ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤をベースとする医薬物質
本発明は、薬剤学及び医学の分野に関し、詳細には、ミトコンドリアアドレス型化合物をベースとする医薬物質の製造及び使用に関する。本発明は、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の合成、精製及び貯蔵方法を開示し、前記方法は、医薬製剤の活性成分−医薬物質に対する要求を満たす形態及び品質での、前記医薬物質の製造を可能にする。本発明はまた、特定の性質を有する新規ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の設計方法及び選択方法を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤学及び医学の分野に関し、詳細には、ミトコンドリアアドレス型(mitochondria-addressed)化合物をベースとする医薬物質の製造及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
今日までに発表された資料は、「スクラチェフ(Skulachev)イオン」(この用語は、Green D.E.によって作られた("The electromechanochemical model for energy coupling in mitochondria"、1974, Biochem. Biophys. Acta.、346:27〜78))に基づいて、新種の生物活性物質−ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤(MAA)の医薬としての展望が良好であることを実証している(Skulachev V.P.(2005)、IUBMB Life.、57:305〜10;Skulachev V.P.(2007) Biochemistry(Mosc).、72:1385〜96;Antonenko Yu.N.ら(2008)、Biochemistry(Mosc).、73:1273〜87, Skulachev V.P.ら、(2009),Biochim Biophys Acta.、1787:437〜61,Smith R.A.ら、(2008),Ann. N. Y. Acad. Sci.,1147:105〜11を参照;及びWO2007046729、WO2009005386、US6331532、EP1047701、EP1534720を参照のこと)。
【0003】
前記文献は、実験室条件下における−インビトロ又は動物モデルでのMAAの研究の結果を開示している。しかし、活性医薬成分(いわゆる医薬物質)としてとして任意の化合物を使用するためには、化合物は、以下のようないくつかの要件を満たさなければならない:
1.対応文献、薬局方モノグラフに要約されている国家規制要件(national regulators requirements)の完全順守。主要要件は、確実性、不純物含有量、重金属含有量、含水量、残留有機溶媒含有量、無菌性、化合物の定量的測定方法、包装、ラベル表示及び輸送の方法である。
2.規制文書に列挙された化合物の特性及び医薬活性は、想定される保存寿命(shelf storage time)中は想定限度内にとどまらなければならない。
【0004】
不純物総含有量及び単一不純物含有量には、特に目を向ける必要がある。特に、個々の同定及び十分な特性決定が不可能な単一の不純物が、不純物総含有量の大きい割合を占めてはならない(ほとんどの場合、1%未満でなければならない)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医薬物質としてのMAAの実際的応用の別の重大な問題は、MAAに関連する発明の記載(前記を参照)に、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤とし本出願で特許請求される多数の化合物が既に開示されているという事実である。しかし、臨床試験を含む実験の結果(例えば、Antonenko Yu.N.ら(2008)、Biochemistry(Mosc).、73:1273〜87を参照のこと)は、開示されたミトコンドリアアドレス型化合物が異なる(場合によっては正反対でさえある)生物活性を有することを示している。この観点から、化合物の特定用途に適した、詳細に明らかにされた所定の性質を有する生物活性物質を設計する方法の開発が、依然として急務である。また、スクラチェフイオンに基づいて、性質及び生物活性(第一に臨床活性)を予測することが急務である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】キサンチンオキシダーゼとキサンチンとの反応によって形成された酸素によって酸化される一般式(I)の化合物の能力を示すグラフである。
【図1B】キサンチンオキシダーゼとキサンチンとの反応によって形成されたスーパーオキシドによって酸化される一般式(I)の化合物の能力を示すグラフである。
【図2】二重層膜を通過し、膜電位を生じる構造(I)の化合物の能力の比較を示すグラフである。比較のために、理想的な貫通を示すモノカチオンの推定値(ネルンストの式による)を黒線で示してある。
【図3A】グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いた、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験を示すグラフである。グラミシジンチャネルの損傷は、フタロシアニン光増感剤の光活性化によって刺激した。
【図3B】グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いた、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験を示すグラフである。グラミシジンチャネルの損傷は、FeSO4、アスコルビン酸塩及びtert−ブチルヒドロペルオキシド(B)の混合物の光活性化によって刺激した。
【図4A】TPP+電極を用いて測定された、ミトコンドリアへのSkQ1の蓄積を示すグラフである。
【図4B】TPP+電極を用いて測定された、ミトコンドリアへのSkQ5の蓄積を示すグラフである。
【図5A】ミトコンドリアがSkQ1を還元又は酸化する能力が、呼吸鎖成分の活性に依存することを示すグラフである。
【図5B】ミトコンドリアがSkQ1を還元又は酸化する能力が、呼吸鎖成分の活性に依存することを示すグラフである。
【図6】硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとの混合物によって引き起こされる酸化的ストレスの条件下で、SkQ1がミトコンドリアを保護することを示すグラフである。
【図7】SkQ1及びMitoQが、H2O2(300μM)によって誘発される死から細胞を保護することを示すグラフである。細胞をSkQ1及びMitoQと共に7日間インキュベートし、次いで実験のために播種した。
【図8A】HeLa細胞とSkQR1との短時間プレインキュベーション(2時間)が、H2O2(300μM)によって誘発される細胞の酸化的ストレスのレベルを低下させることを示すグラフである。低レベルの酸化的ストレスを有する細胞数の評価の基準となる細胞蛍光測定データ。評価は7つの実験に基づいて行った。図表上の低DCF−DA蛍光の領域に位置する対照細胞群(細胞集団の50%)に関してデータを評価し、この細胞群を100%とみなし、各作用の指標をこの群に対して評価した。
【図8B】HeLa細胞とSkQR1との短時間プレインキュベーション(2時間)が、H2O2(300μM)によって誘発される細胞の酸化的ストレスのレベルを低下させることを示すグラフである。低レベルの酸化的ストレスを有する細胞数の評価。評価は7つの実験に基づいて行った。図表上の低DCF−DA蛍光の領域に位置する対照細胞群(細胞集団の50%)に関してデータを評価し、この細胞群を100%とみなし、各作用の指標をこの群に対して評価した。
【図9】SkQ1(20nM)による7日間の細胞の処理が、H2O2(300μM)によって誘発される酸化的ストレスからHela細胞を保護することを示すグラフである。
【図10A】過酸化水素(100μM)の存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PsoxSにおける発光誘発を示すグラフである。
【図10B】パラコート(100μM)の存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PsoxSにおける発光誘発を示すグラフである。
【図11】SkQ1(10μM)の存在下での過酸化水素(500μM)及びパラコート(100μM)によるsoxSプロモーターの誘導を示すグラフである。
【図12】キノン型及びキノール型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の平衡を示す式である(Rは、親油性イオン(「スクラチェフイオン」)に接続されているリンカー基である)。
【図13】ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤PDTPの改良された合成法のスキームである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
医薬物質−医薬製剤の成分として用いるために製造され且つ薬局方の要件を満たす物質。
スクラチェフイオン−ミトコンドリア膜を貫通できる親油性カチオン及びアニオン。
ミトコンドリアアドレス型(mitochondria-addressed)抗酸化剤(MAA)−ミトコンドリアを標的として(targetedly)ミトコンドリア中に蓄積でき且つ抗酸化活性を有することができる化合物。
【0008】
本発明の態様を以下に示す:
I.本発明は、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤(MAA)をベースとする医薬物質の製造、関連臨床課題に最も良く対応する特異的なMAAの設計及び選択を対象とする。詳細には、本発明は、抗酸化剤がリンカー基を介して親油性カチオン(「スクラチェフイオン」)に結合されているMAA化合物に関する。これらのMAAは、下記一般式(I)によって表すことができる:
一般式(I):化合物の構造
【0009】
【化1】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達(targeted delivery)を可能にする標的化基(targeting group)である]。
【0010】
前記式において、
Aは、一般式(II)
【0011】
【化2】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【0012】
【化3】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lは、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bは、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基である。
【0013】
c)更に、Bの成分としてのSk+は、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【0014】
【化4】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよい。残りの置換基R1、R2、R3又はR4は、化合物の必要な性質に従って、特に分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+は、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指す。
【0015】
一般式(I)のMAAに属する生物活性化合物の構造の例を、下記スキームに示す。
【0016】
SkQ1(プラストキノニル−デシル−トリフェニルホスホニウム(PDTP)ブロミド)
【0017】
【化5】
【0018】
場合によっては、本発明の一実施形態において、エフェクター部分Aとして酸化促進剤、特に、下記構造:
【0019】
【化6】
によって表されるデスメトキシユビキノン又はイオノールを用いている式(I)の化合物を使用することが望ましい。
【0020】
式(I)の対応する化合物は、ミトコンドリアアドレス型酸化促進剤となる。
【0021】
II.選択のための方法及びアプローチ
本発明の別の態様は、特異的なミトコンドリアアドレス型化合物の設計及び/又は選択方法である。
【0022】
II.a 新規ミトコンドリア抗酸化剤の設計方法
前記化合物の化学的、物理化学的及び生物学的性質の研究により、化合物(I)の種類に属する化合物の設計のための新しいアプローチを提示することが可能になった。提示したモデルを用いれば、所定の性質を有する新規ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の構造を設計することが可能である。
【0023】
提示した、本発明の化合物の設計モデルを一般的に表す化合物の設計スキームを、下記スキームに示す:
新規ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の設計モデルのスキーム
【0024】
【化7】
[式中、P1は、化合物の安定性及び生物活性を担う位置である]。
この炭素原子が置換基を有さない場合には、このような物質は、抗酸化剤としては最大限に効果的であるが、比較的不安定である。その1つの例が、MitoQよりも10倍強力な抗酸化剤であるSkQ1である。しかし、MitoQのP1位にメチル基が存在すると、SkQ1に比較して安定となる。リンカー「Link」の組成も、物質の安定性に影響を及ぼす可能性がある。例えば、物質の安定性は、エステル結合、ペプチド結合、スルフィド基又は他の反応性基を「Link」に導入することによって変化させることができる。
【0025】
P2位及びP3位は、ミトコンドリア呼吸鎖との相互作用の調節に関与する。これらの炭素原子の一方が置換基を有さない場合には、このような物質はミトコンドリア呼吸鎖によって還元できず、このため、化合物は酸化促進剤に転化される。この位置の置換基の一方又は両方の構造により呼吸鎖が対応化合物を還元及び/又は酸化できない場合にも、同じ効果を達成できる。
【0026】
同じP2位及びP3位の置換基は、化合物の酸化促進性と抗酸化性との比に影響を及ぼすことができる。P2位及びP3位に酸素原子が存在する場合には、還元又は部分還元(キノール又はセミキノン)型の抗酸化剤中のキノールのOH基の水素原子との内部水素結合を形成できる。このような水素結合は、P2及びP3位に酸素原子が存在しない(例えば、メチル基が存在する)化合物と比較して、物質の抗酸化性を大幅に減少させる遊離基及び反応性酸素種との反応においてOH基の酸化を妨げることができる。これによって、SkQ1及びMitoQにおけるこれらの性質の違いを説明できる。
【0027】
P4は、生物活性物質の貫通能に関与する位置である。ミトコンドリア中への貫通能は、化合物の電荷及び疎水性に依存する。例えば、人工膜での実験は、P4位にトリフェニルホスホニウムを有する化合物は、P4位により疎水性のカチオン−ローダミンG部分が存在する物質よりも貫通能が低いことを示している。
【0028】
「Link」は、化合物の性質に劇的な影響を及ぼすこともできる構造要素である。リンカー「Link」の長さ及び組成は、化合物の貫通能に影響を及ぼすことができる(図2)。リンカーの長さの減少及びリンカーの疎水性の増加は、化合物の貫通能を低下させる。また、リンカー「Link」の組成を修飾すると、化合物の安定性を変化させることができる。エステル結合、ペプチド結合、C−C結合より安定でない他の結合をリンカーに導入すると、化合物は、エステラーゼ、ペプチダーゼなどの細胞性酵素の攻撃を受けやすくなることができる。また、この要素の長さを変化させると、化合物とミトコンドリア呼吸鎖との相互作用の可能性を決定する重要な因子である二重層膜内の分子の疎水性部分(抗酸化性部分)の位置を変化させることができる。
【0029】
したがって、本発明の一態様は、予測される生物活性を有するミトコンドリアアドレス型化合物の構造(設計)を作成する方法に関する。生物活性は、ミトコンドリアに対する抗酸化効果、酸化促進効果、脱共役効果、生体膜の性質の変化、種々のメッセンジャーによる種々のレベルでの調節効果(遺伝子発現の調節、タンパク質活性の調節、生体のホルモンプロフィールの調節など)を含む、生体系及び生体系のモデル(例えば、人工的な無細胞系、細胞成分分画及び細胞内小器官、細胞、組織及び器官の部位又は全生物)に対する影響と定義する。
【0030】
II.b コンビナトリアルライブラリーを用いる化合物の設計方法
本発明の別の態様は、ミトコンドリアアドレス型化合物のコンビナトリアルライブラリー及びこのライブラリーから有望な化合物を探索及び選択する方法に関する。前記ライブラリーは、実際にミトコンドリアを標的としてミトコンドリア中に蓄積できる一般式(I)の化合物のセットである。ライブラリーのための化合物は、例えば、「活性化」残基、例えば、化合物の可変部分の結合を行うハロゲンを有する、リンカーに接続されている親油性カチオンである一般的部分(リンカーの部分)に基づいて合成できる。すなわち、ミトコンドリアアドレス型化合物のライブラリーは、非アドレス型低分子量化合物をライブラリーの親油性カチオンに結合させることによって得ることができる。
【0031】
II.c 本発明の別の態様は、所望の活性を有する化合物を選択するためにライブラリーの化合物の生物活性を試験する方法(この方法は自動化又は半自動化されている場合を含む)である。前記方法は、下記ステップ:
1)前記ライブラリーからの候補物質の群の選択を可能にする試験ステップと、
2)選択された物質及びもしあればそれらの修飾形態(modification)に基づくコンビナトリアルサブライブラリーの構築ステップと、
3)最も明白な、望ましい生物活性を有する化合物を選択するためのサブライブラリーの試験ステップと、
4)化合物の可能な全ての変種(variant)が試されるか又は望ましい生物活性が得られるまで、ステップ1〜3を繰り返すステップと
を含む。
【0032】
人為的結果の確率を著しく低減できる、ステップ1及び3における生物活性を試験するためのいくつかの方法の組み合わせが最も有効であることに留意すべきである。生化学、生物物理学、生体エネルギー学、微生物学、分子生物学、細胞生物学の分野又は近代生物学の他の分野の適格な専門家にならば、公的に入手可能な文献データに基づいて、本発明の説明中に記載したコンビナトリアルライブラリー及び方法を用いた作業方法に、具体的な試験方法を適合させることができる(「試験方法」、「結果の解釈方法」、「実験例」のセクションを参照のこと)。該当するセクションに示す実験例は、「個々の試験管中における」ミトコンドリアアドレス型化合物の活性の試験方法であり、生産性の高い方法によって標準的なアプローチを用いてコンビナトリアルライブラリーの試験に容易に適合させることができる。
【0033】
III.試験方法
本発明の別の態様は、一般式(I)の新規ミトコンドリアアドレス型化合物の生物活性を試験するのに使用する一連の試験方法である。この試験化合物は、個別にも、コンビナトリアルライブラリーの一部としても研究できる。前記の一連の試験方法は以下の方法を含む:
1)一般式(I)の化合物の酸化還元特性及び安定性のインビトロ試験、
2)人工黒膜に対するミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能の試験、
3)グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いる、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験、
4)単離したミトコンドリアに対するミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化効果又は酸化促進効果の試験、
5)動物、植物、細菌又は酵母細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化作用又は酸化促進作用の試験、
6)細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗アポトーシス活性若しくは抗壊死活性又はアポトーシス促進活性若しくは壊死促進活性の試験、
7)細胞内へのミトコンドリアアドレス型化合物の蓄積の試験、
8)ミトコンドリアアドレス型化合物の特異活性の試験(前記特異活性は、いくつかの代謝経路を活性化又は抑制し、次にそれが、転写レベルでのいくつかの遺伝子の活性化の形で、リン酸化又は脱リン酸化、タンパク質分解、グリコシル化、カルボニル化及びタンパク質又はタンパク質複合体の活性を変化させる他の方法を含むタンパク質修飾のレベルでのmRNA安定性又は翻訳の形で現れることができ;代謝経路の活性化又は阻害はまた、細胞の他の生理的パラメーターの変化、例えば、呼吸数の変化、いくつかの代謝産物の産生速度の変化、いくつかの基質の消費速度の変化、外膜に対する、ミトコンドリア膜若しくは他の小器官の膜に対する膜電位の変化、1種若しくは複数の膜のイオン電導度の変化、細胞質若しくは他の細胞コンパートメント中のpH変化を含むいくつかのイオンの濃度変化、生体分子、小胞及び小器官の細胞内輸送の変化、細胞周期中の変化、細胞分裂、細胞形質転換、細胞死又は逆にそれらの存続(survival)をもたらす変化の形で現れることもできる)、
9)動物又は植物における一般式(I)の化合物の生物活性のインビボ試験(前記試験は、試験コンビナトリアルライブラリーを最初に試験するステップでは適用できず、限定された数の化合物の研究にのみ適用できる)。
【0034】
したがって、本発明の態様は、一般式(I)の新規化合物の性質を研究するために適用する、例えば、前記化合物の展望を予想するための、前記の各試験である。前記展望は、医学、バイオテクノロジー、化粧品学における前記化合物の実用的用途の展望と定義する。
【0035】
IV.結果の解釈方法
本発明の別の態様は、医学、バイオテクノロジー、化粧品学における候補化合物の実用的用途の展望を予想し且つ最も有望な化合物を選択するための、一般式(I)の化合物の試験中に得られる結果の解釈方法である。
【0036】
前記方法の主要素は、候補化合物の試験結果を、「実験例」のセクションに記載した化合物SkQ1の試験結果と比較することである。したがって、SkQ1はかなり有効な生物活性化合物であって、医薬、バイオテクノロジー、化粧品学において適用できる(PCT/RU2006/000394、PCT/RU2006/000546、PCT/RU2006/000547及びSkQ1に関する他の公表文献を参照のこと)ので、SkQ1に関するデータを、起点、定点、一般式(I)の他の化合物の有効性を予測するための基準とみなすことができる。
【0037】
化合物SkQR1、MitoQ、MitoVitE、DMMQは、活性の比較の他の基準として役立つことができる。試験化合物は、ミトコンドリア呼吸鎖によって、好ましくは呼吸鎖の酵素及び補酵素によって還元できるのが好ましく、試験化合物において抗酸化性が酸化促進性よりかなり優勢であるのが好ましい。
【0038】
したがって、化合物MitoVitE及びDMMQは、一種の「負の」定点であり、最も有望な化合物−抗酸化剤、同様な生物活性(ミトコンドリアに対する試験レベルから出発する)を有する化合物の選択時には、回避すべきである。化合物MitoQも「負の」定点である。
【0039】
性質の試験に基づく新規化合物の選択時には、活性がMitoQよりもSkQ1に近い化合物を選択すべきである。最初に、活性を、低濃度及び超低濃度において抗酸化性を示す能力と定義する。ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤は、用量の増加につれて、種々の生物学的対象に対して強力な酸化促進効果を有する(「実験例」及びまた、Doughan A.K.、Dikalov S.I.(2007)、Antioxid. Redox Signal.9:1825〜36を参照のこと)。比較的低い用量では、これらの化合物は抗酸化性を示す。
【0040】
したがって、化合物−ミトコンドリアアドレス型物質の最も重要な特性は、いわゆる「適用ウインドウ」、すなわち、既に抗酸化性を示す物質の最低濃度(最小用量)と酸化促進性を示す物質の最低濃度(最小用量)との差である。後者を超える濃度(用量)は、物質の実際的応用には極めて不所望であり、このような適用の可能性を著しく制限する可能性があることは明らかである。種々のレベルで「適用ウインドウ」を評価する方法を、「実験例」のセクションに示してある。十分な「適用ウインドウ」をSkQ1は有するがMitoQは有さないので、1対の化合物SkQ1−MitoQは、試験化合物の展望の評価に好適な定点として役立つことができる。
【0041】
化合物の試験結果の解釈方法を以下に示す。この方法はいくつかの段階に分割される:
1)インビトロにおける物質の性質の試験(「試験方法」のセクションの試験1、2、3)の結果に基づき、試験化合物の抗酸化性及び酸化促進性を推定でき;これにより、抗酸化剤又は酸化促進剤の使用が有用な分野におけるそれらの適用可能性を予測でき;また、インビトロ試験により、候補化合物に生体膜を貫通する能力があるかどうかを判断でき、したがって、化合物のバイオアベイラビリティー、生体中の種々の関門(例えば、血液脳関門)を乗り越える化合物の能力及び化合物の安定性を予測できる;
2)本発明の一態様である試験結果の解釈例は、「実験例」のセクションに示してあり;生化学、生物物理学、生体エネルギー学、微生物学、分子生物学、細胞生物学の分野又は近代生物学の他の分野における適格な専門家ならば、前記例及び対応する解釈に基づき、候補化合物の試験結果を正確に評価し、要求される実際的応用に最も有望で、最も適当な化合物を選択できる。
【0042】
本発明の実現可能性及び提示モデルの精度を確認するために、新規ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤SkQ3、SkQ4、SkQ5及びSkQB1を合成した。
【0043】
V.本発明によって展望を予測する化合物の例:
SkQ3:
【0044】
【化8】
【0045】
予測事項(specification):この化合物は、SkQ1と比較して安定でなくてはならないが、抗酸化性がより明白であってはならない。この化合物は、植物バイオテクノロジー、菌類学及び微生物学において使用できる。
【0046】
SkQ4:
【0047】
【化9】
【0048】
予測事項:生体膜を貫通する能力がより低い(SkQ1と比較して)。その結果、製剤のバイオアベイラビリティー及び副作用の重症度は低下していなければならない。
【0049】
SkQ5:
【0050】
【化10】
【0051】
予測事項:「スクラチェフイオン」と抗酸化剤との間のリンカーの長さの減少が、化合物の疎水性を低下させ、化合物の膜貫通速度に影響を及ぼすことができる。
【0052】
SkQ1と比較して貫通能が増大している一連のSkQB化合物。前記の一連のSkQB化合物は、天然化合物、例えば、ベルベリンを「スクラチェフイオン」として使用している化合物を全て含む。SkQB系の化合物(例えば、下記式のSkQB1)は増大した貫通能を有し、したがって、医薬の観点からより有望であり、血液脳関門及び血液眼関門を通り越す能力がより大きい。また、ベルベリン(及びパルマチン)は植物由来の天然化合物であるので、SkQB系の化合物の副作用はより重症でない。
【0053】
【化11】
【0054】
一般に、ベルベリンをベースとするSkQBは、下記一般式で表すことができる:
【0055】
SkQB:
【0056】
【化12】
[式中、mは0〜3の整数(好ましくは2、すなわち、式の左側はプラストキノン部分である)であり、Lは、1)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;2)天然イソプレン鎖を含む、1〜50単位の長さのリンカー基である]。
【0057】
好ましくは、Lはデカン部分である。化合物式の右側は、その構成原子の1つによってリンカーLに結合しているベルベリン部分である。この結合は、C−C、C−O、C−N、C−S結合、例えば、エステル結合、ペプチド結合、ジスルフィド結合を介して行える。例えば、この結合は、ベルベリンのメトキシ基の1つを置換することによってエーテル結合を介して行える。
【0058】
SkQB系の化合物において、ベルベリンの代わりにパルマチンを使用できる。
【0059】
また、ベルベリン及びパルマチンをベースとする好ましい化合物は、以下の化合物である:
【0060】
【化13】
【0061】
前記化合物の合成方法並びに化学的性質及び生物活性の説明は、「実験例」のセクションに示してある。
【0062】
VI.ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤をベースとする医薬物質
本発明の一態様は、医療におけるMAA系医薬物質の使用を可能にする、特に以下の指標を含む規定文書(regulatory document)のパラメーターである:
1.特に、
a.所与の波長範囲における分光光度法、及びMAA試料の分光光度法の研究の結果との比較、
b.赤外分光法(漏れ内部全反射(Frustrated Total Internal Reflection)法によって取得された物質の赤外線スペクトルの吸収バンドは、包含スペクトルの吸収バンドと、バンドの位置及び強度が一致しなければならない)、
c.臭化物に対する反応(クロロホルム層は黄変しなければならない)
によって測定される確実性、
2.HPLC法によって測定される不純物含有量(個々の不純物の含有量は1.5%以下である。総不純物含有量は4.0%以下である)、
3.重金属含有量(0.001%以下である)、
4.残留有機溶媒含有量(エタノール、メタノール及びクロロホルムなどの溶媒)
5.無菌性、
6.その物質の定量化、
7.包装、ラベル表示及び保管の方法、
8.確定された使用期限。
【0063】
実際に、物質SkQ1、SkQR1、MitoQなどを含む既知のキノン含有ミトコンドリアアドレス型化合物(前記を参照のこと)は、主に1つの酸化(キノン)型である。通常条件下では、酸化型はキノール型に部分還元できる(図12を参照のこと)。したがって、MAAを医薬物質として使用する場合には、含有量が5〜8%及びそれ以上に達する可能性がある主な不純物は、MAAの還元型である。還元型は化学的不安定性が高く及び複雑な酸化還元転移を受ける傾向があるため、還元型の単離及び詳細な研究は困難な課題である。
【0064】
他方、標準的なクロマトグラフィー精製法によって還元(キノール)型を含まないキノン型での医薬物質MAAの製造は、これらの化合物の類似性のために困難である。
【0065】
前記系のMAA製剤の精製法が直面する第2の問題は、特徴的な対イオン、例えば、臭化物イオンを保存する必要性である。イオン交換クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の通常の条件は、前記の不安定な化合部物に関しては厳しすぎ、対イオンを初期構造に保存する保証はない。
【0066】
したがって、MAA系の製剤を単離及び精製するための既存の方法及び技術は、このような型の医薬物質に必要な純度パラメーターを提供しない。
【0067】
本発明において、前記問題は、
方法1:塩を含まない非緩衝移動相系中における、最終段階−製剤の高濃度溶液のゲル濾過での非標準HPLCの使用、
方法2:有効な酸化誘導剤として又はキノン−キノール平衡中におけるキノン型の競合的置換基として作用する無極性溶媒中で作用剤の形態の還元型のMAAの「分子トラップ」の使用
によって解決できる。
【0068】
したがって、本発明の別の態様は、方法1及び/又は方法2を含む、医薬物質に適当な形態でのMAAの製造方法である。
【0069】
VII.本発明の別の態様は、キノンをベースとするMAAを合成するための改良法である。この改良法は、より安価で、より入手しやすい成分を用いるMMAの工業的製造(合成)を可能にし、特に、プラストキノニル−デシル−トリフェニルホスホニウム(PDTP)ブロミド及びプラストキノンの他の誘導体の合成の場合には、ジメチルヒドロキノンではなく2,3−ジメチルフェノールを最初の試薬として使用できる。この合成は以下のステップ:
1.ジョーンズ(Jones)試薬による、2,3−ジメチルフェノール(1)の2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)への酸化、
2.トリフェニルホスフィンへの11−ブロモ−ウンデカン酸(3)結合と、それに付随する(10−カルボキシ−デシル)トリフェニルホスフィンブロミド(4)の形成、
3.硝酸銀及び過硫酸アンモニウムの存在下における、生成化合物(4)と2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)との反応による目的化合物(5)の形成
を含む。
【0070】
合成の一般的スキームを図13に示す。より詳細には、合成は、実験例8に記載する。
【実施例】
【0071】
実験例
以下は、新規ミトコンドリアアドレス型化合物の開発への本発明の適用可能性を説明することを目的とする実験例である。実験(試験)の結果はまた、当分野の専門家が、本発明を用いて開発した(又はコンビナトリアルライブラリーから選択した)新規化合物の展望を評価して新規ミトコンドリアアドレス型化合物を探索するための起点となる。これに関連して、実験例は、新規化合物を試験するための方法であるので、「試験」と称する。
【0072】
実験例1。一般式(I)の化合物の酸化還元特性及び安定性のインビトロ試験。
構造(I)に対応する化合物の選択の第1のステップは、それらの酸化還元特性を試験することである。すなわち、このステップにおいては、所定の酸化促進性及び抗酸化性を有する物質を選択できる。抗酸化性を有する可能性のある化合物を選択する最も簡単な方法は、キサンチンとキサンチンオキシダーゼとの反応において形成された酸素又はスーパーオキシドによって酸化されるそれらの能力を試験することである。還元型のSkQ1及びMitQの経時的安定性を、複光束Pye Unicam SP 1100分光計(英国)を用いて記録された240〜310nmの範囲の前記化合物の絶対吸収スペクトルの分析によって調べた。開発した方法の下で、媒体に含まれる20mM MOPS−KOH(pH=7.6)中テトラヒドロホウ酸ナトリウムによって、キノン誘導体を還元した。参照キュベットはSkQ1もMitoQも含んでおらず、還元剤を両キュベットに加え、水素の放出後に測定を行った。キノンの還元度を、秤量法を用いてピーク面積の大きさによって算定し、267nmの吸収極大の絶対値を比較のために測定した。データは、還元(キノール)型のSkQ1が、酸素への曝露時に、MitoQと比較して、大気中酸素による酸化に対して抵抗性であることを示している(図1A)。したがって、SkQ1は、酸素と自然に相互作用する傾向及びラジカルを形成する傾向がより少なく、このことは、SkQ1の方が細胞に対する毒性が少ないことを潜在的に示している。他方、化合物を酸素によらず、キサンチンオキシダーゼとキサンチンとの反応によって形成されたスーパーオキシドによって酸化した場合には、SkQ1の酸化は、MitoQの酸化よりもはるかに有効であった(図1B)。これは、SkQ1がMitoQと比較して、酸化剤としてはるかに強力であり、その還元(活性)型が大気中酸素による自然酸化に対してより抵抗性であり、スーパーオキシドラジカルに対してより高い親和性を有することを示していると考えられる。
【0073】
実験例2。人工黒膜に対するミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能の試験。
構造(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能を試験するために、濃度勾配に沿って移動する二重層リン脂質膜を貫通するイオンの能力に基づく方法の使用を提示する。二重層膜が、水溶液で満たされた2つのチャンバーを隔てており、これらのチャンバーの一方に試験物質を加える。帯電した物質が二重層膜を貫通できる場合には、高濃度の物質を含むチャンバーから低濃度の物質を含むチャンバーへの急速な拡散が起こり、したがって、膜電位差が作成される。1つの電荷を有しており、膜を容易に貫通できるイオンの場合には、10倍の濃度勾配は60mVの電位を作成できる(ネルンストの式による)。
【0074】
前記方法は、膜の脂質二重層を通過するイオンの能力に関する種々の研究に使用され、Starkov AA、Bloch DA、Chernyak BV、Dedukhova VI、Mansurova SA、Symonyan RA、Vygodina TV、Skulachev VP、1997、Biochem. Biophys Acta、1318、159〜172の論文に詳述された。前記方法を用いて、SkQ1、SkQ3、SkQR1及びMitoQなどの構造(I)のいくつかの物質を試験した。SkQ3及びSkQR1は、5×10−6〜5×10−4M(SkQ3の場合)及び5×10−6〜5×10−5M(SkQR1の場合)の範囲の濃度でネルンストの式に完全に従った。5×10−5Mより高濃度では、SkQR1はネルンストの式に従わなくなる。これは、SkQR1が高濃度で膜に損傷を与える能力によると思われる。SkQ1及びMitoQの勾配は、より高濃度(5×10−5〜5×10−4Mの範囲)で、ネルンストの式に従って電位を作成し始める。したがって、これらのデータに基づき、SkQ1及びMitoQは、SkQ3又はSkQR1と比較して、貫通能が低いと結論づけることができる。この比較的簡易な方法は、最も高い貫通能を有する、すなわち、よりバイオアベイラビリティーの高い化合物の迅速な選択を可能にするので、提示した、構造(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の一次選択の段階において理想的である。
【0075】
化合物SkQB1及びSkQBP1の貫通能も分析した。結果は、前記化合物の高い貫通能を示した(これらの貫通能は、SkQ1の貫通能に引けを取らない)。
【0076】
実験例3。グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いる、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護又は損傷効果。
我々の研究室において、二重層膜、タンパク質透過性(conducting protein)グラミシジン及び光増感剤(Mito Tracker Red、三硫酸化(thrice sulfonated)アルミニウムフタロシアニン又は亜鉛フタロシアニン)からなる簡易な系において化合物の抗酸化活性を研究できる方法を開発した。この方法は、光増感剤分子の光活性化によって生じる反応性酸素種がグラミシジンチャネルに損傷を与え、結果として二重層膜の透過能(conducting ability)を急激に低下できることに存する。光増感剤の他に、グラミシジンチャネルの損傷は、フェントン反応を開始させて、ヒドロキシラジカルのような高反応性酸素種を形成することによっても誘発できる(フェントン反応は、FeSO4、アスコルビン酸塩及びtert−ブチルヒドロペルオキシドの混合物によって開始される)。前記方法を用いて、化合物SkQ1、SkQ3及びMitoQを試験した。図3Aは、短閃光によるフタロシアニンの光活性化が、二重層膜中のグラミシジンチャネルの損傷によって膜透過性(membrane conductance)を急激に低下させることを示している。膜透過性の低下は、アジ化ナトリウム(一重項酸素を捕捉する高効率の系)によって及び酵素スーパーオキシドジムスターゼ(この酵素は、比較的低活性の過酸化水素へのスーパーオキシドの転化を触媒する)によって有効に阻止された。アジ化ナトリウムもスーパーオキシドジムスターゼも、二重層膜の透過性の低下を完全には防止しない。この事実は、フタロシアニンの光活性化が、一重項酸素及びスーパーオキシドのいずれの発生にも関係することを示している。このモデルでは、SkQ1が最も効果的であった。これは、SkQ1が、種々の反応性酸素種を防ぐ広域スペクトルの抗酸化剤であるためである。FeSO4、アスコルビン酸塩及びtert−ブチルヒドロペルオキシドの混合物によってグラミシジンチャネルの損傷を刺激する別のモデルでも、SkQ1が最も効果的であり、MitoQ及びSkQ3は、それより効果の少ない抗酸化剤のようであった(図3B)。
【0077】
合成化合物の抗酸化能を試験するために使用するこの方法は高効率であり、化合物の抗酸化活性を評価できるだけでなく、特定の反応性酸素種に対する化合物の特異性を判定することができる。前記方法の参照物質としては、広範囲の反応性酸素種に対して抗酸化活性を示す最も効率的な化合物としてSkQ1を使用するのが正しいであろう。
【0078】
実験例4.単離したミトコンドリアに対するミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化効果又は酸化促進効果の試験。
ミトコンドリアを研究対象とする方法は多い。我々は、一般式(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の可能な生物活性を高い確度で測定できる情報的に最も有益な方法を選択した。
【0079】
i)一般式(I)の化合物がミトコンドリア中に蓄積する能力の試験。
一般式(I)の化合物がミトコンドリア中に蓄積する能力を、テトラフェニルホスホニウム選択性電極を用いて試験した。前記方法は、親油性カチオンであるテトラフェニルホスホニウムを標的基として用いる一般式(I)の化合物に対してのみ使用できる。この電極を用いると、ミトコンドリアマトリックスと媒体との間のテトラフェニルホスホニウムカチオン(又はこのカチオンを含む化合物)の分布を測定できる。図4は、SkQ1が15〜20分以内にミトコンドリア中に蓄積することを示している。酸化リン酸化脱共役剤FCCPによって引き起こされるミトコンドリア膜電位の低下により、ミトコンドリアから放出されるSkQ1は比較的わずかである。SkQ1は親油性カチオンである(SkQ1に関するオクタノール/水分布比は20000/1)であるので、SkQ1の主な量は、ミトコンドリアの通電レベルと無関係にミトコンドリア膜に蓄積する。SkQ1の代わりに親油性のより低いSkQ5を用いる場合には、エネルギーと無関係な蓄積のレベルは著しく低下する。前記方法により、ミトコンドリアへの一般式(I)の化合物の蓄積効率、ミトコンドリアの機能状態へのそれらの蓄積速度の依存度を調べることができ、試験化合物の可能なバイオアベイラビリティーを予測できる。
【0080】
ii)ミトコンドリア呼吸鎖による一般式(I)の化合物の被還元能力の測定。
本発明において提示するミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の重要な利点は、ミトコンドリア呼吸鎖によるそれらの被還元能である。ミトコンドリア呼吸鎖による一般式(I)の化合物の還元を研究するために、ラット肝臓ミトコンドリアの単離媒体中、呼吸基質の存在下での化合物の酸化型と還元型の比の変化速度を測定した。測定はミトコンドリアの存在下で行った。実験は、SkQ1はミトコンドリア呼吸鎖によって還元できることを示した。種々の酸化基質の使用により、SkQ1は複合体I(ミトコンドリアはグルタミン酸塩及びリンゴ酸塩によって通電された)及び複合体II(酸化基質はコハク酸塩であった)によって還元できることが示された(図5A)。内在性基質の影響を排除するために、複合体Iの阻害剤、ロテノン及び複合体IIの阻害剤、マロン酸塩を用いた。ロテノンの存在下におけるマロン酸塩による複合体IIの阻害は、SkQ1の酸化を刺激した。これはおそらくは複合体IIIによるものであった。ミキソチアゾールによる複合体IIIの阻害が次に、その酸化を防止した。このことは、複合体IIIがSkQ1を酸化する能力を裏付けている(図5B)。複合体IIIによるSkQ1の酸化は、複合体I及び複合体IIによるSkQ1の還元よりもはるかに遅い(図5B)。これらのデータから、通電されたミトコンドリアにおいては、SkQ1はほとんど、還元状態(キノール型)にあり、この状態ではSkQ1は抗酸化性を示すことがわかる。
【0081】
したがって、前記方法により、ミトコンドリア呼吸鎖による一般式(I)の化合物の被還元能力を研究でき、更に、前記データに基づき、試験化合物の酸化促進性又は抗酸化性を予測できる。
【0082】
iii)FeSO4及びアスコルビン酸塩の混合物によって誘発されたミトコンドリアの酸化的ストレス条件下における、一般式(I)の化合物の抗酸化活性の試験。
ミトコンドリア、細胞培養物又は組織の酸化的ストレスを測定するために最も広く使用されている方法の1つは、マロンジアルデヒドの定量方法である。酸化的ストレスは、このような場合、種々の方法によって:tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化水素、キサンチン/キサンチンオキシダーゼ、硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとの混合物などによって誘発できる。実験では、酸化的ストレスを開始するために、硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとの混合物を用いた。ミトコンドリア代謝においては、若干量のH2O2が形成されるが、これは種々の抗酸化系によって迅速に利用されるので生理的条件下では危険ではないことがわかっている。硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとを組み合わせて、ミトコンドリアを含む媒体に添加すると、第一鉄イオンとH2O2との反応(フェントン反応)が起こって、高反応性ヒドロキシルラジカルが形成される(Fe2++Н2O2→Fe3++・OH+−OH)。そして次に、ヒドロキシルラジカルが膜内の不飽和脂肪酸と反応し、それらのフリーラジカル酸化を刺激し、最終的にマロンジアルデヒドが蓄積される。このようなモデルは、一般式(I)の化合物を含む種々の抗酸化剤の有効性の研究によく適している。図6は、SkQ1の抗酸化活性の試験の結果を示している。図6に示されるように、SkQ1の最大の酸化活性は20〜50nMの濃度で既に現れている。ミキソチアゾール(複合体IIIの阻害剤)をミトコンドリア懸濁液に添加すると、複合体IIIによるSkQ1の酸化が防止され、SkQ1の抗酸化能が大幅に改善される。これらの結果は、SkQ1の抗酸化能を裏付け、更には、ミトコンドリア呼吸鎖による抗酸化剤の被還元能の重要性を示している。
【0083】
したがって、高精度でのマロンジアルデヒドのこの定量的測定方法は、試験化合物の酸化促進性又は抗酸化性の予測及びそれらの有効濃度の試験を可能にする。
【0084】
実験例5。動物、植物、細菌又は酵母の細胞培養物中におけるミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化作用又は酸化促進作用の試験。
細胞培養物中の化合物の生物活性を試験するための多数の異なる方法があることを前提として、このセクションは、簡潔性及び情報的有益性のために、一般式(I)の化合物を最初に試験するのに最も適当な方法のみを記載するものとする。
【0085】
a.動物細胞培養物におけるミトコンドリアアドレス型化合物の作用の試験。
ヒト子宮癌細胞株HeLa並びに肺及び皮膚に由来する正常ヒト二倍体線維芽細胞を、一般式(I)の化合物の抗酸化能の酸化モデルとして選択した。化合物の抗酸化能の試験は、細胞蛍光測定法及び蛍光顕微鏡法を用いて実施した。各細胞培養物の予備実験において、著しい(60〜80%の)細胞アポトーシスを引き起こすが目に見える壊死の兆候が認められないH2O2の最適濃度を選択した。アポトーシス細胞において起こるクロマチン凝縮及び断片化を確認するために、蛍光色素ヘキスト(Hoechst)を用いた。この色素を、1μg/mlの濃度で、30分間のインキュベーションの最後に生細胞又は固定細胞に加えた。壊死の確認には、濃度2μ/mlの蛍光色素ヨウ化プロピジウム(PI)を非固定細胞に加えた。アポトーシス細胞及び壊死細胞の百分率を、核が断片化されている細胞の数及びヨウ化プロピジウムに対して透過性のある細胞の数をそれぞれカウントすることによって求めた。
【0086】
貫通性ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤を用いる実験において、化合物の貫通能によっては、細胞培養物からミトコンドリア中への蓄積に必要な時間が異なることがあることを承知する必要がある。
【0087】
特に、我々は、細胞をSkQ1及びMitoQと共に5〜7日間インキュベートする場合のみ、SkQ1及びMitoQがH2O2に対する細胞の抵抗性を増加させることを示した。ミトコンドリア膜電位の低下を引き起こす酸化的リン酸化脱共役剤FCCPは、SkQ1及びMitoQの保護効果を防止した。これは、試験化合物が実際にミトコンドリアにアドレスすることを示す重要な対照である。SkQ1及びMitoQは、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤であり、極めて低濃度でそれらの効果を発揮する。特に、SkQ1は、濃度0.2nMでも保護効果を発揮する(図7)。図7は、SkQ1がMitoQと比較してはるかに有効に細胞を死から保護する、すなわち、SkQ1がより有効な抗酸化剤であることを示している。全ての抗酸化剤と同様に、SkQ1及びMitoQには限界濃度があり、限界濃度より高濃度ではSkQ1及びMitoQは酸化促進活性を示し、特に、SkQ1及びMitoQは、0.5μMより高い濃度で酸化促進活性を示し、H2O2によって誘発される細胞死を刺激する。
【0088】
H2O2によって刺激される酸化的ストレスのレベルを測定するために、細胞を蛍光色素DCF−DA(2’,7’−ジクロロ−ジヒドロフルオレセインジアセテート)で染色し、次いで、色素の蛍光レベルを細胞蛍光測定器によって測定した。この方法により、細胞をSkQ1又はMitoQと共に1〜5時間インキュベートしても、細胞のH2O2誘発酸化的ストレスは防止されないことが示された。同時に、より高い貫通能を有するSkQR1(疎水性カチオン−ローダミンG部分が、テトラフェニルホスホニウムの代わりに標的基として使用された)は、所与の時間ウインドウ内で、SkQ1と比較して低濃度で既に抗酸化活性を有する(図8A、B)。SkQ1(図9)及びMitoQ(図示せず)は、細胞と共に5〜7日間インキュベート後に、抗酸化性を示した。もたらされる時間依存性は、SkQR1、SkQ1及びMitoQの貫通能とよく相関している(これらのカチオンの貫通能は、以下の順で表すことができる:SkQR1>SkQ1>MitoQ)。
【0089】
したがって、前記方法により、酸化的ストレスによって引き起こされる死から細胞を保護する一般式(I)の化合物の能力を確認できる。更に、前記方法は、一般式(I)の化合物をベースとする製剤の治療量及び投与時期の予測に役立つことができる。
【0090】
b.大腸菌(Escherichia coli)細胞におけるミトコンドリアアドレス型化合物の作用の試験。
一般式(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の酸化促進性及び抗酸化性を試験するために、大腸菌(Escherichia coli)細胞における酸化的ストレスの測定方法を開発した。この目的で、細菌細胞における酸化的ストレスに対する貫通イオンの効果を研究するための、細菌ルシフェラーゼをコード化するluxAB遺伝子をベースとするバイオセンサーシステムを作成した。ルシフェラーゼは、分子遺伝学(レポーター遺伝子)、生化学分析(例えば、微量のATPの測定)、遺伝子操作作業(選択)、バイオテクノロジー及び生態学(バイオセンサー)などについての研究に、現在広く用いられている。高感度、ルミノメーター又はシンチレーションカウンターを用いる光信号の検出の容易さ、酵素ルシフェラーゼの量と生物発光強度との数オーダーの範囲内での比例関係、インビトロ及びインビボの両方での測定可能性(細胞の損傷を生じない)並びに他の有益性が、種々の遺伝子検査及び生化学検査へのルシフェラーゼ遺伝子の応用を支持している。開発した方法においては、陸生細菌フォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)由来のルシフェラーゼをコード化する遺伝子を用いた[1]。グラム陰性細菌であるフォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)は、昆虫病原性線虫の共生生物である。フォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)由来のルシフェラーゼは、高い熱安定性(45℃の温度まで活性であり続ける)を特徴とし、そのため、lux遺伝子はレポーターとして使用しやすい。
【0091】
水、土壌、食品、空気などの中の汚染化学物質(毒物)を試験するために、lux−バイオセンサーは、2つの変形:
1)毒物による生物発光の消失に基づくもの、
2)毒物による生物発光強度の誘発(増加)に基づくもの
が現在使用されている。
【0092】
第1の変形に関連する方法は、細胞代謝に対する、主に呼吸鎖に対する毒性物質の阻害効果のメカニズムの使用を含む。これは、ルシフェラーゼ反応に間接的に影響を及ぼし、細胞懸濁液の生物発光強度を減少させる。
【0093】
第2の変形に関する方法は、毒物によって誘発される細胞の生物発光の強度の誘発(増加)に基づく。これらの方法は、進化の過程で細菌が作り出した、環境中の特定化学物質の存在に特異的に応答する特異的な調節エレメントを使用するための種々の選択肢を含む。前記群のバイオセンサーは、受容体タンパク質(リプレッサー又はアクチベーター)と化学物質(chemical compound)との相互作用に基づくので、特異性と高感度の両方を提供する。細菌においては、1)細胞膜、2)タンパク質、3)染色体(DNA)及び4)細胞における酸化的ストレスの誘発に作用する毒物に特異的に反応する調節系を区別できる。更に、細菌は、重金属及び砒素イオンに特異的に反応する調節系を有する。grpE:PgrapEプロモーターは、細胞タンパク質に作用する毒物(例えば、種々のフェノール誘導体、アルコール)のバイオセンサーとして使用できる。前記プロモーターは、熱ショック遺伝子の上流の細菌ゲノム中に位置し、修飾された変性タンパク質が細胞中に存在する場合にのみ活性化される。PrecASOSプロモーターは、DNA−指向性(DNA-tropic)作用剤(マイトマイシンC、メタンスルホン酸メチル、ダイオキシン並びに紫外線及び電離放射線)に対するバイオセンサーとして使用する。LexAタンパク質はリプレッサーである。PrecAプロモーターは、ゲノムの損傷、すなわち、DNA分子の損傷の誘発時にのみ活性化される。細胞中で酸化的ストレスを誘発する(細胞中でヒドロキシルラジカル(OH)、スーパーオキシドイオンラジカル(O2−)、過酸化水素(H2O2)を形成する)物質の検出には、PkatG及びPsoxSプロモーターを使用する。PkatGプロモーター(アクチベーターOxyR)は、過酸化水素、有機過酸化物などに特異的に反応する。PsoxSプロモーターは、スーパーオキシドイオンラジカルが環境中に生じた場合に活性化される。前記誘導プロモーターをベースとして、lux−バイオセンサーを開発した。
【0094】
開発した方法で使用する、対応する調節領域を有するプロモーターは全て、大腸菌(Escherichia coli)K12 MG1655細菌のゲノムから、特異的な合成プライマーを用いてPCR法によって得た。pBR322レプリコン及びアンピシリン(選択マーカー)に対する耐性に関与するbla遺伝子を有する非プロモーター(non-promoter)ベクターをベクターとして用いた。プラスミド中へのプロモーター領域の埋め込み(embedding)は、EcoRI−BamHI部位において実施した。5つの遺伝子からなるフォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)のluxオペロン、luxCDABEをluxカセットとして選択した。
【0095】
全てのバイオセンサーを、一般式(I)のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤を扱うための適合性について試験した。
【0096】
それにより、一般式(I)のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤、特にSkQ1及びMitoQが、酸化的ストレスに何であれ関連するバイオセンサーに対して高い特異性を有する可能性が最も高いことが判明した。これは、SkQ1及びMitoQの構造がキノン誘導体を含み、高効率で荷電膜内に蓄積するためである。したがって、pLUX::PkatG及びpLUX::PsoxSバイオセンサーの使用が最適であると思われる。酸化的ストレスにおけるDNA損傷の固定化及びこのプロセスに対する貫通イオンの効果は、pLUX::PrecAバイオセンサーを使用する場合に可能である。pLUX::PgrpE及びpLUX::Placバイオセンサーは見かけ上、正及び負の対照として使用されるであろう。
【0097】
試験の第1相で、発光の最大誘発が起こる酸化的ストレスの誘発条件を選択した。図10は、H2O2及びパラコートがバイオセンサーの生物発光を誘発できることを示している。H2O2の存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PkatG中における発光の誘発は、15分以内に明らかとなり、1時間にわたって最大値に達する(図10A)。対照細胞と誘発細胞との発光強度の比は、最適H2O2濃度において1/80である。パラコートの存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PsoxSにおける発光の誘発は15〜20分で明らかとなり、2時間にわたって最大値に達する(図10B)。対照細胞と誘発細胞との発光強度の比は、最適パラコート濃度において1/100である。
【0098】
次の段階で、一般式(I)の化合物の酸化促進能又は抗酸化能を試験することが可能になる。pLUX::PkatG及びpLUX::PsoxSバイオセンサーの助けを借りて、大腸菌(Escherichia coli)において酸化的ストレスの条件下でのSkQの抗酸化性を試験した。10μMのSkQは、過酸化水素によって誘発される酸化的ストレスによって生じるスーパーオキシドアニオンラジカルから細胞を効果的に保護することが示されたが、前記濃度のSkQはパラコートによって誘発される酸化的ストレスに対しては感知できるほどの効果がなかった(図11)。この相違は、過酸化水素及びパラコートによる反応性酸素種の発生方法が異なることによると考えられる。過酸化水素の場合は、酸化的ストレスは短時間誘発される(H2O2は細胞中の抗酸化防御酵素によって活発に分解される)が、パラコートの場合には、酸化的ストレスははるかに長期間持続する。更に、大腸菌(Escherichia coli)細胞においては、細胞からカチオンを積極的に排出する多剤耐性(MDR)系が活発に機能することが示された。これらの酵素の活性は、SkQ1及びその類似体の効力を劇的に減少させる。したがって、MDRタンパク質による細胞から排出前に、H2O2の場合はSkQ1が酸化的ストレスから細胞を保護する時間があるが、パラコートの場合はSkQ1はもはや有効でない。
【0099】
結果は、開発した試験方法が、一般式(I)の化合物の酸化促進能及び抗酸化能を試験するための信頼性のある迅速なツールであることを示した。
【0100】
実験例6。動物及び植物における一般式(I)の化合物の生物活性のインビボ試験。
動物又は植物における一般式(I)の化合物のインビボ試験は、このセクションのこれまでの試験全てを通過し、可能な生物活性が証明された化合物にのみ適用できる。これは、インビボ実験の準備のためには、研究者が情報的に最も有益な結果を得るのに使用すべきモデルの開発に必要な薬物作用の可能性がある標的についての完全な情報を得ることが必要であるという事実による。事前選択段階のインビボ実験には、薬物が生物活性である主たる可能性を評価できる最も簡単な方法を使用すべきである。この目的で、甲殻類セリオダフニアアフィニス(Ceriodaphnia affinis)などの小型無脊椎動物をモデル対象として使用できる。このような対象、特に動物プランクトン生物は、環境汚染の評価、物質の抽出物、食品製品、医薬製剤の生物学的効果についての研究において一般的な試験対象となる。圧倒的な数の適用において、評価は、生存率、試験対象の挙動及び一部の生理的機能の妨害(violation)を考慮して、短期実験で行われる。慢性的な弱い影響の効果を確認するために、前記パラメーターは別に、成長及び生殖のような不可欠な個体パラメーターもまた制御される。
【0101】
試験対象に対する化学薬剤の慢性的効果の定量化においては、毒性効果の相特性と称される現象、すなわち、生物学的機能の活性の抑制及び刺激の変化又は毒性の可能性のある物質によって引き起こされる構造要素の発現を明らかにする。結果として、多くの可能な毒物は特定の濃度で、特定の機能及び試験対象全体に対して一時的な刺激効果を有する可能性がある。したがって、製剤の好適な効果の重要な基準は、生体の全生存期間である。これは、この場合には、実際に毒性である製剤の好適な相にある危険が除外できるためである。
【0102】
甲殻類セリオダフニアアフィニス(Ceriodaphnia affinis)の寿命期間中の基本生命機能に対する種々の濃度での製剤SkQ1の効果を、製剤SkQ1の刺激効果に特に注意して研究した。
【0103】
第1の実験系(各系の動物数は20個体とした)、エタノール(0.79mg/l)の存在下での甲殻類の生存率は対照と異ならなかった(図4)。濃度5.5及び0.55nMのSkQ1では甲殻類の生存率は対照よりも高かったが、濃度55nMでは、低かった。濃度0.55及び5.5nMのSkQ1では甲殻類の一定個体群の致死時間(time of death)は全観察期間を通して増大し、50%致死時間は、対照のパラメーターのそれぞれ2倍及び1.4倍で上回った(表1)。
【0104】
【表1】
【0105】
甲殻類の平均生存期間は、SkQ1濃度0.55及び5.5nMでは対照より高く、SkQ1濃度55nMでは対照より低く、これらの差は統計的に有意であった(表2)。
【0106】
【表2】
【0107】
したがって、結果は、SkQ1が小型無脊椎動物の生命活動に対する有益効果を有し、生存期間を延長できることを示している。更に、生体に対する有益効果を有する化合物の濃度を選択した。この濃度は、一般式(I)の試験製剤の生物活性を高等動物で試験するための実験に使用できる。
【0108】
実験例7。「分子トラップ」を用いるミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の精製方法
1.エタノール−クロロホルム(1:9)系中でシリカゲル前処理後の初期原体PDTP(5g)は純度が約85%である。還元型の含有量は8%である。
【0109】
基本的な不純物を除去するために、HPLC法を用いた。C18カラム、500×45mm。移動相−無塩非緩衝水−エタノール溶液。勾配モード。系A−エタノール15%、系B−エタノール40%。
【0110】
中央フラクションの収集後、製剤の純度は約92%である。還元型の含有量は6%である。
【0111】
臭化物に対する初期生成物と精製生成物との比較定性反応は、クロマトグラフィー精製後の臭化物の保持を示している。
【0112】
C18カラム、250×4.6mmでの、水中65%アセトニトリル中の0.05%トリフルオロ酢酸の系における分析用HPLCも、初期生成物及び精製生成物の場合に概ね同一の臭化物イオンピーク強度(クロマトグラムの初めに)を示している。
【0113】
2.HPLCによって精製し(3.8g)、溶媒を蒸発させ、高真空下で乾燥させた後、生成物は、粘稠で透明なダークブラウン色の油の形態である。製剤中の還元型の含有量を最小化するために、「分子トラップ」の方法の変法を用いた。
【0114】
油のフラスコにヘキサン200mlを注ぎ、次いでアセトン5mlを加え、混合物を電磁撹拌機で30分間激しく撹拌する。次に、溶媒層を慎重にデカントによって除去する。溶媒のデカント部分及び残りの油は、クロマトグラフィーによって制御する。溶媒のHPLCクロマトグラムは、アセトンの小ピーク及び還元型の強力ピークのみを含んでおり、主な酸化型はなくなっている。
【0115】
目的生成物のクロマトグラムは、還元型の含有量の減少を明確に示している。
【0116】
還元型の含有量を更に最小化するために、この操作を数回繰り返すことが必要なこともある。
【0117】
新鮮な溶媒部分を連続供給し且つ使用済み溶液を廃棄しながら、自動モードでこの操作を実施することが可能である。
【0118】
前記方法の場合、基本物質の損失がないことに留意することが重要である。臭化物イオンは保存される。
【0119】
生成物の純度は約97%である。還元型の含有量は1.0%以下である。
【0120】
2.エタノール溶液中におけるゲルクロマトグラフィー。
この精製方法は、製剤の濃縮液の計量ボトリング(dosage bottling)、乾燥及び保管の前の最終段階として適当である。
【0121】
製剤約3.7gを、エタノール5〜6ml中に溶解させ、無水エタノール(分光測光グレード)で予め平衡させたSephadex LH−20の600×10mmカラム上でクロマトグラフィーにかける。
【0122】
前留分及び後留分を廃棄する。主留分の純度は少なくとも98%である。還元型の含有量は0.8〜0.9%である。製剤の濃度は150〜200mg/mlに達することができる。この溶液は、アリコートの調製及び最終形態での物質の乾燥に都合よい。
【0123】
実験例8。プラストキノニル−デシル−トリフェニルホスホニウム(PDPT)ブロミドの合成。
合成は下記ステップを含む:
1.ジョーンズ試薬による2,3−ジメチルフェノール(1)の2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)への酸化。
2.トリフェニルホスフィンへの11−ブロモ−ウンデカン酸(3)の結合と、それに伴う(10−カルボキシ−デシル)トリフェニルホスフィンブロミド(4)の形成。
3.硝酸銀及び過硫酸アンモニウムの存在下における生成化合物(4)と2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)との反応による目的化合物(5)の形成。
【0124】
合成のスキームを図2に示す。
【0125】
2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)の合成
ジョーンズ試薬(水157ml及び濃硫酸70mlの混合物中のNa2Cr2O7×2H2O 110g(0.37モル)の溶液)を撹拌しながら、2,3−ジメチルフェノール20g(0.16モル)のエーテル230ml中溶液に加え、混合物を24時間撹拌した。混合物をエーテルで抽出し、混合したエーテル抽出物を洗浄し、次いで焼成硫酸マグネシウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーター上で溶媒を除去後に、残渣をクロロホルム中シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。黄色の結晶物質の形態の化合物2の収率は8.7g(40%)である。
TCX:Rf(CHCl3)=0.46;HPLC:τ=17.4分(0〜90% B、26.4分;A:10mM H3PO4、B:AcCN)、m.p.58℃(56.5〜57.5℃)1;UV(CH3OH):λmax 209nm、256nm、344nm;ESI MS;m/z C8H8O2に関する計算値136.15;実測値136.2。
【0126】
(10−カルボキシ−デシル)トリフェニルホスフィンブロミド(4)の合成
トリフェニルホスフィン588mg(2.24ミリモル)を、11−ブロモ−ウンデカン酸530mg(2ミリモル)に加え、混合物を封管中で85℃に12時間保持した。次いで、混合物をシリカゲルカラム上でクロロホルム−メタノール(9:1)の系中で分離にかけた。透明な油の形態の化合物4の収率は895mg(85%)である。
TCX:Rf0.52(クロロホルム−メタノール、4:1);HPLC:τ=7.28分(5〜95% B、11.5分;А:0.1%TFA;B:アセトニトリル中0.1%TFA);UVスペクトル(0.1%TFA−アセトニトリル、38:62):λmax200nm、224nm、268nm;ESI MS:m/z С29H36OPに関する計算値:447.6;実測値448.2(MH+;100%)。
【0127】
[10−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)デシル]トリフェニルホスホニウムブロミド、PDTPブロミド(5)の合成
過硫酸アンモニウム228mg(1ミリモル)の水5ml中溶液を、化合物(2)135mg(1ミリモル)、化合物(4)526mg(1ミリモル)及び硝酸銀85mg(0.5ミリモル)のアセトニトリルと水(1:1)の混合物40ml中溶液に80〜90℃で加えた。混合物を同温度で12時間、撹拌しながら加熱した。混合物を水で希釈し、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを小容量まで蒸発後、生成物をジエチルエーテルで沈殿させた。溶液を沈殿物からデカントし、沈殿物を数回、再沈殿させた。最後に、沈殿物をシリカゲルカラム上、ジクロロメタン−エタノールの混合物(混合比9:1)中で精製した。[10−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)デシル]トリフェニルホスホニウムブロミド(PDTPブロミド)の収率は35%である。
TCX:Rf(CHCl3−CH3OH、4:1)=0.66;HPLC:τ=10.1分(5〜95% B、12分、А:0.05%TFA、B:AcCN中0.05%TFA);UV(CH3OH):λmax198nm、226nm、260nm(ε260=18652cm−1*M−1)、352nm;ESI MS:m/z C36H42O2Pに関する計算値537.69;実測値537.3。
【0128】
実験例9。ミトコンドリアアドレス型化合物−有望なミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の合成。
ベルベリン及びパルマチンSkQ誘導体の構造:
【0129】
【化14】
【0130】
9,10−ジメトキシ−13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソシクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニル−メチル]−5,6−ジヒドロベンゾ[g]−1,3−ベンゾジオキソール[5,6−a]キノリジニウムブロミド、1(13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニル−メチル]ベルベリンブロミド)の合成スキーム
【0131】
【化15】
【0132】
化合物1を、ベルベリンビスルフェート(5)をベースとして生成した。ベルベリンビスルフェート(5)を、ピリジン中水素化ホウ素ナトリウムで室温において30分間還元し、水から結晶後、化合物6を収率91%で得た。化合物6をブロモ酢酸メチルエステルでアルキル化し(100℃で1時間)、続いて、中間化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元して(室温で30分間)、化合物7を得た。これを、水溶液からのエーテル抽出によって単離し(収率80%)、1.5時間の煮沸によって水酸化リチウムの1%水−メタノール溶液で鹸化させて、化合物8を得た。水からの結晶化後、化合物8の収率は61%のようであった。化合物8をセシウム塩に転化させ、これを、予め合成した2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン誘導体9と60℃において48時間、縮合させた。化合物10を塩化メチレン中N−ブロモスクシンイミド(NBS)溶液で1時間酸化させ、有機相の水洗及びその乾燥による過剰のNBSの除去後に、混合物を蒸発させ、最終化合物1をエーテルで沈殿させた。化合物1の精製は、0.05%TFA水溶液中の、0.05%TFAを含む30〜80%のアセトニトリル勾配でのHPLC(C18)によって行った。最後の2つの段階の後、全収率は50%のようであった。
【0133】
化合物2〜4も同様にして生成した。
【0134】
生成化合物の特性。
13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニルメチル]ベルベリン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.16;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。HPLC:τ=8.98分(5〜95%B、11分;A:0.05%TFA、B:MeCN中0.05%TFA;Luna C18(2)’0.46×15cm、5μm、1ml/分)。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm(ε350=23850−1*M−1)、430nm(ε430=5278−1*M−1)。ESI MS:m/z C37H40NO8に関する計算値626.72;実測値626.69。
【0135】
13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニルメチル]パルマチン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.16;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm、430nm。ESI MS:m/z C38H44NO8に関する計算値642.76;実測値642.29。
【0136】
13−[4−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ブチルオキシカルボニルメチル]ベルベリン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.23;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。HPLC:τ=7.71分(5〜95%B、11分;A:0.05%TFA、B:MeCN中0.05%TFA;Luna C18(2)’0.46×15cm、5μm、1ml/分)。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm、430nm。ESI MS:m/z C34H34NO8に関する計算値584.64;実測値584.22。
【0137】
13−[4−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ブチルオキシカルボニルメチル]パルマチン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.23;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。HPLC:τ=7.73分(5〜95%B、11分;A:0.05%TFA、B:MeCN中0.05%TFA;Luna C18(2)’0.46×15cm、5μm、1ml/分)。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm、430nm。ESI MS:m/z C35H38NO8に関する計算値600.68;実測値600.87。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤学及び医学の分野に関し、詳細には、ミトコンドリアアドレス型(mitochondria-addressed)化合物をベースとする医薬物質の製造及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
今日までに発表された資料は、「スクラチェフ(Skulachev)イオン」(この用語は、Green D.E.によって作られた("The electromechanochemical model for energy coupling in mitochondria"、1974, Biochem. Biophys. Acta.、346:27〜78))に基づいて、新種の生物活性物質−ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤(MAA)の医薬としての展望が良好であることを実証している(Skulachev V.P.(2005)、IUBMB Life.、57:305〜10;Skulachev V.P.(2007) Biochemistry(Mosc).、72:1385〜96;Antonenko Yu.N.ら(2008)、Biochemistry(Mosc).、73:1273〜87, Skulachev V.P.ら、(2009),Biochim Biophys Acta.、1787:437〜61,Smith R.A.ら、(2008),Ann. N. Y. Acad. Sci.,1147:105〜11を参照;及びWO2007046729、WO2009005386、US6331532、EP1047701、EP1534720を参照のこと)。
【0003】
前記文献は、実験室条件下における−インビトロ又は動物モデルでのMAAの研究の結果を開示している。しかし、活性医薬成分(いわゆる医薬物質)としてとして任意の化合物を使用するためには、化合物は、以下のようないくつかの要件を満たさなければならない:
1.対応文献、薬局方モノグラフに要約されている国家規制要件(national regulators requirements)の完全順守。主要要件は、確実性、不純物含有量、重金属含有量、含水量、残留有機溶媒含有量、無菌性、化合物の定量的測定方法、包装、ラベル表示及び輸送の方法である。
2.規制文書に列挙された化合物の特性及び医薬活性は、想定される保存寿命(shelf storage time)中は想定限度内にとどまらなければならない。
【0004】
不純物総含有量及び単一不純物含有量には、特に目を向ける必要がある。特に、個々の同定及び十分な特性決定が不可能な単一の不純物が、不純物総含有量の大きい割合を占めてはならない(ほとんどの場合、1%未満でなければならない)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医薬物質としてのMAAの実際的応用の別の重大な問題は、MAAに関連する発明の記載(前記を参照)に、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤とし本出願で特許請求される多数の化合物が既に開示されているという事実である。しかし、臨床試験を含む実験の結果(例えば、Antonenko Yu.N.ら(2008)、Biochemistry(Mosc).、73:1273〜87を参照のこと)は、開示されたミトコンドリアアドレス型化合物が異なる(場合によっては正反対でさえある)生物活性を有することを示している。この観点から、化合物の特定用途に適した、詳細に明らかにされた所定の性質を有する生物活性物質を設計する方法の開発が、依然として急務である。また、スクラチェフイオンに基づいて、性質及び生物活性(第一に臨床活性)を予測することが急務である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】キサンチンオキシダーゼとキサンチンとの反応によって形成された酸素によって酸化される一般式(I)の化合物の能力を示すグラフである。
【図1B】キサンチンオキシダーゼとキサンチンとの反応によって形成されたスーパーオキシドによって酸化される一般式(I)の化合物の能力を示すグラフである。
【図2】二重層膜を通過し、膜電位を生じる構造(I)の化合物の能力の比較を示すグラフである。比較のために、理想的な貫通を示すモノカチオンの推定値(ネルンストの式による)を黒線で示してある。
【図3A】グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いた、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験を示すグラフである。グラミシジンチャネルの損傷は、フタロシアニン光増感剤の光活性化によって刺激した。
【図3B】グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いた、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験を示すグラフである。グラミシジンチャネルの損傷は、FeSO4、アスコルビン酸塩及びtert−ブチルヒドロペルオキシド(B)の混合物の光活性化によって刺激した。
【図4A】TPP+電極を用いて測定された、ミトコンドリアへのSkQ1の蓄積を示すグラフである。
【図4B】TPP+電極を用いて測定された、ミトコンドリアへのSkQ5の蓄積を示すグラフである。
【図5A】ミトコンドリアがSkQ1を還元又は酸化する能力が、呼吸鎖成分の活性に依存することを示すグラフである。
【図5B】ミトコンドリアがSkQ1を還元又は酸化する能力が、呼吸鎖成分の活性に依存することを示すグラフである。
【図6】硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとの混合物によって引き起こされる酸化的ストレスの条件下で、SkQ1がミトコンドリアを保護することを示すグラフである。
【図7】SkQ1及びMitoQが、H2O2(300μM)によって誘発される死から細胞を保護することを示すグラフである。細胞をSkQ1及びMitoQと共に7日間インキュベートし、次いで実験のために播種した。
【図8A】HeLa細胞とSkQR1との短時間プレインキュベーション(2時間)が、H2O2(300μM)によって誘発される細胞の酸化的ストレスのレベルを低下させることを示すグラフである。低レベルの酸化的ストレスを有する細胞数の評価の基準となる細胞蛍光測定データ。評価は7つの実験に基づいて行った。図表上の低DCF−DA蛍光の領域に位置する対照細胞群(細胞集団の50%)に関してデータを評価し、この細胞群を100%とみなし、各作用の指標をこの群に対して評価した。
【図8B】HeLa細胞とSkQR1との短時間プレインキュベーション(2時間)が、H2O2(300μM)によって誘発される細胞の酸化的ストレスのレベルを低下させることを示すグラフである。低レベルの酸化的ストレスを有する細胞数の評価。評価は7つの実験に基づいて行った。図表上の低DCF−DA蛍光の領域に位置する対照細胞群(細胞集団の50%)に関してデータを評価し、この細胞群を100%とみなし、各作用の指標をこの群に対して評価した。
【図9】SkQ1(20nM)による7日間の細胞の処理が、H2O2(300μM)によって誘発される酸化的ストレスからHela細胞を保護することを示すグラフである。
【図10A】過酸化水素(100μM)の存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PsoxSにおける発光誘発を示すグラフである。
【図10B】パラコート(100μM)の存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PsoxSにおける発光誘発を示すグラフである。
【図11】SkQ1(10μM)の存在下での過酸化水素(500μM)及びパラコート(100μM)によるsoxSプロモーターの誘導を示すグラフである。
【図12】キノン型及びキノール型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の平衡を示す式である(Rは、親油性イオン(「スクラチェフイオン」)に接続されているリンカー基である)。
【図13】ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤PDTPの改良された合成法のスキームである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
医薬物質−医薬製剤の成分として用いるために製造され且つ薬局方の要件を満たす物質。
スクラチェフイオン−ミトコンドリア膜を貫通できる親油性カチオン及びアニオン。
ミトコンドリアアドレス型(mitochondria-addressed)抗酸化剤(MAA)−ミトコンドリアを標的として(targetedly)ミトコンドリア中に蓄積でき且つ抗酸化活性を有することができる化合物。
【0008】
本発明の態様を以下に示す:
I.本発明は、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤(MAA)をベースとする医薬物質の製造、関連臨床課題に最も良く対応する特異的なMAAの設計及び選択を対象とする。詳細には、本発明は、抗酸化剤がリンカー基を介して親油性カチオン(「スクラチェフイオン」)に結合されているMAA化合物に関する。これらのMAAは、下記一般式(I)によって表すことができる:
一般式(I):化合物の構造
【0009】
【化1】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達(targeted delivery)を可能にする標的化基(targeting group)である]。
【0010】
前記式において、
Aは、一般式(II)
【0011】
【化2】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【0012】
【化3】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lは、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bは、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基である。
【0013】
c)更に、Bの成分としてのSk+は、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【0014】
【化4】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよい。残りの置換基R1、R2、R3又はR4は、化合物の必要な性質に従って、特に分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+は、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指す。
【0015】
一般式(I)のMAAに属する生物活性化合物の構造の例を、下記スキームに示す。
【0016】
SkQ1(プラストキノニル−デシル−トリフェニルホスホニウム(PDTP)ブロミド)
【0017】
【化5】
【0018】
場合によっては、本発明の一実施形態において、エフェクター部分Aとして酸化促進剤、特に、下記構造:
【0019】
【化6】
によって表されるデスメトキシユビキノン又はイオノールを用いている式(I)の化合物を使用することが望ましい。
【0020】
式(I)の対応する化合物は、ミトコンドリアアドレス型酸化促進剤となる。
【0021】
II.選択のための方法及びアプローチ
本発明の別の態様は、特異的なミトコンドリアアドレス型化合物の設計及び/又は選択方法である。
【0022】
II.a 新規ミトコンドリア抗酸化剤の設計方法
前記化合物の化学的、物理化学的及び生物学的性質の研究により、化合物(I)の種類に属する化合物の設計のための新しいアプローチを提示することが可能になった。提示したモデルを用いれば、所定の性質を有する新規ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の構造を設計することが可能である。
【0023】
提示した、本発明の化合物の設計モデルを一般的に表す化合物の設計スキームを、下記スキームに示す:
新規ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の設計モデルのスキーム
【0024】
【化7】
[式中、P1は、化合物の安定性及び生物活性を担う位置である]。
この炭素原子が置換基を有さない場合には、このような物質は、抗酸化剤としては最大限に効果的であるが、比較的不安定である。その1つの例が、MitoQよりも10倍強力な抗酸化剤であるSkQ1である。しかし、MitoQのP1位にメチル基が存在すると、SkQ1に比較して安定となる。リンカー「Link」の組成も、物質の安定性に影響を及ぼす可能性がある。例えば、物質の安定性は、エステル結合、ペプチド結合、スルフィド基又は他の反応性基を「Link」に導入することによって変化させることができる。
【0025】
P2位及びP3位は、ミトコンドリア呼吸鎖との相互作用の調節に関与する。これらの炭素原子の一方が置換基を有さない場合には、このような物質はミトコンドリア呼吸鎖によって還元できず、このため、化合物は酸化促進剤に転化される。この位置の置換基の一方又は両方の構造により呼吸鎖が対応化合物を還元及び/又は酸化できない場合にも、同じ効果を達成できる。
【0026】
同じP2位及びP3位の置換基は、化合物の酸化促進性と抗酸化性との比に影響を及ぼすことができる。P2位及びP3位に酸素原子が存在する場合には、還元又は部分還元(キノール又はセミキノン)型の抗酸化剤中のキノールのOH基の水素原子との内部水素結合を形成できる。このような水素結合は、P2及びP3位に酸素原子が存在しない(例えば、メチル基が存在する)化合物と比較して、物質の抗酸化性を大幅に減少させる遊離基及び反応性酸素種との反応においてOH基の酸化を妨げることができる。これによって、SkQ1及びMitoQにおけるこれらの性質の違いを説明できる。
【0027】
P4は、生物活性物質の貫通能に関与する位置である。ミトコンドリア中への貫通能は、化合物の電荷及び疎水性に依存する。例えば、人工膜での実験は、P4位にトリフェニルホスホニウムを有する化合物は、P4位により疎水性のカチオン−ローダミンG部分が存在する物質よりも貫通能が低いことを示している。
【0028】
「Link」は、化合物の性質に劇的な影響を及ぼすこともできる構造要素である。リンカー「Link」の長さ及び組成は、化合物の貫通能に影響を及ぼすことができる(図2)。リンカーの長さの減少及びリンカーの疎水性の増加は、化合物の貫通能を低下させる。また、リンカー「Link」の組成を修飾すると、化合物の安定性を変化させることができる。エステル結合、ペプチド結合、C−C結合より安定でない他の結合をリンカーに導入すると、化合物は、エステラーゼ、ペプチダーゼなどの細胞性酵素の攻撃を受けやすくなることができる。また、この要素の長さを変化させると、化合物とミトコンドリア呼吸鎖との相互作用の可能性を決定する重要な因子である二重層膜内の分子の疎水性部分(抗酸化性部分)の位置を変化させることができる。
【0029】
したがって、本発明の一態様は、予測される生物活性を有するミトコンドリアアドレス型化合物の構造(設計)を作成する方法に関する。生物活性は、ミトコンドリアに対する抗酸化効果、酸化促進効果、脱共役効果、生体膜の性質の変化、種々のメッセンジャーによる種々のレベルでの調節効果(遺伝子発現の調節、タンパク質活性の調節、生体のホルモンプロフィールの調節など)を含む、生体系及び生体系のモデル(例えば、人工的な無細胞系、細胞成分分画及び細胞内小器官、細胞、組織及び器官の部位又は全生物)に対する影響と定義する。
【0030】
II.b コンビナトリアルライブラリーを用いる化合物の設計方法
本発明の別の態様は、ミトコンドリアアドレス型化合物のコンビナトリアルライブラリー及びこのライブラリーから有望な化合物を探索及び選択する方法に関する。前記ライブラリーは、実際にミトコンドリアを標的としてミトコンドリア中に蓄積できる一般式(I)の化合物のセットである。ライブラリーのための化合物は、例えば、「活性化」残基、例えば、化合物の可変部分の結合を行うハロゲンを有する、リンカーに接続されている親油性カチオンである一般的部分(リンカーの部分)に基づいて合成できる。すなわち、ミトコンドリアアドレス型化合物のライブラリーは、非アドレス型低分子量化合物をライブラリーの親油性カチオンに結合させることによって得ることができる。
【0031】
II.c 本発明の別の態様は、所望の活性を有する化合物を選択するためにライブラリーの化合物の生物活性を試験する方法(この方法は自動化又は半自動化されている場合を含む)である。前記方法は、下記ステップ:
1)前記ライブラリーからの候補物質の群の選択を可能にする試験ステップと、
2)選択された物質及びもしあればそれらの修飾形態(modification)に基づくコンビナトリアルサブライブラリーの構築ステップと、
3)最も明白な、望ましい生物活性を有する化合物を選択するためのサブライブラリーの試験ステップと、
4)化合物の可能な全ての変種(variant)が試されるか又は望ましい生物活性が得られるまで、ステップ1〜3を繰り返すステップと
を含む。
【0032】
人為的結果の確率を著しく低減できる、ステップ1及び3における生物活性を試験するためのいくつかの方法の組み合わせが最も有効であることに留意すべきである。生化学、生物物理学、生体エネルギー学、微生物学、分子生物学、細胞生物学の分野又は近代生物学の他の分野の適格な専門家にならば、公的に入手可能な文献データに基づいて、本発明の説明中に記載したコンビナトリアルライブラリー及び方法を用いた作業方法に、具体的な試験方法を適合させることができる(「試験方法」、「結果の解釈方法」、「実験例」のセクションを参照のこと)。該当するセクションに示す実験例は、「個々の試験管中における」ミトコンドリアアドレス型化合物の活性の試験方法であり、生産性の高い方法によって標準的なアプローチを用いてコンビナトリアルライブラリーの試験に容易に適合させることができる。
【0033】
III.試験方法
本発明の別の態様は、一般式(I)の新規ミトコンドリアアドレス型化合物の生物活性を試験するのに使用する一連の試験方法である。この試験化合物は、個別にも、コンビナトリアルライブラリーの一部としても研究できる。前記の一連の試験方法は以下の方法を含む:
1)一般式(I)の化合物の酸化還元特性及び安定性のインビトロ試験、
2)人工黒膜に対するミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能の試験、
3)グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いる、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験、
4)単離したミトコンドリアに対するミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化効果又は酸化促進効果の試験、
5)動物、植物、細菌又は酵母細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化作用又は酸化促進作用の試験、
6)細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗アポトーシス活性若しくは抗壊死活性又はアポトーシス促進活性若しくは壊死促進活性の試験、
7)細胞内へのミトコンドリアアドレス型化合物の蓄積の試験、
8)ミトコンドリアアドレス型化合物の特異活性の試験(前記特異活性は、いくつかの代謝経路を活性化又は抑制し、次にそれが、転写レベルでのいくつかの遺伝子の活性化の形で、リン酸化又は脱リン酸化、タンパク質分解、グリコシル化、カルボニル化及びタンパク質又はタンパク質複合体の活性を変化させる他の方法を含むタンパク質修飾のレベルでのmRNA安定性又は翻訳の形で現れることができ;代謝経路の活性化又は阻害はまた、細胞の他の生理的パラメーターの変化、例えば、呼吸数の変化、いくつかの代謝産物の産生速度の変化、いくつかの基質の消費速度の変化、外膜に対する、ミトコンドリア膜若しくは他の小器官の膜に対する膜電位の変化、1種若しくは複数の膜のイオン電導度の変化、細胞質若しくは他の細胞コンパートメント中のpH変化を含むいくつかのイオンの濃度変化、生体分子、小胞及び小器官の細胞内輸送の変化、細胞周期中の変化、細胞分裂、細胞形質転換、細胞死又は逆にそれらの存続(survival)をもたらす変化の形で現れることもできる)、
9)動物又は植物における一般式(I)の化合物の生物活性のインビボ試験(前記試験は、試験コンビナトリアルライブラリーを最初に試験するステップでは適用できず、限定された数の化合物の研究にのみ適用できる)。
【0034】
したがって、本発明の態様は、一般式(I)の新規化合物の性質を研究するために適用する、例えば、前記化合物の展望を予想するための、前記の各試験である。前記展望は、医学、バイオテクノロジー、化粧品学における前記化合物の実用的用途の展望と定義する。
【0035】
IV.結果の解釈方法
本発明の別の態様は、医学、バイオテクノロジー、化粧品学における候補化合物の実用的用途の展望を予想し且つ最も有望な化合物を選択するための、一般式(I)の化合物の試験中に得られる結果の解釈方法である。
【0036】
前記方法の主要素は、候補化合物の試験結果を、「実験例」のセクションに記載した化合物SkQ1の試験結果と比較することである。したがって、SkQ1はかなり有効な生物活性化合物であって、医薬、バイオテクノロジー、化粧品学において適用できる(PCT/RU2006/000394、PCT/RU2006/000546、PCT/RU2006/000547及びSkQ1に関する他の公表文献を参照のこと)ので、SkQ1に関するデータを、起点、定点、一般式(I)の他の化合物の有効性を予測するための基準とみなすことができる。
【0037】
化合物SkQR1、MitoQ、MitoVitE、DMMQは、活性の比較の他の基準として役立つことができる。試験化合物は、ミトコンドリア呼吸鎖によって、好ましくは呼吸鎖の酵素及び補酵素によって還元できるのが好ましく、試験化合物において抗酸化性が酸化促進性よりかなり優勢であるのが好ましい。
【0038】
したがって、化合物MitoVitE及びDMMQは、一種の「負の」定点であり、最も有望な化合物−抗酸化剤、同様な生物活性(ミトコンドリアに対する試験レベルから出発する)を有する化合物の選択時には、回避すべきである。化合物MitoQも「負の」定点である。
【0039】
性質の試験に基づく新規化合物の選択時には、活性がMitoQよりもSkQ1に近い化合物を選択すべきである。最初に、活性を、低濃度及び超低濃度において抗酸化性を示す能力と定義する。ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤は、用量の増加につれて、種々の生物学的対象に対して強力な酸化促進効果を有する(「実験例」及びまた、Doughan A.K.、Dikalov S.I.(2007)、Antioxid. Redox Signal.9:1825〜36を参照のこと)。比較的低い用量では、これらの化合物は抗酸化性を示す。
【0040】
したがって、化合物−ミトコンドリアアドレス型物質の最も重要な特性は、いわゆる「適用ウインドウ」、すなわち、既に抗酸化性を示す物質の最低濃度(最小用量)と酸化促進性を示す物質の最低濃度(最小用量)との差である。後者を超える濃度(用量)は、物質の実際的応用には極めて不所望であり、このような適用の可能性を著しく制限する可能性があることは明らかである。種々のレベルで「適用ウインドウ」を評価する方法を、「実験例」のセクションに示してある。十分な「適用ウインドウ」をSkQ1は有するがMitoQは有さないので、1対の化合物SkQ1−MitoQは、試験化合物の展望の評価に好適な定点として役立つことができる。
【0041】
化合物の試験結果の解釈方法を以下に示す。この方法はいくつかの段階に分割される:
1)インビトロにおける物質の性質の試験(「試験方法」のセクションの試験1、2、3)の結果に基づき、試験化合物の抗酸化性及び酸化促進性を推定でき;これにより、抗酸化剤又は酸化促進剤の使用が有用な分野におけるそれらの適用可能性を予測でき;また、インビトロ試験により、候補化合物に生体膜を貫通する能力があるかどうかを判断でき、したがって、化合物のバイオアベイラビリティー、生体中の種々の関門(例えば、血液脳関門)を乗り越える化合物の能力及び化合物の安定性を予測できる;
2)本発明の一態様である試験結果の解釈例は、「実験例」のセクションに示してあり;生化学、生物物理学、生体エネルギー学、微生物学、分子生物学、細胞生物学の分野又は近代生物学の他の分野における適格な専門家ならば、前記例及び対応する解釈に基づき、候補化合物の試験結果を正確に評価し、要求される実際的応用に最も有望で、最も適当な化合物を選択できる。
【0042】
本発明の実現可能性及び提示モデルの精度を確認するために、新規ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤SkQ3、SkQ4、SkQ5及びSkQB1を合成した。
【0043】
V.本発明によって展望を予測する化合物の例:
SkQ3:
【0044】
【化8】
【0045】
予測事項(specification):この化合物は、SkQ1と比較して安定でなくてはならないが、抗酸化性がより明白であってはならない。この化合物は、植物バイオテクノロジー、菌類学及び微生物学において使用できる。
【0046】
SkQ4:
【0047】
【化9】
【0048】
予測事項:生体膜を貫通する能力がより低い(SkQ1と比較して)。その結果、製剤のバイオアベイラビリティー及び副作用の重症度は低下していなければならない。
【0049】
SkQ5:
【0050】
【化10】
【0051】
予測事項:「スクラチェフイオン」と抗酸化剤との間のリンカーの長さの減少が、化合物の疎水性を低下させ、化合物の膜貫通速度に影響を及ぼすことができる。
【0052】
SkQ1と比較して貫通能が増大している一連のSkQB化合物。前記の一連のSkQB化合物は、天然化合物、例えば、ベルベリンを「スクラチェフイオン」として使用している化合物を全て含む。SkQB系の化合物(例えば、下記式のSkQB1)は増大した貫通能を有し、したがって、医薬の観点からより有望であり、血液脳関門及び血液眼関門を通り越す能力がより大きい。また、ベルベリン(及びパルマチン)は植物由来の天然化合物であるので、SkQB系の化合物の副作用はより重症でない。
【0053】
【化11】
【0054】
一般に、ベルベリンをベースとするSkQBは、下記一般式で表すことができる:
【0055】
SkQB:
【0056】
【化12】
[式中、mは0〜3の整数(好ましくは2、すなわち、式の左側はプラストキノン部分である)であり、Lは、1)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;2)天然イソプレン鎖を含む、1〜50単位の長さのリンカー基である]。
【0057】
好ましくは、Lはデカン部分である。化合物式の右側は、その構成原子の1つによってリンカーLに結合しているベルベリン部分である。この結合は、C−C、C−O、C−N、C−S結合、例えば、エステル結合、ペプチド結合、ジスルフィド結合を介して行える。例えば、この結合は、ベルベリンのメトキシ基の1つを置換することによってエーテル結合を介して行える。
【0058】
SkQB系の化合物において、ベルベリンの代わりにパルマチンを使用できる。
【0059】
また、ベルベリン及びパルマチンをベースとする好ましい化合物は、以下の化合物である:
【0060】
【化13】
【0061】
前記化合物の合成方法並びに化学的性質及び生物活性の説明は、「実験例」のセクションに示してある。
【0062】
VI.ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤をベースとする医薬物質
本発明の一態様は、医療におけるMAA系医薬物質の使用を可能にする、特に以下の指標を含む規定文書(regulatory document)のパラメーターである:
1.特に、
a.所与の波長範囲における分光光度法、及びMAA試料の分光光度法の研究の結果との比較、
b.赤外分光法(漏れ内部全反射(Frustrated Total Internal Reflection)法によって取得された物質の赤外線スペクトルの吸収バンドは、包含スペクトルの吸収バンドと、バンドの位置及び強度が一致しなければならない)、
c.臭化物に対する反応(クロロホルム層は黄変しなければならない)
によって測定される確実性、
2.HPLC法によって測定される不純物含有量(個々の不純物の含有量は1.5%以下である。総不純物含有量は4.0%以下である)、
3.重金属含有量(0.001%以下である)、
4.残留有機溶媒含有量(エタノール、メタノール及びクロロホルムなどの溶媒)
5.無菌性、
6.その物質の定量化、
7.包装、ラベル表示及び保管の方法、
8.確定された使用期限。
【0063】
実際に、物質SkQ1、SkQR1、MitoQなどを含む既知のキノン含有ミトコンドリアアドレス型化合物(前記を参照のこと)は、主に1つの酸化(キノン)型である。通常条件下では、酸化型はキノール型に部分還元できる(図12を参照のこと)。したがって、MAAを医薬物質として使用する場合には、含有量が5〜8%及びそれ以上に達する可能性がある主な不純物は、MAAの還元型である。還元型は化学的不安定性が高く及び複雑な酸化還元転移を受ける傾向があるため、還元型の単離及び詳細な研究は困難な課題である。
【0064】
他方、標準的なクロマトグラフィー精製法によって還元(キノール)型を含まないキノン型での医薬物質MAAの製造は、これらの化合物の類似性のために困難である。
【0065】
前記系のMAA製剤の精製法が直面する第2の問題は、特徴的な対イオン、例えば、臭化物イオンを保存する必要性である。イオン交換クロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の通常の条件は、前記の不安定な化合部物に関しては厳しすぎ、対イオンを初期構造に保存する保証はない。
【0066】
したがって、MAA系の製剤を単離及び精製するための既存の方法及び技術は、このような型の医薬物質に必要な純度パラメーターを提供しない。
【0067】
本発明において、前記問題は、
方法1:塩を含まない非緩衝移動相系中における、最終段階−製剤の高濃度溶液のゲル濾過での非標準HPLCの使用、
方法2:有効な酸化誘導剤として又はキノン−キノール平衡中におけるキノン型の競合的置換基として作用する無極性溶媒中で作用剤の形態の還元型のMAAの「分子トラップ」の使用
によって解決できる。
【0068】
したがって、本発明の別の態様は、方法1及び/又は方法2を含む、医薬物質に適当な形態でのMAAの製造方法である。
【0069】
VII.本発明の別の態様は、キノンをベースとするMAAを合成するための改良法である。この改良法は、より安価で、より入手しやすい成分を用いるMMAの工業的製造(合成)を可能にし、特に、プラストキノニル−デシル−トリフェニルホスホニウム(PDTP)ブロミド及びプラストキノンの他の誘導体の合成の場合には、ジメチルヒドロキノンではなく2,3−ジメチルフェノールを最初の試薬として使用できる。この合成は以下のステップ:
1.ジョーンズ(Jones)試薬による、2,3−ジメチルフェノール(1)の2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)への酸化、
2.トリフェニルホスフィンへの11−ブロモ−ウンデカン酸(3)結合と、それに付随する(10−カルボキシ−デシル)トリフェニルホスフィンブロミド(4)の形成、
3.硝酸銀及び過硫酸アンモニウムの存在下における、生成化合物(4)と2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)との反応による目的化合物(5)の形成
を含む。
【0070】
合成の一般的スキームを図13に示す。より詳細には、合成は、実験例8に記載する。
【実施例】
【0071】
実験例
以下は、新規ミトコンドリアアドレス型化合物の開発への本発明の適用可能性を説明することを目的とする実験例である。実験(試験)の結果はまた、当分野の専門家が、本発明を用いて開発した(又はコンビナトリアルライブラリーから選択した)新規化合物の展望を評価して新規ミトコンドリアアドレス型化合物を探索するための起点となる。これに関連して、実験例は、新規化合物を試験するための方法であるので、「試験」と称する。
【0072】
実験例1。一般式(I)の化合物の酸化還元特性及び安定性のインビトロ試験。
構造(I)に対応する化合物の選択の第1のステップは、それらの酸化還元特性を試験することである。すなわち、このステップにおいては、所定の酸化促進性及び抗酸化性を有する物質を選択できる。抗酸化性を有する可能性のある化合物を選択する最も簡単な方法は、キサンチンとキサンチンオキシダーゼとの反応において形成された酸素又はスーパーオキシドによって酸化されるそれらの能力を試験することである。還元型のSkQ1及びMitQの経時的安定性を、複光束Pye Unicam SP 1100分光計(英国)を用いて記録された240〜310nmの範囲の前記化合物の絶対吸収スペクトルの分析によって調べた。開発した方法の下で、媒体に含まれる20mM MOPS−KOH(pH=7.6)中テトラヒドロホウ酸ナトリウムによって、キノン誘導体を還元した。参照キュベットはSkQ1もMitoQも含んでおらず、還元剤を両キュベットに加え、水素の放出後に測定を行った。キノンの還元度を、秤量法を用いてピーク面積の大きさによって算定し、267nmの吸収極大の絶対値を比較のために測定した。データは、還元(キノール)型のSkQ1が、酸素への曝露時に、MitoQと比較して、大気中酸素による酸化に対して抵抗性であることを示している(図1A)。したがって、SkQ1は、酸素と自然に相互作用する傾向及びラジカルを形成する傾向がより少なく、このことは、SkQ1の方が細胞に対する毒性が少ないことを潜在的に示している。他方、化合物を酸素によらず、キサンチンオキシダーゼとキサンチンとの反応によって形成されたスーパーオキシドによって酸化した場合には、SkQ1の酸化は、MitoQの酸化よりもはるかに有効であった(図1B)。これは、SkQ1がMitoQと比較して、酸化剤としてはるかに強力であり、その還元(活性)型が大気中酸素による自然酸化に対してより抵抗性であり、スーパーオキシドラジカルに対してより高い親和性を有することを示していると考えられる。
【0073】
実験例2。人工黒膜に対するミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能の試験。
構造(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能を試験するために、濃度勾配に沿って移動する二重層リン脂質膜を貫通するイオンの能力に基づく方法の使用を提示する。二重層膜が、水溶液で満たされた2つのチャンバーを隔てており、これらのチャンバーの一方に試験物質を加える。帯電した物質が二重層膜を貫通できる場合には、高濃度の物質を含むチャンバーから低濃度の物質を含むチャンバーへの急速な拡散が起こり、したがって、膜電位差が作成される。1つの電荷を有しており、膜を容易に貫通できるイオンの場合には、10倍の濃度勾配は60mVの電位を作成できる(ネルンストの式による)。
【0074】
前記方法は、膜の脂質二重層を通過するイオンの能力に関する種々の研究に使用され、Starkov AA、Bloch DA、Chernyak BV、Dedukhova VI、Mansurova SA、Symonyan RA、Vygodina TV、Skulachev VP、1997、Biochem. Biophys Acta、1318、159〜172の論文に詳述された。前記方法を用いて、SkQ1、SkQ3、SkQR1及びMitoQなどの構造(I)のいくつかの物質を試験した。SkQ3及びSkQR1は、5×10−6〜5×10−4M(SkQ3の場合)及び5×10−6〜5×10−5M(SkQR1の場合)の範囲の濃度でネルンストの式に完全に従った。5×10−5Mより高濃度では、SkQR1はネルンストの式に従わなくなる。これは、SkQR1が高濃度で膜に損傷を与える能力によると思われる。SkQ1及びMitoQの勾配は、より高濃度(5×10−5〜5×10−4Mの範囲)で、ネルンストの式に従って電位を作成し始める。したがって、これらのデータに基づき、SkQ1及びMitoQは、SkQ3又はSkQR1と比較して、貫通能が低いと結論づけることができる。この比較的簡易な方法は、最も高い貫通能を有する、すなわち、よりバイオアベイラビリティーの高い化合物の迅速な選択を可能にするので、提示した、構造(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の一次選択の段階において理想的である。
【0075】
化合物SkQB1及びSkQBP1の貫通能も分析した。結果は、前記化合物の高い貫通能を示した(これらの貫通能は、SkQ1の貫通能に引けを取らない)。
【0076】
実験例3。グラミシジンチャネルを含む人工モデル膜を用いる、膜タンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護又は損傷効果。
我々の研究室において、二重層膜、タンパク質透過性(conducting protein)グラミシジン及び光増感剤(Mito Tracker Red、三硫酸化(thrice sulfonated)アルミニウムフタロシアニン又は亜鉛フタロシアニン)からなる簡易な系において化合物の抗酸化活性を研究できる方法を開発した。この方法は、光増感剤分子の光活性化によって生じる反応性酸素種がグラミシジンチャネルに損傷を与え、結果として二重層膜の透過能(conducting ability)を急激に低下できることに存する。光増感剤の他に、グラミシジンチャネルの損傷は、フェントン反応を開始させて、ヒドロキシラジカルのような高反応性酸素種を形成することによっても誘発できる(フェントン反応は、FeSO4、アスコルビン酸塩及びtert−ブチルヒドロペルオキシドの混合物によって開始される)。前記方法を用いて、化合物SkQ1、SkQ3及びMitoQを試験した。図3Aは、短閃光によるフタロシアニンの光活性化が、二重層膜中のグラミシジンチャネルの損傷によって膜透過性(membrane conductance)を急激に低下させることを示している。膜透過性の低下は、アジ化ナトリウム(一重項酸素を捕捉する高効率の系)によって及び酵素スーパーオキシドジムスターゼ(この酵素は、比較的低活性の過酸化水素へのスーパーオキシドの転化を触媒する)によって有効に阻止された。アジ化ナトリウムもスーパーオキシドジムスターゼも、二重層膜の透過性の低下を完全には防止しない。この事実は、フタロシアニンの光活性化が、一重項酸素及びスーパーオキシドのいずれの発生にも関係することを示している。このモデルでは、SkQ1が最も効果的であった。これは、SkQ1が、種々の反応性酸素種を防ぐ広域スペクトルの抗酸化剤であるためである。FeSO4、アスコルビン酸塩及びtert−ブチルヒドロペルオキシドの混合物によってグラミシジンチャネルの損傷を刺激する別のモデルでも、SkQ1が最も効果的であり、MitoQ及びSkQ3は、それより効果の少ない抗酸化剤のようであった(図3B)。
【0077】
合成化合物の抗酸化能を試験するために使用するこの方法は高効率であり、化合物の抗酸化活性を評価できるだけでなく、特定の反応性酸素種に対する化合物の特異性を判定することができる。前記方法の参照物質としては、広範囲の反応性酸素種に対して抗酸化活性を示す最も効率的な化合物としてSkQ1を使用するのが正しいであろう。
【0078】
実験例4.単離したミトコンドリアに対するミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化効果又は酸化促進効果の試験。
ミトコンドリアを研究対象とする方法は多い。我々は、一般式(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の可能な生物活性を高い確度で測定できる情報的に最も有益な方法を選択した。
【0079】
i)一般式(I)の化合物がミトコンドリア中に蓄積する能力の試験。
一般式(I)の化合物がミトコンドリア中に蓄積する能力を、テトラフェニルホスホニウム選択性電極を用いて試験した。前記方法は、親油性カチオンであるテトラフェニルホスホニウムを標的基として用いる一般式(I)の化合物に対してのみ使用できる。この電極を用いると、ミトコンドリアマトリックスと媒体との間のテトラフェニルホスホニウムカチオン(又はこのカチオンを含む化合物)の分布を測定できる。図4は、SkQ1が15〜20分以内にミトコンドリア中に蓄積することを示している。酸化リン酸化脱共役剤FCCPによって引き起こされるミトコンドリア膜電位の低下により、ミトコンドリアから放出されるSkQ1は比較的わずかである。SkQ1は親油性カチオンである(SkQ1に関するオクタノール/水分布比は20000/1)であるので、SkQ1の主な量は、ミトコンドリアの通電レベルと無関係にミトコンドリア膜に蓄積する。SkQ1の代わりに親油性のより低いSkQ5を用いる場合には、エネルギーと無関係な蓄積のレベルは著しく低下する。前記方法により、ミトコンドリアへの一般式(I)の化合物の蓄積効率、ミトコンドリアの機能状態へのそれらの蓄積速度の依存度を調べることができ、試験化合物の可能なバイオアベイラビリティーを予測できる。
【0080】
ii)ミトコンドリア呼吸鎖による一般式(I)の化合物の被還元能力の測定。
本発明において提示するミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の重要な利点は、ミトコンドリア呼吸鎖によるそれらの被還元能である。ミトコンドリア呼吸鎖による一般式(I)の化合物の還元を研究するために、ラット肝臓ミトコンドリアの単離媒体中、呼吸基質の存在下での化合物の酸化型と還元型の比の変化速度を測定した。測定はミトコンドリアの存在下で行った。実験は、SkQ1はミトコンドリア呼吸鎖によって還元できることを示した。種々の酸化基質の使用により、SkQ1は複合体I(ミトコンドリアはグルタミン酸塩及びリンゴ酸塩によって通電された)及び複合体II(酸化基質はコハク酸塩であった)によって還元できることが示された(図5A)。内在性基質の影響を排除するために、複合体Iの阻害剤、ロテノン及び複合体IIの阻害剤、マロン酸塩を用いた。ロテノンの存在下におけるマロン酸塩による複合体IIの阻害は、SkQ1の酸化を刺激した。これはおそらくは複合体IIIによるものであった。ミキソチアゾールによる複合体IIIの阻害が次に、その酸化を防止した。このことは、複合体IIIがSkQ1を酸化する能力を裏付けている(図5B)。複合体IIIによるSkQ1の酸化は、複合体I及び複合体IIによるSkQ1の還元よりもはるかに遅い(図5B)。これらのデータから、通電されたミトコンドリアにおいては、SkQ1はほとんど、還元状態(キノール型)にあり、この状態ではSkQ1は抗酸化性を示すことがわかる。
【0081】
したがって、前記方法により、ミトコンドリア呼吸鎖による一般式(I)の化合物の被還元能力を研究でき、更に、前記データに基づき、試験化合物の酸化促進性又は抗酸化性を予測できる。
【0082】
iii)FeSO4及びアスコルビン酸塩の混合物によって誘発されたミトコンドリアの酸化的ストレス条件下における、一般式(I)の化合物の抗酸化活性の試験。
ミトコンドリア、細胞培養物又は組織の酸化的ストレスを測定するために最も広く使用されている方法の1つは、マロンジアルデヒドの定量方法である。酸化的ストレスは、このような場合、種々の方法によって:tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化水素、キサンチン/キサンチンオキシダーゼ、硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとの混合物などによって誘発できる。実験では、酸化的ストレスを開始するために、硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとの混合物を用いた。ミトコンドリア代謝においては、若干量のH2O2が形成されるが、これは種々の抗酸化系によって迅速に利用されるので生理的条件下では危険ではないことがわかっている。硫酸第一鉄とアスコルビン酸カリウムとを組み合わせて、ミトコンドリアを含む媒体に添加すると、第一鉄イオンとH2O2との反応(フェントン反応)が起こって、高反応性ヒドロキシルラジカルが形成される(Fe2++Н2O2→Fe3++・OH+−OH)。そして次に、ヒドロキシルラジカルが膜内の不飽和脂肪酸と反応し、それらのフリーラジカル酸化を刺激し、最終的にマロンジアルデヒドが蓄積される。このようなモデルは、一般式(I)の化合物を含む種々の抗酸化剤の有効性の研究によく適している。図6は、SkQ1の抗酸化活性の試験の結果を示している。図6に示されるように、SkQ1の最大の酸化活性は20〜50nMの濃度で既に現れている。ミキソチアゾール(複合体IIIの阻害剤)をミトコンドリア懸濁液に添加すると、複合体IIIによるSkQ1の酸化が防止され、SkQ1の抗酸化能が大幅に改善される。これらの結果は、SkQ1の抗酸化能を裏付け、更には、ミトコンドリア呼吸鎖による抗酸化剤の被還元能の重要性を示している。
【0083】
したがって、高精度でのマロンジアルデヒドのこの定量的測定方法は、試験化合物の酸化促進性又は抗酸化性の予測及びそれらの有効濃度の試験を可能にする。
【0084】
実験例5。動物、植物、細菌又は酵母の細胞培養物中におけるミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化作用又は酸化促進作用の試験。
細胞培養物中の化合物の生物活性を試験するための多数の異なる方法があることを前提として、このセクションは、簡潔性及び情報的有益性のために、一般式(I)の化合物を最初に試験するのに最も適当な方法のみを記載するものとする。
【0085】
a.動物細胞培養物におけるミトコンドリアアドレス型化合物の作用の試験。
ヒト子宮癌細胞株HeLa並びに肺及び皮膚に由来する正常ヒト二倍体線維芽細胞を、一般式(I)の化合物の抗酸化能の酸化モデルとして選択した。化合物の抗酸化能の試験は、細胞蛍光測定法及び蛍光顕微鏡法を用いて実施した。各細胞培養物の予備実験において、著しい(60〜80%の)細胞アポトーシスを引き起こすが目に見える壊死の兆候が認められないH2O2の最適濃度を選択した。アポトーシス細胞において起こるクロマチン凝縮及び断片化を確認するために、蛍光色素ヘキスト(Hoechst)を用いた。この色素を、1μg/mlの濃度で、30分間のインキュベーションの最後に生細胞又は固定細胞に加えた。壊死の確認には、濃度2μ/mlの蛍光色素ヨウ化プロピジウム(PI)を非固定細胞に加えた。アポトーシス細胞及び壊死細胞の百分率を、核が断片化されている細胞の数及びヨウ化プロピジウムに対して透過性のある細胞の数をそれぞれカウントすることによって求めた。
【0086】
貫通性ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤を用いる実験において、化合物の貫通能によっては、細胞培養物からミトコンドリア中への蓄積に必要な時間が異なることがあることを承知する必要がある。
【0087】
特に、我々は、細胞をSkQ1及びMitoQと共に5〜7日間インキュベートする場合のみ、SkQ1及びMitoQがH2O2に対する細胞の抵抗性を増加させることを示した。ミトコンドリア膜電位の低下を引き起こす酸化的リン酸化脱共役剤FCCPは、SkQ1及びMitoQの保護効果を防止した。これは、試験化合物が実際にミトコンドリアにアドレスすることを示す重要な対照である。SkQ1及びMitoQは、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤であり、極めて低濃度でそれらの効果を発揮する。特に、SkQ1は、濃度0.2nMでも保護効果を発揮する(図7)。図7は、SkQ1がMitoQと比較してはるかに有効に細胞を死から保護する、すなわち、SkQ1がより有効な抗酸化剤であることを示している。全ての抗酸化剤と同様に、SkQ1及びMitoQには限界濃度があり、限界濃度より高濃度ではSkQ1及びMitoQは酸化促進活性を示し、特に、SkQ1及びMitoQは、0.5μMより高い濃度で酸化促進活性を示し、H2O2によって誘発される細胞死を刺激する。
【0088】
H2O2によって刺激される酸化的ストレスのレベルを測定するために、細胞を蛍光色素DCF−DA(2’,7’−ジクロロ−ジヒドロフルオレセインジアセテート)で染色し、次いで、色素の蛍光レベルを細胞蛍光測定器によって測定した。この方法により、細胞をSkQ1又はMitoQと共に1〜5時間インキュベートしても、細胞のH2O2誘発酸化的ストレスは防止されないことが示された。同時に、より高い貫通能を有するSkQR1(疎水性カチオン−ローダミンG部分が、テトラフェニルホスホニウムの代わりに標的基として使用された)は、所与の時間ウインドウ内で、SkQ1と比較して低濃度で既に抗酸化活性を有する(図8A、B)。SkQ1(図9)及びMitoQ(図示せず)は、細胞と共に5〜7日間インキュベート後に、抗酸化性を示した。もたらされる時間依存性は、SkQR1、SkQ1及びMitoQの貫通能とよく相関している(これらのカチオンの貫通能は、以下の順で表すことができる:SkQR1>SkQ1>MitoQ)。
【0089】
したがって、前記方法により、酸化的ストレスによって引き起こされる死から細胞を保護する一般式(I)の化合物の能力を確認できる。更に、前記方法は、一般式(I)の化合物をベースとする製剤の治療量及び投与時期の予測に役立つことができる。
【0090】
b.大腸菌(Escherichia coli)細胞におけるミトコンドリアアドレス型化合物の作用の試験。
一般式(I)のミトコンドリアアドレス型化合物の酸化促進性及び抗酸化性を試験するために、大腸菌(Escherichia coli)細胞における酸化的ストレスの測定方法を開発した。この目的で、細菌細胞における酸化的ストレスに対する貫通イオンの効果を研究するための、細菌ルシフェラーゼをコード化するluxAB遺伝子をベースとするバイオセンサーシステムを作成した。ルシフェラーゼは、分子遺伝学(レポーター遺伝子)、生化学分析(例えば、微量のATPの測定)、遺伝子操作作業(選択)、バイオテクノロジー及び生態学(バイオセンサー)などについての研究に、現在広く用いられている。高感度、ルミノメーター又はシンチレーションカウンターを用いる光信号の検出の容易さ、酵素ルシフェラーゼの量と生物発光強度との数オーダーの範囲内での比例関係、インビトロ及びインビボの両方での測定可能性(細胞の損傷を生じない)並びに他の有益性が、種々の遺伝子検査及び生化学検査へのルシフェラーゼ遺伝子の応用を支持している。開発した方法においては、陸生細菌フォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)由来のルシフェラーゼをコード化する遺伝子を用いた[1]。グラム陰性細菌であるフォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)は、昆虫病原性線虫の共生生物である。フォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)由来のルシフェラーゼは、高い熱安定性(45℃の温度まで活性であり続ける)を特徴とし、そのため、lux遺伝子はレポーターとして使用しやすい。
【0091】
水、土壌、食品、空気などの中の汚染化学物質(毒物)を試験するために、lux−バイオセンサーは、2つの変形:
1)毒物による生物発光の消失に基づくもの、
2)毒物による生物発光強度の誘発(増加)に基づくもの
が現在使用されている。
【0092】
第1の変形に関連する方法は、細胞代謝に対する、主に呼吸鎖に対する毒性物質の阻害効果のメカニズムの使用を含む。これは、ルシフェラーゼ反応に間接的に影響を及ぼし、細胞懸濁液の生物発光強度を減少させる。
【0093】
第2の変形に関する方法は、毒物によって誘発される細胞の生物発光の強度の誘発(増加)に基づく。これらの方法は、進化の過程で細菌が作り出した、環境中の特定化学物質の存在に特異的に応答する特異的な調節エレメントを使用するための種々の選択肢を含む。前記群のバイオセンサーは、受容体タンパク質(リプレッサー又はアクチベーター)と化学物質(chemical compound)との相互作用に基づくので、特異性と高感度の両方を提供する。細菌においては、1)細胞膜、2)タンパク質、3)染色体(DNA)及び4)細胞における酸化的ストレスの誘発に作用する毒物に特異的に反応する調節系を区別できる。更に、細菌は、重金属及び砒素イオンに特異的に反応する調節系を有する。grpE:PgrapEプロモーターは、細胞タンパク質に作用する毒物(例えば、種々のフェノール誘導体、アルコール)のバイオセンサーとして使用できる。前記プロモーターは、熱ショック遺伝子の上流の細菌ゲノム中に位置し、修飾された変性タンパク質が細胞中に存在する場合にのみ活性化される。PrecASOSプロモーターは、DNA−指向性(DNA-tropic)作用剤(マイトマイシンC、メタンスルホン酸メチル、ダイオキシン並びに紫外線及び電離放射線)に対するバイオセンサーとして使用する。LexAタンパク質はリプレッサーである。PrecAプロモーターは、ゲノムの損傷、すなわち、DNA分子の損傷の誘発時にのみ活性化される。細胞中で酸化的ストレスを誘発する(細胞中でヒドロキシルラジカル(OH)、スーパーオキシドイオンラジカル(O2−)、過酸化水素(H2O2)を形成する)物質の検出には、PkatG及びPsoxSプロモーターを使用する。PkatGプロモーター(アクチベーターOxyR)は、過酸化水素、有機過酸化物などに特異的に反応する。PsoxSプロモーターは、スーパーオキシドイオンラジカルが環境中に生じた場合に活性化される。前記誘導プロモーターをベースとして、lux−バイオセンサーを開発した。
【0094】
開発した方法で使用する、対応する調節領域を有するプロモーターは全て、大腸菌(Escherichia coli)K12 MG1655細菌のゲノムから、特異的な合成プライマーを用いてPCR法によって得た。pBR322レプリコン及びアンピシリン(選択マーカー)に対する耐性に関与するbla遺伝子を有する非プロモーター(non-promoter)ベクターをベクターとして用いた。プラスミド中へのプロモーター領域の埋め込み(embedding)は、EcoRI−BamHI部位において実施した。5つの遺伝子からなるフォトラブダス・ルミネッセンス(Photorhabdus luminescens)のluxオペロン、luxCDABEをluxカセットとして選択した。
【0095】
全てのバイオセンサーを、一般式(I)のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤を扱うための適合性について試験した。
【0096】
それにより、一般式(I)のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤、特にSkQ1及びMitoQが、酸化的ストレスに何であれ関連するバイオセンサーに対して高い特異性を有する可能性が最も高いことが判明した。これは、SkQ1及びMitoQの構造がキノン誘導体を含み、高効率で荷電膜内に蓄積するためである。したがって、pLUX::PkatG及びpLUX::PsoxSバイオセンサーの使用が最適であると思われる。酸化的ストレスにおけるDNA損傷の固定化及びこのプロセスに対する貫通イオンの効果は、pLUX::PrecAバイオセンサーを使用する場合に可能である。pLUX::PgrpE及びpLUX::Placバイオセンサーは見かけ上、正及び負の対照として使用されるであろう。
【0097】
試験の第1相で、発光の最大誘発が起こる酸化的ストレスの誘発条件を選択した。図10は、H2O2及びパラコートがバイオセンサーの生物発光を誘発できることを示している。H2O2の存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PkatG中における発光の誘発は、15分以内に明らかとなり、1時間にわたって最大値に達する(図10A)。対照細胞と誘発細胞との発光強度の比は、最適H2O2濃度において1/80である。パラコートの存在下での大腸菌(Escherichia coli)MG1655 pLUX::PsoxSにおける発光の誘発は15〜20分で明らかとなり、2時間にわたって最大値に達する(図10B)。対照細胞と誘発細胞との発光強度の比は、最適パラコート濃度において1/100である。
【0098】
次の段階で、一般式(I)の化合物の酸化促進能又は抗酸化能を試験することが可能になる。pLUX::PkatG及びpLUX::PsoxSバイオセンサーの助けを借りて、大腸菌(Escherichia coli)において酸化的ストレスの条件下でのSkQの抗酸化性を試験した。10μMのSkQは、過酸化水素によって誘発される酸化的ストレスによって生じるスーパーオキシドアニオンラジカルから細胞を効果的に保護することが示されたが、前記濃度のSkQはパラコートによって誘発される酸化的ストレスに対しては感知できるほどの効果がなかった(図11)。この相違は、過酸化水素及びパラコートによる反応性酸素種の発生方法が異なることによると考えられる。過酸化水素の場合は、酸化的ストレスは短時間誘発される(H2O2は細胞中の抗酸化防御酵素によって活発に分解される)が、パラコートの場合には、酸化的ストレスははるかに長期間持続する。更に、大腸菌(Escherichia coli)細胞においては、細胞からカチオンを積極的に排出する多剤耐性(MDR)系が活発に機能することが示された。これらの酵素の活性は、SkQ1及びその類似体の効力を劇的に減少させる。したがって、MDRタンパク質による細胞から排出前に、H2O2の場合はSkQ1が酸化的ストレスから細胞を保護する時間があるが、パラコートの場合はSkQ1はもはや有効でない。
【0099】
結果は、開発した試験方法が、一般式(I)の化合物の酸化促進能及び抗酸化能を試験するための信頼性のある迅速なツールであることを示した。
【0100】
実験例6。動物及び植物における一般式(I)の化合物の生物活性のインビボ試験。
動物又は植物における一般式(I)の化合物のインビボ試験は、このセクションのこれまでの試験全てを通過し、可能な生物活性が証明された化合物にのみ適用できる。これは、インビボ実験の準備のためには、研究者が情報的に最も有益な結果を得るのに使用すべきモデルの開発に必要な薬物作用の可能性がある標的についての完全な情報を得ることが必要であるという事実による。事前選択段階のインビボ実験には、薬物が生物活性である主たる可能性を評価できる最も簡単な方法を使用すべきである。この目的で、甲殻類セリオダフニアアフィニス(Ceriodaphnia affinis)などの小型無脊椎動物をモデル対象として使用できる。このような対象、特に動物プランクトン生物は、環境汚染の評価、物質の抽出物、食品製品、医薬製剤の生物学的効果についての研究において一般的な試験対象となる。圧倒的な数の適用において、評価は、生存率、試験対象の挙動及び一部の生理的機能の妨害(violation)を考慮して、短期実験で行われる。慢性的な弱い影響の効果を確認するために、前記パラメーターは別に、成長及び生殖のような不可欠な個体パラメーターもまた制御される。
【0101】
試験対象に対する化学薬剤の慢性的効果の定量化においては、毒性効果の相特性と称される現象、すなわち、生物学的機能の活性の抑制及び刺激の変化又は毒性の可能性のある物質によって引き起こされる構造要素の発現を明らかにする。結果として、多くの可能な毒物は特定の濃度で、特定の機能及び試験対象全体に対して一時的な刺激効果を有する可能性がある。したがって、製剤の好適な効果の重要な基準は、生体の全生存期間である。これは、この場合には、実際に毒性である製剤の好適な相にある危険が除外できるためである。
【0102】
甲殻類セリオダフニアアフィニス(Ceriodaphnia affinis)の寿命期間中の基本生命機能に対する種々の濃度での製剤SkQ1の効果を、製剤SkQ1の刺激効果に特に注意して研究した。
【0103】
第1の実験系(各系の動物数は20個体とした)、エタノール(0.79mg/l)の存在下での甲殻類の生存率は対照と異ならなかった(図4)。濃度5.5及び0.55nMのSkQ1では甲殻類の生存率は対照よりも高かったが、濃度55nMでは、低かった。濃度0.55及び5.5nMのSkQ1では甲殻類の一定個体群の致死時間(time of death)は全観察期間を通して増大し、50%致死時間は、対照のパラメーターのそれぞれ2倍及び1.4倍で上回った(表1)。
【0104】
【表1】
【0105】
甲殻類の平均生存期間は、SkQ1濃度0.55及び5.5nMでは対照より高く、SkQ1濃度55nMでは対照より低く、これらの差は統計的に有意であった(表2)。
【0106】
【表2】
【0107】
したがって、結果は、SkQ1が小型無脊椎動物の生命活動に対する有益効果を有し、生存期間を延長できることを示している。更に、生体に対する有益効果を有する化合物の濃度を選択した。この濃度は、一般式(I)の試験製剤の生物活性を高等動物で試験するための実験に使用できる。
【0108】
実験例7。「分子トラップ」を用いるミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の精製方法
1.エタノール−クロロホルム(1:9)系中でシリカゲル前処理後の初期原体PDTP(5g)は純度が約85%である。還元型の含有量は8%である。
【0109】
基本的な不純物を除去するために、HPLC法を用いた。C18カラム、500×45mm。移動相−無塩非緩衝水−エタノール溶液。勾配モード。系A−エタノール15%、系B−エタノール40%。
【0110】
中央フラクションの収集後、製剤の純度は約92%である。還元型の含有量は6%である。
【0111】
臭化物に対する初期生成物と精製生成物との比較定性反応は、クロマトグラフィー精製後の臭化物の保持を示している。
【0112】
C18カラム、250×4.6mmでの、水中65%アセトニトリル中の0.05%トリフルオロ酢酸の系における分析用HPLCも、初期生成物及び精製生成物の場合に概ね同一の臭化物イオンピーク強度(クロマトグラムの初めに)を示している。
【0113】
2.HPLCによって精製し(3.8g)、溶媒を蒸発させ、高真空下で乾燥させた後、生成物は、粘稠で透明なダークブラウン色の油の形態である。製剤中の還元型の含有量を最小化するために、「分子トラップ」の方法の変法を用いた。
【0114】
油のフラスコにヘキサン200mlを注ぎ、次いでアセトン5mlを加え、混合物を電磁撹拌機で30分間激しく撹拌する。次に、溶媒層を慎重にデカントによって除去する。溶媒のデカント部分及び残りの油は、クロマトグラフィーによって制御する。溶媒のHPLCクロマトグラムは、アセトンの小ピーク及び還元型の強力ピークのみを含んでおり、主な酸化型はなくなっている。
【0115】
目的生成物のクロマトグラムは、還元型の含有量の減少を明確に示している。
【0116】
還元型の含有量を更に最小化するために、この操作を数回繰り返すことが必要なこともある。
【0117】
新鮮な溶媒部分を連続供給し且つ使用済み溶液を廃棄しながら、自動モードでこの操作を実施することが可能である。
【0118】
前記方法の場合、基本物質の損失がないことに留意することが重要である。臭化物イオンは保存される。
【0119】
生成物の純度は約97%である。還元型の含有量は1.0%以下である。
【0120】
2.エタノール溶液中におけるゲルクロマトグラフィー。
この精製方法は、製剤の濃縮液の計量ボトリング(dosage bottling)、乾燥及び保管の前の最終段階として適当である。
【0121】
製剤約3.7gを、エタノール5〜6ml中に溶解させ、無水エタノール(分光測光グレード)で予め平衡させたSephadex LH−20の600×10mmカラム上でクロマトグラフィーにかける。
【0122】
前留分及び後留分を廃棄する。主留分の純度は少なくとも98%である。還元型の含有量は0.8〜0.9%である。製剤の濃度は150〜200mg/mlに達することができる。この溶液は、アリコートの調製及び最終形態での物質の乾燥に都合よい。
【0123】
実験例8。プラストキノニル−デシル−トリフェニルホスホニウム(PDPT)ブロミドの合成。
合成は下記ステップを含む:
1.ジョーンズ試薬による2,3−ジメチルフェノール(1)の2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)への酸化。
2.トリフェニルホスフィンへの11−ブロモ−ウンデカン酸(3)の結合と、それに伴う(10−カルボキシ−デシル)トリフェニルホスフィンブロミド(4)の形成。
3.硝酸銀及び過硫酸アンモニウムの存在下における生成化合物(4)と2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)との反応による目的化合物(5)の形成。
【0124】
合成のスキームを図2に示す。
【0125】
2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン(2)の合成
ジョーンズ試薬(水157ml及び濃硫酸70mlの混合物中のNa2Cr2O7×2H2O 110g(0.37モル)の溶液)を撹拌しながら、2,3−ジメチルフェノール20g(0.16モル)のエーテル230ml中溶液に加え、混合物を24時間撹拌した。混合物をエーテルで抽出し、混合したエーテル抽出物を洗浄し、次いで焼成硫酸マグネシウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーター上で溶媒を除去後に、残渣をクロロホルム中シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。黄色の結晶物質の形態の化合物2の収率は8.7g(40%)である。
TCX:Rf(CHCl3)=0.46;HPLC:τ=17.4分(0〜90% B、26.4分;A:10mM H3PO4、B:AcCN)、m.p.58℃(56.5〜57.5℃)1;UV(CH3OH):λmax 209nm、256nm、344nm;ESI MS;m/z C8H8O2に関する計算値136.15;実測値136.2。
【0126】
(10−カルボキシ−デシル)トリフェニルホスフィンブロミド(4)の合成
トリフェニルホスフィン588mg(2.24ミリモル)を、11−ブロモ−ウンデカン酸530mg(2ミリモル)に加え、混合物を封管中で85℃に12時間保持した。次いで、混合物をシリカゲルカラム上でクロロホルム−メタノール(9:1)の系中で分離にかけた。透明な油の形態の化合物4の収率は895mg(85%)である。
TCX:Rf0.52(クロロホルム−メタノール、4:1);HPLC:τ=7.28分(5〜95% B、11.5分;А:0.1%TFA;B:アセトニトリル中0.1%TFA);UVスペクトル(0.1%TFA−アセトニトリル、38:62):λmax200nm、224nm、268nm;ESI MS:m/z С29H36OPに関する計算値:447.6;実測値448.2(MH+;100%)。
【0127】
[10−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)デシル]トリフェニルホスホニウムブロミド、PDTPブロミド(5)の合成
過硫酸アンモニウム228mg(1ミリモル)の水5ml中溶液を、化合物(2)135mg(1ミリモル)、化合物(4)526mg(1ミリモル)及び硝酸銀85mg(0.5ミリモル)のアセトニトリルと水(1:1)の混合物40ml中溶液に80〜90℃で加えた。混合物を同温度で12時間、撹拌しながら加熱した。混合物を水で希釈し、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを小容量まで蒸発後、生成物をジエチルエーテルで沈殿させた。溶液を沈殿物からデカントし、沈殿物を数回、再沈殿させた。最後に、沈殿物をシリカゲルカラム上、ジクロロメタン−エタノールの混合物(混合比9:1)中で精製した。[10−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)デシル]トリフェニルホスホニウムブロミド(PDTPブロミド)の収率は35%である。
TCX:Rf(CHCl3−CH3OH、4:1)=0.66;HPLC:τ=10.1分(5〜95% B、12分、А:0.05%TFA、B:AcCN中0.05%TFA);UV(CH3OH):λmax198nm、226nm、260nm(ε260=18652cm−1*M−1)、352nm;ESI MS:m/z C36H42O2Pに関する計算値537.69;実測値537.3。
【0128】
実験例9。ミトコンドリアアドレス型化合物−有望なミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の合成。
ベルベリン及びパルマチンSkQ誘導体の構造:
【0129】
【化14】
【0130】
9,10−ジメトキシ−13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソシクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニル−メチル]−5,6−ジヒドロベンゾ[g]−1,3−ベンゾジオキソール[5,6−a]キノリジニウムブロミド、1(13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニル−メチル]ベルベリンブロミド)の合成スキーム
【0131】
【化15】
【0132】
化合物1を、ベルベリンビスルフェート(5)をベースとして生成した。ベルベリンビスルフェート(5)を、ピリジン中水素化ホウ素ナトリウムで室温において30分間還元し、水から結晶後、化合物6を収率91%で得た。化合物6をブロモ酢酸メチルエステルでアルキル化し(100℃で1時間)、続いて、中間化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元して(室温で30分間)、化合物7を得た。これを、水溶液からのエーテル抽出によって単離し(収率80%)、1.5時間の煮沸によって水酸化リチウムの1%水−メタノール溶液で鹸化させて、化合物8を得た。水からの結晶化後、化合物8の収率は61%のようであった。化合物8をセシウム塩に転化させ、これを、予め合成した2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン誘導体9と60℃において48時間、縮合させた。化合物10を塩化メチレン中N−ブロモスクシンイミド(NBS)溶液で1時間酸化させ、有機相の水洗及びその乾燥による過剰のNBSの除去後に、混合物を蒸発させ、最終化合物1をエーテルで沈殿させた。化合物1の精製は、0.05%TFA水溶液中の、0.05%TFAを含む30〜80%のアセトニトリル勾配でのHPLC(C18)によって行った。最後の2つの段階の後、全収率は50%のようであった。
【0133】
化合物2〜4も同様にして生成した。
【0134】
生成化合物の特性。
13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニルメチル]ベルベリン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.16;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。HPLC:τ=8.98分(5〜95%B、11分;A:0.05%TFA、B:MeCN中0.05%TFA;Luna C18(2)’0.46×15cm、5μm、1ml/分)。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm(ε350=23850−1*M−1)、430nm(ε430=5278−1*M−1)。ESI MS:m/z C37H40NO8に関する計算値626.72;実測値626.69。
【0135】
13−[7−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ヘプチルオキシカルボニルメチル]パルマチン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.16;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm、430nm。ESI MS:m/z C38H44NO8に関する計算値642.76;実測値642.29。
【0136】
13−[4−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ブチルオキシカルボニルメチル]ベルベリン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.23;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。HPLC:τ=7.71分(5〜95%B、11分;A:0.05%TFA、B:MeCN中0.05%TFA;Luna C18(2)’0.46×15cm、5μm、1ml/分)。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm、430nm。ESI MS:m/z C34H34NO8に関する計算値584.64;実測値584.22。
【0137】
13−[4−(4,5−ジメチル−3,6−ジオキソ−シクロヘキサ−1,4−ジエン−1−イル)ブチルオキシカルボニルメチル]パルマチン:TCX:Rf(クロロホルム−メタノール、65:10)=0.23;Rf(クロロホルム−メタノール、4:1)=0.39。HPLC:τ=7.73分(5〜95%B、11分;A:0.05%TFA、B:MeCN中0.05%TFA;Luna C18(2)’0.46×15cm、5μm、1ml/分)。UV(エタノール):λmax 262nm、350nm、430nm。ESI MS:m/z C35H38NO8に関する計算値600.68;実測値600.87。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化16】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型化合物、抗酸化剤又は酸化促進剤の選択方法であって、
Aが、一般式(II)
【化17】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化18】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化19】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が、
a)ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の性質の予備的予測に基づいて化合物の構造を設計するステップと、
b)前記構造式に相当する化合物を合成するか、又は前記構造式に相当する化合物若しくはその近縁類似体が自然界に存在する場合にはそれを単離及び精製するステップと、
c)化合物の生物活性を、
i)一般式(I)の化合物の酸化還元特性及び安定性のインビトロ試験、
ii)人工黒膜に対するミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能の試験、
iii)無細胞モデル系における膜脂質及びタンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験、
iv)単離したミトコンドリアに対するミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化効果又は酸化促進効果の試験、
v)動物、植物、細菌又は真菌細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化作用又は酸化促進作用の試験、
vi)細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗アポトーシス作用若しくは抗壊死作用又はアポトーシス促進作用若しくは壊死促進作用又は抗酸化作用若しくは酸化促進作用の試験、
vii)細胞内へのミトコンドリアアドレス型化合物の蓄積の試験、
viii)転写レベルでの遺伝子の活性化の形で、特にリン酸化又は脱リン酸化、タンパク質分解、グリコシル化、カルボニル化及びタンパク質又はタンパク質複合体の活性の他の変化を含むタンパク質修飾のレベルでのmRNA安定性又は翻訳の形で現れる、所望の代謝経路を活性化又は阻害できる、ミトコンドリアアドレス型化合物の能力の試験(代謝経路の活性化又は阻害はまた、細胞の他の生理的パラメーターの変化、例えば、呼吸数の変化、代謝産物の産生速度の変化、基質の消費速度の変化、外膜に対する、ミトコンドリア膜又は他の小器官の膜に対する膜電位の変化、1種又は複数の前記膜のイオン電導度の変化、細胞質又は他の細胞コンパートメント中のpH変化を含むイオン濃度の変化、生体分子、小胞及び小器官の細胞内輸送の変化、細胞周期中の変化、細胞分裂、細胞形質転換、細胞死又は逆にそれらの存続をもたらす変化の形で現れることがある)、
ix)疾患モデルにおける化合物の試験を含む、動物又は植物における一般式(I)の化合物の生物活性のインビボ試験
から選択される1つ及び/又は複数の試験を含む一連の試験を用いて試験するステップと、
d)化合物の試験結果を解釈し、必要なパラメーターに相当する最も有望な化合物を選択するステップと、
e)所望のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤又は酸化促進剤を選択するステップと
を含む方法。
【請求項2】
一般式(I)
【化20】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
に相当する2種以上のミトコンドリアアドレス型化合物のコレクションであるコンビナトリアルライブラリーであって、
Aが、一般式(II)
【化21】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化22】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化23】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指す、
コンビナトリアルライブラリー。
【請求項3】
請求項2に記載の化合物のコンビナトリアルライブラリーの分析のための、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の方法を用いて選択又は設計され、酸化促進性及び抗酸化性を所与の比で有し、一般式(I)
【化24】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
によって表されるミトコンドリアアドレス型抗酸化剤であって、
Aが、一般式(II)
【化25】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化26】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化27】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、特に、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤が、SkQB1、SkQB1A、SkQB1B、SkQBP1、SkQB5、SkQBP5及びそれらの医薬として許容され得る塩を含む、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の方法を用いて選択又は設計され、酸化促進性及び抗酸化性を所与の比で有し、一般式(I)
【化28】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
によって表されるミトコンドリアアドレス型酸化促進剤であって、
Aが、一般式(II)
【化29】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化30】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の酸化促進剤及び/又はその還元型であってもよく、
Aが好ましくは、構造:
【化31】
をそれぞれ有するデスメトキシユビキノン又はイオノールから選択され、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化32】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指す、
ミトコンドリアアドレス型酸化促進剤。
【請求項6】
一般式(I)
【化33】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の製造方法であって、
Aが、一般式(II)
【化34】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化35】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化36】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の合成を含み、ただし、以下の段階:
a)入手可能な成分から、特に2,3−ジメチルフェノールからの2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノンの生成;
b)リンカー基に接続されている親油性カチオンの生成、好ましくは親油性カチオンのカルボキシアルキル誘導体、特に好ましくは10−カルボキシデシルトリフェニルホスホニウムの生成
の少なくとも1つを含む方法。
【請求項7】
一般式(I)
【化37】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の精製方法であって、
Aが、一般式(II)
【化38】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化39】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化40】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、特に、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が、以下の段階:
a)無塩非緩衝移動相系中での勾配逆相クロマトグラフィーを用いる精製、
b)エタノール中でのゲル濾過クロマトグラフィーを用いる精製、
c)酸化型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の除去、
d)好ましくは前記一般式のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の還元型の「分子トラップ」を用いる、還元型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の除去(「分子トラップ」は、中性のpHで好ましくは0.2V以上の酸化的誘導電位を有するケト様部分又はキノン様部分を有する化合物と定義され、好ましくは不活性溶媒、好ましくはヘプタン又はヘキサン中に易溶性である)
の少なくとも1つを含む方法。
【請求項8】
中性のpHで好ましくは0.2V以上の酸化的誘導電位を有するケト様部分又はキノン様部分を有する化合物であり、好ましくは不活性溶媒、好ましくはヘプタン又はヘキサン中に易溶性であり、合成されたミトコンドリアアドレス型抗酸化剤からの還元型の除去を可能にする、還元型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の「分子トラップ」。
【請求項9】
医薬原体の形態の、一般式(I)
【化41】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の製造方法であって、
Aが、一般式(II)
【化42】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化43】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化44】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が請求項6及び7に記載の方法の1つを含む
方法。
【請求項10】
一般式(I)
【化45】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤をベースとする医薬物質であって、
Aが、一般式(II)
【化46】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化47】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化48】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、酸化型0.2〜99.8%の範囲であり、前記ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、特定の貯蔵条件に曝露される保存期間を通して保持される医薬物質。
【請求項11】
酸化型と還元型との比がより好ましくは酸化型50〜99.5%の範囲である、請求項10に記載の医薬物質。
【請求項12】
酸化型と還元型との比がより好ましくは酸化型97.5〜99.5%の範囲である、請求項10に記載の医薬物質。
【請求項13】
ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、少なくとも1カ月間持続する、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬物質。
【請求項14】
ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、少なくとも6カ月間持続する、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬物質。
【請求項15】
ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、少なくとも2年間持続する、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬物質。
【請求項16】
一般式(I)
【化49】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
の化合物である医薬物質であって、
Aが、一般式(II)
【化50】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化51】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化52】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記医薬物質が、請求項1、3、6、7及び9のいずれか一項に記載された方法の少なくとも1つを用いて製造され且つ薬局方要件を満たす医薬物質。
【請求項1】
一般式(I)
【化16】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型化合物、抗酸化剤又は酸化促進剤の選択方法であって、
Aが、一般式(II)
【化17】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化18】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化19】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が、
a)ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の性質の予備的予測に基づいて化合物の構造を設計するステップと、
b)前記構造式に相当する化合物を合成するか、又は前記構造式に相当する化合物若しくはその近縁類似体が自然界に存在する場合にはそれを単離及び精製するステップと、
c)化合物の生物活性を、
i)一般式(I)の化合物の酸化還元特性及び安定性のインビトロ試験、
ii)人工黒膜に対するミトコンドリアアドレス型化合物の貫通能の試験、
iii)無細胞モデル系における膜脂質及びタンパク質に対するミトコンドリアアドレス型化合物の保護効果又は損傷効果の試験、
iv)単離したミトコンドリアに対するミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化効果又は酸化促進効果の試験、
v)動物、植物、細菌又は真菌細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗酸化作用又は酸化促進作用の試験、
vi)細胞培養物中における、ミトコンドリアアドレス型化合物の抗アポトーシス作用若しくは抗壊死作用又はアポトーシス促進作用若しくは壊死促進作用又は抗酸化作用若しくは酸化促進作用の試験、
vii)細胞内へのミトコンドリアアドレス型化合物の蓄積の試験、
viii)転写レベルでの遺伝子の活性化の形で、特にリン酸化又は脱リン酸化、タンパク質分解、グリコシル化、カルボニル化及びタンパク質又はタンパク質複合体の活性の他の変化を含むタンパク質修飾のレベルでのmRNA安定性又は翻訳の形で現れる、所望の代謝経路を活性化又は阻害できる、ミトコンドリアアドレス型化合物の能力の試験(代謝経路の活性化又は阻害はまた、細胞の他の生理的パラメーターの変化、例えば、呼吸数の変化、代謝産物の産生速度の変化、基質の消費速度の変化、外膜に対する、ミトコンドリア膜又は他の小器官の膜に対する膜電位の変化、1種又は複数の前記膜のイオン電導度の変化、細胞質又は他の細胞コンパートメント中のpH変化を含むイオン濃度の変化、生体分子、小胞及び小器官の細胞内輸送の変化、細胞周期中の変化、細胞分裂、細胞形質転換、細胞死又は逆にそれらの存続をもたらす変化の形で現れることがある)、
ix)疾患モデルにおける化合物の試験を含む、動物又は植物における一般式(I)の化合物の生物活性のインビボ試験
から選択される1つ及び/又は複数の試験を含む一連の試験を用いて試験するステップと、
d)化合物の試験結果を解釈し、必要なパラメーターに相当する最も有望な化合物を選択するステップと、
e)所望のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤又は酸化促進剤を選択するステップと
を含む方法。
【請求項2】
一般式(I)
【化20】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
に相当する2種以上のミトコンドリアアドレス型化合物のコレクションであるコンビナトリアルライブラリーであって、
Aが、一般式(II)
【化21】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化22】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化23】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指す、
コンビナトリアルライブラリー。
【請求項3】
請求項2に記載の化合物のコンビナトリアルライブラリーの分析のための、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の方法を用いて選択又は設計され、酸化促進性及び抗酸化性を所与の比で有し、一般式(I)
【化24】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
によって表されるミトコンドリアアドレス型抗酸化剤であって、
Aが、一般式(II)
【化25】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化26】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化27】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、特に、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤が、SkQB1、SkQB1A、SkQB1B、SkQBP1、SkQB5、SkQBP5及びそれらの医薬として許容され得る塩を含む、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の方法を用いて選択又は設計され、酸化促進性及び抗酸化性を所与の比で有し、一般式(I)
【化28】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
によって表されるミトコンドリアアドレス型酸化促進剤であって、
Aが、一般式(II)
【化29】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化30】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の酸化促進剤及び/又はその還元型であってもよく、
Aが好ましくは、構造:
【化31】
をそれぞれ有するデスメトキシユビキノン又はイオノールから選択され、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化32】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指す、
ミトコンドリアアドレス型酸化促進剤。
【請求項6】
一般式(I)
【化33】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の製造方法であって、
Aが、一般式(II)
【化34】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化35】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化36】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が、ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の合成を含み、ただし、以下の段階:
a)入手可能な成分から、特に2,3−ジメチルフェノールからの2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノンの生成;
b)リンカー基に接続されている親油性カチオンの生成、好ましくは親油性カチオンのカルボキシアルキル誘導体、特に好ましくは10−カルボキシデシルトリフェニルホスホニウムの生成
の少なくとも1つを含む方法。
【請求項7】
一般式(I)
【化37】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の精製方法であって、
Aが、一般式(II)
【化38】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化39】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化40】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、特に、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が、以下の段階:
a)無塩非緩衝移動相系中での勾配逆相クロマトグラフィーを用いる精製、
b)エタノール中でのゲル濾過クロマトグラフィーを用いる精製、
c)酸化型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の除去、
d)好ましくは前記一般式のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の還元型の「分子トラップ」を用いる、還元型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の除去(「分子トラップ」は、中性のpHで好ましくは0.2V以上の酸化的誘導電位を有するケト様部分又はキノン様部分を有する化合物と定義され、好ましくは不活性溶媒、好ましくはヘプタン又はヘキサン中に易溶性である)
の少なくとも1つを含む方法。
【請求項8】
中性のpHで好ましくは0.2V以上の酸化的誘導電位を有するケト様部分又はキノン様部分を有する化合物であり、好ましくは不活性溶媒、好ましくはヘプタン又はヘキサン中に易溶性であり、合成されたミトコンドリアアドレス型抗酸化剤からの還元型の除去を可能にする、還元型のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の「分子トラップ」。
【請求項9】
医薬原体の形態の、一般式(I)
【化41】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の製造方法であって、
Aが、一般式(II)
【化42】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化43】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化44】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記方法が請求項6及び7に記載の方法の1つを含む
方法。
【請求項10】
一般式(I)
【化45】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
のミトコンドリアアドレス型抗酸化剤をベースとする医薬物質であって、
Aが、一般式(II)
【化46】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化47】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化48】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、酸化型0.2〜99.8%の範囲であり、前記ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、特定の貯蔵条件に曝露される保存期間を通して保持される医薬物質。
【請求項11】
酸化型と還元型との比がより好ましくは酸化型50〜99.5%の範囲である、請求項10に記載の医薬物質。
【請求項12】
酸化型と還元型との比がより好ましくは酸化型97.5〜99.5%の範囲である、請求項10に記載の医薬物質。
【請求項13】
ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、少なくとも1カ月間持続する、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬物質。
【請求項14】
ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、少なくとも6カ月間持続する、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬物質。
【請求項15】
ミトコンドリアアドレス型抗酸化剤の酸化型と還元型の比が、少なくとも2年間持続する、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬物質。
【請求項16】
一般式(I)
【化49】
[式中、Aはエフェクター部分であり;Lはリンカー基であり;nは1〜20の整数であり;Bは、ミトコンドリア中への化合物の標的化送達を可能にする標的化基である]
の化合物である医薬物質であって、
Aが、一般式(II)
【化50】
[式中、mは1〜3の整数であり;Yは、低級アルキル若しくは低級アルコキシから選択される同一の若しくは異なる置換基であるか、又は2つの隣接するYが互いに結合することによって、構造(III):
【化51】
(式中、R1及びR2は、低級アルキル又は低級アルコキシから選択される同一の又は異なる置換基である)
及び/又はその還元型を形成する]
の抗酸化剤及び/又はその還元型であってもよく、
Lが、
a)1個又は複数の二重結合若しくは三重結合、又はエーテル結合、又はエステル結合、又はC−S若しくはS−S若しくはペプチド結合を含んでいてもよく且つ好ましくはアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ケト基、アミノ基から選択される1個又は複数の置換基で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖炭化水素鎖;あるいは
b)天然イソプレン鎖
を含むリンカー基であり、
Bが、
a)スクラチェフイオンSk:
Sk+Z−
[式中、Skは親油性カチオンであり;
Zは医薬として許容され得るアニオンである]
;又は
b)カチオン型で貫通によってミトコンドリア中に入ることができる両親媒性両性イオン
を含む標的化基であり、
Bの成分としてのSk+が、親油性金属有機化合物、特に、R1、R2、R3又はR4と表される部分を介して式(I)の化合物の組成中に含まれる、好ましくは構造:
【化52】
を有する親油性金属ポルフィリンであってもよく;残りの置換基R1、R2、R3又はR4が、化合物の必要な性質に従って、例えば、分子の疎水性を増加又は減少させるように選択されていてもよく;Me+が、好ましくはMn、Fe、Co、Cu、Mg又はZnから選択される金属イオンを指し、
前記医薬物質が、請求項1、3、6、7及び9のいずれか一項に記載された方法の少なくとも1つを用いて製造され且つ薬局方要件を満たす医薬物質。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2013−510849(P2013−510849A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538785(P2012−538785)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/RU2009/000621
【国際公開番号】WO2011/059355
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512121761)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/RU2009/000621
【国際公開番号】WO2011/059355
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512121761)
【Fターム(参考)】
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