説明

ミクロトーム用試料保持具

【課題】 本発明は、軟質ゴムのような柔軟性のある試料であっても常温作動型ミクロトームによりミクロンまたはサブミクロンの精度で切削可能なようにすることを目的とする。
【解決手段】 このような課題を解決するために、本発明のミクロトーム用試料保持具は、ミクロトームへの取付け部材と、試料を固定する試料保持部材とからなるミクロトーム用試料保持具であって、前記取付け部材と試料保持部材とは一体連結され、これらがミクロトームによる氷切削時の負荷を受けても実質的に変形しない剛性を有するとともに、前記試料保持部材は、金属又はそれと同等の高熱伝導性を有する材料にて構成され、液化ガス貯留タンク内に一端が露出し、多端が前記試料保持部材に熱的に一体化されてなる高熱伝導部材により、前記貯留タンク内の液化ガスと前記試料保持部材とが熱的に一体化されてなることを特徴とする構成を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ミクロトームへの取付け部材と、試料を固定する試料保持部材とからなるミクロトーム用試料保持具に関し、特に保持した試料を凍結状態に維持するミクロトーム用試料保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロトームは、常温雰囲気化で試料を切削する常温作動型ミクロトームと試料を凍結状態にして維持するための低温環境下で切削する低温作動型ミクロトーム(クレオサット)とに大別される。
後者の低温作動型は、生体試料などの軟質試料を凍結して切削するために、−20℃以下の低温度チャンバー内に、当該温度で作動可能な機械構造にしたミクロトームを収納したものであり、チャンバー内でのミクロトームの操作が複雑で、遠隔操作或いは自動操作などの手段を必要とする複雑なものであった。
一方、常温作動型ミクロトームは、前記のようなチャンバーを必要とすることなく、低温作動型ミクロトームに比べはるかに汎用性の高いものであった。
いずれのミクロトームにおいても、試料をミクロン若しくはサブミクロン単位の厚さで切削するには、切削抵抗により試料が弾性変形したり、変位しないように、試料や試料保持具、或いはミクロトーム自体に高い剛性を有することが要求される。
前記低温作動型ミクロトームでは、低温剛性により剛性を高めることができることから、切削厚さを高精度で制御しやすいが、これと同様な精度により常温作動型ミクロトームで切削するのは困難であった。
これに対して、特許文献1に示すように試料を液化ガスで凍結する手段が提案されているが、当該手段では、液化ガスを貯留するタンクが試料保持具とミクロトームを結合する部材となっており、力学上応力が集中することとなるので、合成樹脂でできた貯留タンクは凍結試料を切削するときに不可避的に変形が生じ、ミクロン或いはサブミクロン単位での精度で試料を切削することなどは到底望めないものであった。
一方、試料保持部材にペルチェ効果を利用して試料を凍結する手段も広く一般化されているが、これとて通常−10℃に試料を維持することができる程度である。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−136417
【発明の概要】

【発明が解決した課題】
【0004】
本発明はこのような実情に鑑み、軟質ゴムのような柔軟性のある試料であっても常温作動型ミクロトームによりミクロンまたはサブミクロンの精度で切削可能なようにすることを目的とする。
【課題解決のための手段】
【0005】
発明1のミクロトーム用試料保持具は、ミクロトームへの取付け部材と、試料を固定する試料保持部材とからなるミクロトーム用試料保持具であって、前記取付け部材と試料保持部材とは一体連結され、これらがミクロトームによる氷切削時の負荷を受けても実質的に変形しない剛性を有するとともに、前記試料保持部材は、金属又はそれと同等の高熱伝導性を有する材料にて構成され、液化ガス貯留タンク内に一端が露出し、多端が前記試料保持部材に熱的に一体化されてなる高熱伝導部材により、前記貯留タンク内の液化ガスと前記試料保持部材とが熱的に一体化されてなることを特徴とする。
発明2は、発明1のミクロトーム用試料保持具において、前記液化ガス貯留タンクが試料保持部材に固定されてなることを特徴とする。
発明3は、発明2のミクロトーム用試料保持具において、断熱性の壁にて形成された液化ガス貯留タンクと前記試料保持部材とは、前記貯留タンクの側壁を貫通して内部に一端が露出した高熱伝導性材により、一体固定されてなることを特徴とする。
発明4は、発明3のミクロトーム用試料保持具において、前記貯留タンクは、前記試料保持部材の試料保持位置に、前記貯留タンク内の液化ガスからの蒸発ガスが流下するように、蒸発ガス案内手段が設けられていることを特徴とする。
発明5は、発明1から4のいずれかのミクロトーム用試料保持具において、前記取付け部材と試料保持部材とは、剛性を有する断熱材よりなるスペーサを介して一体連結されてなることを特徴とする。
発明6の常温作動型ミクロトームは、試料凍結保持具を取付ける試料取付部と、切削用刃物を取り付ける刃物取付部とを有し、常温雰囲気にて、これらを相対的に移動させて前記試料保持具に保持された試料を前記切削用刃物にて切削する切削作動手段とを有する常温作動型ミクロトームであって、前記試料取付部には、当該箇所を加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする。
発明7は、発明6の常温作動型ミクロトームにおいて、前記試料取付部には、当該箇所の温度を検知する検知手段が設けられていて、前記検知手段による検知温度が本ミクロトームの作動温度範囲を維持するように、前記過熱手段を前記検知手段による検知温度により作動する温度制御手段が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
発明1により、液化ガスにより−20℃以下の温度に試料を凍結維持して常温作動型ミクロトームにより切削しても、常温作動型ミクロトームの剛性が十分なものであれば、その切削抵抗により本試料保持具は変形することなくミクロン又はサブミクロンの精度で切削を可能にした。
また、発明3により、液化ガス貯留タンクと試料保持部材間の熱伝導は最短で行われ、熱損失が実質上生じないことより、試料保持部材を急速かつより低温に維持することができる。
さらに、発明4のようにして、液化ガスの蒸発ガスを、試料周辺を覆うようにして流下することにより、試料を移動させて切削する場合であっても外気との直接的な試料との接触を避けることができるので、その温度維持を容易にすることができる。
また、発明5のように、剛性ある断熱性材よりなるスペーサを試料保持部材と取付け部材との間に介在されて一体化することで、ミクロトームへの熱伝導による熱損失を避け、液化ガスの使用効率を向上することができる。
また、ミクロトームを急速に冷却する虞もないので、ミクロトーム内部の精度維持にも貢献することができる。
【0007】
また、発明6,7のようにすることで、試料保持具からの冷熱をミクロトーム二部に至らないようにすることで、常温作動型ミクロトーム本来の機能を遺憾なく発揮させることが、時間的制限なく可能となった。
また、前記発明1から5に示したミクロトーム用試料保持具のみならず、従来から一般に知られていた試料冷却手段を用いる場合でも、冷却によるミクロトーム本体の異常を予防するのに有効なものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1を示す縦断側面図。
【図2】実施例1を示す平面図(キャップ除去状態)。
【図3】実施例1を示す背面図。
【図4】実施例2のスペーサを示す縦断背面図
【図5】実施例2のスペーサを示す縦断背面図
【図6】実施例3の要部を示し、(I)は組み立て前のピン(23A)の側面図、(II)は組み立て前の孔(24A)の縦断側面図、(III)は両者の組み立て完了後の縦断側面図。
【図7】実施例4の要部を示し、(I)は楔(23Bd)の側面図、(II)はピン(23B)の側面図、(III)は孔(24B)の縦断側面図、(IV)は、楔(23Bd)とピン(23B)と孔(24B)を組み立て、圧入直前の状態を示す縦断側面図、(V)は楔(23Bd)を圧入して、ピン(23B)が孔(24B)に完全に一体化した状態を示す縦断側面図。
【図8】実施例5を示す平面図。
【図9】図8のA−A断面図。
【図10】実施例6のミクロトームを示す平面図。
【図11】実施例6の温度制御システムのフロー図。
【図12】実施例7の要部を示す図面であって、(I)は液化ガスタンクとその周辺構造を示す斜視図、(II)は、断熱ホースの縦断面図、(III)は、試料保持部材と付属部品の斜視図、(IV)は、金属ワイヤーとそれを包む断熱ホースを示す縦断面図。
【図13】実施例7の要部を示す図面であって、(1)は、液化ガスタンクとその周辺構造を示す縦断正面図、(II)は、試料保持部材とその付属部品を示す縦断正面図。
【符号の説明】
【0009】
(10) ミクロトーム取付け部材
(11) ネジ
(115) 試料保持部材
(117) 試料保持面
(119) ステー
(120) 貯留タンク
(121) 注入口
(123) 高熱伝導性のネジ
(126) カバー
(12a)(12b) 空間
(14) 断熱スペーサ
(15) 試料保持部材
(16) 固定片
(17) 遊片
(18) 締付けネジ
(19) 側温孔
(20) 液化ガス貯留タンク
(210) 試料取付部
(212) 回転ハンドル
(22) ガス流出口
(220) ナイフホルダー
(23) 頭付き固定ネジ
(230) 基盤
(231)(232) ケース
(23A) 軟質ピン
(23Ab) 胴部
(23Ac) 脚部
(23B) 軟質ピン
(23Bb) 胴部
(23Bc) 楔挿入孔
(23Bd) 楔
(24) ネジ孔
(24A) ピン挿入孔
(24Aa) 大孔
(24Ab) 小孔
(24Ac) 環状溝
(24B) ピン挿入孔
(25) ガス案内カバー
(250) 制御器
(251) 感熱端子
(252) ケーブル
(253) 加熱ヒータ
(254) 電源ケーブル
(255) 制御電源ケーブル
(25Aa) 頭部
(26Ba) 頭部
(26) 閉止蓋
(30) 側温端子
(31) 測温器
(32) 信号ケーブル
(320) 貯留タンク
(322) 気化ガス出口
(323) 金属ワイヤー
(325) 断熱ホース
(326) カバー
(350) スタンド
(361) 気化ガス出口
(370) ボックス
(371) 開口
(372) ホース接合筒
(380) フランジ
(381) 止めネジ
(383) 断熱チューブ
(384) 止めネジ
(385) フランジ
(386) 袋ネジ
(387) 金属製のフランジ
(G) 気化ガス
(L) 液化ガス
(S) 試料
(TO) 測定温度
(Td) 設定温度下限
(Tt) 設定温度上限
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、常温作動型ミクロトームを用い、常温環境化において、クリオサットと同様な切削性能を得ることができるものである。
本発明における液化ガスとは、液化窒素、ドライアイス、液化酸素などの常態ではガスであり、それが気化又は昇華したときに周辺から急速に熱エネルギーを吸収する液化又は固化されたガスをいう。
ミクロトームへの取付け部材と、試料を固定する試料保持部材は、その剛性を得るために、アルミ合金又は真鍮等の金属材料を加工して作られているのが一般的であるので、これら金属材料は、剛性のみならず、熱伝導性をも有している。
それ故に、本発明では、前記取付け部材及び前記試料保持部材は、従来公知の金属製のものであればいずれも使用可能である。
本発明の貯留タンクは、液化ガスに耐える耐低温性と、急速な蒸発を防止できる断熱性を有する材料により隔壁が構成されている。
このような機能を有する材料としては、合成樹脂材料が一般的に使用されおり、より具合的には、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂等が適用可能である。
また、このような材料による断熱性にたよるのではなく、魔法瓶のような断熱構造によるものでも使用可能である。
前記取付け部材や前記試料保持部材を構成した金属材料と同様な金属材料にて隔壁を構成し、その外周を発泡樹脂や断熱性構造にて覆って、外部との断熱性を付与することも可能である。
【実施例1】
【0011】
本実施例は、アルミ合金製の試料保持部材(15)に、液化ガス貯留タンク(20)を一体化した例を示す。(図1から4参照)
(10)は、ミクロトームの試料取付部先端のアリ溝に嵌りこむ、台形のアルミ合金製のミクトローム取付け部材で、前記試料保持部材(15)とは、ネジ(11)により、断熱スペーサ(14)を介して一体化してある。
前記試料保持部材(15)はその先端に、試料を挟み持つための固定片と(16)と遊片(17)が、締付けネジ(18)にて連結されている構成を有している。
これら試料挟持手段は、従来より周知なものであるから詳しい説明は省略する。
前記断熱スペーサ(14)は、前記試料保持部材(15)やミクロトーム取付け部材(10)と同様な剛性を有し、前記貯留タンク(20)に近い断熱性を有する材料、たとえばガラス繊維エポキシ樹脂複合材を成型加工したものを用いた。
この複合材料は、一般には電子回路基盤材料として用いられている。
前記貯留タンク(20)は、前記試料保持部材(15)の上面に設置され、この貯留タンク(20)の底部を貫通させた頭付き固定ネジ(23)を、前記試料保持部材(15)の上面に形成したネジ孔(24)にねじ込むことで、一体固定されている。
当該固定ネジ(23)は、前記試料保持部材(15)と同様な金属製であって、同様な高熱伝導性を有しており、貯留タンク(20)内に暴露している頭部と前記ネジ孔(24)に圧着しているネジ部とにより、貯留された液体窒素などの液化ガス(L)からの冷熱を前記試料保持部材(15)に効率よく伝達できるようにしてある。
なお、前記貯留タンク(20)は、その隔壁を断熱性の合成樹脂により構成し、前記固定ネジ(23)以外の箇所では、できるだけ外部との熱的接触を避けるようにしてある。
この貯留タンク(20)の上面は開放され、液化ガス(L)の注入口(21)としてある。また、それに続く前記試料挟持手段側を切り込んで、ガス流出口(22)とし、当該ガス流出口(22)を設けた側を上下全長に渡って覆うガス案内カバー(25)が設けてある。
このようにして、前記ガス流出口(22)から出た気化ガス(G)を前記試料挟持手段上方から流しだすようにして、挟持された試料(S)全体を気化ガス(G)にて覆うようにしてある。
(26)は、前記貯留タンク(20)と前記カバー(25)の上端を覆う閉止蓋であって、使用時には、図1に示すように貯留タンク(20)と案内カバー(25)の上端を閉止することで、外気との接触を避けると共に、ミクロトームによる切削時の上下移動に際しても、カバー(25)下端からの外気流入を抑え、気化ガス(G)の逆流を防止してある。
前記試料保持部材(15)の一側部には、測温器(31)と信号ケーブル(32)を介して連結された側温端子(30)を挿入する側温孔(19)が設けられていて、前記試料保持部材(15)の温度を逐次測定可能にしてある。
このようにして、試料保持部材(15)とミクロトーム取付け部材(10)とを精密切削が可能な高い剛性を保たせながら、ミクロトームの冷却をできるだけ避け、試料保持部材(15)のみを液化ガス(L)により急速かつ低温度に冷却できるようにしてある。
さらに、その冷却により生じた気化ガス(G)(外気より低い温度のガス)で試料(S)を包み込むことで、試料(S)の低温をできるだけ維持しやすいようにして、液化ガス(L)の気化速度を抑えるようにしてある。
なお、ミクロトームは全体に金属製であり、大きな放熱部材ともいえるので、上記のようにして、ミクロトームへの断熱性を高めることでも、液化ガス(L)の無駄な気化を避けることができる。
【実施例2】
【0012】
前記断熱スペーサの別例を示す。(図4、図5参照)
前記断熱スペーサ(14)は、必要な剛性を有する限り、貫通した空間(12a)(12b)をできるだけ大きく形成して、前記ネジ(11)、前記試料保持部材(15)、前記取付け部材(10)との接触面積をできるだけ小さくするようにして、断熱性をより向上することも本発明をさらに有効にするものである。
なお、その他の点は、前記実施例1と同様なので、説明を省略する。
【実施例3】
【0013】
本実施例は、貯留タンク(20)と試料保持部材(15)との連結手段の別例を示す。(図6参照)
本実施例では、前記試料保持部材(15)を構成する金属よりも軟質な金属を用いて構成されたピン(23A)を用いた。
前記ピン(23A)は、前記貯留タンク(20)の底部を押さえる頭部(25Aa)と、これより小径の胴部(23Ab)と、この胴部(23Ab)よりもさらに小径の脚部(23Ac)より構成されている。
一方、前記試料保持部材(15)の上面には、前記ピン(23A)に対応する孔(24A)が形成されている。この孔(24A)は、前記胴部(23Ab)に対応する大孔(24Aa)と前記脚部(23Ac)に対応する小孔(24Ab)とが形成されているとともに、この小孔(24Ab)の上下中央部には、環状溝(24Ac)が形成されている。
なお、前記小径孔(24Ab)は、前記脚部(23Ac)よりも短い長さにしてある。
このようにして、前記ピン(23A)を前記孔(24Aa)(24Ab)に加圧挿入すると、前記ピン(24A)は体積変形を生じ、図中右側のように、前記脚部(23Ac)の一部が前記環状溝(24Ac)内に侵入して一体化する。
また、この体積変形は、他の箇所におけるピン(24A)と孔(24A)との接触を強くし、ピン(23A)から前記試料保持部材(15)への冷熱の伝導を確実にすることができる。
以上のようにして、貯留タンク(20)と前記試料保持部材(15)との一体化と、前記タンク(20)内の液化ガス(L)と前記試料保持部材(15)との熱伝導とを、ピン(23A)の圧入により一気に達成できるようにした。
さらに、ビン(23A)と前記試料保持部材(15)との熱伝導性が極めた高く、実施例1,2の効果を一層高めるものとなった。
なお、図6中の矢印は組み立ての順序を示し、(I)は組み立て前のピン(23A)の側面図、(II)は組み立て前の孔(24A)の縦断側面図、(III)は両者の組み立て完了後の縦断側面図を示す。
その他の点は、前記実施例1又は実施例2と同様なので説明を省略する。
【実施例4】
【0014】
本実施例は、前記実施例3のような軟質ピンを用いる別例を示す。(図7参照)
軟質ピン(23B)は、前記貯留タンク(20)の底部を押さえる頭部(25Ba)と、先が少々小径となるテーパー状の胴部(23Bb)からなり、中央には上方ほど太くなるテーバー状の楔挿入孔(23Bc)が設けてある。
前記試料保持部材(15)には、このピン(23B)を挿入できる上下が同径の孔(24B)が形成してある。
まず、前記ピン(23B)を前記孔(24B)に挿入し、次に、前記楔挿入孔(23Bc)と同様なテーバーでそれよりも太い楔(23Bd)を圧入する。
このようにすると、前記ピン(23B)は、体積変形を生じて、前記孔(24B)内面に圧着し、一体化する。
その結果、両者は高い熱伝導性を持って一体化することができた。
なお、前記孔(24B)の内面をやすり等で粗面化しておくと、両者の一体化と熱伝導性をさらに有効である。
なお、図7中の矢印は組み立ての順序を示し、(I)は楔(23Bd)の側面図、(II)はピン(23B)の側面図、(III)は孔(24B)の縦断側面図、(IV)は、楔(23Bd)とピン(23B)と孔(24B)を組み立て、圧入直前の状態を示す縦断側面図、(V)は楔(23Bd)を圧入して、ピン(23B)が孔(24B)に完全に一体化した状態を示す縦断側面図である。
なお、本実施例において、前記実施例3における環状溝を孔(24B)に設けることも可能である。
【実施例5】
【0015】
本実施例は、滑走型ミクロトームに装着できる試料保持具を例にして説明する。(図8,図9参照)
滑走型ミクロトームは大きな試料を切削するのに有効であるが、その試料保持部材(115)は、上面に試料保持面(117)を有し、下面にミクロトーム取付け部材(110)を有する構造となっているのが一般的である。
このような構造では、前記実施例1に示すように、試料保持部材(15)の上方には、切削作業に影響しない十分な空間を有していない。
しかし、前記試料保持部材(115)側方には、切削作業に影響しない十分な空間が存在するので、それを利用して貯留タンク(120)を試料保持部材(115)の周囲を囲む形状とした。
そして、前記試料保持部材(115)からは、同様な金属製のステー(119)を四方に伸ばし、前記貯留タンク(120)を支えた。
さらに、高熱伝導性のネジ(123)により、前記貯留タンク(120)の隔壁を貫通して前記ステー(119)にねじ込み、貯留タンク(120)と試料保持部材(115)とを一体化した。
このようにして、液化ガス(L)の貯留部分を試料保持部材(115)の周囲に一体化し、その四方から冷熱を直接伝導されるようにし、大きな試料でも、均等に冷却して、全体を極低温の凍結状態に維持できるようにした。
また、前記貯留タンク(120)の上面に形成した注入口(121)は、内部のネジ(123)を操作するために、位置をずらせてある。
また、この上面には、前記注入口(121)の外側を囲むようにして低いカバー(126)が設けてある。
このカバー(126)は、気化ガスが前記試料保持面(117)に優先して流れるようにしながら、滑走時に刃物移動を阻害しないようにしたものである。
その他の点は、前記実施例1に示す内容と同様であるので、前記実施例1と同様な符号を図面に付し、説明を省略する。
また、実施例2から4に示す改良点の本実施例における適用も可能である。
【実施例6】
【0016】
本実施例は、常温型ミクロトームにおける温度低下を防止する手段を例示する。
常温型ミクロトームは、通常使用時の環境温湿度(一般に、温度5℃から40℃、湿度90%未満)に限界が定められている。
そのような温度、湿度域内でも、温度が低い場合或いは湿度が高い場合に、前記実施例1から5に示す試料保持具を用いて長時間作業すると、使用条件未満の温度に低下したり、内部に結露が生じるなど、ミクロトームの故障原因となる現象が生じる可能性がある。
このような場合に対応するために、本実施例では、ミクロトームの内部構造が設定温度以下にならないようにする温度維持構造を例示する。
図10に示すミクロトームは、一般に用いられている常温型のロータリーミクロトームであり、剛性の高い基盤(230)上に各種の内部構造が設置され、回転ハンドル(212)の回転により、試料取付部(210)を上下に移動して、ナイフホルダー(220)に保持した切削ナイフ(図外)により、設定された厚さで試料を切削できるように構成してある。
そして、それらの機構の殆どは、金属製のケース(231)(232)内に収納されている。
前記試料取付部(210)の先端には、前記実施例1に示すような試料保持具を取付けるためにアリ溝が設けてある。
このアリ溝設置箇所よりも内側に、加熱ヒータ(253)と感熱端子(251)とこれらとケーブル(254)(252)により接続された制御器(250)により構成された温度制御構造が設けてある。
前記試料取付部(210)の前記加熱ヒータ(253)設置箇所より内側の温度(TO)を、前記感熱端子(251)により測定し、ケーブル(252)により制御器(250)に送る。
図11のフローに示すように、前記測定温度(To)が、設定温度上限(Tt)を超えた場合は、前記加熱ヒータ(253)の電源をOFFにする信号を発し、また、設定温度下限(Td)以下である場合は、前記電源をONにする信号を発する制御回路が設定してあり、前記、加熱ヒータ(253)の電源ケーブル(254)の途中には、前記制御信号により、制御電源ケーブル(255)からの電流をON−OFFするリレーが設けてある。
このようにして、前記試料取付部(210)の先端からの冷熱を前記加熱ヒータ(253)にて遮断し、ミクロトーム内部の機械構造が以上に低温化したり結露しないようにしてある。
なお、前記設定温度(Tt)(Td)は、制御器(250)に設けた設定入力器(図外)により手動で設定調整できるようにしても、ROMなどに予め記憶させておいてもよい。
また、このような温度制御は、ミクロトーム全体の熱容量と前記各実施例による冷熱の伝達速度などを勘案すれば、1分間隔程度で問題なく作動させることができる。
なお、本実施例では、試料保持具を相対的に上下させるミクロトームを示したが、本実施例に示した温度制御手段を、実施例5に示すような試料保持具を用いる滑走型ミクロトームにおいても、その試料保持具の取付け箇所近くに本実施例で示すヒータや前記感熱端子を配置し、これを、前記のような制御器により制御することにより、同様な効果を達成しえるものである。
また、試料保持具のミクロトーム取付け部材にヒータや感熱端子を設置し、取付け部材の温度をミクロトームに影響しない温度(例えば、5℃から−10℃程度)に維持するようにすることでも、本実施例と同様な効果を得ることができる。
【実施例7】
【0017】
本実施例は、試料保持具に直接貯留タンクを設置するのではなく、ミクロトーム近くの場所に別途貯留タンクを設置するものを例示する。
貯留タンク(320)は、試料保持具の大きさや切削時の作業性などに制約されることがないので、卓上型の大きさにすることが可能である。
そして、それを所定の姿勢で設置するスタンド(350)を用いることで、不測な転倒などを防ぐことができる。
前記貯留タンク(320)の底部近くには、アルミ合金あるいは軟質のステンレスなどの細線を束ねた柔軟性のある金属ワイヤー(323)の一端が、前記貯留タンク(320)に固定した金属製のフランジ(380)に止めネジ(381)にて固定してある。
そして、そのワイヤー(323)の他端は、一端がオス型で他端がメス型となったフランジ(385)のメス孔に挿入して止めネジ(384)にて固定してある。この間の外部に露出する部分は発泡樹脂製の断熱チューブ(383)にて覆い、冷熱の損失を極力避けてある。
さらに、前記フランジ(385)は、断熱性樹脂製の袋ネジ(386)に回転自在に保持されていて、この袋ネジ(386)が試料保持部材(15)の側部に固定した金属製のフランジ(387)にねじ込まれと、前記ワイヤー(323)が結合されたフランジ(385)のオス型を、前記フランジ(387)の内側に押し込まれることとなる。
前記フランジ(385)のオス型の直径とフランジ(387)の内径とは蜜に接触するように同一にしてある。
なお、前記フランジ(380)(385)とワイヤー(323)との結合をロー付けなどにより一体化を強固にすることで、熱伝導性をさらに高めることが可能である。
このようにして、試料保持部材(15)と前記貯留タンク(320)との相対移動を許しながら、前記貯留タンク(320)内の液化ガスによる冷熱を試料保持部材(15)に供給できるようにした。
また、前記貯留タンク(320)上面の注入口を覆うカバー(326)に形成した気化ガス出口(361)には、蛇腹状の断熱ホース(325)の一端が、機密接着(362)にて固定されている。
前記タンク(320)の上部で、前記気化ガス出口(361)に対向する箇所には、同じく気化ガス出口(322)が設けてある。
このようにして、前記貯留タンク(320)内で発生した気化ガスの殆どを、前記断熱ホース(325)に流入させるようにしてある。
前記試料保持部材(15)の上面には、その試料固定位置側に開口(371)を設け、上面ホース接合筒(372)を設けたボックス(370)が固定されていて、前記端熱ホース(325)の他端に、前記ホース接合筒(372)をはめ込むことで、前記貯留タンク(320)からの蒸発ガスを、試料保持部材(15)に保持された試料周囲に流下するようにしてある。
以上のように構成することで、貯留タンク(320)を試料保持具に一体化することなく、これを液化ガスにて冷却できるようにした。
さらに、前記ホース(325)とワイヤー(323)とは、試料保持部材(15)と容易に着脱できるので、同様な構造の多数の試料保持具を準備し、予め試料を保持させておけば、多数の試料を前記ホース(325)とワイヤー(323)を着脱することで連続して切削することが可能になった。
なお、当該構造は、前記実施例4に示すような滑走型ミクロトーム用の試料保持具にも適用可能である。
なお、前記試料保持部材(15)は、ミクロトーム取付け部材(10)との結合は前記実施例1又は2によってなされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロトームへの取付け部材と、試料を固定する試料保持部材とからなるミクロトーム用試料保持具であって、前記取付け部材と試料保持部材とは一体連結され、これらがミクロトームによる氷切削時の負荷を受けても実質的に変形しない剛性を有するとともに、前記試料保持部材は、金属又はそれと同等の高熱伝導性を有する材料にて構成され、液化ガス貯留タンク内に一端が露出し、多端が前記試料保持部材に熱的に一体化されてなる高熱伝導部材により、前記貯留タンク内の液化ガスと前記試料保持部材とが熱的に一体化されてなることを特徴とするミクロトーム用試料保持具。
【請求項2】
請求項1に記載のミクロトーム用試料保持具において、前記液化ガス貯留タンクが試料保持部材に固定されてなることを特徴とするミクロトーム用試料保持具。
【請求項3】
請求項2に記載のミクロトーム用試料保持具において、断熱性の壁にて形成された液化ガス貯留タンクと前記試料保持部材とは、前記貯留タンクの側壁を貫通して内部に一端が露出した高熱伝導性材により、一体固定されてなることを特徴とするミクロトーム用試料保持具。
【請求項4】
請求項3に記載のミクロトーム用試料保持具において、前記貯留タンクは、前記試料保持部材の試料保持位置に、前記貯留タンク内の液化ガスからの蒸発ガスが流下するように、蒸発ガス案内手段が設けられていることを特徴とするミクロトーム用試料保持具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のミクロトーム用試料保持具において、前記取付け部材と試料保持部材とは、剛性を有する断熱材よりなるスペーサを介して一体連結されてなることを特徴とするミクロトーム用試料保持具。
【請求項6】
試料凍結保持具を取付ける試料取付部と、切削用刃物を取り付ける刃物取付部とを有し、常温雰囲気にて、これらを相対的に移動させて前記試料保持具に保持された試料を前記切削用刃物にて切削する切削作動手段とを有する常温作動型ミクロトームであって、前記試料取付部には、当該箇所を加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする常温作動型ミクロトーム。
【請求項7】
請求項6に記載の常温作動型ミクロトームにおいて、前記試料取付部には、当該箇所の温度を検知する検知手段が設けられていて、前記検知手段による検知温度が本ミクロトームの作動温度範囲を維持するように、前記過熱手段を前記検知手段による検知温度により作動する温度制御手段が設けられていることを特徴とする常温作動型ミクロトーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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