説明

ミキシング効率に優れる、結晶微粒子の製造方法およびその装置

【課題】ミキシング効率に優れる、結晶微粒子の製造方法およびその装置を提供する。
【解決手段】円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体内に、反応基質Aを含む液体aの旋回流を流す旋回流生成工程、および前記多孔質膜を介して、前記反応基質Aと反応しうる反応基質Bを含む液体bを前記旋回流に供給して混合し、前記反応基質AとBとを反応させて結晶微粒子を析出させる反応工程を含む、結晶微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミキシング効率に優れる、結晶微粒子の製造方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二つ以上の反応基質を反応させる際、反応基質の濃度が局所的に不均一となると副生物を生成しやすい。また、濃度が不均一な状態は、生成物が反応系中に結晶微粒子として析出する場合に粒子径や結晶形態を不均一にする。そこで、簡略なプロセスにおいて、高い収率で化合物を得る、または均一な粒子径を有する結晶性の化合物を得るためには、反応基質を効率よく混合することが必要となる。
【0003】
ミキシングプロセス(混合工程)においては、反応基質の流体が層流あるいは乱流によって強制的に撹拌され、さらに反応基質の分子同士が拡散される。フィックの法則によれば、拡散時間は拡散距離の二乗に比例するので、拡散距離を短くすることで拡散時間を短縮できる。すなわち、ミキシングプロセスにおいて、強制撹拌により二以上の反応基質の流体を微小なセグメントに分割してこれらを効率的に接触させることにより、分子レベルでのミキシング速度を大幅に向上させることができる。
【0004】
近年、ミキシング速度を増大する手段としてマイクロリアクターが注目を浴びている。マイクロリアクターとは、数μm〜数百μmの微小空間内を利用した化学反応装置である。微小空間を利用することにより反応系の単位体積当たりの反応基質の表面積が大きくなり、反応基質同士の接触面積が大きくなるため、効率的な混合や界面反応を行うことができる。また、マイクロリアクターではない通常のプラントではスケールアップにより撹拌効率が大きく変わるために、スケールアップに際して反応条件の再検討が必要であったが、マイクロリアクターではスケールアップ(サイズの拡大)ではなくナンバリングアップ(反応基点の数の増加)により、生産規模が拡大できるので、研究開発から工業的生産への迅速な移行が達成できる。しかしながら、現実的にはマイクロリアクターのナンバリングアップによる生産規模の拡大には限界があり、新たな装置および方法が求められていた。
【0005】
多孔質膜を介して液体bを液体aに供給して両者を反応させるメンブランリアクターは優れたミキシング性能を保持しつつ生産規模を拡大するのに有効な装置として期待されている。メンブランリアクターとしては、円筒型のシラス多孔質ガラス製の多孔質膜(Shiras porous glass、以下「SPG膜」ともいう)を用いたものが知られている(非特許文献1)。このメンブランリアクターは、液体aを円筒体の多孔質膜内部に、流線が円筒体の長手方向に平行な直線となるように流し、液体bを多孔質膜を介して液体aに供給する。つまり、液体aは液体bに直交するように流されるため、クロスフロー液とも呼ばれる。クロスフロー液は、液体bの流れによって膜表面から排除されやすい。その結果、液体bの液は膜表面近傍に滞留し、クロスフロー液とのミキシング効率は低下する。
【0006】
そこで、Yong Wuらはミキシング効率を高めるために、円筒状多孔質膜の円筒体内部に種々の形状の静止型撹拌子を配置して、クロスフロー液を効果的に撹拌することを提案している(非特許文献2)。しかしながら、この方法ではクロスフロー液の膜表面の境界層内での流れを精密に制御することは難しく、十分なミキシング効果は得られなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Membrane Science, vol.299(2007),190−199
【非特許文献2】Journal of Membrane Science, vol.328(2009),219−227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる事情を鑑み、本発明は、ミキシング効率に優れる、結晶微粒子の製造方法およびその装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは鋭意検討した結果、反応基質Aを含む液体aの旋回流に、反応基質Bを含む液体bを多孔質膜を介して供給して、反応基質AとBとを反応させることにより前記課題が解決できることを見出した。すなわち本発明は、
(1)円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体内に、反応基質Aを含む液体aの旋回流を流す旋回流生成工程、および前記多孔質膜を介して、前記反応基質Aと反応しうる反応基質Bを含む液体bを前記旋回流に供給して混合し、前記反応基質AとBとを反応させて結晶微粒子を析出させる反応工程を含む、結晶微粒子の製造方法、
(2)円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体であって、一方の端近傍の円周面に反応基質Aを含む液体aの流入口およびもう一方の端の断面に生成物の排出口を有する円筒体、前記液体aを前記円筒体の軸に略垂直かつ内壁面の接線方向から流入できるように、前記流入口に接続され、前記円筒体の軸に対して略垂直かつ前記円筒体の接線方向に延びる導入管、前記円筒体の円周面の外側に設けられた反応基質Bを含む液体bを貯留するための貯留部、ならびに前記貯留部から前記液体bを前記円筒体内に供給するための供給手段、を具備する装置を用いる(1)の方法、
を提供することで、前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によりミキシング効率に優れる、結晶微粒子の製造方法およびその装置が提供できる。特に、本発明により低い多分散度の結晶微粒子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の好ましい装置の概念図である。
【図2】本発明の他の好ましい装置の概念図である。
【図3】図1におけるY−Y断面を矢印の方向から見た断面図である。
【図4】実施例で得た炭酸カルシウム微粒子の1000倍SEM像である。
【図5】実施例で得た炭酸カルシウム微粒子の20000倍SEM像である。
【図6】比較例で得た炭酸カルシウム微粒子の1000倍SEM像である。
【図7】比較例で得た炭酸カルシウム微粒子の7500倍SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.製造方法
本発明の製造方法は、円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体内に、反応基質Aを含む液体aの旋回流を流す旋回流生成工程、および前記多孔質膜を介して、前記反応基質Aと反応しうる反応基質Bを含む液体bを前記旋回流に供給して混合し、前記反応基質AとBとを反応させて結晶微粒子を析出させる反応工程を含む。
【0013】
(1)旋回流生成工程
1)反応基質Aを含む液体a
本工程では、円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体内に反応基質Aを含む液体aを流す。反応基質Aとは、次工程で供給される反応基質Bと反応する物質である。反応基質Aは、無機物質、有機物質のいずれであってもよい。無機物質は限定されないが、その例には、塩酸等の無機酸、水酸化ナトリウム等の無機塩基、炭酸ナトリウム等の炭酸塩、無機酸、無機塩基、無機還元剤、無機酸化剤、塩酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩などが含まれる。有機物質も限定されないが、その例には、酢酸等の有機酸、アミン等の有機塩基、これらの有機塩、酢酸エチル等のエステル、エチルアルコール等のアルコール、各種カップリング試薬や白金(II)アセチルアセトナトなどの各種錯化合物が含まれる。反応基質Aとしては、一種類の基質を単独で使用してもよいし、複数種の基質を併用してもよい。
【0014】
液体aは反応基質Aを公知の溶媒に溶解または分散させて調製できる。溶媒は、水性、油性のいずれであってもよい。また反応基質Aが液体の場合は、そのまま液体aとしてもよい。液体aは円筒体に供される際に液体であればよい。従って、例えば室温では固体であるが、加熱することにより液体となる物質も液体aとして用いることができる。あるいは、室温で液体であるが、時間の経過とともに固体化する過冷却状態にある液体も使用できる。作業性を考慮すると、本工程は室温(20〜30℃)で行われることが好ましいため、液体aは、室温で液体であることが好ましい。
【0015】
2)円筒体
円筒体とは内部が空洞の円筒状の部材をいう。本発明の円筒体は、円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される。多孔質膜とは多数の微小な貫通孔を有する膜をいう。このような膜として、ガラス製、セラミック製、ニッケル製等の公知の多孔質膜を使用してよい。本発明においてはガラス製の多孔質膜が好ましく、非特許文献1に記載のシラス多孔質ガラス製の多孔質膜(SPG膜)がより好ましい。多孔質膜の平均孔径は、一般に多孔質膜の孔径とされる範囲であれば限定されないが、化合物が結晶微粒子として得られる場合に工業的に好適な粒子径を得るためには、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。多孔質膜の空隙率および平均孔径は水銀圧入法(自動ポロシメータ使用)により測定できる。
【0016】
円周面の一部または全部が多孔質膜で構成されるとは、円周面の液体bの供給に使用する部分が多孔質膜で構成されており、他の部分はこれ以外の材料で構成されていてもよいことを意味する。しかしながら本発明においては、化合物の製造に有効に使用できる膜面積(以下「有効膜面積」ともいう)を大きくするために、円周面の全部が多孔質膜で構成されていることが好ましい。
【0017】
また後述するとおり、本発明においては液体aが円筒体の円周面から、円筒体の軸に略垂直に導入されることが好ましい。このような場合、円筒体の円周面の全部を多孔質膜で構成して、液体aが導入される付近の多孔質膜に液体aが円筒体外へ漏れないような処理を施すことが好ましい。具体的には、多孔質膜の当該部分における内壁面または外壁をコーティングすることにより、液体aが円筒体外へ漏れないようにすることができる。あるいは、円周面が多孔質膜で構成されている円筒体の端部に円周面が他の材料からなる円筒体を接続して一体の円筒体とし、これを本発明の円筒体として用いてもよい。
【0018】
本発明の円筒体の形状および寸法は特に限定されないが、断面積が長さ方向において一定であって、内径が5〜100mmであることが好ましい。内径が5mm未満であると、円筒内に旋回流を発生させるのが困難となる場合があり、内径が100mmを超えると、旋回流を発生させるのに要する液体aの供給量が過大となることがある。また、円筒体の長さは、内径の2〜50倍であることが好ましい。円筒の長さが内径の2倍未満であると、有効膜面積が小さくなるためにミキシング効率が低下しうる。逆に、円筒の長さが内径の50倍を超えると円筒体内の旋回速度が不均一となり、ミキシング効率が低下しうる。
【0019】
3)旋回流
旋回流とは、円筒体の軸に沿った流れと円周面に沿った流れを持ち合わせた流れをいう。旋回流は公知の方法で発生させることができる。例えば、円筒体の一方の端にスクリュウを設け、スクリュウを回転させながら液体aを円筒体に供給して円筒内に液体aの旋回流を流すことができる。しかしながら本発明においては図1に示すようにして旋回流を流すことが好ましい。このように旋回流を発生させると、旋回速度を制御しやすい等の利点がある。以下、この態様について図を参照しながら説明する。
【0020】
図1は本発明の好ましい装置の概要を示す。図1中、1は本発明の製造装置、10は円筒体である。円筒体10において、100は円周面が多孔質膜で構成された多孔質膜部分、101は円周面が他の部材で構成された非多孔質膜部分である。12は液体aの流入口、14は排出口、20は導入管、22は導入管を構成する部材、30は排出管、32は排出管を構成する部材、40は液体bの貯留部、42は液体bの導入管、44は貯留部を構成する部材を示す。図1において80はシールリングである。図3は、図1におけるY−Y断面を矢印の方向から見た断面図である。図3中、16は円筒体10の内壁面である。
【0021】
図1に示すように、円筒体10の一方の端近傍の円周面(すなわち非多孔質膜部分101の円周面)に流入口12が設けられており、この流入口12には円筒体の軸に対して略垂直に延びる導入管20が接続されている。ここでの近傍とは、円筒体の端を原点とし、円筒体の全長を1とした場合に、原点から0.1までの範囲をいう。略垂直とは、導入管20の軸と円筒体10の軸がなす角度が85〜95°、好ましくは88〜92°、より好ましくは90°(垂直)であることを意味する。導入管20は、図3に示すとおり、円筒体10の接線方向に延びており、円筒体10の内壁面16の接線方向から液体aを導入できるようになっている。すなわち、導入管20の内壁面の一部は円筒体10の内壁面16の接線と同一平面にある。この液体aの流れは、内壁面16を円周方向に沿って流れると同時に、円筒体10の他方の端に向かって押し出されるため、旋回流を生成する。すなわち、本発明のこの好ましい態様においては円筒体10の円周面に沿って円筒体10の軸に垂直な方向から液体aを流入して旋回流を得る点が、従来のクロスフロー方式と著しく異なる。
【0022】
本発明において旋回流の円周方向の速度(以下「旋回速度」ともいう)および円筒体の軸方向の速度(以下「軸速度」ともいう、また旋回速度と軸速度を合わせて単に「旋回流の速度」ともいう。)は、導入管20を流れる液体aの流量を導入管20の内径断面積で除した値、すなわち流入線速度で制御することが好ましい。その流入線速度は、円筒体の内径との関連のもとに最適化されるべきであるが、約1〜40m/sが好ましく、2〜20m/sがより好ましい。流入線速度がこの範囲にあると、ミキシング効率が向上する。また、多分散度の低い結晶微粒子が得られる。導入管20の断面は、四角または円等の任意の形状としてよいが、製造が容易であることと、導入管20内での液体aの流れを均一にしやすいことから、円が好ましい。
【0023】
また、本発明においては、導入管20の太さと円筒体10の太さが一定の関係にあると、円筒体10内で旋回流を効率よく発生することができるので好ましい。円筒体10と導入管20の太さの関係は、円筒体10の内径断面積をS1、導入管20の内径断面積をS2とするとき、面積比S1/S2が4〜64であることが好ましい。内径断面積とは、例えば円筒体10においては、液体aが流れる部分の断面積をいい、具体的には内径を直径とする円の面積である。また、特に、円筒体10の内径がX1、導入管20の断面が内径X2の円である場合、内径比X1/X2が2〜8であることが好ましい。
【0024】
さらに、排出口14の大きさにより円筒体10内の旋回流の態様および軸速度は影響を受ける(非特許文献3:日本機械学会論文集B編 58巻550号1668〜1673頁(1992))。本発明の円筒体10が図1に示すような排出口14を有する場合、製造が容易である等の観点から、排出口14の断面は円形であることが好ましい。円形の排出口14の内径をX0とするとき、円筒体10の内径X1と排出口14の内径X0の比X1/X0は1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。X0は、円筒体10の端に配置される部材32の形状により調整できる。部材32については後述する。
【0025】
本製造方法において本発明の装置を設置する向きは限定されないが、円筒体10の軸が略鉛直となるように設置されることが好ましい。円筒体10の内部で旋回運動する液体aの旋回面が重力の方向と直交する方が、旋回運動は重力加速度の影響を受けにくいからである。略鉛直とは、水平線と円筒体10の軸がなす角度が85〜95°、好ましくは88〜92°、より好ましくは90°であることを意味する。
【0026】
このように発生させた液体aの旋回流を用いることにより、高いミキシング効率が得られ低多分散度の結晶微粒子が得られる。この機構については後で詳しく説明する。
旋回流により両液体が激しく撹拌される。よって、液体aの有するエネルギーが大きいほど撹拌効率は高くなる。従って、液体aの流量は後述する液体bの流量よりも多いことが好ましい。具体的には、両者の比(液体aの流量/液体bの流量)は4〜10が好ましい。
【0027】
また、液体bに含まれる反応基質Bは、液体aに含まれる反応基質Aよりも反応系での移動性が劣っていてもよい。多孔質膜から噴出される液体bの液柱の直径は多孔質膜孔径と同じ程度(通常は2μm程度)と考えられるので、反応基質Aと衝突するための拡散距離は短くて済むからである。移動性の大きい反応基質Aが基質Bと衝突するためには液体a中を長い距離移動する必要があるが、基質Aの大きな移動性と液体aの激しい撹拌により効率的に反応基質Bと衝突することができる。その結果、粒子径のより小さい結晶微粒子が得られる。
【0028】
一方、液体aに含まれる反応基質Aの移動性が反応基質Bよりも劣っていると、液体aは反応基質Aの移動性を高めにくいので、得られる結晶微粒子の粒子径は大きくなりやすい。反応基質の反応系での移動性は、溶媒和構造を含めた嵩高さ等に依存する。例えば炭酸イオンの移動度は7.2×10−4(cm−1−1)、カルシウムイオンの移動度は6.2×10−4(cm−1−1)である。
【0029】
イオンの移動度は、以下の式で求めることができる。
=λ/F
ここでuはイオンiの移動度(cm−1−1)、λは当量イオン伝導率(Ω−1cmmol−1)、Fはファラデー定数である。
【0030】
(2)反応工程
1)反応基質Bを含む液体b
本工程では、多孔質膜を介して液体bを前記旋回流に供給する。液体bは反応基質Bを含む。反応基質Bは反応基質Aと反応して、反応系に析出する結晶を生成するものであればよく、その具体例には反応基質Aで例示したものが含まれる。反応基質Aと同様に反応基質Bも一種以上の物質であってよい。液体bは液体aと同様にして準備できるが、液体aと液体bの溶媒が共に相溶すると、反応基質Bがより速く拡散してミキシング効率をより高められるので好ましい。
【0031】
液体aとbの好ましい組み合わせとして、液体aを炭酸ナトリウム水溶液、液体bを塩化カルシウム水溶液とする組み合わせを例示できる。この場合、炭酸カルシウムが結晶微粒子として製造できる。
【0032】
2)供給方法
液体bは多孔質膜を介して液体aの旋回流中へ供給される。その供給の方法は特に限定されない。しかしながら、図1に示すように、円筒体10の外周部の周りに部材44を配置して貯留部40を設けて、その貯留部40に液体bを充填し、その圧力を適切に調整するための圧力制御装置(図示せず)を用いて供給することが好ましい。円筒体10内部には液体aの旋回流が生じているため、液体bは、円筒体10内に供給されると速やかに液体aと混合される。本発明では、この際の供給速度を、50〜250mL/分程度とすることが好ましい。非特許文献1に記載の方法においては、供給速度は50〜250mL/分よりもはるかに低く、供給速度を高めるとミキシング効率が低下する。しかしながら本発明によれば、供給速度を高めても高いミキシング効率を得られる。この速度で供給された液体bは多孔質膜から噴流となって液体aの旋回流中へ供給されていると考えられる。液体bを供給する温度は、特に限定されないが、前述のとおり室温(20〜30℃)が好ましい。
【0033】
(3)取出し工程
製造された化合物は、円筒体10の一方の端に設けられた排出口14から取出される。排出口は、既に述べたとおり、円筒体10の一方の端の断面に、一定の内径を有する円形に設けられることが好ましい。さらに、化合物は排出口14に接続された排出管30を通って取出されてもよい。
【0034】
(4)作用機序
本発明により、高いミキシング効率が得られ、さらに多分散度の低い結晶微粒子が得られる機序は、限定されないが次のように考えられる。まず、多孔質膜を介して供給された液体bは、液体aの旋回流中で微小なセグメントを形成する。この形状は液滴または液柱である。液柱とは液体bにより構成される柱状の流れであり、その断面は通常円形である。また本発明において液柱とは、旋回流によって歪んだ形状(波打った形状等)に変形されたものも含む。
【0035】
従来のように液体aをクロスフロー流として流す場合、当該クロスフローは液体bのセグメントの流れによって多孔質膜表面から押し離される。よって、液体bは多孔質膜表面近傍に滞留しやすい。液体bが噴流となって供給される場合、液体aをより膜表面から遠ざけやすくなるので、この現象はより顕著となる。このように液体bが滞留してしまうと、ミキシング効率は低下し、生成する結晶微粒子の粒子径にばらつきが生じる。
【0036】
一方、本発明では液体aを旋回流として流す。旋回流はその旋回速度に応じて遠心加速度をもつことから、液体bのセグメントの流れによって多孔質膜面から離されることはない。よって、液体bは滞留することなく旋回流中に微細なセグメントとして速やかに分散する。多孔質膜はある程度細孔径のそろった無数の細孔を有するので、寸法のそろった液体bの微細なセグメントが多数形成される。微細なセグメントから反応基質Bが拡散し、反応基質Aと反応するため、同時に多数の反応基点が形成される。このため、本発明においては、ミキシング効率は高くなり、速やかに反応基質AとBとが反応して、多分散度の低い結晶微粒子が得られる。さらに本発明の方法では、多数の反応基点を形成できるので、装置の寸法を拡大することなく生産量のスケールアップを実現できる。この際、液体aの溶媒と液体bの溶媒との相溶性が高いと液体bの微小セグメントの分散性、および液体b中の反応基質Bの拡散性が高まるので、反応はより速やかに進行する。
【0037】
このように、本発明は液体aと液体bとを極めて高い効率でミキシングできる。従って、本発明は、拡散律速反応すなわちミキシング効率の向上が鍵となる反応において、特に効果を発揮する。
【0038】
(5)その他
上記では、液体aと液体bとが互いに反応する反応基質AとBとを含む場合を説明した。しかし本発明は、物質Bが溶媒b’に溶解している液体bと、前記物質Bを溶解しないが溶媒b’を溶解する液体aを用いることにより、生成混合物中に物質Bを沈殿させて物質Bの微粒子を製造することもできる。例えば、液体bがポリマーとその良溶媒(THF等)を含むポリマー溶液であり、液体aがポリマーの貧溶媒(メタノール等)である場合、低分散度のポリマー微粒子を製造できる。
【0039】
2.結晶微粒子
本発明の製造方法により得られた結晶微粒子は公知の方法により生成混合物から単離して最終製造物とできる。例えば、単離の方法の例には、ろ過等が含まれる。本発明で製造された結晶微粒子の、レーザー回折散乱法により求めた粒子積算量が50%となる値の粒子径(d50)で定義される平均粒子径は100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。d50の下限は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。また、以下の式(1)で定義される多分散度(以下「スパン」ともいう)は、1.5以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましい。スパンの下限は限定されないが、0.5以上が好ましい。
【0040】
スパン=(d90−d10)/d50 ・・・(1)
10:粒子の積算分布10%における粒子径
90:粒子の積算分布90%における粒子径
50:粒子の積算分布50%における粒子径
本発明においては、例えば炭酸カルシウム微粒子を製造できる。炭酸カルシウムは、安価、無毒、不透明な白色微粉末であり、紙やプラスチック等の充填剤、不透明化剤等として使用される。添加効果は炭酸カルシウム結晶の粒子径や形状によって異なるため、低多分散度の微粒子が求められている。本発明によればこのような炭酸カルシウム微粒子を効率よく製造できる。
【0041】
また、本発明により平均粒子径が50〜100nm程度のナノサイズの結晶微粒子(例えばナノサイズの顔料)も製造できる。粒子径は、主として旋回流の速度により制御でき、旋回流速度が高いほど得られる微粒子の粒子径も小さくなる。特に、ナノレベルの結晶微粒子を得るには、液体aの流量2000mL/分以上、すなわち、旋回速度15000rpm以上とすることが好ましい。
【0042】
3.装置
本発明の製造方法は、(1)円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体であって、一方の端近傍の円周面に前記液体aの流入口およびもう一方の端の断面に生成物の排出口を有する円筒体、(2)前記液体aを前記円筒体の軸に略垂直かつ内壁面の接線方向から流入できるように、前記流入口に接続され、前記円筒体の軸に対して略垂直かつ前記円筒体の接線方向に延びる導入管、(3)前記円筒体の円周面の外側に設けられた前記液体bを貯留するための液体b貯留部、(4)ならびに前記液体b貯留部から液体bを前記円筒体内に供給するための供給手段、を具備する装置で実施されることが好ましい。以下、この装置の好ましい一例を示す図1を参照しながら説明する。
【0043】
(1)円筒体
円筒体10は反応器としての機能を担う。円筒体を構成する材質、形状および寸法等は既に述べたとおりである。
【0044】
(2)導入管
導入管20は旋回流を発生させる機能を担う。既に述べたとおり、導入管20は円筒体10の円周面に設けられた流入口12に接続され、前記円筒体の軸に対して略垂直かつ前記円筒体の接線方向に延びている。導入管20の太さを調整することにより、旋回流の速度を調整できる。導入管20は、図1および図2に示すように形成されることが好ましい。すなわち、円筒体10の内径とほぼ同じ内径を有し、一方の端が閉じられた肉厚の円筒状部材22を準備し、円筒体10の端をキャップするように配置する。次いで部材22に、円筒内10の軸に垂直であって、円筒体10の接線方向に延びる貫通孔を設け、この貫通孔を導入管20とする。液体aは、この導入管20を通って、部材22によって形成された円周面が多孔質膜以外の材料からなる非多孔質膜部分101の内壁に沿って流入し、効率よく旋回流を発生できる。また、旋回速度は、貫通孔の大きさにより容易に調整できる。部材22の材質は特に限定されないが、酸、アルカリ、有機溶媒に対する耐性を考慮してステンレス鋼が好ましい。
【0045】
また、図2に示すように、円筒体10の多孔質部分100に導入管20を設けてもよい。ただし、この場合、多孔質部分100の導入管20近傍の領域は、液体aが漏洩しないようにコーティング処理が施されることが好ましい。
【0046】
(3)液体b貯留部
円筒体10の外周を覆うように部材44を配置し、部材44の内壁と円筒体10の外壁との間に形成された空間を貯留部40とすることが好ましい。貯留部40により円筒体10の多孔質膜部分100全体から液体bを供給できるため、生産効率が向上する。この場合、隙間の間隔、すなわち部材44の内半径と円筒体10の外半径の差は、1.0〜10mmが好ましく、1.5〜4.0mmがより好ましい。この隙間の間隔が1.0mmより狭い場合には、液体bの供給速度が大きくなると貯留部40内に圧力分布が生じ、液体bの多孔質膜細孔を通過する速度の均一性を損なうおそれがある。一方、この隙間が必要以上に大きい場合には、液体bの貯留量が大きくなり、装置の分解、洗浄に際して廃棄される液体bが多くなり、資源の無駄を招く。
【0047】
部材44の材質は特に限定されないが、酸、アルカリ、有機溶媒に対する耐性を考慮してステンレスが好ましい。また、円筒体10、部材44および部材22が接続される部位に、液体が装置の外に漏れることを防ぐためのシールリングを配置してもよい。シールリングの例には公知のO−リングが含まれる。
【0048】
(4)供給手段
供給手段は特に限定されないが、脈流の発生が少ないポンプが好ましい。供給手段は、部材44に設けられた液体b導入管42に接続される。
【0049】
(5)排出口および排出管
本発明の装置は、円筒体10のもう一方の端に排出口14および排出管30を有することが好ましい。排出口14の形状および寸法は既に述べたとおりである。排出口14に接続された排出管30は、所望の内径を有し、排出のための貫通孔を有する円筒状部材32を準備して、円筒体10の端をキャップするように配置して形成することが好ましい。部材32の材質は特に限定されないが、酸、アルカリ、有機溶媒に対する耐性を考慮してステンレス鋼が好ましい。
【実施例】
【0050】
[製造例1]装置の準備
円周面の全部が平均孔径2.1μmのシラス多孔質ガラス製の多孔質膜(SPG膜)で構成され、外径10mm、内径9mm、長さ150mmの円筒体(SPGテクノ株式会社製、SPG膜、ロット番号PJN08J14)を準備した。このSPG膜円筒体よりも肉厚の部材であって、SPG膜円筒体と同じ内径を有し、かつ一方の端が閉じられたステンレス鋼製の円筒状部材22を準備した。図1に示すように、この部材22をSPG膜円筒体の端をキャップするように配置し、SPG膜円筒体の端部に、円周面がステンレス鋼で構成された長さ5mmの円筒状の空間を形成して、多孔質部分100と非多孔質101を有する、全長が155mmの円筒体10を準備した。部材22に、円筒体10の軸に垂直であって、円筒体10の接線方向に延びる貫通孔を設け、この貫通孔を導入管20とした。導入管の断面は円であり、内径は2.0mmであった。
【0051】
円筒体10の外周部を覆うように部材44を配置して貯留部40を形成した。貯留部40の高さ(部材44の内半径と円筒体10の外半径の差)は2.0mmであった。円筒体10のもう一方の端に、内径4.5mmの排出口を具備したステンレス鋼製の円筒状部材32を円筒体10の端をキャップするように配置して、排出口14および排出管30を形成した。図1に示すとおり、部材44と円筒体10の間の空間であって、部材44の両端部にO−リングを挿入した。このようにして、本発明の製造装置を準備した。この製造装置を、図1に示すとおり、円筒体の軸が略鉛直であって、導入管20が下に位置するように設置した。
【0052】
[参考例1]ミキシング効率の評価
Villermaux−Dushman法により本発明のミキシング効率を評価した。当該方法は下記の反応(1)、(2)および(3)からなる競争的複合反応によってミキシング効率を評価する方法である。中和反応(1)との酸化還元反応(2)を競争的に行わせるとき、不十分なミキシング下で反応(1)の中和反応が局所的に進行し、水素イオンの局所的残留に起因して反応(2)が右に偏りヨウ素分子(I)が生成する。このヨウ素分子は反応(3)に示すように三ヨウ化物イオンと平衡下に存在することから、生成した三ヨウ化物イオンを定量することによりミキシング効率を評価できる。すなわち、三ヨウ化物イオンの量が多い場合は、ミキシング効率が低いと評価できる。
【0053】
【化1】

【0054】
液体aとしてヨウ化カリウムとヨウ素酸カリウムを含むホウ酸と水酸化ナトリウムの等量混合液(「ホウ酸緩衝液」という)を準備して、実施例1で製造した装置の導入管20から毎分0.5、1.0、1.5、2.0、2.5Lの流量で導入し、円筒体10の内部空間に旋回流を発生させた(実験I−1〜I−5および実験II−1〜II−5)。一方、液体bとして適度に希釈した硫酸を多孔質膜を介して旋回運動しているホウ酸緩衝液中に噴出した。ホウ酸緩衝液と希硫酸溶液の流量比(混合比)は、10:1および4:1であった。以上の実験をそれぞれ3回繰り返し行った。
【0055】
本例では、本例で使用する反応液濃度を表1のとおりとし、生成した三ヨウ化物イオンが安定するように混合後の溶液のpHが8.5〜9.5になるように調製した。三ヨウ化物イオンは353nmの吸収波長において定量した。吸光度が1.7以上となる場合は、反応系を蒸留水で希釈して吸光度を測定した後、稀釈倍率を乗じて吸光度を求めた。結果を表2に示す。
【0056】
[参考例2]
製造例1で製造した装置において、円筒体10の導入管20側の末端を開放端とし、比較用の製造装置を準備した。当該開放端からホウ酸緩衝液を円筒体10の長手方向に流した以外は、参考例1と同様にして実験を行い、三ヨウ化物イオンを定量した(実験I−6〜I−10および実験II−6〜II−10)。結果を表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表2の結果から、参考例1で定量された三ヨウ化物イオンの量は、参考例2で定量された三ヨウ化物イオンの量よりも小さいことが明らかである。この結果から、本発明はミキシング効率が高いことが明らかである。
【0060】
[参考例3]ミキシング効率に及ぼす多孔質膜孔径の影響
液体aの流量を毎分0.5L、1.0L、1.5L、2.0L、2.5Lとし、多孔質膜の平均孔径を1.1μm、2.1μm、4.9μmおよび10.1μm(実験番号III〜VI)として、参考例1と同様にミキシング効率を評価した。液体aと液体bとの流量比はすべて10:1とした。本実施例で使用した試薬の濃度は表3のとおりであった。各実験で得られた三ヨウ化物イオンの吸光度を表4に示した。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
表4から、平均孔径が1.1〜10.1μmのいずれの多孔質膜を用いても、ほぼ同様のミキシング効率が得られることが明らかである。
[実施例1] 炭酸カルシウムの製造
液体aとして0.15Mの炭酸ナトリウム溶液を液体bとして1.5Mの塩化カルシウム溶液を準備した。多孔質膜(SPG膜)の平均孔径は2.1μmのものを使用した。
【0064】
参考例1で製造した装置の導入管20から、液体aを毎分0.5L、1.0L、1.5Lの流量で流し、液体bを毎分それぞれ0.05L、0.1L、0.15Lの流量で多孔質膜を介して円筒体10内へ供給した。その結果、炭酸カルシウム懸濁液が得られた。当該懸濁液を12分間の超音波を照射し、微粒子の凝集を除去して分散させた後、懸濁粒子の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置(装置名wing−SALD 200、株式会社島津製作所製)により測定した。さらに、当該懸濁液を乾燥して炭酸カルシウム微粒子を単離し、金を蒸着して走査型電子顕微鏡(SEM)(装置名:JSM−5310、日本電子株式会社製)にて観察した(図4および図5)。製造条件および結果を表5に示す。
【0065】
[比較例1] 炭酸カルシウムの製造
参考例2のように液体aを直線流とした以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造し評価した。結果を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
実施例1において、旋回流の流量が毎分0.5L、1.0L、1.5Lのときに得られた炭酸カルシウムの平均粒子径は1.5μm、1.2μm、0.8μmとなった。よって、本発明により炭酸カルシウム微粒子が得られ、さらに旋回流の流速により生成する粒子径を制御できることが明らかとなった。また、得られた微粒子の粒子径分布スパン(D90−D10)/D50は1.1〜1.3と多分散度が低く、かつスパンは旋回流流速の影響をほとんど受けないことも明らかとなった。実施例1の実験番号3において調製した炭酸カルシウム微粒子のSEM像を図4および図5に示した。
【0068】
比較例1において、直線流の流量が毎分0.5L、1.0L、1.5Lのときに得られた炭酸カルシウムの平均粒子径は9.4μm、8.0μm、5.8μmとなり、実施例1で得た炭酸カルシウムよりも粒子径が大きいことが明らかとなった。実施例1と比較例1の比較から、旋回流方式では炭酸カルシウム粒子サイズを粒子径で1/6〜1/7、粒子体積としては約1/300に微細化できることが明らかとなった。比較例1の実験番号6において調製した炭酸カルシウム微粒子のSEM画像を図6および図7に示した。
【0069】
[実施例2]炭酸カルシウムの製造
反応基質濃度の影響を検討するために、液体aの濃度を0.06、0.09、0.12、0.15mol/L、液体bの濃度を0.6,0.9,1.2,1.5mol/Lとした以外は、実施例1と同様に炭酸カルシウム微粒子の製造を行った。製造条件および結果を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
表6の結果から、液体aと液体bの双方の濃度が高いと、平均粒子径のより小さな結晶微粒子が得られることが分かる。すなわち、炭酸イオンとカルシウムイオンが衝突するための移動距離が小さい方が平均粒子径のより小さい結晶微粒子を得るのに効果的であることがわかる。
【0072】
[実施例3]炭酸カルシウムの製造
液体aと液体bの流量比の影響を検討するために、流量比を6:1、8:1および10:1とし、炭酸カルシウム生成に関して化学量論的に過不足無く反応が進行するように濃度を調整した以外は、実施例2と同様に炭酸カルシウム微粒子の製造を行った。製造条件および結果を表7に示す。
【0073】
【表7】

【0074】
表7の結果から、流量比a:bが6:1よりも8:1あるいは10:1である方が、平均粒子径のより小さな結晶微粒子が得られることが分かる。逆に、スパンは両液の流量比が6:1の方が小さくなった。これは旋回流の運動エネルギーが膜透過液により減衰させられる程度が小さい方が微細な結晶を調製するのに効果的であることを示す。
【0075】
[実施例4]炭酸カルシウムの製造
実施例3における旋回流として供給される反応基質と膜透過流として供給される反応基質を交換した場合の影響を検討した。すなわち、実施例3では液体aを0.15mol/LのNaCO水溶液、液体b(膜透過液)を1.5mol/LのCaCl水溶液としたが、本例では液体aを0.15mol/LのCaCl水溶液、液体bを1.5mol/LのNaCO水溶液とした。液体aと液体bの流量比および両液の流量は実施例3と同様にした。製造条件および結果を表8に示す。
【0076】
【表8】

【0077】
実施例3と実施例4の結果を比較すると、旋回流と膜透過液の反応基質を入れ替えることにより製造される微結晶粒子のサイズおよびそのスパンが大きく異なることが判明した。これはカルシウムイオンと炭酸イオンの水中での移動度の違いに起因すると考えられる。すなわち、重炭酸イオンに比べて移動度が小さいカルシウムイオンが、重炭酸イオンと衝突するのに必要な拡散距離が短くてすむ膜透過流に含まれる方が、より粒子径の小さな結晶微粒子が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0078】
1 本発明の製造装置
10 円筒体
100 円周面が多孔質膜で構成された多孔質膜部分
101 円周面が他の部材で構成された非多孔質膜部分
12 流入口
14 排出口
16 内壁面
20 導入管
22 部材
30 排出管
32 部材
40 貯留部
42 液体b導入管
44 部材
80 シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体内に、反応基質Aを含む液体aの旋回流を流す旋回流生成工程、および
前記多孔質膜を介して、前記反応基質Aと反応しうる反応基質Bを含む液体bを前記旋回流に供給して混合し、前記反応基質AとBとを反応させて結晶微粒子を析出させる反応工程を含む、
結晶微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記円筒体が、一方の端近傍の円周面に液体aの流入口と、前記流入口から前記円筒体の軸に対して略垂直かつ前記円筒体の接線方向に延びる導入管とを有し、
前記旋回流生成工程が、前記導入管を用いて、前記円筒体の軸に対して略垂直であってかつ前記円筒体の内壁面の接線方向から前記液体aを流入することにより、旋回流を流す工程である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程における結晶微粒子の平均粒子径が0.5〜5μmである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記結晶微粒子が、以下の式(1)で定義される、0.5〜1.5のスパン:
スパン=(d90−d10)/d50 ・・・(1)
10:粒子の積算分布10%における粒子径
90:粒子の積算分布90%における粒子径
50:粒子の積算分布50%における粒子径
を有する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記液体aの流量と前記液体bの流量との比(液体aの流量/液体bの流量)が、4〜10である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
(1)円周面の一部または全部が多孔質膜で構成される円筒体であって、一方の端近傍の円周面に反応基質Aを含む液体aの流入口およびもう一方の端の断面に生成物の排出口を有する円筒体、
前記液体aを前記円筒体の軸に略垂直かつ内壁面の接線方向から流入できるように、前記流入口に接続され、前記円筒体の軸に対して略垂直かつ前記円筒体の接線方向に延びる導入管、
前記円筒体の円周面の外側に設けられた反応基質Bを含む液体bを貯留するための貯留部、ならびに
前記貯留部から前記液体bを前記円筒体内に供給するための供給手段、
を具備する装置を準備する工程をさらに含み、
(2)旋回流生成工程が、前記導入管から前記液体aを円筒体内に導入して旋回流を発生させる工程であり、
(3)前記反応工程が、前記多孔質膜を介して、前記液体bを前記旋回流に供給して混合し、前記反応基質AとBとを反応させて、結晶微粒子を析出させる工程である、
請求項1に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−210562(P2012−210562A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77036(P2011−77036)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】