説明

マーキング用インク

【課題】少なくとも外表面が樹脂で形成されている物品の当該外表面をマーキングするために用いられるインクであって、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性に優れたマーキング用インクを提供する。
【解決手段】有機溶剤、油溶性染料及び油溶性樹脂を含有するマーキング用インクであって、上記油溶性樹脂は、少なくとも2種類のアクリル樹脂を配合し、上記少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、少なくとも1種類の樹脂の酸価及び水酸基価の合計が10以下であり、上記少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、他の少なくとも1種類の樹脂の酸価及び水酸基価の合計が70以上であるマーキング用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線又は当該被覆電線用コネクタ等の物品の外表面をマーキングするためのマーキング用インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のマーキング用インクにおいては、下記特許文献1に記載の物品の自動マーキング方法において、ワイヤハーネスを構成する被覆電線の識別のために、当該被覆電線の外表面をマーキングするためのインクが開示されている。
【0003】
このインクとしては、例えば、アクリル系塗料、インク(染料系、顔料系)やUVインクが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−134371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際にワイヤハーネスを工業的に製造するにあたり、マーキング用インクに要求される性能としては、特にマーキング後の識別性が重要である。即ち、ワイヤハーネスを組み立てる際に被覆電線とコネクタとの接続を確認するための識別性、及び、自動車等に組み込まれたワイヤハーネスを整備又は修理の際に取り外して確認するための識別性が必要である。
【0006】
これらいずれの場合にも、被覆電線同士の摩擦や被覆電線とコネクタとの摩擦、或いは、ワイヤハーネスの組立時、脱着時における被覆電線の屈曲など、マーキング後の被覆電線の取り扱いの際に、インクの耐磨耗性及び耐屈曲性が不十分であると、被覆電線からマーキング用インクが剥がれて識別性が低下するということが生じる。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載のインクにおいては、上述したようなマーキング後の被覆電線の取り扱いの際に重要なインクの耐磨耗性及び耐屈曲性について何ら考慮されておらず、通常のインクでは上述した性能を満足し得ないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、少なくとも外表面が樹脂で形成されている物品の当該外表面をマーキングするために用いられるインクであって、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性に優れたマーキング用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは鋭意研究の結果、マーキング用インクの中に油溶性樹脂として含有されている複数のアクリル樹脂について、それらの酸価及び水酸基価の合計を調整することにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、請求項1の記載によれば、有機溶剤、油溶性染料及び油溶性樹脂を含有するマーキング用インクであって、上記油溶性樹脂は、少なくとも2種類のアクリル樹脂を配合してなり、上記少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、少なくとも1種類のアクリル樹脂の酸価及び水酸基価の合計が10以下であり、上記少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、他の少なくとも1種類のアクリル樹脂の酸価及び水酸基価の合計が70以上であることを特徴とする。
【0011】
このように、マーキング用インクに含有される上記少なくとも2種類のアクリル樹脂のそれぞれについて、酸価及び水酸基価の合計を所定の範囲にすることにより、当該マーキング用インクの耐磨耗性と耐屈曲性の両立を図ることができる。
【0012】
従って、上記構成によれば、本発明は、少なくとも外表面が樹脂で形成されている物品の当該外表面をマーキングするために用いられるインクであって、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性に優れたマーキング用インクを提供することができる。
【0013】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のマーキング用インクであって、上記少なくとも2種類のアクリル樹脂の各配合比率から計算される上記油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計が、40〜60の範囲にあることを特徴とする。
【0014】
このことにより、本発明は、請求項1に記載の発明の作用効果がより一層向上され得る。
【0015】
更に、本発明は、請求項3に記載のように、請求項1又は2に記載のマーキング用インクにおいて、上記酸価及び水酸基価の合計が10以下のアクリル樹脂は、少なくともメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位を有するようにしてもよい。
【0016】
また、本発明は、請求項4に記載のように、請求項1〜3のいずれか1つに記載のマーキング用インクにおいて、上記酸価及び水酸基価の合計が70以上のアクリル樹脂は、少なくともメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位を有し、且つ、分子構造中に極性調整基を有するようにしてもよい。
【0017】
また、本発明は、請求項5に記載のように、請求項4に記載のマーキング用インクにおいて、上記極性調整基は、カルボキシル基及びその塩、並びに水酸基からなる群から選ばれた少なくとも1種であるようにしてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るマーキング用インクの一実施形態について説明する。
【0019】
本実施形態にいうマーキング用インクは、ワイヤハーネスの構成部材として採用される被覆電線の被覆部材の外表面をインクジェット方式によりマーキングする際に用いられるものである。
【0020】
上記被覆電線は、裸電線を被覆部材で被覆して構成されている。当該被覆部材は、熱可塑性を有する電気絶縁性樹脂を押出し法等で成形することにより作製される。当該電気絶縁性樹脂には、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂等が含まれる。特に、被覆電線の被覆部材に採用される電気絶縁性樹脂には、ポリ塩化ビニル樹脂が従来から広く採用されている。
【0021】
また、近年、自動車用ワイヤハーネスに採用される被覆電線には、脱ハロゲン化の要求から、ポリオレフィン樹脂が、従来のポリ塩化ビニル樹脂に代えて、採用されるようになってきた。当該ポリオレフィン樹脂を採用した被覆部材においては、特に、マーキングが難しく、従来のマーキング用インクではマーキングが不十分である。
【0022】
ここで、ポリオレフィン樹脂とは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン類、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン等のポリプロピレン類の樹脂等が挙げられる。
【0023】
本実施形態において、インクジェット方式における吐出形式としては、オンデマンド形式やコンティニュアス形式のいずれでもよい。当該コンティニュアス形式を採用する場合に、インクに対し適度の電気伝導性を与える成分を付加することが必要であるが、この際には、本発明に影響しない範囲で電気伝導性を与える成分を付加しなければならない。
【0024】
また、吐出の方式としては、例えば、サーマルインクジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、ピエゾ方式、静電アクチュエータ方式等、いずれの方式を採用してもよい。
【0025】
本実施形態において、インクジェット方式による吐出後のマーキング用インクの乾燥は、特に限定するものではない。乾燥温度は任意でよく、室温での自然乾燥、或いは所定温度の温風、伝導又は輻射等での強制乾燥でもよい。
【0026】
本実施形態において、マーキング用インクは、有機溶剤、油溶性染料及び油溶性樹脂を含有する。即ち、油溶性染料と油溶性樹脂とを有機溶剤に溶解させてなるものである。また、上記油溶性樹脂には、少なくとも2種類のアクリル樹脂が配合されている。
【0027】
ここで、有機溶剤とは、以下に限定されるものではないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶剤、アセトニトリル等のニトリル系溶剤等があげられる。これらの中で、本実施形態においては、アセトンが特に好ましい。
【0028】
また、マーキング用インク中の有機溶剤は、採用する油溶性染料や油溶性樹脂との関係において、適宜配合して用いればよい。
【0029】
次に、油溶性染料とは、以下に限定されるものではないが、例えば、C.I. Solvent Yellow 2、13、14、16、21、25、33、56、60、88、89、93、104、105、112、113、114、157、160、163、C.I. Solvent Red 3、18、22、23、24、27、49、52、60、111、122、125、127、130、132、135、149、150、168、179、207、214、225、233、C.I. Solvent Blue 7、14、25、35、36、59、63、67、68、70、78、87、94、95、132、136、197、C.I. Solvent Black 3、7、28、29、C.I. Solvent Violet 8、13、31、33、36、C.I. Solvent Orange 11、55、60、63、80、99、114、C.I. Solvent Brown 42、43、44、C.I. Solvent Green 3、5、20 等があげられる。
【0030】
その他、油溶性染料の他に、本目的に使用できる分散染料、ピグメント、建染染料、塩基性染料等も用いればよい。例えば、C.I. Disperse Yellow 54、82、160、C.I. Disperse Red 22、60、C.I. Disperse Blue 14、197、C.I. Disperse Violet 13、28、31、33、57、C.I. Pigment Yellow 147、C.I. Pigment Red 181、C.I. Vat Red 41、C.I. Basic Blue 7 等があげられる。また、C.I. No. は付与されていない市販の油溶性染料も用いればよい。
【0031】
また、マーキング用インク中の油溶性染料は、求めるマーキングの色相により、適宜配合して用いればよい。また、当該油溶性染料の使用量は、マーキングの濃度により適宜決めればよい。
【0032】
次に、油溶性樹脂について説明する。上述のように、本実施形態に係るマーキング用インクは、油溶性染料と油溶性樹脂とを有機溶剤に溶解させてなるものであり、当該油溶性樹脂には、少なくとも2種類のアクリル樹脂が配合されている。また、上記油溶性樹脂には、上記アクリル樹脂に加え、他の樹脂が配合されていてもよい。
【0033】
本実施形態において、上記アクリル樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル(メチル、エチル、ヒドロキシエチル、プロピル等の各エステル)、又はメタクリル酸エステル(メチル、エチル、ヒドロキシエチル、プロピル等の各エステル)の単独重合体、又はこれらの2種以上の共重合体、或いは、これらと他のモノマーとの共重合体が用いられる。ここで、共重合される他のモノマーとしては、例えば、エチレン、ビニルアルコール、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、アクリルアミド等がある。上記アクリル樹脂の分子量は、インクの粘度と皮膜の強度等から適切なものを選定する。
【0034】
また、アクリル樹脂に配合される上記他の樹脂とは、以下に限定されるものではないが、マーキング用インクに使用される有機溶剤に溶解する樹脂であって、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレン酢ビ共重合樹脂、エチレン塩ビ共重合樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、NBR,SBR、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル等の樹脂があげられる。
【0035】
上述のように、本実施形態においては、油溶性樹脂に配合される各アクリル樹脂の酸価及び水酸基価の合計を調整することが重要である。
【0036】
ここで、アクリル樹脂の酸価とは、当該アクリル樹脂1グラム中に含まれるカルボキシル基(−COOH基)を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう(参考規格:JIS K 0070)。但し、当該カルボキシル基の全部又は一部がその塩(例えば、−COONa)の状態である場合には、一旦、酸(−COOH)の状態に戻した後に、これを中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。従って、アクリル樹脂の酸価は、当該アクリル樹脂中に含まれるカルボキシル基及びその塩の数に対応する。
【0037】
一方、アクリル樹脂の水酸基価とは、当該アクリル樹脂1グラム中に含まれる水酸基(−OH基)をアセチル化した後に加水分解して生じる酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう(参考規格:JIS K 0070)。従って、アクリル樹脂の水酸基価は、当該アクリル樹脂中に含まれる水酸基(−OH基)の数に対応する。
【0038】
このように、上記酸価の単位と上記水酸基価の単位は同じであり比較できる。よって、上記酸価及び水酸基価の合計とは、そのアクリル樹脂中に含まれるカルボキシル基(−COOH基)及びその塩(例えば、−COONa)の数、並びに水酸基(−OH基)の数の合計に対応する。
【0039】
ここで、カルボキシル基及びその塩、並びに水酸基等は共に親水性の極性基であり、アクリル樹脂の分子構造中に存在して極性調整基として作用する。これらの極性調整基がアクリル樹脂の分子構造中に多く存在すると、当該アクリル樹脂の分子配列を乱すことになり、その結果、当該アクリル樹脂には柔軟性が付加されることになる。
【0040】
上記極性調整基として作用するものとしては、カルボキシル基及びその塩、水酸基、スルホ基及びその塩、リン酸基及びその塩、アルコキシシリル基等があるが、本実施形態においては、これらの中でカルボキシル基及びその塩、並びに水酸基が好ましい。
【0041】
ここで、アクリル樹脂の分子構造中にカルボキシル基若しくはその塩、又は水酸基等の極性調整基を導入する方法は、既知の方法のいずれであってもよく、例えば、アクリル樹脂の重合段階にモノマーが持つ極性基として導入してもよく、また、重合で得られたアクリル樹脂に対して、重合後の何らかの反応により導入してもよい。
【0042】
前者の方法としては、例えば、アクリル樹脂の重合の際のモノマーとしてアクリル酸又はアクリル酸塩を使用して重合し、当該アクリル酸又はアクリル酸塩由来の構造単位が持つ極性基としてカルボキシル基又はその塩を導入する方法がある。
【0043】
一方、後者の方法としては、例えば、アクリル樹脂の重合の際のモノマーとしてアクリル酸エステルや酢酸ビニルを使用して重合し、重合後の樹脂に含まれる上記アクリル酸エステルや酢酸ビニルの全部又は一部を後から鹸化してカルボキシル基若しくはその塩、又は水酸基を導入する方法がある。
【0044】
ここで、アクリル樹脂の分子構造は、直鎖状高分子であってもよく、枝分かれ高分子であってもよい。また、アクリル樹脂の分子構造中に導入されるカルボキシル基若しくはその塩、又は水酸基等の極性調整基は、アクリル樹脂の主鎖に導入されていてもよく、分枝鎖に導入されていてもよい。また、上記極性調整基は、アクリル樹脂の分子構造の内部に導入されていてもよく、分子末端に導入されていてもよい。更に、水酸基はアクリル樹脂の主鎖又は分枝鎖に直接導入されていてもよく、ヒドロキシアルキル基等としてアルキル基等を介して主鎖又は分枝鎖に導入されていてもよい。
【0045】
本実施形態においては、上記油溶性樹脂に配合される少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、少なくとも1種類のアクリル樹脂の酸価及び水酸基価の合計が10以下であり、好ましくは5以下である。このことは、上記アクリル樹脂の中に極性調整基が少なく、当該アクリル樹脂の分子配列は乱されない。即ち、上記アクリル樹脂は、硬さを保っているアクリル樹脂であることを示している。
【0046】
このようなアクリル樹脂は、カルボキシル基若しくはその塩、又は水酸基等の極性調整基を分子構造中に導入する操作を積極的には行っていないか、或いは、極僅かに行っているアクリル樹脂である。なお、本実施形態においては、上記アクリル樹脂の中でも、少なくともメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位を有するアクリル樹脂が好ましい。すなわち、上記アクリル樹脂は、主たる分子構造をメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位とし、その分子構造中に極性調整基が僅かしか存在しないことにより、分子配列が乱されておらず、硬さを保っているアクリル樹脂である。
【0047】
酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂は、被覆電線の被覆部材に採用される電気絶縁性樹脂への接着性が良好であり、また、マーキングされた部分の耐磨耗性を向上させる効果が大きい。更に、酸価及び水酸基価の合計が5以下であるアクリル樹脂は、ポリオレフィン樹脂への接着性がより良好であり、また、ポリオレフィン樹脂にマーキングされた部分の耐磨耗性を向上させる効果がより大きい。
【0048】
一方、本実施形態においては、上記油溶性樹脂に配合される少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、上述の酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂以外のアクリル樹脂のうち、少なくとも1種類のアクリル樹脂の酸価及び水酸基価の合計が70以上である。このことは、上記アクリル樹脂の中に極性調整基が多く導入されており、当該アクリル樹脂の分子配列は大きく乱されている。即ち、上記アクリル樹脂は、柔軟なアクリル樹脂であることを示している。
【0049】
このようなアクリル樹脂は、カルボキシル基若しくはその塩、又は水酸基等の極性調整基を分子構造中に導入する操作を積極的に行っているアクリル樹脂である。なお、本実施形態においては、上記アクリル樹脂の中でも、少なくともメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位を有し、且つ、分子構造中の極性調整基として、カルボキシル基及びその塩、並びに水酸基からなる群から選ばれた少なくとも1種を有するアクリル樹脂が好ましい。すなわち、上記アクリル樹脂は、主たる分子構造をメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位とし、且つ、その分子構造中に極性調整基が多く存在することにより、分子配列は大きく乱されており、柔軟なアクリル樹脂である。
【0050】
酸価及び水酸基価の合計が70以上であるこれらのアクリル樹脂は、これら単独で使用された場合には、被覆電線の被覆部材に採用される電気絶縁性樹脂への接着性はそれほど良好ではないが、上記酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂と併用されることにより、マーキング用インクに含有される油溶性樹脂全体を柔軟にする成分として作用し、特にマーキングされた部分の耐摩耗性を低下させずに耐屈曲性を向上させる効果が大きい。
【0051】
以上のことにより、本実施形態に係るマーキング用インクに含有される油溶性樹脂においては、被覆電線の被覆部材に採用される電気絶縁性樹脂への接着性と耐磨耗性を向上させるために酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂が配合され、一方、油溶性樹脂の耐摩耗性を低下させずに耐屈曲性を向上させるために酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂が配合される。その結果、上記マーキング用インクは、耐磨耗性と耐屈曲性の両立を図ることができる。
【0052】
更に、本実施形態においては、上記油溶性樹脂に配合される少なくとも2種類のアクリル樹脂の各配合比率から計算される当該油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計が、40〜60の範囲にあることが好ましい。油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計が40以下である場合には、40〜60の範囲にあるものに比べ耐屈曲性が若干低下する場合がある。逆に、油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計が60以上である場合には、40〜60の範囲にあるものに比べ耐磨耗性が若干低下する場合がある。
【0053】
従って、油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計が、40〜60の範囲にあることにより、耐磨耗性と耐屈曲性の両性能のバランスがより良好なものとなり、本発明の作用効果がより一層向上され得る。
【0054】
上述のことに対し、マーキング用インクに含有される油溶性樹脂として、単一のアクリル樹脂であって、その酸価及び水酸基価の合計が10より大きく、70より小さい値を持つアクリル樹脂を使用することが考えられる。更に、単一のアクリル樹脂であって、その酸価及び水酸基価の合計が40〜60の範囲にあるアクリル樹脂を使用することが考えられる。しかし、これらの場合には耐磨耗性と耐屈曲性のいずれもが不十分なものとなり、本発明の目的を達成することができない。
【0055】
また、上記各アクリル樹脂の使用量は、マーキング用インクの粘度、マーキングの色相と色濃度等から求められる耐磨耗性及び耐屈曲性により適宜決めればよい。
【0056】
なお、本実施形態に係るマーキング用インクは、その粘度が、0.3〜3.5(mPa・s)の範囲以内にあることが好ましい。マーキング用インクの粘度が、上記範囲以内にあれば、インクジェットノズルからの滴射時のインクの安定性が更に良好となる。
【0057】
以上のことにより、本実施形態によれば、被覆電線の被覆部材の外表面をマーキングするために用いられるインクであって、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性に優れたマーキング用インクを提供することができる。
【0058】
このことにより、被覆電線同士の摩擦や被覆電線とコネクタとの摩擦、或いは、ワイヤハーネスの組立時、脱着時における被覆電線の屈曲など、マーキング後の被覆電線の取り扱いの際に上記外表面からマーキング用インクが剥がれるということがなく、マーキングされた部分の識別性が良好となる。
【0059】
また、従来のマーキング用インクではマーキングが不十分であったポリオレフィン樹脂を採用してなる被覆電線の被覆部材においても、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性に優れたマーキング用インクを提供することができる。
【実施例1】
【0060】
以下、本実施形態に係るマーキング用インクについて、各実施例及びこれらに対する各比較例のインクを製造し、それらの性能を評価した。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例1〜実施例3:
A.油溶性樹脂の準備
油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂として、ポリマーA(三菱レイヨン株式会社製、ダイヤナールBR113)を準備した。ポリマーAは、主としてメタクリル酸エステルに由来する構造単位を有する樹脂であり、その分子量は30,000、ガラス転移点(Tg)は75℃、酸価は3.5、水酸基価はゼロの室温で固形の樹脂であった。よって、酸価及び水酸基価の合計が3.5のアクリル樹脂である。
【0062】
また、油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂として、ポリマーB(綜研化学株式会社製、アクトフローUME−2005)を準備した。ポリマーBは、主としてアクリル酸エステルに由来する構造単位を有し、且つ、極性調整基として水酸基を有する樹脂であり、その分子量は3,000、酸価はゼロ、水酸基価は89.6、粘度15,000〜20,000(mPa・s)の室温で液状の樹脂であった。よって、酸価及び水酸基価の合計が89.6のアクリル樹脂である。
【0063】
一方、比較のために、油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が10以下でなく、且つ、70以上でもないアクリル樹脂として、ポリマーC(星光PMC株式会社製、ハイロスX・HE−1018)を準備した。ポリマーCは、主としてアクリル酸エステルとスチレンとに由来する構造単位を有し、且つ、極性調整基としてカルボキシル基の塩を有する樹脂であり、有効成分51%のエマルジョン状態の樹脂であった。エマルジョン状態の樹脂の分子量測定は難しく、また、ガラス転移点(Tg)は理論値として75℃であり、エマルジョン状態の見かけの酸価は23.0、水酸基価はゼロであった。よって、有効成分で換算し、その酸価及び水酸基価の合計が45.1のアクリル樹脂として取り扱うこととする。
【0064】
B.マーキング用インクの調製
油溶性染料として、C.I. Solvent Blue 70を1g、油溶性樹脂として、ポリマーAを3g、及びポリマーBを3g使用し、これらをアセトン溶媒に十分に攪拌、溶解して全量を100gとした後、1.0μmメンブレンフィルターを用いて濾過して実施例1の青色マーキング用インクを得た。この実施例1のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーA)及び酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーB)を共に含有している。
【0065】
また、実施例1に対してポリマーA又はポリマーBの使用量を変えた以外は、実施例1と同様の操作にて、実施例2及び実施例3の各青色マーキング用インクを得た。実施例1〜実施例3の各マーキング用インクについて、これらに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表1に示す。
【0066】
一方、比較のために、油溶性染料として、C.I. Solvent Blue 70を1g、油溶性樹脂として、ポリマーAを3g使用し、ポリマーBを使用せずに、実施例1と同様の操作にて、比較例1の青色マーキング用インクを得た。この比較例1のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーA)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有していない。
【0067】
また、表1に示した油溶性染料と油溶性樹脂の使用量を用いて、実施例1と同様の操作にて、比較例2〜比較例8の各青色マーキング用インクを得た。比較例2は比較例1と同様に、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有していない。比較例3と比較例4は比較例1とは逆に、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーB)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂を含有していない。比較例5は、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーA)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有せず、代わりに酸価及び水酸基価の合計が45.1のアクリル樹脂(ポリマーC)を含有している。比較例6と比較例7は、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーB)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂を含有せず、代わりに酸価及び水酸基価の合計が45.1のアクリル樹脂(ポリマーC)を含有している。比較例8は、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂及び酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂のいずれも含有せず、代わりに酸価及び水酸基価の合計が45.1のアクリル樹脂(ポリマーC)を含有している。比較例1〜比較例8の各マーキング用インクについて、これらに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表1に示す。表1において、ポリマーCの使用量は有効成分で換算した値である。
【0068】
【表1】

実施例4〜実施例7:
A.油溶性樹脂の準備
油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂として、ポリマーD(三菱レイヨン株式会社製、ダイヤナールBR64)を準備した。ポリマーDは、主としてメタクリル酸エステルに由来する構造単位を有する樹脂であり、その分子量は65,000、ガラス転移点(Tg)は55℃、酸価は2.0、水酸基価はゼロの室温で固形の樹脂であった。よって、酸価及び水酸基価の合計が2.0のアクリル樹脂である。
【0069】
また、油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂として、ポリマーE(星光PMC株式会社製、ハイロスX・F−52)を準備した。ポリマーEは、主としてアクリル酸エステルに由来する構造単位を有し、且つ、極性調整基としてカルボキシル基の塩を有する樹脂であり、有効成分40.5%のエマルジョン状態の樹脂であった。エマルジョン状態の樹脂の分子量測定は難しく、また、ガラス転移点(Tg)は理論値として0℃であり、エマルジョン状態の見かけの酸価は31.0、水酸基価はゼロであった。よって、有効成分で換算し、その酸価及び水酸基価の合計が76.5のアクリル樹脂として取り扱うこととする。
【0070】
一方、比較のために、油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が10以下でなく、且つ、70以上でもないアクリル樹脂として、上記比較例5〜比較例7のマーキング用インクの製造に使用したポリマーC(星光PMC株式会社製、ハイロスX・HE−1018)を準備した。上述のようにポリマーCは有効成分で換算し、その酸価及び水酸基価の合計が45.1のアクリル樹脂として取り扱うこととする。
【0071】
B.マーキング用インクの調製
油溶性染料として、C.I. Solvent Red 233を1g、油溶性樹脂として、ポリマーDを2g、及びポリマーEを有効成分換算で2.4g使用し、これらをアセトン溶媒に十分に攪拌、溶解して全量を100gとした後、1.0μmメンブレンフィルターを用いて濾過して実施例4の赤色マーキング用インクを得た。この実施例4のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーD)及び酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーE)を共に含有している。
【0072】
また、実施例4に対してポリマーD又はポリマーEの使用量を変えた以外は、実施例1と同様の操作にて、実施例5及び実施例6の各赤色マーキング用インクを得た。更に、実施例4に対してポリマーDを1g、ポリマーEを有効成分換算で3g、及び酸価及び水酸基価の合計が45.1のアクリル樹脂(ポリマーC)を有効成分換算で2g使用して、実施例1と同様の操作にて、実施例7の赤色マーキング用インクを得た。実施例4〜実施例7の各マーキング用インクについて、これらに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表2に示す。表2において、ポリマーE及びポリマーCの使用量は有効成分で換算した値である。
【0073】
一方、比較のために、油溶性染料として、C.I. Solvent Red 233を1g、油溶性樹脂として、ポリマーDを3g使用し、ポリマーE及びポリマーCを使用せずに、実施例4と同様の操作にて、比較例9の赤色マーキング用インクを得た。この比較例9のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーD)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有していない。
【0074】
また、表2に示した油溶性染料と油溶性樹脂の使用量を用いて、実施例4と同様の操作にて、比較例10〜比較例14の各赤色マーキング用インクを得た。比較例10は比較例9と同様に、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有していない。比較例11と比較例12は比較例9とは逆に、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーE)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂を含有していない。比較例13比較例14は、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーD)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有せず、代わりに酸価及び水酸基価の合計が45.1のアクリル樹脂(ポリマーC)を含有している。比較例9〜比較例14の各マーキング用インクについて、これらに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表2に示す。表2において、ポリマーE及びポリマーCの使用量は有効成分で換算した値である。
【0075】
【表2】

実施例8〜実施例15:
A.油溶性樹脂の準備
油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂として、上記実施例4〜実施例7のマーキング用インクの製造に使用したポリマーD(三菱レイヨン株式会社製、ダイヤナールBR64)を準備した。上述のようにポリマーDは酸価及び水酸基価の合計が2.0のアクリル樹脂である。
【0076】
また、油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂として、上記実施例1〜実施例3のマーキング用インクの製造に使用したポリマーB(綜研化学株式会社製、アクトフローUME−2005)及び上記実施例4〜実施例7のマーキング用インクの製造に使用したポリマーE(星光PMC株式会社製、ハイロスX・F−52)の2種類の樹脂を準備した。上述のようにポリマーBは酸価及び水酸基価の合計が89.6のアクリル樹脂であり、ポリマーEは有効成分で換算し、その酸価及び水酸基価の合計が76.5のアクリル樹脂として取り扱うこととする。
【0077】
B.マーキング用インクの調製
油溶性染料として、C.I. Solvent Violet 33を1g、油溶性樹脂として、ポリマーDを1g、ポリマーBを1g、及びポリマーEを有効成分換算で1.2g使用し、これらをアセトン溶媒に十分に攪拌、溶解して全量を100gとした後、1.0μmメンブレンフィルターを用いて濾過して実施例8の紫色マーキング用インクを得た。この実施例8のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーD)及び酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーB及びポリマーE)を共に含有している。
【0078】
また、実施例8に対してポリマーD、ポリマーB、ポリマーEの各使用量を変えた以外は、実施例8と同様の操作にて、実施例9〜実施例15の各紫色マーキング用インクを得た。実施例8〜実施例15の各マーキング用インクについて、これらに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表3に示す。表3において、ポリマーEの使用量は有効成分で換算した値である。
【0079】
一方、比較のために、油溶性染料として、C.I. Solvent Violet 33を1g、油溶性樹脂として、ポリマーBを3g及びポリマーEを有効成分換算で1.2g使用し、ポリマーDを使用せずに、実施例8と同様の操作にて、比較例15の紫色マーキング用インクを得た。この比較例15のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーB及びポリマーE)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂を含有していない。比較例15のマーキング用インクについて、これに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表3に示す。表3において、ポリマーEの使用量は有効成分で換算した値である。
【0080】
【表3】

実施例16〜実施例18:
A.油溶性樹脂の準備
油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂として、ポリマーF(三菱レイヨン株式会社製、ダイヤナールBR116)を準備した。ポリマーFは、主としてメタクリル酸エステルに由来する構造単位を有する樹脂であり、その分子量は45,000、ガラス転移点(Tg)は50℃、酸価は7.0、水酸基価はゼロの室温で固形の樹脂であった。よって、酸価及び水酸基価の合計が7.0のアクリル樹脂である。
【0081】
また、油溶性樹脂に配合される、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂として、上記実施例1〜実施例3及び上記実施例8〜実施例15のマーキング用インクの製造に使用したポリマーB(綜研化学株式会社製、アクトフローUME−2005)、並びに、上記実施例4〜実施例7及び上記実施例8〜実施例15のマーキング用インクの製造に使用したポリマーE(星光PMC株式会社製、ハイロスX・F−52)の2種類の樹脂を準備した。上述のようにポリマーBは酸価及び水酸基価の合計が89.6のアクリル樹脂であり、ポリマーEは有効成分で換算し、その酸価及び水酸基価の合計が76.5のアクリル樹脂として取り扱うこととする。
【0082】
B.マーキング用インクの調製
油溶性染料として、C.I. Solvent Violet 33を1g、油溶性樹脂として、ポリマーFを1.5g、ポリマーBを1.5g、及びポリマーEを有効成分換算で1.5g使用し、これらをアセトン溶媒に十分に攪拌、溶解して全量を100gとした後、1.0μmメンブレンフィルターを用いて濾過して実施例16の紫色マーキング用インクを得た。この実施例16のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーF)及び酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーB及びポリマーE)を共に含有している。
【0083】
また、実施例16に対してポリマーF、ポリマーB、ポリマーEの各使用量を変えた以外は、実施例16と同様の操作にて、実施例17〜実施例18の各紫色マーキング用インクを得た。実施例16〜実施例18の各マーキング用インクについて、これらに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表4に示す。表4において、ポリマーEの使用量は有効成分で換算した値である。
【0084】
一方、比較のために、油溶性染料として、C.I. Solvent Violet 33を1g、油溶性樹脂として、ポリマーFを3g使用し、ポリマーB及びポリマーEを使用せずに、実施例16と同様の操作にて、比較例16の紫色マーキング用インクを得た。この比較例16のマーキング用インクは、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂(ポリマーF)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有していない。
【0085】
また、表4に示した油溶性染料と油溶性樹脂の使用量を用いて、実施例16と同様の操作にて、比較例17及び比較例18の各紫色マーキング用インクを得た。比較例17は比較例16と同様に、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂を含有していない。比較例18は比較例16とは逆に、酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂(ポリマーB及びポリマーE)を含有するが、酸価及び水酸基価の合計が10以下であるアクリル樹脂を含有していない。比較例16〜比較例18の各マーキング用インクについて、これらに使用した油溶性染料及び油溶性樹脂の使用量、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を表4に示す。表4において、ポリマーEの使用量は有効成分で換算した値である。
【0086】
【表4】

次に、上記実施例1〜実施例18及び比較例1〜比較例18の各マーキング用インクについて、その性能を評価した。評価は、上記各マーキング用インクを用いて被覆電線にマーキングし、マーキング後の耐磨耗性と耐屈曲性について行った。以下に、マーキング試験、耐磨耗性試験及び耐屈曲性試験の各方法について説明する。
【0087】
マーキング試験:
ピエゾ方式インクジェット装置(ノズル径;0.1mm)を使用して、各マーキング用インクをポリオレフィン樹脂被覆電線(外径;1.3mm)の被覆部材の白色の外表面に吐出し、室温で乾燥した。マーキング部分には、被覆電線の軸方向と直角方向に全周に渡り略3mm幅のラインをマークした。ラインに対するインクの吐出量は略40μlであり、乾燥後のマーキング部分の皮膜の厚みは略2μmであった。
【0088】
耐磨耗性試験:
マーキング後の被覆電線1本を水平に置き、マーキング部分の上に20mm角の白色のフェルト試験片を乗せ、これを20Nの力で上部から加圧した。この状態で電線軸方向に振幅20mmで20往復、マーキング部分を磨耗した。磨耗後のマーキング部分の状態とフェルト試験片の状態とを目視で観察し、以下に記載する、〇、△、×の3段階で評価した。なお、評価は3本の被覆電線について行い、それらの結果のうち最も悪かったものを評価結果とした。
〇;マーキング部分が保持され剥がれや伸び(磨耗によるこすれから生じる白色部分へのインクの伸び)、フェルト試験片への移りが殆んどなく、マークの識別が容易である。
△;マーキング部分に若干の剥がれや伸び(磨耗によるこすれから生じる白色部分へのインクの伸び)が認められ、フェルトへの移りもあるが、マークの識別は可能である。
×;マーキング部分の剥がれや伸び(磨耗によるこすれから生じる白色部分へのインクの伸び)が激しく、マークの識別が困難である。
【0089】
耐屈曲性試験:
2mm間隔で平板上に垂直に固定された2本のピン(釘)の間にマーキング後の被覆電線1本を挿み、丁度マーキング部分が屈曲点になるようにして、左右に各180°ずつ、屈曲させた。この動作を5回繰り返した後、屈曲後の被覆電線を2本のピン(釘)の間から取り外し、被覆電線のマーキング部分を親指と人差指で摘んだ状態で、電線軸方向に5Nの力で引き抜いて指の間で摩擦した。この動作を5回繰り返した後のマーキング部分の状態を目視で観察し、以下に記載する、〇、△、×の3段階で評価した。なお、評価は3本の被覆電線について行い、それらの結果のうち最も悪かったものを評価結果とした。
〇;マーキング部分が保持され破壊、剥がれ、指への移りがなく、マークの識別が容易である。
△;マーキング部分の破壊、剥がれはないが、一部にヒビ、折れ筋が認められ、指への移りもある。しかし、マークの識別は可能である。
×;マーキング部分の破壊、剥がれがあり、指での摩擦により脱落が激しく、マークの識別が困難である。
【0090】
上述のようにして行った耐磨耗性試験及び耐屈曲性試験の評価結果を表5に示す。ここで、耐磨耗性試験及び耐屈曲性試験の2項目の評価結果のいずれについても、○と△を合格とし、×を不合格とした。
【0091】
また、表5には、各マーキング用インクについて、それらに使用したアクリル樹脂のうち、酸価及び水酸基価の合計が10以下のアクリル樹脂、及び酸価及び水酸基価の合計が70以上のアクリル樹脂の含有の有無、並びに油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計(酸価+水酸基価)の値を示す。
【0092】
【表5】

この表5によれば、実施例1〜実施例18の各マーキング用インクは、これらに含有される油溶性樹脂として、酸価及び水酸基価の合計が10以下のアクリル樹脂、及び酸価及び水酸基価の合計が70以上のアクリル樹脂が配合されたインクである。これらの実施例に係る各マーキング用インクは、いずれも、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性に優れ、被覆電線の外表面からマーキング用インクが剥がれるということがなく、マーキング部分の識別性が良好であることが分かる。
【0093】
これらの実施例に対して、比較例1〜比較例18の各マーキング用インクは、耐磨耗性又は耐屈曲性のいずれかの性能において不十分であり、評価は×の結果となっている。
【0094】
また、上記実施例1〜実施例18の中でも、実施例1、2、4、5、7、8、11、12、13、14の各マーキング用インクは、いずれも酸価及び水酸基価の合計が5以下であるアクリル樹脂、及び酸価及び水酸基価の合計が70以上であるアクリル樹脂が配合され、更に、油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計が40〜60の範囲にあるマーキング用インクである。これらのマーキング用インクは、ポリオレフィン樹脂被覆電線に対して、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性の2項目の評価がいずれも○の結果であり、本発明の効果がより一層良好に認められることが分かる。
【0095】
すなわち、上記実施例1、2、4、5、7、8、11、12、13、14の各マーキング用インクは、従来のマーキング用インクではマーキングが不十分であったポリオレフィン樹脂を採用してなる被覆電線の被覆部材において、マーキング後の耐磨耗性及び耐屈曲性に優れ、上記外表面からマーキング用インクが剥がれるということがなく、マーキングされた部分の識別性が良好であることが分かる。
【0096】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず次のような種々の変形例があげられる。
(1)ワイヤハーネスの構成部材として採用される被覆電線の他に、コネクタ、チューブ、テープ、カバーやクリップ等の物品のマーキングにも使用することができる。
(2)本発明は、自動車用ワイヤハーネス以外にも、ビル用、住宅用のワイヤハーネス等に採用してもよい。
(3)本発明に係るマーキング用インクは、インクジェット方式での使用以外にも、ローラーによる塗布や、ディップ方式による浸漬付与等の種々の付与方法においても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤、油溶性染料及び油溶性樹脂を含有するマーキング用インクであって、
前記油溶性樹脂は、少なくとも2種類のアクリル樹脂を配合してなり、
前記少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、少なくとも1種類のアクリル樹脂の酸価及び水酸基価の合計が10以下であり、
前記少なくとも2種類のアクリル樹脂のうち、他の少なくとも1種類のアクリル樹脂の酸価及び水酸基価の合計が70以上であることを特徴とするマーキング用インク。
【請求項2】
前記少なくとも2種類のアクリル樹脂の各配合比率から計算される前記油溶性樹脂全体の酸価及び水酸基価の合計が、40〜60の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のマーキング用インク。
【請求項3】
前記酸価及び水酸基価の合計が10以下のアクリル樹脂は、少なくともメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のマーキング用インク。
【請求項4】
前記酸価及び水酸基価の合計が70以上のアクリル樹脂は、少なくともメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルに由来する構造単位を有し、且つ、分子構造中に極性調整基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のマーキング用インク。
【請求項5】
前記極性調整基は、カルボキシル基及びその塩、並びに水酸基からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のマーキング用インク。

【公開番号】特開2010−174119(P2010−174119A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17536(P2009−17536)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】