説明

ミスト噴出用ノズル、それを備えた成膜装置および成膜方法

【課題】基板表面に生成される膜の厚さを均一にし、製作コストを抑えることができるようにする。
【解決手段】ミストが筐体2内に供給されると、一部のミストは一方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達し、一部のミストは他方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達する。そして、両者は、原料ガス排出口5の直上領域において互いに衝突して混合する。これにより、原料ガス排出口5の直上領域において、原料ガス排出口5の長手方向にわたってミストの濃度が均一になる。その後、原料ガス排出口5の長手方向にわたって濃度が均一なミストが、原料ガス排出口5から噴出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD法(化学的気相成膜法)によって基板に膜を生成する成膜装置に用いられるミスト噴出用ノズル、それを備えた成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミスト噴出用ノズルは、CVD法によって基板に膜を生成する成膜装置に用いられる。ミスト噴出用ノズルは、成膜装置内の成膜作業領域に設置され、原料水溶液が霧化されたミストを、基板載置台上に載置された基板表面に対して噴出する。
【0003】
特許文献1には、噴出口から原料ガスを基板の幅方向全体に対して均等に噴射することによって、基板表面に生成される膜の表面粗度を中心から端部に至るまで非常に低くすることができる原料ガス噴出用ノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−254869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている原料ガス噴出用ノズルであっても、長方形状の噴出口の長手方向において、噴出口から噴射される原料ガスの濃度が不均一になり、その結果、基板表面に生成される膜の厚さが不均一になるという問題がある。また、特許文献1に開示されている原料ガス噴出用ノズルは内部構造が複雑であり、製作コストが嵩む。
【0006】
本発明の目的は、基板表面に生成される膜の厚さを均一にし、製作コストを抑えることが可能なミスト噴出用ノズル、それを備えた成膜装置および成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のミスト噴出用ノズルは、原料水溶液を霧化してなるミストが供給される中空横長形状の筐体と、前記筐体の底面に設けられ、前記筐体内の前記ミストを噴出させるミスト排出口と、を有し、前記筐体は、短手方向の両側において、断面がR形状の湾曲面で前記ミスト排出口にそれぞれ接続されていることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、ミストが筐体内に供給されると、一部のミストは一方の湾曲面に沿って滑らかに流下してミスト排出口の直上領域に到達し、一部のミストは他方の湾曲面に沿って滑らかに流下してミスト排出口の直上領域に到達する。そして、両者は、ミスト排出口の直上領域において衝突して混合する。これにより、ミスト排出口の直上領域において、ミストの濃度を均一にすることができる。その後、均一な濃度のミストがミスト排出口から噴出することにより、均一な濃度のミストが基体表面に吹き付けられることになる。これにより、基体表面に生成される膜の表面粗度を非常に低くすることができて、基体表面に生成される膜の厚さを均一にすることができる。また、ミスト噴出用ノズルの内部構造が単純であるので、製作コストを抑えることができる。
【0009】
また、本発明のミスト噴出用ノズルにおいては、前記筐体内の前記ミストを、前記ミストに起こる化学的気相成膜反応が最終過程まで終了せず、且つ、前記ミストが結露しない範囲の温度に加温する加温手段を更に備えていることが望ましい。上記の構成によれば、筐体内のミストの温度を、ミストに起こる化学的気相成膜反応が最終過程まで終了せず、且つ、ミストが結露しない範囲の温度にすることによって、筐体内でミストが結露して水滴になるのを防止することができる。これにより、ミストの結露により生じた水滴がミスト排出口から基体上に滴下するリスクを低減させることができる。
【0010】
また、本発明のミスト噴出用ノズルにおいては、前記筐体内に設けられ、前記筐体内に供給された前記ミストを前記筐体の壁面側にガイドするガイド体を更に有していることが望ましい。上記の構成によれば、筐体内に供給されたミストを筐体の壁面側にガイドすることによって、筐体内を直進するミストの量を抑制することができる。ここで、筐体の壁面は湾曲面および側面を含む。これにより、ミストが筐体内を直進してそのままミスト排出口から噴出することが抑制されるから、ミスト排出口の直上領域において、湾曲面に沿ってミスト排出口の直上領域に到達したミスト同士を十分に衝突させて混合させることができる。これにより、ミストの濃度を好適に均一にすることができる。
【0011】
また、本発明の成膜装置は、上記のミスト噴出用ノズルと、表面に前記ミストが吹き付けられる基体と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、均一な濃度のミストを基体表面に吹き付けることができるから、基体表面に生成される膜の表面粗度を非常に低くすることができて、基体表面に生成される膜の厚さを均一にすることができる。また、ミスト噴出用ノズルの内部構造が単純であるので、製作コストを抑えることができる。
【0013】
また、本発明の成膜装置においては、前記ミストが前記基体に到達する前と到達した後との少なくとも一方において、前記ミストの粒子にエネルギーを付与するエネルギー付与手段を更に有することが望ましい。上記の構成によれば、ミストが基体に到達する前と到達した後との少なくとも一方において、熱、光、プラズマ、オゾン等のエネルギーをミストの粒子に付与することにより、基体表面に好適に膜を生成させることができる。
【0014】
また、本発明の成膜方法は、中空横長形状の筐体に供給された、原料水溶液を霧化してなるミストを、前記筐体の底面に設けられたミスト排出口から基体表面に噴出させることにより、前記基体表面に膜を生成する成膜方法であって、前記筐体が、短手方向の両側において、前記ミスト排出口にそれぞれ接続されている、断面がR形状の湾曲面に沿って前記ミストをそれぞれ流下させ、前記ミスト排出口の直上領域において、両者を衝突させて混合させた後に、前記ミストを前記ミスト排出口から前記基体表面に噴出させて成膜することを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、ミストが筐体内に供給されると、一部のミストは一方の湾曲面に沿って滑らかに流下してミスト排出口の直上領域に到達し、一部のミストは他方の湾曲面に沿って滑らかに流下してミスト排出口の直上領域に到達する。そして、両者は、ミスト排出口の直上領域において衝突して混合する。これにより、ミスト排出口の直上領域において、ミストの濃度を均一にすることができる。その後、均一な濃度のミストがミスト排出口から噴出することにより、均一な濃度のミストが基体表面に吹き付けられることになる。これにより、基体表面に生成される膜の表面粗度を非常に低くすることができて、基体表面に生成される膜の厚さを均一にすることができる。また、このような成膜方法に用いられるミスト噴出用ノズルの内部構造が単純であるので、製作コストを抑えることができる。
【0016】
また、本発明の成膜方法においては、前記ミストが前記基体に到達する前と到達した後との少なくとも一方において、前記ミストの粒子にエネルギーを付与して成膜することが望ましい。上記の構成によれば、ミストが基体に到達する前と到達した後との少なくとも一方において、熱、光、プラズマ、オゾン等のエネルギーをミストの粒子に付与することにより、基体表面に好適に膜を生成させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のミスト噴出用ノズル、それを備えた成膜装置および成膜方法によると、均一な濃度のミストを基体表面に吹き付けることができるから、基体表面に生成される膜の表面粗度を非常に低くすることができて、基体表面に生成される膜の厚さを均一にすることができる。また、ミスト噴出用ノズルの内部構造が単純であるので、製作コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態によるミスト噴出用ノズルを用いた成膜装置を示す概略断面図である。
【図2】成膜装置にミスト噴出用ノズルが着脱自在に取り付けられたときの断面図である。
【図3】ミスト噴出用ノズルの三面図である。
【図4】ミスト噴出用ノズルの断面図である。
【図5】ミスト噴出用ノズルの断面図である。
【図6】ミスト噴出用ノズルの断面図である。
【図7】ミスト噴出用ノズルの断面図である。
【図8】ミスト噴出用ノズルの断面図である。
【図9】本発明の実施形態によるミスト噴出用ノズルを用いた成膜装置を示す概略断面図である。
【図10】ミスト噴出用ノズルの断面図である。
【図11】ミスト噴出用ノズルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
[第1実施形態]
(成膜装置の構成)
本実施形態の原料ガス噴出用ノズル(ミスト噴出用ノズル)1は、図1に示すように、成膜装置10に設けられる。成膜装置10は、原料ガス噴出用ノズル1を支持する支持台50と、基板(基体)60が配置される成膜室20と、原料ガス噴出用ノズル1に原料ガス39を供給する原料ガス供給手段30と、薄膜形成用のエネルギーを基板60を介して原料ガス39中のミストの粒子に付与するエネルギー付与手段40と、を有している。成膜室20は、断熱性を有するボディ21内に形成されているとともに、エネルギー付与手段40は、ボディ21内に収容されている。原料ガス噴出用ノズル1は、原料ガス39の成膜室20内への噴出方向が、基板60の平面に平行な方向と垂直になるように配置される。
【0021】
支持台50は、図2に示すように、原料ガス噴出用ノズル1を着脱自在に支持しており、原料ガス噴出用ノズル1の筐体2を収容する収容空間51を有している。また、支持台50の底面52には、成膜室20内に連通し、原料ガス噴出用ノズル1の後述する原料ガス噴出部4が挿入される挿入穴52aが設けられている。このように、原料ガス噴出用ノズル1を取り外すことが可能なので、メンテナンスを行いやすい。
【0022】
また、支持台50には、原料ガス噴出用ノズル1の垂直方向の位置、具体的には原料ガス噴出用ノズル1の原料ガス噴出部4の噴出口4a(図4参照)の垂直方向の位置を調節する位置調節機構53が設けられている。位置調節機構53は、外周にネジが切られて直立された一対の棒体53a・53aと、内周にネジが切られてそれぞれが棒体53aに螺合された1組の筒体53b・53bと、1組の筒体53b・53bの各々に連結され、原料ガス噴出用ノズル1の筐体2の下部が上方から当接される連結体53cと、回転されることで対応する筒体53bを上下動させる1組の回転体53d・53dとを有している。連結体53cは、原料ガス噴出用ノズル1の筐体2の下部の外形に適合する形状にされており、筒体53bの上下動に伴い、原料ガス噴出用ノズル1とともに上下動する。この位置調節機構53により、原料ガス噴出用ノズル1を上下動させることによって、基板60と原料ガス噴出部4の噴出口4aとの距離を微調整することが可能となっている。
【0023】
成膜室20は、図1に示すように、高さが低く前後左右に拡がる直方体空間を有しており、原料ガス噴出用ノズル1から噴出された原料ガス39を、基板60の表面に沿って流動させる。成膜室20の大きさは、例えば、前後方向の長さが約120mm、左右方向の長さが約16mm、高さが約1.5mmである。また、成膜室20の高さは、基板60において成膜される側の表面(成膜用表面)、例えば上面と、成膜室20の上側の内壁との距離Dが、約0.1mm以上約10.0mm以下の範囲内の所定の距離となるように設定されている。
【0024】
また、成膜室20は、成膜室20内の原料ガス39を外部に排出させるガス排出口22を有している。ガス排出口22は、例えば、左右側面にそれぞれ設けられた前後方向に延びる開口である。原料ガス噴出用ノズル1から成膜室20内に供給される原料ガス39の流入方向と、ガス排出口22から排出される原料ガス39の排出方向とは、90度異なっている。なお、成膜室20は、基板60が露出するように、上面が開放されていてもよい。
【0025】
基板60は、成膜室20内において、原料ガス噴出用ノズル1とガス排出口22との間に配置される。基板60は、成膜室20内において、成膜室20の底面に直接接触しないように、サセプタ65上に載置されている。基板60は、例えば、ガラス基板、石英基板、サファイア等である。
【0026】
基板60の一方の面、例えば上面だけに成膜する場合、サセプタ65は厚みの薄い、例えば、約0.5mm以上約2.0mm以下の範囲内の所定の厚みを有する一枚の平板であることが好ましい。ここで、基板60の他方の面、例えば下面側に原料ガス39が殆ど回り込まないように、基板60の下面は、全面に渡ってサセプタ65と密着するように載置される。また、サセプタ65の下面側にも原料ガス39が殆ど回り込まないように、サセプタ65は成膜室20の底面に密着して配置される。
【0027】
なお、基板60の両面に成膜する場合、サセプタ65は、基板60の他方の面、例えば下面を部分的に支えるフレームであることが好ましい。また、この場合、成膜室20の高さやサセプタ65の厚みは、基板60の両面からそれぞれ成膜室20の内壁との距離が約0.1mm以上約10.0mm以下の範囲内の所定の距離となるように設定される。
【0028】
なお、本実施形態において、原料ガス噴出用ノズル1は、原料ガス39の成膜室20内への噴出方向が、基板60の平面に平行な方向と垂直になるように配置されているが、必ずしもこれに限定されず、基板60上に原料ガス39を直接噴出することができればよい。例えば、原料ガス噴出用ノズル1は、原料ガス39の成膜室20内への噴出方向が、基板60の平面に平行な方向に対して傾斜するように配置されていてもよい。また、基板60に対する原料ガス39の噴出方向を、基板60の平面に平行な方向と垂直な方向から傾斜させることができるように、原料ガス噴出用ノズル1を傾動させることが可能な構成にされていてもよい。
【0029】
また、サセプタ65に代えて、基板60を所定速度で移動させるコンベア(図示せず)を用い、このコンベア上に基板60を載置して所定方向に移動させることによって、基板60上の広い範囲にわたって所定の膜厚で成膜を行うこととしてもよい。
【0030】
原料ガス供給手段30は、膜を形成するための原料ガス39を原料ガス噴出用ノズル1に所定の流速で供給する。本実施形態の原料ガス供給手段30は、霧化装置である。原料ガス39は、原料水溶液が霧化したミストと、これを運ぶキャリアガスとを含んでいる。例えば、原料ガス39は、酢酸亜鉛水溶液が霧化したミストと、これを運ぶ窒素ガスとを含んでいる。
【0031】
原料ガス供給手段30は、約1リットル/min以上約10リットル/min以下の範囲内の所定量の原料ガス39を、約0.4m/sec以上約4.0m/sec以下の範囲内の所定の速度で、成膜室20内の基板60の表面上に流すように、原料ガス噴出用ノズル1に原料ガス39を供給する速度が調整されている。
【0032】
原料ガス供給手段30は、伝搬溶液33を収容する第1容器31と、原料水溶液34を収容する第2容器32と、第1容器31の底に配置された超音波振動子36と、第2容器32にキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置37と、第2容器32に供給されるキャリアガスの流量を制御するキャリアガス流量制御弁38と、を有している。第1容器31及び第2容器32としてガラス製容器が挙げられる。第2容器の底部材35として、高分子フィルムが挙げられる。伝搬溶液33としてエタノールが挙げられる。原料水溶液34として、酢酸亜鉛水溶液が挙げられる。キャリアガス供給装置37として、窒素ガスボンベが挙げられる。
【0033】
第2容器32の底部材35は、伝搬溶液33の液面が原料水溶液34の液面よりも高くなる程度まで伝搬溶液33内に浸漬される。また、第2容器32の上部側面にキャリアガス導入口32aが、第2容器32の上面に原料ガス噴出用ノズル1と接続されるガス排出口32bがそれぞれ設けられている。第2容器32のキャリアガス導入口32aには、キャリアガス流量制御弁38を介してキャリアガス供給装置37が接続されている。
【0034】
上記の構成において、第1容器31の底に配置された超音波振動子36が作動されると、超音波は、第1容器31内の伝搬溶液33を伝播して、第2容器32の底部材35を透過して原料水溶液34に伝播する。この結果、原料水溶液34は超音波により振動され、液体同士の結合が外れることにより霧状となって放出される。これが原料水溶液が霧化したミストである。
【0035】
上記のようにしてミストが生成されると、この生成タイミングに一致したタイミングや僅かに前後したタイミングでキャリアガス流量制御弁38が開栓される。そして、キャリアガス供給装置37のキャリアガスがキャリアガス流量制御弁38の開度に応じた供給量で第2容器32内に供給される。これにより、ミストはキャリアガスと共に原料ガス39として第2容器32から原料ガス噴出用ノズル1に排出され、原料ガス噴出用ノズル1を介して成膜室20に供給される。原料ガス39の原料ガス噴出用ノズル1への排出速度を調整することにより、成膜室20への原料ガス39の供給速度が制御される。
【0036】
エネルギー付与手段40は、薄膜形成用のエネルギーを基板60、正確には基板60に到達したミストの粒子に付与する。エネルギー付与手段40として、例えば、ヒータやレーザー等を挙げることができる。本実施形態においては、エネルギー付与手段40は、基板60に熱を付与するヒータである。
【0037】
エネルギー付与手段40は、成膜室20の底に沿って成膜室20の全長に亘って設けられており、所定の温度まで、成膜室20、正確には基板60を加熱する。ここで、所定の温度とは、原料ガス39が基板60に到達したときに、ミストの粒子が基板60上で化学的気相成膜反応を最終過程まで終了する温度である。例えば、原料ガス39が、酢酸亜鉛水溶液が霧化されたミストと、これを運ぶ窒素ガスとを含む場合、エネルギー付与手段40によって成膜室20内の温度、正確には基板60の温度を200℃以上600℃以下の範囲内の所定の温度に調整することが好ましい。この温度範囲に調整すると、基板60上に酸化亜鉛の透明な膜を生成させることができる。
【0038】
なお、エネルギー付与手段40は、熱以外のエネルギーをミストの粒子に付与するものであってもよい。熱以外のエネルギーとしては、光、プラズマ、オゾン等を挙げることができる。ミストの粒子に付与されるエネルギーは、熱、光、プラズマ、オゾン等のいずれか1種であってもよいし、これらを2種以上組み合わせたものであってもよい。また、エネルギー付与手段40は、ミストが基板60に到達する前に、ミストの粒子にエネルギーを付与するものであってもよい。このように、ミストが基板60に到達する前と到達した後との少なくとも一方において、熱、光、プラズマ、オゾン等のエネルギーをミストの粒子に付与することにより、基板60の表面に好適に膜を生成させることができる。
【0039】
(原料ガス噴出用ノズルの構成)
本実施形態による原料ガス噴出用ノズル1は、図3に示すように、ミストを含む原料ガス39が供給される中空横長形状の筐体2と、筐体2の上方に設けられ、筐体2内に連通する中空の原料ガス供給管3と、筐体2の下方に設けられ、中空の直方体状に形成されて、筐体2内に連通する筒状の原料ガス噴出部4と、を有している。
【0040】
筐体2は、図3(a)、図3(b)に示すように、鉛直方向の中心軸Aを含む長手方向の鉛直面、および、中心軸Aを含む短手方向の鉛直面の各々に対して左右対称に形成されている。また、原料ガス供給管3および原料ガス噴出部4は、鉛直方向の中心軸が筐体2の中心軸Aに一致するようにそれぞれ設けられている。また、原料ガス噴出部4は、図3(c)に示すように、その長手方向が筐体2の長手方向に一致するように設けられている。
【0041】
また、原料ガス噴出用ノズル1は、図4に示すように、筐体2の底面2bに設けられ、筐体2内の原料ガスを噴出させる原料ガス排出口(ミスト排出口)5を有している。図4(a)に示すように、筐体2の長手方向において、原料ガス排出口5の幅は、筐体2の幅よりも短くされている。具体的には、筐体2の長手方向において、筐体2の端部から原料ガス排出口5の端部までの距離Bが、20mm以上に設定されている。
【0042】
図4に示すように、原料ガス供給管3は、原料ガス供給口3aを介して筐体2内に原料ガス39を供給する。また、原料ガス噴出部4は、原料ガス排出口5から噴出された原料ガスを下方に導いて整流し、下端に設けた噴出口4aから噴出させる。原料ガス排出口5および噴出口4aは、図3(c)に示すように、断面積が同じであり、断面が長方形状である。また、図3(c)に示す方向から見て、原料ガス排出口5および噴出口4aの断面積は、原料ガス供給口3aの断面積よりも狭くされている。ここで、原料ガス排出口5および噴出口4aの断面積は、原料ガス供給口3aの断面積の1/3以下であることが好ましい。これにより、筐体2内の原料ガス39は、筐体2内に供給されたときの圧力よりも高い圧力で噴出口4aから噴出することになる。
【0043】
また、筐体2は、図4(b)に示すように、短手方向の両側において、断面がR形状の湾曲面2aで原料ガス排出口5にそれぞれ接続されている。また、図4(a)、図4(b)に示すように、筐体2の4つの側面には、ラバーヒータ(加温手段)6がそれぞれ貼り付けられている。ラバーヒータ6は、筐体2内のミストを、ミストに起こる化学的気相成膜反応が最終過程まで終了せず、且つ、結露しない範囲の温度、例えば100℃前後に加温する。よって、筐体2内のミストには、化学的気相成膜反応がまったく起こらないか、化学的気相成膜反応が起こったとしても、最終過程まで終了することはない。このように、原料ガス39が成膜室20に移動して、基板60に到達したときに、化学的気相成膜反応が最終過程まで終了するように、ミストの温度が調整されている。
【0044】
上記の構成において、原料ガス39が原料ガス供給口3aから筐体2内に供給されると、図4(b)に示すように、一部のミストは一方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達し、一部のミストは他方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達する。そして、両者は、原料ガス排出口5の直上領域において衝突して混合する。これにより、図4(a)に示すように、原料ガス排出口5の直上領域において、原料ガス排出口5の長手方向にわたって、ミストの濃度を均一にすることができる。その後、原料ガス排出口5の長手方向にわたって均一な濃度のミストが原料ガス排出口5から噴出し、原料ガス噴出部4内を通過して噴出口4aから噴出することにより、基板60の幅方向全体にわたって均一な濃度のミストが基板60の表面に吹き付けられることになる。これにより、基板60の表面に生成される膜の表面粗度を非常に低くすることができて、基板60の表面に生成される膜の厚さを均一にすることができる。また、このような原料ガス噴出用ノズル1は、内部構造が単純であるので、製作コストを抑えることができる。
【0045】
また、図3に示すように、筐体2は、鉛直方向の中心軸Aを含む長手方向の鉛直面、および、鉛直方向の中心軸Aを含む短手方向の鉛直面の各々に対して左右対称に形成されているので、図4(b)に示すように、一方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達するミストと、他方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達するミストとを均衡させることができる。これにより、原料ガス排出口5の直上領域において、両者を好適に衝突させて混合させることができる。
【0046】
また、図4(a)に示すように、筐体2の長手方向において、原料ガス排出口5の幅が、筐体2の幅よりも短くされているので、筐体2内の原料ガス39は、筐体2内に供給されたときの圧力よりも高い圧力で原料ガス排出口5から噴出することになる。よって、筐体2内のミストを、筐体2よりも長手方向の幅が短い原料ガス排出口5から噴出させることにより、原料ガス排出口5から噴出されるミストの流速を上げることができる。また、筐体2の長手方向の両側の側面2cでミストが結露して水滴となった場合に、原料ガス排出口5を除く筐体の底面2b上に、この水滴を留めることができる。これにより、ミストの結露により生じた水滴が原料ガス排出口5から原料ガス噴出部4を介して基板60上に滴下するリスクを低減させることができる。
【0047】
また、図4(a)に示すように、筐体2の長手方向において、筐体2の端部から原料ガス排出口5の端部までの距離Bが、20mm以上に設定されているので、筐体2の長手方向の両側の側面2cでミストが結露して生じた水滴を、原料ガス排出口5を除く筐体2の底面2b上に好適に留めることができる。
【0048】
また、ラバーヒータ6によって筐体2内のミストを、ミストに起こる化学的気相成膜反応が最終過程まで終了せず、且つ、結露しない範囲の温度に加温しているので、筐体2内でミストが結露して水滴になるのを防止することができる。これにより、ミストの結露により生じた水滴が原料ガス排出口5から原料ガス噴出部4を介して基板60上に滴下するリスクを低減させることができる。また、原料ガス39中の成膜成分から余分な分子などを分離させることができるので、基板60の表面に生成される膜の表面粗度を低くすることができる。
【0049】
また、図4(a)に示すように、筐体2の下方に設けられた原料ガス噴出部4が、原料ガス排出口5から噴出されたミストを下方に導いて整流し、下端に設けた噴出口4aから噴出させるので、基板60の表面に吹き付けられるミストの流れを安定させることができる。
【0050】
また、原料ガス噴出用ノズル1は、図2に示すように、位置調節機構53によって垂直方向の位置が微調整されるので、基板60と原料ガス噴出部4の噴出口4aとの距離を最適にすることにより、均一な濃度のミストが基板60に好適に吹き付けられるようにすることができる。
【0051】
なお、筐体2の長手方向において、原料ガス排出口5を除く筐体2の底面2bは、筐体2の鉛直方向の中心軸Aに向かって上方に傾斜されていてもよい。これによれば、筐体2の長手方向の両側の側面2cでミストが結露して生じた水滴を、原料ガス排出口5から原料ガス噴出部4を介して基板60上に滴下しないように、原料ガス排出口5を除く筐体2の底面2b上に好適に留めることができる。また、原料ガス排出口5を除く筐体2の底面2bに穴を穿って、通常はこの穴に蓋をしておき、適時に蓋を開けて溜まった水滴を穴から排出させる構成であってもよい。
【0052】
(成膜装置の動作)
次に、上記の構成の成膜装置10の動作、即ち、成膜方法を説明する。
【0053】
図1に示すように、原料ガス供給手段30から原料ガス噴出用ノズル1に原料ガス39が供給される。原料ガス39が原料ガス供給口3aから筐体2内に供給されると、図4(b)に示すように、一部のミストは一方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達し、一部のミストは他方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達する。そして、両者は、原料ガス排出口5の直上領域において衝突して混合する。これにより、図4(a)に示すように、原料ガス排出口5の直上領域において、原料ガス排出口5の長手方向にわたって、ミストの濃度が均一になる。
【0054】
また、筐体2内に供給された原料ガス39は、ラバーヒータ6により加温され、所定の温度まで昇温される。ここで、所定の温度とは、筐体2内において、原料ガス39中のミストを分解させることのない温度、言い換えれば、ミストに化学的気相成膜反応が起こったとしても、最終過程まで終了しない温度であって、且つ、ミストが結露しない温度のことである。
【0055】
その後、原料ガス39は、原料ガス排出口5の長手方向にわたって濃度が均一な状態で、原料ガス排出口5から噴出し、原料ガス噴出部4により下方に導かれて整流され、噴出口4aから噴出し、成膜室20に流入する。このとき、基板60はエネルギー付与手段40によって成膜室20内で所定の温度にまで昇温されている。ここで、所定の温度とは、成膜室20内の基板60上で、原料ガス39中のミストを分解する温度、言い換えれば、ミストに起こる化学的気相成膜反応が最終過程まで終了する温度のことである。
【0056】
成膜室20内に流入してきた原料ガス39は、基板60の成膜用表面に沿う方向に流れ、つまり、基板60の成膜用表面と略平行に流れ、基板60の表面上で原料ガス39中のミストが分解して基板60の成膜用表面に膜を生成する。このとき、基板60の幅方向全体にわたって均一な濃度のミストが基板60に吹き付けられるので、基板60の表面に生成される膜の表面粗度が非常に低くなり、基板60の表面に生成される膜の厚さが均一になる。また、原料ガス39は、基板60上に吹き付けられる前に筐体2内で一旦滞留するので、原料ガス供給手段30からの原料ガス39の供給速度の分布が、基板60の表面に沿って流動する原料ガス39の流速分布に影響することがない。
【0057】
所定量の原料ガス39が基板60の成膜用表面上を流れるときの流速は約0.4m/sec以上約4.0m/sec以下の範囲の所定の高速度であることが好ましい。原料ガス39の所定量は、約1リットル/min以上約10リットル/min以下の範囲であることが好ましい。ここで、所定量の原料ガス39が基板60の成膜用表面上を流れるときの流速が上記のような高速となるように、原料ガス供給手段30から原料ガス噴出用ノズル1に原料ガス39が送り込まれる速度や、原料ガス噴出用ノズル1の筐体2の大きさが適切に設定されている。そして、基板60上で化学的気相成膜反応を最終過程まで起こし、成膜を終えた残りの原料ガス39が、成膜室20のガス排出口22から排出される。
【0058】
[第2実施形態]
(原料ガス噴出用ノズルの構成)
次に、本発明の第2実施形態による原料ガス噴出用ノズル(ミスト噴出用ノズル)101について説明する。第2実施形態による原料ガス噴出用ノズル101が、第1実施形態による原料ガス噴出用ノズル1と異なる点は、図5に示すように、筐体2内に、切妻屋根状のガイド体71が設けられている点である。
【0059】
ガイド体71は、図5(b)に示すように、筐体2内に供給された原料ガス39を筐体2の壁面側にガイドするように、その頂部71aが原料ガス供給口3a側に位置している。ここで、筐体2の壁面は湾曲面2aおよび側面2cを含む。ガイド体71の長手方向の長さは、図5(a)に示すように、原料ガス供給口3aの長手方向の幅よりも長くされている。これにより、原料ガス供給口3aから筐体2内に供給された原料ガス39を確実に筐体2の壁面側にガイドすることができる。
【0060】
上記の構成において、原料ガス39が原料ガス供給口3aから筐体2内に供給されると、図5(b)に示すように、一部のミストは一方の湾曲面2a側にガイドされて、一方の湾曲面2aに沿って流下する。また、一部のミストは他方の湾曲面2a側にガイドされて、他方の湾曲面2aに沿って流下する。これにより、筐体2内を直進するミストの量を抑制することができるから、ミストが筐体2内を直進してそのまま原料ガス排出口5から噴出することが抑制される。よって、原料ガス排出口5の直上領域において、湾曲面2aに沿って原料ガス排出口5の直上領域に到達したミスト同士を十分に衝突させて混合させることができる。そして、この衝突混合により、原料ガス排出口5とガイド体71との間において、ミストに対流を生じさせることができるから、原料ガス排出口5の直上領域において、原料ガス排出口5の長手方向にわたってミストの濃度を好適に均一にすることができる。
【0061】
また、ガイド体71は、4つの懸吊部材73により筐体2内に吊り下げられている。各懸吊部材73は、一端がガイド体71に固定されたワイヤ73aと、外周にネジが切られてワイヤ73aの他端が接続された棒体73bと、内周にネジが切られて棒体73bに螺合され、回転されることで棒体73bを上下動させるナット73cと、を有している。これら懸吊部材73により、ガイド体71を上下動させることによって、原料ガス供給口3aとガイド体71との距離を微調整することが可能となっている。これにより、原料ガス供給口3aとガイド体71との距離を最適にすることによって、筐体2内に供給されたミストを筐体2の壁面側に好適にガイドすることができる。
【0062】
なお、筐体2内に設けられるガイド体の形状は、傘状であってもよい。この場合、筐体2内に供給された原料ガス39を360度の全ての方向にガイドするように、傘状のガイド体の鉛直方向の中心軸が筐体2の鉛直方向の中心軸Aに一致していることが好ましい。
【0063】
その他の構成は、第1実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
【0064】
[第3実施形態]
(原料ガス噴出用ノズルの構成)
次に、本発明の第3実施形態による原料ガス噴出用ノズル(ミスト噴出用ノズル)201について説明する。第3実施形態による原料ガス噴出用ノズル201が、第1実施形態による原料ガス噴出用ノズル1と異なる点は、図6に示すように、長手方向および短手方向の断面形状が長方形の筐体202の底面202bに、原料ガス排出口5が設けられているとともに、筐体202内に、一対のガイド体81・81が設けられている点である。即ち、筐体202は、図6(b)に示すように、湾曲面2aを有していない。
【0065】
一対のガイド体81・81は、図6(b)に示すように、筐体202内に供給された原料ガス39の一部を原料ガス排出口5の直上領域にそれぞれガイドするように、その断面がR形状に形成されている。また、一対のガイド体81・81の長手方向の長さは、筐体202の内部の長手方向の長さとそれぞれ同じである。即ち、一対のガイド体81・81は、第1実施形態における筐体2の湾曲面2aと同様の機能を果たしている。
【0066】
その他の構成は、第1実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
【0067】
[第4実施形態]
(原料ガス噴出用ノズルの構成)
次に、本発明の第4実施形態による原料ガス噴出用ノズル(ミスト噴出用ノズル)301について説明する。第4実施形態による原料ガス噴出用ノズル301が、第2実施形態による原料ガス噴出用ノズル101と異なる点は、図7に示すように、筐体2内に、ガイド体91が設けられている点である。
【0068】
ガイド体91は、周方向に並んだ複数の流出口92aを有する円筒状の流出部92と、流出部92に連通し、原料ガス供給管3に嵌入された中空の円筒部93とを有している。そして、ガイド体91は、円筒部93内を通過してきた原料ガス39の進行方向を流出部92において90度曲げることにより、中心軸Aを中心とする360度の全ての方向から原料ガス39を筐体2内に供給する。このため、筐体2内を鉛直方向に直進する原料ガス39の量はゼロとなり、原料ガス39の全てが筐体2の壁面側にガイドされることになる。
【0069】
また、ガイド体91は、円筒部93の垂直方向の位置が調整されることによって、流出部92の垂直方向の位置が調整される。ここで、図7に示すように、円筒部93の垂直方向の長さが、原料ガス供給管3の垂直方向の長さよりも長く、円筒部93の一部が原料ガス供給管3の上方に露出していると、円筒部93の垂直方向の位置から、流出部92の垂直方向の位置を把握しやすい。これにより、流出部92の垂直方向の位置を最適にすることによって、筐体2内に供給されたミストを筐体2の壁面側に好適にガイドすることができる。
【0070】
その他の構成は、第2実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
【0071】
[第5実施形態]
(原料ガス噴出用ノズルの構成)
次に、本発明の第5実施形態による原料ガス噴出用ノズル(ミスト噴出用ノズル)401について説明する。第5実施形態による原料ガス噴出用ノズル401が、第2実施形態による原料ガス噴出用ノズル101と異なる点は、図8(b)に示すように、短手方向の断面形状が円形の筐体402の底面402bに、原料ガス排出口5が設けられているとともに、筐体402内に、切妻屋根状のガイド体71が設けられている点である。ガイド体71および懸吊部材73については、第2実施形態と同様であるので、その説明を省略する。筐体402は、短手方向の断面形状が円形であるので、壁面に沿って流動するミストの流れをより滑らかにすることができる。
【0072】
その他の構成は、第2実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
【0073】
[第6実施形態]
(成膜装置の構成)
次に、本発明の第6実施形態による原料ガス噴出用ノズル(ミスト噴出用ノズル)501、および、それを備えた成膜装置510について説明する。
【0074】
本実施形態の成膜装置510は、図9に示すように、原料ガス噴出用ノズル501を支持する支持機構550と、基板60が載置されるボディ521と、原料ガス噴出用ノズル501に原料ガス39を供給する原料ガス供給手段(図示せず)と、薄膜形成用のエネルギーを基板60に到達したミストの粒子に付与するエネルギー付与手段40と、を有している。エネルギー付与手段40は、ボディ521内に収容されている。原料ガス噴出用ノズル501は、原料ガス39のボディ521上への噴出方向が、基板60の平面に平行な方向と垂直になるように配置される。
【0075】
支持機構550は、原料ガス噴出用ノズル501の上部を着脱自在に支持する把持部551と、垂直方向に立設され、把持部551を垂直方向に移動可能に支持する4本の支持部材552とを有している。なお、図9においては、把持部551に対して紙面後方の2本の支持部材552のみを図示し、把持部551に対して紙面前方の2本の支持部材552の図示を省略している。このように、原料ガス噴出用ノズル501を取り外すことが可能なので、メンテナンスを行いやすい。
【0076】
各支持部材552には、把持部551の垂直方向の位置、具体的には原料ガス噴出用ノズル501の原料ガス噴出部4の噴出口4a(図10参照)の垂直方向の位置を調節する位置調節機構553が設けられている。位置調節機構553は、外周にネジが切られて下部が把持部551内に挿入され、上部が懸吊体553cに連結された棒体553bと、内周にネジが切られて棒体553bに螺合され、把持部551の上面に当接されたナット553aと、棒体553bとナット553aとを介して把持部551を吊り下げている懸吊体553cと、垂直方向に所定の幅を有するように穿孔されたスリット553eと、懸吊体553cの軸を成し、スリット553e内を上下動される軸体553dと、軸体553dの外周に切られたネジに螺合され、支持部材552の側面に圧接されることで、スリット553e内における軸体553dの位置を固定する固定体553fと、を有している。
【0077】
原料ガス噴出用ノズル501の原料ガス噴出部4の噴出口4aの垂直方向の位置を調節する場合、軸体553dに螺合している固定体553fを回転させることにより、固定体553fと支持部材552の側面との圧接状態を解除する。そして、懸吊体553cを上下動させることにより、把持部551の垂直方向の位置、即ち、原料ガス噴出用ノズル501の垂直方向の位置を調節する。このとき、懸吊体553cは、軸体553dがスリット553e内を上下動可能な範囲内で上下動可能である。懸吊体553cを上下動させた後、固定体553fを先ほどとは逆方向に回転させて、固定体553fを支持部材552の側面に圧接させることにより、スリット553e内における軸体553dの位置、即ち、把持部551の垂直方向の位置、言い換えれば、原料ガス噴出用ノズル501の原料ガス噴出部4の噴出口4aの垂直方向の位置を固定する。
【0078】
また、棒体553bに螺合しているナット553aを回転させることにより、把持部551の垂直方向の位置、即ち、原料ガス噴出用ノズル501の原料ガス噴出部4の噴出口4aの垂直方向の位置を微調整することが可能である。
【0079】
ボディ521は、その上方及び側方が開放されている。即ち、本実施形態の成膜装置510は、第1乃至第5実施形態の成膜装置10(図1参照)と異なり、直方体空間を有する成膜室20を備えていない。そのため、基板60は外部に露出されており、ボディ521の上面に直接接触しないように、サセプタ65上に載置されている。
【0080】
なお、原料ガス噴出用ノズル501は、原料ガス39のボディ521上への噴出方向が、基板60の平面に平行な方向に対して傾斜するように配置されていてもよい。また、基板60に対する原料ガス39の噴出方向を、基板60の平面に平行な方向と垂直な方向から傾斜させることができるように、原料ガス噴出用ノズル501を傾動させることが可能な構成にされていてもよい。
【0081】
その他の構成は、第1乃至第5実施形態の成膜装置10と同じであるので、その説明を省略する。
【0082】
(原料ガス噴出用ノズルの構成)
次に、第6実施形態による原料ガス噴出用ノズル501について説明する。第6実施形態による原料ガス噴出用ノズル501が、第1実施形態による原料ガス噴出用ノズル1と異なる点は、図10(a)に示すように、筐体2の長手方向の両側に、原料ガス供給口(ミスト供給口)503aを介して筐体2内に原料ガス39を供給する原料ガス供給管(ミスト供給管)503・503がそれぞれ設けられている点である。原料ガス供給管503・503は、原料ガス39が筐体2内で十分に流動するように、筐体2の上部にそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0083】
上記の構成において、原料ガス39が2つの原料ガス供給口503a・503aから筐体2内にそれぞれ供給されると、筐体2の長手方向の中央において、一方の原料ガス供給口503aから供給されたミストと、他方の原料ガス供給口503aから供給されたミストとが衝突して混合する。そして、両者の流速が互いに緩和され、ミストが筐体2内に拡散する。これにより、原料ガス39が筐体2内に供給された初期段階で、筐体2内のミストの濃度を均一にすることができる。また、ミストの拡散によって、筐体2内の圧力が成膜室20内の圧力よりも高くなるので、原料ガス排出口5から原料ガス39を安定して噴出させることができるようになる。
【0084】
その後、一部のミストは一方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達し、一部のミストは他方の湾曲面2aに沿って滑らかに流下して原料ガス排出口5の直上領域に到達する。そして、両者は、原料ガス排出口5の直上領域において互いに衝突して混合する。この衝突混合により、原料ガス排出口5の直上領域において、ミストに対流が生じるので、原料ガス排出口5の直上領域において、原料ガス排出口5の長手方向にわたってミストの濃度を好適に均一にすることができる。
【0085】
その他の構成は、第1実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
【0086】
(各実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0087】
例えば、第1実施形態において、図11に示すように、筐体2の湾曲面2aの湾曲を鉛直方向に深くして、湾曲面2aのくぼみに水滴11が溜まるようにしてもよい。他の実施形態についても同様である。
【0088】
また、上述の各実施形態において、基体として基板60を用いて説明したが、基体は板状の基板60に限定されず、例えば湾曲面を有するといったように、板状以外の形状のものであってよい。
【0089】
また、上述の各実施形態において、原料ガス噴出用ノズルの筐体は、鉛直方向の中心軸Aを含む長手方向の鉛直面、および、鉛直方向の中心軸Aを含む短手方向の鉛直面の各々に対して左右対称に形成されているが、これに限定されず、筐体が鉛直方向の中心軸Aを含む長手方向の鉛直面、及び/又は、鉛直方向の中心軸Aを含む短手方向の鉛直面に対して、左右対称に形成されていなくてもよい。
【0090】
また、上述の各実施形態においては、原料ガス噴出用ノズルの筐体の長手方向において、原料ガス排出口5の幅が、筐体の幅よりも短くされているが、これに限定されず、原料ガス排出口5の幅が、筐体の幅と同じであってもよい。
【0091】
また、上述の各実施形態においては、原料ガス噴出用ノズルの筐体の長手方向において、筐体の端部から原料ガス排出口5の端部までの距離Bが、20mm以上に設定されているが、これに限定されず、距離Bが20mm未満であってもよい。
【0092】
また、上述の各実施形態において、ラバーヒータ6が筐体2内の原料ガス39を加温する構成にされているが、エネルギー付与手段40が、予熱によって原料ガス噴出用ノズル内の原料ガス39を加温する構成にされていてもよい。この場合においても、加温温度は、ミストに起こる化学的気相成膜反応が最終過程まで終了せず、且つ、結露しない範囲の温度、例えば100℃前後である。このように、エネルギー付与手段40の予熱によって原料ガス噴出用ノズル内の原料ガス39を加温する構成であれば、加温用のラバーヒータ6を設ける必要がない。また、第1乃至第5実施形態の成膜装置10(図1参照)においては、ラバーヒータ6に代えて、加温用のヒータを支持台50に設けてもよい。また、原料ガス噴出用ノズル内の原料ガス39を加温しない構成であってもよい。
【0093】
また、上述の各実施形態においては、原料ガス排出口5から噴出されたミストを下方に導いて整流する原料ガス噴出部4を有しているが、原料ガス噴出部4を有していなくてもよい。この場合、原料ガス排出口5が噴出口4aとなる。
【0094】
また、上述の各実施形態において、ガイド体は、切妻屋根状のガイド体71や傘状のガイド体、複数の流出口92aを有するガイド体91に限定されず、ミストを筐体の壁面側にガイドし、ミストが筐体内を直進するのを抑制するようなものであればどのような形状であってもよい。
【0095】
また、第2実施形態において、切妻屋根状のガイド体71は、4つの懸吊部材73により筐体2内に吊り下げられている構成にされているが、筐体2内に固定されていてもよい。第6実施形態においても同様である。
【符号の説明】
【0096】
1,101,201,301,401,501 原料ガス噴出用ノズル(ミスト噴出用ノズル)
2,202,402 筐体
2a 湾曲面
2b,202b,402b 底面
2c 側面
3,503 原料ガス供給管(ミスト供給管)
3a,503a 原料ガス供給口(ミスト供給口)
4 原料ガス噴出部(ミスト噴出部)
4a 噴出口
5 原料ガス排出口(ミスト排出口)
6 ラバーヒータ(加温手段)
10,510 成膜装置
20 成膜室
21,521 ボディ
22 ガス排出口
30 原料ガス供給手段
39 原料ガス
40 エネルギー付与手段
50 支持台
53,553 位置調節機構
60 基板
65 サセプタ
71,81,91 ガイド体
550 支持機構
551 把持部
552 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料水溶液を霧化してなるミストが供給される中空横長形状の筐体と、
前記筐体の底面に設けられ、前記筐体内の前記ミストを噴出させるミスト排出口と、
を有し、
前記筐体は、短手方向の両側において、断面がR形状の湾曲面で前記ミスト排出口にそれぞれ接続されていることを特徴とするミスト噴出用ノズル。
【請求項2】
前記筐体内の前記ミストを、前記ミストに起こる化学的気相成膜反応が最終過程まで終了せず、且つ、前記ミストが結露しない範囲の温度に加温する加温手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載のミスト噴射用ノズル。
【請求項3】
前記筐体内に設けられ、前記筐体内に供給された前記ミストを前記筐体の壁面側にガイドするガイド体を更に有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のミスト噴出用ノズル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のミスト噴出用ノズルと、
表面に前記ミストが吹き付けられる基体と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記ミストが前記基体に到達する前と到達した後との少なくとも一方において、前記ミストの粒子にエネルギーを付与するエネルギー付与手段を更に有することを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
中空横長形状の筐体に供給された、原料水溶液を霧化してなるミストを、前記筐体の底面に設けられたミスト排出口から基体表面に噴出させることにより、前記基体表面に膜を生成する成膜方法であって、
前記筐体が、短手方向の両側において、前記ミスト排出口にそれぞれ接続されている、断面がR形状の湾曲面に沿って前記ミストをそれぞれ流下させ、前記ミスト排出口の直上領域において、両者を衝突させて混合させた後に、前記ミストを前記ミスト排出口から前記基体表面に噴出させて成膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
前記ミストが前記基体に到達する前と到達した後との少なくとも一方において、前記ミストの粒子にエネルギーを付与して成膜することを特徴とする請求項6に記載の成膜方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−110451(P2011−110451A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266429(P2009−266429)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(309037192)株式会社陶喜 (3)
【Fターム(参考)】