説明

ミネラル吸収促進剤、食品及び飼料

【課題】食品への利用が容易で、哺乳類の消化酵素に耐性の、ミネラルの腸管吸収を促進する機能を有するミネラル吸収促進剤、上記ミネラル吸収促進剤を含有する食品、及び飼料を提供すること。
【解決手段】難消化性デキストリン又はその誘導体を有効成分とするミネラル吸収促進剤、これを含有するミネラル吸収促進剤を含有する食品、及び飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難消化性デキストリン又はその誘導体を含有することを特徴とするミネラル吸収促進剤、これを含有する食品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
飽食の時代にあって、カルシウム、マグネシウム、鉄及び亜鉛は、不足あるいは不足しがちな必須ミネラルであることが知られている。この内、カルシウムの成人一日当りの栄養所要量は、日本人で600〜700mgと設定されているが、平均摂取量は栄養所要量に達していないのが現状である。カルシウムはアルカリ側で無機リン酸と結合して不溶性のリン酸カルシウムを形成することが知られており、腸管からのカルシウムの吸収率はきわめて低いとされている。そのために、カルシウムが腸管環境下で不溶化しないようなカルシウム結合物質を利用して腸管からの吸収を高める方法の開発が精力的に行われている。
例えば、乳汁から分離されたカゼインホスホペプチド(CPP)(特許文献1〜2)はカルシウム吸収を促進することが知られているが、乳汁中の含量が少なく高価であり、苦味ペプチドの除去も容易ではない。特許文献3にはクエン酸カルシウム・リンゴ酸カルシウム複合体のカルシウム可溶化効果が開示されているが、酸味を呈することから、食品への利用には制約がある。特許文献4には2〜8個のグルコースがα−1,4結合で結合したグルカンに2個以上のリン酸が結合したリン酸化糖がカルシウムを含むミネラルの不溶化を防止することが開示されている。このリン酸化糖は、リン酸を含む澱粉に複数の加水分解酵素あるいは糖転移酵素を作用させて製造されるので、操作が繁雑であるという欠点を有する。また、該リン酸化糖の腸管における安定性も懸念される。特許文献5には、カルシウム吸収を促進するリン酸化多糖類及びその製造方法が開示されている。このリン酸化多糖類は、天然あるいは合成の多糖類に無機リン酸を作用させて得られる高分子リン酸化糖であり、その粘性により、食品への利用には制約がある。
【0003】
前記以外のミネラルの吸収を促進する食品素材として、フラクトオリゴ糖やキシロオリゴ等を含む難消化性オリゴ糖類、グアーガム分解物などの食物繊維が開示されている(例えば特許文献6及び7及び非特許文献1)。
これらの食物繊維は、ミネラル吸収を促進することが知られているが、その理由として、該食物繊維は、消化管酵素で消化されずに大腸に到達し、腸内細菌によって分解発酵されること、その結果、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸が生成してpHが低下し、ミネラルの溶解性が高まることが考えられている。しかし、pH低下による可溶化はミネラル吸収促進の必要条件ではあるが、十分条件ではない。また、大腸発酵に依存しないミネラル吸収促進作用も知られており、ミネラル吸収にはさまざまな要因が関係している(非特許文献1)。
一方、難消化性オリゴ糖とは異なる澱粉由来の水溶性食物繊維として、難消化性デキストリンが知られている(例えば特許文献8)。難消化性デキストリンは、消化管酵素で消化されずに大腸に到達し、腸内細菌によって分解発酵されることにおいては前記難消化性オリゴ糖やグアーガム分解物と共通しているが、そのエネルギー値は1キロカロリー/gであり、前記難消化性オリゴ糖やグアーガム分解物のエネルギー値の約1/2である(非特許文献2)。これらのエネルギー値は大腸における発酵の程度によって定められており、難消化性デキストリンは、そのエネルギー値からすれば、大腸における発酵によって生成する短鎖脂肪酸の量が少ないものであることを示している。実際、ヒト糞便マイクロフローラを用いたインビトロ発酵試験において、難消化性デキストリンは、フラクトオリゴ糖やグアーガム分解物に比べて、24時間の発酵で生成する全有機酸量が少なく、pH低下も少ないことが示されている(非特許文献3)。
特許文献9には分岐状マルトデキストリン類を含む経腸栄養組成物が開示され、分岐状マルトデキストリン類がミネラル吸収を促進することが記載されている。しかしながら、特許文献10によれば、分岐状マルトデキストリン類のエネルギー値は2キロカロリーと記載されており、難消化性デキストリンの2倍のエネルギー値である。
従って、これらの知見から、難消化性デキストリンがミネラル吸収を促進することを予測することは容易ではない。
松田らは、澱粉由来のグルコースポリマー(難消化性デキストリン)とクエン酸を乾式で加熱し、クエン酸が結合したイオン交換能を有するグルコースポリマーを生成させ、これがカルシウムと可溶性の塩を形成することを示しているが、そのミネラル吸収性については言及していない(特許文献11)。
【0004】
【特許文献1】特開平3−240470号公報
【特許文献2】特開平5−284939号公報
【特許文献3】特開昭56−97248号公報
【特許文献4】特開平8−104696号公報
【特許文献5】特開2000−157186号公報
【特許文献6】特開平7−252156号公報
【特許文献7】特開平7−67575号公報
【特許文献8】特公平4−43624号公報
【特許文献9】特表2004−524366号公報
【特許文献10】特表2004−524849号公報
【特許文献11】特開2004−307768号公報
【非特許文献1】New Food Industry 2001 Vol. 43 No.12 p35-44
【非特許文献2】日本食物繊維学会誌 第9巻第1号第34−46ページ(2005)
【非特許文献3】Journal of Nutrition, 2000; 130(5):1267-1273
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、食品への利用が容易で、哺乳類の消化酵素に耐性の、ミネラルの腸管吸収を促進する機能を有するミネラル吸収促進剤を提供することである。
本発明の他の目的は、上記ミネラル吸収促進剤を含有する食品、飼料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、難消化性デキストリンが、腸内細菌による発酵が弱いにもかかわらず、動物試験においてミネラル吸収を顕著に促進することを見出した。また、前記特許文献9に記載のイオン交換能を有するグルコースポリマーが、同様にラットにおけるミネラル吸収を促進することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて達成されたものである。
【0007】
すなわち本発明は、下記のミネラル吸収促進剤、これを含有する食品、及び飼料を提供するものである。
1.難消化性デキストリン又はその誘導体を有効成分とするミネラル吸収促進剤。
2.難消化性デキストリンが焙焼デキストリンをα―アミラーゼ及びグルコアミラーゼで処理して得られる水溶性食物繊維又はその水素添加物である、上記1に記載のミネラル吸収促進剤。
3.難消化性デキストリンの誘導体がクエン酸結合難消化性デキストリンである、上記1又は2に記載のミネラル吸収促進剤。
4.ミネラルがカルシウム、マグネシウム、鉄及び亜鉛から選択される少なくとも一種である、上記1〜3のいずれか1項に記載のミネラル吸収促進剤。
5.上記1〜4のいずれか1項に記載のミネラル吸収促進剤を含有する食品。
6.上記1〜4のいずれか1項に記載のミネラル吸収促進剤を含有する飼料。
【発明の効果】
【0008】
本発明のミネラル吸収促進剤、これを含有する食品、及び飼料は、優れたミネラル吸収促進機能を有し、日常的なミネラルの摂取不足の解消に有効である。また、本発明のミネラル吸収促進剤はエネルギー値が低く、現代人の効率的なミネラル摂取に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のミネラル吸収促進剤におけるミネラルは、動物に必須の栄養素であって、その具体例としては、カルシウム、マグネシウム、鉄及び亜鉛から選択される少なくとも一種のミネラルが挙げられる。
【0010】
この明細書において、本発明のミネラル吸収促進剤の有効成分として使用する「難消化性デキストリン」は、澱粉を、酸の存在下に加熱あるいは焙焼して得られるデキストリンをそのまま分画、あるいは酸又は糖質分解酵素、例えばα−アミラーゼ及びグルコアミラーゼを作用させた後に分画して得られる、消化管酵素で消化されないデキストリン又はそれらの水素添加物を意味するものとする。そのような難消化性デキストリンは、例えばファイバーソル2及びファイバーソル2H(水素添加物)の商品名で松谷化学工業(株)から販売されている。
【0011】
本発明のミネラル吸収促進剤の有効成分として使用する難消化性デキストリンの誘導体は、難消化性デキストリンと同等のミネラル吸収促進効果を有するものであれば特に制限はない。好ましい具体例としては、難消化性デキストリンにクエン酸が結合した、クエン酸結合難消化性デキストリンが挙げられる。さらに具体的には、前記ファイバーソル2又はファイバーソル2Hにクエン酸が化学結合したクエン酸結合難消化性デキストリンに代表される、クエン酸結合グルコースポリマー(特許文献11)が挙げられる。該ポリマーは、クエン酸とグルコースポリマーがエステル結合したポリマーである。クエン酸とグルコースポリマーとの結合モル比は、食品としての利用を考慮すると、好ましくは2:1〜1:1である。また、ミネラルとの可溶性塩の形成を考慮すると、エステル結合は、好ましくはモノエステル結合である。
【0012】
本発明に使用するクエン酸結合グルコースポリマーの原料となるグルコースポリマーは、グルコースを構成単位とするポリマーであれば特に制限されないが、一般的な澱粉加工品、特に、酸化澱粉、澱粉分解物、還元澱粉分解物、難消化性澱粉分解物、難消化性デキストリン又はその水素添加物(還元難消化性デキストリン)が好ましい。特に好ましいグルコースポリマーは、還元澱粉分解物、難消化性澱粉分解物、難消化性デキストリン又はその水素添加物(還元難消化性デキストリン)である。還元澱粉分解物や還元難消化性デキストリンを用いると、クエン酸との結合反応中の着色が少ないため、得られるグルコースポリマーの製品価値が高くなり、好ましい。また難消化性澱粉分解物又はその水素添加物を用いた場合は、生成物にミネラル吸収促進作用を付与する効果だけではなく、食物繊維としての利用や低カロリー食品としての利用も可能となる。
【0013】
グルコースポリマーの重合度は、目的とするグルコースポリマーの特性に応じて幅広いものが使用できるが、クエン酸と混合して粉末乾燥化する必要性を考慮すれば、重合度は、好ましくは4〜123、さらに好ましくは4〜18、最も好ましくは6〜15である。重合度がこれより高いグルコースポリマーを用いた場合は、水に溶解したときに、水に不溶な物質を生成することがあり、使用に制限が加わることがある。一方、重合度がこれより低いグルコースポリマーを用いた場合は、粉末が得られにくい、という点で好ましくない。
【0014】
グルコースポリマーの原料として澱粉を使用する場合、特にその種類は限定されるものではなく、例えば、ジャガイモ澱粉、カンショ澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉などを、いずれも効果的な原料澱粉として用いることができる。
【0015】
次に、本発明のクエン酸結合グルコースポリマーの製造方法について説明する。
先ず、グルコースポリマー及びクエン酸を混合して水に溶解して水溶液とする。
グルコースポリマーとクエン酸の混合比率は目的のポリマーの特性に合わせて適宜選択されるが、所望の製品を得るためには、好ましくはモル比で1:1〜1:3、さらに好ましくは1:2.5である。
なお本発明に使用する難消化性デキストリン、その誘導体、例えば、グルコースポリマーの数平均分子量は、サイズ排斥HPLCカラム、例えば東ソー(株)のTSKゲルG6000PWXL、G3000PWXL及びG2500PWXLを直列に連結したカラムを用いて分子量に基く分離を行い、プルランを標準物質とする検量線から求めることができる。
水に対するグルコースポリマーとクエン酸の溶解量は、水に溶解する限り特に制限はないが、一般に、水100質量部に対して、グルコースポリマーとクエン酸の合計量が好ましくは20〜50質量部、さらに好ましくは30〜40質量部である。溶解は、通常は常圧下、10〜60℃、通常は常温で、必要により攪拌しながら行えばよい。
【0016】
得られた水溶液を、好ましくは95〜110℃で1〜10時間乾燥して均一な粉末、通常は均一な非晶質粉末を得る。グルコースポリマーとクエン酸の混合水溶液から、均一な粉末を得るために乾燥粉末化する方法としては、例えば、スプレードライ、ドラムドライ、凍結乾燥等のいずれもが効果的に使用できる。
【0017】
次に、これを粉末状態のままで、好ましくは品温が100〜160℃で、通常は1〜20時間、好ましくは2〜15時間、さらに好ましくは2〜10時間加熱処理を行うことによって、目的とするクエン酸結合グルコースポリマーを製造することができる。加熱処理装置としては一般的な各種の装置がある。例えば、オイルバス、ロータリー・キルン、などの連続的に加熱できる装置、あるいは、真空焙焼装置、エクストルーダー、ドラムドライヤ、流動床加熱装置等が、効果的に使用できる。
加熱処理時の粉末の品温は、好ましくは100〜160℃、さらに好ましくは100〜125℃である。反応温度を高くすると反応速度は速くなる。125℃より高い温度では反応は速いが、水不溶物質が生成されることがある。しかし100〜125℃の条件下では水不溶物質は生成されない。
この反応物中のグルコースポリマーとクエン酸の結合形式は、モノエステル結合が主体であり、ジエステル結合はほとんど認められない。
【0018】
加熱反応生成物は、用途によって精製は不要であるが、特に食品、飼料等の用途に使用するためには、一般的な糖類の精製に使用される方法や装置、例えば、濾過装置、イオン交換樹脂による脱塩、膜分離装置等を使用して効果的に精製することができる。
精製されたクエン酸結合グルコースポリマーのグルコースポリマーに結合したクエン酸量は、反応前後における組成物中の遊離クエン酸量の消長をHPLCで測定することにより、間接的に定量することができる。また、クエン酸結合グルコースポリマーのカルボキシル基を中和滴定法で測定することにより、エステル結合のタイプを決定することができる。
【0019】
このようにして製造されるクエン酸結合グルコースポリマー又は前記難消化性デキストリンは、錠剤、顆粒剤、カプセル等のミネラル吸収促進剤として、単独又は組み合わせて用いることができる。また、清涼飲料、発酵飲料、乳飲料等の各種飲料、あるいは穀類、パン類、菓子類、スナック類、キャンデー類等の各種食品、家畜、家禽、各種ペット類の飼料に配合して使用することができる。さらに、ミネラル補給用サプリメント、あるいは流動食などの経腸栄養組成物に配合して使用することができる。
ミネラルを含まない食品を摂取する場合は、ミネラルと共に本発明のミネラル吸収促進剤を摂取することで、ミネラルの吸収を促進することができる。ただし、本発明のミネラル吸収促進剤をミネラル塩として摂取する場合は、単独で摂取しても良い。
【0020】
本発明の難消化性デキストリン又はその誘導体を有効成分とするミネラル吸収促進剤は、通常、成人1日当り0.1〜50g、好ましくは0.5〜10gを1〜3回に分けて経口摂取すればよい。これらの摂取量は体重、年齢等により適宜増減することができる。
また、本発明のミネラル吸収促進剤を食品、飼料等に添加する場合は、通常、対象食品、飼料等に対して好ましくは1〜20質量%の範囲で添加すればよい。
【0021】
次に、クエン酸結合グルコースポリマーをカルシウム吸収促進剤として使用する場合を例にして、本発明のミネラル吸収促進剤をさらに詳しく説明する。
【0022】
カルシウム吸収促進剤として使用するクエン酸結合グルコースポリマーのカルボキシル基は、遊離型として、あるいはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩として使用される。例えば、酸性飲料に添加して使用する場合は、遊離型としてそのまま使用することができるが、pHが中性付近の飲食品に用いる場合は、呈味性の問題を考慮してアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩として使用するのが好ましい。アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩としては、カリウム、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウム塩を例示することができる。
【0023】
前記カルシウム吸収促進剤は、摂取するカルシウムとクエン酸結合グルコースポリマー中のクエン酸のモル比が1:0.1〜1:2、好ましくは1:0.5〜1:1.5、さらに好ましくは1:1となるように摂取することが好ましく、例えば、日本人の成人が摂取するカルシウムの平均量は12.5〜15ミリモル/日であるから、この場合、クエン酸結合グルコースポリマーの摂取量は、クエン酸換算で1.25〜30ミリモル/日が好ましい。
【0024】
本発明のミネラル吸収促進剤のミネラル吸収性を評価する方法としては、一般的なミネラル出納試験が用いられる。例えば試験動物としてラットを用い、ミネラルを含む試験食を自由摂取させ、1〜2週間程度飼育する。飼育終了前の数日間について摂取した試験食と糞便中のミネラル量を測定して見かけのミネラル吸収率を下記式1により算出する。また、試験開始前(第0週)の見かけの吸収率を同時に測定することにより、変動率を下記式2により算出することもできる。
【0025】
式1
見かけのミネラル吸収率(%)=100×[(摂取した飼料中のミネラル量)−(糞中に排泄されたミネラル量)]/(摂取した飼料中のミネラル量)
式2
変動率(%)=100×[(見かけのミネラル吸収率)−(第0週の見かけのミネラル吸収率)]/(第0週の見かけのミネラル吸収率)
【0026】
次に、クエン酸結合グルコースポリマーの試験管内でのミネラル溶解性を調べた結果を参考例として示す。
参考例 リン酸緩衝液中でのミネラル溶解性促進試験
後述の実施例1の方法で調製した還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩又は比較例として還元難消化性デキストリン(松谷化学工業株式会社製ファイバーソル2H(FS2H):数平均分子量約2,000の分岐構造の発達した難消化性デキストリンの水素添加物)(以下両者を合わせて糖質という)を、最終濃度が16mMのリン酸緩衝液50mlに10〜500mgの範囲で加え、次いで各ミネラルを4mMとなるように加えた。ミネラルには、カルシウム剤として塩化カルシウム、マグネシウム剤として塩化マグネシウム、鉄剤として塩化第2鉄、及び亜鉛剤として塩化亜鉛をそれぞれ使用した。陰性及び陽性コントロールとして、糖質を含まない試料及びミネラルを含まない試料をそれぞれ用意した。
各試料を37℃で1時間保持した後、上清を採取し、溶解しているミネラル濃度を原子吸光法で測定した。その結果を図1に示す。なお、塩化マグネシウムは糖質無しでも全く不溶化しなかったので、データから除外した。
図1により、還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩はリン酸緩衝液中でのミネラルの溶解性を顕著に高めることが示された。一方、還元難消化性デキストリンにはそのような効果は認められなかった。この結果は、難消化性デキストリンに結合したクエン酸がミネラルの溶解性に寄与していることを示している。
【0027】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
実施例1 クエン酸結合グルコースポリマーの調製
還元難消化性デキストリン(松谷化学工業株式会社製ファイバーソル2H(FS2H):数平均分子量約2,000の分岐構造の発達した難消化性デキストリンの水素添加物)8.1kg(4.05モル)を水23kgに攪拌溶解し、その後、クエン酸(米国Archer Daniels Midland社製)1.9kg(9.90モル)を加えて混合溶解させた。次いで、この水溶液をスプレードライヤーで噴霧乾燥してデキストリン/クエン酸の均一な粉末を得た。次に、その粉末7kgを品温120℃に保持しながら400分間加熱処理を行った。さらに、この加熱処理した粉末を水に溶解(10%w/w)し、ルーズ逆浸透膜(NTR−7470:日東電工株式会社製)により未反応クエン酸を除去した。これをスプレードライヤーにて粉末化し、精製された還元難消化性デキストリンクエン酸エステル5.5kgを得た。この様に精製された還元難消化性デキストリンクエン酸エステルは、還元難消化性デキストリンとクエン酸がモル比1:1.2で結合しており、結合はモノエステル結合であった。さらに、この還元難消化性デキストリンクエン酸エステルを、水に溶解(30%w/w)し、水酸化ナトリウムで中和後、再度スプレードライヤーにて粉末化し、還元難消化性デキストリンクエン酸エステルのナトリウム塩を得た。
【0028】
実施例2 標準カルシウム飼料摂取によるラットにおけるミネラル出納試験
5週齢のSD系雄ラット24匹を標準カルシウム飼料(カルシウム含量0.5%)で1週間予備飼育後、与える餌の種類によりコントロール群、難消化性デキストリン(FS2)添加群、還元難消化性デキストリン(FS2H)添加群、及び実施例1で得た還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩(FS2H/C.Na)添加群に分け、各添加群は低用量(15g/kg)と高用量(30g/kg)の2段階とし、それぞれ1群8匹で、1週間の試験飼育を行った。試験飼育中は表1に示す飼料および脱塩水を自由摂取させ、12時間毎の明暗サイクルで飼育し、予備飼育(第0週)、第1週の最終日3日間を出納試験期間として採糞し、糞中のカルシウム、マグネシウム、鉄及び亜鉛量を原子吸光法で測定した。飼料のミネラル含有量と摂餌量から試験期間中のミネラル摂取量を算定し、見かけのミネラル吸収率を前記式1によりそれぞれ算出した。






【0029】
表1 標準カルシウム試験飼料 (g/kg)

1)AIN−93ビタミン混合(米国国立栄養研究所が設定したマウス及びラット用標準飼料におけるビタミン混合物、日本クレア(株)から入手)
2)AIN−93Gミネラル混合(米国国立栄養研究所が設定したマウス及びラット用繁殖期飼料におけるミネラル混合物、日本クレア(株)から入手)
3)難消化性デキストリン
4)還元難消化性デキストリン
5)還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩
【0030】
図2に示すように、難消化性デキストリン(FS2)、還元難消化性デキストリン(FS2H)及び還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩(FS2H/C.Na)添加群は、コントロール群に比べ、低用量(A)及び高用量(B)のいずれの場合も、ミネラル吸収率を有意に上昇させた。
【0031】
実施例3 標準カルシウム飼料摂取によるラットにおけるカルシウム出納試験
9週齢のSD系雄ラット18匹を標準カルシウム飼料(カルシウム含量0.5%)で1週間予備飼育後、与える餌の種類によりコントロール群、還元難消化性デキストリン(FS2H)添加群、及び実施例1で得た還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩(FS2H/C.Na)添加群に分け、それぞれ1群6匹で、2週間の試験飼育を行った。試験飼育中は表2に示す飼料および脱塩水を自由摂取させ、12時間毎の明暗サイクルで飼育し、予備飼育(第0週)、第1週および第2週の最終日3日間を出納試験期間として採糞し、糞中のカルシウム量をカルシウムC−テストワコー(和光純薬工業)で測定した。飼料のカルシウム含有量と摂餌量から試験期間中のカルシウム摂取量を算定し、見かけのカルシウム吸収率を前記式1により算出した。また、カルシウム吸収率の変動率を前記式2により算出した。







【0032】
表2 標準カルシウム試験飼料 (g/kg)

1)AIN−93ビタミン混合
2)AIN−93Gミネラル混合
3)還元難消化性デキストリン
4)還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩
【0033】
図3に示すように、還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩添加群及び還元難消化性デキストリン添加群は、コントロール群に比べ、カルシウム吸収率の低下を抑制した。
【0034】
実施例4 低カルシウム飼料摂取によるラットにおけるカルシウム出納試験
12週齢のSD系雄ラット12匹を低カルシウム飼料(カルシウム含量0.15%)で1週間予備飼育後、与える餌の種類によりコントロール群、還元難消化性デキストリン(FS2H)添加群、還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩(FS2H/C.Na)添加群に分け、それぞれ1群4匹とし、2週間の試験飼育を行った。それぞれの飼料は低カルシウム飼料を基本とし、還元難消化性デキストリン又は還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩を添加した。試験飼育中は表3に示す飼料および脱塩水を自由摂取させた。見かけのカルシウム吸収率およびその変動率は実施例3と同様に求めた。














【0035】
表3 低カルシウム試験飼料 (g/kg)

1)AIN−93Gミネラル混合よりカルシウムを除いたもの
【0036】
図4に示すように、還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩添加群はコントロール群に比べ、カルシウム吸収率が有意に増加した。還元難消化性デキストリン添加群もカルシウム吸収率を増加させたが、コントロール群に比べ有意ではなかった。標準カルシウム飼料摂取時(実施例3)に比べて低カルシウム飼料摂取時における還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩のカルシウム吸収率改善効果が顕著であったことは、カルシウム摂取時のカルシウムに対するクエン酸結合グルコースポリマーのモル比が高まることによって、カルシウムの吸収率が高まることを示唆している。実際、実施例3における該モル比は1:0.13であるのに対し、実施例4における該モル比は1:0.44であった。
【0037】
実施例5 錠剤の調製
表4の処方に従って、本発明のカルシウム吸収促進剤の錠剤を調製した。
表4

1)メタ珪酸アルミン酸マグネシウム(20%)、トウモロコシ澱粉(30%)及び乳糖(50%)から成る。
上記材料を均一に混合し、混合末を打錠して、一錠当り200mgの錠剤とした。
【0038】
実施例6 カルシウム強化飲料の調製
還元難消化性デキストリンクエン酸を実施例1と同様の方法で、炭酸カルシウムで中和してそのカルシウム塩(FS2H/C.Ca)を調製した。FS2H/C.Caは、水溶性であり、少なくとも50%(w/v)の透明水溶液とすることができた。次いで、FS2H/C.Caを用いて表5の処方により、カルシウム強化飲料を調製した。

表5

【0039】
実施例7 ドッグフードの調製
表6の処方に従って、ドッグフードを調製した。
表6

【0040】
実施例8 錠剤の調製
表7の処方に従って、本発明のミネラル吸収促進剤の錠剤を調製した。
表7

1)メタ珪酸アルミン酸マグネシウム(20%)、トウモロコシ澱粉(30%)及び乳糖(50%)から成る。
上記材料を均一に混合し、混合末を打錠して、一錠当り200mgの錠剤とした。
【0041】
実施例9 マグネシウム強化飲料の調製
還元難消化性デキストリンクエン酸エステルを実施例1と同様の方法で、炭酸マグネシウムで中和してそのマグネシウム塩(FS2H/C.Mg)を調製した。FS2H/C.Mgは水溶性であり、少なくとも50%(w/v)の透明水溶液とすることができた。次いで、FS2H/C.Mgを用いて表8の処方により、マグネシウム強化飲料を調製した。






表8

【0042】
実施例10 ドッグフードの調製
表9の処方に従って、ドッグフードを調製した。
表9

【0043】
実施例11 サプリメントの調製
表10の処方に従って、カルシウムサプリメント用混合物を調製し、水と混練して造粒し、乾燥した。
表10

これを粉砕、整粒して打錠用粉体を得た。粉体に滑択剤としてショ糖脂肪酸エステルを2w/w%となるように加えて打錠し、平均重量0.35gの錠剤を得た。
【0044】
実施例12 経腸栄養剤の調製
表11の処方に従って、経腸栄養剤を調製した。









表11

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】参考例において、リン酸緩衝液中におけるミネラルの溶解性促進試験の結果を示すグラフである。
【図2】実施例2において、標準カルシウム飼料を摂取したラットにおけるミネラル吸収率に及ぼす難消化性デキストリン類の影響を示すグラフである。
【図3】実施例3において、標準カルシウム飼料を摂取したときのカルシウム吸収率の変動率を示す。図中、Ctr.はコントロール群、FS2Hは還元難消化性デキストリン添加群、FS2H/C.Naは還元難消化性デキストリンクエン酸エステルナトリウム塩添加群を示す。
【図4】実施例4において、低カルシウム飼料を摂取したときのカルシウム吸収率の変動率を示す。図中の記号は実施例3と同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難消化性デキストリン又はその誘導体を有効成分とするミネラル吸収促進剤。
【請求項2】
難消化性デキストリンが焙焼デキストリンをα―アミラーゼ及びグルコアミラーゼで処理して得られる水溶性食物繊維又はその水素添加物である、請求項1に記載のミネラル吸収促進剤。
【請求項3】
難消化性デキストリンの誘導体がクエン酸結合難消化性デキストリンである、請求項1又は2に記載のミネラル吸収促進剤。
【請求項4】
ミネラルがカルシウム、マグネシウム、鉄及び亜鉛から選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のミネラル吸収促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のミネラル吸収促進剤を含有する食品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のミネラル吸収促進剤を含有する飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−191462(P2007−191462A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239092(P2006−239092)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】