シロスタゾールを10重量%から30重量%、1回投与量として50mgから100mg含有する錠剤を製することを試みた。しかしながら、シロスタゾールを口腔内崩壊製剤として錠剤を製した場合、一般的に口腔内崩壊製剤に使用され、速やかに溶解を促進する糖や糖アルコールを配合しても、シロスタゾールが水に難溶性であるため口腔内で崩壊しにくかった。また、水に難溶性であることの対応策として、溶解促進剤の割合を増やし、シロスタゾールの含有割合を減じたが、シロスタゾールの1回投与量が多いため、大きな錠剤が必要となった。その結果、一般的に製することのできる最大の錠剤サイズ、例えば直径12mmの錠剤とした場合では崩壊速度が遅く、口腔内で崩壊しにくく、またザラツキがあり服用感が悪いものであった。
また、服用性を考慮して調製した、シロスタゾールを含有する細粒剤は、口腔内でのザラツキやパサツキがあり、水なしで服用できなかった。
【0007】
したがって、嚥下機能の低下した高齢の患者や脳梗塞後後遺症として嚥下障害を呈する患者が容易に服薬できるような、口腔内崩壊錠等とは別の製剤で、口腔内で崩壊し、且つ水なしで服薬可能な新規なシロスタゾール製剤を開発することが切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、シロスタゾール製剤の種々剤型について検討したところ、剤型を散剤とし、マンニトールを配合することで、口腔内で崩壊可能な製剤となり得ることを見出した。この散剤の口腔内崩壊は、賦形剤が口腔内で崩壊し、シロスタゾール粉末が分散した状態になる。シロスタゾールの粒子径は20μm程度であり、口中での違和感はなく、嚥下しやすいものとなる。なお、マンニトール以外の糖または糖アルコールは甘すぎたり、吸湿性が著しいなど、シロスタゾール口腔内崩壊製剤として適していなかった。更に種々検討したところ、マンニトールを70重量%以上配合したシロスタゾール含有散剤とした場合に、口腔内での崩壊速度が十分速く、また服用感が十分良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本発明者の知り得る限りにおいては、口腔内で崩壊し、水なしで服用できるように設計された医薬散剤は今までになく、あったとしても少数であると考えられる。
【0009】
本発明は、シロスタゾールの適応対象となる多くの患者、特に高齢の患者および嚥下障害を呈する患者に対し、口腔内で崩壊し、水なしで服用可能なシロスタゾール口腔内崩壊散剤を提供することを目的とする。
【0010】
本発明によれば、マンニトールを配合、好ましくは70重量%以上配合したシロスタゾール含有散剤であり、口腔内で崩壊し、水なしで服用可能となるシロスタゾール口腔内崩壊散剤が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、シロスタゾールを10重量%から30重量%含有する上記のシロスタゾール口腔内崩壊散剤が提供される。
【0012】
更に本発明によれば、1回のシロスタゾール投与量が50mgから100mgである上記のシロスタゾール口腔内崩壊散剤が提供される。
【0013】
上記マンニトールはD−マンニトールであることが好ましい。
【0014】
また、トウモロコシデンプンを由来とする、すなわちトウモロコシデンプンを出発原料とするD−マンニトールを使用した場合に、特に服用感が良好である。
【0015】
更に、上記マンニトールの平均粒子径は20から80マイクロメートルであるシロスタゾール口腔内崩壊散剤が適している。
【0016】
また、本発明の態様として、5重量%以下の結晶セルロースを更に配合する上記のシロスタゾール口腔内崩壊散剤が挙げられる。
【0017】
なお、上記散剤には、通常医薬製剤に配合され得る製剤化成分を加えてもよく、その製剤化成分には、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、香料、甘味料、流動化剤、安定化剤等が挙げられる。
【0018】
本発明の態様として、脳梗塞発症後の再発抑制のために使用する上記のシロスタゾール口腔内崩壊散剤が挙げられる。
【0019】
シロスタゾールは、例えば、特許文献1に記載の方法により製造することができる。
【0020】
本発明で用いるマンニトールは、これらに限定されないが、ロケット社製D−マンニトールであるペアリトール50C(登録商標)、協和発酵社製D−マンニトールであるマンニット協和(登録商標)などが用いられ得る。
【0021】
本発明で用いる結晶セルロースは、これに限らないが、旭化成社製セオラスPH301などが挙げられる。
【0022】
本明細書において、「口腔内崩壊散剤」とは、賦形剤が口腔内で崩壊し、シロスタゾール粉末が分散した状態になる散剤をいい、口中で違和感なく、嚥下しやすいものとなる。
【発明の効果】
【0023】
上記態様により、本発明は、シロスタゾールの適応対象となる多くの患者、特に高齢の患者および嚥下障害を呈する患者に対し、口腔内で崩壊し、且つ水なしで服薬可能な新規なシロスタゾール製剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のシロスタゾール口腔内崩壊散剤においては、好ましくはD−マンニトールを70重量%以上配合し、20から80マイクロメートルの粒子径のD−マンニトールが適しており、更にトウモロコシデンプンを出発原料とするD−マンニトールを使用し、結晶セルロース配合量が5重量%以下に設定した場合に、特に服用感が良好であった。
【0025】
以下、本発明の口腔内崩壊散剤について、実施例を挙げながら説明し、更に対応する口腔内崩壊錠および通常の散剤と比較した服用感の試験結果について説明する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
D−マンニトール(ペアリトール 50C、ロケット社製)795gとシロスタゾール粉末200gをバーチカルグラニュレータ(VG−10、パウレック社製)に投入し、混合後、4重量%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達社製)125gを加えて練合造粒した。生じた造粒物を70℃で棚式乾燥機中乾燥後、500マイクロメートルの目開き篩で整粒して、20重量%シロスタゾールを含有する散剤を得た。
【0027】
(実施例2)
D−マンニトール(ペアリトール 50C、ロケット社製)770g、結晶セルロース(セオラスPH301、旭化成社製)25gとシロスタゾール粉末200gを用いて実施例1と同様に操作して20重量%シロスタゾールを含有する散剤を得た。
【0028】
(実施例3)
D−マンニトール(ペアリトール 50C、ロケット社製)766g、結晶セルロース(セオラスPH301、旭化成社製)25gとシロスタゾール粉末200gをバーチカルグラニュレータ(VG−10、パウレック社製)に投入し、混合後、4重量%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達社製)125gを加えて練合造粒した。生じた造粒物を70℃で棚式乾燥機中乾燥後、500マイクロメートルの目開き篩で整粒して、流動化剤として軽質無水ケイ酸(アドンリダー101、フロイント産業社製)5gを添加、混合して、20重量%シロスタゾールを含有する散剤を得た。
【0029】
(対照例1)
エリスリトール(日研化学社製)192gおよびトウモロコシデンプン(日食コーンスターチ、日本食品化工社製)100g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達社製)8gおよびシロスタゾール粉末100gを流動造粒乾燥機マルチプレックス(MP−01、パウレックス社製)に投入し、精製水を結合液として噴霧して造粒を行い、そのまま乾燥して顆粒Aを得た。顆粒A400gに対し、崩壊剤としてPVP−XL(ISP社製)40gおよび滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム2gを添加し、連続打錠機812HUK(菊水製作所製)を用いて打錠し、シロスタゾール100mg含有する、全量442mg直径12mmの錠剤を得た。
【0030】
(対照例2)
トウモロコシデンプン(日食コーンスターチ、日本食品化工社製)94g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達社製)6gおよびシロスタゾール粉末100gを流動造粒乾燥機マルチプレックス(MP−01、パウレック社製)に投入し、精製水を結合液として噴霧して造粒を行い、そのまま乾燥して顆粒Bを得た。顆粒Bに対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウムを滑沢剤として添加し、連続打錠機812HUK(菊水製作所製)を用いて打錠し、シロスタゾール100mgを含有する、全量201mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0031】
(対照例3)
乳糖(H.M.S.社製)560g、トウモロコシデンプン(日食コーンスターチ、日本食品化工社製)300gおよびシロスタゾール粉末100gを流動造粒乾燥機マルチプレックス(MP−01、パウレック社製)に投入し、3重量%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L、日本曹達社製)を結合液として固形分で30g量を噴霧して造粒を行い、そのまま乾燥して顆粒Cを得た。顆粒Cを500μmの目開きの篩で整粒し、軽質無水ケイ酸(エロジール、日本エアロジル社製)10gを添加、混合して、シロスタゾールを10重量%含有する散剤を得た。
【0032】
(試験例1)
実施例1から3および対照例1から3の製剤について、シロスタゾール100mg量を口中に含み、舌の上で崩壊させて、それぞれの崩壊時間を比較した。実施例1から3および対照例3の散剤については、口中での異物感がなくなるまでの時間を崩壊時間として比較した。
【表2】

表2に示すように、実施例1から3の散剤は、口中で違和感がなくなるまでの時間が短く、服用感が良かったが、対照例1および2の錠剤や実施例3の散剤では、崩壊時間が長く、また崩壊後も口中で違和感が持続した。
【0033】
(試験例2)
実施例1、2の散剤500mgまたは対照例3の散剤1000mgをそれぞれ口中にふくみ、舌の上で崩壊させて服用感を比較した。服用感としては、口中で崩壊時の口中でのザラザラした感じや味を指標として、10名で評価した。服用感が良いものを「良い」、服用感が悪くないものを「悪くない」、服用感が悪いものを「悪い」と3段階で評価した。結果を表3に示した。
【表3】

上記の表3に示すように、実施例1または2は、残存感がなく、服用感が良かったが、対照例3では口中でザラツキを感じ、服用感が悪く、嚥下しにくいものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明のシロスタゾール散剤は、今までにない散剤としてのシロスタゾール口腔内崩壊散剤の機能を有し、シロスタゾールの適応対象となる多くの患者、特に高齢の患者および嚥下障害を呈する患者に対し、口腔内で崩壊し、水なしで服用可能となることから、医薬品関連分野において大いに利用され得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンニトールを含有するシロスタゾール口腔内崩壊散剤。
【請求項2】
該マンニトールを70重量%以上含有する請求項1の散剤。
【請求項3】
シロスタゾールを10重量%から30重量%含有する請求項1または請求項2の散剤。
【請求項4】
1回のシロスタゾール投与量が50mgから100mgである、請求項1から請求項3のいずれかの散剤。
【請求項5】
該マンニトールがD−マンニトールである、請求項1から請求項4のいずれかの散剤。
【請求項6】
該マンニトールがトウモロコシデンプン由来である、請求項1から請求項5のいずれかの散剤。
【請求項7】
マンニトールの平均粒子径が20から80マイクロメートルである、請求項1から請求項6のいずれかの散剤。
【請求項8】
5重量%以下の結晶セルロースを更に配合する、請求項1から請求項7のいずれかの散剤。
【請求項9】
脳梗塞発症後の再発抑制のために使用する、請求項1から請求項8のいずれかの散剤。

【公表番号】特表2008−528442(P2008−528442A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536525(P2007−536525)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【国際出願番号】PCT/JP2006/313345
【国際公開番号】WO2007/001086
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】