説明

ミネラル供給方法

【課題】製鋼スラグのアルカリ水問題を解決し、生物に有益なミネラルを供給するミネラル供給方法の提供。
【解決手段】炭酸化処理された製鋼スラグを単独または土壌、肥料、土壌改良材とpHが8.7以下となるように配合し、生物にミネラルを供給する方法。また、炭酸化されていない製鋼スラグが、雨水や、大気もしくは土壌からの二酸化炭素と接触し、pHが8.7以下となるように散布され、生物にミネラルを供給するようにした構成をも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグのアルカリ水問題を解決し、生物に有益なミネラルを供給するミネラル供給方法を提供する。
ここでいう製鋼スラグとは、溶鋼を溶製する為に利用するあらゆる精錬容器で形成されたスラグのことで、溶銑予備処理スラグ(脱硫スラグ、脱硅スラグ、脱Pスラグ)、転炉スラグ、電気炉スラグ、ステンレススラグ等が例示される。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鋼工程で発生する脱P(燐)スラグはアルカリ性で、酸性土壌改質として使用されている。(特許文献1)
【0003】
また、製鋼スラグを肥料として製造する方法および、その効用については従来から色々な技術が報告されている。しかし、アルカリ水に対する対策については言及されておらず、スラグを肥料として有効活用するにはまだまだ制約がある。(特許文献2-5)
【0004】
また、高炉スラグや製鋼スラグを海洋保全構造物として製造する方法および、その効用について色々な技術が報告されており、周辺環境のpH上昇抑制を目的に炭酸化する方法を示している。しかし、炭酸化処理により有益なミネラルも溶出しなくなり、また、その問題に対し、どのようにミネラル源を溶出させるか明確な方法を言及している技術が無い。(特許文献6-11)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-099061号公報
【特許文献2】特開2004-345940号公報
【特許文献3】特許第4211396号公報
【特許文献4】特許第4202254号公報
【特許文献5】特許第4091745号公報
【特許文献6】特許第4351708号公報
【特許文献7】特許第4489043号公報
【特許文献8】特許第4403095号公報
【特許文献9】特許第4225220号公報
【特許文献10】特許第4433831号公報
【特許文献11】特許第3829140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、製鋼スラグから生物にミネラルを供給することを特徴とするミネラル供給方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、炭酸化処理された製鋼スラグから生物にミネラルを供給する方法において、炭酸化処理された製鋼スラグを、単独で、または、土壌、肥料、土壌改良材の少なくとも一種と配合することによってpH8.7以下とすることを特徴とするミネラル供給方法である。
【0008】
従来技術の問題を解決する為に、発明者は検討を重ね、以下のことを突き止めた。製鋼スラグはスラグ中のf-CaOやケイ酸カルシウムが原因でアルカリ性を示し、カルシウムイオンが優先的に溶出する為、他のミネラルが溶出し難いことを明らかにした。
【0009】
製鋼スラグのアルカリ水問題を解明する為に、製鋼スラグである脱Pスラグで連続通水テストを実施した。クロマトグラフ管に脱Pスラグ10gを装入し、pHを6.0に調整した水を連続的に注水し、抽出した液体のpH及び成分を分析した。サンプル採取は、任意の液固比(脱Pスラグに対して通水した水の量比)で採取し、分析を行った。脱Pスラグの組成を「表1」に示す。pHはpHメーター((株)堀場製作所D−54Sで測定を行った。またCa2+、Mg2+はイオンクロマトグラフィー、Fe2+は吸光光度法、Si,PはICP-AESで分析を行った。それらの結果を「表2」に示す。
通水初期より高いpHを示し、カルシウムイオン以外、他の成分はほとんど溶出しなかった。通水開始後、液固比が増加するにつれ、pHは徐々に低下し、液固比2500でpHが10未満となるが、カルシウムイオン以外の成分はほとんど溶出しなかった。
「表1」

「表2」

【0010】
また、発明者らは、この製鋼スラグのアルカリ水問題を緩和する為に、例えば製鋼スラグである脱Pスラグを炭酸化し、そのアルカリ性を緩和することが可能かを確かめた。
【0011】
製鋼スラグの炭酸化処理方法は、水共存下で製鋼スラグ中のf-CaOやケイ酸カルシウムから溶出するカルシウムを二酸化炭素含有ガスと接触させ、炭酸カルシウムにすることである。
【0012】
炭酸化処理が製鋼スラグのアルカリ水問題を緩和できるか確かめる為に、脱Pスラグ及び炭酸化処理された脱Pスラグ(以下、「炭酸化スラグ」と称する。)で振盪試験を行い、pH及びEC(電気伝導度)を測定した。炭酸化スラグの物性を「表3」に示す。各スラグ10gを別々のビーカーに採取し、純水を50g加え、1時間振盪した。
その後、抽出した液体をpHメーター((株)堀場製作所製D−54S)を用いてpHとECを測定した。
【0013】
その結果を「表4」に示す。炭酸化処理によりECが6840から193μS/cmまで低下した。このことから、脱Pスラグから溶出するカルシウムイオンが、炭酸化処理により抑制されていることが示唆された。
また、炭酸化処理によりpHは12.6から8.7に低下し、アルカリ水問題を緩和していることが確認できた。
「表3」


「表4」

【0014】
さらに発明者らは、炭酸化された製鋼スラグをpH8.7以下に調整することでミネラル溶出量をコントロールできることを見出した。
炭酸化された製鋼スラグをpH調整することでミネラル溶出量がコントロール可能か調査を行った。
【0015】
脱Pスラグを炭酸化処理した炭酸化スラグと人工腐植土をある割合で配合した数種類の試料を作成し、溶出テストを実施した。ここで使用した人工腐植土は木質チップを木酢液に浸漬させた人工的な腐植土である。作成した試料40gを純水400gに浸漬し、撹拌機を用いてその溶媒を60rpmで24時間撹拌した。その後、その溶媒を採取し、pHの測定と溶出した成分の分析を実施した。pHはpHメーター((株)堀場製作所製D−54S)で測定した。Ca2+,Mg2+はイオンクロマトグラフィ、Fe2+は吸光光度法、Si,PはICP-AESで分析を行った。なお、参考の為に、炭酸化処理を実施していない脱Pスラグの溶出テストも行った。それらの結果を「表5」に示す。
【0016】
炭酸化処理により、Ca2+以外のMg2+、Fe2+、Si、Pが溶出した。また、pH調整により、ミネラル溶出量をコントロールでき、pHを下げることでミネラル溶出量を増加することが確認できた。
「表5」

【0017】
具体的には、炭酸化処理された製鋼スラグを単独で、または、土壌、肥料、土壌改良材の少なくとも一種と配合することで、例えば植物の根から出る弱酸性の根酸により、ミネラルが溶出し、植物へ吸収されると考えた。また、炭酸化したスラグを土壌表面に施肥する場合は、弱酸性の雨水によりミネラルが溶出し、植物に吸収されると考えた。
【0018】
本発明の第2は、ミネラル供給方法において、炭酸化されていない製鋼スラグが、雨水や、大気もしくは土壌からの二酸化炭素と接触し、pH8.7以下となるように散布され、生物にミネラルを供給することを特徴とするものである。
【0019】
自然界の森林では,太陽の光エネルギーを用いて二酸化炭素から有機物を合成する光合成が行われ,一方では呼吸によって酸素を取り込んで二酸化炭素を排出している。
これらの反応をまとめると植物の呼吸による酸素消費量と光合成の酸素放出量は健全な森林であれば1:2で,土壌中の微生物に消費される酸素の量を1とすると森林全体の酸素消費量と酸素放出量は,2:2となって均衡している。
【0020】
スギやヒノキの造林によって作られた人工林では,若齢段階から壮齢段階までは酸素消費量と酸素放出量が均衡しているが、壮齢段階から老齢段階では酸素消費量が酸素放出量を上回る。つまり,現在の間伐等の森林整備が遅れているスギ,ヒノキによる人工林では光合成よりも呼吸量の方が高い状態になっている。
【0021】
若齢段階から壮齢段階では二酸化炭素を取り込んで光合成が活発に行われる為、製鋼スラグをミネラル供給材として施肥した場合、製鋼スラグ中のf-CaOやケイ酸カルシウムからのアルカリ成分溶出が原因で土壌が高pHとなり、植物の生育に障害を起こす。ゆえに、アルカリ性を緩和する為に、炭酸化処理したスラグが有効となる。
【0022】
一方、老齢林については,光合成よりも呼吸の方が森林内で多く行われることから,森林内の二酸化炭素によって製鋼スラグが自然状態で炭酸化されるので、pHが異常に高くなる状態は起こらない。
【0023】
つまり、製鋼スラグを炭酸化する方法として、工業的な炭酸化処理のほかに、炭酸化されていない製鋼スラグを、雨水や大気もしくは土壌からの二酸化炭素に接するように施肥することで、炭酸化することを見出した。
【0024】
また、炭酸化されていない製鋼スラグを土壌表面に施肥した場合は、一旦雨水や大気もしくは土壌からの二酸化炭素により炭酸化され、そのアルカリ性を緩和することが出来る。その後、弱酸性の雨水等によりミネラルが緩やかに溶出し、植物に吸収されると考えた。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上記の構成であるから、炭酸化された製鋼スラグを施肥した培土に種子を播種し、その出芽率を調査した結果、炭酸化された製鋼スラグを施肥していない培土と比較し、その出芽率が向上することを確認した。
【0026】
また、ヒノキ林の地表へ炭酸化されていないスラグを撒くことにより、雨水や大気もしくは土壌からの二酸化炭素により、一旦そのスラグ表面が炭酸化され、アルカリ水の溶出を緩和する。そして、雨水のような弱酸性溶液とその炭酸化されたスラグが接することで、ゆっくりとミネラル分が溶出し、植生が改善されるのを確認した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1における効果を確認する為に、炭酸化処理された製鋼スラグを培土に配合し、各種子を播種して出芽率を調査した。その実施例を以下に示す。人工腐植土を10容量%、バーク堆肥を90容量%配合した培土に、脱Pスラグを炭酸化処理した炭酸化スラグを各割合で配合し、その培地にトールフェスク、バミューダグラス、ヨモギを播種し、播種1ヶ月後の出芽率を調査した。その結果を「表6」に示す。なお、ここで使用したバーク堆肥とは、樹木皮を発酵させて作った土壌改良材である。
炭酸化スラグ配合により、出芽率の改善が認められ、トールフェスクでは炭酸化スラグ配合率10から60容量%において効果が表れた。バミューダグラスでは炭酸化スラグ配合率20から40容量%、ヨモギでは炭酸化スラグ配合率70から100容量%で効果が表れた。また各植物において、出芽率の適性pHが異なり、トールフェスクではpHは5.8から7.4で最適となった。また、バミューダグラスではpHが6.1から6.8、ヨモギではpHが7.7から8.7であった。
以上のことから、炭酸化処理された製鋼スラグを培土に配合し、pHを8.7以下とすることで、植生が改善されることが確認できた。
「表6」

【0028】
本発明の第2における効果を確認する為に、ヒノキ林へ脱Pスラグの散布を行った。ヒノキ林の地表を区切り、「表7」実施例1として脱Pスラグを地表面に2L/m散布した。また、実施例2、3として脱Pスラグを地表面にそれぞれ4L/m及び6L/m散布した。さらに、「表7」の比較例1として脱Pスラグ無施肥区も用意した。
散布してから3か月後、効果を確認する為に、目視で各区画の下草の植生状況を調査した。その結果を「写真1」、「写真2」、「写真3」に示す。さらに、ミネラル溶出状況を把握する為に、各区画のpHとECも測定した。その結果を「表7」に示す。
【0029】
下草の植生状況に関しては、脱Pスラグを散布している区画にて改善された。「写真1」は実施前のヒノキ林の地表の写真であるが、下草はほとんど生えていなかった。「写真2」は実施後3カ月経過した、脱Pスラグを散布していない無施肥区のヒノキ林の地表の写真であるが、下草はほとんど生えていなかった。「写真3」は実施後3ヶ月経過した、脱Pスラグを地表に4L/ m散布した区画の写真であるが、下草が生えていた。
また、pH及びECについては、脱Pスラグ無施肥の比較例1ではpHが4.5、ECが48μS/cmと低い状況であった。一方、脱Pスラグを施肥した区画の実施例1から3においては、pHが6.1から6.3の範囲に上昇した。また、ECが90から130μS/cmの範囲に上昇し、下草の植生に関して改善されていることが確認できた。
「写真1」

「写真2」


「写真3」

「表7」

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、製鋼スラグから生物にミネラルを供給することにより、生物の育成を促進する効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸化処理された製鋼スラグから生物にミネラルを供給する方法において、炭酸化処理された製鋼スラグを、単独で、または、土壌、肥料、土壌改良材の少なくとも一種と配合することによってpHを8.7以下とすることを特徴とするミネラル供給方法。
【請求項2】
炭酸化されていない製鋼スラグが、雨水や、大気もしくは土壌からの二酸化炭素と接触し、pHが8.7以下となるように散布され、生物にミネラルを供給することを特徴とするミネラル供給方法。

【公開番号】特開2013−112563(P2013−112563A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259890(P2011−259890)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】