説明

ミトコンドリア異常症を治療するための治療ガス

【課題】ミトコンドリア異常症を治療し、患者の血漿中のQ10濃度を上昇させる方法を提供する。
【解決手段】ミトコンドリア異常症又はQ10の欠乏を治療するために、ミトコンドリア異常症に罹患している又はQ10が欠乏していると認められた患者が吸入する治療ガスを製造するために気体酸素を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者が吸入する治療ガスを製造するための気体酸素の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を高所に順応させるために、特にヒマラヤやチベットのような高山地域に人々が旅行する場合、酸欠空気の吸入を利用することが知られている。しかし、運動選手も、標準環境における身体能力を向上させるため、高所トレーニングとして、この方法を利用している。
【0003】
低酸素インターバルトレーニング(ITH)は、高所に順応するための方法である。この方法では、マスクを通して酸欠空気(14〜9%酸素)を吸入して、人体の中で順応活動を開始する。酸欠空気と環境空気の間のサイクルの変化は、この高所トレーニングを非常に効果的なものにする。
【0004】
慢性疲労症候群(CFS)は、しばしば障害を引き起こす慢性疾患である。該疾患は、精神及び身体の疲労/倦怠感を麻痺させ、さらなる症状の特有の組合せによって特徴付けられる。慢性疲労に加えて、症状としては、特に頭痛、喉の痛み、関節及び筋肉の痛み、集中困難、記憶障害、安眠、リンパ節の感受性の低下、身体を酷使した後の身体状態の低下の持続が挙げられる。
【0005】
慢性疲労症候群(CFS)は、他の不明な疾患と比べると、ミトコンドリア異常症又は酸化ストレスの結果によるものである可能性がある。
【0006】
酸化ストレスは、ある量の活性酸素種が生理的値以上に産生され、利用可能となった代謝の状態である。該活性酸素種は、電子伝達系とシトクロムP50 オキシダーゼの代謝過程に沿って生じる。該活性酸素種は、ペルオキサイドアニオンラジカルO、過酸化水素(H)、及びヒドロキシルラジカルである(非特許文献1)。
【0007】
正常な有機体の細胞は、酸化又は還元物質の予備をプールすることにより、酸化又は還元物質を吸収する能力を存続させる。このプールが不均衡であると、細胞がもつ修復と解毒の正常な機能に多くの負荷をかけ、そのために、細胞内及び細胞外の全ての巨大分子に障害を与えることになり、これが酸化ストレスといわれる(非特許文献2)。
【0008】
この疾患に対する可能な治療法は、Q10(ユビキノン)の適用からなる。ユビキノン(UQ、コエンザイムQ、CoQ、Q又はコエンザイムQ10とも呼ばれる)は脂溶性のイソプレノイド側鎖をもち、構造的にビタミンKやビタミンEに関連するキノン誘導体である。還元されたフェノール型はユビヒドロキノン又はユビキノール(QH)と呼ばれる。Q10、コエンザイムQは呼吸鎖の複合体I、IIの各々と複合体IIIの間の電子とプロトンの必須ベクターである。
【0009】
Q10の欠乏で現れる症状は、種々の根拠を有すると思われる。
【0010】
最近において最も知られているQ10減少の状況に対する薬物治療は、コレステロール値及びLDLを減少させるためにスタチン(statine)を投与することである。コレステロールあるいはLDLの集合的合流点であるメバロン酸の合成が妨げられる。その患者に対する結果は、筋肉痛、間欠跛行よりも制限された歩行距離、一般的なめまい、疲労といった、ある程度広範囲にわたる。それらは通常、治療の対象として取り扱われない。
【0011】
減少したQ10に対して、及び血清のQ10を治療したQ10に置換する重要な変更を行うことに対して、種々の兆候が知られている。それらは、特に、心不全、偏頭痛、耳鳴りである。さらには、減少したQ10値と癌、Q10と免疫及び抑うつの間の相関関係が指摘されている。
【0012】
Q10の値は各種器官で異なっており、最も高い値は心筋細胞である。Q10は年齢が上がるにつれて減少する。一般には、Q10は十分な量を人体で自ら合成することができるため、ビタミンとは考えられていない。しかし、このことは、多くの状況であてはまることではなく(例えば、慢性疾患)、健康であると知られている発端者においても、明らかな外部要因がなくても、広範囲のQ10の低値化が認められる。Q10の標準的な値は、0.8〜1.15mg/lであり、予防医学的評価範囲は、>1.4mg/lであり、治療域は、>2.5mg/lである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Schmidt R.F., e.a.:Physiologie des Menschen, Springer,2007,p.957 ff.
【非特許文献2】David Herber,George L.Black-burn,Vay Liang W.Go,John Milner(Ed.):Nutritional Oncology.Academic Press,2006.p.314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ミトコンドリア異常症を治療し、患者の血漿中のQ10濃度を上昇させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、本発明の主請求項に示すように、吸入する治療ガスを製造するために気体酸素を使用することで達成される。
【0016】
このように、上記目的は、ミトコンドリア異常症又はQ10の欠乏を治療するために、ミトコンドリア異常症に罹患している又はQ10が欠乏していると認められた患者が吸入する治療ガスを製造するために気体酸素を使用することで達成される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、少なくとも2つのセクションで治療ガスの吸入を行う使用が好ましい。
【0018】
本発明で特に好ましいのは、治療ガスの酸素濃度が約15容量%から約9容量%である前記の使用である。
【0019】
本発明で特に好ましいのは、治療ガスの酸素濃度が約30容量%から約55容量%とする前記の使用である。
【0020】
本発明で特に好ましいのは、前記セクションのそれぞれの吸入が1分間から60分間である前記の使用である。
【0021】
本発明で特に好ましいのは、吸入の合計時間が10分間から5時間である前記の使用である。
【0022】
本発明で好ましいのは、吸入の間、患者の酸素分圧を検出する前記の使用である。
【0023】
本発明で特に好ましいのは、治療すべきミトコンドリア異常症又はQ10の欠乏が、以下に関係するものである前記の使用である。
心不全、不整脈、心停止、耳鳴り、聴力損失、老人性視覚消失、癌、固形腫瘍、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症、注意欠陥障害(ADD)、パーキンソン病、痴呆症、アルツハイマー病、嗅覚異常、偏頭痛、神経因性疼痛、心因性掻痒症、喘息、慢性障害肺疾患(COPD)、無呼吸、透析、アフェレーシス、失禁、神経皮膚炎、乾癬、創傷治癒、2型糖尿病、過体重、肥満、メタボリックシンドローム、多発性硬化症、アレルギー
【0024】
本発明で好ましいのは、患者のコエンザイムQ10の血漿中の濃度を上昇又は増加させるための前記の使用である。
【0025】
別の言い方をすれば、本発明の目的は、ミトコンドリア異常症又はコエンザイムQ10が欠乏している患者の治療方法を提供することであり、該治療方法は、患者に治療ガスを投与することからなり、該治療ガスは異なる濃度の酸素を含み、治療計画中の患者に投与する低酸素又は高酸素治療ガスを構成し、該濃度は1つのセクションから他方のセクションに低酸素から高酸素に、また低酸素に戻るなどのように変化される。
【0026】
本発明者が名づける「間欠的低酸素・高酸素療法(IHHT)」は、ミトコンドリア異常症及び/又はコエンザイムQ10の欠乏に関連する広い範囲の疾患に対して使用することができる新しい治療方法である。
【0027】
従来、間欠的低酸素と呼ばれる方法が知られている(Intermittent Hypoxia: From Molecular Mechanism To Clinical Applications; Lei Xi and Tatiana V Serebrovskaja(Eds.) 2009 Nova Science Publishers Inc. New York)。公知方法(Diving:Normoxia with Hypoxia and simultaneous Hypercapnia(elevation of CO2 Levels in blood); von Ardenne method:Normoxia Hyperoxia, method with ozone(Normoxia-Ozone); so-called Hypobaric Hypoxia: Hypoxia with simultaneous pressure reduction of the air to breath)との間の主たる違いは、常圧で低酸素(15〜9%酸素)高酸素(30〜55%酸素)の方法が使用されることである。
【0028】
さらに、低酸素は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に相当するとして、従来技術においては危険な原理であると述べられている。しかし、対照的に、IHHTにおいては、低酸素セクションの間隔及び時間が調整されるため、OSAとは異なる。
【0029】
驚くべきことに、低酸素のガスを吸入するサイクルと高酸素のガスを吸入するサイクルを交互に進めると、Q10の濃度が患者の血液中で上昇することを見出した。それゆえ、これらのサイクルを連続して数回交互に行い、それにより、セッションを形成し、予め規定した間隔でセッションを繰り返すことが有益である。
【0030】
初めて、非侵襲方法が開示され、それにより、さらなる介入や薬物治療をすることなく、自己がもつ人体のQ10の値を顕著に上昇することができる。今までは、そうした薬物治療が必要なときに、Q10を経口又は非経口的に患者に投与することによって、血漿値を上昇させることだけが可能であった。
【0031】
低酸素のガスの吸入と高酸素のガスの吸入を周期的に行うことにより、治療域の2.5mg/lまでは問題なく、患者のQ10の血漿値を上昇することができる。
【0032】
コエンザイムQ10の血漿値は、心臓、脳、眼、肺、膀胱、腎臓、皮膚、神経系、聴覚の多くの疾患、及び痛みと癌と非常に関連していると信じられているので、コエンザイムQ10を外用することなく、患者の血漿値を上昇することは非常に有益である。
【0033】
いわゆるマイトジェン物質(例えば、アセチルサリチル酸、ビタミン、αリポ酸、ミネラル、Zn、Mn)を用いた可能な経口治療により、コエンザイムQ10の経口治療の効果を明らかに増強することができる。その結果、同様のことが本発明の方法にあてはまり、マイトジェン物質を使用した併用薬物治療を行うことができる。
【0034】
低酸素及び高酸素ガスのそれぞれについて、酸素の値を調整可能であり、ある疾患に対して容易に最適化できることは、本発明に関する記載から明らかである。当業者であれば、本発明の請求項の範囲から外れることなく、本発明の教示を使用することによって、その値を最適化できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
【0036】
実施例1
被験者を18名選び、試験を行った。被験者は、最初の健康診断の後、無作為に対照群(N=8)と処理群(N=10)に分けた。3週間以内で、すべての被験者は、各ケースにおいて36分間の吸入処理を10回行った。対照群に属する
被験者は、呼吸装置の空気供給チューブ(該装置に連結していない)から環境空気を吸入し、処理群は6分間、12容量%の酸素、次いで、3分間、44容量%の酸素を吸入した。このサイクルを3回繰り返し、全部で4回のサイクルを行い、吸入のセッションは36分間であった。pCOの最も低い値は80%に限定した。
【0037】
10回の処理の単位が終了した後、すべての被験者を再度試験した。
【0038】
吸入には通常の呼吸試験装置を準備した。IHTにおいてアナログの装置が知られている。この装置は、低酸素ガスに次いで、酸素量が30〜55容量%である高酸素ガスが送られるよう改造した。
【0039】
被験者の血液中の酸素分圧のモニタリングは、DE9208590U1に記載されている市販の装置を使用して行った。
【0040】
集計された被験者の生理学的パラメーターの結果は表1に示した。被験者の尿中のNPE(3−ニトロフェニル酢酸)とシトルリンの値、血液中のMMS(メチルマロン酸)の値、及びMito Act(ミトコンドリア活性)を測定した。
【0041】
【表1】


統計解析:
Mean:平均値
SD:標準偏差
pTT:対応T検定、処理前/後の群内の表示値に対し群の不等分散の両側検定
uTT:対照群と処理群間の対応していないT検定
【0042】
実施例2
慢性ボレリア症による症候性障害を示している患者に対し、13容量%の低酸素が1分間、及び38容量%の高酸素が9分間のサイクルについて6サイクル、すなわち全部で1時間のセッションによる処理を行った。
皮膚の構造及び皮膚の様子の顕著な改善が、10回のセッション後に達成された。その改善は約3か月間続いた。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリア異常症又はコエンザイムQ10の欠乏を治療するために、ミトコンドリア異常症に罹患している又はコエンザイムQ10が欠乏していると認められた患者が吸入する治療ガスを製造するための気体酸素の使用。
【請求項2】
前記治療ガスの吸入を少なくとも2つのセクションで行う請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記治療ガスの酸素濃度が前記それぞれのセクションで異なる値である請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記治療ガスの酸素濃度が約15容量%から約9容量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記治療ガスの酸素濃度が約30容量%から約55容量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記それぞれのセクションの吸入が1分間から60分間の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記吸入の合計時間が10分間から5時間の範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記吸入の間、患者の酸素分圧を検出する請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
治療すべきミトコンドリア異常症又はコエンザイムQ10の欠乏が、以下に関係するものである請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
心不全、不整脈、心停止、耳鳴り、聴力損失、老人性視覚消失、癌、固形腫瘍、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症、注意欠陥障害(ADD)、パーキンソン病、痴呆症、アルツハイマー病、嗅覚異常、偏頭痛、神経因性疼痛、心因性掻痒症、喘息、慢性障害肺疾患(COPD)、無呼吸、透析、アフェレーシス、失禁、神経皮膚炎、乾癬、創傷治癒、タイプ2糖尿病、過体重、肥満、メタボリックシンドローム、多発性硬化症、アレルギー
【請求項10】
患者のコエンザイムQ10の血漿中の濃度を上昇させるための請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。


【公表番号】特表2013−508445(P2013−508445A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535816(P2012−535816)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066288
【国際公開番号】WO2011/051357
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512095532)セルギム テヒノロジーズ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】