説明

ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品

【課題】 縫製加工部に発生する見苦しい波打ち(シームパッカリング)は縫製加工品の美観を損なう重大な欠点であるが、現在、縫製性という重大な特性を満足しつつシームパッカリングを低減させるという画期的な方法は提案されていない。本発明は、上記の両者を満たすミシン糸並びに縫製方法を提供する。
【解決手段】 撚り糸において、普通繊維と、溶解性または減量性または溶融性または軟化性の性質を持つ繊維とを、それぞれの繊維において撚り角が8°から70°の範囲で撚り方向を同じにし、撚り合わせたミシン糸1、2、3もしくは、加熱伸長性を有する繊維複数本と普通繊維を撚り方向を同じにし、撚り合わせたミシン糸を製作する。該糸により縫製加工品を製作し、縫製加工後に処理を施す。次いで縫製に際し、撚り合わせた繊維のため、従来の糸の太さより太くなるため、針穴が大きく溝の幅が広いミシン針を用い、さらにミシンに専用の付属品を装着し、生地を伸ばした状態で、生地にスベリ剤を塗布し縫製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン糸および縫製加工品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミシンによる縫製の際、ミシン糸の性能が縫製加工に大きな影響を与える。特に縫製速度が高速になる程、ミシン糸とミシン針間の摩擦、及びミシン糸と生地間の摩擦という要因が縫製加工に大きな影響を与える。摩擦が大きくなるとミシン糸の生地に対する供給量が減少し、そのため縫製加工部に見苦しい縫い皺、すなわちシームパッカリングの発生を促す原因となる。そして、生地を複数枚重ね縫製する巻き伏せ二本針の縫製方法において特に見苦しい縫い皺の発生が顕著である。また、摩擦がさらに増大すると、最悪の場合、ミシン針や生地にミシン糸が引っかかり、縫製加工が中断される。よって、ミシン糸の摩擦特性はミシン糸において考慮するべき重要な要因である。
【0003】
さて、シームパッカリングというものは、縫製加工部の美観を損なう重大な欠点である。縫製加工品の縫製部は、普通ミシン糸または縫糸(以下、ミシン糸と略称する)で縫製される。その際、前記したような、ミシン糸とミシン針及び生地間の摩擦による糸供給量の減少、あるいはミシン糸に張力がかかるために発生するミシン糸の後収縮といったような原因により、縫い合わされる生地にはたるみ構造が発生しやすく、そのため縫い合わせ部分に見苦しい波打ち、つまりシームパッカリングが発生する。シームパッカリングは、縫製加工部の生地量に対する糸量の不足がその発生の大きな原因であり、縫い合わされる生地の枚数が増えれば増えるほどシームパッカリングの発生が顕著であり、これを解消するために、これまでには収縮率の少ないミシン糸を用いる方法が考えられている。しかし、収縮率の少ないミシン糸は、ミシン糸の収縮に対して織物の伸び縮みとがマッチせず、仕上りが必ずしも良好ではなかった。この傾向は、洗濯によっていっそう強調される。
また、特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」において、普通繊維と溶解性または減量性または溶融性または軟化性の性質を持つ繊維とをそれぞれの繊維において撚り角が8°から70°の範囲で撚り合わせ、ミシン糸を製作し縫製加工後に処理することにより糸の長さを増加させ、シームパッカリングを低減するといった方法が提案されている。
【特許文献1】 特開2003−73952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」において提案されているミシン糸は、その構造上、ミシン糸の断面積が大きく、溶融性のポリビニルアルコール繊維を使用のため、通常ミシン糸には生地繊維間を通り易くするため、シリコン等を塗布しているが、該繊維には、溶融性の観点からシリコン等の塗布は未実施だったため、針穴や生地に糸が引っかかってしまい、縫製時のミシン糸にかかる張力が増大してしまう。
【0005】
該引例では、縫製後に処理をすることによりシームパッカリングを低減するとされているが、前記したように、縫製時にミシン糸にかかる張力はシームパッカリング発生の大きな原因である。シームパッカリングを低減するためには、たとえ縫製後に処理を行う場合でも、縫製時にかかる張力等の縫製条件には十分に配慮する必要があり、該引例においては、上記のように縫製時にミシン糸にかかる張力が増大してしまうので、シームパッカリングの低減を目的とする発明としては致命的な欠点といえる。また、該引例におけるミシン糸には、針穴や生地に糸が引っかかってしまい縫製が非常に困難であるという重大な欠点がある。さらに、該ポリビニルアルコール繊維の溶融温度が60℃であることから、家庭での洗濯時には、溶けづらく、さらにポリビニルアルコール繊維を溶融するためにアイロン等の使用が必要となり、手間がかかる。
【0006】
そして、特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」におけるミシン糸(第3図)は、その構造上、該糸の断面積が大きく、溶融性のポリビニルアルコール繊維を使用のため、通常ミシン糸には生地繊維間を通り易くするため、シリコン等を塗布しているが、該繊維には、溶融性の観点からシリコン等の使用は未実施だったため、縫製加工時にミシン糸にかかる張力が大きい、また、ミシン針の針穴または生地に糸が引っかかってしまうという大きな欠点がある。そして第3図のような状態を引き起こしてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述のような問題点を解決するため、上記の特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」におけるような針穴や生地へのミシン糸の引っかかりが起こらず、ミシン糸とミシン針及び生地との摩擦の少ない、縫製が容易であり且つシームパッカリングの低減が可能なミシン糸およびミシン針および付属品ないし生地にスベリ剤を塗布もしくは、塗布せずに縫製を行う縫製加工品を提供する。本願の骨子は次の通りである。
【0008】
まず、本発明は、撚り糸において、水及び界面活性剤混水溶液に対して溶解性または減量性または常温水にて溶融する性質を持つ繊維と普通繊維、もしくは溶解性または軟化性または常温水にて溶融する性質を持つ繊維と普通繊維とが撚り合わされており、それぞれの繊維の撚り角が8°から70°であり、撚りが同方向であり、シリコン等を繊維の表面に塗布し、縫いやすくしたことを特徴とするミシン糸である。
【0009】
普通繊維1本に対し溶解性または減量性または溶融性または軟化性の性質を持つ繊維2本の糸を撚り合わせた請求項1、2記載のミシン糸での縫製を容易にすることを特徴とする針穴が太く溝の幅が広いミシン針を用い、さらに生地を伸ばした状態で縫製を容易にする付属品を使用し、さらに生地のミシン針に対する抵抗を減ずるため、生地にスベリ剤を塗布し縫製することを特徴とする縫製方法である。
そして、本発明は、上記のミシン糸およびミシン針および付属品を使用し、生地にスベリ剤を塗布し縫製されたことを特徴とする縫製加工品である。
【0010】
また、本発明の趣旨は、請求項3記載の加熱により繊維自体が伸びる自発伸長糸を普通繊維と撚り合わされ、または自発伸長糸を複数本撚り合わし、撚りが同方向であり、シリコン等を繊維の表面に塗布し、縫いやすくしたことを特徴とするミシン糸をも含むものである。
【0011】
該自発伸長糸を中心とする複数本撚り合わしたミシン糸は、縫製加工部の生地量に対する糸量の不足を該自発伸長糸を中心とする複数本撚り合わしたミシン糸自体に加熱することにより自発的に糸が伸長し、糸量の不足を補うものであり、本発明の思想に適うものである。
【0012】
請求項3記載の加熱により繊維自体が伸びる自発伸長糸を普通繊維と撚り合わされ、または自発伸長糸を複数本撚り合わし、シリコン等を繊維の表面に塗布し、ミシン糸での縫製を容易にすることを特徴とする針穴が太く溝の幅が広いミシン針を用い、生地を伸ばした状態で縫製を容易にする付属品を使用し、さらに生地のミシン針に対する抵抗を減ずるため、生地にスベリ剤を塗布し縫製することを特徴とする縫製方法でもある。
【0013】
また、本発明は、上記ミシン糸およびミシン針および付属品を使用し、生地にスベリ剤を塗布し縫製加工品を製作した後、該縫製加工品を溶解処理または減量処理または溶融処理または軟化処理または加熱処理することを特徴とする縫製加工品の製造方法である。
【0014】
さらに、請求項1、2、3記載のミシン糸を下糸または上糸、もしくは両方で使用することを特徴とする縫製加工品の製造方法である。
【0015】
また、請求項1、2、3記載のミシン糸を用い、縫製加工品を製作した後、パッカリング3.5級以上(JIS L1905、JIS L0217、JIS L1060)となる縫製加工品の製造方法である。
【0016】
第1図は、本願発明のミシン糸を示すもので、1は普通繊維、2、3は請求項1、2に記載された溶解性または減量性または溶融性または軟化性の性質を持つ繊維を示し、該繊維は同方向の撚りよりなる。第2図は、普通繊維1本に対し溶解性または減量性または溶融性または軟化性の性質を持つ繊維2本の糸を撚り合わせた請求項1、2記載のミシン糸、または自発伸長糸と普通繊維とが撚り合わされ、もしくは、自発伸長糸が複数本撚り合わせた請求項3記載のミシン糸での縫製を容易にすることを特徴とする針穴が太く溝の幅が広いミシン針を示す。
【0017】
第3図は、特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」におけるミシン糸を縫製に用いた際に起こる状態について示した図であり、9、10は上記の特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」におけるミシン糸を構成する繊維、8は該糸を用いてミシンによる縫製を行う際のミシン針を示す。第4図は、生地を伸ばした状態で縫製を容易にする付属品を示す。第5図は、本発明における撚り角(α)について説明するため示した図であり、1、2、3は上記の本発明のミシン糸を構成する繊維、17は該撚り角を求める際およびの原点、18は該撚り角を求める際の、原点の存在する接線に対して六つ隣(図はS撚りなので、六つ右隣)の接線の下端の点、19は該撚り角を求める際の、原点の存在する接線上の上端の点を示す。なお、0は原点の意味である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、シームパッカリング発生の重大な原因である、縫製加工時にミシン糸にかかる張力を減少させることが可能であり、縫製加工後に適度な伸びを示すミシン糸、および該ミシン糸およびミシン針および付属品ないしスベリ剤を用いて製作された縫製加工部を提供することができた。そして、該縫製加工部に溶解処理や溶融処理や加熱処理等を施すことにより、これまでには解決に至っていない、あらゆる縫製加工品の美観を大きく損なっていた重大な欠点であるシームパッカリングを著しく低減させることができた。特に、縫製加工後、パッカリング3.5級以上(JIS L1905、JIS L0217、JIS L1060)となることは、非常に多くの縫製加工品に対して有効であるので、縫製産業に革命的な影響を与えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の内容を詳しく説明すると以下の通りである。
本発明のミシン糸は、撚り糸において、水や界面活性剤混入水溶液に対して溶解性または減量性または溶融性または軟化性溶融する性質を持つ繊維と普通繊維とが撚り合わされており、それぞれの繊維の撚り角が8°から70°であり、撚りが同方向であり、シリコン等を繊維の表面に塗布し、縫いやすくしたことに特徴を有する。繊維によっては、溶解性および減量性の両性質を有するものや、溶融性および軟化性の両性質を有するものなども存在するが、本発明の技術思考上、複数の性質を有する繊維でも問題なく用いることが可能である。また、ここで述べる水には、当然熱水も含まれる。
【0020】
ここで、本研究で述べる撚り角は特許文献1と同様とする(第5図参照)。
本発明のミシン糸において、撚り合わされる糸の本数は、溶解性または減量性または軟化性または常温水にて溶融する性質を有する繊維2本に対し、普通繊維1本からなる。ここで述べる糸とは、紡績糸を構成するような微小な繊維のことでなく、少なくともその長さが10cm以上はあるような、世間一般で述べられているようなもののことである。また、それぞれの繊維において、単糸、双糸、三子糸等の糸の種類によらず用いることができる。
【0021】
本発明のミシン糸(第1図)は、溶解性または減量性または軟化性または常温水にて溶融する性質を持つ繊維と普通繊維とが撚り合わされて製作されるものである。
該糸を用いて縫製を行うことにより、縫製後に溶解性等の性質を持った繊維が溶出処理または減量処理または溶融処理または軟化処理を施されると、普通繊維の傍らに空間が発生することになる。即ち、普通繊維はその螺旋的な構造により、処理前に比べて大きくたるんだ状態となる。そこで普通繊維の座屈が解消されることにより、普通繊維は自発伸張していないのにあたかも自発伸張したような挙動を示すことになる。
【0022】
また、本発明において、繊維自体が伸びる自発伸長糸と普通繊維とが撚り合わされ、もしくは、自発伸長糸が複数本撚り合わされたミシン糸が縫製後に加熱処理されることにより、糸量が増えることになる。
【0023】
さらに、生地を伸ばした状態で縫製を容易にする付属品を用いると、生地自体も後収縮を促す。これにより、縫製加工部の生地量に対する糸量が増加し、縫製加工部の生地量に対する糸量の不足や縫製時に加わった張力の影響によるミシン糸の後収縮等の問題が解消され、結果として縫製加工部の縫製方向に対するシームパッカリングが解消される。
【0024】
また、本発明のミシン糸およびミシン針および付属品を使用し、生地にスベリ剤の塗布し縫製すれば、例えば洗濯をした場合、縫製加工部の生地は洗濯の影響で伸長し、そのシームパッカリングの発生の程度はより大きくなるが、本発明のミシン糸においてはその見かけ、もしくは実際の長さが増加することにより、縫製加工部が著しく見苦しくなることもなく、美的感覚に優れた仕上り性を示す縫製加工品を提供することが出来る。
【0025】
本発明のミシン糸(第1図)においては、普通繊維と溶解性または減量性または軟化性または常温水にて溶融する性質を持つ繊維とが、それぞれの繊維において8°から70°の撚り角であり、撚りが同方向であり、シリコン等を繊維の表面に塗布し、縫いやすくしたため、前者のミシン糸に比べ表面部が滑りやすく、撚りが同方向のため、糸自体の毛羽立ちもなく、また針穴が太く溝の幅が広いミシン針を使用し、生地にスベリ剤を塗布するため、針穴や生地に引っかかることがなく、縫製時に糸にかかる張力も小さくなる。
そして、生地を伸ばした状態で縫製を可能とする付属品を活用することにより、糸の張力と生地にも張力が係るため、縫製後の糸の縮みに対して、生地の縮みが生じ、当発明が目指す織り皺を減らす目的に合致するものである。
【0026】
本発明のミシン糸は、水及び界面活性剤混入水溶液に対して、溶解性または減量性または軟化性または常温水にて溶融する性質を持つ繊維と普通繊維とが、それぞれの繊維において8°から70°の撚り角で撚り合わされた撚り糸であり、撚りが同方向であり、シリコン等を繊維の表面に塗布し、縫いやすくした糸であり、針穴が太く溝の幅が広いミシン針、生地を伸ばした状態で縫製を容易にする付属品がなければ、本発明の目的は達成されない。
【0027】
さらに、縫製を容易にする付属品はミシン針に直接取り付ける場合、ミシン針から離れたところに取り付ける場合、もしくはそれ以外の方法でもよい。
なお、撚りあわせた繊維のそれぞれの太さ、材質、構造や撚り数等様々な要因によって形態変化後のミシン糸の長さは変化するものである。そうであれば、ミシン糸の針穴、生地繊維構成への通りの良さを構成する、ミシン糸の断面積、ミシン糸の強力性はまず考慮しなければならないものといえ、次いで、ミシン糸の後収縮に対応する縫い生地を後収縮させるための縫製用付属品を用いることが必須のものとなる。
【0028】
また、上記のような構成を持たせつつ、ミシン糸として必要な諸特性を付加することは容易である。部分的に普通繊維の中に可溶性等の性質を持つ繊維が混入されていても、本技術思想を満足する繊維であれば、いかようなものであっても良い。
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定や思想の範囲を狭めるものではない。むしろ、その有用性を拡大するに値する基礎となるものである。
【実施例1】
【0029】
ミシン糸において、一方をポリエステル100%繊維(東洋紡株式会社製マナードSミシン糸#F60)、もう一方をポリビニルアルコール繊維(クラレ株式会社製クラロンKII)とし、撚り方向を同一にし、これらに1m当り600回の撚りをかけ、撚り角を35.0°とし、請求項1に記載されたミシン糸を製作した。これを用いて、綿100%の生地を4枚重ねにしたものを請求項4のミシン糸の使用方法および、請求項5のミシン針、生地を伸ばして縫製する付属品を装着したミシン(JUKI DDL−5570N)を用いて縫製した。
【0030】
縫製加工時において、本発明のミシン糸およびミシン針および付属品を使用し、生地にスベリ剤を塗布することによる縫製は一般的なミシン糸による縫製となんら変わりはなく非常にスムーズに行えた。縫製加工後は、ある程度のシームパッカリングが発生していた。しかし、この試料を洗濯(アルカリ性の洗剤を使用)後、加熱アイロンによる熱処理を行ったところ、シームパッカリングの減少が見られ、パッカリング3.5級以上(JIS L1905、JIS L0217、JIS L1060)となり、著しく美観が向上していた。本発明におけるミシン糸を用いて製作、処理を行った縫製加工部において、本発明のミシン糸は普通繊維の糸が螺旋状のため、処理後は一般のミシン糸を用いた縫製加工部における縫い目とは異なった形状となるが、シームパッカリングへの影響は見て取れず、美観を損なうものではないと確認できた。
【実施例2】
【0031】
ミシン糸において、自発伸長糸ポリエステル100%繊維(東洋紡株式会社製)を、撚り方向を同一にし、これらに1m当り600回の撚りをかけ、撚り角を35.0°とし、請求項1に記載されたミシン糸を製作した。これを用いて、綿100%の生地を4枚重ねにしたものを請求項4のミシン糸の使用方法および、請求項5のミシン針、生地を伸ばして縫製する付属品を装着したミシン(RIMOLDI 184−00−2CA−11)を用いて縫製した。
【0032】
縫製加工時において、本発明のミシン糸およびミシン針および付属品を使用し、生地にスベリ剤を塗布することによる縫製は一般的なミシン糸による縫製となんら変わりはなく非常にスムーズに行えた。縫製加工後は、ある程度のシームパッカリングが発生していた。しかし、この試料を洗濯(アルカリ性の洗剤を使用)後、加熱アイロンによる熱処理を行ったところ、シームパッカリングの減少が見られ、パッカリング3.5級以上(JIS L1905、JIS L0217、JIS L1060)となり、著しく美観が向上していた。
【比較例】
【0033】
また比較例として、上記の実施例と同条件である生地(綿100%の生地を4枚重ねにしたもの)を一般的なミシン糸である上記のポリエステル100%繊維ミシン糸(東洋紡株式会社製マナードSミシン糸#F60)で縫製したもの(以降、比較品とする)を製作した。この比較品においても、縫製加工後は、本発明のミシン糸およびミシン針ないし付属品で縫製した縫製加工品と同程度のシームパッカリングが発生していた。しかし、この比較品を洗濯(アルカリ性の洗剤を使用)し、加熱アイロンによる熱処理を行ってみたものの、シームパッカリングの発生程度に変化は見られず、本発明のミシン糸およびミシン針および付属品ないし生地にスベリ剤を塗布することにより縫製を行った縫製加工品のようにシームパッカリングが低減するということはなかった。そして、この比較品をさらに10回洗濯したところ、シームパッカリングはさらに増加しており、著しく美観が損なわれていた。
【0034】
他方、前記のポリエステル糸とポリビニルアルコール繊維を用いて、特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」におけるミシン糸を製作し、縫製を行った。
しかし、特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」における、ポリビニルアルコール繊維(ニチビ株式会社製ソルブロンSSタイプ56デニール)の繊維強力性から糸の強度確保のため、撚り糸を構成する繊維を増やしたため糸が太くなった結果、ミシン針や生地に該糸が引っかかり易くなり、容易に縫製が行えず、工業的に価値が低いことが認められた。
それに対し、本発明でのポリビニルアルコール繊維(クラレ株式会社製クラロンKII)は溶融性がありながら、他方で高強力性があり、糸の撚りあわせには、ポリエステル100%繊維(東洋紡株式会社製マナードSミシン糸#F60)を1本に対し、ポリビニルアルコール繊維を2本の割合ですみ、糸自体の太さを押さえながら、糸の強度を確保することができるようになった。
以上のことにより、縫製においてミシン針や生地に該糸が引っかかりが無くなり、従来に比べて、縫製がスムーズにいくようになった。
【0035】
又、特許文献1「ミシン糸及びそれを用いた縫製加工品」における、ポリビニルアルコール繊維(ニチビ株式会社製ソルブロンSSタイプ56デニール)の溶解温度が60℃と高く、日常一般の家庭での洗濯温度では該繊維の溶解温度まで至ることが難しく、洗濯後のアイロン掛け等により、該繊維を溶融しなければならない欠点があったが、本発明でのポリビニルアルコール繊維(クラレ株式会社製クラロンKII)の溶融温度は20℃と常温水に溶け、日常一般の家庭での洗濯により、ポリビニルアルコール繊維が溶けやすくなり、その結果、残ったポリエステル100%繊維の長さを増長させ易くなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るミシン糸の構成を示す外観図である。
【図2】 本発明において使用するミシン針を示した図である。
【図3】 ミシン糸を通常のミシン針に用いた際に。起こる状態について示した図である。
【図4】 本発明において使用するミシンの付属品の構造を示した図である。
【図5】 本発明において定義する撚り角を説明するために示した図である。
【符号の説明】
1 ・・・ミシン糸を構成する普通繊維
2、3・・ミシン糸を構成する、溶解性または減量性または常温水にて溶融する性質を持つ繊維
4 ・・・ミシン針の針穴
5 ・・・針の溝
6 ・・・ミシン針
7 ・・・ミシン針の断面図
8 ・・・比較のため提示したミシン針
9 ・・・比較のため提示した普通繊維
10・・・比較のため提示した溶解性または減量性または溶融性の性質を持つ繊維
11・・・縫製付属品
12、13・・ローラ
14・・・フィードホィール
15・・・モータ
16・・・制御回路
17・・・撚り角を求める際の原点
18・・・撚り角を求める際の、原点の存在する接線に対して六つ隣(図はS撚りなので、六つ右隣)の接線の下端の点
19・・・撚り角を求める際の、原点の存在する接線上の上端の点
A ・・・縫製方向
T ・・・テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚り糸において、水及び界面活性剤混入水溶液に対して溶解性または減量性の性質を持つ繊維と普通繊維とが撚り合わされており、もしくは溶融性または軟化性の性質を持つ繊維と普通繊維とが撚り合わされており、それぞれの繊維の撚り角が8°から70°であり、撚りが同方向であることを特徴とする図1記載のミシン糸1、2、3。
【請求項2】
常温水に溶解し易い性質をもつ溶解性繊維がポリビニルアルコール系繊維であり、シリコン等を繊維の表面に塗布し、縫いやすくしたことを特徴とする請求項1記載のミシン糸。
【請求項3】
加熱されることによって、繊維自体が伸びる自発伸長糸と普通繊維とが撚り合わされ、もしくは、自発伸長糸が複数本撚り合わされ、撚りが同方向であることを特徴とするミシン糸
【請求項4】
請求項1、2、または3記載のミシン糸を下糸、または上糸、もしくは両方で使用する縫製加工品。
【請求項5】
普通繊維1本に対し溶解性または減量性または溶融性または軟化性の性質を持つ繊維2本を撚り合わせた請求項1、2、または3記載のミシン糸での縫製を容易にすることを特徴とする針穴が太く溝の幅が広いミシン針。
【請求項6】
生地を伸ばした状態で縫製を容易にし、また縫製の途中で生地を伸ばす量を変更することが可能なミシン針に直接取り付け可能な縫製付属品ないし、ミシン針から離れた位置で生地を伸ばすことのできる縫製付属品。
【請求項7】
請求項1のミシン糸を用い、生地にスベリ剤を塗布し縫製されていることを特徴とする縫製加工品。
【請求項8】
請求項1のミシン糸を用い、生地にスベリ剤を塗布し縫製加工品を製作した後、該縫製加工品を溶解処理または減量処理または溶融処理または軟化処理または加熱処理することを特徴とする縫製加工品の製造方法。
【請求項9】
請求項1のミシン糸を用い、縫製加工品を製作した後、JIS L1905、そしてJIS L0217によるパッカリング3.5級以上となる縫製加工品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−188780(P2006−188780A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382932(P2004−382932)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(597008533)フレックスジャパン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】