説明

マーク用生地材料及びマーク形成方法

【課題】加熱・加圧時におけるマーク生地表面への接着層の滲み出しを防止したマーク用生地材料及びこれを用いたマークの形成方法を提供する。
【解決手段】繊維を含むマーク生地21と、軟化点が180℃以上の樹脂を含む介在層22と、軟化点が170℃以下であって且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層23と、剥離シート24と、をこの順で有するマーク用生地材料20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華性染料によって色彩、模様、図柄等の印刷を施した転写紙を以て、マーク生地となる布地に該転写紙に印刷された色彩、模様、図柄等の転写を可能としたマーク用生地材料及びこれを用いたマーク形成方法を提供しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来のマーク(ワッペン)を作る手順と、その手順により作られたマークの構成について図3〜図6を用いて説明する。まず、所望の色彩、模様、図柄等をシルクスクリーン印刷法等で印刷を施した織物、編み物、不織布等の布地をマーク生地1とし、前記マーク生地1の裏面にホットメルト性のペースト状の熱可塑性合成樹脂を所定の厚みにコーティングした後乾燥し、或いは、前記マーク生地1の裏面に所定の厚みから成るホットメルト性の熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートするなどしてホットメルト性の熱可塑性合成樹脂を成分とするいわゆる接着層2を形成しこれに剥離紙3で裏打ちして図3に示す構成のマーク用生地材料4としていた。
【0003】
そして、前記したマーク用生地材料4からマークを作るために、前記マーク用生地材料4を所望の形状に裁断して、図4に示すような所望の色彩、模様、図柄から成るマーク5としていた。従って、従来のマークの構成は、図4に示すとおりマーク生地1に接着層2を形成し、剥離紙3で裏打ちした構成となる。
【0004】
前記マーク5を以てユニホーム等に貼着する手段を説明する。マーク5の接着層(ホットメルト層)2に裏打ちした剥離紙3を取り除き、マーク5の接着層2をユニホーム等の生地面(図示しない)に重ね合わせ、加熱プレス機等で約150℃程度の温度条件下で約30秒間、約200g/平方センチメートル程度の圧力をかけて前記マーク5の接着層2をユニホーム等の生地とマーク地の間で溶融してマーク生地4とユニホーム等の生地の両者を熱によって痛めないようにして貼着すると言うものである。
【0005】
ところで、昇華性染料によって色彩、模様、図柄等を印刷した転写紙の開発が進み、現在では、マーク業界でも従来のシルクスクリーン印刷法等と並んで前記した転写紙を使って図5に示す構成のマーク用生地材料を作る技術が普及されるようになった。
【0006】
現在、マーク業界で採用されている前記した転写紙を使って図5に示す構成のマーク用生地材料を作る技術について説明する。マーク用生地材料11の構成材としてのマーク生地6としては、昇華染料が昇華して転写するのに親しみのある布地を選定する。その代表例としてポリエステル繊維等から成る白地の織物、編物、不織布等がある。図5に示す構成のマーク用生地11を作るためには、前記したマーク生地6に仮接着剤7’が塗布された不織布7の仮接着剤7’塗布面を重ね合わせて、加熱プレス機で加熱プレスを行って、前記不織布7を以て裏打ちした複合生地8を作る。次に、この複合生地8の白地のマーク生地6の表面に前記した転写紙の印刷面を押し当て加熱プレス機等で加熱プレスを行い、転写紙に昇華性染料を以て印刷された色彩、模様、図柄等の昇華染料を昇華させて前記白地のマーク生地6面に昇華した染料から成る色彩、模様、図柄を転写する。この着色、模様、図柄等の転写(昇華転写)を行うときの加熱プレス条件は、加熱温度は約180〜210℃、加圧力は約1g/平方センチメートル〜2000g/平方センチメートル、加熱押圧時間は約30〜90秒とされている。
【0007】
この操作を終えた前記複合生地8の不織布7面に、常法に従って、ユニホーム等の被転写物にマークを転着する機能を果たすホットメルト系の熱可塑性合成樹脂を以て接着層を形成し、その接着層9の面に剥離紙10を貼着して図5に示す構成のマーク用生地材料11とすると言うものである。ところで、この接着層9は、図3に図示する従来のマーク用生地材料を作る接着層2と同じように融点温度を通常約150℃に調節され、加熱加圧時間を通常約30秒とされ、加圧力を約200g/平方センチメートルとされるよう調節されたものである。
上記した手段で作られたマーク用生地材料11から、マークを作るのには、上記したマーク用生地材料11から所望の形状に裁断して図6に図示するようなマーク12とする。
【0008】
従って、まずポリエステル繊維から成る白地の織物、編物、不織布等から選んだ布地をマーク生地6とし、このマーク生地6に仮接着剤7’を塗布した不織布7で裏打ちした複合生地8とし、次にこの複合生地8の裏面に接着層9を形成して、まずマーク用生地材料を作り、後に、このマーク用生地材料の構成材である該複合生地8のマーク生地6となる布地に前記転写紙を用いて昇華性染料による色彩、模様、図柄等を転写したマーク用生地材料11を作ることはできない。なぜなら、前記マーク用生地材料の前記マーク生地6に転写紙に印刷された昇華性染料を昇華させて、マーク用生地とするマーク地6に着色、模様、図柄を転写させる温度とマーク用生地材料に形成された接着層9の融点温度は異なるだけでなくプレス圧力、プレス時間等の差によって転写操作中に接着層9の溶融が先行し、接着層9の溶融樹脂が、複合生地8を構成する不織布7を通してマーク生地6の表面に滲み出してしまい、マーク生地6面に前記溶融樹脂による被膜ができることで昇華転写不良が生じてしまうからである。
【0009】
また、現在マーク(ワッペン)業界に出回っているポリエステル繊維等から成る白地の織物、編物、不織布等を以てマーク生地6とし、このマーク生地6に仮接着剤7’を塗布した不織布7を裏打ちして複合生地8として、その複合生地8のマーク地6に前記転写紙を以て色彩、模様、図柄を転写した後、その複合生地8の不織布7に接着層9を形成して図5に示す構成のマーク用生地材料11から型取りして作った図6に図示したマーク12とし、これを以て常法による加熱プレス手段で該マークをユニホーム等に接着した場合には、下記の通りの不都合が生じる。即ち、ユニホームとマークとの構成材である複合生地8の不織布7は強固に接着するが、該不織布7とマーク生地6とは仮接着剤7’で仮着しているので、ユニホーム等に接着したマーク12は洗濯堅牢度が弱く、洗濯中に剥がれてしまうと言う不都合が生じるマークとなる。また、耐摩擦性も弱いという不都合が生じるマークとなる。また、複合生地8のマーク生地6に前記転写紙を以て色彩、模様、図柄を転写した後に、不織布7を剥離してから接着層9を形成しようとすると、前記転写紙を以て色彩、模様、図柄を転写したマーク生地6は剥離作業のために歪んでしまうという不都合が生じる。
【0010】
さらに、上記した不都合を解消するために前記複合生地8を作る手段として前記マーク生地6裏に配する不織布7をマーク生地6と強固に接着しようとして仮接着剤7’を分厚く塗布した複合生地8を作り、その複合生地8の不織布7に接着層9を形成してマーク用生地材料11を作り、このマーク用生地材料11からマーク12を型取りし、そのマーク12を以て常法に従った加熱プレスによってユニホーム等に接着しようとすると、仮接着剤7’を作る合成樹脂が、分厚い層となっているので、これが溶融してマーク生地6面にも不織布7裏面からも滲み出してしまい、マーク生地6面に溶融した合成樹脂による皮膜を形成してしまう。その結果、仮接着剤7’を分厚くした複合生地8を以て作ったマーク用生地材料並びにこのマーク用生地材料から作ったマークは商品とはならないという不都合が生ずる。
【0011】
上述の問題点を改良したマーク用生地として、マーク用生地材料を構成するマーク地を、昇華性染料と親和性のある構成成分から成る繊維で作られた白地の布地を用い、前記した布地であるマーク地の裏面に、前記した布地であるマーク地の構成材である布地の構成成分と親和性のある合成樹脂で、しかも軟化点温度を昇華性染料の昇華温度より高温度に設定した合成樹脂から成る介在層を形成し、前記介在層の面に、ホットメルト性の熱可塑性合成樹脂から成る転写接着層(接着層)を形成し、この転写接着層の面に剥離紙を貼り合わせた構成としたことを特徴とするマーク用生地材料が開示されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−322129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、現在業界で作られている前記した複合生地を以て作られていた従来のマーク用生地材料、これから作ったマークの不都合を解消するため昇華性染料による印刷を施した転写紙を以て、マーク生地となる布地に所望の着色、模様、図形を形成することができるマーク用生地材料を作り、これから、マーク用生地を作ろうとするものである。
【0014】
昇華転写用に用いられるマーク用生地材料に上述のように、昇華性染料の昇華温度よりも高い軟化点を有する合成樹脂からなる介在層が形成されていると、昇華転写によるパターン形成の際に、転写時の加熱・圧力によって転写接着層が溶解してマーク生地表面(パターン転写表面)に滲み出てくることを抑制することができる。しかし、前記マーク生地に前記介在層を形成する場合、例えば、塗布等の方法を用いた場合には、生地目の密疎や織の凹凸、取り扱い時の衝撃など幾つかの要因によって、介在層にピンホールや微少な亀裂等が発生することがある。このピンホールは直径約10μm〜200μm程度の小さなものであるが、多い場合には1cm当たり20個程度発生する場合もある。
【0015】
このようなピンホールや微少な亀裂等が介在層に発生していると、上述のような介在層を形成した場合であってもパターンの昇華転写時に当該ピンホールを溶解した転写接着層が通過し、マーク生地表面にまで染み出てしまうことがある。マーク生地表面にまで樹脂等が滲み出てしまうと、昇華転写シートの離型紙を転写後マーク用生地材料から剥がす際に、離型紙とマーク生地表面とが滲み出た樹脂によって接着され、紙破れ等の転写不良を生じることがある。
【0016】
本発明は、加熱・加圧時におけるマーク生地表面への接着層の滲み出しを防止したマーク用生地材料及びこれを用いたマークの形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のマーク用生地材料は、繊維を含むマーク生地と、軟化点が180℃以上の樹脂を含む介在層と、軟化点が170℃以下であって且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、剥離シートと、をこの順で有する。
【0018】
本発明のマーク用生地材料は、軟化点が180℃以上の樹脂を含む介在層と、軟化点が170℃以下であってメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層(ホットメルト層)を有し、前記介在層が前記マーク生地と前記接着層との間に介在している。このため、昇華性染料を用いたパターンを形成するためマーク用生地材料を加熱・加圧した際に、前記接着層を構成する熱可塑性樹脂が溶融してマーク生地表面へ滲み出るのを抑制することができる。また、前記接着層の介在層が設けられている側とは逆側には剥離シートが配置(裏打ち)される。このため、昇華転写時に接着層を形成する熱可塑性樹脂が溶融しても当該熱可塑性樹脂が他に付着等するのを防止することができる。
【0019】
また、本発明における接着層は、メルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含んで構成される。接着層を構成する熱可塑性樹脂のメルトフローレートが100g/10min以下であると、例え、前記介在層にピンホールや微少な亀裂等が発生している場合であっても、マーク用生地材料に昇華性染料でパターンを形成する際の加熱・加圧条件で接着層の熱可塑性樹脂が溶融したとしても前記介在層のピンホールなどに侵入しにくくなる。これにより、例え、前記介在層にピンホールや微少な亀裂等が発生している場合であっても、昇華転写時に接着層を構成する熱可塑性樹脂がマーク生地表面に滲み出るのを防止することができる。
【0020】
本発明のマーク形成方法は、マーク用生地材料上に昇華性染料で形成されたパターンを加熱によって昇華転写するパターン形成工程を含むマーク形成方法であって、前記マーク用生地材料は、繊維を含むマーク生地と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも高い樹脂を含む介在層と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも低く且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、剥離シートと、をこの順で少なくとも含み、前記パターン形成工程において、前記マーク用生地材料の前記マーク生地表面に、前記昇華性染料で形成されたパターンを昇華転写する。
【0021】
本発明のマーク形成方法は、繊維を含むマーク生地と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも高い樹脂を含む介在層と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも低く且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、剥離シートと、をこの順で少なくとも含む前記マーク用生地材料を用いる。本発明のマーク形成方法におけるマーク用生地材料の介在層は、軟化点が昇華性染料の昇華温度よりも高い樹脂を用いて構成される。このため、マーク用生地材料のマーク生地表面に昇華性染料で形成されたパターンを転写する際に、軟化点が昇華性染料の昇華温度よりも低い熱可塑性樹脂で構成された接着層が、昇華転写時に溶融してマーク生地表面にまで滲み出るのを抑制することができる。尚、前記介在層を構成する樹脂の軟化点としては、昇華性染料を昇華転写する際のパターン形成工程の加熱温度よりも高いことが好ましい。また、前記接着層の介在層が設けられている側とは逆側には剥離シートが配置(裏打ち)されている。このため、昇華転写時に接着層を形成する熱可塑性樹脂が溶融しても当該熱可塑性樹脂が他に付着等するのを防止することができる。
【0022】
また、本発明のマーク形成方法における接着層は、メルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含んで構成される。前記接着層を構成する熱可塑性樹脂のメルトフローレートが100g/10min以下であると、例え、前記介在層にピンホールや微少な亀裂等が発生している場合であっても、マーク用生地材料に昇華性染料でパターンを形成する際の加熱・加圧条件で接着層の熱可塑性樹脂が溶融したとしても熱可塑性樹脂が前記介在層のピンホールなどに侵入しにくくなる。これにより、例え、前記介在層にピンホールや微少な亀裂等が発生している場合であっても、昇華転写時に接着層を構成する熱可塑性樹脂がマーク生地表面に染み出るのを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加熱・加圧時におけるマーク生地表面への接着層の滲み出しを防止したマーク用生地材料及びこれを用いたマークの形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るマーク用生地材料の一部切欠斜視図である。
【図2】本発明に係るマーク用生地材料から作ったマークの斜視図である。
【図3】従来のマーク用生地材料の一部切欠斜視図である。
【図4】従来のマーク用生地材料から作ったマークの斜視図である。
【図5】複合生地を以て作った従来型のマーク用生地材料の一部切欠斜視図である。
【図6】上記従来型のマーク用生地材料から作ったマークの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、好ましくは昇華性染料と親和性のある構成成分から成る繊維で作られた白地の布地から成るマーク生地に昇華染料を以てする昇華転写温度より高軟化点の合成樹脂で介在層を作り、その介在層にホットメルト系の熱可塑性合成樹脂から成る接着層を形成し、これに剥離紙(剥離シート)を裏打ちしたマーク用生地材料を作るものであるから本発明のマーク用生地材料を入手しさえすれば、加工業者は昇華性染料で所望の色彩、模様、図柄を印刷した転写紙を以て、加工業者が所持する加熱加圧機で、所望の色彩、模様、図柄を転写したマーク地から成るマーク用生地を作り、これからマークを作ることができる。
【0026】
《マーク用生地材料》
本発明のマーク用生地材料は、繊維を含むマーク生地と、軟化点が180℃以上の樹脂を含む介在層と、軟化点が170℃以下であって且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、剥離シートと、をこの順で有する。
【0027】
本発明のマーク用生地材料は、特に昇華性染料で形成されたパターンを転写してマークを形成する用途に用いられることが好ましい。即ち、本発明のマーク用生地材料はユニホームなど衣類やその他種々の対象物に貼着するための接着層を予め有していながら、昇華性染料で形成されたパターンを加熱・加圧によってマーク生地表面に昇華転写することができる。本発明のマーク用生地材料は、昇華転写時に接着層のマーク生地への滲み出しもなく、更に、図柄等を形成した後に、接着層等を別途形成する必要がないため、昇華性染料で形成された図柄がその後の加工処理等によって傷ついたり歪んだりするリスクを大幅に減らすことができる。また、マークの図柄等を形成した後、必要に応じてマーク用生地を裁断し所望の形状とした後、剥離シートをはがし、ユニホーム等の生地面に重ね合わせ、加熱プレス機等によって対象物にマークを貼着することができる。
【0028】
一般に昇華性染料の転写条件は昇華性染料の昇華温度を基準として設定されるが、通常温度:180〜210℃、圧力:1g/cm〜2000g/cm、時間:30〜90秒程度である。本発明のマーク用生地材料における介在層は、このような昇華性染料をマーク生地に転写する際の転写条件においても溶融することがないように、軟化点180℃以上の樹脂を用いて構成されている。このため、前記介在層は、昇華転写の際に、溶融した接着層の熱可塑性樹脂がマーク生地に滲み出すのを防止するバリア層として機能する。
【0029】
また、本発明における接着層を構成する熱可塑性樹脂(ホットメルト樹脂)としては、図柄等を構成する昇華性染料の昇華温度よりも低い軟化点170℃以下のものが用いられる。このため、昇華性染料を用いて図柄等を形成した後に、加熱プレス機等を用いてマーク生地をユニホーム生地等に貼着する際に、マーク生地に接着した昇華性染料の図柄等を良好に維持したたま貼着処理を行うことができる。
【0030】
(マーク生地)
マーク用生地材料を構成するマーク生地としては、少なくとも昇華性染料の転写条件に耐えうる耐熱性を有する布地であれば特に限定はなく、従来マークの作製に用いられる繊維で作られた布地を用いることができる。この際、前記布地としては、昇華性染料と親和性のある構成成分から成る繊維で作られた織物、編み物、不織布から成る布地であることが好ましい。昇華性染料と親和性のある構成成分から成る繊維としては、代表的な例として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維、及びそれらの混合繊維、或いは綿や綿との混紡などを以て形成した布地が挙げられる。この中でも、後述する介在層を形成する樹脂との接着性を考慮すると、ポリエステル繊維を以て形成した布地が好ましい。昇華性染料を用いた転写紙を以て前記布地に昇華性染料を昇華させて色彩、模様、図柄の転写をする場合、ポリエステル系繊維は、ナイロン系の合成樹脂で作った布地よりも、昇華性染料が強固に結合するため該転写紙から昇華した染料による色彩、模様、図柄の転写が鮮明である。また、マーク生地を構成する布地の色は特に限定はなく目的に応じて適宜選択することができる。マークの発色性や汎用性を考慮すると白地の布地を用いることが好ましい。
【0031】
(介在層)
前記した布地であるマーク生地の裏面(図柄等が形成される面の裏面)に介在層が設けられる。前記介在層は、軟化点が180℃以上の樹脂を含んで構成される。本明細書において、樹脂の「軟化点」とは、JIS K−7206(1999)にて規定されるビカット軟化温度(Vicat Softening temp.)を意味する。前記介在層は、色彩、模様、図柄を転写する際の加熱加圧によって変形したり或いは溶融したりしないものが好ましい。前記介在層を構成する樹脂の軟化点が180℃未満であると、昇華性染料を用いて例えば、温度:180℃、圧力:1g/cm、時間:45秒の条件で昇華転写した場合に接着層を構成する熱可塑性樹脂と共に介在層を構成する樹脂も軟化してしまうため、当該熱可塑性樹脂がマーク生地表面に滲み出るのを防止できない。前記介在層を構成する樹脂の軟化点は、使用を予定する昇華染料の昇華温度及び転写条件を考慮して適宜決定することができる、その下限としては、185℃以上が好ましく、195℃以上が更に好ましく、210℃以上が特に好ましい。また、昇華性染料の昇華転写条件及び層形成時の取り扱い性等を考慮すると、前記軟化点の具体的な温度範囲としては、185℃〜250℃が好ましく、195℃〜245℃が更に好ましく、210℃〜240℃程度が特に好ましい。
【0032】
前記介在層を形成する樹脂は上述の軟化点を有するものであれば、所望の目的に応じて公知の合成樹脂などの中から適宜選定することができる。また、前記樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のいずれをも用いてもよいが、取り扱い性等の観点からは熱可塑性樹脂が好ましい。前記樹脂の例としては、耐熱性の高い(高軟化点の)市販の樹脂を適宜用いることができるが、マーク生地を構成する素材及び接着層に用いられる熱可塑性樹脂との接着性を考慮しても選定されることが好ましい。このような樹脂としては、ウレタン系の樹脂等が挙げられ、例えば、脂肪族ポリエステル系ポリウレタンとポリエーテル系ポリウレタンとの混合物(以下、適宜「脂肪族ポリエステル・ポリエーテル系ポリウレタン」と称することがある。)が挙げられ、例えば、日本ポリマック有限会社製の「ポリマックDL−470E」(軟化点220〜230℃)を用いることができる。
【0033】
また、前記介在層は、前記樹脂から成るフィルムをラミネート法或いはコーティング法によって前記マーク生地の裏面に形成することができる。前記介在層の膜厚は特に限定はなく、所望の目的に応じて適宜選定することができるが、洗濯堅牢性や耐摩擦性の観点からは、10μm〜130μmが好ましく、50μm〜100μmが更に好ましい。
【0034】
(接着層)
本発明において接着層は、前記介在層が前記マーク生地と接着層との間に介在するように形成される。接着層は、ユニホーム等の生地とマークとを接着させるために用いられる所謂ホットメルト層である。本発明において前記接着層は、軟化点が170℃以下であって且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む。
【0035】
ここで、「軟化点」とは上述の介在層を構成する樹脂の軟化点と同様に、JIS K−7206(1999)にて規定されるビカット軟化温度(Vicat Softening temp.)を意味する。通常の加工業者における、ユニホームやシャツの生地等の貼着条件は、おおよそ、温度:130℃〜170℃、圧力:100g/cm〜1000g/cm、時間20〜60秒で行われている。上記接着層の軟化点が170℃を超えると、これら貼着条件以上の加熱が必要となり、生産コストが増加するとともに、貼着対象物であるユニホーム等の品質を低下させるおそれがある。前記熱可塑性樹脂の軟化点は、貼着対象物に基づく貼着条件によって適宜選定することができるが、その上限としては、160℃以下が好ましく、150℃以下が更に好ましい。また、貼着前のマーク用生地材料の保存性や貼着後の洗濯堅牢性や耐摩擦性の観点や通常のマークの貼着条件を考慮すると、前記軟化点の具体的な温度範囲としては、70〜170℃が好ましく、80〜150℃が更に好ましい。
また、マークを被着物に貼付けする際の加熱温度によって介在層が影響を受けないように、前記介在層を構成する樹脂の軟化点と前記接着層を構成する熱可塑性樹脂の軟化点との差としては、10℃以上が好ましく、20℃以上が更に好ましく、30℃以上が特に好ましい。
【0036】
本明細書において「メルトフローレート」とは、メルトインデックス(Melt index(MI))と同義であり、JIS−K7210(1999)B法に従い、温度190℃、荷重8.76kgで測定された値を意味する。上記接着層を構成する熱可塑性樹脂のメルトフローレートが100g/minを超えると、昇華性染料を用いて例えば、温度:180℃、圧力:1g/cm、時間:45秒の条件で昇華転写した場合に、介在層にピンホールや微少な亀裂に溶融した熱可塑性樹脂が侵入してマーク生地まで達してしまい、マーク生地表面に滲み出てしまう。前記熱可塑性樹脂のメルトフローレートとしては、接着層の塗布性や成形性などの形成効率を考慮すると、60〜100g/10minが好ましく、65〜95g/10minが更に好ましく、70〜90g/10minが特に好ましい。尚、上記メルトフローレートは、対象の熱可塑性樹脂に対しJIS−K7210に従って数回測定し、その平均値をとることで決定することができる。メルトフローレートの調整方法は特に限定はないが、例えば、ポリマーの分子量を大きくすることで増粘(メルトフローレートが小さくなる)することができる。
【0037】
前記接着層を形成する熱可塑性樹脂は上述の軟化点及びメルトフローレートの条件を満足するものであれば、市販の樹脂を適宜用いることができるが、介在層を形成する樹脂と親和性のあるホットメルト系の熱可塑性合成樹脂であることが好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、軟化点及び粘度を上述の条件に適合するように調整された熱可塑性ポリウレタン等が挙げられる。当該ポリウレタンは介在層に上述の脂肪族ポリエステル・ポリエーテル系ポリウレタンの混合物を用いた場合に特に介在層との接着性が良好である。このような熱可塑性ポリウレタンとしては、例えば、「SHM103−PUB」シーダム株式会社(軟化点90℃、メルトフローレート(条件190℃・8.76kg)平均値78.71g/10min)を用いることができる。
【0038】
また、前記接着層は、前記熱可塑性樹脂から成るフィルムをラミネート法或いはコーティング法によって前記介在層の裏面(介在層のマーク生地が設けられている面とは逆の面)に形成することができる。前記接着層の膜厚は特に限定はなく、所望の目的に応じて適宜選定することができるが、対象物への貼着性や洗濯堅牢性や耐摩擦性の観点からは、10μm〜150μmが好ましく、50μm〜100μmが更に好ましい。
【0039】
(剥離シート)
剥離シートは、前記接着層の裏面(接着層の介在層が設けられている面とは逆の面)に裏打ちされたシート状の材料であり、接着層を構成する熱可塑性樹脂に対して剥離性を有する。本発明のマーク用生地材料は、剥離シートを備えることで、貼着前のマーク用生地材料に昇華性染料を転写する際の加熱加圧によって溶融した熱可塑性樹脂が他に付着等するのを防止することができる。剥離シートは、接着層に用いられる熱可塑性樹脂材料の種類によって、剥離処理が施された剥離紙や樹脂フィルムなど市販の剥離シートから適宜選定することができ、例えば、台紙にポリエチレンやシリコンをコーティングしたもの等を用いることができる。
【0040】
《マーク形成方法》
本発明のマーク形成方法は、マーク用生地材料上に昇華性染料で形成されたパターンを転写してマークを形成するマーク形成方法であって、マーク用生地材料上に昇華性染料で形成されたパターンを加熱によって昇華転写するパターン形成工程を含む。前記マーク用生地材料は、繊維を含むマーク生地と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも高い樹脂を含む介在層と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも低く且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、剥離シートと、をこの順で少なくとも含み、前記パターン形成工程において、前記マーク用生地材料の前記マーク生地表面に、前記昇華性染料で形成されたパターンを昇華転写する。本発明のマーク形成方法は、必要に応じてマーク用生地材料を所望の形状の裁断する裁断工程等を含んでいてもよい。
【0041】
(パターン形成工程)
本発明のマーク形成方法は、マーク用生地材料のマーク生地表面に、昇華性染料で形成されたパターンを昇華転写する工程である。昇華性染料は、熱を加えることで高分子に分子結合して染色する特色を有する染料である。通常、昇華性染料は、分散安定剤等の添加剤を混合して用いられる。本発明で用いられる昇華性染料は特に限定はなく市販品の昇華性染料を適宜選定して用いることができるが、生産コストやマーク生地として好ましく用いられるポリエステルの軟化点等を考慮すると、220℃以下にある昇華性染料を用いることが好ましい。
【0042】
本発明のマーク形成方法においてパターン形成は、昇華性染料をマーク生地表面に転写することで行われる。昇華転写に用いられる転写シートは、例えば、公知の転写紙に昇華性染料で図柄等のパターンが形成された印刷された昇華転写シート等を適宜選定して用いることができる。
【0043】
(マーク用生地材料)
本発明のマーク形成方法に用いられるマーク用生地材料は、繊維を含むマーク生地と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも高い樹脂を含む介在層と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも低く且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、剥離シートと、をこの順で少なくとも含む。本発明のマーク形成方法に用いられるマーク用生地材料は、上述の本発明のマーク用生地材料と同様の層構成を有する。ここで、マーク生地と剥離シートとについては上述と同様であるため説明を省略する。
【0044】
本発明のマーク形成方法に用いられるマーク用生地材料における介在層は、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも高い樹脂を含む。前記介在層を形成する樹脂は上記昇華性染料の昇華温度よりも高い軟化点を有するものであれば、所望の目的に応じて公知の合成樹脂などの中から適宜選定することができる。また、前記樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のいずれをも用いてもよいが、取り扱い性等の観点からは熱可塑性樹脂が好ましい。前記樹脂の例としては、耐熱性の高い(高軟化点の)市販の樹脂を適宜用いることができるが、マーク生地を構成する素材及び接着層に用いられる熱可塑性樹脂との接着性を考慮しても選定されることが好ましい。上記昇華性染料の昇華温度が、180〜210℃などの場合には、上述の本発明のマーク用生地材料における介在層に用いられる樹脂と同様の樹脂を用いて同様の介在層を有することが好ましい。尚、前記介在層を構成する樹脂の軟化点としては、昇華性染料を昇華転写する際のパターン形成工程の加熱温度よりも高いことが好ましい。
【0045】
本発明のマーク形成方法に用いられるマーク用生地材料における接着層は、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも低く且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む。前記接着層を形成する熱可塑性樹脂は上記昇華性染料の昇華温度よりも低い軟化点を有し、且つメルトフローレートが100g/10min以下のものであれば、所望の目的に応じて公知の熱可塑性樹脂などの中から適宜選定することができる。前記熱可塑性樹脂の例としては、例えば、軟化点及び粘度を上述の条件に適合するように調整された熱可塑性ポリウレタン等が挙げられる。当該ポリウレタンは介在層に上述の脂肪族ポリエステル・ポリエーテル系ポリウレタンの混合物を用いた場合に特に介在層との接着性が良好である。上記昇華性染料の昇華温度が、180〜210℃などの場合には、上述の本発明のマーク用生地材料における接着層に用いられる樹脂と同様の熱可塑性樹脂を用いて同様の接着層を形成することが好ましい。
また、マークを被着物に貼付けする際の加熱温度によって介在層が影響を受けないように、前記介在層を構成する樹脂の軟化点と前記接着層を構成する熱可塑性樹脂の軟化点との差としては、10℃以上が好ましく、20℃以上が更に好ましく、30℃以上が特に好ましい。
【0046】
前記マーク用生地材料のマーク生地表面へのパターンの転写は、昇華性染料で形成されたパターンを有する転写シートとマーク用生地材料とを、昇華性染料で形成されたパターンとマーク生地表面とが接するように重ね合わせ、加熱プレス等で加熱・加圧することで行うことができる。この際の昇華条件としては、特に限定はないが、昇華温度が180〜210℃付近の昇華性染料を用いた場合には、温度:180〜210℃、圧力:1g/cm〜300g/cm、時間:45〜60秒程度であることが好ましい。このような昇華転写処理を施すことによって、マーク用生地材料の表面に昇華性染料を用いたパターンを形成することができる。
【0047】
次に、本発明のマーク用生地材料について図を用いて具体的に説明する。
本発明のマーク用生地材料20は図1に示す構成から成るものである。図1においてマーク用生地材料20は、マーク生地21と耐熱介在層22と接着層23と剥離紙24とから構成される。本発明のマーク用生地材料20を構成するマーク生地21とする布地としては、昇華性染料に親和性のあるポリエステル繊維から成る白地の布地が用いられる。前記布地は、織物、編み物、又は、不織布のいずれであってもよい。また、マーク生地21は、少なくとも、転写紙に印刷された昇華性染料を加熱加圧によって昇華して色彩、模様、図柄の前記布に転写するものであるから、その加熱温度に耐える構成成分から成る繊維で作られた布地であることが好ましい。
【0048】
マーク生地21の裏面には、前記マーク生地21と親和性のある熱可塑性合成樹脂によって形成された耐熱介在層22が形成されている。前記熱可塑性樹脂としては、軟化点が180℃以上の脂肪族ポリエステル・ポリエーテル系ポリウレタンの混合物等が用いられる。耐熱介在層22は、前記熱可塑性樹脂溶剤をマーク生地21の裏面コーティングするか、前記熱可塑性樹脂から成るフィルムをラミネートするかによって膜厚20μm〜70μm程度で形成することができる。また、介在層22も、前記マーク生地21に転写紙を以て色彩、模様、図柄を転写するときの加熱加圧によって変形或いは溶融しない材料で形成されることが好ましい。即ち、介在層22とマーク生地21とは、同程度の耐熱温度を有する材料で形成されることが好ましい。
【0049】
介在層22の裏面には、介在層22を構成する熱可塑性樹脂と親和性のあるホットメルト系の熱可塑性合成樹脂を以て接着層23を形成することができる。接着層23は、当該熱可塑性合成樹脂溶剤をコーティングしたり、当該熱可塑性合成樹脂フィルムを介在層22裏面にラミネートして形成することができる。当該接着層23を構成する熱可塑性樹脂としては、軟化点が170℃以下であって且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂としては、軟化点及び粘度を上述の条件に適合するように調整された熱可塑性ポリウレタン等を用いることができる。また、接着層の裏面には常法に従って剥離紙24を貼着される。
【0050】
このマーク用生地材料20を構成する布地から成るマーク生地21に所望の色彩、模様、図柄を形成したマーク用生地とするためには、昇華性染料を以て所望の色彩、模様、図柄を印刷した転写紙の印刷面を、マーク用生地材料10のマーク生地21とする白地の布地に重ね合わせて、例えば、温度約200℃、圧力:約300g/cm、時間約60秒の条件下で加熱加圧を行う。この操作によって、前記転写紙から印刷に用いた昇華性染料が所望の色彩、模様、図柄として前記白地の布地であるマーク生地21に転写し、前記白地の布地であるマーク生地21面に前記昇華性染料による色彩、模様、図柄が形成される。
【0051】
この操作時に、軟化点170℃以下且つメルトフローレート100g/10min以下の熱可塑性合成樹脂によって形成された接着層23は、当然前記加熱加圧操作によって、前記介在層22と剥離紙24の間で溶融するが、本発明のマーク用生地材料20の構成材である白地の布地であるマーク地21には、前記介在層22が設けてあるので、前記マーク地21には接着層23の構成成分である溶融した合成樹脂が滲み出すことはない。また、剥離紙からも滲み出すことはない。従って、従来のような不良品となることはない。
【0052】
即ち、加工業者は、前記マーク用生地材料20を入手しさえすれば既存の加熱プレス機を以て、昇華性染料により印刷した所望の色彩、模様、図柄を施した転写紙を使って、所望の色彩、模様、図柄を転写したマーク用生地を作ることができる。このマーク用生地から加工業者がマークを作る手段は、従来法により、所望の形状に裁断して図2に示すマーク25とすることは勿論である。また、そのマーク25をユニホーム等に接着する手段は従来法によることは勿論である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本願発明を具体的に説明する。
【0054】
[実施例1]
下記表1に示す構成で以下のように10cm×10cmのマーク用生地材料を作製した。まず、マーク生地裏面に介在層塗布し、その後乾燥して介在層を形成した。介在層表面を顕微鏡によって観察したところピンホールの発生が確認できた。介在層のピンホールは直径10μm〜200μm程度のものが1cm当たり平均10個程度確認できた。次いで、介在層上に接着層を塗布によって形成し、さらに剥離紙をラミネートしてマーク用生地材料を作製した。
【0055】
〈滲み評価〉
得られたマーク用生地材料に、昇華プリンタによって昇華性染料のパターンが印刷された離型紙で構成される昇華転写シートを用い加熱プレス機によって昇華転写処理を施した。この際、昇華転写条件は、温度210℃、圧力1g/cm、時間45秒であった。昇華転写処理後、昇華転写シートの離型紙をマーク用生地材料から剥がしたところ、マーク生地と離型紙とが接着されることがなく良好に剥がすことができた。また、パターンが形成されたマーク生地表面を目視によって観察したところ樹脂の滲みは確認されなかった。尚、上記昇華転写シートには、キーアン社(KIIAN S.P.A)製の製品名:DIGISTAR DES ELITEの4色(黒、マゼンタ、イエロー、シアン)を用いた。これらの昇華温度は、色によって異なるが、180℃〜210℃である。
【0056】
〈剥離耐性〉
パターンが形成されたマーク用生地材料を用いて、ASTM D 903に従って180度剥離試験を行った。接着条件は、温度150℃、圧力200g/cm、時間30秒であった。同試験は3回行いその平均値を結果とした。結果を表1に示す。
【0057】
〈洗濯堅牢性〉
パターンが形成されたマーク用生地材料から剥離紙を剥がし、接着条件:温度150℃、圧力200g/cm、時間30秒で市販のポリエステル製のユニホームにマークを貼り付けた。次いで、家庭用洗濯機を用い、洗濯−すすぎ−脱水の1クール45分間の工程を50回繰り返し、マークの色落ちや剥がれの状態を観察し下記基準に従って評価した。結果を表1に示す。
◎:マークの色落ちや剥がれの状態が観察されなかった。
○:マークの色落ちや剥がれがやや観察された。
×:マークの色落ちや剥がれが多く観察された。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、接着層に用いられた熱可塑性樹脂(SHM−103−PUB)を、SHM107−PUR(シーダム株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様に比較例1のマーク用生地材料を作製し、同様の評価を行った。尚、昇華転写処理後、昇華転写シートの離型紙をマーク用生地材料から剥がしたところ、マーク生地と離型紙の一部とが接着され紙破れを生じた。また、パターンが形成されたマーク生地表面を目視によって観察したところ樹脂の滲みが確認された。
【0059】
【表1】


・マーク生地
ポリエステル繊維(ポリエステル100%)、白色朱子織サテン地、株式会社宝來社製
・介在層
商品名:ポリマックDL−470E、日本ポリマック有限会社製
・接着層
商品名:SHM103−PUB、シーダム株式会社製
※メルトフローレート(荷重:8760g):0.7(125℃)、18.89(160℃)、78.71(190℃)(単位:g/10min)
商品名:SHM107−PUR、シーダム株式会社
※メルトフローレート(荷重:8760g):5.3(125℃)、22.68(160℃)、106.39(190℃)(単位:g/10min)
・剥離紙
グラシン紙、品番:WG、リンテック株式会社製
【0060】
表1の結果から分かるように、MI値(メルトフローレートと同義)が100g/10min以下の熱可塑性ポリウレタンを用いた実施例1のマーク用生地材料は、昇華転写後接着層を構成する樹脂の滲みがなく良好なパターンを形成できた。また、剥離耐性及び洗濯堅牢性の結果も良好であった。一方、MI値が100g/10minを超える熱可塑性ポリウレタンを用いた比較例1のマーク用生地材料は、剥離耐性及び洗濯堅牢性は良好であったものの、昇華転写の際にマーク生地表面に滲みが生じ、転写紙の紙破れが発生していた。
【0061】
〈着心地感〉
実施例1及び比較例1から得られたマーク用生地材料を用いて、ポリエステル100%のTシャツに、胸マーク及び背番号を実着した。この際、実施例1のマーク用生地材料を用いたTシャツは、柔軟で、着心地が良好であった。一方、比較例1のマーク用生地材料を用いたTシャツは表面にザラツキがあり、固く着心地は悪かった。これは、昇華転写の際にマーク生地表面に接着層が滲み出たためと推測される。
【符号の説明】
【0062】
1 マーク生地
2 接着層
3 剥離紙
4 マーク用生地材料
5 マーク
6 マーク生地
7 不織布
7’仮接着剤
8 複合生地
9 接着層
10 剥離紙
11 マーク用生地材料
12 マーク
20 マーク用生地材料
21 マーク地
22 耐熱介在層
23 接着層
24 剥離紙
25 マーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含むマーク生地と、
軟化点が180℃以上の樹脂を含む介在層と、
軟化点が170℃以下であって且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、
剥離シートと、
をこの順で有するマーク用生地材料。
【請求項2】
マーク用生地材料上に昇華性染料で形成されたパターンを加熱によって昇華転写するパターン形成工程を含むマーク形成方法であって、
前記マーク用生地材料は、繊維を含むマーク生地と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも高い樹脂を含む介在層と、軟化点が前記昇華性染料の昇華温度よりも低く且つメルトフローレートが100g/10min以下の熱可塑性樹脂を含む接着層と、剥離シートと、をこの順で少なくとも含み、
前記パターン形成工程において、前記マーク用生地材料の前記マーク生地表面に、前記昇華性染料で形成されたパターンを昇華転写するマーク形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−237080(P2012−237080A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108239(P2011−108239)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(399132386)株式会社宝來社 (12)
【Fターム(参考)】