説明

マーカ

【課題】拡張現実感システムで用いられるマーカにおいて、無電源で複数のパターンを表示可能とする。
【解決手段】現実環境を撮影した映像に電子情報を重畳する拡張現実感システムに用いられ、現実環境に置かれて、映像に電子情報を重畳するための指標とされるマーカであって、映像に重畳される電子情報に対応するパターンを提示するパターン提示部を備え、パターン提示部は、外的要因により変化する変化部を有し、変化部の変化によってパターンが変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡張現実感(AR:Augmented Reality)技術を用いた拡張現実感表示システムに用いられるマーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮影装置によって撮影された現実環境(現実空間)の映像に、コンピュータグラフィックス(CG)により作成された画像、文字情報等の電子情報を重畳することにより、現実環境の情報を拡張する拡張現実感技術が知られている。
【0003】
この拡張現実感技術において、撮影装置で撮影された映像に電子情報を重畳するための指標としてマーカを用いる方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この場合に用いられるマーカは、例えば、紙等のシートに、予め設定された大きさの黒い矩形の枠を印刷等により形成したものである。複数種類のマーカを使用する場合には、枠の内部にマーカの種類を特定するための文字、模様等からなるパターンが設けられる。
【0005】
このようなマーカを用いた拡張現実感表示システムでは、現実環境に置かれたマーカを含む領域を撮影装置で撮影し、映像中のマーカを検出し、そのマーカのパターンに応じた電子情報を映像に重畳する。また、拡張現実感表示システムは、映像中のマーカの位置、向き、サイズに応じて、映像に重畳する電子情報の位置、向き、サイズを決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−48484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようなマーカを用いた拡張現実感表示システムでは、1つのマーカに1つのパターンが固定されている。このため、複数のパターンが必要な場合、マーカが増え、管理等に不便であった。
【0008】
これに対し、液晶表示装置等の電子表示装置を用いて、複数のパターンのマーカを切り替え表示する方法があるが、電子機器を用いるため電源が必要であった。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、拡張現実感システムで用いられるマーカであって、無電源で複数のパターンを表示可能なマーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るマーカの第1の特徴は、現実環境を撮影した映像に電子情報を重畳する拡張現実感システムに用いられ、現実環境に置かれて、映像に電子情報を重畳するための指標とされるマーカであって、映像に重畳される電子情報に対応するパターンを提示するパターン提示部を備え、前記パターン提示部は、外的要因により変化する変化部を有し、前記変化部の変化によって前記パターンが変化することにある。
【0011】
本発明に係るマーカの第2の特徴は、前記外的要因は、湿度、紫外線、温度、および経時変化のうちの少なくともいずれか1つを含むことにある。
【0012】
本発明に係るマーカにおいて、前記外的要因による前記変化部の変化に応じた前記パターン提示部の2次元的または3次元的な物理的変化により、前記パターンが変化するようにすることができる。
【0013】
上記本発明に係るマーカを用いた拡張現実感システムは、撮影装置と、前記撮影装置で撮影された映像中の前記マーカを検出するマーカ検出部と、前記マーカ検出部で検出した前記マーカのパターンに対応した電子情報を、前記撮影装置で撮影された映像に重畳する重畳部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るマーカの第1の特徴によれば、外的要因によりパターンが変化するので、無電源で複数のパターンを表示可能である。
【0015】
本発明に係るマーカの第2の特徴によれば、湿度、紫外線、温度、および経時変化のうちの少なくともいずれか1つを含む外的要因でパターンが変化するので、所定の環境にマーカを置くだけで、無電源で複数のパターンを表示可能となる。
【0016】
また、本発明に係るマーカにおいて、外的要因に応じたパターン提示部の2次元的または3次元的な物理的変化によりパターンが変化するようにして、無電源でパターンを変更することができる。
【0017】
本発明に係るマーカを用いた拡張現実感システムによれば、外的要因によりパターンが変化するマーカを用いることで、マーカに電源を用いることなく、1つのマーカで複数のパターンに応じた電子情報を映像に重畳することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施の形態に係るマーカを用いる拡張現実感システムの機能構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態に係るマーカの平面図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】図2に示すマーカにおける紫外線の作用により変色するパネルの断面図である。
【図5】(a)は図2に示すマーカにおいてパネルが変色した状態を示す図、(b)はである。(a)からさらにパネルの変色が進行した状態を示す図である。
【図6】第2の実施の形態に係るマーカの平面図である。
【図7】図6に示すマーカの分解斜視図である。
【図8】図6におけるA−A断面図である。
【図9】(a)は図6に示すマーカにおいて変色層が変色した状態を示す図、(b)は図6に示すマーカにおいて可動層が移動した状態を示す図である。
【図10】第3の実施の形態に係るマーカの平面図である。
【図11】図10に示すマーカの分解斜視図である。
【図12】図10におけるA−A断面図である。
【図13】図10に示すマーカにおいて膨張部材が膨張したときのパターンを示す図である。
【図14】第4の実施の形態に係るマーカの平面図である。
【図15】図14に示すマーカの分解斜視図である。
【図16】図14におけるA−A断面図である。
【図17】図14に示すマーカにおいてオーガニック材が変色したときのパターンを示す図である。
【図18】第4の実施の形態の変形例に係るマーカの分解斜視図である。
【図19】第4の実施の形態における図16に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0020】
また、以下に示す各実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るマーカを用いる拡張現実感システムの機能構成を示すブロック図である。図1に示すように拡張現実感システム1は、撮影装置2と、映像処理装置3と、表示装置4とにより概略構成される。拡張現実感システム1は、撮影装置2で撮影した現実環境の映像中のマーカを検出し、そのパターンに応じた電子情報を映像に重畳することにより、現実環境の情報を拡張するものである。
【0022】
まず、第1の実施の形態において拡張現実感システム1で使用されるマーカについて説明する。
【0023】
図2は、第1の実施の形態に係るマーカの平面図、図3は、図2におけるA−A断面図である。図2、図3に示すように、第1の実施の形態に係るマーカ5は、パネル51A〜51Hと、パネル51A〜51Hを収納するケース52とを備える。
【0024】
パネル51A〜51Hは、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)等からなる略正方形の板状体からなり、塗装等により白色または黒色に形成されている。パネル51A〜51Hがケース52内に置かれることで、白黒のパターンが形成されるようになっており、パネル51A〜51Hが本発明のパターン提示部を構成する。
【0025】
パネル51A〜51Hのうちの一部のパネルは、紫外線の作用により変色するように構成されている。ここでは、パネル51Bが、紫外線の作用により変色するように構成されているものとする。この場合、パネル51Bが本発明の変化部に相当する。
【0026】
図4は、パネル51Bの断面図である。図4に示すように、パネル51Bは、PET等からなる基材層511と、基材層511上に形成された保護フィルム層512とを有する。
【0027】
基材層511は、塗装等により白色に形成され、その上にフォトクロミックが塗布されたものである。保護フィルム層512は、このフォトクロミックを保護するための層であり、無色透明な樹脂等からなる。
【0028】
フォトクロミックは、紫外線を受けると色変化を発現する。例えば、フォトクロミックとしてアゾベンゼンを用いて「無色→橙色」、ジアリールエテンを用いて「無色→赤色」、ビラジカルを用いて「無色→紫色」などの色変化を発現させることができる。フォトクロミックの色変化は可逆的である。
【0029】
ケース52は、底板53と、その周囲の外周壁をなす外枠54とからなる。外枠54の上面54aには、図2に示すように、黒い矩形のマーカ枠55が塗装等により形成されている。マーカ枠55の周囲は塗装等により白色になっている。マーカ枠55と、その内部のパネル51A〜51Hが形成するパターンにより、映像処理装置3において、撮影装置2で撮影された映像中のマーカ5が検出、識別される。
【0030】
外枠54の上面54aと、ケース52内に配置されたパネル51A〜51Hの上面とは、高さがそろっていることが好ましい。例えば外枠54の上面54aの方が高いと陰影ができ、これにより映像処理装置3におけるマーカ5の検出に不都合が生じるおそれがあるので、このような陰影の発生を予防するためである。
【0031】
上記のようなマーカ5において、パネル51A〜51Hの配置をユーザが変えることで、複数のパターンを形成することができる。また、このパネル51A〜51Hの配置変更以外に、映像処理装置3において、紫外線により変色するパネル(パネル51B)が変色することでもパターンが変わったと認識される。
【0032】
拡張現実感システム1の撮影装置2は、現実環境(現実空間)を撮影し、得られた映像を映像処理装置3に送出する。
【0033】
映像処理装置3は、マーカ検出部31と、重畳部32と、記憶部33と、インタフェース部34とを備える。
【0034】
マーカ検出部31は、撮影装置2で撮影された映像中のマーカ5の位置、向き、サイズを検出し、また、周知のテンプレートマッチングの手法等を用いてマーカ5のパターンを検出する。
【0035】
マーカ検出部31は、パターン検出において、映像中のマーカ5における濃度を検出し、パターン中の白色または黒色以外の濃度を示す部分も参照してパターンの判断を行う。例えば、マーカ検出部31は、図2のようなパターンに対して、図5(a)のようにパネル51Bが変色したパターンを、異なるパターンとして検出する。
【0036】
マーカ検出部31において、白色または黒色以外の部分を検出するための濃度の閾値を複数段階で設定してもよい。これにより、マーカ検出部31は、例えば、上記のように図2のパターンと図5(a)のパターンとを異なるパターンとして認識するとともに、さらに、図5(a)のパターンに対して、図5(b)のようにパネル51Bの濃度が異なるパターンを、異なるパターンとして検出する。
【0037】
重畳部32は、マーカ検出部31で検出したマーカ5のパターンに対応する電子情報を記憶部33から取得し、この電子情報を撮影装置2で撮影された映像に重畳する。重畳部32は、マーカ検出部31で検出したマーカ5の位置、向き、サイズに基づいて、拡張現実感技術により、映像に重畳する電子情報の位置、向き、サイズを決定する。
【0038】
記憶部33は、マーカ検出部31で検出されるマーカ5の各パターンに対応して予め生成された電子情報を記憶している。電子情報としては、コンピュータグラフィックスにより作成された3次元(3D)モデル、実画像、アニメーション、文字情報等を用いることができる。
【0039】
インタフェース部34は、撮影装置2および表示装置4との間でデータの送受信を行うためのものである。
【0040】
映像処理装置3は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等の記憶装置、入出力インタフェース等を備えたコンピュータにより構成される。マーカ検出部31および重畳部32の機能は、ハードディスク等の記憶装置に格納された拡張現実感技術に関するアプリケーションプログラムをCPUがRAMへ読み込んで実行することにより実現される。記憶部33は、ハードディスク等の記憶装置の機能として構成され、インタフェース部34は、撮影装置2および表示装置4に物理的に接続された入出力インタフェースの機能として構成される。
【0041】
表示装置4は、撮影装置2で撮影された映像、およびその映像に重畳された電子情報を表示する。
【0042】
次に、拡張現実感システム1の動作について説明する。
【0043】
撮影装置2は、マーカ5が配置された領域を撮影し、得られた映像を映像処理装置3に送出する。
【0044】
マーカ検出部31は、撮影装置2で撮影された映像をインタフェース部34を介して受け取ると、映像上のマーカ5の位置、向き、サイズを検出するとともに、マーカ5のパターンを検出する。
【0045】
次いで、重畳部32は、マーカ検出部31で検出したマーカ5のパターンに対応する電子情報を記憶部33から取得し、この電子情報を映像に重畳する。この際、重畳部32は、マーカ検出部31で検出したマーカ5の位置、向き、サイズに基づいて、映像に重畳する電子情報の位置、向き、サイズを決定する。
【0046】
そして、重畳部32は、電子情報を重畳した映像を、インタフェース部34を介して表示装置4に送出する。表示装置4は、電子情報が重畳された映像を表示する。
【0047】
マーカ5のパネル51Bが紫外線を受けて変色し、マーカ検出部31が、変色前とは異なるパターンになったと検出すると、重畳部32は、マーカ検出部31で検出した変色後のマーカ5のパターンに対応する電子情報を記憶部33から取得し、この電子情報を映像に重畳する。
【0048】
電子情報としては、例えば、パネル51Bの変色前のパターンに対応する電子情報をある3Dモデルとし、パネル51Bの変色後のパターンに対応する電子情報を、変色前のパターンに対応する3Dモデルが高さ方向に伸びたような3Dモデルとする。これにより、マーカ5に対する紫外線の照射量に応じて、映像に重畳される3Dモデルの高さが変化する。
【0049】
このようにすれば、例えば、監視カメラのように固定して設置される撮影装置2の撮影領域内にマーカ5を配置すると、マーカ5に日光(紫外線)が当たる時間帯おいては3Dモデルが重畳された映像が表示装置4に表示され、さらに、日光の照射量が多い時間帯では、高さ方向に大きくなった3Dモデルが重畳される。これにより、日光の照射量の変化をユーザがリアルタイムで視覚的に認識しやすい重畳映像が表示装置4に表示される。
【0050】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、マーカ5は、配置変更可能なパネル51A〜51Hでパターンを形成するので、ユーザがパネル51A〜51Hの配置をかえることで、無電源でパターンを変更でき、1つのマーカ5で複数のパターンを表示可能である。また、外的要因である紫外線の作用により変色するパネル(パネル51B)を備えるので、マーカ5を紫外線の当たる環境に置くだけで、無電源でパターンを変更できる。このようなマーカ5を用いることで、拡張現実感システム1は、1つのマーカ5で複数のパターンに応じた電子情報を映像に重畳することができる。
【0051】
なお、パネル51A〜51Hのうちの1つを予め省略しておき、ユーザがパネルをスライドさせて移動させることで、パターンの変更を容易にできるようにしてもよい。この場合、底板53の上面がパターンの一部を構成することになるので、底板53の上面は白または黒に塗装しておく。外枠54やパネルに、溝や突起部分を設けて、パネルの移動を容易にできるような構造にしてもよい。
【0052】
また、マーカ5からパネル51A〜51Hが脱落することを防止できるような構造にしてもよい。例えば、パネル51A〜51Hの下面側に強磁性体からなるシート等を取り付け、底板53を磁性体で構成することで、パネル51A〜51Hを磁力で保持できるようにしてもよい。
【0053】
このようにすれば、例えば、マーカ5を風鈴等に吊り下げることができる。このように吊り下げられたマーカ5を、監視カメラのように固定して設置される撮影装置2の撮影領域に配置すると、マーカ5が風等の影響で揺れることにより、撮影映像中のマーカ5の向き等が変化する。拡張現実感技術によれば、映像中のマーカ5の向き等が変動した場合、それに連動して、映像に重畳する電子情報の表示も変動する。このため、マーカ5の動きに応じて、風の強さや風向等を表現する3Dモデル等を映像に重畳表示することが可能となる。加えて、上記と同様に、パネル51Bの変色に応じて、日光(紫外線)の照射量の変化を示す電子情報も映像に重畳表示することができる。
【0054】
また、紫外線により変色するパネル(パネル51B)において、保護フィルム層512として、特定の紫外線領域の光をカットするフィルタフィルムを用いてもよい。このようにすれば、マーカ5の設置環境によってパネルが意図しない変色を生じることを防止できる。
【0055】
また、図2等に示したような2×4にパネルを配置する構成に限らず、2×2、3×3のような他の配置でもよい。
【0056】
また、パネル51A〜51Hのうちの一部のパネルに、外的要因としての温度や圧力により変色するパネルを用いてもよい。
【0057】
(第2の実施の形態)
図6は、第2の実施の形態に係るマーカの平面図、図7は、図6に示すマーカの分解斜視図、図8は、図6におけるA−A断面図である。なお、第2の実施の形態に係るマーカを用いる拡張現実感システムの構成は、第1の実施の形態で説明した図1の拡張現実感システム1と同様であるため説明を省略する。他の実施の形態についても同様である。
【0058】
図6〜図8に示すように、第2の実施の形態に係るマーカ6は、基台層61と、可動層62と、表面層63とを備える。
【0059】
基台層61は、マーカ6の底板をなすものであり、樹脂、木材等の矩形の板状体からなる。基台層61の周囲は、基台層61と同様の材料からなる外枠64で囲まれている。
【0060】
可動層62は、樹脂、木材等の矩形の板状体からなり、基台層61の上方に配置される。可動層62には、図示前後方向に細長い複数の黒色領域62aが印刷等により形成されている。可動層62の黒色領域62a以外の領域は白色になっている。可動層62には、図示左側の一辺に沿って膨張部材65が取り付けられ、膨張部材65は、複数の支持部材66を介して外枠64に固定されている。
【0061】
膨張部材65は、吸湿すると体積が膨張する性質を有する材料からなり、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等の高分子ポリマーや、圧縮タオル繊維等からなる。この膨張部材65の膨張により、可動層62が図示右方向に移動する。このような可動層62の移動が可能なように、膨張部材65の非膨張時において、可動層62の図示右側の辺と外枠64との間には所定の空間が設けられるように構成されている。膨張部材65は、本発明の変化部の一部に相当する。
【0062】
支持部材66は、図示前後方向に所定間隔で配置され、外枠64と膨張部材65とを固定している。各支持部材66の間の空間は、外枠64に設けられた穴64aにより外部と連通している。この穴64aから空気中の湿気や水分を導入し、膨張部材65を膨張させる。なお、穴64aをシールで塞いだり、このシールを剥がしたりすることで、湿気や水分の導入をコントロールできるようにしてもよい。
【0063】
表面層63は、例えばPET等の無色透明な矩形の樹脂フィルム等からなる。表面層63は、外枠64および支持部材66の上面に固着される。表面層63には、黒い矩形のマーカ枠68が印刷等により形成されている。表面層63に対して印刷する場合には、印刷部分に傷等がつくことを防止するため、下面側に印刷することが好ましい。印刷する場合に用いられるインクは、湿気、水分に強く、表面層63の材質に対して定着性のよいものが好ましい。
【0064】
表面層63の上面には、マーカ枠68の内側において、図示前後方向に細長く薄い複数の変色層69が所定間隔で配置されている。
【0065】
変色層69は、吸湿性を有する高分子ポリマー等の物質に、水分により発色する発色材料を付加したもので構成される。変色層69は、吸湿していないときは白色であり、吸湿すると発色材料の作用により変色する。発色材料としては、例えばシリカゲルを用いることができる。変色層69は、本発明の変化部の一部に相当する。
【0066】
表面層63において、各変色層69の間の領域70は無色透明になっている。両端に位置する変色層69とマーカ枠68との間の領域71、およびマーカ枠68の外側の領域は、印刷等により白色になっている。
【0067】
膨張部材65の非膨張時においては、変色層69が可動層62の黒色領域62aの上方に位置し、マーカ6の上面側から見て黒色領域62aが視認されないようになっている。また、膨張部材65、支持部材66、可動層62の右端部等は、変色層69や領域71の下方に位置し、マーカ6の上面側から視認されないようになっている。
【0068】
このような構成により、初期状態においては、マーカ6は、マーカ枠68以外の部分はすべて白色と視認されるようになっている。このような初期状態のパターンから、変色層69の吸湿による変色、および膨張部材65の膨張による可動層62の移動により、マーカ6におけるパターンが変化する。可動層62、表面層63、および変色層69によって、本発明のパターン提示部が構成される。
【0069】
次に、第2の実施の形態におけるマーカ6の作用について説明する。
【0070】
上述したマーカ枠68以外は白色に視認される初期状態から、変色層69が吸湿して発色材料の作用により変色すると、図9(a)に示すようなパターンが形成される。なお、変色層69は、吸収した水分量により濃度が変化する。
【0071】
そして、膨張部材65が吸湿して膨張すると、可動層62が右方向に移動し、黒色領域62aが表面層63の領域70の直下に移動する。これにより、図9(b)に示すような、変色層69の間の領域70が黒く見えるパターンが形成される。
【0072】
このように、マーカ6では、湿度等の外的要因により生じる変色層69の変色によりパターンが変化する。また、膨張部材65の膨張により可動層62が右方向への移動する2次元的な物理的変化により、パターンが変化する。このような方式により、可動層62の少量の移動で大きくパターンを変更することができる。
【0073】
なお、図9(a),(b)では、変色層69の変色後に、可動層62が移動するように示したが、この順序は逆でもよいし、並行してもよい。これは、外枠64の穴64aをシールで塞いだり、シールを剥がしたりして湿気や水分の導入をコントロールすること等により設定できる。
【0074】
以上説明したように、第2の実施の形態におけるマーカ6によれば、湿気や水分のある環境に置くだけで、吸湿による変色層69の変色および可動層62の移動により、無電源でパターンを変更でき、複数のパターンを表示可能である。
【0075】
なお、マーカ6において変色層69を省略し、表面層63において変色層69に相当する部分を印刷等により白色とすることで、可動層62の移動のみによりパターンを変化させる構成にしてもよい。
【0076】
また、マーカ6において可動層62を省略し、変色層69の変色のみによりパターンを変更する構成にしてもよい。
【0077】
(第3の実施の形態)
図10は、第3の実施の形態に係るマーカの平面図、図11は、図10に示すマーカの分解斜視図、図12は、図10におけるA−A断面図である。
【0078】
図10〜図12に示すように、第3の実施の形態に係るマーカ8は、パターニング層81と、表面層82と、膨張部材83とを備える。
【0079】
パターニング層81は、樹脂、木材等の矩形の板状体からなり、パターン要素81a〜81dは黒色、パターン要素81a〜81d以外の領域は白色に印刷等で形成されている。
【0080】
表面層82は、例えばPET等の無色透明な矩形の樹脂フィルム等からなる。表面層82は、膨張部材83を介してパターニング層81の上方に配置されている。
【0081】
表面層82には、黒い矩形のマーカ枠84が印刷等により形成され、マーカ枠84の外側の領域は白色になっている。印刷する場合に用いられるインクは、水分、湿気に強く、表面層82の材質に対して定着性のよいものが好ましい。パターニング層81と表面層82とにより、本発明のパターン提示部が構成される。
【0082】
表面層82におけるマーカ枠84の内側の領域は無色透明であるが、その一部の領域82aにおいて、表面層82の下面側にマット処理が施されている。領域82aは、黒いパターン要素81a〜81dの一部を覆う領域であり、ここでは、パターン要素81bを覆う領域であるものとする。
【0083】
膨張部材83は、平面視にて細長い三角形状を有し、パターニング層81と表面層82との間に設けられる部材である。膨張部材83は、マーカ8の各辺に沿って4つ設けられる。
【0084】
膨張部材83は、吸湿すると体積が膨張する性質を有する材料からなり、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等の高分子ポリマーや、圧縮タオル繊維等からなる。膨張部材83は、吸湿して膨張することで、パターニング層81と表面層82との間隔を広げるものであり、本発明の変化部に相当する。膨張部材83を細長い三角形状とするのは、鋭角部分において湿度を高感度で検知するためである。
【0085】
各膨張部材83は、表面層82におけるマーカ枠84およびその周囲の白色の部分の下に位置し、マーカ8を上面側から見たときに視認されないようになっている。
【0086】
次に、第3の実施の形態におけるマーカ8の作用について説明する。
【0087】
初期状態では、図10に示すような、マーカ枠84内におけるパターン要素81a〜81dがすべて黒色で、他の領域が白色のパターンが提示されている。
【0088】
このような初期状態から、膨張部材83が吸湿して膨張すると、パターニング層81と表面層82との間隔が広がる。これにより、図13に示すように、マット処理が施された領域82aの下方に位置するパターン要素81bが、マット処理の影響で、濃度が薄くなったように視認される。これにより、初期状態に対して、マーカ8のパターンが変化したと視認される。このように、マーカ8では、湿度等の外的要因により膨張部材83が膨張して表面層82が上方向へ移動する3次元的な物理的変化により、パターンが変化する。
【0089】
濃度の変化は、表面層82のマット処理の程度により調整できる。例えば、膨張部材83の膨張により、パターニング層81と表面層82との間隔が初期状態より3mm広くなったときに、パターン要素81bと周囲の白色の部分とのコントラスト差が約60%減少するようなマット処理を行う。これにより、拡張現実感システム1の映像処理装置3において、濃度が変化したことを認識しやすい。
【0090】
以上説明したように、第3の実施の形態におけるマーカ8によれば、湿気や水分のある環境に置くだけで、吸湿により膨張部材83が膨張してパターニング層81と表面層82との間隔を広げることにより、無電源でパターンを変更でき、複数のパターンを表示可能である。
【0091】
(第4の実施の形態)
図14は、第4の実施の形態に係るマーカの平面図、図15は、図14に示すマーカの分解斜視図、図16は、図14におけるA−A断面図である。
【0092】
図14〜図16に示すように、第4の実施の形態に係るマーカ9は、基台層91と、クッション材層92と、表面層93と、オーガニック材94とを備える。
【0093】
基台層91は、マーカ9の底板をなすものであり、樹脂、木材等の矩形の板状体からなる。基台層91の周囲は、基台層91と同様の材料からなる外枠95で囲まれている。
【0094】
クッション材層92は、ポリウレタン、発泡ゴム等の弾性を有する材料からなり、後述するオーガニック材94を表面層93に押し付けるためのものである。オーガニック材94の端部で陰影ができ、これにより映像処理装置3におけるマーカ9の検出に不都合が生じることを予防するために、クッション材層92の弾性力によりオーガニック材94を表面層93に押し付ける。
【0095】
表面層93は、例えばPET等の無色透明な矩形の樹脂フィルム等からなる。表面層93は、外枠95の上面に固着される。表面層93には、黒い矩形のマーカ枠96と、パターンの一部が印刷等により形成されている。表面層93に対して印刷する場合には、印刷部分に傷等がつくことを防止するため、下面側に印刷することが好ましい。また、表面層93の上面には、外乱光の影響による映像処理装置3におけるマーカ9の誤認識を予防するため、マット処理を施すことが好ましい。
【0096】
表面層93には、パターンが印刷等されずに、無色透明となっている領域が設けられている。本実施の形態では、マーカ枠96の内部を4つに仕切った四角形の領域97a〜97dのうち、領域97bが無色透明の領域であり、領域97a,97dが黒色、領域97cが白色の領域となっている。無色透明の領域97bの下にオーガニック材94が配置され、領域97bを通してオーガニック材94がマーカ9の上方側から視認されるようになっている。領域97bに隣接する領域97a,97dは、オーガニック材94とのコントラストが大きくなるように、図14、図15のように黒色であることが好ましい。
【0097】
オーガニック材94は、生花の花弁や植物の葉からなる。オーガニック材94としては、枯れることにより色が大きく変化するものが好ましく、例えば、白いバラの花弁や、イチョウの葉等を用いることができる。オーガニック材94は、マーカ9におけるパターンの一部を形成し、「白→薄茶→濃い茶」のように色が経時変化することで、パターン中の濃度の変化を表現するものであり、本発明の変化部に相当する。また、オーガニック材94と表面層93とにより、本発明のパターン提示部が構成される。
【0098】
以上のように構成されたマーカ9は、時間が経過することにより、オーガニック材94の色が濃くなるように変化する。これにより、図17に示すように、図14の初期状態のパターンに対して、パターン中の領域97bの色が濃くなったパターンが表現される。領域97b内の色は、オーガニック材94の経時変化により、完全に枯れた色になるまで、時間の経過に比例して濃くなる。
【0099】
以上説明したように、第4の実施の形態におけるマーカ9によれば、通常の環境に置くだけで、オーガニック材94の色の経時変化により、無電源でパターンを変更でき、複数のパターンを表示可能である。
【0100】
(第4の実施の形態の変形例)
図18は、第4の実施の形態の変形例に係るマーカの分解斜視図、図19は、第4の実施の形態における図16に相当する断面図である。
【0101】
図18、図19に示すように、本変形例におけるマーカ9Aが、図14〜図16に示した第4の実施の形態のマーカ9に対して異なる点は、表面層93の一部をくりぬいた開口部98を形成し、この開口部98を塞ぐ多孔質シート99を表面層93の上面側から取り付けた点である。
【0102】
開口部98は、図14〜図16のマーカ9における表面層93の領域97bに対応する部分をくりぬいて形成されたものである。この開口部98を介してオーガニック材94が、クッション材層92の弾性力により多孔質シート99に押し付けられる。
【0103】
多孔質シート99は、PET等からなる無色透明のシートからなり、多数の貫通孔が形成されている。
【0104】
本変形例のマーカ9Aでは、多孔質シート99によりオーガニック材94への通気性をよくすることで、第4の実施の形態のマーカ9よりもオーガニック材94の色変化の進行を遅くすることができる。
【0105】
多孔質シート99に設ける貫通孔の大きさや数を調整すれば、酸素透過量やオーガニック材94の水分保持量等を調整することができ、オーガニック材94の色変化の進行速度を調整することができる。
【0106】
また、オーガニック材94として芳香性の花弁を用いれば、ユーザによい香りを提供することができる。
【0107】
なお、本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態にわたる構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 拡張現実感システム
2 撮影装置
3 映像処理装置
4 表示装置
5,6,8,9,9A マーカ
31 マーカ検出部
32 重畳部
33 記憶部
34 インタフェース部
51A〜51H パネル
52 ケース
55,68,84,96 マーカ枠
61,91 基台層
62 可動層
63,82,93 表面層
65,83 膨張部材
66 支持部材
69 変色層
81 パターニング層
92 クッション材層
94 オーガニック材
98 開口部
99 多孔質シート
511 基材層
512 保護フィルム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現実環境を撮影した映像に電子情報を重畳する拡張現実感システムに用いられ、現実環境に置かれて、映像に電子情報を重畳するための指標とされるマーカであって、
映像に重畳される電子情報に対応するパターンを提示するパターン提示部を備え、
前記パターン提示部は、外的要因により変化する変化部を有し、前記変化部の変化によって前記パターンが変化することを特徴とするマーカ。
【請求項2】
前記外的要因は、湿度、紫外線、温度、および経時変化のうちの少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のマーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−3306(P2012−3306A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134846(P2010−134846)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】