説明

ミシンのスライド天秤装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ミシンの縫製作業とともに揺動するスライド天秤を備えた、ミシンのスライド天秤装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のミシンのスライド天秤装置として、図3及び図4に示されるものが知られている。このものは、ミシン機枠内に揺動可能に軸着されたスライド天秤20を備えるもので、スライド天秤20の中央には長方形の長溝21が穿設されている。この長溝21には、円柱形のクランクピン24が挿入されており、クランクピン24は主軸22に天秤クランク23を介して連結されている。
【0003】ミシンの縫製作業が行われると、主軸22は周方向に回転し、これに伴つてクランクピン24は円運動する。クランクピン24は長溝21内を摺動し、スライド天秤20はクランクピン24の円運動に合わせて、ミシン機枠に軸着される軸着部25を中心に上下に揺動するというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のミシンのスライド天秤装置では、円柱形のクランクピン24が長溝21に隙間なく摺動するよう、長溝21にクランクピン24の径に合つた溝幅が要求されるが、長溝21に正確な寸法精度を出すのは難しい。このため、クランクピン24が回転すると、クランクピン24が長溝21に当たり衝突音が発生するという不具合が生じていた。
【0005】そこで、本発明はクランクピンと長溝との衝突音が発生することなく、スライド天秤を揺動させることのできるミシンのスライド天秤装置を提供することを技術的課題とする。
【0006】
【発明の構成】
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明において講じた技術的解決手段は、ミシン機枠内に一端を揺動可能に軸着され他端に糸通り部を有すスライド天秤と、該スライド天秤に穿設され断面がテーパ状の長溝と、該長溝に摺動可能に挿入され軸方向に貫通する穴部を有する円錐コロと、該円錐コロの前記穴部に挿入されるクランクピンと、該クランクピンに通され前記円錐コロを前記長溝側に付勢するバネと、前記クランクピンを円運動させる回転手段を備えたミシンのスライド天秤装置である。
【0008】
【作用】上記手段は次のように作用する。すなわち、クランクピンには円錐コロが配設され、バネが円錐コロを長溝側に付勢することによつて円錐コロの周面が長溝のテーパ面に当接する。このように、クランクピンと円錐頃を介した長溝との間の隙間を極めて少なく確保し得ることにより、クランクピンの回転による長溝部からの衝突音を防止することができる。
【0009】
【実施例】本発明の実施例を図1および図2に基づいて説明する。図1は本実施例のミシンのスライド天秤装置の分解斜視図を示す。主軸1はミシン機枠(図示せず)に回動可能に軸支されており、ミシンの縫製作業、すなわちミシン針の往復運動と同調して回転するよう、ミシンの駆動機構と連結されているものである。この主軸1の他端には天秤クランク2が嵌着されている。天秤クランク2には、主軸1と平行に穴2aが穿設されており、穴2aにはクランクピン3の一端が嵌挿されネジ4で回動しないよう固着されている。
【0010】クランクピン3は天秤クランク2に嵌挿される嵌挿部3aと、嵌挿部3aの他端に固着され嵌挿部3aから垂直に延在する連結部3bと、連結部3bに固着され嵌挿部3aとは逆方向に延在する摺動部3cより構成されるもので、摺動部3cにはバネ5と円錐コロ6が緩挿されている。円錐コロ6には中心を貫通する穴部6aが穿設されており、この穴部に摺動部3cが挿通されている。円錐コロ6はバネ5により、後述するスライド天秤7に設けられた長溝8a側に付勢されている。
【0011】スライド天秤7は、一端に設けられた枢軸部7aでミシン機枠内に揺動可能に軸着されているもので、他端はミシン機枠より突出し、その先端にはミシンの上糸が通される糸通り部7cを有している。スライド天秤7の中央部には長穴7bが穿設されており、長穴7bには摺動部材8が配設されている。摺動部材8は図2に示されるように、断面がテーパ状の長溝8aが設けてあり、この長溝8aに長溝8aのテーパ面と略同一の傾斜面をもつ円錐コロ6の周面が当接するようになつている。クランクピン3の摺動部3cの先端部分には、リング溝3dが形成されている。摺動部3cは、長溝8aから突出するようになつており、長溝8aから突出した周面にワツシヤ9が嵌合され、またリング溝3dにはEリング10が嵌合されるようになつている。これらワツシヤ9およびEリング10は、スライド天秤7の矢印A方向の盲動を防止している。
【0012】次に本実施例の作用、効果について説明する。主軸1が矢印B方向に回転すると、クランクピン3の摺動部3dは円運動を行う。このため、円錐コロ6を介してクランクピン3の挿入されたスライド天秤7は、クランクピン3の円運動に合わせて上下に揺動する。このとき、円錐コロ6の周面はバネ5によつて長溝8a側に付勢されており、円錐コロ6の周面が末広がりのテーパ状になっているため、円錐コロ6と長溝8aは必ず接触するようになっている。従って、円錐コロ6の円運動の際に、円錐コロ6が長溝8aに当たって衝突音が発生することはなく、従来の不具合が解消される。また、長溝8aと摺動させる部材を円錐コロ6としたために、従来のように長溝8aの幅方向の寸法に精度が要求されず、安価に且つ容易に製作することが可能となる。
【0013】
【発明の効果】本発明によれば、円錐コロは長溝に隙間なく摺動するため、円錐コロが長溝に当たって衝突音が発生することはなく、ミシンの縫製作業を従来よりも静かなものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例のミシンのスライド天秤装置の分解斜視図を示す。
【図2】図1のC−C線に沿う断面図を示す。
【図3】従来例のミシンのスライド天秤装置の分解斜視図を示す。
【図4】図3のD−D線に沿う断面図を示す。
【符号の説明】
1 主軸(回転手段)
3 クランクピン
5 バネ
6 円錐コロ
6a 穴部
7 スライド天秤
7c 糸通り部
8a 長溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ミシン機枠内に一端を揺動可能に軸着され他端に糸通り部を有するスライド天秤と、該スライド天秤に設けられ断面がテーパ状の長溝と、該長溝に摺動可能に挿入され軸方向に貫通する穴部を有する円錐コロと、該円錐コロの前記穴部に挿入されるクランクピンと、該クランクピンに通され前記円錐コロを前記長溝側に付勢するバネと、前記クランクピンを円運動させる回転手段を備えていることを特徴とするミシンのスライド天秤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】第2876807号
【登録日】平成11年(1999)1月22日
【発行日】平成11年(1999)3月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−94328
【出願日】平成3年(1991)4月24日
【公開番号】特開平4−325190
【公開日】平成4年(1992)11月13日
【審査請求日】平成10年(1998)3月17日
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)