説明

ミグ溶接用シールドガスおよびインバーのミグ溶接方法

【課題】インバーをミグ溶接する際に、アークが安定して、気孔の発生を低減でき、溶接品質、作業能率を向上させるようにする。
【解決手段】インバーを溶接するミグ溶接用のシールドガスがアルゴン又はアルゴンとヘリウムの混合ガスに、酸素ガス0.1〜1.5容量%または炭酸ガス0.2〜3.0容量%を混合した2種又は3種類の混合ガスとしたものであり、これらのシールドガスの雰囲気下でインバーをミグ溶接する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、低膨張率合金であるインバーをミグ溶接する際に用いられるシールドガスとこのシールドガスを用いてインバーをミグ溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバーは、ニッケルを31〜37wt%含む鉄合金であり、熱膨張率が極めて低い特性を有し、オーステナイト系ステンレス鋼の約1/12の線膨張率であって、この特性を生かして、例えば液化天然ガスの輸送用配管、ブラウン管のシャドーマスクなどに用いられている。
また、液化天然ガス輸送用の配管には、SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)が一般に用いられているが、熱収縮を吸収する箇所を設けないと配管が破断する可能性があり,直管とすることができず,ループ部を適宜設ける必要があった。
【0003】
そのため、ループ部が増加し、さらには配管の長さが増大することに伴い,溶接箇所が増加する。また圧力損失が大きくなるため,配管径が大きくする必要があり,コストが増える問題があった。このSUS304に代えてインバーを用いると線膨張率が小さいため,低温となっても配管長が大きく変化しないため,熱収縮対策とした余分なループ部を設ける必要がなくなる。
【0004】
インバーの溶接には、ガスシールドアーク溶接法の1種であるミグ(MIG、メタルイナートガス)溶接法が用いられることがある。
ミグ溶接法は、周知のように、ガスノズルの内部にコンタクトチップを配して、このコンタクトチップ内の貫通孔内に溶加材を兼ねた消耗性電極としての溶接ワイヤを挿通し、ガスノズル内部にシールドガスを流し、ガスノズルよりシールドガスを噴射しつつ、溶接ワイヤと被溶接材とに電流を流してアークを飛ばし、溶接ワイヤを溶かして溶接を行うものである。
【0005】
インバーをミグ溶接する際に用いられるシールドガスとしては、ステンレス鋼のミグ溶接に用いられているシールドガスが転用されることが多い。
このシールドガスには、アルゴン、アルゴンとヘリウムとの混合ガス、アルゴンに炭酸ガスを5vol%程度添加した混合ガス、アルゴンに酸素を3vol%程度添加した混合ガスなどが用いられている。
【0006】
しかしながら、インバーのミグ溶接にこれらのシールドガスを用いた場合には以下のような不具合があった。
シールドガスとして、アルゴンあるいはアルゴンとヘリウムとの混合ガスでは、アークがふらついて安定な溶接が困難になる。アルゴンに炭酸ガスあるいは酸素を添加した混合ガスでは、溶接部に気孔が発生することがある。
【特許文献1】特開2002−205170号公報
【特許文献2】特開2005−88024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明における課題は、インバーをミグ溶接する際に、アークが安定して、気孔の発生を低減でき、溶接品質、作業能率を向上させるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、インバーをミグ溶接する際に用いられるシールドガスであって、
アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、酸素を0.1〜1.5vol%添加してなるミグ溶接用シールドガスである。
請求項2にかかる発明は、インバーをミグ溶接する際に用いられるシールドガスであって、
アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、炭酸ガスを0.2〜3vol%添加してなるミグ溶接用シールドガスである。
【0009】
請求項3にかかる発明は、アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、酸素を0.1〜1.5vol%添加してなるシールドガスを用いてインバーをミグ溶接することを特徴とするインバーのミグ溶接方法である。
請求項4にかかる発明は、アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、炭酸ガスを0.2〜3vol%添加してなるシールドガスを用いてインバーをミグ溶接することを特徴とするインバーのミグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インバーをミグ溶接する際に、アークが安定し、気孔の発生数も低減して品質の良好な溶接部を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において被溶接材となるインバーとは、ニッケル含有量が31〜37wt%の鉄基合金であり、これ以外に炭素、マンガン、ケイ素、リンなどの元素が1wt%未満含まれてもよいものである。
【0012】
本発明のシールドガスでは、以下の4種類の形態がある。
1)アルゴンと炭酸ガスとの2種混合ガス
2)アルゴンと酸素との2種混合ガス
3)アルゴンとヘリウムと炭酸ガスとの3種混合ガス
4)アルゴンとヘリウムと酸素との3種混合ガス
【0013】
アルゴンと炭酸ガスとの2種混合ガスからなるシールドガスにあっては、シールドガス全体に占める炭酸ガスの割合は、0.2〜3vol%、好ましくは0.5〜2.5vol%とされ、この範囲外ではアーク安定性に欠け、溶接部に気孔が多く発生する。
アルゴンと酸素との2種混合ガスからなるシールドガスにあっては、シールドガス全体に占める酸素の割合は、0.1〜1.5vol%、好ましくは0.5〜1vol%とされ、この範囲外ではアーク安定性に欠け、溶接部に気孔が多く発生する。
【0014】
アルゴンとヘリウムと炭酸ガスとの3種混合ガスからなるシールドガスにあっては、シールドガス全体に占める炭酸ガスの割合は、0.2〜3vol%、好ましくは0.5〜2.5vol%とされ、この範囲外ではアーク安定性に欠け、溶接部に気孔が多く発生する。
また、このシールドガス全体に占めるアルゴンの割合を変化させても、気孔が増加することがなく、気孔を低減できる。
【0015】
アルゴンとヘリウムと酸素との3種混合ガスからなるシールドガスにあっては、シールドガス全体に占める酸素の割合は、0.1〜1.5vol%、好ましくは0.5〜1vol%とされ、この範囲外ではアーク安定性に欠け、溶接部に気孔が多く発生する。
また、このシールドガス全体に占めるアルゴンの割合を変化させても、気孔が増加することがなく、気孔を低減できる。
【0016】
被溶接材であるインバーの形状は特に限定されないが、板材では開先加工を施すことが必要である。
溶接ワイヤには、被溶接材となるインバーと同一組成のインバーからなる外径0.8〜1.6mm程度のものが用いられる。
溶接電流には、直流が用いられるが、パルス電流の方が好ましい。溶接電流は100〜500A程度、溶接電圧は15〜60V程度とされる。
溶接速度は15〜50cm/分の範囲が好ましく、シールドガス流量は12〜50リットル程度とされる。
【0017】
このようなシールドガスを用いることにより、得られる溶接部における気孔の生成が抑えられ、またアークが安定して、良好な溶接部が得られる。
気孔の生成は、材料中に溶け込んだ酸素が材料中の炭素と結合して一酸化炭素が生成したり、雰囲気の水素と結合して水蒸気が生成したりし、これらが気孔となると言われている。インバーではニッケルが多く含まれているので、上記反応にニッケルが関与して水蒸気生成反応が促進される。これらの反応に共通している酸素を減らせば気孔の生成が抑えられることになる。しかし、酸化性ガス(酸素、炭酸ガス)が含まれないと、アークが不安定となり、大気を巻き込み気孔が増大することになる。
このため、シールドガス中の酸化性ガスである酸素あるいは炭酸ガスの濃度を上述の濃度範囲に定めることで、気孔の生成が抑制され、しかもアークが安定すると考えられる。
【0018】
以下、試験例を示す。
本発明の効果を確認するためにシールドガスの組成を変えてミグ溶接を行った。
溶接条件を以下に示す。
【0019】
被溶接材:インバー板材 Fe+36%Ni 厚さ20mm
溶接ワイヤ:Fe+36%Ni 外径1.2mm
パルスアーク
開先:V開先
電流:200〜240A
電圧:27〜33V
速度:30cm/min
シールドガス流量:25リットル/分
【0020】
溶接長を250mmとし、クレータ部を除外するため終端部25mmとスタート部を除外するため始端部25mmを除いた部分における気孔の発生個数が30個未満を○とし、気孔30個以上を×とした。また、アーク安定性は目視で評価できるため、陰極点が安定しアークのふらつきがない場合をを○とし、陰極点が安定しなくアークがふらついている場合を×とし、これらの結果をまとめて合格、不合格の評価を行った。
評価結果を以下の表1ないし表4に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
これらの結果から、ベースガスとしてはアルゴンまたはアルゴンとヘリウムの混合ガスに、炭酸ガスを0.2から3%添加した2種または3種混合ガス、または酸素ガスを0.1から1.5%添加した2種または3種混合ガスが好適であることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバーをミグ溶接する際に用いられるシールドガスであって、
アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、酸素を0.1〜1.5vol%添加してなるミグ溶接用シールドガス。
【請求項2】
インバーをミグ溶接する際に用いられるシールドガスであって、
アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、炭酸ガスを0.2〜3vol%添加してなるミグ溶接用シールドガス。
【請求項3】
アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、酸素を0.1〜1.5vol%添加してなるシールドガスを用いてインバーをミグ溶接することを特徴とするインバーのミグ溶接方法。
【請求項4】
アルゴンまたはアルゴンとヘリウムとの混合ガスに、炭酸ガスを0.2〜3vol%添加してなるシールドガスを用いてインバーをミグ溶接することを特徴とするインバーのミグ溶接方法。

【公開番号】特開2010−46708(P2010−46708A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215504(P2008−215504)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】