説明

ミックスモード型吸着剤

【課題】本発明は、疎水性相互作用による捕捉力と,イオン交換によるによる捕捉力が共に良好であり,試料溶液中の目的成分を効果的に捕捉し、放出することができる吸着剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、疎水性モノマー(A)と,二次反応が可能な親水性モノマー(B)と,水素結合性を示す親水性モノマー(C)とを共重合して得られる共重合体の,該親水性モノ
マー(B)から誘導された繰り返し単位上に,イオン交換基を導入してなる高分子化合物の
多孔質体を含む吸着剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の前処理及び目的成分の分離に用いる吸着剤およびその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料の前処理においては,固相カラムによる固相抽出法が,また分離においては,逆相カラムが広く普及している。従来のカラム吸着剤は,逆相分配,イオン交換,キレート捕捉等の単一モードの機構によるものが一般的である。逆相分配においては,疎水性相互作用によってのみ捕捉する為,疎水性部位とイオン性官能基を併せ持つ極性化合物には必ずしも有効でない。また,イオン交換においては,試料の目的成分を100%イオン化させて,吸着剤上のイオン成分との交換反応をさせ,成分の溶出時には,さらに交換反応を利用して,成分を溶出させる。このためイオン交換では,試料中の目的成分が100%イオン化する条件下で交換反応が行えず,目的の前処理ができないことがある。近年では,カラム吸着剤の疎水性樹脂に水素結合やイオン交換等の第2の相互作用を付加し,極性化合物の捕捉
能力を向上させている。
【0003】
一方,吸着剤粒子の細孔径は10nm以下が一般的で,生体,食品,加工食品等のような粘性が高い試料の場合は,吸着剤細孔内部への目的成分の拡散が悪く,効率のよい試料前処理が困難であると共に,固相抽出作業時に細孔部及び粒子間での目詰まりを起こし,迅速に前処理を行えないことがある。
【0004】
【特許文献1】特許公表2002-517574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
捕捉能力を向上させただけのカラム吸着剤は,試料中の目的成分を捕捉し,夾雑成分をできる限り洗浄した後に,目的成分を溶出させるために,強酸/有機溶媒や強塩基/有機溶媒を多量に必要とすることがある。更に,目的成分が溶出されない場合もある。
【0006】
夾雑物の洗浄においても,例えばポリスチレンゲルのような疎水性が高い吸着剤を用いる場合には,夾雑物と目的成分の疎水性が共に高いと夾雑物のみを洗浄することは困難であった。
【0007】
また,高疎水性官能基であるジビニルベンゼン (DVB) にイオン交換基が導入されてい
る場合には,疎水性のDVBの周辺は強い疎水性場となっているため,親水性 (イオン性)
官能基の働きは弱まる。そのため,疎水性とイオン交換との二足型捕捉による,高親水性(イオン性) 化合物の効果的な捕捉が困難である。
【0008】
本発明は、疎水性相互作用による捕捉力と,イオン交換によるによる捕捉力が共に良好であり,試料溶液中の目的成分を効果的に捕捉し、放出することができる吸着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の吸着剤は,疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合体を基材とする多孔質吸着剤において,疎水性モノマーの繰り返し単位ではなく親水性モノマーの繰り返し単位上にイオン交換官能基が導入されていることを第一の特徴とする。本発明は以下の発明を包含する。
(1) 疎水性モノマー(A)と,二次反応が可能な親水性モノマー(B)と,水素結合性を示す親水性モノマー(C)とを共重合して得られる共重合体の,該親水性モノマー(B)から誘導された繰り返し単位上に,イオン交換基を導入してなる高分子化合物の多孔質体を含む吸着剤。
(2) 疎水性モノマー(A)として芳香族ジビニル化合物をモノマー総量に対して50質量%以上含む,(1)の吸着剤。
【0010】
(3) 二次反応が可能な親水性モノマー(B)としてグリシジルメタクリレート,グリセリン
メタクリレート,3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート,2-ヒドロキシエチル
メタクリレートまたは2-クロロエチルメタクリレートをモノマー総量に対して20〜50質量%含む,(1)または(2)の吸着剤。
(4) 二次反応が可能な親水性モノマー(B)がグリシジルメタクリレートである,(3)の吸着剤。
【0011】
(5) 水素結合性を示す親水性モノマー(C)としてN,N-ジメチルアクリルアミド,N,N-ジエ
チルアクリルアミドまたはN-イソプロピルアクリルアミドをモノマー総量に対して5〜10
質量%含む,(1)〜(4)のいずれかの吸着剤。
(6) 多孔質体の平均細孔径が15〜50nmであり,比表面積が100〜500m2/gである,(1)〜(5)のいずれかの吸着剤。
【0012】
(7) 多孔質体が粒子形状を有し,平均粒子径が3〜100μmである,(1)〜(6)のいずれかの
吸着剤。
(8) イオン交換基が,イオン交換基量が0.3〜0.8ミリ当量となるように導入された四級アンモニウム基,イオン交換基量が0.7〜1.5ミリ当量となるように導入された二級アンモニウム基,またはイオン交換基量が0.7〜1.5ミリ当量となるように導入されたカルボキシル基である,(1)〜(7)のいずれかの吸着剤。
【0013】
(9) 疎水性モノマー(A)と,二次反応が可能な親水性モノマー(B)と,水素結合性を示す親水性モノマー(C)とを共重合して得られる共重合体の,該親水性モノマー(B)から誘導された繰り返し単位上に,イオン交換基を導入してなる高分子化合物の,平均細孔径が15〜50nmであり,比表面積が100〜500m2/gである多孔質体を含む吸着剤。
(10) (1)〜(9)のいずれかの吸着剤を充填容器に充填してなる固相抽出用カートリッジ。
(11) 目的成分の濃縮および/または夾雑物の除去に使用するための,(10)の固相抽出用
カートリッジ。
【0014】
(12) (10)または(11)の固相抽出用カートリッジを使用して固相抽出法またはカラムスイ
ッチング法を行うことを含む,試料溶液の処理方法。
(13) 目的成分を有する試料溶液の処理方法であって,目的成分を有する試料溶液と,(1)〜(9)のいずれかの吸着剤とを,該目的成分が該吸着剤に吸着される条件下において接触
させることにより,該目的成分を単離,分離,フラクション,クリーンナップ又は除去することを含む,前記方法。
【0015】
(14) 試料溶液の目的成分の量を分析手法により決定する方法であって,目的成分を有す
る試料溶液と,(1)〜(9)のいずれかの吸着剤とを,該目的成分が該吸着剤に吸着される条件下において接触させ,該目的成分が吸着された該吸着剤を,該吸着剤から該目的成分が放出されるような条件下において洗浄し,洗浄により生じた洗浄液中に存在する該目的成分の量を分析手法により決定することを含む,前記方法。
(15) (1)〜(9)のいずれかの吸着剤が充填容器に充填された固相抽出用カートリッジの形
態で使用される,(13)または(14)の方法。
【0016】
(16) 前記目的成分が,薬剤,農薬,除草剤,生体分子,毒物,汚染物質,代謝物,また
はこれらの分解生成物である,(13)〜(15)のいずれかの方法。
(17) 前記試料溶液が,血液,血漿,尿,髄液,滑液,組織抽出物,地下水,地上水,飲
料水,土壌抽出物,食糧物質,食糧物質の抽出物,植物の抽出物,または加工食品の抽出物である,(13)〜(16)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の吸着剤は,疎水性相互作用による捕捉力と,イオン交換によるによる捕捉力が共に良好であるため,試料溶液中の目的成分を効果的に捕捉することができる。
【0018】
また,本発明の吸着剤から目的成分を溶出させる際の溶出液量が少量で済む。このためHPLC及びLC/MSによって分析するために必要な目的成分の一斉濃縮,クリーンナップ,分
取といった試料溶液の前処理操作,あるいは試料溶液からの目的成分の分離を容易にかつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の吸着剤は、疎水性モノマー(A)と,二次反応が可能な親水性モノマー(B)と,水素結合性を示す親水性モノマー(C)とを共重合して得られる共重合体の,該親水性モノマ
ー(B)から誘導された繰り返し単位上に,イオン交換基を導入してなる高分子化合物の多
孔質体を含む、好ましくは当該多孔質体からなる、固相抽出用の吸着剤に関する。本発明の好ましい実施形態について以下に詳述する。
【0020】
1. 疎水性モノマー(A)
本発明において,疎水性モノマー(A)としては,共重合させる親水性モノマー(B)(C)と
共重合する疎水性モノマーであれば特に限定されないが,重合性二重結合,特に2個以上
のビニル基を有する芳香族化合物が好ましい。例えば,ジビニルベンゼン,ジビニルトルエン,ジビニルキシレン,ジビニルナフタレン,トリビニルナフタレンなどが挙げられる。これらの疎水性モノマー(A)と組み合わせて,スチレン等の他の疎水性モノマーが使用されても良い。
【0021】
2. 親水性モノマー(B)
本発明において,二次反応が可能な親水性モノマー(B)とは,疎水性モノマー(A)および親水性モノマー(C)と重合可能なモノマーであって,イオン交換基が導入されることが可
能な反応性の,共重合に関与しない官能基(例えばエポキシ基)を有し、親水性を付与することができるモノマーを指す。ここで「二次反応」とは、共重合後に更にイオン交換基を前記官能基上に導入する反応を指す。親水性モノマー(B)としては,特に限定されない
が,例えばグリシジルメタクリレート,グリセリンメタクリレート,3-クロロ-2-ヒドロ
キシプロピルメタクリレート,2-ヒドロキシエチルメタクリレート,2-クロロエチルメタクリレートが挙げられ,グリシジルメタクリレートが特に好ましい。
【0022】
3. 親水性モノマー(C)
水素結合性を示すことにより親水性モノマー(C)は,イオン交換基が導入された親水性
モノマー(B)に基づく親水性相互作用とは異なる相互作用を付与することを目的として共
重合される。親水性モノマー(C)としては,疎水性モノマー(A)および親水性モノマー(B)
と重合可能なモノマーであって,水素結合性を有する,共重合に関与しない官能基(例えばアルキル基置換アミド基)を備えたものであれば特に限定されないが,N,N-ジメチルアクリルアミド,N,N-ジエチルアクリルアミドまたはN-イソプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0023】
4.モノマーの配合
共重合体中では,モノマー総量に対して,疎水性モノマー(A)は50質量%以上含まれることが好ましく,75質量%以下含まれることが特に好ましく,二次反応が可能な親水性モノ
マー(B)は20〜50質量%含まれることが好ましく,水素結合性を示す親水性モノマー(C)は5〜10質量%含まれることが好ましい。
【0024】
更に,吸着剤の疎水性モノマー(A)/親水性モノマー(二次反応が可能な親水性モノマー (B)+水素結合性を示す親水性モノマー(C): (B)+(C))の比(質量比)は,1/1〜3/1が好ましく, 2/1〜3/1が更に好ましく,2/1が最も好ましい。
【0025】
5. 共重合体の製造
本発明の吸着剤は,はじめに上記のモノマー(A)〜(C)を共重合させて多孔質の重合体を形成し,次いで,親水性モノマー(B)から誘導された繰り返し単位上に,イオン交換基を
化学修飾によって導入することにより形成することができる。共重合体は例えば以下の手順で調製することができる。
【0026】
上記4で述べたような配合比によるモノマー混合物に,多孔性を付与する目的で希釈剤
を添加し重合を行うことが好ましい。希釈剤としては,モノマー混合物に溶解するが重合反応には不活性で,更に生成した共重合体を溶解しない性質の有機溶媒が使用可能である。例えば,トルエン,キシレン,エチルベンゼン,ジエチルベンゼンのような芳香族炭化水素類;ヘキサノール,ヘプタノール,オクタノールのようなアルコール類;クロロベンゼン,ジクロロベンゼンのような芳香族ハロゲン化炭化水素;酢酸エチル,酢酸ブチル,フタル酸ジメチル,フタル酸ジエチルのような脂肪族あるいは芳香族エステル類などが挙げられる。
【0027】
共重合体の多孔質粒子は,懸濁重合の方法によって製造することができる。使用する重合開始剤としては,ラジカルを発生する公知のラジカル重合開始剤であれば特に限定されることはなく,例えば,2,2’-アゾビスイソブチロニトリル,2,2’-アゾビス (2,4-ジメチルバレロニトリル) のようなアゾ系開始剤が使用可能である。
【0028】
重合反応は,適当な分散安定剤を含んだ水性媒体中で攪拌して希釈剤及び重合開始剤を含むモノマー溶媒を懸濁させて重合させる懸濁重合の方法を適用することができる。分散安定剤としては,公知のものを使用することができ,例えば,ゼラチン,ポリアクリル酸ナトリウム,ポリビニルアルコール,メチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシメルセルロースなどの水溶性高分子化合物が挙げられる。
【0029】
重合反応では,水性媒体中へのモノマーの溶解を抑制する目的で,水性媒体中に塩類を溶解して反応させることが好ましい。塩類として,例えば,塩化ナトリウム,塩化カルシウム,硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
重合反応は,攪拌下で,40〜100℃に加熱し,大気圧下で4〜10時間反応させることにより行うことが好ましい。
【0031】
反応後の共重合体粒子の分離は濾過等によって容易にでき,十分な水洗後,アセトン,メタノールのような溶媒で希釈剤を除去し,乾燥させる。
【0032】
このようにして得られた共重合体の多孔質粒子は,典型的には,平均細孔径が15〜50nmであって,好ましくは20〜40nmであり,比表面積が100〜500m2/gであって,好ましくは200〜300m2/gである。本発明の吸着剤は従来の吸着剤と比較して大きな細孔径を有しているため,生体,食品,加工食品等から調製される高粘性な試料溶液にも適用することができる。
【0033】
共重合体の多孔質粒子の粒子径は限定されるものではなく,使用目的に応じて分級して使用できる。
【0034】
6. イオン交換基の導入
本発明の吸着剤は,疎水性モノマー(A)と,親水性モノマー(B)と,親水性モノマー(C)
との共重合体(典型的には該共重合体の多孔質粒子)に,イオン交換基(R1)を付与できる化合物を作用させることにより調製することができる。
【0035】
親水性モノマー(B)から誘導された繰り返し単位の全てにイオン交換基が導入される必
要はない。最終的な高分子化合物が所望の吸着性能を有する限り、該繰り返し単位のうち少なくとも一部の繰り返し単位にイオン交換基が導入されていていればよい。イオン交換基が導入されない親水性モノマー(B)上の反応性基は、イオン交換基を導入する工程また
はその後の工程において水酸基等の親水性基への変換を受けることが好ましい。
【0036】
イオン交換基(R1)は親水性モノマー(B)上に以下のように共有結合を介して導入され得
る。
【0037】
【化1】

【0038】
ここで上記の各構造の左端部分は,親水性モノマー(B)がメタクリレート化合物である
場合には,カルボニルに結合してエステルを形成していることが好ましい。
【0039】
導入されるイオン交換基としては,四級アンモニウム基,二級アンモニウム基及びカルボキシル基が好ましい。
【0040】
四級アンモニウム基は,二次反応が可能な親水性モノマー(B)のエポキシ基あるいはク
ロロ基に三級アミンを反応させることにより得ることができる。三級アミンとしては,トリメチルアミン,トリエチルアミン,N,N-ジメチルエチルアミン,N,N-ジメチルエタノールアミン,N-メチルジエタノールアミン,N,N-ジメチルイソプロパノールアミン等が使用できる。四級アンモニウム基の導入量は,グラム当たり0.3〜0.8ミリ当量であり,好ましくは約0.5ミリ当量である。
【0041】
二級アンモニウム基は,二次反応が可能な親水性モノマー(B)のエポキシ基あるいはク
ロロ基に一級アミンを反応させることにより得ることができる。一級アミンとしては,メチルアミン,エチルアミン,プロピルアミン,ブチルアミン等の脂肪族アミンの他,エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ジエチレントリアミン等のポリアミン類も使用できる。二級アンモニウム基の導入量は,0.7〜1.5ミリ当量であり,好ましくは約1.0ミリ当
量である。
【0042】
陽イオン交換基となるカルボキシル基は,二次反応が可能な親水性モノマー(B)の水酸
基あるいはエポキシ基を開環させた後の水酸基にアルカリ条件下でモノクロロ酢酸を反応させることにより導入することができる。また,二次反応が可能な親水性モノマー (B)
のエポキシ基に酸無水物を反応させることによっても導入することができる。酸無水物としては,コハク酸無水物,マロン酸無水物等の脂肪族多塩基酸無水物,トリメリット酸無水物,ピロメリット酸無水物等の芳香族多塩基酸無水物を使用することができる。カルボキシル基の導入量は,0.7〜1.5ミリ当量であり,好ましくは約0.9ミリ当量ある。
【0043】
7. 用途
本発明の吸着剤は,カラム,カートリッジ,リザーバ等の充填容器に充填して,固相抽出用カートリッジとして使用することができる。固相抽出用カートリッジは,目的成分の濃縮および/または夾雑物の除去に使用するのに特に適している。
【0044】
本発明の吸着剤を使用することにより,生体,食品,加工食品等のような複雑な夾雑成分 (タンパク質,非極性物質である脂肪分,アミノ酸等) を含む高い粘性を示すような試料溶液からでも,目的成分 (極性化合物である薬物) のみをミックスモードにより捕捉精製することが可能となる。また,目的成分の溶出時の溶出液量が少量ですむため,HPLC及びLC/MSによって分析するために必要な目的成分の一斉濃縮・クリーンナップ・分取とい
った前処理操作あるいは分離を容易にかつ迅速に行うことができる。
【0045】
具体的には,本発明の吸着剤を,目的成分を有する試料溶液と,目的成分が吸着剤に吸着される条件下において接触させることにより,目的成分を単離,分離,フラクション,クリーンナップ又は除去することができる。
【0046】
また,本発明の吸着剤を,目的成分を有する試料溶液と,目的成分が吸着剤に吸着される条件下において接触させ,吸着された目的成分を洗浄により放出させ,次いで洗浄液中に放出された目的成分を分析することにより,試料溶液中の目的成分を定量することができる。
【実施例1】
【0047】
(イオン交換基を導入するための基材樹脂の合成)
メタクリル酸グリシジル (和光試薬1級) 600g,N,N-ジメチルアクリルアミド (和光試
薬特級) 100g及びジビニルベンゼン (新日鐵化学,純度57%) 1,300gを計り取り,イソア
ミルアルコール (和光試薬特級) 1,200g及び酢酸n-ブチル (和光試薬1級) 800gを計り取
り,これらを攪拌混合する。混合溶液に,2,2’-アゾビス (イソブチロニトリル) (和光
試薬特級) 20gを加え,攪拌して溶解させる。イオン交換水15Lに,メチルセルロース (25cP) 15gを溶解し,分散溶液とする。これら2種類の溶液を反応容器に入れ,攪拌羽根で攪拌して目的の粒子径に分散した後,80℃に保温しながら,6時間重合反応を続ける。重合反応終了後,生成した共重合体粒子をろ紙により濾別した後,イオン交換水,メタノールの順で洗浄後,乾燥させた。得られた共重合体粒子を振動ふるい機にて45〜90μmに分級し,イオン交換基を導入する基材樹脂とした。また,参照として,得られた基材樹脂のグリシジル基を希硫酸で開環してジオール型とした樹脂 (EX1) も合成した。
【0048】
(四級アンモニウム基の導入:EX1-SAXの合成)
イオン交換基を導入する基材樹脂50gを攪拌装置の付いた500mLのフラスコにいれ,20%
イソプロピルアルコール水溶液200mL,N,N-ジメチルエタノールアミン100gを加え,攪拌
しながら40℃で20時間反応させた。反応後,ろ紙で濾別し,イオン交換水で十分に洗浄を行い,次いでメタノールに置換後,乾燥させた。得られた四級アンモニウム基導入粒子を
逆滴定法によりイオン交換容量を測定した結果,0.51ミリ当量/gであった。
【0049】
(二級アンモニウム基の導入:EX1-WAXの合成)
N,N-ジメチルエタノールアミンをエチレンジアミンに変更した以外は,上記四級アンモニウム基の導入と全く同じ方法で二級アンモニウム基を導入した。得られた二級アンモニウム基導入粒子を逆滴定法によりイオン交換容量を測定した結果,0.95ミリ当量/gであった。
【0050】
(カルボキシル基の導入:EX1-WCXの合成)
イオン交換基を導入する吸着剤粒子50gを攪拌装置の付いた500mLのフラスコにいれ,トリメリット酸無水物60g,ジメチルホルムアミド300mLを加え,攪拌しながら60℃で20時間反応させた。反応後,ろ紙で濾別し,ジメチルホルムアミド,イオン交換水の順で十分に洗浄し,次いでメタノールに置換後,乾燥させた。得られたカルボキシル基導入粒子を逆滴定法によりイオン交換容量を測定した結果,0.87ミリ当量/gであった。
【0051】
(イオン交換基導入後の吸着剤の性能)
実施例1によりイオン交換基が導入された吸着剤,グリシジル基を開環してジオール型
とした吸着剤,及び参照となる既存品吸着剤 (Waters, OASIS WAX及びWCX) の基本物性を表1示した。
【0052】
また式(1)〜(3)として,実施例1により得られた3種類のイオン交換基導入吸着剤の基本化学構造を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【化2】

【実施例2】
【0055】
(イオン交換樹脂導入の効果)
実施例1により得られたそれぞれの樹脂を4.6Φx150mmのHPLC用ステンレスカラム中にスラリー充填した。種々の酸性及び塩基性モデル化合物を試料として用いて,疎水性的保持及びイオン交換相互作用の効果に関して,イオン交換基が導入されていない吸着剤 (EX1)との比較を行った。モデル化合物には,イブプロフェン,ケトプロフェン,アルプレノロール,キニジンを選択した。これらのモデル化合物の構造を以下に示す。
【0056】
【化3】

【0057】
移動相は10mMリン酸緩衝液/MeOH/NaCl=30/60/10から構成し,pHは5とした。流量は2.0mL/分,温度は30℃,注入量は50μLで行った。各化合物は別々に注入し,検出はモデル化合物の検出に適した紫外線吸収波長を用いて行った。
【0058】
表2に,イオン交換基を導入した吸着剤と,イオン交換基が導入されていない吸着剤 (EX1) とのモデル化合物の保持時間の比較を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
酸性化合物であって陰イオン交換反応が作用するイブプロフェン,ケトプロフェンは,EX1吸着剤よりもWAX,SAXが付加された吸着剤において,保持時間が長かった。これは,
陰イオン交換相互作用が付加的に作用していることを示す。この保持時間の増加は,疎水性相互作用と陰イオン交換相互作用の二足捕捉によるものであることが明確に判明した。
【0061】
また,塩基性化合物であって陽イオン交換反応が作用するアルプレノロール,キニジンは,EX1吸着剤よりもWCXが付加された吸着剤において,保持時間が長かった。これは陽イオン交換相互作用が付加的に作用していることが示され,疎水性相互作用と陽イオン交換相互作用の二足捕捉によるものであることが明確に判明した。
【実施例3】
【0062】
(イオン交換基導入吸着剤におけるモデル化合物の捕捉後溶出量の効果)
実施例2と同様の方法を用いて,移動相pHを7として既存吸着剤との保持特性比較を行った。溶出液量値は,モデル化合物が吸着剤に保持されることで得られるクロマトグラムのピークから算出し,モデル化合物が溶出し終わった点,即ちベースラインと同じになる時間 (min) に流速 (2mL/min) を乗じて求めた。
【0063】
EX1-WAX (陰イオン交換) 吸着剤を用いた場合は,酸性化合物であって陰イオン交換反
応が作用するイブプロフェン,ケトプロフェンを溶出するための溶離液移動相の量は,既存品WAXよりも少ないことが表3に示された。
【0064】
EX1-WCX (陽イオン交換) 吸着剤を用いた場合は,塩基性化合物であって陽イオン交換
反応が作用するアルプレノロール,キニジンを溶出するための溶離液移動相の量は,既存品WCXよりも少ないことが表3に示された。
【0065】
本発明による吸着剤は既存品イオン交換吸着剤よりも溶出液量が少量ですむため,目的成分の一斉濃縮,クリーンナップおよび分取が迅速かつ容易で効果的であることが判明した。
【0066】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性モノマー(A)と,二次反応が可能な親水性モノマー(B)と,水素結合性を示す親水性モノマー(C)とを共重合して得られる共重合体の,該親水性モノマー(B)から誘導された繰り返し単位上に,イオン交換基を導入してなる高分子化合物の多孔質体を含む吸着剤。
【請求項2】
疎水性モノマー(A)として芳香族ジビニル化合物をモノマー総量に対して50質量%以上含む,請求項1の吸着剤。
【請求項3】
二次反応が可能な親水性モノマー(B)としてグリシジルメタクリレート,グリセリンメ
タクリレート,3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート,2-ヒドロキシエチルメ
タクリレートまたは2-クロロエチルメタクリレートをモノマー総量に対して20〜50質量%
含む,請求項1または2の吸着剤。
【請求項4】
二次反応が可能な親水性モノマー(B)がグリシジルメタクリレートである,請求項3の吸着剤。
【請求項5】
水素結合性を示す親水性モノマー(C)としてN,N-ジメチルアクリルアミド,N,N-ジエチ
ルアクリルアミドまたはN-イソプロピルアクリルアミドをモノマー総量に対して5〜10質
量%含む,請求項1〜4のいずれかの吸着剤。
【請求項6】
多孔質体の平均細孔径が15〜50nmであり,比表面積が100〜500m2/gである,請求項1〜5のいずれかの吸着剤。
【請求項7】
多孔質体が粒子形状を有し,平均粒子径が3〜100μmである,請求項1〜6のいずれかの
吸着剤。
【請求項8】
イオン交換基が,イオン交換基量が0.3〜0.8ミリ当量となるように導入された四級アンモニウム基,イオン交換基量が0.7〜1.5ミリ当量となるように導入された二級アンモニウム基,またはイオン交換基量が0.7〜1.5ミリ当量となるように導入されたカルボキシル基である,請求項1〜7のいずれかの吸着剤。
【請求項9】
疎水性モノマー(A)と,二次反応が可能な親水性モノマー(B)と,水素結合性を示す親水性モノマー(C)とを共重合して得られる共重合体の,該親水性モノマー(B)から誘導された繰り返し単位上に,イオン交換基を導入してなる高分子化合物の,平均細孔径が15〜50nmであり,比表面積が100〜500m2/gである多孔質体を含む吸着剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかの吸着剤を充填容器に充填してなる固相抽出用カートリッジ。
【請求項11】
目的成分の濃縮および/または夾雑物の除去に使用するための,請求項10の固相抽出用カートリッジ。
【請求項12】
請求項10または11の固相抽出用カートリッジを使用して固相抽出法またはカラムスイッチング法を行うことを含む,試料溶液の処理方法。
【請求項13】
目的成分を有する試料溶液の処理方法であって,目的成分を有する試料溶液と,請求項1〜9のいずれかの吸着剤とを,該目的成分が該吸着剤に吸着される条件下において接触させることにより,該目的成分を単離,分離,フラクション,クリーンナップ又は除去することを含む,前記方法。
【請求項14】
試料溶液の目的成分の量を分析手法により決定する方法であって,目的成分を有する試料溶液と,請求項1〜9のいずれかの吸着剤とを,該目的成分が該吸着剤に吸着される条件下において接触させ,該目的成分が吸着された該吸着剤を,該吸着剤から該目的成分が放出されるような条件下において洗浄し,洗浄により生じた洗浄液中に存在する該目的成分の量を分析手法により決定することを含む,前記方法。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかの吸着剤が充填容器に充填された固相抽出用カートリッジの形態で使用される,請求項13または14の方法。
【請求項16】
前記目的成分が,薬剤,農薬,除草剤,生体分子,毒物,汚染物質,代謝物,またはこれらの分解生成物である,請求項13〜15のいずれかの方法。
【請求項17】
前記試料溶液が,血液,血漿,尿,髄液,滑液,組織抽出物,地下水,地上水,飲料水,土壌抽出物,食糧物質,食糧物質の抽出物,植物の抽出物,または加工食品の抽出物である,請求項13〜16のいずれかの方法。

【公開番号】特開2010−137207(P2010−137207A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318893(P2008−318893)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】