説明

マーキング物質を有する有価印刷物及びセキュリティマーク

【課題】安価な検出装置では検出できないセキュリティーマーキングを有する有価印刷物を提供する。
【解決手段】有価印刷物1の定められた領域2において、印刷物は赤外スペクトル領域で吸収を示すが実質的に目には見えないマーキング物質を含む。マーキング物質は、例えば印刷インクに含めて、有価印刷物1上にプリントすることができる。他にコーティング法または転写法も同様に可能である。マーキング物質が存在する領域2は、単純な何の構造ももたない面、あるいは、マーキング物質は構造をもつ形態で、例えば、模様、表象記号またはバーコードとして、与えても良い。マーキング物質が与えられた領域2は、例えば印刷物の一連番号を表す英数字を表すこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視スペクトル領域では有意な吸収を示さず、好ましくは十分に透明であり、赤外スペクトル領域では吸収を示すマーキング物質を有する、有価印刷物、セキュリティ要素及びセキュリティマークに関し、検査方法及び検査を実施するための装置に関する。例えば印刷インクに添合される、そのようなマーキング物質は信憑性検査のために、または物流分野において例えば物流の探知及び追跡のために、用いられることが好ましい、あらゆる物体またはそのパッケージ上にもマークを付けるために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は2つの識別マークを有するセキュリティコードを開示している。一方の識別マークは、実質的に無色であり、電磁スペクトルの700ナノメートル(nm)から1500nmの近赤外領域において吸収を示す。前記第1のマークは、可視スペクトル領域で不透明であり、上記の赤外スペクトル領域で吸収を示さない、着色された第2のマークに重ねて印刷される。赤外スペクトル領域で吸収を示すマークは、780から800nmで作動する読取器で検出される。市販の安価なシリコン検出器により作動するそのような読取器は既に普及しており、誰にでも利用できる。したがって、従来技術で知られているような800nm近傍の普通のシリコン検出器の作動範囲で吸収を示す、目に見えるマークは、実際上人間の目からは隠されたままであるべきマーク領域に無権限者及び非関係者が何ら特別の困難もなしにアクセスできるという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第0340898B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、物体、特に高度なセキュリティ要件を満たす有価印刷物のための、従来技術の欠点をもたない、マーキング方法及びそのような有価印刷物を検査するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は独立請求項の特徴をもつ物体及び方法により解決される。発展形態及び好ましい実施形態は従属請求項に述べられる。
【0006】
本発明の、有価印刷物、セキュリティ素子及びセキュリティマークの特徴は、1000nmから2500nmの赤外スペクトル領域で有意な吸収を示すマーキング物質である。しかし、可視スペクトル領域では、本マーキング物質は固有色を全く示さないかまたはかすかにしか示さず、したがって可視スペクトル領域では有意な吸収を示さない。本マーキング物質は、さらに、800nmまたはその近傍の波長では有意な吸収を示さない。
【0007】
本マーキング物質は、約780nmから800nmの範囲で作動する、普及している安価なシリコン検出器では検出できないという利点を有する。
【0008】
本発明にしたがって用いられるIR(赤外線)吸収体は有機化合物だけでなく、環境の影響に対する安定性がより高い、無機材料であってもよい。好ましい吸収体は不純物ドープ半導体材料を基にした吸収体である。特に好ましい吸収体は、耐老化性も特徴とする金属酸化物である。マーキング物質は50nmより小さい平均粒度で存在することが好ましい。そうであれば、粒子による可視光の散乱はほとんどおこらない。マーキング物質は無色であるか、または極めてかすかな固有色しか示さない。
【0009】
マーキング物質はプリントの形態で有価印刷物に与えられることが好ましい。本発明において、マーキング物質は着色顔料と混合された結合剤または印刷インクに添加される。印刷インクまたは結合剤は、1000nmから2500nm,特に1500nmから2000nmの赤外スペクトル領域において有意な吸収を示してはならない。マーキング物質により表される印刷像は任意であり、例えばロゴ、英数字、またはバーコード等とすることができる。
【0010】
しかし、赤外スペクトル領域で吸収を示す機能物質を有価印刷物に直接に与えるかまたは取り入れることも可能である。この目的に適する方法は、例えば、欧州特許出願公開第0659935号明細書及び独国特許発明第10120818号明細書に開示されている方法である。上記明細書において、有価印刷物にマーキングするために用いられる顔料粒子はガス流または液体噴流に添加され、紙シートに添合される。これらの方法は、例えば銀行券の作成に用いられるような、いわゆるセキュリティ紙の作成へのマーキングに特に適している。マーキング物質をコーティング混合物に添加するかまたは有価印刷物または有価印刷物の作成に用いられる基板材料の表面に表面サイズ剤とともに与えることも可能である。紙及び同様の繊維物質だけでなく、機能物質を組み込めるホイルも有価印刷物の作成に適している。ホイルの作成においては、同時押出法がこの目的に特に適している。この方法により、マーキング物質をある領域または帯状領域にだけ含むホイルの作成が可能になる。
【0011】
マーキング物質は、全体にではなく、選択された場所にだけまたはあらかじめ定められたトラックに沿ってのみ、組み込めるかまたは与えられることが好ましい。マーキング物質の付与または組込みにおける選択的な省略または中断により、コードを作成することができる。そのようなコードは、例えばバッチ番号、ロットサイズ、あるいは製品名または製造業者名を表すために用いることができる。
【0012】
本発明にしたがう有価印刷物とは特に銀行券を指すが、小切手、株券及びバウチャーのような、金銭と等価なその他の印刷物も指す。本発明にしたがう有価印刷物にはIDカード及びその他の身元証明書も同様に含まれる。そのような有価印刷物には個別の一連番号が与えられることが多い。本発明の有価印刷物において、一連番号は、赤外スペクトル領域で吸収を示すマーキング物質を用いて、目に見える表示に加えて、またはそれだけで、表示されることが好ましい。いわゆるノンインパクト印刷法がこの目的に特に適している。大量の印刷物に対して一定不変の文様記号を表示するにはその他の印刷法、例えばオフセット印刷も適している。
【0013】
有価印刷物上のマーキング物質が与えられる領域は、以降で説明される目に見えるマークはないままにしてもよいし、またはそのようなマークと組み合わせてもよい。赤外線吸収マーキング物質が与えられる領域には他に何もなく、赤外線吸収マーキング物質が可視スペクトル領域では固有色をかすかにしか示さない場合は特に、有価印刷物をマーキング物質の色または色調に染めることが有益であり得る。さらに有益なマークの偽装及び隠蔽方法は、マーキング物質が与えられた領域にラッカー層または薄いカバーホイルをさらに与えることである。この場合、そのような付加カバー層は、800nmにおいても、1000nmと2500nmの間とすることができる選択された測定範囲においても、十分に透明でなければならない。
【0014】
好ましい実施形態にしたがえば、有価印刷物は少なくとも、可視スペクトル領域及び800nmで有意な吸収を示し、1000nmと2500nmの間では有意な吸収を示さない第1プリント及び可視スペクトル領域及び800nmでは有意な吸収を示さないが1000nmから2500nmのスペクトル領域では有意な吸収を示す第2プリントからなるセキュリティマークを有することができる。
【0015】
セキュリティマークのさらに好ましい実施形態において、第1プリントと第2プリントは少なくともある領域において重なり合うように配される。
【0016】
本発明のセキュリティマークは、約780nmから800nmで作動する普及している安価なシリコン検出器では、このスペクトル領域で認識されるのが、可視スペクトル領域における吸収により技術的補助装置なしに正常な人間の眼で認め得るプリントだけであるので、アクセスできないという利点を有する。第2プリントで形成されたマークは800nmにおいて有意な吸収を示さないから、そのような測定においては隠されたままである。第2プリントのマークは、認め得る吸収が1000nmないしそれより長波長のスペクトル領域にしかないから、この波長範囲でしかアクセス可能にならない。特に1000nmから2500nmの赤外スペクトル領域は、測定技術による検出に対して利点を有するから、上記目的に関して注目される。1500nmから2000nmの範囲が特に好ましい。
【0017】
約400nmから約760nmの間の可視スペクトル領域における有意な吸収に関し、プリントが全スペクトル領域で吸収を示す必要は無い。可視スペクトル領域の一部区間だけにしか吸収がなくとも、十分かつ有効な吸収が存在する。したがって、対応するプリントは通常の照明条件及び通常の視距離で困難なく通常の人間の目に見えて認識できる。しかし、目に見えるマークは、適当な波長で作動する、スキャナまたはフォトダイオードのような対応する光学デバイスを備える機械によってチェックすることもできる。同じことが目に見えない赤外スペクトル領域にも当てはまる。十分に広く、したがってチェックを実施できるスペクトル区間に有意な吸収があれば、十分である。目で見て認識できるか、あるいは特別な作業または測定技術の特に手の込んだ測定なしに機械で測定できる吸収があれば、吸収は常に有意であると見なされる。目に見えるプリントの吸収が800nmにおける吸収値の40%より低く、特に30%より低ければ、吸収が有意であるとはもはや見なされない。
【0018】
吸収が、赤外線検査が行われる1000nmと2500nmの間の波長における吸収値の40%より低く、特に30%より低い、第2プリントにも同じことが当てはまる。
【0019】
プリントの吸収は通常、結合剤に添加された、可溶性染料としてまたは顔料として存在する着色剤により生じる。しかし、結合剤がプリントの吸収挙動に有意な寄与をなすことも可能である。結合剤及び着色剤は、セキュリティマークを形成するプリントの作成に用いることができる印刷インクの必須成分である。
【0020】
第1プリント及び第2プリントの両方が連続表面を形成することもできるし、第1プリント及び第2プリントの両方を断続させることもできる。好ましい実施形態は特定のプリントが付加情報を表す実施形態である。情報は、例えばロゴ、国章、手書書体またはその他の英数字で構成することができ、画像を表すこともできる。特に好ましい実施形態は、情報をコード化された形態で示すことができる、バーコードである。2次元バーコードとしての実施形態も可能である。
【0021】
第1プリントによる第2プリントの偽装及び隠蔽は、特に第1プリント及び第2プリントが実質的に同じ表面上に印刷される場合、すなわちそれぞれの領域が一致している場合に、特に有効である。しかし、一部分しか重なり合わない配置も同様に適している。第1プリントと第2プリントの配置の順序及び互いに対する配置にかかわらず、2つのプリントは任意の輪郭形態を有することができる。2つのプリントは対称及び/または非対称とすることができる。2つのプリントの輪郭は同じとすることも異ならせることも可能である。
【0022】
適する印刷法の全てをプリントの作成に用いることができる。しかし、インクジェット法が、例えば非平面及び曲面にも特別な困難なしに印刷できる、ノンインパクト型印刷法であるから、特に好ましい。さらに、インクジェット法は一連番号のような個別の変化するプリントの作成に特に適している。
【0023】
本発明のセキュリティマークはボール紙パッケージ及びホイルのようなパッケージ及び包み紙に与えることもでき、あるいは、タグまたはラベル、シールまたはスリーブ上に印刷した後、保護されるべき実物に結合することもできる。別の好ましい実施形態において、セキュリティマークは転写リボン上の中間体として作成され、保護されるかまたはマークが付けられるべき物体に転写リボンから転写される。ビンまたはカンのような返戻金付容器上にセキュリティマークを与えることが特に好ましく、これにより本発明のセキュリティマークはトークンとしての機能も有する。
【0024】
本発明のセキュリティマークは、物体または印刷文書の信憑性がチェックされるべき場合には常に、有益に用いられる。セキュリティマークの使用はマークのチェック中にマークに含まれる情報を様々な“セキュリティレベル”で検索することができるから、流通分野においても有益である。例えば、第1の情報は目には見えるがバーコードとしてのコード化形態で存在し、一方、第1の情報と同じとするかまたは異ならせることができる、第2の情報は1000nmないしそれより長波長の赤外スペクトル領域における測定でしかアクセス可能にならないようにすることができる。第2の情報はさらに、コード化形態で、例えばバーコードとして、存在することもできる。
【0025】
印刷物へのセキュリティマークの好ましい適用は、小切手及びバウチャー;入場券、宝くじ券のような有価印刷物;パスポート、社員証または個人身分証明書などの身元証明書;配送通牒などの物品に添付する書類;信憑性証明書及び関税書類に関する。
【0026】
可視スペクトル領域及び約800nmでは有意な吸収を示すが、1000nmより長波長では示さない、第1プリントに関しては、例えば、着色剤としてCIブルー15及び/またはCIグリーン7(CI=カラーインデックス)が添加された印刷インクを使用することができる。基本色の赤及び黄並びに上記の着色剤の1つまたは両者を用いる減色混合により生じる、眼には黒に見える印刷インクを用いることが好ましい。用いることができる可視スペクトル領域または約800nmで実効的な吸収を示さない赤外線吸収体は、例えば、分子式がC62H92N6F12Sb2の、2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジイリデン−ビス[N,N-ビス(4-ジブチルアミノフェニル)アンモニウム]ビス(ヘキサフロロアンチモネート)である。独国ハンブルグ(Hamburg)のSiber Hefner GmbHにより提供される着色剤である、分子式がC132H30N2S4NiのADS990MC及び分子式がC52H44Cl2O6のADS1120Pの使用も同様に適している。
【0027】
セキュリティマークのチェックは自動的に、すなわち機械によりなされることが好ましい。市販のスキャナをこの目的に使用することができ、用いられる検査ビームは適する波長のレーザ光であることが好ましい。レーザダイオードが測定領域の照射に特に適している。赤外スペクトル領域で吸収を示すマーキング物質のチェックは、例えば約1070nmまたは1550nmで行うことができる。吸収の測定をいくつかの異なるスペクトル領域または波長で行えば、互いに干渉することがないから、検査を連続的にも同時にも行うことができる。目に見える部分の吸収は、例えば630nmまたは650nmで測定することができる。
【0028】
上述したように、本発明にしたがう、目に見えるプリント、すなわち上記スペクトル領域で吸収を示すプリントが、800nmないしその近傍での吸収も示すことが特に重要である。目に見えるプリントに関しては、カラー印刷インク及び黒色印刷インクのどちらを用いてもよい。黒色プリントが好ましいが、それは、第1には物体にマーキングするために特に普及しており、第2には明るく透明な物体上で特に高いコントラストを生じるからである。そのため、黒色マーキングは特に良く目立つ。黒色プリントは、また、赤外線吸収プリントを覆ったり、隠したりするのに特に適している。
【0029】
1000nmと2500nmの間で実質的な吸収を示す第2プリントが目に見えず、隠されたままでいるためには、可視スペクトル領域で有意な吸収を示さないことが必要である。本発明では、透明で無色の物質が用いられることが好ましい。しかし、固有色をかすかにしか示さず、したがって視覚的に際立つことがないかまたは容易に隠すことができる、物質の使用も可能である。固有色を呈する物質の場合は特に、可視スペクトル領域では固有色をかすかにしか示さず、1000nmと2500nmの間の赤外スペクトル領域においては十分な吸収が得られるように、第2プリントにおける固有色を示す物質の濃度が調節されるべきである。
【0030】
マーキング物質またはセキュリティマークのチェックは通常、反射光で行われる。マークが与えられる物体が関係するスペクトル領域で十分に透明であれば、透過光でチェックを行うこともできる。マーキング物質のチェックは、約1070nm及び/または1550nmで行われることが好ましい。
【0031】
2つのプリントが少なくとも部分的に重なり合う、好ましくは一方が他方の上に完全に配置される、セキュリティマークにおける本発明のプリントの組合せにより、可視スペクトル領域において眼または測定技術により感知される外観は、第1プリントによってほとんど完全に決定され、この場合、セキュリティマークの第2プリントが感知されることはない。約800nmで作動する安価で普及している赤外線検出器による本発明のセキュリティマークの検査では、第2プリントが800nmにおいても有意な吸収を示さないから、付加された第2プリントの存在または内容に関するいかなる付加情報も得ることができない。簡単な補助装置によるそのような測定では、第1プリントが可視スペクトル領域だけでなく800nmでもさらに吸収を示すから、可視スペクトル領域で既にアクセス可能であった情報しか再生されない。一方で、セキュリティマークの検査が1000nmと2500nmの間でなされれば、測定結果はこれまで隠されていた第2プリントにより生じ、第1プリントはこのスペクトル領域における測定結果には明らかに寄与しない。
【0032】
眼で見えるプリントのための普通の標準的な黒色印刷インクは1000nmより長波長においても吸収を示すカーボンブラックを通常含んでいるため、そのようなインクを用いて本発明のセキュリティマークを実現することはできなかった。おそらく可視スペクトル領域においては吸収を示すが700nmより長波長では有効ではない、欧州特許第0340898B1号明細書に述べられている印刷インクまたは染料でも、本発明により達成が可能な、目に見えるプリントを約800nmの近赤外スペクトル領域において第2プリントを偽装または隠蔽するためにも用いることができるという効果を得ることはできない。
【0033】
一方で、マーキング物質が与えられる領域が、付加される、目に見えるマークと組み合わされる必要のない、本発明の有価印刷物またはセキュリティ素子に関してチェックがなされる場合には、1000nmと2500nmの間とすることができる少なくとも1つの波長における吸収の単一の測定で、基本的に十分であり得る。これにより、チェックされる場所に実質的に眼には見えないマーキングが存在するか否かがチェックされる。しかし、別の波長でさらに測定がなされることが好ましい。別の波長は約800nmであるか、または可視スペクトル領域にあることが好ましい。これにより、例えば、上述した従来技術で知られているIR吸収体または、吸収帯域が非常に広いコンパウンド、例えばカーボンブラックを含むコンパウンドを用いた偽造品の識別が可能になる。吸収帯域が非常に広いコンパウンドは1000nmと2500nmの間での吸収の測定及び可視スペクトル領域における吸収の測定のいずれによっても認識できるであろうが、真正の、本発明のマーキング物質は、1000nmと2500nmの間でなされる測定でしか認識できない。
【0034】
有価印刷物に直接にマーキング物質またはセキュリティマークを施すことが不可能であるかまたは望ましくない場合には、マーキング物質またはセキュリティマークを本発明のセキュリティ素子に取り入れることもできる。そのようなセキュリティ素子は、別途に作成して、有価印刷物またはその他の保護されるべき任意の物体に、例えば接着層により、いつでも結合することができる。セキュリティ素子は、ラベル、シール、スリーブまたは転写リボンとして実施されるか、あるいはこれらの内の1つと一体化されることが好ましい。そのようなあらかじめ作成されたセキュリティ素子は、例えばリボン状キャリア上に配し、必要なときに、保護されるべき物体にキャリアから転写することができる。
【0035】
偽造困難性を強めるため、本発明の有価印刷物及びセキュリティ素子は、透かし、セキュリティスレッド、回折構造または別のいわゆる機能物質のような、偽造が困難な素子をさらに有することができる。そのような機能物質は、蛍光を有するか、あるいは磁性または導電性の物質であることが好ましい。そのような補助セキュリティ機能のチェックは、マーキングされた物体及び印刷物の信憑性検査中になされることが有益である。本発明の有用な実施形態にしたがえば、別のプリントまたは可視光を吸収する第1プリントが上記の機能物質をさらに含む。上記機能物質の独自の物理特性により、上記機能物質は、特に、適宜に設計されたセンサを用いる別の機械検査に関して、プリントをチェック可能にする。
【0036】
本発明のさらなる特徴及び利点は、図面及び図面の説明に見ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】マーキング物質が与えられた有価印刷物を示す
【図2】トラックに沿ってマーキング物質を有する有価印刷物を示す
【図3】有価印刷物の断面の詳細を示す
【図4】コーティングが施された有価印刷物の断面の詳細を示す
【図5】本発明の印刷セキュリティマークを備える物体を断面で示す
【図6】セキュリティマークを備える印刷物を正面図で示す
【図7】ラベルを断面で示す
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は本発明の有価印刷物1の簡単な実施形態を示す。これは、例えば銀行券とすることができる。有価印刷物1の定められた領域2において、印刷物は赤外スペクトル領域で吸収を示すが実質的に目には見えないマーキング物質を含む。マーキング物質は、例えば印刷インクに含めて、有価印刷物1上にプリントすることができる。他にコーティング法または転写法も同様に可能である。マーキング物質が存在する領域2は、図1では、単純な何の構造ももたない面として形成されている。しかし、マーキング物質は構造をもつ形態で、例えば、模様、表象記号またはバーコードとして、与えることができる。マーキング物質が与えられた領域2は、例えば印刷物の一連番号を表す英数字を表すこともできる。
【0039】
図2において、マーキング物質を有する領域2はあらかじめ定められたトラック3に沿って配されている。マーキング物質をもつトラックは連続的ではなく、マーキング物質が存在しない領域で中断されている。領域2の位置、長さ及び間隔は、例えばコード化された情報を表すことができる。そのような情報は、例えば、バッチ番号、製造業者名または印刷物の価値、特に銀行券の額面を表すことができる。領域2は、マーキング物質を有価印刷物1の表面上にのみ含むことができ、あるいは有価印刷物1の体積内に含むこともできる。
【0040】
この例が図3に示される。図3は有価印刷物1の断面の詳細を線図で示す。有価印刷物1は、紙及び/または合成繊維とすることができる、繊維4を主成分として形成される。マーキング物質の個々の粒子5が不規則な分布で蜘蛛の巣状の繊維組織に埋め込まれている。詳しくは、粒子5の寸法は実スケールで表されてはいない。粒子は、シート形成の前に紙パルプまたは繊維パルプに加えることができあるいは、例えば欧州特許出願公開第0659935号明細書及び独国特許発明第10120818号明細書に説明される方法により、層形成後に繊維組織に取り入れることができる。粒子の濃度は有価印刷物1内で変えることができ、また例えば図2に示されるように、一方向に沿って選択的に変えることができる。
【0041】
有価印刷物にマーキング物質を着ける別の方法が図4に示される。有価印刷物1は、例えば上面及び下面にコーティング6が施されている紙またはプラスチック基板で形成されている、コア層7を含む。このコーティングは、例えば、コーティング混合物、表面サイズ剤、不透明塗料、ラッカー層またはカバーホイルとすることができる。2つのカバー層の内の1つ、図示されている例では下層に、マーキング物質の分散粒子5が混合されている。もちろん、両面にマーキング物質を与えるか、あるいはコーティングの一方または両方のある領域にだけマーキング物質を与えることも同様に可能である。
【0042】
図5a及び5bは、セキュリティマーク9を有する物体8の断面を示す。図5aにしたがう実施形態では、可視スペクトル領域で吸収を示す第1プリント10が、可視スペクトル領域では吸収を示さないが1000nmないしそれより長波長の赤外スペクトル領域で吸収を示す第2プリント11の上および外側に配置されている。
【0043】
図5bではプリント10,11が逆順で配置されている。図5bでは第1プリント及び第2プリントが部分的にしか重なり合っていないが、図5aでは第1プリント及び第2プリントのそれぞれの領域が一致している。すなわち、第1プリント及び第2プリントが同じ表面上に印刷されている。図5a及び5bは、プリント10,11を連続層として示している。しかし、1つまたは両方のプリントを断続層として、すなわち間隔がおかれた個別のセグメントとして形成することも可能である。したがって、上接する2つの層が、第1プリントと第2プリントが重なり合う領域における総重なり領域に存在することは絶対的要件ではない。第2プリント11が可視スペクトル領域においてかすかな固有色を有する場合には特に、外側の、目に見えるプリント10が第2プリント11を覆い、よって第2プリント11を隠蔽または偽装する、図5aにしたがう実施形態を選択することが有益である。赤外スペクトル領域において実質的に吸収を示す第2プリント11が外側に配置される、図5bにしたがう実施形態は、特に第2プリント11が完全に透明で無色である場合に、適用されることが好ましい。
【0044】
図6はセキュリティマーク9を備える印刷物1の正面図を示す。目に見えるプリント10はインクジェット法で印刷され、バーコードに形成されている。プリント10は、可視スペクトル領域では見えない第2プリント11が与えられている面の大部分に重なっている。第2プリント11は1000nmより長波長の赤外スペクトル領域でしか吸収を示さず、可視スペクトル領域における固有色をもたず、したがって肉眼では見えないから、図6にはプリント11の輪郭だけが破線で示されている。目に見えないプリント11は同様にインクジェット法で作成することができるが、あるいは別の適する印刷法で作成することもできる。プリント11はバーコードとして実施することもできるが、別の表象記号または文様記号、例えば国章または会社ロゴを表すこともできる。
【0045】
基本的に図5a,5bおよび6に示される方式にしたがって構成される実施形態に対しては特に、2つのプリントの上、下または間に配置することができる、1つ以上の追加のインク層またはラッカー層を与えることが有益であり得る。そのような付加層は、1000nmと2500nmの間の測定範囲において実質的に透明でなければならない。適する色調または光沢により、そのような層は赤外線吸収マークをさらに偽装するに役立ち得る。追加層は保護層または、マークを周囲とグラフィカルに一体化する、いわゆるデザイン層の機能を有することができる。
【0046】
好ましい実施形態にしたがえば、760nmと1000nmの間の範囲で有意な吸収を示すマークまたはコードを構成する付加層またはプリントを与えることができる。これにより、通例の手段によるアクセスが可能な760nmから1000nmの範囲では見ることができ、1000nmより長波長の範囲ではセキュリティが最高度のマークを有する、“レベル3”のマーク及び保護を実現できる。
【0047】
図7は、一方の面上にセキュリティマーク9を有し、他方の面に接着層13が与えられている、ラベル12を断面で示す。適切に調整された接着層13は、ラベル12を任意の物体に結合するために用いることができる。ラベル12が可視スペクトル領域及び赤外スペクトル領域のいずれにおいても透明なキャリア層を備えていれば、接着層をセキュリティマーク9と同じ側に配することもできる。プリント10及びプリント11はいずれも、例えばバーコードの場合のように、不連続な局所セグメントからなる。この場合は外側にあるプリント10がプリント11より大きな表面を占める。印刷インクがプリント10のそれぞれの場所に移写されていなくとも、プリント10及び11,すなわちそれぞれの印刷領域は完全に重なり合う。外側のプリント10の印刷インクで覆われていない内側のプリント11もあるが、プリント11はせいぜい目に見えるスペクトル領域でかすかな固有色をもつだけであるから、これが問題になることはない。
【符号の説明】
【0048】
1 有価印刷物
9 セキュリティマーク
10 第1プリント
11 第2プリント
12 ラベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外スペクトル領域で吸収を示すマーキング物質を有する有価印刷物(1)において、前記マーキング物質が1000ナノメーター(nm)から2500nmの範囲において有意な吸収を示し、可視スペクトル領域及び800nmにおいては有意な吸収を示さないことを特徴とする有価印刷物。
【請求項2】
前記マーキング物質が前記有価印刷物(1)に適用される印刷インクまたはトナーに含まれていることを特徴とする請求項1に記載の有価印刷物。
【請求項3】
前記マーキング物質が前記有価印刷物(1)の基板に添合されていることを特徴とする請求項1に記載の有価印刷物。
【請求項4】
前記基板が実質的にセキュリティ紙により形成されていることを特徴とする請求項3に記載の有価印刷物。
【請求項5】
前記マーキング物質の配置または分布が情報を表すことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の有価印刷物。
【請求項6】
前記情報がコード化されていることを特徴とする請求項5に記載の有価印刷物。
【請求項7】
前記情報の少なくとも一部分がバーコードとして存在することを特徴とする請求項6に記載の有価印刷物。
【請求項8】
前記マーキング物質が英数字または表象記号を表示することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の有価印刷物。
【請求項9】
前記マーキング物質が前記有価印刷物(1)に付随する個別の一連番号を表示することを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の有価印刷物。
【請求項10】
前記マーキング物質が不純物ドープ半導体材料を含有することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の有価印刷物。
【請求項11】
前記マーキング物質が金属酸化物を含有することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の有価印刷物。
【請求項12】
前記マーキング物質が、平均粒度が50nmより小さい粒子として存在していることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の有価印刷物。
【請求項13】
前記有価印刷物(1)が、銀行券、小切手、身元証明書類、品物に添付される書類、関税書類、宝くじ券、入場券、バウチャー、返戻金トークンからなる印刷物群から選ばれることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の有価印刷物。
【請求項14】
赤外スペクトル領域で吸収を示すマーキング物質を有する、物体を保護するためのセキュリティ素子において、前記マーキング物質が1000nmから2500nmの範囲において有意な吸収を示し、可視スペクトル領域及び800nmにおいては有意な吸収を示さないことを特徴とするセキュリティ素子。
【請求項15】
前記セキュリティ素子が分離可能な形態でキャリア上に配されていることを特徴とする請求項14に記載のセキュリティ素子。
【請求項16】
前記セキュリティ素子が、ラベル、シール、転写リボンまたはスリーブとして実施されていることを特徴とする請求項14及び15のいずれかに記載のセキュリティ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−274448(P2009−274448A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154879(P2009−154879)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【分割の表示】特願2003−535138(P2003−535138)の分割
【原出願日】平成14年10月4日(2002.10.4)
【出願人】(596007511)ギーゼッケ ウント デフリエント ゲーエムベーハー (47)
【氏名又は名称原語表記】Giesecke & Devrient GmbH
【Fターム(参考)】