説明

ミストノズル

【課題】ミストノズルの種々の特性の自由度を得るとともにミストノズルの製造コストの低減を図る。
【解決手段】
液体が旋回する渦室17cを構成する開口部、渦室17cに対して液体の略回転方向に向けて流入する単数又は複数の流路17bを構成する開口部、及びその液体を各々の流路17bに導く導入口17aが形成された少なくとも1枚の第1薄板13aと、液体が旋回する渦室17cを構成する開口部、その液体の略回転方向に逆らう方向に向けて流入する単数又は複数の流路17dを構成する開口部、及びその液体を各々の流路17dに導く導入口17aが形成された少なくとも1枚の第2薄板13bと、流路17b,17d及び渦室17cの内壁の一部を構成するとともに導入口17aが形成された第3薄板14と、その液体を噴射するためのオリフィスを有するオリフィス板30とを備え、オリフィス板30と第3薄板14との間に第1薄板13a及び第2薄板13bとが重ね合わせて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を霧状に噴射することができるミストノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミストノズルは所望の噴射角度や噴射されるミスト量に適合するように個別に設計、加工されてきた。従って、用途や対象に適合したミストを得るためには、それぞれの要求や仕様を満足するミストノズルを製造するための金型や加工装置等の成形手段を準備する必要があった。
【0003】
従来の一般的なミストノズルは、特許文献1の図12に記載されているような構造を有している。具体的には、ノズルヘッド104となるオリフィス部材と、液体が傾斜溝106を介して送り込まれる渦室たる凹部107を備える制御部材が成形されている。しかし、このようなミストノズルを採用した場合、オリフィス部材と制御部材のいずれもが複雑な立体構造を有しているため、その成形には切削加工等の高度な加工技術が必要となる。その結果、ミストノズルの製造単価を低く抑えることが非常に困難になる。
【0004】
このような技術的課題を解決する手段として、例えば、特許文献1に記載されているような、ミストの拡散角を任意に設定する構造が提案されている。しかしながら、この構造が採用されても、ミストの拡散角の任意性を実現するオリフィス板が所望の拡散角に応じた設計の変更及び加工を必要としており、画一化した部材が複数の要求を満足するようには成形されていない。
【0005】
また、従来の消火用ミストノズルは、例えば、特許文献4に記載のとおり、近投ノズルと遠投ノズルという散水分布の異なるノズルを予め用意し、それらを適宜配置することによって対象物を消火していた。特許文献1には、上記の異種のノズルを1つの本体内に備えた構造を有しているが、このようなミストノズルは複雑な立体構造を有しているため、その成形には切削加工等の高度な加工技術が必要となる。その結果、ミストノズルの製造単価を低く抑えることが非常に困難になる。また、このような従来の消火用ミストノズルは、一旦、ある仕様に適合するようにミストノズルの各部品が設計及び加工されると、そのノズルはその仕様としてのみ用いられる。従って、従来の消火用ミストノズルも、画一化した部品が複数の要求を満足するようには成形されていない。
【0006】
上述の通り、種々の用途や対象に適合したミストを得るためには、それぞれの仕様に適合するミストノズルの各部材の設計が必要である。従って、一旦、ある仕様に適合するようにミストノズルの各部材が設計及び加工されると、そのノズルはその仕様としてのみ用いられる。しかしながら、逐一、個別の要求に応じたミストノズルを生産することは直ちに製造コストの上昇という問題を生じさせる。
【0007】
また、例えば、消火用ミストノズルに着目すると、種々の消火対象に適合したミストを得るためには、それぞれの仕様に適合する消火用ミストノズルの各部品の設計が必要である。上述の通り、一旦、ある仕様に適合するように設計及び加工された消火用ミストノズルは、その仕様としてのみ用いられる。しかしながら、逐一、個別の要求に応じた消火用ミストノズルを生産することは直ちに製造コストの上昇という問題を生じさせる。
【0008】
他方、本願出願人により、ミストの拡散角(本出願では、噴射角度)の自由度のみならず、噴射量の自由度も簡便に高められる構造が提案されている(特許文献2及び特許文献3)。しかし、その簡便さを維持した上で、噴射されるミストの性質を変更する技術も市場にとって大変興味深いものである。
【特許文献1】特開平11−76871号公報
【特許文献2】特願2007−235227号公報
【特許文献3】特願2007−235228号公報
【特許文献4】特開2001−95935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、消火用ミストノズルの種々の特性の自由度を得るとともに、消火用ミストノズルの製造コストの低減に対しても大きく貢献するものである。さらに、本発明は、噴射されるミストの性質も変更される。発明者らは、従来のミストノズルを構成する各部材が、予め定められた仕様以外のミストを噴射することができない点に着目し、旋回型又は渦巻き型と呼ばれるミストノズルの各部材の構造及び機能について鋭意研究を行った。その結果、発明者らは、ミストノズルの特性を決定すると考えられる種々の部材の機能を細分化して部品の単純化と共通化を図り、それらの自由な組み合わせを可能にした。更に、発明者らは、その単純化された部品を配置する方向を工夫することによって、噴射されるミストの性質を変更することが可能であることを見出した。本発明はこのような視点に基づいて創出された。
【0010】
本発明の1つのミストノズルは、液体が旋回する渦室を構成する開口部、その渦室に対してその液体の略回転方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及びその液体を前述の各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第1薄板と、液体が旋回する渦室を構成する開口部、その液体の略回転方向に逆らう方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及びその液体を前述の各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第2薄板と、その流路及びその渦室の内壁の一部を構成するとともにその導入口が形成された第3薄板と、前述の液体を噴射するためのオリフィスを有するオリフィス板とを備え、そのオリフィス板とその第3薄板との間に前述の第1薄板及び第2薄板とが重ね合わせて配置されている。
【0011】
このミストノズルによれば、上述の第1薄板及び第2薄板をオリフィス板と第3薄板との間に配置して重ね合わせることにより、ミストノズルの主要な特性であるミストの噴射角度及び/又は噴射量に対する融通性を流体の圧力を変えることなく低コストで得られるとともに、渦室の接線速度を調整することができる。その結果、部材自身の設計や加工を変更することなく、ミストの噴射角度及び/又は噴射量を変動させることができる。さらに、上述の構成により、噴射されるミストの性質を変更することができる。具体的には、このミストノズルは、噴射されるミストを充円錐状、すなわち、噴射されるミストの広がりの中で略空洞な領域が低減される状態にすることができる。また、一枚の第1薄板又は第2薄板が、液体の渦室、その液体の流路、及びその流路に液体を導入する導入口を構成する3種の孔を有するだけの単純な構造が採用されている。さらに、第3薄板も、前述の導入口が形成される単純な加工物である。従って、従来技術と比較して製造コストの低減が達成できる。
【0012】
本発明のもう1つのミストノズルは、液体が旋回する渦室を構成する開口部、その渦室に対してその液体の略回転方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及びその液体を前述の各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第1金属薄板と、液体が旋回する渦室を構成する開口部、その液体の略回転方向に逆らう方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及びその液体を前述各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第2金属薄板と、その流路及びその渦室の内壁の一部を構成するとともにその導入口が形成された第3金属薄板と、前述の液体を噴射するためのオリフィスを底面に有し、その底面に対向するようにその第1金属薄板、その第2金属薄板、及びその第3金属薄板とを収める筐体とを備え、その筐体とその第3薄板との間に前述の第1薄板及び第2薄板とが重ね合わせて配置されている。
【0013】
このミストノズルによれば、上述の第1薄板及び第2薄板をオリフィス板と第3薄板との間に配置して重ね合わせることにより、ミストノズルの主要な特性であるミストの噴射角度及び/又は噴射量に対する融通性を流体の圧力を変えることなく低コストで得られるとともに、渦室の接線速度を調整することができる。その結果、部材自身の設計や加工を変更することなく、ミストの噴射角度及び/又は噴射量を変動させることができる。さらに、上述の構成により、噴射されるミストの性質を変更することができる。具体的には、このミストノズルは、充円錐状のミストを噴射させることができる。また、一枚の第1薄板又は第2薄板が、液体の渦室、その液体の流路、及びその流路に液体を導入する導入口を構成する3種の孔を有するだけの単純な構造が採用されている。さらに、第3薄板も、前述の導入口が形成される単純な加工物である。従って、例えば、順送金型を用いた加工により従来技術と比較して製造コストの低減が達成できる。
【0014】
本発明のもう1つのミストノズルは、液体が旋回する渦室を構成する開口部、その渦室に対してその液体の略回転方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及びその液体を前述の各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第1金属薄板と、その第1金属薄板の外形と同じ外形を有し、かつ液体が旋回する渦室を構成する開口部、その液体の略回転方向に逆らう方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及びその液体を前述の各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第2金属薄板と、その第1金属薄板の外形と同じ外形を有し、その流路及びその渦室の内壁の一部を構成し、かつその導入口が形成された第3金属薄板と、前述の液体を噴射するためのオリフィスをその第1金属薄板の外形と略同じ外形を持つ底面に有し、その底面に対向するようにその第1金属薄板、その第2金属薄板、及びその第3金属薄板とを収める筐体とを備え、その筐体とその第3薄板との間に前述の第1薄板及び第2薄板とが重ね合わせて配置されている。
【0015】
このミストノズルによれば、上述の第1薄板及び第2薄板をオリフィス板と第3薄板との間に配置して重ね合わせることにより、ミストノズルの主要な特性であるミストの噴射角度及び/又は噴射量に対する融通性を流体の圧力を変えることなく低コストで得られるとともに、渦室の接線速度を調整することができる。その結果、部材自身の設計や加工を変更することなく、ミストの噴射角度及び/又は噴射量を変動させることができる。さらに、上述の構成により、噴射されるミストの性質を変更することができる。具体的には、このミストノズルは、充円錐状のミストを噴射させることができる。また、一枚の第1薄板又は第2薄板が、液体の渦室、その液体の流路、及びその流路に液体を導入する導入口を構成する3種の孔を有するだけの単純な構造が採用されている。さらに、第3薄板も、前述の導入口が形成される単純な加工物である。従って、例えば、順送金型を用いた加工により従来技術と比較して製造コストの低減が達成できる。
【0016】
ところで、本出願において、ミストノズルから噴射されるミストの噴射角度とは、代表的には、図7に示す、ミストノズル100から噴射される液体の飛行範囲の広がり角度θを意味する。尚、ミストノズル100は、噴射角度の説明のための公知のミストノズルである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つのミストノズルによれば、第1薄板及び第2薄板をオリフィス板と第3薄板との間に配置して重ね合わせることにより、部材自身の設計や加工を変更することなく、ミストノズルの主要な特性であるミストの噴射角度及び/又は噴射量に対する融通性を流体の圧力を変えることなく低コストで得ることができる。また、渦室の接線速度を調整することができるため、噴射されるミストを充円錐状にすることができる。また、一枚の第1薄板又は第2薄板が、液体の渦室、その液体の流路、及びその流路に液体を導入する導入口を構成する3種の孔を有するだけの単純な構造が採用されている。さらに、第3薄板も、前述の導入口が形成される単純な加工物である。従って、従来技術と比較して製造コストの大幅な低減が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態におけるミストノズルの分解組立図である。図2Aは、本実施形態のミストノズルを図1のA方向から観察した斜視図であり、図2Bは、本実施形態のミストノズルの平面図である。また、図2Cは、図2BにおけるD−D断面図である。また、図3Aは第1薄板の平面図であり、図3Bは図3AのZ方向から見た第1薄板の側面図であり、図3Cは第2薄板の平面図である。また、図4は第3薄板の平面図である。尚、第2薄板及び第3薄板の側面図は、第1薄板のそれと同じであるので省略する。
【0020】
図1乃至図4に示すように、本実施形態のミストノズル100は、有底円筒状の筐体10内に、第1薄板13aと、第2薄板13bと、1枚の第3薄板14と、金網状のストレーナ15を収める構造を有している。また、筐体10の底部中央には液体の噴射口となるオリフィス11が形成され、収納された第1薄板13a、第2薄板13b、第3薄板14、及びストレーナ15を固定するために折り曲げられる3箇所の爪部12が筐体10の側面から延設されている。尚、爪部12による固定をより容易、かつ確実にするために、ストレーナ15に接した状態でリング16が配置されている。
【0021】
筐体10の底面が第1薄板13aの外周形状と同一か一回り大きい円形の外周形状を有する第1薄板13a及び第2薄板13bは、液体の導入口17aからその流路17b,17dに連なる3つの開口部、及び液体が旋回する渦室17cとなる1つの開口部を有している。第1薄板13aの渦室17cと連結する流路17b,17b,17bの幅は、渦室17cに対して液体が略回転方向に向けて流入するように狭められている。他方、第2薄板13bの渦室17cと連結する流路17d,17d,17dの幅は、渦室17cに対して液体が略回転方向に逆らう方向に向けて流入するように狭められている。また、第3薄板14は、第1薄板13aと同じ外周形状を有しているが、形成された開口部は3箇所の導入口17a,17a,17aのみである。
【0022】
また、第1薄板13a、第2薄板13b、及び第3薄板14は、薄板同士を重ね合わせる際の位置決めのためのダボ出し突起をそれぞれ3箇所有している。本実施形態では、1つのダボ出し突起の高さは、0.1mm以上0.15mm以下である。但し、最もオリフィス11側に配置される第1薄板13aは、ダボ出し突起の代わりに、そのダボ出し突起の少なくとも一部が嵌入される孔が形成される。
【0023】
ところで、本実施形態では、第1薄板13a、第2薄板13b、及び第3薄板14の材質はSUS316である。また、各薄板の厚みは0.2mmであり、各薄板の外形となる円の直径は9.4mmである。また、筐体10及びリング16の材質もSUS316であるが、それぞれの厚みは0.3mmである。また、筐体10の内径及びリングの外径はともに9.4mmであり、筐体10の一部に形成されているオリフィス11の直径は1.0mmである。また、ストレーナ15の材質はSUS316であり、そのメッシュの番手は♯120である。また、外周形状が円形であるストレーナ15の直径も9.4mmである。尚、第1薄板13a、第2薄板13b、第3薄板14、及びストレーナ15の直径、並びにリング16の外径は特に限定されるものではないが、ノズルの小型化とミスト流量の融通性の観点から、5mm以上15mm以下であることが好ましい。また、ストレーナ15の厚みは、約0.3mmであり、また、そのメッシュの番手は、ノズルの目詰まりを防止する観点から、♯80か、又はそれよりも目が細かい方が好ましい。
【0024】
図1乃至図4に示すように、本実施形態では、オリフィス11側から順に、5枚の第1薄板13a、2枚の第2薄板13b、1枚の第3薄板14、及び2枚の第1薄板13aが配置されている。ここで、第3薄板14からオリフィス11に至るまでの領域がミストの噴射角度及び/又はその噴射量を制御し、かつミストの状態を変化させる制御部19aであり、第3薄板14からストレーナ15に至るまでの領域が液体導入部19bである。
【0025】
まず、制御部19aでは、第1薄板13a及び第2薄板13bを積層させることによって形成された各流路17b,17dの方向と断面積、さらに渦室17cの連結部の断面積が定まることによって、ミストの噴射角度及び/又は噴射量の一定の範囲に収めることが可能となる。すなわち、第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数を変更することにより、各流路17b,17dの深さと液体の流入状態が変化する。特に、第1薄板と第2薄板の各流路17b,17dからの液体の流入方向が異なるため、積層枚数のみならず積層順序によっても、渦室17cへの流入状態の多様性が高まる。その結果、第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序と積層枚数を調整することにより、ミストの噴射角度及び/又は噴射量に対する融通性を獲得することができるとともに、噴射されるミストの状態を変化させることができる。
【0026】
次に、液体導入部19bは、第3薄板14、及び制御部19aに使用されている第1薄板13a及び第2薄板13b以外の第1薄板13a,13aの開口部によって構成されている。液体導入部19bは、制御部19aのそれと同じ第1薄板13a,13aを積層した構造を有しており、液体を制御部19aに導入するための導入部として利用される。なお、本実施形態では、第1薄板13aが液体導入部19bを構成しているが、これに代えて第2薄板13bが用いられても本実施形態の効果は実質的に同じである。
【0027】
上述の通り、本実施形態では、制御部19aの性能が、単に第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数によって変化することになるため、ミストノズル100の各部品の設計や加工手段を変更することなく、簡便にミストの噴射角度及び/又は噴射量を制御し、かつミストの状態を充円錐状にすることができる。すなわち、制御部19a及び液体導入部19bが第1薄板13a、第2薄板13b、及び第3薄板14という共通の部品によって構成されているため、製造の容易化及び低コスト化が実現されうる。特に、本実施形態では、第1薄板13aと第3薄板14が同じ外周形状を有する金属薄板であり、それらの差異が、上述の流路17b,17d、ダボ出し突起の方向とその有無、及び渦室17cとなる開口部の有無のみであるから、順送金型を用いた加工を適用することが可能となる。なお、本実施形態では、第2薄板13bは、単に第1薄板13aの表裏を逆転させただけのものである。従って、この順送金型による加工を採用すれば、第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数を容易かつ自在に変更することが可能となるため、作業工程数の低減によって歩留まりが向上しうる。さらに、順送金型によれば、単一の加工装置による製造のため、製造コストを一層低減することができる。
【0028】
<第2の実施形態>
図5は、本実施形態におけるミストノズル200の分解組立図である。また、図6は、第1の実施形態における図2Cに相当する箇所の断面図である。ここで、本実施形態におけるミストノズル200は、第1の実施形態で使用された第1薄板13a,第2薄板13b、及び第3薄板14を有しているが、ストレーナ及びリングは配置されていない。従って、筐体20の側面から延設された爪部22は直接、第1薄板を押圧するように折り曲げられている。尚、オリフィス21の位置及び大きさは第1の実施形態の筐体10と同じである。また、本実施形態では、最もオリフィス側に配置された第1薄板13aは、その他の第1薄板13aと同様、ダボ出し突起を有している。本実施形態におけるミストノズル200は、上記の点を除いて第1の実施形態と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略される。
【0029】
本実施形態においても、制御部19aの性能が、第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数によって変化することになるため、ミストノズル200の各部品の設計や加工手段を変更することなく、簡便にミストの状態を充円錐状に変化させることができ、かつミストの噴射角度及び/又は噴射量を制御することができる。すなわち、制御部19a及び液体導入部19bが第1薄板13a、第2薄板13b、及び第3薄板14という共通の部品によって構成されているため、製造の容易化及び低コスト化が実現されうる。特に、本実施形態では、第1薄板13a、第2薄板13b、及び第3薄板14が同じ外周形状を有する金属薄板であり、それらの差異が、上述の流路17b,17d、ダボ出し突起の方向、及び渦室17cとなる開口部の有無のみであるから、順送金型を用いた加工を適用することが可能となる。この順送金型による加工を採用すれば、第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数を容易かつ自在に変更することを可能となるため、作業工程数の低減によって歩留まりが向上しうる。さらに、順送金型によれば、単一の加工装置による製造のため、製造コストを一層低減することができる。
【実施例】
【0030】
次に、第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数を変更させた場合の第1の実施形態のミストノズル100を用いた場合のミストの噴射角度及び噴射量の変化について説明する。表1及び表2は、制御部19aに配置されている第1薄板13aと第2薄板13bの枚数及び積層順序の変化に対する、噴射されるミストの噴射角度及び噴射量の変化を測定した結果を示している。尚、オリフィス11の直径は1.5mm又は2mmに固定され、さらに第1薄板13a及び第2薄板13bの渦室17cの直径(図3AのD)並びに渦室17cと流路17b,17dが連結する部分の最短幅(図3AのW)は一定にされている。また、この測定結果の一例は、2種類の放射圧力(0.5MPa及び0.8MPa)の場合の結果であるが、噴射角度については0.8MPaの結果のみが示されている。また、図3Aにおける一点鎖線は、渦室17cの直径を理解するために便宜上描かれている。また、制御部19aに配置されている総計7枚の第1薄板13a及び第2薄板13bの順序も各表中に示されている。具体的には、表1又は表2におけるX欄がオリフィスに近い位置に配置されていることを示し、表1又は表2におけるY欄がオリフィスから遠い位置に配置されていることを示す。従って、図1に示す第1の実施形態は、例えば表1における最下段の例に該当する。また、前述のDの値は、3mmであり、前述のWの値は、0.7mmである。
【0031】
【表1】

【表2】

【0032】
表1及び表2に示すとおり、第1薄板13a及び第2薄板13bの積層枚数及び/又は積層順序を変更することにより、噴射量及び噴射角度を広範囲で変えることが出来ることが分かった。また、表1及び表2におけるミストの状態を目視観察したところ、全てのミストが充円錐状となっていることが分かった。この充円錐状のミストが形成されることにより、噴射されるミストの広がりの中でミストが略全体に存在することが分かった。他方、表1及び表2には示されていないが、本願出願人が目視観察したところ、第2薄板を含まずに制御部19aが形成された場合、前述の略空洞な領域が形成されることが分かっている。従って、第2薄板を含めて制御部19aを構成することにより、噴射されるミストの充円錐状化が達成される。
【0033】
さらに、表1及び表2には示されていないが、第2薄板13bを含まずに、第1薄板13aのみを積層した場合と比較して、噴射量が全体的に増大する傾向があることも明らかとなった。従って、噴射量を増大させる手段として、第2薄板13bを用いることが有効であることが明らかとなった。なお、ミストの状態が全ての条件で充円錐状となっていると考えられるが、その程度は条件によって差が生じていると考えられる。
【0034】
また、第2の実施形態のミストノズル200についても、上述の第1の実施形態における実施例と同様の測定を行った。その結果、第1の実施形態で得られた値と実質的に同じ値が得られた。すなわち、与えられる液体中に物理的な不純物がなければ、ストレーナが配置されていなくても、本発明の効果が奏されることがわかる。
【0035】
ところで、上述の各実施形態では、第1薄板、第2薄板、及び第3薄板の材質がSUS316であったが、材質はこれに限定されない。例えば、代替しうる金属として、アルミニウム合金、銅合金、又はチタンが適用可能である。また、金属のみならず、セラミックスや、プラスチック材料であっても、公知の手段によって十分な硬度を得ることにより適用することができる。
【0036】
また、上述の各実施形態では、第1薄板、第2薄板、及び第3薄板の厚みが0.2mmであったが、本発明はこの厚みに限定されない。但し、ミストを発生させるためには渦室17c内での液体の角速度の高速化を図ることが必要となるため、図3AのWに示す流路17b,17dの絞り幅を出来る限り狭めることによって渦室17cに流入する液体の流速を上げることが有力な手段となる。従って、出来るだけ小さいW値(例えば、0.2mm乃至1mm)を得るためには、加工の困難性の観点から上述の薄板の厚みが0.15mm以上0.7mm以下であることが好ましい。他方、1.5mmを超えるとその加工が非常に困難になる。尚、上述の好ましい範囲であれば、順送金型を採用した場合であってもその加工が容易になる。また、オリフィスの直径も2mm又は1.5mmに限定されない。オリフィスの直径が0.5mmであった場合、全般的な傾向として、ミストの噴射量及び噴射角度のいずれもが直径が2mm又は1.5mmの場合と比べて小さくなることが確認されている。従って、オリフィスの直径を変えた上で、第3薄板よりもオリフィス側に配置されている第1薄板及び第2薄板の数、及びそれらの積層順序を変化させることにより、噴射されるミストの状態を変化させるとともに、そのミストの噴射量及び/又は噴射角度の融通性を更に高めることが可能となる。
【0037】
また、上述の各実施形態では、第1薄板13a、第2薄板13b、及び第3薄板14が、オリフィス11が形成された筐体10,20内に収められているが、筐体10,20がなくても良い。すなわち、図8に示すミストノズル300のように、オリフィス11が形成されたオリフィス板30が上述の各実施形態で用いられた筐体10,20の替わりに配置され、オリフィス板30、第1薄板13a、第2薄板13b、及び第3薄板14が公知の接着剤によって接着されてもよい。これは、制御部19aの性能は、渦室や流路などの開口部の広さと形状、並びに第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数によって影響される一方、筐体の有無には影響されないからである。但し、筐体10,20が第1薄板及び第2薄板を収納することは、ミストノズルの製造を容易にし、かつ、機械的強度を向上させるため好ましい。
【0038】
また、上述の各実施形態では、第1薄板13a及び第2薄板13bが3箇所の導入口17a及び流路17b,17dを有していたが、それらの数は、3つに限定されない。例えば、図9Aに示す第1薄板43及び図9Bに示す第3薄板44のように、導入口27a,27a及び流路27b,27bが2箇所であっても、渦室27cにおいて本発明の効果が発揮されるための十分な液体の角速度を得ることができる。また、図10A及び図10Bに示す第1薄板53及び第3薄板54のように、導入口37a及び流路37bがそれぞれ1箇所のみであっても、渦室37cにおいて本発明の少なくとも一部の効果が発揮されるための十分な液体の角速度を得ることができる。但し、導入口及び流路の数が少なすぎると、加工精度の限界等の理由により、渦室内における液体の旋回速度にバラつきを生じさせる可能性があるため、最も好ましい導入口及び流路の数は3個以上である。また、上述の第1薄板43,53に関する説明は、第2薄板に対しても適用される。
【0039】
また、上述の各実施形態では、第1薄板、第2薄板、及び第3薄板の総枚数が10枚であったが、これに限定されない。前述の総枚数は、筐体の大きさによって自由に変更しうる。さらに、上述の各実施形態では、第1薄板、第2薄板、及び第3薄板が筐体側面から延設された爪部を折り曲げることによって固定されたが、固定手段はこれに限定されない。例えば、接着剤を各薄板間に塗布して固定する手段も適用しうる。
【0040】
また、上述の各実施形態では、液体導入部19bが形成されていたが、この液体導入部19bが形成されない場合であっても、本発明の効果が実質的に奏される。これは、制御部19aの性能が、渦室や流路などの開口部の広さと形状、並びに第1薄板13a及び第2薄板13bの積層順序及び/又は積層枚数によって影響される一方、液体導入部19bによる影響が殆ど無いと言えるからである。
【0041】
また、上述の各実施形態では、第1薄板、第2薄板、及び第3薄板の外周形状が円形であったが、ミストの噴射角度及び噴射量に対する融通性は、上記第1薄板、第2薄板、及び第3薄板の開口部の形状や、それらの積層枚数及び/又は積層順序に依存するため、外周形状に対する限定はされない。以上、述べたとおり、本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば農業用、又は粉塵除去や消臭等の空気清浄化用などのノズルとして広く利用されうる。また、本発明は、種々の消火対象に対応しうる消火用のミストノズルとしても利用される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるミストノズルの分解組立図である。
【図2A】本発明の1つの実施形態におけるミストノズルを図1のA方向から観察した斜視図である。
【図2B】本発明の1つの実施形態におけるミストノズルの平面図である。
【図2C】図2BのD−D断面図である。
【図3A】本発明の1つの実施形態におけるミストノズルの第1薄板の平面図である。
【図3B】本発明の1つの実施形態におけるミストノズルの第1薄板の側面図である。
【図3C】本発明の1つの実施形態におけるミストノズルの第2薄板の側面図である。
【図4】本発明の1つの実施形態におけるミストノズルの第3薄板の平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態におけるミストノズルの分解組立図である。
【図6】本発明の他の実施形態におけるミストノズルの断面図である。
【図7】ミストの噴出角度を説明する図である。
【図8】本発明の他の実施形態におけるミストノズルの分解組立図である。
【図9A】本発明の他の実施形態におけるミストノズルの第1薄板の平面図である。
【図9B】本発明の他の実施形態におけるミストノズルの第3薄板の平面図である。
【図10A】本発明の他の実施形態におけるミストノズルの第1薄板の平面図である。
【図10B】本発明の他の実施形態におけるミストノズルの第3薄板の平面図である。
【符号の説明】
【0044】
10,20 筐体
11,21 オリフィス
12,22 爪部
13a,43,53 第1薄板
13b 第2薄板
14,44,54 第3薄板
15 ストレーナ
16 リング
17a,27a,37a 導入口
17b,17d,27b,37b 流路
17c,27c,37c 渦室
18 ダボ出し突起
18a ダボ出し突起嵌入孔
19a 制御部
19b 液体導入部
30 オリフィス板
100,200,300 ミストノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が旋回する渦室を構成する開口部、前記渦室に対して前記液体の略回転方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及び前記液体を前記各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第1薄板と、
液体が旋回する渦室を構成する開口部、前記液体の略回転方向に逆らう方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及び前記液体を前記各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第2薄板と、
前記流路及び前記渦室の内壁の一部を構成するとともに前記導入口が形成された第3薄板と、
前記液体を噴射するためのオリフィスを有するオリフィス板とを備え、
前記オリフィス板と前記第3薄板との間に前記第1薄板及び前記第2薄板とが重ね合わせて配置された
ミストノズル。
【請求項2】
液体が旋回する渦室を構成する開口部、前記渦室に対して前記液体の略回転方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及び前記液体を前記各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第1金属薄板と、
液体が旋回する渦室を構成する開口部、前記液体の略回転方向に逆らう方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及び前記液体を前記各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第2金属薄板と、
前記流路及び前記渦室の内壁の一部を構成するとともに前記導入口が形成された第3金属薄板と、
前記液体を噴射するためのオリフィスを底面に有し、前記底面に対向するように前記第1金属薄板、前記第2金属薄板、及び前記第3金属薄板とを収める筐体とを備え、
前記筐体と前記第3薄板との間に前記第1薄板及び前記第2薄板とが重ね合わせて配置された
ミストノズル。
【請求項3】
液体が旋回する渦室を構成する開口部、前記渦室に対して前記液体の略回転方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及び前記液体を前記各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第1金属薄板と、
前記第1金属薄板の外形と同じ外形を有し、かつ液体が旋回する渦室を構成する開口部、前記液体の略回転方向に逆らう方向に向けて流入する単数又は複数の流路を構成する開口部、及び前記液体を前記各々の流路に導く導入口が形成された少なくとも1枚の第2金属薄板と、
前記第1金属薄板の外形と同じ外形を有し、前記流路及び前記渦室の内壁の一部を構成し、かつ前記導入口が形成された第3金属薄板と、
前記液体を噴射するためのオリフィスを前記第1金属薄板の外形と略同じ外形を持つ底面に有し、前記底面に対向するように前記第1金属薄板、前記第2金属薄板、及び前記第3金属薄板とを収める筐体とを備え、
前記筐体と前記第3薄板との間に前記第1薄板及び前記第2薄板とが重ね合わせて配置された
ミストノズル。
【請求項4】
前記第1薄板の枚数と前記第2薄板の枚数が、ミストの所望の噴射角度及び/又は噴射量を得るように定められる
請求項1に記載のミストノズル。
【請求項5】
前記第1薄板と前記第2薄板とが重なり合う順序が、ミストの所望の噴射角度及び/又は噴射量を得るように定められる
請求項1に記載のミストノズル。
【請求項6】
ストレーナを介して前記液体が前記第3薄板に到達する
請求項1に記載のミストノズル。
【請求項7】
前記第1金属薄板、前記第2金属薄板、及び前記第3金属薄板が、重ね合わせの際の位置決めのためのダボ出し突起をさらに備えた
請求項2乃至請求項3に記載のミストノズル。
【請求項8】
前記薄板の厚みが0.15mm超0.7mm以下である
請求項1に記載のミストノズル。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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