説明

ミネラル吸収促進食品、ミネラル吸収食品及びミネラル吸収促進方法

【課題】ミネラルを高効率に吸収させる食品及び吸収促進方法を提供する。
【解決手段】アガベ・イヌリンを含有するミネラル吸収促進食品。カルシウム、銅、亜鉛、鉄などのミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体と、ミネラル吸収促進物質であるアガベ・イヌリンとのミネラルイヌリン複合体を少なくとも含有するミネラル吸収食品。ミネラルにアガべ・イヌリンを含有させて形成されるイヌリン複合体及び/又はアガベ・イヌリンが細菌によって分解されることにより大腸内を弱酸性にさせ、ミネラルの水溶性を高めることによるミネラル吸収促進方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラル吸収促進作用を有する物質を添加して、ミネラル(カルシウム、銅、亜鉛、鉄、マグネシウムなど)の吸収を促進させるミネラル吸収促進食品、ミネラル吸収食品及びミネラル吸収促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミネラルとは、生物が代謝において必要とする必須元素を称し、例としては、亜鉛、カリウム、カルシウム、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム及びマンガン等が挙げられる。ミネラルの不足は、骨の弱化、貧血、味覚異常、免疫機能の減弱などの障害をもたらす。従って、ミネラルの積極的な摂取は、健康予防において、最も強調される健康法の一つである。しかし、ミネラルの摂取だけでは、ミネラル不足を解消したことにはならない。ミネラルは消化器において吸収されにくく、ミネラルを単体で服用しても、殆どが吸収されずに排出されてしまう。
【0003】
更に、人間の主食品である米、小麦及びトウモロコシ等は、ミネラル吸収を抑制する作用を有する食品を含有しており、これらから抽出される成分が、ミネラル吸収阻害作用を有することが知られている。吸収抑制の理由としては、その成分中に有機ポリリン酸であるフィチン酸が大量に含まれていることである。フィチン酸は、それに含まれる複数のリン酸基により、ミネラルと強固にキレート結合して、ミネラルを不溶化して吸収されにくくする。しかも、ヒトを含む非反芻動物には、フィチン酸を分解する酵素であるフィターゼが欠乏しているので、一般に、フィチン酸に結合されたミネラルは吸収されにくい。従って、米、小麦、トウモロコシ由来の食品は、逆にミネラル吸収を阻害して、ミネラル欠乏症を引き起こすことが報告されている。従って、人間は、これらの食品を主食品として利用する限り、ミネラル吸収を促進する安全な物質を摂取する必要がある。
【0004】
自然界においては、食物中の多糖類及びペプチドなどがミネラル吸収促進物質として機能している。ミネラル吸収促進物質としては、グルコン酸、ホスホペプチド、アスコルビン酸、及びリンゴ酸などが列挙され、主に胃及び小腸内でのミネラル吸収を促進するのに使われている。
【0005】
しかし、これらミネラル吸収促進物質は、胃及び小腸内で殆ど全部吸収されるので、大腸内細菌を発育促進させる作用を有さず、又大腸内においてのミネラル吸収を促進する作用も有さない。ヒトを含む動物類は、大腸内細菌を利用して、大腸においてミネラル吸収を行えるように進化しているので、大腸におけるミネラル吸収を促進することは、消化器全体におけるミネラル吸収を効率的にすることを意味する。又、大腸内で有効なミネラル吸収促進物質は、大腸内細菌の発育を促進して、健康維持に必要な大腸内細菌叢を活発にするので、なおさら大腸におけるミネラル吸収促進が重要となる。
【0006】
大腸内において有効なミネラル吸収促進物質としては、コンニャクマンナン、ペクチン及びポリデキストロース等の食物繊維が知られている。これらの食物繊維は、胃及び小腸内においては吸収されず、大腸内細菌により分解される。この分解生成物が、ミネラルの水溶性を高め、また前記したフィチン酸・ミネラル錯体を分解し、更にミネラルと複合体を形成して吸収されやすくすることにより、ミネラルの吸収を促進させる。又、これらの食物繊維は、大腸内細菌に摂取されることにより、大腸内細菌叢を活発にする。従って、ビフィズス菌などの腸内有用細菌(プロバイオティックス)の発育を促進するプレバイオティックスとして、近年、とみに脚光をあびている。非特許文献1に記載されているように、腸内で繁殖したプロバイオティックスは腸のぜん動を活発にし、女性の多くが苦しんでいる便秘を解消する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2007/142306号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「プロバイオティックス,プレバイオティックス」橘川俊明著、「サプリメントと栄養管理」細谷憲政、浜野弘昭監修(日本医療企画)p.433−455 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
食物繊維は、通常食品としての目的でしか活用されず、例えば糖尿病患者の食品としての機能を有する高機能性食品という観点からは全く考慮されていない。本発明者等は、糖尿病患者の食品として使用されるイヌリンに着目し、イヌリンが大腸内におけるミネラル吸収促進物質として使用できる可能性を想到した。イヌリンは一個のブドウ糖に数個ないし数十個の果糖が繋がった多糖オリゴマー及びポリマーからなる食物繊維であり、前記したコンニャクマンナンなどと同様の性質を有し、しかも糖尿病患者の病気療養用の食品として、高機能性を有する物質である。イヌリンはキクイモ、タマネギ、ゴボウ、ニンニク、ユリネなど多くの食物に含まれるが、現在市販されているイヌリンは、チコリから抽出したものが大部分を占める。そこで、本発明者等は、チコリ・イヌリンのミネラル吸収促進作用に関する研究を実施した。
【0010】
しかし、本発明者等は、チコリ・イヌリンをミネラル吸収促進物として使用する場合に、重大な欠点が存在することを発見した。チコリ・イヌリンは直鎖構造を有し、水への溶解度は低い。その短所を補うために、加水分解して、オリゴ糖として市場に提供してきている。しかし、この方法では、低分子化することにより浸透圧が高くなるので、天然の食物繊維と比べて、下痢をおこし易い。
【0011】
又、チコリ・イヌリンの水溶性の低さは、イヌリン・ミネラル複合体又は混合体を製造する時点において、障害となる。チコリ・イヌリンとミネラルを水中で混合させると、チコリ・イヌリンが水溶化されにくいので、水中のミネラルと相互作用を起こさない。その為、ミネラルとイヌリンは結合せず、分離してしまう。イヌリン・ミネラル複合物ではなく、単に混合体を製造することが目的であったとしても、ミネラルとイヌリンの分離により、均一な混合体が得られない。
【0012】
更に、チコリ・イヌリンの水溶性の低さは、食品加工において制限をもたらす。チコリ・イヌリンは、水に入れた場合、溶けずに塊となり、これを飲食した場合には、不快感を与える。
【0013】
上記したチコリ・イヌリンが有する欠点を克服する為に、本発明者等は、ミネラル吸収促進性及び高水溶性を兼備するイヌリンを探索した。その結果、ミネラル吸収促進物質として、アガベ・イヌリンを使用することを想到するに到った。
【0014】
アガベ・イヌリンは他のイヌリンと異なって、分枝鎖構造をもち、水に対する溶解度は75%と非常に高い。従って、チコリ・イヌリンと異なって、溶解度を高めるために、加水分解して低分子化する必要が全く無い。前記高機能性アガベ・イヌリンの製法は、国際公開WO2007/142306号公報(特許文献1)に記載されている。アガベ・イヌリン製造方法の発明は、約2年前に本発明者等によってなされたばかりである。従って、アガベ・イヌリンのミネラルの吸収に関する知見は全く報告されて来なかった。
【0015】
従って、本発明の目的は、アガベ・イヌリンをミネラル吸収促進剤として使用して、ミネラルを高効率に吸収させる食品及び吸収促進方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の形態は、アガベ・イヌリンを含有することを特徴とするミネラル吸収促進食品である。
【0017】
本発明の第2の形態は、前記アガベ・イヌリン以外のミネラル吸収促進物質を配合した第1の形態におけるミネラル吸収促進食品である。
【0018】
本発明の第3の形態は、ミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体にミネラル吸収促進物質として少なくともアガベ・イヌリンを添加したことを特徴とするミネラル吸収食品である。
【0019】
本発明の第4の形態は、ミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体と、ミネラル吸収促進物質であるアガベ・イヌリンとのミネラルイヌリン複合体を少なくとも含有することを特徴とするミネラル吸収食品である。
【0020】
本発明の第5の形態は、前記アガベ・イヌリンの前記金属イオン及び/又は金属錯体に対する質量比は0.5以上である第3又は第4の形態のミネラル吸収食品である。
【0021】
本発明の第6の形態は、ミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体が存在する吸収系にアガベ・イヌリンを共存させ、前記アガベ・イヌリンが細菌によって分解されて有機酸が副生され、前記有機酸により前記吸収系が酸性になり、この酸性環境下で前記金属イオン及び/又は金属錯体の吸収が促進されることを特徴とするミネラル吸収促進方法である。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、安全で、しかも栄養価が高く、高い溶解度を持つアガベ・イヌリンを、ミネラル吸収促進作用を持つ食品として用いることにより、アガベ・イヌリンの長所を有する食品を提供する事ができる。
【0023】
第2の発明によれば、アガベ・イヌリン以外のミネラル吸収促進食品を添加することができるので、アガベ・イヌリンのミネラル吸収促進食品としての長所と、他のミネラル吸収促進食品の長所を兼備するミネラル吸収促進食品を提供できる。
【0024】
第3の発明によれば、ミネラルをアガベ・イヌリンに添加することにより、アガベ・イヌリンのミネラル吸収促進作用を持つ食品として提供する事ができる。
【0025】
第4の発明によれば、ミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体が、アガベ・イヌリンの水酸基に水素結合して複合体を生成し、大腸へ達する。即ち、大腸中で吸収されやすい形でミネラルイヌリン複合体を提供する事ができる。
【0026】
第5の発明によれば、アガベ・イヌリンの質量組成比を0.5以上にすることにより、ミネラルの吸収に必要な量のアガベ・イヌリンを確保して、ミネラルの吸収を高めることができる。
【0027】
第6の発明によれば、有機化合物が結合してミネラルを不溶化している錯体に対して、アガベ・イヌリンが細菌によって分解される中で乳酸、酢酸などを副生し、腸が弱酸性になるため、不溶化されていたミネラルを溶かすことにより、吸収を促進させる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ラットにおける血中カルシウム濃度の時間変化を示すグラフである。(実施例1)
【図2】ラットへの被験物質の投与24時間における図1の血中濃度時間曲線下面積を示すグラフである。(実施例1)
【図3】ラットにおける血中銅濃度の時間変化を示すグラフである。(実施例2)
【図4】ラットへの被験物質の投与24時間における図2の血中濃度時間曲線下面積を示す。(実施例2)
【図5】ヒトにおけるカルシウム吸収率を示すグラフである。(実施例3)
【図6】ヒトにおけるカルシウム保有率を示すグラフである。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、ミネラル吸収促進物質に関する。ミネラルには、カルシウム、銅、亜鉛、鉄、マグネシウム、マンガンなどが挙げられ、更にコバルト、3価クロム、モリブデンなども使用できる。又、現在において、生体に有用とは立証されていないが、有用である可能性がある微量金属元素、例えばバナジウムなども使用できる。これらの金属イオンは、水溶液中では、水和物として存在するか、水酸イオンなどの配位子と錯体を形成している。アガベ・イヌリンは、水酸基を多く有するので、金属イオン水和物及び/又は金属錯体と強固な水素結合を生成することにより、複合体を形成し易い。従って、金属を大腸まで運搬して、大腸内の弱酸性環境において放出させる。しかし、金属イオン及び/又は金属錯体がアガベ・イヌリンと複合体を形成していなく、単に混在している状態でも、アガベ・イヌリンが大腸内の環境を弱酸性にすることにより、金属の水溶性を高め、大腸内における金属の吸収を促進することができる。金属が不溶性の錯体、例えばフィチン酸・金属錯体などを形成していても、弱酸性環境下では、錯体が分解され、金属イオンが遊離して吸収されやすくなる。従って、ミネラルがアガベ・イヌリンと複合体を形成していなくても、アガベ・イヌリンはミネラル吸収促進作用を持つ食品としての有効性を有する。
【0030】
アガベ・イヌリンがミネラル吸収促進作用を示す為の、アガベ・イヌリンとミネラルの質量比は、本発明者及び出願人により研究されてきた。アガベ・イヌリンとミネラルの質量比が1:1では、吸収促進効果は高くは無い。しかし、質量比が6:1になると、効果が高くなる。
【0031】
又、本発明は、アガベ・イヌリン以外のミネラル吸収促進物質とも併用できる。アガベ・イヌリンは、水酸基を多く有するので、添加物と強固な水素結合を生成することにより、複合体を形成し易い。従って、アガベ・イヌリンとこれらのミネラル吸収促進物質を、単に攪拌するだけで均一な混合物が生成できる。使用できるアガベ・イヌリン以外のミネラル吸収促進物質の例としては、グルコン酸、ホスホペプチド、アスコルビン酸、リンゴ酸、コンニャクマンナン、ペクチン及びポリデキストロース等が挙げられる。
【0032】
例えば、グルコン酸は、ミネラルをキレート化合物として結合させ、吸収させやすくすることができる。又、大腸内へ達した場合には、ビフィズス菌の増殖を促進することが知られている。しかも、グルコン酸は、大腸内で、細菌の嫌気性代謝により、酪酸となるので、大腸内の環境を弱酸性にすることができる。しかし、グルコン酸は単糖であるので、胃及び小腸中において吸収されやすく、大腸中においてミネラル吸収過程に関与する比率は僅かである。従って、グルコン酸は、胃及び小腸中における、ミネラルの吸収を促進することを目的として使用される。アガベ・イヌリンをグルコン酸と併用することにより、胃及び小腸だけではなく、大腸におけるミネラルの吸収促進性も、同時に高めることができる。従って、消化器のほぼ全体に亘って有効なミネラル吸収促進剤作用を持つ食品を提供することができる。
【0033】
本発明に関する溶解度の高いアガベ・イヌリンは加工性が高く、水を大量に含有する食品に添加しても、難溶性の塊を形成し難い。又、強固な水素結合を容易に形成するので、食品中の物質と均一な複合物を生成しやすい。従って、消費者の好みに合わせて、食品に自由自在に添加できる。ミネラル含有食品にアガベ・イヌリンを添加することにより、ミネラルの吸収効率を高めることができる。
【0034】
又、本発明は、ヒトのみにより利用されるものではなく、動物などの飼料に使用してもよい。特に、ブタ及び鶏等の非反芻家畜は、不溶性食物繊維を多く含む飼料により肥育されているため、飼料中のフィチン酸が原因となるミネラル欠乏症に罹りやすい。従って、飼料にアガベ・イヌリンを添加することにより、家畜の健康を良くし、肉及び卵の生産量及び品質を高めることができる。
【0035】
以下の実施例は、この発明を説明するために示したものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1:ラットにおけるカルシウム吸収]
グルコン酸カルシウム(GCa)(89.5 mg Ca/g)、アガベ・イヌリン(AI)含有グルコン酸カルシウム(GCa:AI = 1:1,44.6 mg Ca/g)、アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウムにマグネシウムを添加(GCa:AI:Mg = 2:2:1,38.7 mg Ca/g,27.2 mg Mg/g)、アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウムにマグネシウムとビタミンD(5 μg)を添加(GCa:AI:Mg = 2:2:1,38.7 mg Ca/g,27.2 mg Mg/g)したものを、10 mg Ca/kg体重になるように秤量し、実験に使用した。上記被験物質を37℃に温め、実験前日から12時間の絶食を行ったラットをペントバルビタールで麻酔下、37 ℃の保温パッド上で開腹し、胃底部からサンプル液を注入した。上記被験物質投与直前、投与後5分、10分、15分、30分、45分、60分及び120分に採血を行い、5000 rpm、10分間の遠心分離を二回行い、血清にしたサンプルを、フジドライケムを用い比色法でカルシウム濃度を測定した。結果は図1及び2に示す。
【0037】
図1は、ラットの血中カルシウム濃度の時間変化を示すグラフである。図1のグラフにおける符号は次の通りである。■:グルコン酸カルシウム(略称GCa)、△:アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウム(混合比Ca/AI(1/1)、略称GCa/Al(1/1))、◇:アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウムにマグネシウムを添加(混合比Ca/AI/Mg(2/2/1)、略称GCa/Al/Mg(2/2/1))、●:アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウムにマグネシウムとビタミンD(5μg)を添加(混合比Ca/AI/Mg(2/2/1)、略称GCa/Al/Mg(2/2/1)+VitD3)。各データにおけるnは3〜4であった。図1で示すとおり、カルシウムの吸収率は、アガベ・イヌリン、マグネシウム、ビタミンDを添加する事で増加する傾向にあることが認められた。
【0038】
図2は、被験物質の投与24時間における図1の血中濃度時間曲線下面積を示すグラフである。図2における略称は次の通りである。GCa:グルコン酸カルシウム、GCA/AI(1/1):アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウム、GCA/AI/MG(2/2/1):アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウムにマグネシウムを添加、GCA/AI/MG(2/2/1)+VitD3:アガベ・イヌリン含有グルコン酸カルシウムにマグネシウムとビタミンD(10 μg)を添加。図2においては、実験終了時におけるカルシウム吸収の総量を示しているが、ここにおいても有意な差は無いが、アガベ・イヌリン、マグネシウム、ビタミンDの添加で吸収量が増加する傾向にある事が明らかとなった。
【0039】
既に記述したように、グルコン酸は、ミネラル吸収促進性を持つ。従って、グルコン酸によるミネラル吸収促進と、アガベ・イヌリンによるミネラル吸収促進が、同程度であることは、予測範囲内である。しかし、グルコン酸によるミネラル吸収促進性は胃及び小腸において顕著であり、大腸においてはグルコン酸が枯渇してしまい、ミネラル吸収促進を行うには余りにも微量となってしまう。一方、アガベ・イヌリンは、胃及び小腸においては、ミネラル吸収促進性を持たないが、大腸においてミネラル吸収促進性を示す。従って、グルコン酸とアガベ・イヌリンのミネラル吸収促進性は、相補的である。但し、グルコン酸のミネラル促進性は、アガベ・イヌリンのミネラル吸収促進性よりも、即効性がある。本実施例における実験時間は、僅か2時間であり、アガベ・イヌリンが大腸で発酵する為には、不十分である。従って、本実施例においては、実際のアガベ・イヌリンのミネラル吸収促進性を観察できていない可能性がある。但し、大腸におけるアガベ・イヌリンの効果を示す為の長時間実験は、実施例2及び3において行われている。
【0040】
[実施例2:ラットにおける銅吸収]
グルコン酸銅(GCu :147 mg Cu/g)、ミネラル酵母銅(酵母/Cu :10.8 mg Cu/g)、アガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(混合比1:1;GCu/AI(1/1):19.7 mg Cu/g)、又はアガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(混合比1:6;GCu/AI(1/6)69.0 mg Cu/g)を5 mg Cu/kg 体重となるように秤量し、実験に使用した。上記被験物質を、1 mLの注射筒と金属製のゾンデを用いて、体重250 g当り、1 mLの投与量となるように、一晩絶食したラット(各群4匹)に経口投与した。朝11:00に採血、その1時間後に各被験物質の投与を行い、被験物質の投与後、4時間、6時間、および24時間後にヘパリン処理した採血管で、頚静脈から約0.2 mLずつ採血を行った。採血終了後、5000 rpm、10分間の遠心分離を二回行い、血清にしたサンプルを湿式灰化し、ICP-AES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いて血清中の銅濃度の測定を行った。結果は図3及び4に示す。
【0041】
図3は、血中銅濃度の百分率の時間変化を示すグラフである。時間0における血中銅濃度を100%としている。前記グラフにおける符号は、次の通りである。□:グルコン酸銅(略称:GCu)、×:ミネラル酵母銅(略称:酵母/Cu)、●:アガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(略称:GCu/AI(1/1))、○:アガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(略称:GCu/AI(1/6))。図3においては、アガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(銅/イヌリン混合比1:6)の吸収率が、他の3物質よりも大きい。特に6時間目以後での差が大きい。銅/イヌリン混合比1:1のアガベ・イヌリン含有グルコン酸銅は、グルコン酸銅及びミネラル酵母銅とは有意の差は無く、4時間目では、ミネラル酵母銅に劣るほどである。これは、銅の吸収を高める為には、一定以上のアガベ・イヌリンが無ければならないことを示す。
【0042】
図4は、被験物質の投与24時間における図3の血中濃度時間曲線下面積を示すグラフである。図4における略称は次の通りである。GCu:グルコン酸銅、酵母/Cu:ミネラル酵母銅、GCu/AI(1/6):アガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(銅/イヌリン混合比1:6)、GCu/AI(1/1):アガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(銅/イヌリン混合比1:1)。図4においては、アガベ・イヌリン含有グルコン酸銅(銅/イヌリン混合比1:6)の優位が示される。ここにおいても、銅/イヌリン混合比1:1のアガベ・イヌリン含有グルコン酸銅は、グルコン酸銅及びミネラル酵母銅とは有意の差は無い。
【0043】
[実施例3]
健康な男女大学生12名をカルシウムのみの群、および、カルシウムに対するアガベ・イヌリンの重量比が10および30倍の混合物を摂取する3群に分け、それぞれ朝昼晩の食前に1日3回、12日間服用させた。表1は、これらの3群におけるアガベ・イヌリンを含む混合物の配合比率である。
【0044】
【表1】

【0045】
1日目から8日目までは、誘導期間として自由な食事を摂らせた。
9日目から12日目は、全員同じホテルに宿泊させて観察を行い、出納試験として被験者全員にカルシウム量を確認した全く同じ食事を摂らせた。9〜12日目におけるカルシウム摂取量は平均830.8 mg/日であった。混合物中には全員300 mgのカルシウムが含有されており、食事からの摂取は1日当たり平均530 mgであった。
この4日間(9〜12日目)の間に、便尿を全て回収し、カルシウム吸収率とカルシウム体内保有率を計算した。出納試験初日の早朝検査時に食品添加物赤色色素であるカルミン0.5 gをカプセルに詰めたものを内服し、着色した便が出たところから便の回収を開始した。又、出納試験最終日(12日目)の早朝に同様にカルミンを内服させ、次の着色便までを回収した。ホテル滞在中に回収できなかったものは、回収容器を自宅に持ち帰り、赤い便が出なくなるまで回収を行った。便の回収は、スケットイレ(災害時用糞便回収装置、ニッソー樹脂株式会社、茨城)を用いて行った。回収袋に排便後、水分吸収樹脂を含むスケットイレ1袋分を散布し、測定まで保存した。
さらに、摂取前・9日目・12日目に採血・採尿を行い、肝臓腎臓検査をはじめとする一般検査以外に、カルシウム・リン・マグネシウム・副甲状腺ホルモン・オステオカルシン・尿中NTx・尿中デオキシピリジノリンの骨代謝マーカー検査を行った。
【0046】
血液・尿検査は、三菱化学メディエンスにおいて一括測定を行い、被験者がどの群に属するかは依頼会社であるアガベのみが認識している状態とし、被験者・研究者・検査会社いずれも記号のみによる認識とした。キーオープンは最終的解析終了後に行った。
ホテルでの食事は、メニュー中のソースやスープもすべて分離して摂取量を研究補助員が測定し、残量測定から摂取カルシウム量を決定した。
すべての便を回収後に、1回分ずつをセラミック製るつぼ(500 ml、ニッカトー、大阪)に入れて、マッフル炉(Super 500S、城田電気炉、東京)にて850℃・2時間の条件で灰化を行い、誘導結合プラズマ発光分光分析装置でカルシウム量を測定した。便を含まないスケットイレ中のカルシウムも同様に測定し、基礎値とした。
【0047】
見かけのカルシウム吸収率は、式(1)により計算し、カルシウム体内保有率は、式(2)により計算した。
カルシウム吸収率=
((カルシウム摂取量-便中カルシウム排泄量)/カルシウム摂取量)
×100(%) (1)
カルシウム体内保有率=
((カルシウム摂取量-便中カルシウム排泄量-尿中カルシウム排泄量)
/カルシウム摂取量)×100(%) (2)
【0048】
3つの群の分散が等しいかどうかをバートレット検定にて確認し、分散が等しい場合には一元配置分散分析、等しくない場合にはクラスカル・ワーリス検定を用いて、群間差を検定し、危険率5%以下を有意として、統計学的処理を行った。なお、参加者には健康な男女ボランティア大学生を対象とし、健康診断を実施し特定の薬剤服用などがないことを確認した。なお、本研究は大阪市立大学医学部医薬品食品効能評価センター倫理委員会に申請を行い承認された(承認番号第8号)。
【0049】
図5は、実施例3におけるカルシウム吸収率を示すグラフである。グラフにおけるA、B及びCは、表1における3群を示す。カルシウム吸収率は、高アガベ・イヌリン群で45.7±5.4 %(平均±標準偏差)、低アガベ・イヌリン群で39.4±48.9 %、カルシウム群で19.6±5.2 %であり、高アガベ・イヌリン群においてコントロール群よりも有意に高い(P<0.05)カルシウム吸収が認められた。低アガベ・イヌリン群においても高いカルシウム吸収率が認められたが、コントロール群との間には有意な差を認めなかった。しかし、3群全体にかけて、カルシウム吸収率が増加したことは明らかであり、アガベ・イヌリンによるミネラル吸収促進が示された。
【0050】
図6は、実施例3におけるカルシウム保有率を示すグラフである。グラフにおけるA、B及びCは、表1における3群を示す。カルシウム保有率は、高アガベ・イヌリン、低アガベ・イヌリン及びカルシウム群でそれぞれ、平均23.3、11.7及び4.9 %であり、有意な群間差は認めなかったが、全体的な傾向として、アガベ・イヌリンの添加量に応じて、明らかに増加傾向を示した。
【0051】
イヌリンは糖の一種であるために、大量に摂取すると下痢を生じる可能性がある。しかし、本研究では高アガベ・イヌリン群においても、そのような有害事象は全く認めず、各種血液検査にも異常を生じなかった。したがって、カルシウム吸収を促進した事実とあわせて、アガベ・イヌリンは不足しがちなカルシウムバランスを改善する有用な補助食品である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るミネラル吸収促進作用を持つ食品は、カルシウム、銅、亜鉛、鉄、マグネシウム、マンガンなどのミネラルの吸収を促進するものであり、これらのミネラルをミネラル吸収促進作用を持つ食品に混入して効果を与えることができる。ミネラル吸収促進作用を持つ食品として、安全なアガベ・イヌリンを利用することで、産業的に優れたミネラル吸収促進作用を持つ食品を生産することができる。アガベ・イヌリンは、高い溶解度を持ち、加工性に優れており、食品に添加し易い。従って、ミネラルとアガベ・イヌリンを同時に食品に添加することにより、栄養価値及びミネラルの吸収効率が優れた(保健機能)食品として提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガベ・イヌリンを含有することを特徴とするミネラル吸収促進食品。
【請求項2】
前記アガベ・イヌリン以外のミネラル吸収促進物質を配合した請求項1に記載のミネラル吸収促進食品。
【請求項3】
ミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体にミネラル吸収促進物質として少なくともアガベ・イヌリンを添加したことを特徴とするミネラル吸収食品。
【請求項4】
ミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体と、ミネラル吸収促進物質であるアガベ・イヌリンとのミネラルイヌリン複合体を少なくとも含有することを特徴とするミネラル吸収食品。
【請求項5】
前記アガベ・イヌリンの前記金属イオン及び/又は金属錯体に対する質量比は0.5以上である請求項3又は4に記載のミネラル吸収食品。
【請求項6】
ミネラルを構成する金属イオン及び/又は金属錯体が存在する吸収系にアガベ・イヌリンを共存させ、前記アガベ・イヌリンが細菌により分解されて有機酸が副生され、前記有機酸により前記吸収系が酸性になり、この酸性環境下で前記金属イオン及び/又は金属錯体の吸収が促進されることを特徴とするミネラル吸収促進方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−254359(P2009−254359A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71249(P2009−71249)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(506177110)株式会社アガベ (2)
【Fターム(参考)】