説明

マンホール改修用止水部材及びマンホール改修工法

【課題】既設のマンホール構造に耐震性を付与するための改修を行う場合に、地下水の水位の調査を不要にするとともに、地下水の水位が高くても固化剤等の注入作業を不要にし、改修時の施工コストの低減を図る。
【解決手段】マンホール2と、マンホール2に接続されたヒューム管3とを備えた既設のマンホール構造を改修する際に用いられるマンホール改修用止水部材40は、マンホール2の内側に開口してヒューム管3の開口端を囲むように延びる環状凹部30に挿入可能に形成されており、環状凹部30の外周側に接着される外周側接着部41と、環状凹部30の内周側に接着される内周側接着部42と、外周側接着部41及び内周側接着部42の間に配置されるフィルム44とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホールと管部材との接続部を改修する際に使用されるマンホール改修用止水部材及びマンホール改修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下水道等に用いられるマンホール構造は、所定の間隔で設けられたマンホールにヒューム管等からなる管部材を接続して構成されている。このようなマンホール構造では、地震発生時にマンホールと管部材とが互いに異なった動きをして接続部に無理な力がかかり、ひび割れが生じて下水道の機能を確保できなくなるという問題があるので、マンホール構造を新設する場合には、ゴムや軟質プラスチック等からなる可撓継手を用いてマンホールと管部材とを接続することが行われる。
【0003】
新設のマンホール構造では上記工法を用いることができるが、既設のマンホール構造では、可撓継手を用いて改修しようとしても、改修部分の土砂の除去及び埋め戻し等の大がかりな作業が必要で、工期が長期化してしまう。
【0004】
これを解消する工法として、既設のマンホール構造に対して行う改修工法が知られている。改修工法としては、例えば特許文献1に開示されている工法がある。
【0005】
すなわち、特許文献1の改修工法では、削岩機を用いてマンホールの内側からマンホールの壁における管部材の周りを取り除いてマンホールの壁に貫通部分を形成し、その後、貫通部分に可撓性止水部材を埋め込み、可撓性止水部材を用いてマンホールと管部材とを接続するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−74078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マンホール構造が設けられた場所によっては地下水の水位が高く、地下水が管部材の外部にも存在していることがある。土砂が地下水を含むと流動しやすくなり、管部材の外部で土砂が流動しやすくなっている場合に、特許文献1の改修工法によって可撓性止水部材を埋め込むための貫通部分をマンホールの壁に形成すると、周囲の土砂が貫通部分を通ってマンホール内へ流入する恐れがある。
【0008】
このため、マンホールの外側の地下水の水位を事前に調査する必要がある。そして、水位が高い場合には土砂を固化させるための固化剤等を注入する作業が必要になり、改修時の施工コストの増大を招く。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、既設のマンホール構造に耐震性を付与するための改修を行う場合に、地下水の水位の調査を不要にするとともに、地下水の水位が高くても固化剤等の注入作業を不要にし、改修時の施工コストの低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明では、マンホールの内側に開口する環状凹部にマンホール改修用止水部材を挿入し、この改修用止水部材によってマンホールと管部材との相対変位を許容しながら止水性を保つようにした。
【0011】
第1の発明は、マンホールと、該マンホールに接続された管部材とを備えた既設のマンホール構造を改修する際に用いられるマンホール改修用止水部材において、水を通さない材料からなり、上記マンホールの内側に開口して上記管部材の開口端を囲むように延びる環状凹部に挿入可能に形成されており、上記環状凹部の外周側に接着される外周側接着部と、上記環状凹部の内周側に接着される内周側接着部と、上記外周側接着部及び上記内周側接着部の相対変位を許容する変位許容部とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、改修用止水部材を既設のマンホール構造に設けるにあたり、環状凹部をマンホール内側に開口するように形成すればよいので、従来のようにマンホールの壁に貫通部分を形成せずに済む。これにより、地下水位が高くてもマンホール内に土砂が流入する恐れはなく、事前の水位調査や固化剤の注入作業が不要になる。
【0013】
改修後の地震発生時に管部材がマンホールに対して動いた場合には、環状凹部の形成部位が他の部位よりも弱いので、ひび割れは環状凹部に対応する部位に発生する。そして、改修用止水部材の外周側接着部が環状凹部の外周側に接着され、内周側接着部が環状凹部の内周側に接着されているので、外周側接着部及び内周側接着部が相対変位することになる。この相対変位は改修用止水部材の変位許容部により許容される。従って、改修用止水部材による止水性が保たれる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、外周側接着部と内周側接着部とは、管部材の中心線方向に延びる板状に形成されるとともに、互いに厚み方向に重なるように配置され、変位許容部は、上記外周側接着部と上記内周側接着部との摺動を許容するように構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
この構成によれば、外周側接着部と内周側接着部との接着面積が十分に確保されるので、止水性能が高まる。そして、外周側接着部と内周側接着部とを厚み方向に重ねることで改修用止水部材がコンパクトになる。このとき、変位許容部が外周側接着部と内周側接着部との摺動を許容するので、地震発生時に管部材がマンホールに対して動いた場合にその動きを十分に許容することが可能になる。
【0016】
第3の発明は、第1または第2の発明において、外周側接着部と内周側接着部とは、モルタルとの接着性を有しており、該モルタルによって環状凹部の外周側及び内周側に接着されることを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、環状凹部にモルタルを充填しておき、この状態で改修用止水部材を環状凹部に挿入すると、モルタルによって改修用止水部材の外周側接着部及び内周側接着部が環状凹部の外周側及び内周側に接着する。
【0018】
第4の発明は、マンホールと、マンホールに接続された管部材とを備えた既設のマンホール構造に用いられるマンホール改修工法において、上記マンホールの壁に、該マンホールの内側に開口して上記管部材の開口端を囲むように延びる環状凹部を形成し、水を通さない材料からなるとともに、上記環状凹部の外周側に接着される外周側接着部と、上記環状凹部の内周側に接着される内周側接着部と、該両接着部の相対変位を許容する変位許容部とを備えた改修用止水部材を上記環状凹部に挿入し、上記外周側接着部を上記環状凹部の外周側に接着するとともに、上記内周側接着部を上記環状凹部の内周側に接着することを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、第1の発明と同様に、改修用止水部材を既設のマンホール構造に設けるにあたり、マンホールの壁に貫通部分を形成せずに済むので、事前の水位調査や固化剤の注入作業が不要になる。
【0020】
また、地震発生時には、環状凹部に対応する部位にひび割れが発生する。このとき、外周側接着部及び内周側接着部が相対変位することになるが、この相対変位は改修用止水部材の変位許容部により許容されるので、改修用止水部材による止水性が保たれる。
【0021】
第5の発明は、第4の発明において、マンホールの壁に形成された管部材の挿入孔と、該挿入孔に挿入された管部材の外周面との間に打設された管部材防護用の防護コンクリート部分に環状凹部を形成することを特徴とするものである。
【0022】
すなわち、防護コンクリートは一般のマンホールの壁よりも弱い。従って、防護コンクリート部分に環状凹部を形成することで、環状凹部の形成が容易に行える。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、マンホールの内側に開口する環状凹部の外周側に接着される外周側接着部と、内周側に接着される内周側接着部と、これら両接着部の相対変位を許容する変位許容部とを備えているので、マンホールの壁に貫通部分を形成することなく、地震発生時にマンホールと管部材との相対変位を許容して止水性を保つことができる。これにより、地下水位が高くても事前の水位調査や固化剤の注入作業を不要にすることができ、改修時の施工コストを低減できる。
【0024】
第2の発明によれば、外周側接着部と内周側接着部とを管部材の中心線方向に延びる板状に形成して互いに厚み方向に重なるように配置したので、止水性能の高い改修用止水部材をコンパクトにすることができる。そして、外周側接着部と内周側接着部との摺動を許容するようにしたことで、地震発生時の管部材の動きを十分に許容して止水性を保つことができる。
【0025】
第3の発明によれば、改修用止水部材の外周側接着部と内周側接着部とをモルタルによって環状凹部の外周側及び内周側に接着するようにしたので、簡単な施工で確実に止水できる。
【0026】
第4の発明によれば、マンホールの壁に貫通部分を形成することなく改修用止水部材を設けて地震発生時に止水性を保つことができる。これにより、地下水位が高くても事前の水位調査や固化剤の注入作業を不要にすることができ、改修時の施工コストを低減できる。
【0027】
第5の発明によれば、マンホールの壁に形成された管部材の挿入孔と、管部材の外周面との間の防護コンクリート部分に環状凹部を形成するようにしたので、環状凹部の形成を容易に行うことができ、施工コストをより一層低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】マンホール構造の断面図である。
【図2】マンホールとヒューム管との接続部近傍の拡大縦断面図である。
【図3】環状凹部を形成した状態の図2相当図である。
【図4】環状凹部にモルタルを充填した状態の図2相当図である。
【図5】改修用止水部材を環状凹部に挿入した状態の図2相当図である。
【図6】改修用止水部材を環状凹部に挿入した状態の横断面図である。
【図7】改修用止水部材の断面図である。
【図8】改修用止水部材を環状凹部に挿入した状態の拡大断面図である。
【図9】地震によりひび割れが発生した状態の拡大断面図である。
【図10】地震によりヒューム管がマンホールから抜ける方向に変位した状態の図8相当図である。
【図11】実施形態の変形例1に係る図5相当図である。
【図12】実施形態の変形例1に係る図8相当図である。
【図13】実施形態の変形例2に係る図5相当図である。
【図14】実施形態の変形例2に係る図8相当図である。
【図15】実施形態の変形例3に係る図6相当図である。
【図16】実施形態の変形例4に係る図6相当図である。
【図17】実施形態の変形例5に係る図6相当図である。
【図18】実施形態の変形例6に係る図6相当図である。
【図19】実施形態の変形例7に係る図6相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1は、本発明の実施形態にかかるマンホール改修工法による改修が行われる前の既設のマンホール構造1を示すものである。マンホール構造1は、上下方向に延びるマンホール2と、マンホール2に接続される断面円形のヒューム管(管部材)3とを備えている。マンホール2及びヒューム管3は、一般に、その周壁内の厚み方向中央部に補強用鉄筋を有している。
【0031】
マンホール2は、複数の筒状壁材10,10,…を施工現場で接続することによって構成された、いわゆる組立マンホールである。筒状壁材10の内面には、複数のステップ10aが上下方向に間隔をあけて設けられている。筒状壁材10の周壁内には補強用鉄筋が設けられている。
【0032】
マンホール2の上部の筒状壁材10の上端部には、調整リング11が設けられている。調整リング11の上部には、蓋12と、蓋12を受ける受枠13とが設けられている。一方、マンホール2の下部には、底板15が設けられている。さらに、マンホール2の底部には、インバート16が設けられている。
【0033】
図2にも示すように、マンホール2の下部の筒状壁材10には、ヒューム管3の端部が挿入される略円形の貫通孔10bが形成されている。
【0034】
貫通孔10bの大きさは、ヒューム管3の外周面との間に所定の隙間ができる程度の大きさに設定されており、貫通孔10bとヒューム管3の外周面との間には、ヒューム管3を防護するための防護コンクリート18が全周に亘って充填され、この防護コンクリート18の一部によって止水されている。
【0035】
防護コンクリート18は、貫通孔10bとヒューム管3の外周面との間からマンホール2の外側に亘って設けられており、ヒューム管3のマンホール接続部に土圧等による集中荷重がかかりヒューム管3が破損するのを防止するためのものである。
【0036】
本発明に係るマンホール改修工法は、上記のように構成された既設のマンホール構造1に対して用いられるものであり、地震発生時に、マンホール2とヒューム管3とが互いに異なった動きをした場合に止水性を確保する目的で行われる。
【0037】
マンホール改修工法は、大まかには、次の3つの工程を備えている。1つめの工程は、図3に示す環状凹部30を形成する環状凹部形成工程であり、2つの工程は、図4に示す環状凹部30にモルタル31を充填するモルタル充填工程であり、3つめの工程は、図5に示すモルタル31が充填された環状凹部30に改修用止水部材40を挿入する止水部材挿入工程である。
【0038】
図3に示すように、環状凹部30は、マンホール2の内側に開口するように、かつ、筒状壁材10における貫通孔10bの周りに形成する。環状凹部30は、ヒューム管3の端部開口と略同心状の円を描くように延びており、ヒューム管3の端部開口の周方向に連続している。環状凹部30の外周側の側面(外周面30a)は、ヒューム管3の中心線方向に延びている。環状凹部30の内周側の側面(内周面30b)もヒューム管3の中心線方向に延びており、外周面30aと内周面30bとは略平行である。環状凹部30の幅、即ち、外周面30aと内周面30bとの間隔は、後述する改修用止水部材40の厚み寸法よりも広く設定されている。
【0039】
また、環状凹部30の底面30cは、ヒューム管3の中心線に直交する方向に延びている。図6にも示すように、環状凹部30の深さは、改修用止水部材40の全体を完全に挿入できる深さに設定されている。尚、環状凹部30の深さは、筒状壁材10の厚み方向中央よりも該壁材10の外面側に達する程度に深くするのが好ましい。
【0040】
また、図4に示すモルタル充填工程で環状凹部30に充填するモルタルは、従来からマンホール等の施工現場で用いられている一般的なモルタルであり、水密性を有する急結モルタル、無収縮モルタル等である。
【0041】
次に、改修用止水部材40の構造について説明する。改修用止水部材40は、全体として、環状凹部30に対応した円環状に形成されており、図7に示すように、環状凹部30の外周面30aに接着される外周側接着部41と、環状凹部30の内周面30bに接着される内周側接着部42と、これらを連結する連結部43と、フィルム44と、外周側及び内周側接着部41,42をそれぞれ接着するための外周側及び内周側接着材45,46とを備えている。
【0042】
外周側接着部41、内周側接着部42及び連結部43は、水を通さないゴム材を用いて一体成形されている。このゴム材としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM、ANM)、ウレタンゴム(U)等が挙げられる。また、これら以外にも、例えば、熱可塑性ポリマーであってもよい。
【0043】
外周側接着部41は、環状凹部30の外周面30aに沿って延びる板状に形成されている。外周側接着部41の幅(図7の左右方向)は、環状凹部30の深さ寸法よりも短く設定されている。
【0044】
外周側接着部41の外面には、上記外周側接着材45が貼り付けられている。この外周側接着材45は、例えば、上記した原料ゴムに対し、特開2007−291802号公報に開示された処方でモルタルとの接着性を向上させたものである。原料ゴムは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。原料ゴムとしては、上記したもののうちブチルゴム(IIR)が好ましく、特に、タイヤチューブ等から得られた再生ブチルゴムが好ましい。原料ゴムとしてのブチルゴムは非加硫であることが好ましい。外周側接着材45も水を通さない性質を有している。
【0045】
また、外周側接着材45としては、上記以外にも、ブチルゴム系等のモルタルとの接着性を有するテープ状のものが使用可能であるが、接着強度が低いので、後述するヒューム管3の変位時にかかる負荷を考慮する必要がある。
【0046】
外周側接着材45は、外周側接着部41の外面に沿って延びる板状に成形されている。これにより、接着面積が広く確保されるようになっている。
【0047】
また、内周側接着部42は、外周側接着部41と同様に構成されており、この内周側接着部42には、外周側接着材45と同じ内周側接着材46が貼り付けられている。内周側接着部42と外周側接着材45とは厚み方向に重なるように配置されている。
【0048】
連結部43は、外周側接着部41の幅方向一端部から内周側接着部42の幅方向一端部まで湾曲して延びる板状に形成されている。連結部43の厚みは、外周側接着部41の厚みよりも薄く設定されており、改修用止水部材40の内部には、連結部43で囲まれた空間部Rが形成されている。尚、ヒューム管3の変位が小さいときのように連結部43が伸ばされない場合(伸ばされてもわずかな場合)には、連結部43の厚みを外周側接着部41や内周側接着部42と同等にして空間部Rを形成しなくてもよい。
【0049】
フィルム44は、外周側接着部41と内周側接着部42との間に配置されており、外周側接着部41及び内周側接着部42が重なった状態で、一方が他方に対して摺動できるように外周側接着部41及び内周側接着部42を構成するゴム材よりも低摩擦な部材、例えばポリエチレンフィルム等で構成されている。
【0050】
次に、マンホール改修工法の施工要領について説明する。まず、図3に示すようにマンホール2の筒状壁材10に環状凹部30を形成する。この環状凹部30は、マンホール2の内側に開口してヒューム管3の開口端を囲むように延びるものであるので、従来のように、マンホール2の壁に貫通部分を形成せずに済む。これにより、地下水位が高くても土砂がマンホール2内に流入する恐れはなく、事前の水位調査や固化剤の注入作業が不要になる。
【0051】
その後、図4に示すように環状凹部30にモルタル31を充填する。モルタル31の充填前に、環状凹部30の外周面30a、内周面30bにプライマーを塗布してもよい。
【0052】
しかる後、図5に示すように環状凹部30に改修用止水部材40を挿入する。このときの改修用止水部材40の挿入方向は、図8に示すように、連結部43が環状凹部30の底面30c側となる方向である。このように改修用止水部材40を連結部43側からモルタル31の中へ挿入することで、モルタル31が改修用止水部材40の内部へ入るのを防止できるので望ましい。
【0053】
また、改修用止水部材40の挿入深さは、改修用止水部材40の全体が環状凹部30内に完全に挿入されてモルタル31で覆うことのできる深さとされている。
【0054】
モルタル31が乾燥すると、モルタル31は環状凹部30の外周面30a、内周面30b及び底面30cに固着する。さらに、改修用止水部材40の外周側接着材45及び内周側接着材46がモルタル31に接着する。これにより、改修用止水部材40の外周側接着部41が環状凹部30の外周面30aに接着され、内周側接着部42が環状凹部30の内周面30bに接着される。
【0055】
次に、地震が発生した場合について説明する。地震が発生してマンホール2とヒューム管3とが異なる動きをすると、筒状壁材10における環状凹部30の形成部位は、該環状凹部30の形成によって他の部位に比べて弱くなっているので、図9に示すように、環状凹部30の形成部位に対応するようにひび割れAが発生する。ひび割れAは、環状凹部30の底面30cにまで達するが、改修用止水部材40の外周側接着部41及び内周側接着部42が環状凹部30の外周面30a側及び内周面30b側に接着されていて、これら両接着部41,42が連結部43で連結されているので、止水性は保たれ、漏水が防止される。
【0056】
また、図10に示すように、ヒューム管3の動きが大きく、ヒューム管3がマンホール2から抜ける方向に変位することがある。この場合、改修用止水部材40の内周側接着部42は、ヒューム管3側に接着されているので、ヒューム管3と一緒に変位する。つまり、内周側接着部42が外周側接着部41に対してヒューム管3の抜け方向に相対変位しようとする。このとき、外周側接着部41と内周側接着部42との間には、フィルム44が配置されていて内周側接着部42が外周側接着部41に対して摺動可能となっているので、内周側接着部42が摺動していき、その結果、外周側接着部41と内周側接着部42との相対変位が許容される。内周側接着部42が摺動する際には、連結部43が伸びる。
【0057】
内周側接着部42が摺動しても、外周側接着部41及び内周側接着部42が環状凹部30の外周面30a及び内周面30bに接着したままであり、また、連結部43は伸びるだけなので、止水性は保たれ、漏水が防止される。
【0058】
以上説明したように、この実施形態によれば、改修用止水部材40が、マンホール2の内側に開口する環状凹部30の外周面30aに接着される外周側接着部41と、内周面30bに接着される内周側接着部42と、これらの間に配置されるフィルム44とを備えているので、マンホール2の壁に貫通部分を形成することなく、改修用止水部材40を設けることができる。これにより、地下水位が高くても事前の水位調査や固化剤の注入作業を不要にすることができ、改修時の施工コストを低減できる。
【0059】
そして、地震発生時には、フィルム44により外周側接着部41と内周側接着部42との相対変位を許容できるので、止水性を保つことができる。
【0060】
また、改修用止水部材40の外周側接着部41と内周側接着部42とをヒューム管3の中心線方向に延びる板状に形成したので、接着面積を十分に確保して止水性能を高めることができる。そして、外周側接着部41と内周側接着部42とを互いに厚み方向に重なるように配置したので、改修用止水部材40をコンパクトにすることができる。
【0061】
また、改修用止水部材40の外周側接着部41と内周側接着部42とをモルタル31によって環状凹部30の外周側及び内周側に接着するようにしたので、簡単な施工で確実な止水性を得ることができる。
【0062】
尚、改修用止水部材40は、例えば、図11に示す変形例1のように、筒状壁材10と防護コンクリート18との境界部分に設けてもよい。この場合、環状凹部30は、筒状壁材10と防護コンクリート18との境界部分に形成することになるので、環状凹部30の外周面30aは筒状壁材10に形成され、内周面30bは防護コンクリート18に形成されることになる。また、環状凹部30の底面30cは、筒状壁材10から防護コンクリート18に亘って形成されることになる。
【0063】
変形例1では、地震発生時にマンホール2とヒューム管3とが異なる動きをすると、図12に示すように、環状凹部30の形成部位に対応するようにひび割れAが発生する。ひび割れAが発生しても、上述のように、改修用止水部材40の外周側接着部41及び内周側接着部42が環状凹部30の外周面30a側及び内周面30b側に接着されていて、これら両接着部41,42が連結部43で連結されているので、止水性は保たれ、漏水が防止される。
【0064】
また、改修用止水部材40は、例えば、図13に示す変形例2のように、マンホール2の一部を構成している防護コンクリート18に設けてもよい。この場合、環状凹部30は防護コンクリート18に形成することになる。この防護コンクリート18には、筒状壁材10やヒューム管3にあるような補強用鉄筋が設けられていないので、環状凹部30を形成する際に、筒状壁材10やヒューム管3に形成する場合に比べて容易に形成することが可能になる。
【0065】
変形例2では、地震発生時にマンホール2とヒューム管3とが異なる動きをすると、図14に示すように、環状凹部30の形成部位に対応するようにひび割れAが発生する。ひび割れAが発生しても、上述のように、改修用止水部材40の外周側接着部41及び内周側接着部42が環状凹部30の外周面30a側及び内周面30b側に接着されていて、これら両接着部41,42が連結部43で連結されているので、止水性は保たれ、漏水が防止される。
【0066】
また、改修用止水部材40の構造は上記したものに限られるものではなく、例えば、図15に示す変形例3のように、連結部43に複数の屈曲部43a,43a,43aを設けることによって連結部43を折り畳むような形状にしてもよい。これにより、連結部43を展開したときの長さが長くなるので、ヒューム管3がマンホール2から抜ける方向に大きく変位しても、その変位に追従するように連結部43が展開しながら伸びていくので、連結部43が破断してしまうのを防止できる。
【0067】
また、改修用止水部材40の構造としては、例えば、図16に示す変形例4のように、外周側接着部41及び内周側接着部42を幅方向両側で連結するようにしてもよい。この変形例4では、外周側接着部41の幅方向両側に、第1及び第2折り返し部41a,41bを設け、また、内周側接着部42の幅方向両側に、第1及び第2折り返し部42a,42bを設けている。そして、外周側接着部41の第1折り返し部41aと、内周側接着部42の第1折り返し部42aとを連結し、外周側接着部41の第2折り返し部41bと内周側接着部42の第2折り返し部42bとを連結している。外周側接着部41の第1折り返し部41aと内周側接着部42の第1折り返し部42aとの間にフィルム44を配置し、同様に第2折り返し部41bと第2折り返し部42bとの間にもフィルム44を配置している。フィルム44,44が配置されていることで、第1折り返し部41aと第1折り返し部42aとの摺動が許容されるとともに、第2折り返し部41bと第2折り返し部42bとの摺動が許容されることになる。
【0068】
また、改修用止水部材40の構造としては、例えば、図17に示す変形例5のように、外周側接着部41と内周側接着部42との間に2枚のフィルム44,44を重なるように配置してもよい。これにより、外周側接着部41と内周側接着部42とがより一層摺動し易くなる。この場合、外周側接着部41に一方のフィルム44を貼り付け、内周側接着部42に他方のフィルム44を貼り付けることも可能である。
【0069】
また、改修用止水部材40の構造としては、例えば、図18に示す変形例6のように、外周側接着部41と内周側接着部42との間に厚み方向に屈曲する複数の屈曲部48,48,…を設けてもよい。この変形例6では、ヒューム管3がマンホール2から抜ける方向に変位すると、屈曲部48,48,…が伸びるように変形し、これにより、外周側接着部41と内周側接着部42との相対変位が許容される。つまり、屈曲部48は、本発明の変位許容部を構成している。
【0070】
上記実施形態では、フィルム44を変位許容部としているが、これに限らず、例えば、フィルム44の代わりに外周側接着部41と内周側接着部42との間にシリコーンオイルを注入し、このシリコーンオイルで変位許容部を構成してもよい。
【0071】
また、外周側接着部41と内周側接着部42との間にタルク等の粉体を塗布しておき、この粉体で本発明の変位許容部を構成してもよい。
【0072】
また、改修用止水部材40の構造としては、例えば、図19に示す変形例7のように、フィルム44の代わりに外周側接着部41と内周側接着部42との間にスポンジ49を配置してもよい。ヒューム管3がマンホール2の貫通孔10bから抜ける方向に変位すると、スポンジ49が変形するとともに破れていき、これにより、外周側接着部41と内周側接着部42との相対変位が許容される。つまり、スポンジ49は、本発明の変位許容部を構成している。
【0073】
また、環状凹部30には、モルタル31の代わりにエポキシ樹脂を充填し、このエポキシ樹脂を用いて改修用止水部材40を接着するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明は、例えば組立マンホールを改修する場合に適用できる。
【符号の説明】
【0075】
1 マンホール構造
2 マンホール
3 ヒューム管(管部材)
10 筒状壁材
18 防護コンクリート
30 管状凹部
31 モルタル
40 改修用止水部材
41 外周側接着部
42 内周側接着部
43 連結部
44 フィルム(変位許容部)
45 外周側接着材
46 内周側接着材
48 屈曲部(変位許容部)
49 スポンジ(変位許容部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホールと、該マンホールに接続された管部材とを備えた既設のマンホール構造を改修する際に用いられるマンホール改修用止水部材において、
水を通さない材料からなり、
上記マンホールの内側に開口して上記管部材の開口端を囲むように延びる環状凹部に挿入可能に形成されており、
上記環状凹部の外周側に接着される外周側接着部と、
上記環状凹部の内周側に接着される内周側接着部と、
上記外周側接着部及び上記内周側接着部の相対変位を許容する変位許容部とを備えていることを特徴とするマンホール改修用止水部材。
【請求項2】
請求項1に記載のマンホール改修用止水部材において、
外周側接着部と内周側接着部とは、管部材の中心線方向に延びる板状に形成されるとともに、互いに厚み方向に重なるように配置され、
変位許容部は、上記外周側接着部と上記内周側接着部との摺動を許容するように構成されていることを特徴とするマンホール改修用止水部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマンホール改修用止水部材において、
外周側接着部と内周側接着部とは、モルタルとの接着性を有しており、該モルタルによって環状凹部の外周側及び内周側に接着されることを特徴とするマンホール改修用止水部材。
【請求項4】
マンホールと、マンホールに接続された管部材とを備えた既設のマンホール構造に用いられるマンホール改修工法において、
上記マンホールの壁に、該マンホールの内側に開口して上記管部材の開口端を囲むように延びる環状凹部を形成し、
水を通さない材料からなるとともに、上記環状凹部の外周側に接着される外周側接着部と、上記環状凹部の内周側に接着される内周側接着部と、該両接着部の相対変位を許容する変位許容部とを備えた改修用止水部材を上記環状凹部に挿入し、
上記外周側接着部を上記環状凹部の外周側に接着するとともに、上記内周側接着部を上記環状凹部の内周側に接着することを特徴とするマンホール改修工法。
【請求項5】
請求項4に記載のマンホール改修工法において、
マンホールの壁に形成された管部材の挿入孔と、該挿入孔に挿入された管部材の外周面との間に打設された管部材防護用の防護コンクリート部分に環状凹部を形成することを特徴とするマンホール改修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−241447(P2012−241447A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113634(P2011−113634)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】