説明

マンホールポンプ施設

【課題】電源等の外部動力源を必要とせず硫化水素の生成を抑制できるスラリー状の水酸化マグネシウムを汚水中に注入できるマンホールポンプ施設を提供する。
【解決手段】マンホール101内にマンホールポンプを備え、流入する汚水Wをマンホールポンプ102で圧送管107を通して圧送するマンホールポンプ装置100と、硫化水素の生成を抑制するための水酸化マグネシウムを汚水中に注入する薬品注入装置200を備え、薬品注入装置はスラリー状の水酸化マグネシウムQを貯蔵する貯蔵タンク202と、貯蔵タンク内の水酸化マグネシウムを攪拌するスラリー攪拌手段と、貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの所定量を汚水W中へ注入するスラリー注入手段と、水酸化マグネシウムが注入された汚水を攪拌する汚水攪拌手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマンホールポンプ施設で発生する硫化水素を抑制する薬品を汚水中に注入する薬品注入装置を備えたマンホールポンプ施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンホールポンプ施設とは、汚水の自然流下・圧送併用方式に使用される中継ポンプ場で、組立式マンホールの中に水中汚水ポンプを設置したものである。公道下に設置され、組立式マンホール、予旋回槽、水中汚水ポンプ、弁類、配管材、水位計、制御盤、監視装置で構成されている。
【0003】
比較的平坦な地形では、自然流下管の管路延長が長くなると所要の勾配によって埋設深さが深くなり、不経済である。そのため、適当な位置で揚水して管路埋設深さを浅くする必要がある。このようなポンプ施設を「揚水ポンプ場」という。この場合の全揚程は、数メートル程度で低いのが普通である。
【0004】
管路の途中に設置して汚水を必要な場所まで圧送するポンプ施設を「圧送ポンプ場」といい、以下の場所に使用する。
(1)比較的起伏の大きい地形で、低地から高地へ圧送する。
(2)自然流下では管路延長が長くなる場合至近距離を圧送する。
(3)比較的平坦な地形で、管路の長い区間に接続する家屋等がない場合に圧送する。
【0005】
上記マンホール施設に接続する汚水圧送管路は管内に酸素が供給されないため嫌気状態になりやすい。汚染が嫌気化されると、硫酸塩(SO42-)が嫌気性細菌である硫酸塩還元細菌の作用で硫化水素(H2S)が生成される。管内で生成した硫化水素は、管路終点のマンホールや着水井などの吐出部分で空気中に放散され、臭気の原因となる。
【0006】
更に、マンホールや自然流下管路、着水井の表面で好気性細菌である硫黄酸化細菌によって硫化水素から硫酸(H2SO4)が生成され、コンクリート等の腐食の原因となる(圧送管路内では嫌気状態のため、硫黄酸化細菌による硫酸の生成は起こらず、管材料などへの悪影響の心配はない)。また、硫化水素は強い毒性をもっており、その濃度が500〜1000ppmに達すると死亡の危険があるため、労働安全上、特定化学物質等障害予防規則により作業環境として10ppm以下と定められている。
【0007】
密閉された管路施設やタンク内のコンクリート設備を例として、硫酸による腐食メカニズムは概略下記の通りである。
嫌気状態の下水中及び汚泥中での硫酸塩還元細菌による硫酸塩(SO42-)からの硫化水素の生成→液相から気相への硫化水素の放散→コンクリート表面の結露水中での好気性の硫黄酸化細菌による硫化水素からの硫酸生成→硫酸によるコンクリート劣化
【0008】
また、コンクリートが腐食しやすい環境は以下の通りである。
(1)硫酸塩還元細菌の活動により下水或いは汚泥中で硫化物が生成されやすい環境
・硫酸イオン濃度が高い
・気相部からの酸素供給が少ないため嫌気性条件になりやすく、滞留時間が長い
・水温が硫酸塩還元細菌の増殖に適している(30−35℃で最も盛んに増殖し、15℃以下及び45℃以上で著しく低下する)
(2)下水或いは汚泥の流れの乱れや攪拌等により液相部から気相部へ硫化水素が放散されやすく、気相部が密閉されている構造
(3)H2Sガス濃度、気温、湿度、栄養塩類の供給等に関して、硫黄酸化細菌が活動しやすい環境(硫黄酸化細菌は20℃以下で活動が抑制され、30℃前後で増殖する)
【0009】
管路施設における従来の硫化水素の腐食対策には下記のものが挙げられる。
(1)硫化水素の生成を防止
空気、酸素の気体、又は過酸化水素、硝酸塩等の薬品注入により、下水の嫌気化を抑え硫化水素の発生を防止する。
【0010】
(2)管路を清掃し微生物の生息場所の除去
管路の清掃により、硫化水素発生の原因となる管内堆積物を除去し、また硫酸塩還元細菌、硫黄酸化細菌の生息場所を取り除く。
【0011】
(3)硫化水素を希釈
硫化水素ガスが低濃度の場合、硫黄酸化細菌の増殖が抑制される。換気により、管内硫化水素を希釈する。
【0012】
(4)気相中への拡散を防止
酸化剤の添加による硫化物の酸化、金属塩の添加による硫化水素の固定化等の方法により、硫化水素の気相中への拡散を防止する。
【0013】
(5)硫酸塩還元細菌の活動を抑制
硫酸塩還元細菌に選択的に作用する薬剤を注入し、殺菌または細菌の活動を抑制する。
【0014】
(6)硫黄酸化細菌の活動を抑制
硫黄酸化細菌に選択的に作用する薬剤を混入したコンクリート(防菌、抗菌コンクリート)を用いる。
【0015】
(7)防食材料を使用して管を防食
樹脂系資材や被覆(ライニング)等により、腐食を受けるコンクリート表面を防護する。
【0016】
硫化水素発生を防止するための主要技術としては、気体を注入する気体注入方式と薬品を注入する薬品注入方式がある。薬品注入方式としては水酸化マグネシウム、塩化第二鉄、硝酸塩を注入する方法がある。この薬品注入方式には下記の問題点がある。
【0017】
(1)硫化水素の生成を抑制する方法として、水酸化マグネシウムを注入する方法があるが、その量を制御して適量の水酸化マグネシウムを注入する設備は実用化されておらず、硫化水素の生成を継続して安定して抑制できなかった。
【0018】
(2)水酸化マグネシウムスラリーは分離して沈殿しやすいため、貯蔵するタンクには攪拌機能が必要である。さらにスラリーが管路等を流れる場合、停滞したまま長時間経過すると閉塞する可能性があるため、閉塞防止対策が必要である。
【0019】
(3)一般に薬品注入設備は、薬品タンク等を地上に設置するが、その地上スペースを確保するのが難しい場合がある(特にマンホールポンプ施設は狭い道路や民家付近に設置する場合がある)。
【0020】
(4)一般に既設のマンホールポンプ施設に薬品注入設備を設置するには、電気制御するためシーケンスの変更が必要となる。シーケンスの変更なしに(電気が不要)、水酸化マグネシウム等の硫化水素の生成を抑制する薬品の適正量を制御して注入する設備を実現することは困難であった。
【0021】
(5)取り扱い上危険性のある薬品がある(塩化第二鉄)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第5833864明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、上記問題点を除去し、マンホールポンプ施設、電源等の外部動力源を必要とせず硫化水素の生成を抑制できる薬品を汚水中に注入できる薬品注入設備を備えたマンホールポンプ施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため本願発明は、マンホール内にマンホールポンプを備え、前記マンホール内に流入する汚水を前記マンホールポンプで圧送管を通して圧送するマンホールポンプ装置と、硫化水素の生成を抑制するための水酸化マグネシウムを汚水中に注入する薬品注入装置を備えたマンホールポンプ施設であって、前記薬品注入装置はスラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンクと、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを攪拌するスラリー攪拌手段と、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの所定量を汚水中へ注入するスラリー注入手段と、スラリー状の水酸化マグネシウムが注入された汚水を攪拌する汚水攪拌手段を備えていることを特徴とするマンホールポンプ施設にある。
【0025】
また、本願発明は、上記マンホールポンプ施設において、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを送出するスラリーポンプと、該スラリーポンプの吐出口に接続した吐出管と、該吐出管に接続された輸送管とを備え、前記スラリー攪拌手段と前記スラリー注入手段は、前記スラリーポンプと前記吐出管と前記輸送管とを用いて前記スラリー状の水酸化マグネシウムの攪拌・注入を行うことを特徴とする。
【0026】
また、本願発明は、上記マンホールポンプ施設において、圧縮空気源から圧縮空気を供給する圧力管と、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを輸送する輸送管とを備え、前記スラリー攪拌手段と前記スラリー注入手段は、前記圧縮空気と圧力管と前記輸送管を用いて前記スラリー状の水酸化マグネシウムの攪拌・注入を行うことを特徴とする。
【0027】
また、本願発明は、上記マンホールポンプ施設において、前記スラリー注入手段は、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの前記汚水中への注入を滴下により行うことを特徴とする。
【0028】
また、本願発明は、上記マンホールポンプ施設において、前記貯蔵タンクを含む前記スラリー注入手段及び前記スラリー攪拌手段に用いる各種部材機器を前記マンホール内に配置したことを特徴とする。
【0029】
また、本願発明は、上記マンホールポンプ施設において、前記マンホールに前記汚水流入時の汚水の飛散を防ぐバッフルを設け、前記スラリー攪拌手段は前記マンホールに流入する汚水によって駆動されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本願発明によれば、薬品注入装置はスラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンクと、貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを攪拌するスラリー攪拌手段と、貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの所定量を汚水中へ注入するスラリー注入手段と、スラリー状の水酸化マグネシウムが注入された汚水を攪拌する汚水攪拌手段を備えているので、常に硫化水素の生成を抑制するための適正な量の水酸化マグネシウムをを汚水中に注入でき、効果的に且つ安定して硫化水素の生成を抑制することができるマンホールポンプ施設を提供できる。
【0031】
また、本願発明によれば、スラリー攪拌手段とスラリー注入手段は、スラリーポンプと吐出管と輸送管とを用いてスラリー状の水酸化マグネシウムの攪拌・注入を行うので、薬品注入装置から常に硫化水素の生成を抑制するための適正な量の水酸化マグネシウムを注入でき、効果的に且つ安定して硫化水素の生成を抑制することができる。
【0032】
また、本願発明によれば、スラリー攪拌手段とスラリー注入手段は、圧縮空気と圧力管と輸送管を用いてスラリー状の水酸化マグネシウムの攪拌・注入を行うので、薬品注入装置から常に硫化水素の生成を抑制するための適正な量の水酸化マグネシウムを注入でき、効果的に且つ安定して硫化水素の生成を抑制することができる。
【0033】
また、本願発明によれば、スラリー注入手段は、貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの汚水中への注入を滴下により行うので、格別な外部動力を必要とすることなく、薬品注入装置から常に硫化水素の生成を抑制するための適正な量の水酸化マグネシウムを注入でき、効果的に且つ安定して硫化水素の生成を抑制することができる。
【0034】
また、本願発明によれば、スラリー注入手段は、貯蔵タンクを含むスラリー注入手段及びスラリー攪拌手段に用いる各種部材機器をマンホール内に配置したので、マンホールの外にこれらを設置するスペースを確保する必要がなく、環境美観等上でも好ましいマンホールポンプ施設を提供できる。
【0035】
また、本願発明によれば、マンホールに汚水流入時の汚水の飛散を防ぐバッフルを設け、スラリー攪拌手段は前記マンホールに流入する汚水によって駆動するので、薬品注入装置をコンパクトに纏めることができると共に、スラリー状の水酸化マグネシウムの攪拌に電気等の外部動力源を必要とすることなく、例えば既設のマンホールポンプ設備でも、マンホールポンプ施設内で生成される硫化水素を効果的に且つ安定して抑制することができるマンホールポンプ施設を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るマンホールポンプ施設が備えるマンホールポンプ装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明に係るマンホールポンプ施設の硫化水素抑制方法のフローを示す図である。
【図3】本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。
【図4】本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。
【図5】本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。
【図6】本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。
【図7】本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。
【図8】図7における弁機構の構成を示す図である。
【図9】本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。
【図10】図9における弁機構の構成及び動作を示す図で(a)は待機時、(b)は動作時、(c)は動作完了時の状態を示す。
【図11】本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態例を説明する。ここで硫化水素の生成を抑制する薬品として、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を用いる例を説明する。一般に汚水中のpHが上がると、硫酸塩還元細菌の活動が抑えられ水中の硫化水素分子態が減少するため、硫化水素が気中に放散されにくくなる。例えば、pH7付近では、溶解性硫化物のうち、硫化水素分子態は約50%存在するが、pH8付近では約10%となる。
【0038】
水酸化マグネシウムを汚水に注入することにより、pHを約7.5以上にすることができるため硫化物の生成を抑制することができる。スラリー状の水酸化マグネシウムのpHは10.5程度であり、汚水中に入れすぎた場合でもpHはせいぜい9程度である。汚水1リットルに対して水酸化マグネシウムを100mg投入すると、pHを8.5以上に24時間維持することができる。また、水酸化マグネシウムは下記のような性質を有するといわれている。
【0039】
・水酸化マグネシウムはゆっくり溶けて水酸化イオン(OH-)を放出し、pHを上昇させる(Mg(OH)2⇔Mg2++2OH-)。
・pH8.5では溶解性硫化物の約3%以下が硫化水素ガスとなり、それ以上はHS-及びH+イオンに分離される。
・pH7では、溶解性硫化物の約50%がイオン硫化物(HS-、S2-(硫化イオン))である。pHが上がるほど、S2-イオンの凝縮が進む。S2-は大気中に溶け出ることができない。加えてS2-イオンとMg2+イオンが合成物を生成する。この金属硫化物は安定しており、pHが下がっても容易に分解して硫化水素を放出することがない。
【0040】
汚水のpHの上昇は管底のスラム層内の微生物活動に影響を及ぼす。硫酸塩還元細菌はpH6.5〜pH7.5で最も活発である。水酸化マクネシウムはこれ以上にpHを上げるため、硫酸塩還元細菌の硫化物生成能力が減少する。
【0041】
図1は本発明に係るマンホールポンプ施設が備えるマンホールポンプ装置の構成例を示す図である。マンホールポンプ装置100は、地中に埋設されたマンホール101を備え、該マンホール101の底部に配設された予旋回槽120上に2台のマンホールポンプ(着脱式水中汚水ポンプ)102が配置されている。該マンホールポンプ102の吐出口は吐出管103が接続され、各吐出管103は逆止弁105、ボール弁106を介して圧送管107に接続されている。マンホール101の内壁面には汚水流入管104、104の吐出口が上下に開口している。
【0042】
前記汚水流入管104、104を通ってマンホール101内に流入する汚水Wは、マンホールポンプの運転により吸引され、吐出管103、逆止弁105、ボール弁106を通って圧送管107と送水され、マンホール101外へ送水される。吐出管103には空気抜弁111が設けられている。なお、図1において、121はマンホールポンプ102の上下移動を案内するガイドパイプ、122は固定用リング、123は固定用リング、124は汚水流入管104、104の吐出口から流入する汚水の飛散を防止するバッフルである。
【0043】
図2は本発明に係るマンホールポンプ施設の硫化水素抑制方法のフローを示す図である。マンホールポンプ施設は、マンホールポンプ装置100と薬品注入装置200を備えている。マンホールポンプ装置100は上記のようにマンホール101に流入した汚水Wを送水(圧送)する装置であり、薬品注入装置200はマンホールポンプ装置100のマンホール内の汚水中に硫化水素の生成を抑制する薬品(ここでは水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)の粉末品、粒状品、スラリー状)を注入する装置である。
【0044】
薬品注入装置200はマンホールポンプ装置100からの信号S1を取り込み、硫化水素の生成を抑制するために必要な水酸化マグネシウムの適正注入量を得、この適正注入量の水酸化マグネシウムMをマンホールポンプ装置100の汚水中に注入する。信号S1としては、汚水のpH、溶存酸素濃度、汚水水位、待機時間(マンホールポンプが運転していない時間)、又はその中のいくつかを用いる。薬品注入装置200は水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンク等を備える設備であって、この薬品注入装置200は、後に記すようにマンホールポンプ装置100のマンホール101とは別のマンホールに収容するか又は同じマンホール101に収容設置する。
【0045】
薬品注入装置200からマンホールポンプ装置100内のマンホール内の汚水中に注入する水酸化マグネシウム量は、汚水のpH、溶存酸素濃度、マンホールポンプ1回当たりの排水量、ポンプ運転サイクルから決める。例えば、pHについては、マンホール内汚水のpHが7.5以上あったら、水酸化マグネシウムをマンホールポンプ装置100内の汚水中に注入し、pHが9にするための必要量を注入したらその注入を停止する制御をする。
【0046】
マンホールポンプ装置100内のマンホール内に水酸化マグネシウムの粉末品、粒状品を注入すると、該水酸化マグネシウムの粉末品や粒状品はマンホールの底部に沈殿する。これを防止するために汚水攪拌する必要があるが、この攪拌方法には以下(1)乃至(4)に示す方法がある。
【0047】
(1)マンホールポンプの運転待機時にポンプを低速で運転し、吐出管の空気抜弁(常設、常時開の弁)からのみ排水し、汚水を循環させる。
(2)マンホールポンプの運転待機時にブロア又はコンプレッサーによって圧縮空気を送り、汚水内を攪拌し、且つ曝気も行う。
(3)水酸化マグネシウムを直接ポンプ吸込管内(負圧になる)に吸引させ、ポンプ羽根車の回転によって攪拌する。
(4)小型水中ポンプをマンホールポンプ施設内のマンホール内に設置し、吐出管にエジェクターを設けて空気を自吸してジェット流を噴射して攪拌する。
【0048】
また、スラリー状の水酸化マグネシウムの場合には、沈殿しないようにそれ自体を攪拌しておく必要がある。その方法には以下の(1)乃至(3)の方法がある。
(1)スラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンクにおいて、スラリーポンプの循環運転によりスラリー状の水酸化マグネシウムを循環させて攪拌する。
(2)スラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンクにおいて、ブロア又はコンプレッサーで圧縮空気をスラリー状の水酸化マグネシウム中に送り攪拌する。
(3)スラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンクに攪拌機を備えて攪拌する。
【0049】
図3は本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。図3において、図1及び図2と同一符号を付した部分は同一又は相当部分を示す、以下他の図面においても同様とする。図示するように、本マンホールポンプ施設は、地下埋設されたマンホールポンプ装置100と、同じく地下に埋設された薬品注入装置200と、地上に設置された制御盤300を備えている。
【0050】
マンホールポンプ装置100は、地下に埋設されたマンホール101を備え、該マンホール101には汚水流入管104が接続され、汚水が流入するようになっている。マンホール内には2台のマンホールポンプ102、102が設置され、各マンホールポンプ102、102の吐出口にはそれぞれ吐出管103、103が接続され、各吐出管103、103はそれぞれ逆止弁105、105、ボール弁106、106を介して圧送管107に接続させている。なお、108はマンホール101内の汚水WのpH値を検出するpH計(pH検出器、pH変換器、及びpH指示記録計を指す)、109はマンホール101内の汚水Wの低水位LWLを検出する水位センサ、110はマンホール101内の汚水Wの高水位HWLを検出する水位センサである。
【0051】
薬品注入装置200は、地下に埋設されたマンホール201を備え、該マンホール201内にはスラリー状の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)Qを貯蔵する貯蔵タンク202を設置している。該貯蔵タンク202はスラリーポンプ203が接続されており、該スラリーポンプ203の吐出口に接続された吐出管204の吐出口は貯蔵タンク202の頂部で開口している。また、吐出管204には電動弁205を介してスラリー状の水酸化マグネシウムQを輸送する輸送管206が接続され、該輸送管206は貯蔵タンク202側が高く、マンホールポンプ装置100側が低く傾斜を持って配置されている。また、貯蔵タンク202の頂部にはスラリー状の水酸化マグネシウムを投入する投入口207、大気開放口208が設けられている。
【0052】
pH計108で検出された汚水WのpH値、水位センサ109で検出された低水位LWL検出信号、水位センサ110で検出された高水位HWL等は制御盤300に取り込まれる。電動弁205、スラリーポンプ203等は制御盤300により操作、運転されるようになっている。なお、貯蔵タンク202は地上に設置してもよい。
【0053】
上記構成のマンホールポンプ施設において、電動弁205が閉じている場合、スラリーポンプ203の運転により、貯蔵タンク202内のスラリー状の水酸化マグネシウムQは循環するため、該水酸化マグネシウムQの沈殿を防ぐことができる。スラリーポンプの運転のタイミングや運転時間は、汚水WのpH、溶存酸素濃度、マンホールポンプ102の運転時間、スラリー状の水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)Qの分離速度等から決められる。電動弁205が開いている場合、所定量のスラリー状の水酸化マグネシウムQをマンホール101の汚水W中に注入する。輸送管206の下端を汚水Wの高水位HWLより高くすることで、スラリー状の水酸化マグネシウムQの水たたきがあるため、曝気効果が期待できる。また、輸送管206の傾斜角度θを大きくすることにより、その閉塞を防ぐことが可能となる。
【0054】
ここで曝気とは、水と液体を接触させ水に酸素を供給するということである。高いところから汚水Wを落下させることで、汚水W内に空気を送ることができ、空気中の酸素を水に溶かすことができる。汚水W内の溶存酸素濃度が1mg/l以上であれば、硫化水素の発生はないといわれている。
【0055】
図4は本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。本マンホールポンプ施設は、スラリー状の水酸化マグネシウムQを貯蔵タンク202に貯蔵しておき、制御盤300内に設置したブロア又はコンプレッサー301から圧力管302を介して圧縮空気を貯蔵タンク202内に送り、圧力により貯蔵タンク202内のスラリー状の水酸化マグネシウムQを輸送管206を通して輸送し、マンホール101内の汚水W中に注入するように構成している。このようにすることにより、図3に示すマンホールポンプ施設のようにスラリーポンプ203を使用しないので、スラリーポンプの磨耗と閉塞という問題はなくなる。なお、輸送管206には電動弁209を介して貯蔵タンク202から圧縮空気を導く圧縮空気導出管210が接続されている。
【0056】
図4に示す構成のマンホールポンプ施設において、電動弁209が閉じている時に、上記のように、ブロア又はコンプレッサー301の運転により、圧力管302を通して貯蔵タンク202内に圧縮空気を送ると、貯蔵タンク202のスラリー状の水酸化マグネシウムQは輸送管206を通ってマンホールポンプ装置100のマンホール101内に送られその汚水W中に注入される。また、貯蔵タンク202内のスラリー状の水酸化マグネシウムQを圧縮空気で攪拌するため、水酸化マグネシウムQの沈殿を防ぐことができる。
【0057】
また、所定量のスラリー状の水酸化マグネシウムをマンホール101内に送った後、電動弁209が開くことで、貯蔵タンク202の圧縮空気を圧縮空気導出管210を通して輸送管206内に送るため、該輸送管206内に残留するスラリー状の水酸化マグネシウムは排出され、該輸送管206を閉塞するということはない。輸送管206のスラリー状の水酸化マグネシウムQがなくなると、圧縮空気がマンホールポンプ装置100のマンホール101内の汚水Wに流入するため、曝気効果が期待でき、且つスラリー状の水酸化マグネシウムQと汚水Wとを攪拌することが期待できる。
【0058】
更に、ここでは輸送管206とマンホールポンプ装置100からの圧送管107の間に電気的に制御される弁機構112を設けることで、マンホールポンプ102の運転待機時に該弁機構112を開弁させ、圧縮空気を該圧送管107に送ることができる。これにより圧送管107内の溶存酸素濃度の低下を防ぎ、硫化水素の発生を抑制することができる。
【0059】
電動弁209が開又は閉のいずれの場合でも、圧力管302をその下端が貯蔵タンク202の底面付近に達するように設置することにより、圧縮空気がスラリー状の水酸化マグネシウムQを攪拌するため、沈殿を防ぐことができる。また、ブロア又はコンプレッサー301が停止している時は、その羽根車の羽根隙間を通じて貯蔵タンク202内は大気圧となっている。
【0060】
図5は本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。ここでは、水酸化マグネシウムの粉末品、粒状品を貯蔵する貯蔵タンク202をマンホールポンプ装置100のマンホール101内に設置し、マンホールポンプ102の運転と同時に輸送管206に設けている電動弁205を開き、吸込ノズル113の負圧を利用して、貯蔵タンク202内の粉末又は粒状の水酸化マグネシウムを吸引させるように構成している。粉末又は粒状の水酸化マグネシウムの1回当たりの排出量を決める。
【0061】
マンホールポンプ102に吸引されることで粉末又は粒状の水酸化マグネシウムは攪拌され、圧送管107内等でpHの上昇反応が進み、硫化水素の発生を抑制することができる。また、輸送管206をマンホールポンプ102の吸込ノズル113に接続せず、206’として示すように、輸送管206’の吐出口をマンホール101内に開口させ、粉末又は粒状の水酸化マグネシウムをマンホール101内に直接投下してもよい。この場合、マンホールポンプ102の運転待機時に粉末又は粒状の水酸化マグネシウムの注入量を電動弁205の開閉によって行う。
【0062】
貯蔵タンク202内にスラリー状の水酸化マグネシウムQを貯蔵する場合は、貯蔵タンク202内を攪拌する必要があるが、図6に示すように、貯蔵タンクに202に攪拌羽根211とモータ212を設け、該モータ212で攪拌羽根211を回転させることにより、スラリー状の水酸化マグネシウムQを攪拌する。なお、モータ212の電源としては、太陽電池213を設け、該太陽電池213で発電された電力をインバータ(図示せず)で交流に変換し電線保護管214を通る電線215を通してモータ212に供給する。なお、モータ212が直流電源で駆動する直流モータであれば、太陽電池213で発電された直流を直接モータ212に供給する。
【0063】
水酸化マグネシウムが粉末品又は粒状品の場合は、スラリー状の場合よりも汚水Wとの反応を進ませるために、汚水内に投入後、汚水を攪拌する必要がある。貯蔵タンク202を図5に示すように、マンホールポンプ装置100のマンホール101内に設置し、図示しないインバータを設置している場合には、必要時間マンホールポンプ102を低速で回転し、揚水した汚水Wを吐出管103に設けた空気抜弁111から排水する程度(完全な排水をしない)で運転する。これにより、マンホール101内の汚水Wは循環するため、汚水Wと粉末又は粒状の水酸化マグネシウムは攪拌される。
【0064】
例えば、4号マンホールに設置されたマンホールポンプ102の排水量の水位1mとすると、1.8×1.8×π÷4×1≒2.5m3/回
1日に10回作動したとすると(一般に起動頻度が少ない方が硫化水素の問題が発生し易い)、1年間の汚水Wの排水量は下記のようになる。
2.5m3/回×10回/日×365日=9125m3/年
これによりスラリー状の水酸化マグルシウムの量と貯蔵タンク202のサイズは下記のように計算される。
【0065】
ここで硫化水素の生成を抑制するために汚水1000m3当たりスラリー状の水酸化マグルシウムの注入量を25lとすると、1年間の水酸化マグルシウムの注入量は、
25l/1000m3×9125m3/年≒228リットル/年
となり、0.3m3のタンク(1年に1回、スラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵タンク202に注入するものとして)を備えればよい。これは、幅0.5m×奥行0.5m×高さ1mの大きさの貯蔵タンクに相当し、この程度の大きさの貯蔵タンク202であれば、マンホール101内に設置可能である。
【0066】
図7は本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。ここでは、貯蔵タンク202をマンホールポンプ装置100のマンホール101内に設置し、該貯蔵タンク202内に粉末品、粒状品である粉末又は粒状の水酸化マグネシウムRを貯蔵し、マンホール101内の汚水Wの水位上昇圧力を駆動源として電気を駆動源としてない弁機構216、弁機構217を利用して、貯蔵タンク202内の粉末又は粒状の水酸化マグネシウムRを汚水W中に注入するように構成した例を示す。電源を必要としないため、制御盤(図示せず)のシーケンスを変更することなく、後付けが可能である。弁機構216、弁機構217は後に詳述するように、粉末又は粒状の水酸化マグネシウムRが閉塞しにくい構成とする。
【0067】
粉末又は粒状の水酸化マグネシウムRの注入量はマンホールポンプ102の1回当りの排水量から計算して求め、センサ管218、センサ管219の高さを設定する。水酸化マグネシウムRは注入しすぎてもpHの上限値が決まっているから、問題にならず、次のような簡便な制御が可能となる。
【0068】
(1)汚泥Wの水位が低水位LWL以上h1未満である時、弁機構216が「弁閉」、弁機構217が「弁開」、水酸化マグネシウムRの注入なし。
(2)汚泥Wの水位がh1以上h2未満である時、弁機構216が「弁開」、弁機構217が「弁開」、水酸化マグネシウムの注入あり。
(3)汚泥Wの水位がh2以上高水位HWL以下である時、弁機構216が「弁開」、弁機構217が「弁閉」、水酸化マグネシウムの注入なし。
ここで、h1:弁機構216の弁開作動水位、h2:弁機構217の弁閉作動水位である。なお、LWL−HWLはマンホールポンプの運転水位である。
【0069】
図8(a)、(b)はそれぞれ、上記弁機構216、弁機構217の構成を示す図である。弁機構216、弁機構217はいずれも第1ケース221、第2ケース222、第3ケース223を備え互いにボルト等で締結されている。弁機構216の第3ケース223の上流端は貯蔵タンク202に接続され、弁機構217の下流端はマンホール101内に開口している。第1ケース221の部屋Aと第2ケース222の部屋Bはローリングダイヤフラム224で、第2ケース222の部屋Bと第3ケース223の部屋Cは仕切板225で仕切られ、各部屋は互いにシールされている。
【0070】
弁機構216の部屋Aに連通するノズル260は大気に開口され、弁機構217の部屋Aに連通するノズル225はセンサ管219に接続されている。弁機構216の部屋Bに連通するノズル226はセンサ管218に接続され、弁機構217の部屋Bに連通するノズル226は大気に開口されている。弁機構216、217のシャフト259の先端にそれぞれ弁体227が連結され、後端にはそれぞれ磁性体からなるピストンプレート230が連結されている。弁機構216の部屋Aにはバネ228が配置され、部屋Bには磁石部229が配置されている。また、弁機構217の部屋Aには磁石部229が配置され、部屋Bにはバネ228が配置されている。
【0071】
上記構成の弁機構216、217において、磁石部229とピストンプレート230の間に磁力が働くため、お互いに所定磁気力で接触している。部屋Aと部屋Bの差圧がある一定以上になると、弁体227が開閉する。即ち、汚泥Wの水位がh2未満である時、弁機構216と弁機構217とが「弁開」となって水酸化マグネシウムRが注入される。汚泥Wの水位が低水位LWL以上h1未満である時、弁機構216が「弁閉」、弁機構217が「弁開」となって水酸化マグネシウムRが注入されない。また、汚泥Wの水位がh2以上高水位HWL以下である時、弁機構216が「弁開」、弁機構217が「弁閉」となって水酸化マグネシウムRは注入されない。
【0072】
図9は本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図である。本マンホールポンプ施設は、貯蔵タンク202をマンホールポンプ装置100のマンホール101内に設置し、該貯蔵タンク202内にスラリー状の水酸化マグネシウムQを収容し、該スラリー状の水酸化マグネシウムQの攪拌とそのマンホール101内への滴下を駆動源として電気を使用することなく行うように構成している。
【0073】
図9に示すように、貯蔵タンク202内にはスラリー状の水酸化マグネシウムQを攪拌するための攪拌羽根232が配置され、該攪拌羽根232のシャフト233の端部には回転当て板234が設けられている。マンホールポンプ102、102の運転時、吐出管103、103の空気抜弁111から噴出する汚水Wが回転当て板234に当たることにより、攪拌羽根232を回転するようになっている。また、貯蔵タンク202の上部には弁機構231が接続され、該弁機構231はセンサーホース244を介してセンサ管261に接続されており、貯蔵タンク202の底部には常時開の吐出調整弁235が接続されている。
【0074】
貯蔵タンク202内の気相部Fが大気圧になると、スラリー状の水酸化マグネシウムQが吐出調整弁235から自然流下で滴下する。滴下が続くと、気相部Fが負圧となり、水酸化マグネシウムQの量とバランスして吐出調整弁235からの滴下は停止する。待機時(センサ管261が大気に曝されている時)は後に詳述するように、弁機構231は閉じており、貯蔵タンク202内は負圧になっているため、水酸化マグネシウムQは吐出調整弁235から滴下しない。汚水Wの水位が上昇し、センサ管261の圧力が所定以上となると、後に詳述するように弁機構231は開いて、気相部Fは大気圧となり、水酸化マグネシウムQが滴下するようになっている。
【0075】
図10は弁機構231の構成及び動作を示す図で、図10(a)は待機時、図10(b)は動作時、図10(c)は動作完了時の状態を示す。図示するように、弁機構231は第1ケース241、第2ケース242、第3ケース243からなるケーシング240を備え、第1ケース241と第2ケース242の間にはゴム製ダイヤフラム247が、第2ケース242と第3ケース243の間に仕切板248が配置され、ケーシング240内を3つの部屋A、B、Cに区分している。
【0076】
部屋Aにはセンサーホース244を介してセンサ管230が接続され、部屋Bはノズル245を介して大気中に開放され、部屋Cは接続管246を介して貯蔵タンク202内に連通している。部屋CとBには仕切板248を貫通してシャフト249が配置され、該シャフト249の一端は磁性体板250を介してゴム製ダイヤフラム247に連結され、他端には弁体251が連結されている。部屋B内にはバネ252が配置され、部屋Aに内壁面にはゴム製ダイヤフラム247に対向して磁石253が配置されている。
【0077】
待機時は、センサ管261は大気中にあるから部屋Aと部屋Bの間に圧力差がなく、磁性体板250は磁石253の磁気力に吸引され、弁体251は仕切板248の通路248aに設けられたシール255に当接し、該通路248aを閉塞している。マンホール101内の汚水Wの水位が上昇し、センサ管261に接続されている部屋Aの圧力がある一定以上になると磁性体板250が設けられたゴム製ダイヤフラム247が磁石253から外れ、図10(b)に示すようにシャフト249が反磁性体板250方向に移動し、通路248aを開放する。これにより部屋Cが大気圧となり、貯蔵タンク202の気相部Fも大気圧となり、水酸化マグネシウムQがマンホール101内に吐出調整弁235を通って滴下する。
【0078】
マンホール101内の汚水Wの水位が上昇し、部屋Aの圧力が上昇し、図10(c)に示すようにシャフト249が更に反磁性体板250方向に移動し、弁体251が接続管246の流入口に設けられたシール256に当接し、接続管246の流入口を閉塞する。これにより、貯蔵タンクの気相部Fが負圧になるまで、スラリー状の水酸化マグネシウムQが吐出調整弁235を通って滴下する。この状態でマンホールポンプ102が作動して、汚水Wの水位が下がり待機状態となると、シャフト249は図10(a)の状態に戻る。
【0079】
図11は本発明に係るマンホールポンプ施設の概略構成例を示す図で、図11(a)は平面図、図11(b)は側面図である。本マンホールポンプ施設は図示するように、マンホールポンプ装置100のマンホール101内壁面には汚水流入管104の吐出口に対向して汚水Wの飛散を防止するためのバッフル124(図1、9参照)が設けられ、該バッフル124には貯蔵タンク202を設け、該貯蔵タンク202にスラリー状の水酸化マグネシウムQを収容している。貯蔵タンク202内には汚水流入管104からマンホール101内に流入する汚水Wで回転する回転当て板234が設けられ、該回転当て板234で駆動される攪拌羽根232が配置されている。これにより汚水Wが流入する間は常に水酸化マグネシウムQは攪拌される。
【0080】
貯蔵タンク202の上部にはその気相部Fに連通する大気開放管258が設けられ、該大気開放管258に電動弁257が設けられ、該電動弁257を開くと気相部Fは大気に開放されるようになっている。貯蔵タンク202の下部に常時開の吐出調整弁235が設けられている。電動弁257を開放して気相部Fを大気圧にすると水酸化マグネシウムQが吐出調整弁235を通ってマンホール101内に滴下する。電動弁257が閉じ、気相部Fが負圧となると水酸化マグネシウムQの滴下が停止する。なお、電動弁257の開閉は制御盤300(図3参照)からの指令で行う。
【0081】
上記例では薬品として水酸化マグネシウムを例に説明したが、薬品としてはそのほかに塩化第二鉄、硝酸塩等がある。塩化第二鉄は、溶存硫化物を硫化鉄(FeS)、或いは硫黄単体(S)にすることで、硫化水素ガスとして気相中へ放散されるのを防止する。薬品添加施設として薬品タンク、薬品ポンプ等を設ける。塩化第二鉄を薬品とする場合は、薬品添加量が膨大になるためコストが高くなるなどの問題があり、硝酸塩、水酸化マグネシウムに比べて取り扱い上危険性がある。
【0082】
分子状酸素や硝酸イオンの酸素イオンの酸素がない状態では(嫌気状態)、硫酸塩還元細菌により硫酸イオンが還元されて硫化水素が生成されるが、硝酸塩を添加した場合は硝酸イオンの酸素が利用され硫酸イオンは利用されず、硫化水素の生成が抑制される。薬品注入設備としては、薬品注入ポンプ、操作盤、薬品注入制御装置からなっており、薬品注入制御装置は水温・ポンプ井の気中硫化水素濃度・汚水流量などを測定して最適な注入量を演算すると共に、施設特有の流量パターンに沿って時間毎に注入量の比率を増減する。液状態で利用できる。すでに発生している硫化水素を除去することも可能である。
【0083】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願発明は、薬品注入装置が、スラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンクと、貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを攪拌するスラリー攪拌手段と、貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの所定量を汚水中へ注入するスラリー注入手段と、スラリー状の水酸化マグネシウムが注入された汚水を攪拌する汚水攪拌手段を備えているので、常に硫化水素の生成を抑制するための適正な量の水酸化マグネシウムを汚水中に注入でき、効果的に且つ安定して硫化水素の生成を抑制することができるマンホールポンプ施設として利用できる。
【符号の説明】
【0085】
100 マンホールポンプ装置
101 マンホール
102 マンホールポンプ(着脱式水中汚水ポンプ)
103 吐出管
104 汚水流入管
105 逆止弁
106 ボール弁
107 圧送管
108 pH計
109 水位センサ
110 水位センサ
111 空気抜弁
112 弁機構
113 吸入ノズル
120 予旋回槽
121 ガイドパイプ
122 固定用リング
123 固定用リング
124 バッフル
200 薬品注入装置
201 マンホール
202 貯蔵タンク
203 スラリーポンプ
204 吐出管
205 電動弁
206 輸送管
207 投入口
208 大気開放口
209 電動弁
210 圧縮空気導出管
211 撹拌羽根
212 モータ
213 太陽電池
214 電線保護管
215 電線
216 弁機構
217 弁機構
218 センサ管
219 センサ管
221 第1ケース
222 第2ケース
223 第3ケース
224 ローリングダイヤフラム
225 仕切板
226 ノズル
227 弁体
228 バネ
229 磁石部
230 ピストンプレート
231 弁機構
232 撹拌羽根
233 シャフト
234 回転当て板
235 吐出調整弁
240 ケーシング
241 第1ケース
242 第2ケース
243 第3ケース
244 センサーホース
245 ノズル
246 接続管
247 ゴム製ダイヤフラム
248 仕切板
248a通路
249 シャフト
250 磁性体板
251 弁体
252 バネ
253 磁石
255 シール
256 シール
257 電動弁
258 大気開放管
259 シャフト
260 ノズル
261 センサ管
300 制御盤
301 ブロア又はコンプレッサー
302 圧力管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホール内にマンホールポンプを備え、前記マンホール内に流入する汚水を前記マンホールポンプで圧送管を通して圧送するマンホールポンプ装置と、硫化水素の生成を抑制するための水酸化マグネシウムを汚水中に注入する薬品注入装置を備えたマンホールポンプ施設であって、
前記薬品注入装置はスラリー状の水酸化マグネシウムを貯蔵する貯蔵タンクと、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを攪拌するスラリー攪拌手段と、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの所定量を汚水中へ注入するスラリー注入手段と、スラリー状の水酸化マグネシウムが注入された汚水を攪拌する汚水攪拌手段を備えていることを特徴とするマンホールポンプ施設。
【請求項2】
前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを送出するスラリーポンプと、該スラリーポンプの吐出口に接続した吐出管と、該吐出管に接続された輸送管とを備え、前記スラリー攪拌手段と前記スラリー注入手段は、前記スラリーポンプと前記吐出管と前記輸送管とを用いて前記スラリー状の水酸化マグネシウムの攪拌・注入を行うことを特徴とする請求項1に記載のマンホールポンプ施設。
【請求項3】
圧縮空気源から圧縮空気を供給する圧力管と、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムを輸送する輸送管とを備え、前記スラリー攪拌手段と前記スラリー注入手段は、前記圧縮空気と圧力管と前記輸送管を用いて前記スラリー状の水酸化マグネシウムの攪拌・注入を行うことを特徴とする請求項1に記載のマンホールポンプ施設。
【請求項4】
前記スラリー注入手段は、前記貯蔵タンク内のスラリー状の水酸化マグネシウムの前記汚水中への注入を滴下により行うことを特徴とする請求項1に記載のマンホールポンプ施設。
【請求項5】
前記貯蔵タンクを含む前記スラリー注入手段及び前記スラリー攪拌手段に用いる各種部材機器を前記マンホール内に配置したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマンホール施設。
【請求項6】
前記マンホールに前記汚水流入時の汚水の飛散を防ぐバッフルを設け、
前記スラリー攪拌手段は前記マンホールに流入する汚水によって駆動されることを特徴とする請求項1に記載のマンホール施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−29017(P2013−29017A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232733(P2012−232733)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2006−5364(P2006−5364)の分割
【原出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】