説明

マンホール内壁面の更生方法、およびマンホール内壁面の更生装置

【課題】劣化したマンホール内壁面を迅速かつ安価に更生するマンホール内壁面の更生方法、およびそれに用いる更生装置を提供する。
【解決手段】円筒形型枠210をマンホール100内の直壁部120の下端にマンホール内壁面101と隙間を空けて装着し、円筒形型枠210とマンホール内壁面101との隙間にグラウト材510を注入し、円筒形型枠210を順次上方に引き上げながらグラウト注入を繰り返して直壁部120全面に内張層を形成し、円筒形型枠210を撤去した後、円錐台形型枠410をマンホール内の斜壁部130にマンホール内壁面101と隙間を空けて装着し、円錐台形型枠410とマンホール内壁面101との隙間にグラウト材510を注入して、斜壁部130全面に内張層を形成し、その後、円錐台形型枠410を撤去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホールの設置場所において、劣化したマンホール内壁面を更生するマンホール内壁面の更生方法、およびそれに用いる更生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マンホールは、一般に、コンクリート構造とされており、長年の使用による経年腐食や、例えば排水中の硫黄酸化物に起因する硫酸等の腐食性物質に侵されることにより、マンホール内壁面が劣化することがある。
【0003】
従来より、劣化したマンホール内壁面を更生する種々の更生方法が知られている。
【0004】
マンホール内壁面の更生方法として、例えば、劣化したマンホール内壁面に強化ポリエステル樹脂等からなる防食シートを装着し、その内側を分割式の鋼製内支枠で支持し、この防食シートとマンホール内壁面との隙間にグラウト材を注入し、防食シートとグラウト材と既設マンホールとを一体化させてマンホール内壁面をライニングするシートライニング工法が実用化されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
また、熱硬化性樹脂を含浸させたライニング材を既設マンホール内に挿入し、このライニング材を空気圧で膨らませて劣化したマンホール内壁面に装着した後、温水循環システムによってライニング材を硬化させ、ライニング材と既設マンホールとを一体化させてマンホール内壁面をライニングする工法が実用化されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0006】
また、耐食性に優れたポリプロピレン樹脂等で成形された自立タイプの内型枠を分割式にして製作し、この内型枠をマンホール内で組み立て、この内型枠とマンホール内壁面との隙間にグラウト材を注入し、内型枠とグラウト材と既設マンホールとを一体化させてマンホール内壁面を更生する工法が実用化されている(例えば、非特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“下水道マンホールの更生工法 −シートライニング工法− SG−M工法”、[online]、(株)湘南合成樹脂製作所、[平成22年4月23日検索]、インターネット<URL:http://www.jiwet.jp/examination_proof/list/pdf/2008_0845.pdf>
【非特許文献2】“SGICP−M工法”、[online]、3SICP技術協会、[平成22年4月23日検索]、インターネット<URL:http://www.3sicp.jp/construction/sgicp-m.html>
【非特許文献3】“MLR工法”、[online]、クリーン総業株式会社、[平成22年4月23日検索]、インターネット<URL:http://www.clean-s.jp/mlr.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した工法は、いずれも、強化ポリエステル樹脂等からなる防食シートや、熱硬化性樹脂を含浸させたライニング材や、ポリプロピレン樹脂等で成形された内型枠など、高価な資材が既設マンホールと一体化されて残置されるので、施工費用が高額化するという問題があった。また、防食シートの装着作業や、分割式の内型枠をマンホール内で組み立てる作業は、手間の掛かる作業なので、改善が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、劣化したマンホール内壁面を迅速かつ安価に更生するマンホール内壁面の更生方法、およびそれに用いる更生装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明のマンホール内壁面の更生方法は、
円筒形型枠をマンホール内の直壁部の下端にマンホール内壁面と隙間を空けて装着し、
上記円筒形型枠と上記マンホール内壁面との隙間にグラウト材を注入し、
上記円筒形型枠を順次上方に引き上げながらグラウト注入を繰り返して上記直壁部全面に内張層を形成し、
上記円筒形型枠を撤去した後、
円錐台形型枠をマンホール内の斜壁部にマンホール内壁面と隙間を空けて装着し、
上記円錐台形型枠と上記マンホール内壁面との隙間にグラウト材を注入して、上記斜壁部全面に内張層を形成し、
その後、上記円錐台形型枠を撤去することを特徴とする。
【0011】
本発明のマンホール内壁面の更生方法は、直壁部全面にグラウト材による内張層を形成するときに用いる円筒形型枠や、斜壁部全面にグラウト材による内張層を形成するときに用いる円錐台形型枠を、内張層の形成後に撤去する更生方法であるため、その円筒形型枠や円錐台形型枠を再使用することができる。従って、本発明のマンホール内壁面の更生方法によれば、既設マンホールと一体化されて残置される高価な合成樹脂シート等が不要となり、劣化したマンホール内壁面を迅速かつ安価に更生することができる。
【0012】
ここで、本発明のマンホール内壁面の更生方法では、上記グラウト材として、耐酸性を有する材料を用いるとよい。近年、高い耐酸性を有し、優れた初期硬度発現性、優れた長期強度発現性を有する特殊モルタル材料が開発されており、このような材料を用いることによって、マンホールの内部環境下で耐久性に優れた壁面を形成することができ、合成樹脂シート等を不要にすることができる。
【0013】
また、本発明のマンホール内壁面の更生方法では、上記グラウト材として、防菌剤または抗菌剤を添加した材料を用いることによっても、合成樹脂シート等を不要にすることができる。防菌剤または抗菌剤としては、例えば、チアベンタゾール等の有機薬剤、ニッケル金属等、あるいは抗菌性金属イオン担持無機粉末を用いることができる。
【0014】
また、本発明のマンホール内壁面の更生方法では、上記内張層の表面に光硬化樹脂を塗布することによっても、合成樹脂シート等を不要にすることができる。
【0015】
このような、耐酸性を有するグラウト材、あるいは防菌剤または抗菌剤を添加したグラウト材、または塗布材を用いることにより、マンホール内壁面は耐久性に富み、マンホール内壁面の劣化を十分に防止することができ、マンホール内壁面の好適な更生を達成することができる。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明のマンホール内壁面の更生装置の第1の更生装置は、円周を複数個に分割した剛性の曲板状せき板からなる円筒形組立型枠と、この円筒形組立型枠をマンホール内で上方に引き上げる引上装置とを備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明のマンホール内壁面の更生装置の第1の更生装置によれば、円筒形組立型枠を解体することによって、円筒形組立型枠をマンホールの開口部から容易に出し入れすることができる。
【0018】
ここで、本発明のマンホール内壁面の更生装置の第1の更生装置は、上記曲板状せき板のうちの一枚を、隣接する曲板状せき板との接触部分に円筒軸方向テーパを備えたものとすれば、円筒形組立型枠の組み立てや解体が容易で好ましい。
【0019】
また、上記目的を達成する本発明のマンホール内壁面の更生装置の第2の更生装置は、円周を1又は2分割した可撓性板体からなる円筒形型枠であって、この円筒形型枠の分割継手部が位置決め固定構造を備えたことを特徴とする。
【0020】
尚、本発明にいう「位置決め固定構造」とは、可撓性板体の分割継手部における分割端部を突き合わせ、分割端部同士を相互に位置決め固定する構造である。例えば、ピンとピン孔の係合による接続構造、分割端部の両側に設けた対向する突起を挟んで一体化させる構造、フランジとこれを結合するボルトナットからなる構造などとすればよい。
【0021】
本発明のマンホール内壁面の更生装置の第2の更生装置によれば、円筒形型枠を小径に巻くことができ、これにより、円筒形型枠をマンホールの開口部から容易に出し入れすることができる。また、位置決め固定構造によって、円筒形型枠を所望の形状に保持することができる。
【0022】
また、上記目的を達成する本発明のマンホール内壁面の更生装置の第3の更生装置は、円周を1又は複数分割した可撓性板体からなる円錐台形型枠であって、この円錐台形型枠の分割継手部が位置決め固定構造を備えたことを特徴とする。
【0023】
本発明のマンホール内壁面の更生装置の第3の更生装置によれば、円錐台形型枠を小径に巻くことができ、これにより、円錐台形型枠をマンホールの開口部から容易に出し入れすることができる。また、位置決め固定構造によって、円錐台形型枠を所望の形状に保持することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のマンホール内壁面の更生方法によれば、従来のように既設マンホールと一体化されて残置される高価な合成樹脂シート等を用いる必要がなく、施工も容易で、劣化したマンホール内壁面を迅速かつ安価に更生することができる。また、繰り返し使用できる更生装置を用いることにより、簡易、安価、短工期にマンホール内壁面の更生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のマンホール内壁面の更生方法および第1の更生装置の実施例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す円筒形型枠を斜め上から見た斜視図である。
【図3】図2に示す5個の曲板状せき板のうちの1個の曲板状せき板を上方に引き上げた状態の円筒形型枠を斜め上から見た斜視図である。
【図4】図2に示す5個の曲板状せき板を分割してなる円筒形型枠の平面図である。
【図5】本発明のマンホール内壁面の第2の更生装置を構成する円筒形型枠の実施例を示す概略構成図である。
【図6】図5に示す円筒形型枠における位置決め固定構造を示す平面図である。
【図7】本発明のマンホール内壁面の更生方法および第3の更生装置の実施例を示す概略構成図である。
【図8】図7に示すA部の拡大図である。
【図9】図7に示す円錐台形型枠を斜め上から見た斜視図である。
【図10】インバートの上面および直壁部の下部の更生工程を説明するマンホールの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図1は、本発明のマンホール内壁面の更生方法および第1の更生装置200の実施例を示す概略構成図である。また、図2は、図1に示す円筒形型枠210を斜め上から見た斜視図であり、図3は、図2に示す5個の曲板状せき板211,212,213,214,215のうちの1個の曲板状せき板211を上方に引き上げた状態の円筒形型枠210を斜め上から見た斜視図であり、図4は、図2に示す5個の曲板状せき板211,212,213,214,215を分割してなる円筒形型枠210の平面図である。
【0028】
図1に示す第1の更生装置200は、マンホール100内の直壁部120の更生に用いる例えば鋼製の円筒形型枠210と、これをチェーンまたはワイヤロープなどの吊索223,224で吊下し、上方に引き上げ移動させる、マンホール100上に設置される引上装置220とから構成されている。
【0029】
円筒形型枠210は、マンホール100の開口部110からマンホール100内に入れられるように円周を5個に分割した剛性の曲板状せき板211,212,213,214,215からなる円筒形組立型枠である。これら5個の曲板状せき板211,212,213,214,215のうちの1個の曲板状せき板211は、くさび形状を有するものである。より詳細には、このくさび形状を有する曲板状せき板211をマンホール100に入れたときの上部の寸法が下部の寸法よりも大きな寸法とされており、このくさび形状を有する曲板状せき板211に隣接する曲板状せき板212,215との接触部が円筒軸方向テーパ2111,2112を備えている。また、くさび形状を有する曲板状せき板211に隣接する曲板状せき板212,215同士は、双方に端部が固定されたばね部材216によって、互いに引き寄せ合う方向に付勢しておいてもよい。
【0030】
このように、5個の曲板状せき板211,212,213,214,215のうちの1個の曲板状せき板211がくさび形状を有するものとすることによって、5個の曲板状せき板211,212,213,214,215の組み立てや解体が容易となる。
【0031】
尚、この円筒形型枠210の外径は、マンホール100内の直壁部120の内径よりも、グラウト材510を注入するグラウト代の分(ここでは一例として15mm程度)だけ小さな外径とする。また、この円筒形型枠210の高さは、鋼製の曲板状せき板211,212,213,214,215の取り扱い性や円筒形型枠210を用いる更生の施工性等を考慮して、例えば600mm程度とする。
【0032】
引上装置220は、例えば三脚221と滑車222とを備えている。引上装置220は、円筒形型枠210をマンホール100内に挿入し、吊下支持、排出させるとともに、グラウト材510の注入・硬化に伴って円筒形型枠210を順次上方に引き上げ移動させるものである。
【0033】
図5は、本発明のマンホール内壁面の第2の更生装置を構成する円筒形型枠310の実施例を示す概略構成図である。また、図6は、図5に示す円筒形型枠310における位置決め固定構造330を示す平面図である。
【0034】
図5に示す円筒形型枠310と、図1に示す引上装置220との組み合わせが、第2の更生装置である。この第2の更生装置は、図1〜図4を参照して説明した第1の更生装置200の他の実施例である。
【0035】
円筒形型枠310は、円周を1分割した例えば合成樹脂製の可撓性板体からなる、マンホール100内の直壁部120(図1参照)の更生に用いるものである。円筒形型枠310は、分割継手部320が位置決め固定構造330を備えている。位置決め固定構造330は、可撓性板体の分割継手部320における分割端部321,322を突き合わせ、分割端部321,322同士を相互に位置決め固定する構造である。ここでは、位置決め固定構造330が、分割継手部320のうちの一方の分割端部321に形成された突起331と、他方の分割端部322の、突起331に対向する位置に形成された、突起331と係合する孔332とから構成されている。円筒形型枠310は、位置決め固定構造330の突起331を孔332に係合させることによって、所望の形状に保持される。
【0036】
このような円筒形型枠310は、可撓性板体からなるものであるため、マンホール100の開口部110から、小径に巻いて挿入・排出することができる。
【0037】
尚、この円筒形型枠310の外径は、マンホール100内の直壁部120の内径よりも、グラウト材510を注入するグラウト代の分(ここでは一例として15mm程度)だけ小さな外径とする。また、この円筒形型枠310の高さは、取り扱い性や円筒形型枠210を用いる更生の施工性等を考慮して、例えば600mm程度とする。
【0038】
図7は、本発明のマンホール内壁面の更生方法および第3の更生装置400の実施例を示す概略構成図であり、図8は、図7に示すA部の拡大図である。また、図9は、図7に示す円錐台形型枠410を斜め上から見た斜視図である。
【0039】
図7に示す第3の更生装置400は、マンホール100内の斜壁部130の更生に用いる円錐台形型枠410と、マンホール100上に設置される引上装置220とから構成されている。尚、この図7に示す引上装置220は、図1に示す引上装置220と同様の引上装置である。
【0040】
円錐台形型枠410は、円周を1分割した例えば合成樹脂製の可撓性板体からなるものである。円錐台形型枠410は、分割継手部420が位置決め固定構造430を備えている。位置決め固定構造430は、図6に示す位置決め固定構造330と同様の構造であって、分割継手部420のうちの一方の分割端部421に形成された突起431と、他方の分割端部422の、突起431に対向する位置に形成された、突起431と係合する孔432とから構成されている。円錐台形型枠410は、位置決め固定構造430の突起431を孔432に係合させることによって、所望の形状に保持される。
【0041】
このような円錐台形型枠410は、可撓性板体からなるものであるため、マンホール100の開口部110から、小径に巻いて挿入・排出することができる。
【0042】
また、この円錐台形型枠410の下部には、円筒部440が形成されている。円筒部440は、マンホール100内の直壁部120全面に形成されるグラウト510材による内張層の上端内壁部分511の内径よりも僅かに小さな外径を有する。また、この円筒部440の内面下部には、円筒部440下端から下方に突出するとともに、突出した部分の外径が上端内壁部分511の内径にほぼ等しく形成されたスポンジ710が貼り付けられている。
【0043】
円錐台形型枠410の円筒部440内面下部に貼り付けられたスポンジ710を、マンホール100内の直壁部120全面に形成されたグラウト510材による内張層の上端内壁部分511に位置させ、スポンジ710の内面側から例えば拡張バンド600を拡張させて、スポンジ710を上端内壁部分511に押し付けることにより、グラウト材510注入時における円錐台形型枠410下部からのグラウト材510の漏れが防止される。より詳細には、拡張バンド600は、巻き取り・拡張自在な帯状部材であって、例えば一方の端部に挿入端固定部610が形成されている。直壁部120全面に形成された内張層の上端内壁部分511において、円錐台形型枠410の円筒部440内面下部に貼り付けられたスポンジ710の内面側から拡張バンド600を拡張させた状態で、他方の端部(挿入端)を挿入端固定部610に挿入・固定することにより、スポンジ710が上端内壁部分511に押し付けられ、スポンジ710が上端内壁部分511に密着する。
【0044】
尚、この円錐台形型枠410の外径は、マンホール100内の斜壁部130の内径よりも、グラウト材510を注入するグラウト代の分(ここでは一例として15mm程度)だけ小さな外径とする。また、この円錐台形型枠410の高さは、マンホール100内の斜壁部130の高さに合わせて決定する。
【0045】
次に、本発明のマンホール内壁面の更生方法の実施例を説明する。尚、ここでは、図1〜図4を参照して説明した第1の更生装置200、および図7,8を参照して説明した第3の更生装置400を用いた更生方法を説明する。
【0046】
まず、マンホール100内のステップ(図示省略)を、例えばサンダー等を用いて全て切断し、マンホール内壁面101に突起物がないようにする。また、マンホール内壁面101のコンクリートが劣化した箇所は、ハツリ取って水洗いするか高圧水で洗浄しておく。
【0047】
次に、マンホール100内のインバート140の上面141に接する直壁部120の下部、すなわちマンホール100の底面上の円筒形型枠210が設置される部分に、グラウト材510注入時におけるグラウト材510の漏れを防止するための、例えば巾3cm〜5cm程度のスポンジ700を、その部分全周に渡って貼り付けておく。
【0048】
次に、直壁部120の更生に用いる例えば鋼製の円筒形型枠210を5分割してなる、5個の曲板状せき板211,212,213,214,215を、マンホール100上に設置した引上装置220の滑車222に吊索223,224で吊下してマンホール100内に挿入し、5個の曲板状せき板211,212,213,214,215を円筒形に組み立てる。このとき、円筒形型枠210を構成する5個の曲板状せき板211,212,213,214,215のうちの、くさび形状を有する1個の曲板状せき板211を、上部の寸法が下部の寸法よりも大きな寸法となるような向きで組み立てる。その後、5個の曲板状せき板211,212,213,214,215を組み立てられてなる円筒形型枠210を、直壁部120の下端に、スポンジ700を挟んで、かつマンホール内壁面101と例えば15mm程度の隙間を空けて装着する。ここでは、円筒形型枠210とマンホール内壁面101との間の隙間、すなわちグラウト材510を注入するグラウト代が15mm程度に保たれるように、円筒形型枠210の上端部分におけるマンホール内壁面101との隙間に、例えば5個のスペーサ800を挟み込ませることによって、円筒形型枠210を位置決めしている。
【0049】
次に、円筒形型枠210とマンホール内壁面101との隙間に、グラウト材注入部500から、耐酸性を有するグラウト材510を注入し、硬化させ、グラウト510材による内張層を形成する。尚、この隙間には、グラウト材510の補強として、図示しない鋼製又は合成繊維製のメッシュ部材を入れてもよい。また、グラウト材510としては耐酸性を有する材料が好ましいが、防菌剤または抗菌剤を添加した材料であってもよい。また、グラウト材510として普通セメント系固化材からなる材料を用い、普通セメント系固化材による内張層の形成後に防食被覆材として光硬化樹脂をその内張層の表面に塗布してもよい。このような、耐酸性を有するグラウト材、あるいは防菌剤または抗菌剤を添加したグラウト材、または塗布材を用いることにより、マンホール内壁面101は耐久性に富み、マンホール内壁面101の劣化を十分に防止することができ、マンホール内壁面101の好適な更生を達成することができる。
【0050】
次に、上記隙間に注入したグラウト材510が硬化したら、円筒形型枠210を構成する5個の曲板状せき板211,212,213,214,215のうちの、くさび形状を有する1個の曲板状せき板211を、円筒形型枠210の径が縮小する程度に、引上装置220の滑車222に吊索223,224で吊下して上方に引き上げる。くさび形状を有する曲板状せき板211に隣接する曲板状せき板212,215同士は、双方に端部が固定されたばね部材216によって、互いに引き寄せ合う方向に付勢されている。そのため、くさび形状を有する曲板状せき板211が上方に引き上げられると、その付勢力によって円筒形型枠210の径が縮小する。その後、円筒形型枠210を、引上装置220の滑車222に吊索223,224で吊下して、前工程で形成された内張層の上部に位置するまで上方に引き上げ移動させ、再びその円筒形型枠210を円筒形に組み立てる。
【0051】
以降、上述した、円筒形型枠210とマンホール内壁面101との隙間へのグラウト材510注入、および円筒形型枠210の引き上げ移動を繰り返し、直壁部120全面にグラウト510材による内張層を形成する。
【0052】
次に、円筒形型枠210を構成する5個の曲板状せき板211,212,213,214,215のうちの、くさび形状を有する1個の曲板状せき板211を、引上装置220の滑車222に吊索223,224で吊下して上方に引き上げるとともに、残りの4個の曲板状せき板212,213,214,215を分割し、それらを引上装置220の滑車222に吊索223,224で吊下してマンホール100外に撤去する。
【0053】
次に、斜壁部130の更生に用いる、円周を1分割した例えば合成樹脂製の可撓性板体からなる円錐台形型枠410を小径に巻いてなるものを、マンホール100上に設置した引上装置220の滑車222に吊索223,224で吊下してマンホール100内に挿入し、小径に巻かれている円錐台形型枠410を広げる。また、円錐台形型枠410の一方の分割端部421に形成された突起431を、他方の分割端部422に形成された孔432に係合させることにより、円錐台形に保持させる。このようにして円錐台形に保持された円錐台形型枠410を、斜壁部130に、マンホール内壁面101と例えば15mm程度の隙間を空けて装着する。より詳細には、円錐台形に保持された円錐台形型枠410の、円筒部440内面下部に貼り付けられたスポンジ710を、直壁部120全面に形成された内張層の上端内壁部分511に位置させる。その後、スポンジ710の内面側から例えば拡張バンド600を拡張させて、スポンジ710を上端内壁部分511に押し付ける。これにより、グラウト材510注入時における円錐台形型枠410下部からのグラウト材510の漏れが防止される。
【0054】
次に、円錐台形型枠410とマンホール内壁面101との隙間に、グラウト材注入部500から、耐酸性を有するグラウト材510を注入し、硬化させ、斜壁部130全面にグラウト510材による内張層を形成する。
【0055】
次に、上記隙間に注入したグラウト材510が硬化したら、円錐台形型枠410の円筒部440内面下部に貼り付けられたスポンジ710の内面側から拡張させた拡張バンド600を巻き取り、これをマンホール100外に撤去する。その後、円錐台形型枠410における突起431と孔432との係合を解除し、円錐台形型枠410を小径に巻き、これを引上装置220の滑車222に吊索223,224で吊下してマンホール100外に撤去する。
【0056】
図10は、インバート140の上面141および直壁部120の下部の更生工程を説明するマンホール100の縦断面図である。
【0057】
円錐台形型枠410の撤去後、マンホール100内のインバート140の上面141に接する直壁部120の下部に貼り付けたスポンジ700を撤去し、インバート140の上面141および直壁部120の下部に、耐酸性を有するモルタル520をコテ塗りして仕上げる。
【0058】
最後に、マンホール内壁面101にステップ(図示省略)を取付ける。
【0059】
以上説明した本実施例のマンホール内壁面の更生方法は、マンホール100内の直壁部120全面にグラウト材510による内張層を形成するときに用いる円筒形型枠210や、マンホール100内の斜壁部130全面にグラウト材510による内張層を形成するときに用いる円錐台形型枠410を、内張層の形成後に撤去する更生方法であるため、円筒形型枠210や円錐台形型枠410を再使用することができる。従って、本実施例のマンホール内壁面の更生方法によれば、従来のように既設マンホールと一体化されて残置される高価な合成樹脂シート等を用いる必要がなく、劣化したマンホール内壁面101を迅速かつ安価に更生することができる。また、繰り返し使用できる更生装置200,400を用いることにより、簡易、安価、短工期にマンホール内壁面101の更生を行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
100 マンホール
101 マンホール内壁面
110 開口部
120 直壁部
130 斜壁部
140 インバート
141 上面
200 第1の更生装置
210 円筒形型枠
211,212,213,214,215 曲板状せき板
2111,2112 円筒軸方向テーパ
216 ばね部材
220 引上装置
221 三脚
222 滑車
223,224 吊索
310 円筒形型枠
320 分割継手部
321,322 分割端部
330 位置決め固定構造
331 突起
332 孔
400 第3の更生装置
410 円錐台形型枠
420 分割継手部
421,422 分割端部
430 位置決め固定構造
431 突起
432 孔
440 円筒部
500 グラウト材注入部
510 グラウト材
511 上端内壁部分
520 モルタル
600 拡張バンド
610 挿入端固定部
700,710 スポンジ
800 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形型枠をマンホール内の直壁部の下端にマンホール内壁面と隙間を空けて装着し、
前記円筒形型枠と前記マンホール内壁面との隙間にグラウト材を注入し、
前記円筒形型枠を順次上方に引き上げながらグラウト注入を繰り返して前記直壁部全面に内張層を形成し、
前記円筒形型枠を撤去した後、
円錐台形型枠をマンホール内の斜壁部にマンホール内壁面と隙間を空けて装着し、
前記円錐台形型枠と前記マンホール内壁面との隙間にグラウト材を注入して、前記斜壁部全面に内張層を形成し、
その後、前記円錐台形型枠を撤去することを特徴とするマンホール内壁面の更生方法。
【請求項2】
前記グラウト材が、耐酸性を有するものであることを特徴とする請求項1記載のマンホール内壁面の更生方法。
【請求項3】
前記グラウト材が、防菌剤または抗菌剤を添加したものであることを特徴とする請求項1記載のマンホール内壁面の更生方法。
【請求項4】
前記内張層の表面に光硬化樹脂を塗布することを特徴とする請求項1記載のマンホール内壁面の更生方法。
【請求項5】
円周を複数個に分割した剛性の曲板状せき板からなる円筒形組立型枠と、該円筒形組立型枠をマンホール内で上方に引き上げる引上装置とを備えたことを特徴とするマンホール内壁面の更生装置。
【請求項6】
前記曲板状せき板のうちの一枚が、隣接する曲板状せき板との接触部分に円筒軸方向テーパを備えたことを特徴とする請求項5記載のマンホール内壁面の更生装置。
【請求項7】
円周を1又は2分割した可撓性板体からなる円筒形型枠であって、該円筒形型枠の分割継手部が位置決め固定構造を備えたことを特徴とするマンホール内壁面の更生装置。
【請求項8】
円周を1又は複数分割した可撓性板体からなる円錐台形型枠であって、該円錐台形型枠の分割継手部が位置決め固定構造を備えたことを特徴とするマンホール内壁面の更生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−17632(P2012−17632A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157143(P2010−157143)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(591027422)株式会社ニチコン (12)
【Fターム(参考)】