説明

マンホール浮上防止用地盤注入材

【課題】マンホール浮上防止用として適切なゲルタイム(30〜60分)を有し、かつ固化した際にマンホールの浮上を防止できる程度の強度を付与することが可能なマンホール浮上防止用地盤注入材を提供する。
【解決手段】セメント、珪酸ソーダ、リン酸2水素1ナトリウム及び水を含有するマンホール浮上防止用地盤注入材であって、
(1) 前記セメントのブレーン値が7000cm/g以上であり、
(2) 前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が2.2〜2.7であり、
(3) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記珪酸ソーダ中のSiOの含有量が64〜110kgであり、
(4) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記リン酸2水素1ナトリウムの含有量が、無水物換算で2.6〜3.2kgである、
マンホール浮上防止用地盤注入材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホール浮上防止用地盤注入材として、適切なゲルタイムを有し、かつ固化した際にマンホールの浮上を防止できる程度の強度を付与することが可能なマンホール浮上防止用地盤注入材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震の揺れにより砂地盤が液体状になる現象(いわゆる液状化現象)が問題となっている。この現象は、間隙水圧の増加に伴い、地盤の安定を保っている砂地盤の砂の粒子同士の剪断応力による摩擦が地震の揺れによって減少することに起因する。特に、この液状化現象によって、地中にあるマンホールが浮き上がることが問題となっている。
【0003】
地盤を強化するための注入材としては、例えば、特許文献1に、セメント、水ガラス及びリン酸2水素1ナトリウムを含有する注入材が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の注入材は、掘削工事における地山改良(具体的には、自立性の低い砂質土や断層部や破砕帯などの不均質地山、土被りの浅い地盤等に対して、掘削時の振動による肌落ちを起こすことなく、ゲル化後に早期に掘削が開始可能な強度を与えること)を目的としており、ゲルタイムが非常に短い。したがって、上記注入材をマンホール浮上防止用地盤注入材として適用する場合、ゲルタイムが短いため、マンホール周辺に強固で均一な改良体を得ることができない問題がある。そこで、注入にあたり適切なゲルタイムおよび強度を有するマンホール浮上防止用地盤注入材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4346331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マンホール浮上防止用として適切なゲルタイム(30〜60分)を有し、かつ固化した際にマンホールの浮上を防止できる程度の強度を付与することが可能なマンホール浮上防止用地盤注入材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、地盤注入材として特定のセメント及び珪酸ソーダを使用し、かつ珪酸ソーダ中のSiO及びリン酸2水素ナトリウムの含有量を特定の範囲とする場合には、上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のマンホール浮上防止用地盤注入材に関する。
1. セメント、珪酸ソーダ、リン酸2水素1ナトリウム及び水を含有するマンホール浮上防止用地盤注入材であって、
(1) 前記セメントのブレーン値が7000cm/g以上であり、
(2) 前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が2.2〜2.7であり、
(3) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記珪酸ソーダ中のSiOの含有量が64〜110kgであり、
(4) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記リン酸2水素1ナトリウムの含有量が、無水物換算で2.6〜3.2kgである、
マンホール浮上防止用地盤注入材。
2. 前記珪酸ソーダのモル比が2.4〜2.7である、上記項1に記載のマンホール浮上防止用地盤注入材。
3. 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記珪酸ソーダ中のSiOの含有量が65〜105kgである、上記項1又は2に記載のマンホール浮上防止用地盤注入材。
4. 前記セメントのブレーン値が7000〜16000cm/gである、上記項1〜3のいずれかに記載のマンホール浮上防止用地盤注入材。
【0009】
以下、本発明のマンホール浮上防止用地盤注入材について詳細に説明する。
(I) 本発明のマンホール浮上防止用地盤注入材
本発明のマンホール浮上防止用地盤注入材は(以下、単に地盤注入材ともいう)は、セメント、珪酸ソーダ(水ガラス)、リン酸2水素1ナトリウム及び水を含有するマンホール浮上防止用地盤注入材であって、
(1) 前記セメントのブレーン値が7000cm/g以上であり、
(2) 前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が2.2〜2.7であり、
(3) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L(リットル)当たり前記珪酸ソーダ中のSiOの含有量が64〜110kgであり、
(4) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記リン酸2水素1ナトリウムの含有量が、無水物換算で2.6〜3.2kgである
ことを特徴とする。
【0010】
上記特徴を有する本発明の地盤注入材は、マンホール浮上防止用として適切なゲルタイム(30〜60分)を有し、かつ固化した際にマンホールの浮上を防止できる程度の強度を付与することが可能である。
【0011】
本発明において、マンホール浮上防止用地盤注入材の適切なゲルタイムを30〜60分としているのは、ゲルタイムが30分未満の場合、ゲルタイムが短いため、マンホール周辺への浸透が不十分となり、強固で均一な改良体(地盤)を得ることができない。また、ゲルタイムが60分を超えると、注入範囲以外にも材料が逸流する可能性があり、この場合にも強固で均一な改良体を得ることができない。
【0012】
セメント
本発明の地盤注入材では、ブレーン値7000cm/g以上のセメントを使用する。ブレーン値が7000cm/g未満であると、ブリーディング率が大きくなり、十分な浸透性を得ることができないため、均一かつ十分な強度を有する改良体を得ることができない場合がある。さらにブレーン値が7000cm/g未満であると、強度発現が遅い問題もある。
【0013】
ブレーン値の上限値は、限定的ではないが、製造コスト等の実用性の点から16000cm/g程度とすればよい。
【0014】
ブレーン値7000cm/g以上のセメントは、市販品をそのまま使用することができる。また、ブレーン値7000cm/g未満のセメントをボールミルに粉砕した後、分級したセメントを使用することもできる。
【0015】
珪酸ソーダ
本発明の地盤注入材では、モル比(SiO/NaO)が2.2〜2.7である珪酸ソーダ(水ガラス)を使用する。珪酸ソーダの好ましいモル比は、2.4〜2.7である。上記モル比が2.2未満、又は2.7を超える珪酸ソーダを使用する場合、いずれも30分〜60分というゲルタイムを確保することができない。
【0016】
上記珪酸ソーダは、モル比が2.0〜2.7程度のものが市販されており、当該市販品をそのまま使用することができる。また、当該市販品にシリカ源を溶解するか、又は所定のモル比となるように苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)とシリカ源を反応させたものを使用することもできる。
【0017】
シリカ源としては、微粉末のシリカゲル、沈降性シリカ、ヒュームドシリカ、シリカコロイド溶液等が挙げられる。
【0018】
珪酸ソーダは、本発明の地盤注入材1000L当たり珪酸ソーダ中のSiOの含有量が64〜110kgとなるように、本発明の地盤注入材に含有する。珪酸ソーダ中のSiOの好ましい含有量は、本発明の地盤注入材1000L当たり65〜105kgである。地盤注入材1000L当たり珪酸ソーダ中のSiOの含有量が64kg未満であるか、又は110kgを超える場合、いずれも30分〜60分というゲルタイムを確保することができない。
【0019】
リン酸2水素1ナトリウム
リン酸2水素1ナトリウムは、本発明の地盤注入材1000L当たりリン酸2水素1ナトリウムの含有量が、無水物換算で2.6〜3.2kgとなるように、本発明の地盤注入材に含有する。地盤注入材1000L当たりリン酸2水素1ナトリウムの含有量が、無水物換算で2.6kg未満であるか、又は3.2kgを超える場合、いずれも30分〜60分というゲルタイムを確保することができない。なお、リン酸2水素1ナトリウムの2水和物3.4〜4.2kgを無水物換算すると、2.6〜3.2kgとなる。
【0020】
リン酸2水素1ナトリウムは、水和物(1若しくは2以上の水和物)、又は無水物に限定されず、いずれを使用してもよい。また、リン酸2水素1ナトリウムは、市販品をそのまま使用することができる。
【0021】

本発明の地盤注入材は、水を使用する。
【0022】
本発明の地盤注入材で使用する水としては特に限定されない。例えば、上水道水、地下水、工業用水道水等が挙げられる。前記水は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
その他
本発明の地盤注入材には、本発明の効果が奏される範囲内で、一般的に地盤注入材に使用される公知の添加剤を適宜含有してもよい。
【0024】
本発明では、本発明の地盤注入材にリン酸2水素1ナトリウムを含まない注入材を、中結性マンホール浮上防止用地盤注入材(ゲルタイム:1分〜2分)として併用することもできる。また、本発明の地盤注入材に含まれるリン酸2水素1ナトリウムに代えて消石灰を使用する注入材を、瞬結性マンホール浮上防止用地盤注入材(ゲルタイム:10秒以下)として併用することもできる。
【0025】
例えば、消石灰を使用する瞬結性マンホール浮上防止用地盤注入材と、リン酸2水素1ナトリウムを使用する本発明の(緩結性)マンホール浮上防止用地盤注入材を併用する場合、上記瞬結性マンホール浮上防止用地盤注入材については、パッカー材として地盤中にパッカーを形成することにより、注入範囲以外へのグラウトの逸脱を防ぐ(リークを防止する)ことができる。次いで、本発明の(緩結性)地盤注入材については、上記パッカーを超えた領域に充填されることなく、マンホール浮上を防止するために注入すべき領域に対して適切に注入することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のマンホール浮上防止用地盤注入材は、特定のセメント及び珪酸ソーダを使用し、かつ珪酸ソーダ中のSiO及びリン酸2水素1ナトリウムの含有量を特定の範囲とするため、マンホール浮上防止用として適切なゲルタイム(30〜60分)を有し、かつ固化した際にマンホールの浮上を防止できる程度の強度を付与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のマンホール浮上防止用地盤注入材を地盤に注入した場合と、注入しない場合における地震発生後の地盤を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0029】
実施例1〜5及び比較例1〜10
セメント及びリン酸2水素1ナトリウムの2水和物を水に懸濁させた液をA液とし、珪酸ソーダを含有する液をB液とした。上記A液に用いたセメントについて、実施例1〜5並びに比較例1〜8及び10では「コロイダルスーパー、電気化学工業株式会社製超微粒子セメント、密度2.9g/cm、ブレーン値9000cm/g」を使用し、比較例9では「高炉セメント(B種)、太平洋セメント株式会社製、密度3.0g/cm、ブレーン値4000cm/g」を使用した。また、上記B液に用いた珪酸ソーダにおけるモル比、SiO(質量%)、NaO(質量%)及び比重については、以下の表1に示す。また、A液及びB液の500L当たりの各成分の質量又は体積、使用した珪酸ソーダのモル比、並びにマンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たりの珪酸ソーダ中のSiO含有量を、以下の表2〜4に示す。なお、表中、リン酸2水素1ナトリウムについては、使用したリン酸2水素1ナトリウムの2水和物の質量を無水物換算し、当該換算値を記載している。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
評価試験(ゲルタイム測定)
液温を20℃に調整したA、B両液の混合物(本発明のマンホール浮上防止用地盤注入材)についてゲルタイムを測定した。
【0035】
ゲルタイムについては、以下のようにカップ倒立法を用いて測定した。
[1] まず、A液(セメント懸濁液)250ml、及びB液(珪酸ソーダ液)250mlをそれぞれ別のビーカーに秤取る。
[2] B液にA液を速やかに流し入れる。直ちに空いたA液のビーカーに全量を速やかに入れ、次に空いたB液のビーカーに全量を流し入れる。
[3] 上記[2]の操作を速やかに繰り返し、B液にA液を全量投入した時点から、液が流動しなくなった時点までをゲルタイムとする。
【0036】
なお各材料の温度は、恒温槽などで一定温度(今回試験は20℃)に調整し、取り出し後速やかに試験を行う。屋外等で温度調整ができない場合は、測定時の温度を記録する。
【0037】
実施例1〜5及び比較例1〜10のマンホール浮上防止用地盤注入材のゲルタイム測定試験結果について、表2〜4に示す。
【0038】
評価試験(圧縮強度測定)
実施例1、実施例2及び比較例9で得られたマンホール浮上防止用地盤注入材に対して以下の圧縮強度測定を行った。
【0039】
液温を20℃に調整したA、B両液の混合物をゲル化前に、直径50mm、高さ100mmの一端を密閉したアクリルパイプモールドの中に流し入れ、速やかにもう一端を密閉した。作製した供試体を20℃に保たれた恒温室に1日間又は7日間養生後、モールドから取り出し、一軸圧縮強度試験機を用いて圧縮強度を測定した。なお、1日間養生後における圧縮強度をσ1、7日間養生後における圧縮強度をσ7とする。マンホール浮上防止用地盤注入材として求められている強度は、σ7で1.0N/mm以上である。
【0040】
実施例1におけるσ1は0.08N/mmであり、σ7は3.34N/mmであった。実施例2におけるσ1は0.06N/mmであり、σ7は1.54N/mmであった。比較例9におけるσ1は0.04N/mmであり、σ7は0.05N/mmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、珪酸ソーダ、リン酸2水素1ナトリウム及び水を含有するマンホール浮上防止用地盤注入材であって、
(1) 前記セメントのブレーン値が7000cm/g以上であり、
(2) 前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が2.2〜2.7であり、
(3) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記珪酸ソーダ中のSiOの含有量が64〜110kgであり、
(4) 前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記リン酸2水素1ナトリウムの含有量が、無水物換算で2.6〜3.2kgである、
マンホール浮上防止用地盤注入材。
【請求項2】
前記珪酸ソーダのモル比が2.4〜2.7である、請求項1に記載のマンホール浮上防止用地盤注入材。
【請求項3】
前記マンホール浮上防止用地盤注入材1000L当たり前記珪酸ソーダ中のSiOの含有量が65〜105kgである、請求項1又は2に記載のマンホール浮上防止用地盤注入材。
【請求項4】
前記セメントのブレーン値が7000〜16000cm/gである、請求項1〜3のいずれかに記載のマンホール浮上防止用地盤注入材。

【図1】
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