説明

ミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白およびこれを有効成分として含有する抗筋萎縮剤

【課題】ミオスタチン活性化プロテアーゼの阻害物質を得る。
【解決手段】卵白を硫酸アンモニウムで分画し、さらに陰イオン交換クロマトグラフィーで精製することにより、ミオスタチン安定発現株の培地への添加により細胞増殖及び分化をもたらすミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を得、このミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を有効成分として含有する抗筋萎縮剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵白由来の抗筋萎縮剤に関する。
【背景技術】
【0002】
長期臥床や無重力状態が持続すると、筋肉が萎縮し、しばしば線維化を伴う筋変性が見られる。これまでに、筋蛋白質の分解経路を制御することにより筋肉の代謝を改善し、筋萎縮の予防又は軽減を図るものとして、大豆蛋白質由来のペプチド混合物が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、一度萎縮した筋肉を薬剤等で回復させることは容易ではなく、現在のところ、リハビリが唯一の回復手段と言われている。
【0004】
一方、骨格筋の活動状態によって変動し、筋サイズの決定に携わる生理活性物質としてミオスタチンが知られている。ミオスタチンは、細胞内で不活性型の前駆体として存在し、ミオスタチン活性化プロテアーゼによる切断を受けて活性型となり、細胞の増殖と分化を負に制御していると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-13468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ミオスタチンを介した筋量調節を可能とすべく、ミオスタチン活性化プロテアーゼを阻害する物質を見出し、それにより筋萎縮の予防及び治療、並びに筋肉量の改善を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、優れた栄養源である卵白蛋白質からミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害栄養素を抽出することに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、卵白を硫酸アンモニウムで分画し、さらに陰イオン交換クロマトグラフィーで精製することにより得られ、ミオスタチン安定発現株の培地への添加により細胞増殖及び分化をもたらすミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を提供する。
【0009】
また、このミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を有効成分として含有する、筋萎縮予防、筋萎縮抑制又は筋肉量増加に用いる抗筋萎縮剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白は、筋萎縮予防、筋萎縮抑制、又は筋肉量増加に有用であり、筋萎縮予防、筋萎縮抑制、又は筋肉量増加のための抗筋萎縮剤の有効成分となり、機能性食品の成分としても有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、陰イオン交換クロマトグラムにおける溶出画分と酵素阻害活性の関係図である。
【図2】図2は、ミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を添加せずに培養したミオスタチン安定発現株と、ミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を添加して培養したミオスタチン安定発現株の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
ミオスタチンは、骨格筋の活動状態によって変動し、筋サイズの決定に携わる生理活性物質であり、ミオスタチン活性化プロテアーゼにより活性化され、細胞の増殖や分化を抑制するが、本発明のミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白は、このミオスタチン活性化プロテアーゼの活性阻害剤となるので、筋芽細胞の増殖及び分化を可能とする。
【0013】
本発明のミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白の、ミオスタチン活性化プロテアーゼに対する活性阻害作用は、筋細胞及びミオスタチン安定発現株の培養時に本発明のミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を添加しないと筋芽細胞の増殖が抑制され、分化が進行しないのに対し、添加すると筋芽細胞が増殖し、さらには分化が進行することから確認できる。また、本発明のミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白の添加により、活性型ミオスタチンの量を顕著に低減させることができる。
【0014】
一方、本発明のミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白は、一般に優れた栄養源として食されている卵白蛋白質から分離精製することができる。
【0015】
したがって、本発明のミオスタチンプロテアーゼ阻害蛋白は、人に投与する際、安全性が高い。よって、一般の卵加工食品等の食品において、ミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白濃度を通常よりも高めることにより、寝たきりの高齢者や病人における筋萎縮や、宇宙飛行士の筋萎縮の予防や抑制、さらに筋肉量の増加を図る機能性食品として有用となる。
【0016】
また、本発明のミオスタチンプロテアーゼ阻害蛋白は、その精製度をより高め、剤型を適宜選択することにより、経口あるいは外用の筋萎縮予防剤、筋萎縮抑制剤、筋肉量増加剤などの抗筋萎縮剤として有用となる。
【0017】
本発明のミオスタチンプロテアーゼ阻害蛋白の卵白からの分離精製方法としては、まず、卵白として、鶏卵の卵白を用意する。鶏卵の卵白としては、分離精製の向上の点から、乾燥卵白が好ましい。
【0018】
次に、乾燥卵白に対して、常法により硫酸アンモニウムを用いて蛋白質を分画し、さらに陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画し、得られたフラクションに対して、ミオスタチン活性化プロテアーゼの阻害活性率を測定し、この阻害活性率の高いフラクションを集めればよい。ここで、陰イオン交換クロマトグラフィーに使用する陰イオン交換としては、DEAE(diethylaminoethyl)等の弱陰イオン交換体を使用することが、スケールアップが容易であり、大量精製が可能となる点で好ましい。
【0019】
また、阻害活性率は、実施例で詳述するように、分画により得られたフラクションを添加してミオスタチン活性化プロテアーゼをインキュベートした場合と、添加せずにインキュベートした場合との酵素活性の比率からミオスタチン活性化プロテアーゼの残存活性率(%)を求め、それを100%から差し引くことにより得られる数値である。
【0020】
こうして得られるミオスタチンプロテアーゼ阻害蛋白は、等電点が8.0未満である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
(1)ミオスタチンプロテアーゼ阻害蛋白の精製
乾燥卵白 (キユーピー(株)) を4℃下でリン酸バッファー, pH 7.4 に溶解後、4℃、13,200 ×gで20分間遠心し、上清を60%硫酸アンモニウムによって分画した。分画サンプルを20 mM Tris-HCl, pH 8.0で透析した後、陰イオン交換カラム (HiTrap DEAE FF 5ml、GE Health Care社) によって分画した。カラムは20 mM Tris-HCl, pH 8.0で平衡化した後、サンプルを流し、20 mM Tris-HCl, pH 8.0 で洗浄後、流速5 ml/minでNaCl濃度を0-1.0 Mの範囲で直線的に上げ、結合サンプルを溶出した。
【0022】
酵素阻害活性測定およびリバースザイモグラフィー解析により溶出サンプル中の阻害活性画分を抽出した。ここで、リバースザイモグラフィーは次のように行った。
まず、イオン交換クロマトグラフィーにより分画し、得られた酵素阻害蛋白が含まれるサンプルを2%ゼラチン含有の10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動(泳動buffer;0.1% SDSを含む125 mM Tris, 192 mM Glycine buffer)にて展開した。泳動後のゲルは、ミオスタチン活性化プロテアーゼ溶液中で、37℃、一晩反応させた後、CBB(Coomassie brilliant blue)にて染色、その後、脱色を行った。プロテアーゼに対し阻害活性を有する蛋白は染色バンドとして確認できた。
【0023】
また、阻害活性率は次の方法で算出した。
まず、イオン交換クロマトグラフィーにより分画し、得られた各フラクションとミオスタチン活性化プロテアーゼを100 mM Tris-HCl (pH 8.0)溶液中で、37℃、5分間プレインキュベーションし、人工基質Pry-Arg-Thr-Lys-Arg-MCAに対する残存酵素活性を測定した。この場合、ミオスタチン活性化プロテアーゼ残存酵素活性の測定値は、基質から切断された7-amino-4-methylcoumarinの量を、励起波長380 nm、蛍光波長460 nmの条件下で、蛍光測定法で測定することにより得た。
【0024】
そして、ミオスタチン活性化プロテアーゼ残存酵素活性率を、上述の残存酵素活性測定値の、プロテアーゼ単独(阻害画分なし)の際の酵素活性測定値に対する比率として求め、さらに、次式により阻害活性率を求めた。
阻害活性率(%)=100−プロテアーゼ残存活性率
【0025】
結果を図1に示す。
【0026】
(2)安定発現細胞株を用いた解析
C2C12細胞(マウス筋芽細胞)の親株(WT)およびミオスタチン安定発現株を2%ウマ血清を含む分化誘導培地(Dulbecco's modified Eagle's medium (DMEM))によって分化を誘導した。その際、上述の(1)で得た各フラクションのうち、阻害活性率が最も高かったNo.6のフラクションを同時に培地中に添加した。 5日後の細胞の状態を顕微鏡で観察した。結果を図2に示す。
【0027】
図2において、(a)はミオスタチン安定発現株の樹立に用いた野生株、(b)は(1)のフラクション非添加のミオスタチン安定発現株、(c)は(1)のフラクションNo.6を添加したミオスタチン安定発現株を示す。
【0028】
図2から、(b)のフラクション非添加のミオスタチン安定発現株では、C2C12細胞の分化が全く観察されなかったが、(c)のフラクションNo.6を添加したミオスタチン安定発現株では筋管細胞への分化が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、寝たきりの高齢者、病人、宇宙飛行士などの筋萎縮の予防、抑制又は筋量の増加を図る抗筋萎縮剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵白を硫酸アンモニウムで分画し、さらに陰イオン交換クロマトグラフィーで精製することにより得られ、ミオスタチン安定発現株の培地への添加により細胞増殖及び分化をもたらすミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白。
【請求項2】
請求項1記載のミオスタチン活性化プロテアーゼ阻害蛋白を有効成分として含有する、筋萎縮予防、筋萎縮抑制又は筋肉量増加に用いる抗筋萎縮剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246266(P2012−246266A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120521(P2011−120521)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 財団法人旗影会 刊行物名 平成21年度 研究報告概要集 発行年月日 平成22年11月30日
【出願人】(511130966)
【出願人】(511130977)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】