説明

ミオパシー関連性の覚醒障害を矯正することが意図される医薬品を製造するためのモダフィニルの使用

【課題】ミオパシー(筋強直性ジストロフィー)の進行の間に観察される、覚醒に影響を及ぼす障害を矯正するために意図される医薬品の提供。
【解決手段】下記構造で示されるベンズヒドリルスルフィニルアセトアミド、すなわちモダフィニル、及びその異性体を含有する医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モダフィニル又はその誘導体の新規な治療上の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モダフィニル、又はベンズヒドリルスルフィニルアセトアミドは、式:
【0003】
【化1】

【0004】
の化合物である。
【0005】
この化合物及び中枢神経系に対する活性剤としてのその治療上の使用は、特許出願FR-A-2,385,693に記載されている。
【0006】
モダフィニルは、ナルコレプシー及び特発性過眠症の処置において治療的に使用される。
【0007】
モダフィニルの左旋性及び右旋性異性体もEP-A-0 233 106に記載されており、当該左旋性異性体はより優れた生物学的利用能を有するものとして提示されている。
【0008】
モダフィニル及びその異性体は、ミオパシー、そして特に筋強直性ジストロフィー関連性の覚醒障害に対して有益な効果を有する。
【0009】
成人性ミオトニアに最も多い筋強直性ジストロフィー、又はシュタイネルト病は、罹患率が約5〜8/100,000であると推定されている、遺伝性疾患である(P. S. Harper, "Myotonic dystrophy", 2nd Ed., Saunders, Philadelphia, USA, 1989)。優性な常染色体の方法に従い伝えられるこの障害は、プロテインキナーゼをコードする遺伝子に属するトリヌクレオチド配列の異常な増幅を特徴とする遺伝的異常(第19染色体上に位置する)を常に伴う。
【0010】
筋強直性ジストロフィーは、骨格筋及び呼吸筋、心臓、眼の水晶体、及び中枢神経系の発作を含むことがある、多器官に及ぶ病状である。それは、本質的に顔面の筋肉、咀嚼筋、胸鎖乳突筋及び四肢の遠位筋系に影響を及ぼす自発性及び誘導性筋緊張、萎縮及び運動性欠損症を含んで成る筋骨格系発作によってしばしば明るみとなる。神経性の発作(MRIによって対象化される)は、心室の肥大、皮質下性白質の萎縮及び変化、並びに海馬の神経原線維変性及び神経の損失の様な病変を含んで成る。この神経性発作は、臨床的に言えば、最大で皮質下痴呆、自発性の欠損及び人格障害の全体に及ぶことがある認識性障害(無関心、怠惰、攻撃性等)によって明るみとなる。
【0011】
呼吸機能及び睡眠障害に対する効果は多く見られる。複数の患者にとって、表される主な不快感は、深刻な昼間の過剰な傾眠状態(diurnal hypersomnolence)である(P. S. Harper, R. Rudel, "Myotonic Dystrophy", A. Engel and C. Franzini-Armstrong, eds. Myology 2nd Edition, 1994)。筋強直性ジストロフィーの昼行性過眠(diurnal hypersomnia)の機構は、未だに知られていない。恐らく肺胞換気亢進に関連している炭素昏睡(carbonarcosis)、又は中枢性及び/又は閉塞性、あるいは特発性の睡眠時無呼吸症候群と関係していると思われる。しかしながら、それは正常な機能的呼吸試験評価(functional respiratory examination assessment)を有し、そして更に正常な睡眠ポリグラフ計を有するジストロフィーの患者においても観察され得る。この状況において、シュタイネルト筋強直性ジストロフィーは、ジェリノー病(ナルコレプシー)、睡眠時無呼吸症又は特発性過眠の、従来の全体像で連想されない中枢神経系の発作に起因するであろう(Van der Meche et al., Neurol, Neurosurg psychiatry, 57: 626-628, 1994; Ono et al., Neurology, 46: 228-231, 1986)。
【0012】
シュタイネルト病(筋強直性ジストロフィー)に苦しむ患者の昼間の過剰な傾眠状態は、これまでにも中枢神経系に対する刺激的特性を有する医薬品を用いる多くの治療的試みの対象とされてきた。
【0013】
現在入手可能な医学文献は、異なる作用機構及び薬理学的プロファイルを有する2つの化合物:メチルフェニデート(Van der Meche et al., Muscle and Nerve 9:341-344, 1986)及びセレギリン(Antonini et al., J. Neurol. Sciences 147: 167-169, 1997)で得られた予備段階の結果を示している。最初の場合において、意識レベルの改善が観察され、一方MOA-B阻害剤の使用は、20mg/日の用量で無効であることが判明した。
【0014】
この治療的試みの状況は、比較的望ましくないものであり、おそらく、特にジェリノー病、又は特発性過眠、又は睡眠時無呼吸症のいずれにも見られない中枢神経系の病変を伴う場合に、筋強直性ジストロフィーの生理病理学的特異性と関係していると思われる。
【0015】
モダフィニルは、従来の精神刺激薬(d-アンフェタミン、メチルフェニデート)と神経化学的活性に関してかなり異なる。具体的には、意識を修飾する用量範囲内で、モダフィニルは、d-アンフェタミン及びメチルフェニデートと異なり、常用の精神刺激薬の主要な標的であるドーパミンに対する効果を有さない。
モダフィニルは更に、行動活性の点でもアンフェタミンと異なる。中毒性物質識別試験において、アンフェタミンによるモダフィニルの効果の一般化は非常に弱く;モダフィニルは従来の精神刺激薬の場合に、直ちに表れた2つの行動である、自己管理又は場所の好みのいずれも導くことはない。更に、モダフィニルはコカインの自己管理を変化させず、そしてこの行動の再発に影響を与えない。最後に、モダフィニルは脳の組織においてc-fosの発現を活性化するが、それは従来の精神刺激薬が関係するものと全く異なる領域において活性化する。従って、JS. Lin等の刊行物において(PNAS, 1996)、c-fosプロトオンコジーンは、ネコにおけるモダフィニルの覚醒量の投与後に、中枢ドーパミン性投射領域(皮質を含む)で発現しないが、それはd-アンフェタミン及びメチルフェニデートの同等の覚醒量(モダフィニルのものに関する)の投与後に、これらの領域で高度に発現する。
【発明の概要】
【0016】
これらの一連の考え及びこれらの精神の実験データによって、本発明者は筋強直性ジストロフィーに苦しむ患者に投与されたモダフィニルが意外にも、十分な心理社会的生活及び関係を両立し得る昼間の覚醒状態を回復させることができることを発見した。これらのポジティブな結果は、シュタイネルト病に苦しむ患者が、正常な機能又は呼吸の試験及び正常なポリグラフ計の評価を有し、これは既に発見され、そして既に適合された治療上の使用のための患者の対象とされてきたものから独立しているモダフィニルの独自の効果についての良好な論拠である。
【0017】
本発明者は更に広く、モダフィニル及びその異性体が、ミオパシーの進行の間に観察される覚醒障害を矯正することを発見した。
【0018】
本発明の目的は、従って、ミオパシーの進行の間に観察される覚醒障害を矯正することが意図される医薬品の製造のための、モダフィニル、及びその異性体の使用である。
【0019】
本発明の目的は、更に詳しくは、筋強直性ジストロフィー、又はシュタイネルト病関連性の覚醒障害を矯正することが意図される医薬品の製造のための、モダフィニル及びその異性体の使用である。
【0020】
本発明の目的はまた、筋強直性ジストロフィーに苦しむ患者において観察される覚醒障害を矯正するための方法であって、この患者に対する有効量の、モダフィニル及びその異性体から選択される化合物の投与を含んで成る方法である。
【0021】
本発明の目的はまた、更に詳しくは、筋強直性ジストロフィー、又はシュタイネルト病に苦しむ患者の覚醒障害を矯正するための方法であって、この患者に対する、有効量の、モダフィニル及びその異性体から選択される化合物の投与を含んで成る方法である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ミオパシー、そして特に筋強直性ジストロフィーに苦しむ患者において、モダフィニル及びその異性体は、正常な睡眠のものに匹敵する睡眠パターンを回復するために、そして心理社会的生活及び関係の質を向上させるために、昼間の過剰な傾眠状態と特異的に戦うために使用され得る。
【0023】
モダフィニル及びその異性体は、経口投与に適し、且つモダフィニル及びその各異性体を50〜600mg、好ましくは100〜400mgの間の単一用量を含む形態で投与され得る。
【0024】
好ましい医薬形態は、壊れやすい又は壊れにくい錠剤、ゲルカプセル、ウェハーカプセル又は制御速度微粒剤の形態での繰り返しの経口投与が意図される医薬形態である。
【0025】
しかしながら、モダフィニルは、他の経路を介して、特に経皮的に投与されることがあり、そして軟膏(ointment)、軟膏(salve)、ゲル、溶液、ローションの形態、経皮投与のために皮膚上でフィルムを形成する液体形態又は「パッチ」型の形態で提供されることがある。
【0026】
このように、覚醒/睡眠周期の混乱を研究することについて評価した方法が、(睡眠時無呼吸症及びナルコレプシーの臨床的且つ治療的経験の観点で)病理学的であるとみなされた頻度及び期間の昼行性過眠を証明した、筋強直性ジストロフィーに苦しむ一連の患者において、当該患者は100〜400mg/日のモダフィニルの経口量で処置された。これらの大部分の患者において、モダフィニル処置が主観的に有効であることが判明した;当該患者は、覚醒障害及び昼間の傾眠状態のはっきりとした後退を報告している。
【0027】
例えば、特に睡眠麻痺があり、入眠時幻覚又は脱力発作のない側頭部の萎縮、下垂症、筋肉の弱さと関連する筋緊張、行動障害及び傾眠状態(この開始は1998年に遡る)を特徴とする、シュタイネルト病に苦しむ患者(34歳)において、1999年2月(エプワース尺度上のスコア=20)から1999年8月(エプワース尺度上のスコア=2)までの6ヶ月間、1日当たり100mgの経口量のモダフィニルによる処置の後、エプワース眠気尺度上の18ユニットの減少が観察された(Johns M. W. Sleep, 1991, 14, 540を参照のこと)。
【0028】
モダフィニルによる処置によって提供される利益は、更にシュタイネルト病に苦しむ他の二人の患者においても証明された。最初の患者は、側頭窩の萎縮、そして更に足の欠損、頸部の弱さ及び筋栄養素の拡散を有する、明確な形態型を持つ39歳の女性である。この患者は、エプワース尺度上での16、カロリンスカ尺度又はKSS尺度(Akerstedt P., Gillberg M., Int. J. Neurosci. 1990; 52: 29-37)上での8のスコアをもたらす深刻な昼行性過眠に苦しんでいたが、モダフィニル(200mg/日)による2年間の処置後に、当該症候学の完全な又はほぼ完全な消失(KSS眠気尺度:処置前:8/処置後:2)、及び彼女の個人的な、及び専門的な生活の質における向上を示した。第2の患者(38歳)も、両手の筋緊張症、筋肉の欠損及び白内障に苦しんでおり、処置無しで非常に顕著な昼行性過眠を示していた(エプワース尺度=16)。モダフィニルの投与(600mg/日)は、昼行性過眠の部分的な解決を誘導した(KSS眠気尺度:処置前:8/処置後:4)。
【0029】
モダフィニルで処置した場合(200mg/日)、第4の患者(25歳)は、延長された面を有するシュタイネルト病、側頭窩の萎縮、顎前突症、巨大舌及び構音障害についての明確な形態型を持ち、そして筋栄養の拡散の強力な徴候を示していたが、モダフィニルを2ヶ月間毎日投与した後に、昼行性過眠のはっきりとした改善を経験した(エプワース尺度:処置前:11/処置後:6;カロリンスカ尺度:処置前:7/処置後:2)。
【0030】
筋原性の徴候及び追加の多発性神経障害を有する筋強直性ジストロフィーに苦しむ、40歳の第5の患者において観察される強力な昼間の過剰な傾眠状態の症候は、モダフィニル(300mg/日)による処置のもと後退し、この利益はエプワース尺度上の患者のスコアの明確な改善をもたらした(処置前:19/処置後:10)。
【0031】
別の臨床的な改善も、1年間進行してきた過剰な昼間の傾眠状態について1990年に相談された第6番目の患者において、モダフィニルのもとで観察された。この患者の臨床試験は、シュタイネルト病の徴候を明らかにした。不幸なことにメチルフェニデート(アンフェタミン誘導体)で処置されてきた、この56歳の患者は、代わりに200mg/日、そして次に300mg/日のモダフィニルの経口摂取を受けた。この新規処置の1.5ヶ月後、この第6の患者の過剰な傾眠状態ははっきりと改善した(エプワース眠気尺度上のスコア(処置前:18〜24/処置後:15))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミオパシーの進行の間に観察される覚醒障害を矯正することが意図される医薬品の製造のための、モダフィニル、及びその異性体の使用。
【請求項2】
筋強直性ジストロフィー、又はシュタイネルト病関連性の覚醒障害を矯正することが意図される医薬品の製造のための、モダフィニル及びその異性体の使用。
【請求項3】
ミオパシー、特に筋強直性ジストロフィーに苦しむ患者における、昼間の過剰な傾眠状態と特異的に戦うための医薬品の製造のための、モダフィニル及びその異性体の使用。
【請求項4】
ミオパシー、特に筋強直性ジストロフィーに苦しむ患者における、正常な睡眠のものに匹敵する睡眠パターンを回復するための、そして心理社会的生活及び関係の質を向上させるための医薬品の製造のための、モダフィニル及びその異性体の使用。
【請求項5】
前記医薬品が経口投与に適し、且つモダフィニル及びその各異性体を50〜600mg、好ましくは100〜400mgの間の単一用量を含む形態であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
医薬形態が、壊れやすい又は壊れにくい錠剤、ゲルカプセル、ウェハーカプセル又は制御速度微粒剤の形態での繰り返しの経口投与が意図されることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬品が経皮投与に適した形態にあることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
ミオパシーに苦しむ患者において観察される覚醒障害を矯正するための方法であって、この患者に対する有効量の、モダフィニル及びその異性体から選択される化合物の投与を含んで成る方法。
【請求項9】
筋強直性ジストロフィー、又はシュタイネルト病に苦しむ患者の覚醒障害を矯正するための方法であって、この患者に対する有効量の、モダフィニル及びその異性体から選択される化合物の投与を含んで成る方法。
【請求項10】
ミオパシー、特に筋強直性ジストロフィーに苦しむ患者の昼行性過眠と特異的に戦うための方法であって、この患者に対する有効量の、モダフィニル及びその異性体から選択される化合物の投与を含んで成る方法。
【請求項11】
ミオパシー、特に筋強直性ジストロフィーに苦しむ患者の、正常な睡眠のものに匹敵する睡眠パターンを回復するための、そして心理社会的な生活及び関係の質を向上させるための方法であって、この患者に対する有効量の、モダフィニル及びその異性体から選択される化合物の投与を含んで成る方法。
【請求項12】
50〜600mgの間の単一用量の、モダフィニルの経口投与を含んで成る、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
壊れやすい又は壊れにくい錠剤、ゲルカプセル、ウェハーカプセル又は制御速度微粒剤の形態のモダフィニルの、繰り返しの経口投与を含んで成る、請求項12に記載の方法。

【公開番号】特開2012−197304(P2012−197304A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−134680(P2012−134680)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2001−555628(P2001−555628)の分割
【原出願日】平成13年1月29日(2001.1.29)
【出願人】(592002949)
【Fターム(参考)】