説明

ミクロトーム及びクライオスタット

【課題】冷媒用配管及び電気配線が邪魔にならないようにして確実に清掃及びその他の作業を行えるようにしたミクロトームを提供する。
【解決手段】試料を保持するヘッド32と、ヘッド32を配向させる配向機構50と、配向機構50の背面側に設けられた本体部42と、本体部42とヘッド32とを連結する筒状の連結部41と、ヘッド32内の温度調整装置34と、温度調整装置34の冷媒用配管40及び電気配線46とを具備し、配向機構50は、ヘッド背面側と連結して外周部が球面状の球状部材68と、球状部材68の外周部を球面に沿って摺動可能に保持する保持部70,71とを有し、球状部材68には、連結部41の中空部43と連通する貫通穴74が形成され、冷媒用配管40及び電気配線46は、球状部材68の貫通穴74と連結部41の中空部43を通ってヘッド32内部の温度調整装置34に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温状態にて組織を薄切りして組織標本を作製するためのミクロトーム及びミクロトームを備えたクライオスタットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、癌の切除を行う手術中においては、癌の発生している臓器の組織を確認し、臓器をどこまで切除して良いのかを検討する必要がある。このような場合、臓器の一部を薄切りにして作製した組織標本を観察することとなる。
ところで、組織標本は通常はパラフィン置換が行われていることが一般的であるが、手術中など急いで組織標本を作製する場合にはパラフィン置換を行っている時間的余裕は無い。
そこで、臓器を凍結させた状態で迅速に組織標本を作製するクライオスタットが従来より知られている。
【0003】
クライオスタットは、病理組織(以下、単に試料と称する場合がある)を凍結させるためのチャンバーが設けられており、このチャンバー内には試料を凍結させた状態で保持して薄切りするミクロトームが設けられている(例えば、特許文献1)。
ミクロトームは、試料を保持するヘッドと、ヘッドに保持された試料をチャンバー内よりもさらに低温に維持するための冷却装置と、ヘッドに保持された試料を薄切りするための刃とを有している(例えば、特許文献2)。
また、ミクロトームは、薄切りにするための刃に対して試料を配向するためにヘッドを配向する配向機構を有している(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3950207号公報
【特許文献2】特許第4142647号公報
【特許文献3】特許第3732297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミクロトームでは、薄切りされた試料の切片などが飛散することもある。試料には感染症の疑いがあるものも含まれるので、組織標本の作製後は、感染予防のためにも隅々まで綺麗にヘッド周囲の清掃を行うことが必要である。
【0006】
一方、上述した各特許文献に開示されているミクロトームのヘッドには、試料を薄切りするのに適した温度に冷却または加温する温度調整用に、冷媒を循環させるための冷媒用配管及びペルチェ素子や温度センサーの電気配線が設けられている。冷媒用配管及び電気配線は、ヘッドの下部や側面に接続されていることが一般的である。
このため、従来のミクロトーム及びこれを備えたクライオスタットにおいては、冷却用配管及び電気配線が邪魔になってしまい、隅々まで綺麗な清掃が行えない場合があるという課題がある。
【0007】
また、ヘッドの周囲に冷媒用配管及び電気配線が設けられていると、試料をヘッドに装着したり、ヘッドの刃に対する配向を調整する際の作業においても邪魔になるという課題もある。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、冷媒用配管及び電気配線が邪魔にならないようにして確実に清掃及びその他の作業を行えるようにしたミクロトーム及びこのミクロトームを備えたクライオスタットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるミクロトームによれば、刃物台に装着された切削刃と、切削刃に対して表面側が対向するように試料を保持するヘッドと、ヘッドの背面側に設けられ、前記ヘッドが上下方向に回動可能、及び上下方向に対して直交する左右方向に回動可能となるようにヘッドを配向させる配向機構と、配向機構の背面側に設けられ、切削刃との間でヘッドを接離動させる接離動機構を有する本体部と、中心に中空部が形成され、本体部とヘッドとを連結する筒状の連結部と、ヘッド内部に設けられ、ヘッドに保持された試料を冷却または加温するための温度調整装置と、温度調整装置に冷媒を循環させる冷媒用配管及び温度調整装置用の電気配線とを具備し、前記配向機構は、ヘッド背面側と連結しており外周部が球面状の球状部材と、球状部材の外周部を球面に沿って摺動可能に保持する保持部とを有し、前記球状部材には、前記連結部の中空部と連通する貫通穴が形成され、前記冷媒用配管及び電気配線は、球状部材の貫通穴と連結部の中空部を通ってヘッド内部の温度調整装置に接続されることを特徴としている。
この構成を採用することによって、冷媒用配管及び電気配線はヘッドの裏面側からヘッド内部に接続されることとなり、ヘッドの下面や側面に露出することがない。このため、試料の切片がヘッドの周囲に飛散した場合でも、冷媒用配管及び電気配線が邪魔にならずにヘッド周囲の清掃を確実に行うことができる。また、清掃以外の作業を行う場合にも冷媒用配管及び電気配線が邪魔にならずにすむ。
【0010】
また、前記球状部材の裏面側の内壁面は球面状に形成されており、該球状部材の内壁面に当接して摺動可能となるように外周面が球面状に形成され、中心に前記貫通穴及び前記中空部と連通する第2貫通穴が形成されたリング状部材が設けられ、リング状部材を上下方向に移動させることによりヘッドを上下方向に回動させる上下移動手段が設けられ、リング状部材を左右方向に移動させることによりヘッドを左右方向に回動させる左右移動手段が設けられていることを特徴としてもよい。
この構成によれば、冷媒用配管及び電気配線が邪魔にならず、なおかつ試料の切削刃に対する向きを高精度に調整することができる。
【0011】
さらに、前記上下移動手段は、リング状部材の上辺または下辺において左右方向に直線状に形成された直線部と、該直線部に対して左右方向には自由に移動可能であり且つ該直線部を上方または下方には押圧可能に形成された上下押圧軸とを有し、前記左右移動手段は、リング状部材の左辺または右辺において上下方向に直線状に形成された直線部と、該直線部に対して上下方向には自由に移動可能であり且つ該直線部を左方または右方には押圧可能に形成された左右押圧軸とを有することを特徴としてもよい。
この構成によれば、ヘッドを上下方向又は左右方向に配向させる場合において、上下方向及び左右方向への回動をそれぞれ干渉させずに、確実且つ高精度に行うことができる。
【0012】
さらに、前記貫通穴内に配置されている冷媒用配管は、何れの方向にも曲折自在な部材により構成されていることを特徴としてもよい。
この構成によれば、ヘッドを配向させる際にも、冷媒用配管がその向きに柔軟に追従することができる。このため、冷媒用配管にストレスが加わらないようにすることができ、冷媒用配管の破損等を防止できる。
【0013】
また、前記連結部には、冷媒用配管及び電気配線を連結部の中空部内に導入させるための導入穴が形成され、該導入穴から連結部の外に位置する冷媒用配管及び電気配線は、前記接離動機構による連結部の移動に対して追従できるように湾曲して配置されていることを特徴としてもよい。
この構成によれば、連結部の動作に対して冷媒用配管及び電気配線が十分に追従することができる。
【0014】
前記切削刃は、前記刃物台には、切削刃を進入させて装着させるための取り付け用隙間が形成されるとともに、取り付け用隙間に進入した切削刃を誘引するための磁石が設けられていることを特徴としてもよい。
この構成によれば、切削刃を取り替える際に、切削刃を取り外しやすくしかも切削刃の落下を防止できるので、切削刃の取り替えを安定して行える。
【0015】
本発明にかかるクライオスタットによれば、冷却機能を備えたチャンバーと、請求項1〜請求項6のうちの何れか1項記載のミクロトームとを具備することを特徴としている。
この構成を採用することによって、冷媒用配管及び電気配線が邪魔にならないようにして確実にチャンバー内の清掃及びその他の作業を行える。
【0016】
なお、前記チャンバー内に、ミクロトームのうち切削刃が装着される刃物台及びヘッドのみが配置されていることを特徴としてもよい。
すなわち、ミクロトーム全体をチャンバー内に配置すると、チャンバーの容量を大きくし、冷却機能を大容量にしなくてはならない。このため装置の小型化、省電力化といった要求に答えることができなかったが、本構成を採用することで、装置の小型化、省電力化を図ることができる。
【0017】
前記チャンバーの内壁面において、ミクロトームのヘッドが突出している部位は変形可能且つ液密性のある部材で覆われていることを特徴としてもよい。
これにより、チャンバーの外部に存在するミクロトームの本体部の動作でヘッドが移動してもチャンバーの内壁面に干渉しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のミクロトーム及びクライオスタットによれば、冷媒用配管及び電気配線が邪魔にならないので、清掃やその他の作業を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るクライオスタットの内部構造を示す側面からの断面図である。
【図2】クライオスタットの内部構成を示す概略図である。
【図3】ヘッド及び配向機構の外観を示す平面図である。
【図4】ヘッド及び配向機構の外観を示す正面図である。
【図5】ヘッド及び配向機構の外観を示す側面図である。
【図6】ヘッド及び配向機構の内部構成を示す断面図である。
【図7】図6においてヘッドを上方に配向したところを示す断面図である。
【図8】図6においてヘッドを下方に配向したところを示す断面図である。
【図9】上下動部材及び左右動部材の外観を示す説明図である。
【図10】リング状部材の外観を示す説明図である。
【図11】球状部材の外観を示す説明図である。
【図12】刃物台の外観を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本実施形態におけるクライオスタットの全体構成を示す側面図を、図2に本実施形態におけるクライオスタットの概略の説明図を示す。
まず、これらの図面に基づいて、クライオスタット10およびミクロトーム30の全体構成について説明する。
クライオスタット10は、試料を凍結させて組織標本を迅速に作製する装置であり、主として手術の際に用いられることが多い。
クライオスタット10は、組織標本を作製するための作業を行うチャンバー11と、チャンバー11内を冷却する冷却装置(特許請求の範囲でいう冷却機能)12と、ミクロトーム30とを備えている。
冷却装置12と、ミクロトーム30の切削刃20を有する刃物台13と、ミクロトーム30のヘッド32は、クライオスタット10のチャンバー11内に配置されている。ヘッド32は、切削刃20に対向して配置されており、試料を保持している。
【0021】
チャンバー11内を冷却する冷却装置12は、冷媒の蒸発器である。冷却装置12には、冷媒を圧縮する圧縮機9、外部へ熱を放出する凝縮器8、及び膨張弁7がチャンバー冷媒用配管15を通じて連結されており、冷媒をこれら機器の間で循環させて熱交換をすることで、チャンバー11内を冷却することができる。圧縮機9、凝縮器8及び膨張弁7はチャンバー11の外部に設けられている。
【0022】
チャンバー11内には、試料作製部6が設けられている。試料作製部6は、ヘッド32の試料支持部51(図4及び図5参照)に装着する組織標本のブロックを凍結して作製する部分である。作業者は、試料作製部6の上で試料の作製作業を行うことができる。
試料作製部6内には、冷却装置12を構成するチャンバー冷媒用配管15が配置されており、チャンバー冷媒用配管15内を通過する冷媒によって試料作製部6を冷却することができる。なお、試料作製部6内のチャンバー冷媒用配管15の近傍にはペルチェ素子5が設けられている。ペルチェ素子5を作動させると、ペルチェ素子5が設けられている箇所の上面は、試料作製部6の他の箇所よりもさらに低温にすることができる。このため、試料作製部6におけるペルチェ素子5が設けられている箇所は、試料作製部6の他の箇所よりも早く組織標本ブロックを凍結作製させることができる。
【0023】
刃物台13は切削刃20を装着した状態でチャンバー11内に固定されており、切削刃20に対してミクロトーム30のヘッド32が移動することにより試料の薄切りが行われる。なお、刃物台13についての詳細な構成は後述する。
また、チャンバー11内には、ミクロトーム30のヘッド32が配置されており、ミクロトーム30の本体部42は、チャンバー11の外部に配置されている。ヘッド32と本体部42との間は、内部に中空部43が形成された筒状の連結部41によって連結されている。
【0024】
チャンバー11の内壁面において、ヘッド32がチャンバー11内に突出している部位には、ヘッド32の背面側から本体部42に延びる連結部41が配置されているが、本体部42の動作により連結部41がチャンバー11に突出入したり、その他方向に移動したりする。このとき、連結部41とチャンバー11の内壁面とが干渉しないように、チャンバー11の内壁面における連結部41の周囲には、ラバーシール44が施されている。
ラバーシール44は、蛇腹状に形成され、連結部41の動作を容易とし、なおかつチャンバー11内の冷気が外部に漏れないようにしている。
【0025】
本体部42は、チャンバー11の外壁面に固定されているが、ヘッド32を切削刃20に接離動させるために、ヘッド32に連結された連結部41を前後方向に移動させる移動手段としてのモータ85が背面側に設けられている。モータ85は、図示しない操作部からの操作によって回転駆動し、回転運動を直線運動に変換するギア等の変換手段によってμm単位でヘッド32を前後方向に移動できる。
【0026】
本体部42の上面には、ヘッド32に連結された連結部41を上下方向に移動させる移動手段としてのモータ86が設けられている。モータ86は、図示しない操作部からの操作によって回転駆動し、回転運動を直線運動に変換するギア等の変換手段によってヘッド32を上下方向に移動させる。これらのモータにより、ヘッド32に装着した試料を切削刃20に対して切削方向に移動させながら試料を薄切りできる。
なお、連結部41の上下動は、モータ86を使用せずに図示しない回転ハンドルを用いて実行することも可能な構造となっている。
【0027】
切削刃20に対して対向する位置で試料を支持するヘッド32の内部には、温度調整装置34が設けられている。
温度調整装置34は、ヘッド32の裏面に取り付けられたペルチェ素子36と、ペルチェ素子36の裏面に取り付けられて、内部に冷媒が流通する流通管路が形成されたヒートシンク38と、ヒートシンク38に対して冷媒を流通させる冷媒用配管40を有している。
【0028】
冷媒用配管40は環状に形成されていて、中途部でポンプ45を配しており、ポンプ45の駆動によって冷媒を循環させている。ヒートシンク38はペルチェ素子36で生じた熱を冷媒で吸熱させ、温度上昇した冷媒は冷媒用ポンプ45を介して冷媒用配管40のヒートシンク38が接続された側と反対側の端部に送り込まれる。冷媒用配管40のヒートシンク38が接続された側と反対側の端部40xはチャンバー11内の試料作製部6に配置されている。すなわち、ヘッド32のペルチェ素子36から吸熱して温度上昇した冷媒は、試料作製部6内のチャンバー冷媒用配管15の冷媒と熱交換することにより、冷却するようにしている。
【0029】
ヘッド32の背面側には、配向機構が設けられているが配向機構については後述する。
配向機構のさらに背面側に上記の連結部41が設けられており、この連結部41内の中空部43に冷媒用配管40と、ペルチェ素子36制御用の電気配線46とが配置されている。このように、冷媒用配管40と電気配線46はチャンバー11内には露出せず、ヘッド32の背面から連結部41内を通ってチャンバー11の外部に延出されている。
このため、チャンバー11内のヘッド32の周囲には冷媒用配管40と電気配線46が存在せず、飛散した切片の除去のための清掃や、その他の作業などについての作業効率を高めることができる。
【0030】
なお、連結部41のチャンバー11外部における所定箇所には、冷媒用配管40と電気配線46を中空部43に導入するための導入穴47が形成されている。導入穴47は、本体部42とチャンバー11との間に設けられている。
導入穴47近傍における連結部41の外部に位置する冷媒用配管40と電気配線46は、連結部41の動作に追従できるように、湾曲して配置された湾曲部49が設けられている。
【0031】
次に、図3〜図8にヘッドと配向機構の外観とその内部構造を示す。
図3はヘッドと配向機構の平面図、図4はその正面図、図5はその側面図を示している。図6〜図8は、ヘッドを上下方向に回動させたときの内部構成を示しているが、ここでは電気配線については省略している。
ヘッド32の表面側には試料を支持する試料支持部51が設けられている。試料支持部51は、試料の所定の側面に当接する固定当接部52と、固定当接部52に対向する位置に配置され、固定当接部52方向に向けて移動して試料を挟み込む移動当接部53とを有している。
移動当接部53はレバー54に連結されており、レバー54を動作させることにより、移動当接部53と固定当接部52との間で試料を挟み込み、レバー54を解除する方向に動作させることにより、試料の挟み込みを解除することができる。
【0032】
ヘッド32の背面側の配向機構50はヘッド32と連結して構成されており、配向機構50には、上下方向へのヘッド32の配向を調整する上下方向調整つまみ60と、上下方向と直交する左右方向へのヘッドの配向を調整する左右方向調整つまみ62とが設けられている。
上下方向または左右方向へのヘッド32の配向調整が終了したのち、この配向位置でヘッド32を固定するための固定レバー64が配向機構50に設けられている。
【0033】
図6〜図8に示すように、ヘッド32内部において試料支持部51の背面側には、支持された試料を冷却するためのペルチェ素子36が設けられている。ペルチェ素子36の背面には、ペルチェ素子36の放熱を冷媒によって吸熱させるためのヒートシンク38が取り付けられている。ヒートシンク38には、ヒートシンク38に冷媒を流入させる側の冷媒用配管40aと、ヒートシンク38から吐出される冷媒を流す冷媒用配管40bの2本が接続されている。
【0034】
ヘッド32の筐体66は、配向機構50内に設けられた玉軸受けに連結され、上下方向及び左右方向に対して回動自在となっている。玉軸受けとしては、外周面が球面状に形成された球状部材68と、球状部材68の外周面に当接して球状部材68を摺動可能に保持する保持部材70と、固定用保持部材71とを有しており、ヘッド32の筐体66は球状部材68に連結されている。固定レバー64が固定用保持部材71を締め付けることにより、ヘッド32が所定の配向位置で固定される。なお、保持部材70及び固定用保持部材71が特許請求の範囲でいう保持部に該当する。
さらに、球状部材68の背面側の内周面69は、球面状に形成されており、球状部材68を保持部材70と固定用保持部材71に対して摺動させるために、外周面が球面状のリング状部材72が、球状部材68の背面側に当接して配置されている。
【0035】
球状部材68の中心には、ヘッド32の内部と連結部41の中空部43とを連通する貫通穴74が形成されている。貫通穴74内に、ヒートシンク38に接続されている冷媒用配管40が貫通して配置される。
また、リング状部材72の中心にも、貫通穴74と連通する第2貫通穴75が形成されている。冷媒用配管40は、上記の貫通穴74と第2貫通穴75内を貫通して配置される。
【0036】
なお、冷媒用配管40は、球状部材68及びリング状部材72の内部に配置している箇所を、何れの角度へも自在に回動可能となるように蛇腹状の部材76で構成している。このため、配向機構50内で球状部材68が何れの角度に回動したとしても、その角度に追従することができ、この部分での冷媒用配管40の破損等を防止できる。
【0037】
上述してきたように、ヘッド32と配向機構50は一体に構成されており、また配向機構50の背面側には、連結部41を接続するための接続部78が設けられている。本実施形態では、連結部41は円筒状の部材(破線)として構成されており、この円筒状の連結部41の端部を接続するのが接続部78である。連結部41の周囲には断熱材が配置され、また連結部41の内部の中空部43内にも断熱材が充填されていることにより、冷媒の温度上昇を防止することができる。
接続部78には、連結部41の中空部73との間をシールするシール部材79が設けられ、このシール部材79の中心側にはリング状部材72を貫通した冷媒用配管40の端部が突出して配置されている。この冷媒用配管40の端部は連結部41内に配置されるチューブ状の冷媒用配管40cの端部と接続可能な形状に形成されている。
【0038】
図9〜図11には、配向機構における球状部材、リング状部材及び上下動部材の外観を示している。
球状部材68の背面側の内周面に当接するリング状部材72の周縁部には、左右方向に直線状に形成された第1直線部80と、上下方向に直線状に形成された第2直線部81が形成されている。
本実施形態では、第1直線部80はリング状部材72の周縁の上部に形成されており、第2直線部81はリング状部材72の周縁の右側(背面から表面をみて)に形成されている。
【0039】
第1直線部80には、リング状部材72を上下方向に移動させるために、第1直線部80を押動又は引き上げ可能な上下動部材82が軸線方向を上下に向けて接続されている。上下動部材82は、上下方向調整つまみ60に螺合して接続され、上下方向調整つまみ60を回すことによって上下動部材82は上下方向に移動する。
上下動部材82の先端部は、第1直線部80を上下間で挟み込むようにギャップ83が形成されている。上下動部材82が上下方向に移動すると、ギャップ83の上下面が第1直線部80の上面または下面に押圧するのでリング状部材72が上下方向に移動する。
【0040】
第2直線部81には、リング状部材72を上下方向に対して直交する方向である左右方向に移動させるために、第2直線部81を押動又は引っ張り可能な左右動部材84が軸線方向を水平(左右方向)に向けて接続されている。左右動部材84は、左右方向調整つまみ61に螺合して接続され、左右方向調整つまみ61を回すことによって上下動部材82は左右方向に移動する。
左右動部材84の構造は、上下動部材82と同一の構成を有しており、先端部に第2直線部81を左右間で挟み込むようにギャップ83が形成されている。左右動部材84が左右方向に移動すると、ギャップ83の左右面が第2直線部81の右面または左面に押圧するのでリング状部材72が左右方向に移動する。
【0041】
また、上下動部材82を動作させた場合、左右動部材84の先端部のギャップ83は、第2直線部81を左右方向に挟んだ位置に配置されているだけなので、リング状部材72が上下動しても左右動部材84が邪魔にならず自由に上下動することができる。
また、左右動部材84を動作させた場合、上下動部材82の先端部のギャップ83は、第1直線部80を上下方向に挟んだ位置に配置されているだけなので、リング状部材72が左右方向に移動しても上下動部材82が邪魔にならず自由に左右方向に移動させることができる。
【0042】
上下動部材82及び左右動部材84においては、ギャップ83が形成されている先端部においては、各部材82,84の軸線方向に対して平行な平面を有する平面部89が形成されている。
平面部89は、保持部材70において表面側を向いて形成された平面壁93に常時当接しており、上下方向調整つまみ60や左右方向調整つまみ61を回動させたときでも上下動部材82及び左右動部材84自体が回動することを防止し、上下動部材82及び左右動部材84は軸線方向のみに移動する。
【0043】
このように、リング状部材72を上下方向及び左右方向に移動させることにより、リング状部材72の外周面に当接している球状部材68は、保持部材70および固定用保持部材71の内壁面の球状面に沿って上下方向及び左右方向に回動する。
このため、ヘッド32の切削刃20に対して試料の角度を高精度に調整することができる。
【0044】
次に、図12に基づいて刃物台の構造について説明する。
刃物台13は、台形状の台座88と刃角調整用台座87の上部に切削刃20を装着する装着部90が配置されて構成されている。刃角調整用台座87の上面には、上方に突出して左右方向に延びるレール部91が形成され、装着部90の下面にはレール部91にはまり込む凹部92が形成されている。これにより、装着部90は、レール部91に沿って刃角調整用台座87に対して左右方向にスライド移動可能となる。
装着部90の左右方向へのスライド移動は、固定レバー94を解除方向に回転させることで可能となり、固定レバー94を固定方向に回転させることでその位置で固定される。
【0045】
装着部90の上端部には、左右方向に長手方向を有し、刃が長手方向端面に形成された切削刃20が装着される。
切削刃20の装着位置よりも前面(手前)側には、試料を薄切りにして形成された切削片が配置される傾斜面が形成された刃押さえ100が設けられている。この刃押さえ100と、装着部90の上端であって刃押さえ100の背面側に位置する刃受け101の間の隙間104(特許請求の範囲でいう取り付け用隙間)に、切削刃20が装着される。
【0046】
刃押さえ100は、刃受け101に対して接離動可能であって、切削刃20を進入させる隙間104の間隔を広げたり、また狭めたりして切削刃20の固定と解除を行うことができる。刃押さえ100と刃受け101の接離動は固定レバー99の回転によって行うことができる。
切削刃20の装着は、刃押さえ100と刃受け101との隙間104を広げた状態で左右方向どちらか一方から、隙間104に進入させるようにして行う。切削刃20を所定位置まで進入させた後、固定レバー99を動作させて隙間104の間隔を狭め、切削刃20を刃押さえ100と刃受け101との間に挟み込んで固定する。
【0047】
また、刃受け101の左右側面には、切削刃ガイド102が取り付けられる。切削刃ガイド102には、切削刃20の長手方向両端部に対して磁力で誘引するため、左右方向の両端部のそれぞれに磁石96,96が設けられている。
このように2個の磁石96が設けられていることにより、特に切削刃20を取り替えるときなど、隙間104からチャンバー11内への切削刃20の落下の心配がなく、安定して取り替えが可能であり、また取り外しも容易となる。
【0048】
なお、台座88の側面に設けられているレバー98は、台座88のチャンバー11内への固定及び固定を解除するためのものである。
【符号の説明】
【0049】
5 ペルチェ素子
6 試料作製部
7 膨張弁
8 凝縮器
9 圧縮機
10 クライオスタット
11 チャンバー
12 冷却装置
13 刃物台
15 チャンバー冷媒用配管
20 切削刃
30 ミクロトーム
32 ヘッド
34 温度調整装置
36 ペルチェ素子
38 ヒートシンク
40 冷媒用配管
41 連結部
42 本体部
42 ポンプ
43 中空部
44 ラバーシール
46 電気配線
47 導入穴
49 湾曲部
50 配向機構
51 試料支持部
52 固定当接部
53 移動当接部
54 レバー
64 固定レバー
66 筐体
68 球状部材
69 内周面
70 保持部材
71 固定用保持部材
72 リング状部材
73 中空部
74,75 貫通穴
76 蛇腹状の部材
78 接続部
79 シール部材
80 第1直線部
81 第2直線部
82 上下動部材
83 ギャップ
84 左右動部材
85,86 モータ
87 刃角調整用台座
88 台座
89 平面部
90 装着部
91 レール部
92 凹部
93 平面壁
94 固定レバー
96 磁石
98 レバー
99 固定レバー
100 刃押さえ
101 刃受け
102 切削刃ガイド
104 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃物台に装着された切削刃と、
切削刃に対して表面側が対向するように試料を保持するヘッドと、
ヘッドの背面側に設けられ、前記ヘッドが上下方向に回動可能、及び上下方向に対して直交する左右方向に回動可能となるようにヘッドを配向させる配向機構と、
配向機構の背面側に設けられ、切削刃との間でヘッドを接離動させる接離動機構を有する本体部と、
中心に中空部が形成され、本体部とヘッドとを連結する筒状の連結部と、
ヘッド内部に設けられ、ヘッドに保持された試料を冷却または加温するための温度調整装置と、
温度調整装置に冷媒を循環させる冷媒用配管及び温度調整装置用の電気配線とを具備し、
前記配向機構は、ヘッド背面側と連結しており外周部が球面状の球状部材と、球状部材の外周部を球面に沿って摺動可能に保持する保持部とを有し、
前記球状部材には、前記連結部の中空部と連通する貫通穴が形成され、
前記冷媒用配管及び電気配線は、球状部材の貫通穴と連結部の中空部を通ってヘッド内部の温度調整装置に接続されることを特徴とするミクロトーム。
【請求項2】
前記球状部材の裏面側の内壁面は球面状に形成されており、
該球状部材の内壁面に当接して摺動可能となるように外周面が球面状に形成され、中心に前記貫通穴及び前記中空部と連通する第2貫通穴が形成されたリング状部材が設けられ、
リング状部材を上下方向に移動させることによりヘッドを上下方向に回動させる上下移動手段が設けられ、
リング状部材を左右方向に移動させることによりヘッドを左右方向に回動させる左右移動手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載のミクロトーム。
【請求項3】
前記上下移動手段は、
リング状部材の上辺または下辺において左右方向に直線状に形成された直線部と、該直線部に対して左右方向には自由に移動可能であり且つ該直線部を上方または下方には押圧可能に形成された上下押圧軸とを有し、
前記左右移動手段は、
リング状部材の左辺または右辺において上下方向に直線状に形成された直線部と、該直線部に対して上下方向には自由に移動可能であり且つ該直線部を左方または右方には押圧可能に形成された左右押圧軸とを有することを特徴とする請求項2記載のミクロトーム。
【請求項4】
前記貫通穴内に配置されている冷媒用配管は、何れの方向にも曲折自在な部材により構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちの何れか1項記載のミクロトーム。
【請求項5】
前記連結部には、冷媒用配管及び電気配線を連結部の中空部内に導入させるための導入穴が形成され、
該導入穴から連結部の外に位置する冷媒用配管及び電気配線は、前記接離動機構による連結部の移動に対して追従できるように湾曲して配置されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちのいずれか1項記載のミクロトーム。
【請求項6】
前記刃物台には、切削刃を進入させて装着させるための取り付け用隙間が形成されるとともに、取り付け用隙間に進入した切削刃を誘引するための磁石が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項5のうちの何れか1項記載のミクロトーム。
【請求項7】
冷却機能を備えたチャンバーと、
請求項1〜請求項6のうちの何れか1項記載のミクロトームとを具備することを特徴とするクライオスタット。
【請求項8】
前記チャンバー内に、ミクロトームのうち切削刃が装着される刃物台及びヘッドのみが配置されていることを特徴とする請求項7記載のクライオスタット。
【請求項9】
前記チャンバーの内壁面において、ミクロトームのヘッドが突出している部位は変形可能且つ液密性のある部材で覆われていることを特徴とする請求項8記載のクライオスタット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−42295(P2012−42295A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182767(P2010−182767)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000148025)サクラ精機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】