説明

ミミズ乾燥粉末の製造方法

【課題】ミミズ体内に含まれている有害物質を除去しながら、高い力価の酵素を含むミミズ乾燥粉末を製造することのできるミミズ乾燥粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】生ミミズをカリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩化物と接触させ、
その後、粉末状ヒドロキシカルボン酸と生ミミズとを接触させ、水で希釈してpH2〜5に調整し、3〜180分間保持した後、生ミミズを水洗し、摩砕し、得られた摩砕物を凍結乾燥することを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミミズ乾燥粉末の製造方法に関し、詳しくは、ミミズ体内に含まれている有害物質を除去しながら、高い力価の酵素を含むミミズ乾燥粉末を製造することのできるミミズ乾燥粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミミズ抽出物やミミズ乾燥粉末は、古来より主として東洋諸国において、各種疾病の予防剤、治療剤として用いられており、これまでに膀胱内結石縮小剤及び排出促進剤、黄疸治療剤、分娩促進剤、強壮剤、育毛剤、強精剤、解熱剤、ひきつけ治療剤、血行促進剤、半身不随治療剤、間接鎮痛剤、排尿剤、気管支喘息剤、高血圧症治療剤としての用途が知られている。
【0003】
しかしながら、ミミズは、養殖床で飼育、増殖されるが、餌を厳選して与えても、その中には、水銀、カドミウム、鉛、ヒ素のような有害元素や病原性微生物が存在しており、飼育中にこれらの有害物質がミミズに摂取され、体内に蓄積される結果、ミミズ生体から製造した治療薬を飲用すると、人体に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
したがって、ミミズ生体を原料として経口投与のための薬剤を調製する際には、これらの有害物質を除去する必要があり、そのための多くの方法が提案されている。これまでに、ミミズ生体をナトリウム塩又はカリウム塩のようなアルカリ塩の水溶液中に浸せきして、消化管内の糞土を排泄させたのち、湿式粉砕し、得られた懸濁液を真空凍結乾燥して糖尿病治療剤、抗高脂血症剤又は血圧調節剤として有用なミミズ乾燥粉末を製造する方法(特許文献1〜4参照)、ミミズ生体を6〜26℃に維持した酸水溶液中に0.1〜5時間放置して消化管内の糞土を除去したのち摩砕し、この摩砕物を脱ガス後、段階的に昇温させながら真空乾燥して血栓症患者治療薬を製造する方法(特許文献5参照)などが提案されている。
【0005】
また、重金属類や線溶活性抑制物質及び血小板活性化因子の前駆物質を除去又は低減させるために、ミミズ乾燥粉末を水溶液とし、その濁り成分を除去して、濁度が波長700nmの吸光度で1.5以下のミミズ水溶液を得る方法が提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−47718号公報
【特許文献2】特開平1−47719号公報
【特許文献3】特開平1−47720号公報
【特許文献4】特開平1−268639号公報
【特許文献5】特開平3−72427号公報
【特許文献6】特開2006−96673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ミミズ生体を真水、アルカリ塩水溶液や酸水溶液に長時間浸せきすると、ミミズの体力が弱り、その結果、生体内に含まれるタンパク質が変性し、酵素作用が低下するため、得られるミミズ粉末の薬理効果が劣化するおそれがある。また、ミミズが水の存在下で死ぬと、ミミズ中に存在する線溶活性酵素の作用により、ミミズの生体が急速に溶解して腐敗するため、水溶液中での処理は、時間的な制約があるという問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、ミミズ体内に含まれている有害物質を除去しながら、高い力価の酵素を含むミミズ乾燥粉末を製造することのできるミミズ乾燥粉末の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、生ミミズを金属の塩化物に接触させた後に、ヒドロキシカルボン酸に接触させることにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明のミミズの乾燥粉末の製造方法は、生ミミズをカリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩化物と接触させ、
その後、粉末状ヒドロキシカルボン酸と生ミミズとを接触させ、水で希釈してpH2〜5に調整し、3〜180分間保持した後、生ミミズを水洗し、摩砕し、得られた摩砕物を凍結乾燥することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のミミズの乾燥粉末の製造方法は、生ミミズをカリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選ばれる金属の塩化物と接触させ、
その後、生ミミズをpH2〜5に調整したヒドロキシカルボン酸水溶液中に浸漬し、3〜180分間保持したのち、生ミミズを水洗し、摩砕し、得られた摩砕物を凍結乾燥することを特徴とするものである。
【0012】
本発明のミミズの乾燥粉末の製造方法は、前記生ミミズを、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取ってから、前記金属の塩化物と接触させることが好ましい。
【0013】
また、本発明のミミズの乾燥粉末の製造方法は、前記凍結乾燥が、摩砕物を−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させたのち、真空下で凍結乾燥することにより行われることが好ましい。
【0014】
また、本発明のミミズの乾燥粉末の製造方法においては、前記金属の塩化物が、塩化ナトリウムであることが好ましい。
【0015】
また、本発明のミミズの乾燥粉末の製造方法においては、前記ヒドロキシカルボン酸が、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、マロン酸およびコハク酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ミミズ体内に含まれている有害物質を除去しながら、高い力価の酵素を含むミミズ乾燥粉末を製造することのできるミミズ乾燥粉末の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のミミズの乾燥粉末の製造方法は、生ミミズをカリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩化物と接触させた後に、粉末状ヒドロキシカルボン酸と生ミミズとを接触させ、水で希釈してpH2〜5に調整し、3〜180分間保持するか、または、生ミミズをpH2〜5に調整したヒドロキシカルボン酸水溶液中に浸漬し、3〜180分間保持したのち、生ミミズを水洗し、摩砕し、得られた摩砕物を凍結乾燥することを特徴とするものである。
生ミミズを加工するに先立ち、所定の金属塩化物に接触させてから、ヒドロキシカルボン酸と接触させると、ミミズにとって不快棲息環境が形成される結果、その環境に順応するためにミミズは消化管内の消化物を排泄し、それとともに体内に含まれていた水銀、カドミウム、鉛などの有害物質が排出される。
【0018】
本発明方法においては、原料として生ミミズ、即ち、生きているミミズが用いられる。生ミミズとしては特に限定されず、例えばアカミミズ(Lumbricus rubellus)、LTミミズ(Lumbricus terrestris)、シマミミズ(Eisenia foetida)、カッショクツリミミズ(Allolobophora caliginosa)、ムラサキツリミミズ(Dendrobaena octaedra)、サクラミミズ(Allolobophora japonica Michaelsen)、ハッタミミズ(Drawida hattamimizu Hatai)、セグロミミズ(Pheretima divergens Michaelsen)、フツウミミズ(Pheretima communissima)、ハタケミミズ(Pheretima agrestis)、シーボルトミミズ(Pheretima sieboldi Horst)、ヒトツモンミミズ(Pheretima hilgendorfi)、イソミミズ(Pontodrilus matsushimensis Iizuka)、イトミミズ(Tubifex hattai Nomura)、ゴトウイトミミズ(ユリミミズ)[Limnodrilus gotoi Hatai=L.SocialisStephenson]などを用いることができる。
【0019】
本発明方法においては、生ミミズを金属の塩化物に接触させるのに先立ち、生ミミズをパン箱のような平箱に移し、明所にて10〜50時間放置し、体皮に付着した汚物を除去することが好ましい。明所での放置時間は、より好ましくは12〜24時間である。この際の収容量としては、ミミズが30〜60mm、好ましくは40〜50mmの厚さに積み重なる程度の量が好ましい。この平箱内には、砂、泥のような異物が存在しないようにし、またミミズは夜行性で暗所では生活活動が活発となり、体力を消耗するおそれがあるため、夜間は電照培養方式などにより明るく保つことが好ましい。この処置により生ミミズは、自己防御本能を発揮し、消化管内に残留する消化物を排泄し、この排泄物で全身を覆い、水分が蒸発するのを防いで、生活環境を維持しようとするので、この覆っている汚物すなわち排泄物を適当な手段で剥ぎ取ることを繰り返せば、最終的に消化管内の消化物及び体皮に付着した汚物を除去することができる。
【0020】
ミミズの体皮に付着した汚物の剥ぎ取りは、例えば不織布で生ミミズを被覆し、汚物をそれに吸着させて行うことができる。この明所での放置および体皮に付着した汚物の除去と、金属塩化物およびヒドロキシカルボン酸との接触とを組み合わせることにより、一層のミミズ体内の有毒物の排出、除去が期待できる。
【0021】
本発明で用いる金属の塩化物は、カリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩化物である。即ち、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、これらの混合物でもよく、これらと、食品への添加が可能な他の無害な成分との混合物であってもよい。そのような混合物としては、例えば食塩、岩塩、天日塩が挙げられる。上記金属の塩化物は、粉末状のものを生ミミズにふりかけることにより用いることができ、これによりミミズと金属の塩化物の接触が起きる。
【0022】
生ミミズに金属の塩化物を接触させた後、生ミミズとヒドロキシカルボン酸を接触させる。ヒドロキシカルボン酸との接触についても、粉末状のヒドロキシカルボン酸を生ミミズにふりかけることにより行うことができる。ヒドロキシカルボン酸との接触は、上記金属の塩化物との接触の後速やかに行う。また、生ミミズとヒドロキシカルボン酸とを接触させる前に、ミミズを水洗することが好ましい。水洗により上記金属の塩化物を除いてからミミズとヒドロキシカルボン酸とを接触させると酵素活性の高いミミズ乾燥粉末が得られる。ヒドロキシカルボン酸との接触前に水洗を行う場合は、金属の塩化物との接触開始後、好ましくは30分、より好ましくは20分以内に水洗を行う。水洗方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
【0023】
生ミミズを長時間ヒドロキシカルボン酸粉末と接触させておくと死滅し、生活機能を消失し、消化管内の消化物を排泄しなくなるので、可及的速やかに、好ましくは30秒以内、より好ましくは20秒以内にヒドロキシカルボン酸を水で希釈し、pHを2〜5の範囲に調整する必要がある。
【0024】
ヒドロキシカルボン酸はミミズにとって不快生活環境を形成するため、生ミミズは、自己保存本能により体液、排泄物を放出して生活環境を改善しようとする。また、ヒドロキシカルボン酸は殺菌性を有するため、上記のように消化器内に残留する消化物等の排泄を促す役割を果すとともに、ミミズに付着した雑菌を殺菌するという効果が期待できる。
【0025】
本発明方法において用いられる結晶状ヒドロキシカルボン酸は、使用条件下で結晶状体を示すものであれば、そのヒドロキシ基数又はカルボキシル基数には関係なく用いることができる。すなわち、モノヒドロキシモノカルボン酸、モノヒドロキシポリカルボン酸、ポリヒドロキシモノカルボン酸、ポリヒドロキシポリカルボン酸のいずれでもよい。
【0026】
本発明で用いるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、酢酸、β‐ヒドロキシプロピオン酸、α‐ヒドロキシ‐n‐酪酸、β‐ヒドロキシ‐n‐酪酸、α‐ヒドロキシ‐n‐吉草酸、β‐ヒドロキシ‐n‐吉草酸、リンゴ酸、α‐メチルリンゴ酸、α‐ヒドロキシグルタル酸、β‐ヒドロキシグルタル酸、クエン酸、マロン酸およびコハク酸などが挙げられる。中でも食品に対して使用可能で入手が容易である点で乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸およびコハク酸が好ましい。ヒドロキシカルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
生ミミズの組織の65%は水分である。生ミミズの保身機能が働く時間としては、ある程度余裕はあるが、生ミミズが死滅してしまうと酵素が働いてしまうので、不快生活環境下に置く時間の制御は慎重に行う必要がある。この時間は、条件により左右されるが、通常は3〜180分の範囲である。
【0028】
本発明において、ヒドロキシカルボン酸で処理したミミズ生体は、水で洗浄したのち、摩砕して液状ないしペースト状の摩砕物にする。洗浄は好ましくは純水で行う。洗浄方法は特に限定されず、公知の水洗方法を採用することができる。また、摩砕前の処理工程の合計時間、即ち、生ミミズに金属の塩化物を振りかけてから、ヒドロキシカルボン酸の水による洗浄を終えるまでの時間は、合計で240分以内が好ましい。
【0029】
上記摩砕方法は特に限定されず、例えば、ホモジナイザー、ブレンダー、ホモミキサー、擂潰機、加圧型細胞破壊装置を用い、通常1〜25℃で行われる。ミミズ構成成分の分解抑制の観点から低温下で行うことが好ましく、2〜15℃の温度が好ましい。
【0030】
ミミズの摩砕により得られた摩砕物は、例えばステンレス鋼製トレーに収容され、凍結乾燥に付される。この際、ミミズ生体に含まれる酵素は、生細胞には作用しないが死細胞に対しては瞬時に作用するため、腐敗性ガスが発生するおそれがあり、これを防止するために瞬間的に−18℃〜−35℃に急冷・凍結して酵素の作用を抑制した後に、凍結乾燥を行うことが好ましい。
【0031】
このように、ミミズ本来の薬理作用を損なわずに粉末化するには、迅速に凍結する必要があるが、一方においてあまり短時間で凍結させるとミミズペーストの主成分であるタンパク質とともに存在する不純物がスポット状の不凍結部分を形成し、分離されないことがあるので、過度に急速な凍結は好ましくない。したがって、凍結は好ましくは−18℃から−35℃の低温で20〜240時間、より好ましくは50〜170時間を要して行う。
【0032】
凍結乾燥に際しては、水分とともに不純分が残留することなく除去し得る条件を選ぶことが重要である。そのためには、圧力50Pa以下、−60℃ないし+90℃の温度において、温度を段階的に上げながら10〜60時間の範囲で制御して行うことが好ましい。
【0033】
凍結乾燥の方法としては、例えば、前記したように摩砕物を−18℃ないし−35℃の温度で20〜240時間を要して凍結したのち、−60℃〜+90℃の温度において、数段階に分け昇温し、圧力25〜40Paにおいて、数段階に分け減圧しながら、10〜60時間凍結真空乾燥させることで無菌状態の淡黄色ミミズ乾燥粉末を得ることができる。
【0034】
上記のようにして得られたミミズ乾燥粉末は、ミミズの種類、採取場所、採取時期により変動するが、粉末100g中に、例えば、アルギニン70〜120mg、リジン110〜150mg、ヒスチジン35〜60mg、フェニルアラニン55〜80mg、チロシン50〜75mg、ロイシン100〜150mg、イソロイシン60〜90mg、メチオニン25〜40mg、バリン70〜105mg、アラニン85〜135mg、グリシン75〜105mg、プロリン60〜85mg、グルタミン酸210〜300mg、セリン80〜110mg、スレオニン75〜110mg、アスパラギン酸150〜220mg、トリプトファン15〜30mg及びシスチン20〜35mgを含有する。
【実施例】
【0035】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施に限定されるものではない。
【0036】
[ミミズ乾燥粉末の調製]
(実施例1)
24時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取った生のアカミミズ30kgを平皿に約5cmの厚さに拡げ、この上に塩化ナトリウム250gを均一に振りかけた。20分後、ミミズを水洗いした。
その後、クエン酸250gを同様に振りかけた後15秒で純水30リットルを加えて希釈した。この時、水を加えた直後のpHは2.25であり、完全に希釈したときのpHは2.74であった。
クエン酸粉末を振りかけると、ミミズは一気に黄色い体液を放出した。水で希釈した後に、その状態で20分間保持した。
次いで、汚れたクエン酸水溶液から生ミミズを取り出し、水洗したのち、ホモジナイザーを用いて10℃において摩砕し、ミミズペーストを調製した。次に、このミミズペーストを吸引脱気して、その中に含まれているガスを除いたのち、ステンレス鋼製トレーに移し、瞬間的に−35℃まで急冷し、この温度に50時間維持して徐々に凍結した。
凍結したミミズペーストを−35℃で圧力0Paを2時間保ったのち、温度25℃まで昇温し、40Paで10時間、次いで40℃、圧力35Paで14時間、次いで65℃、圧力35Paで12時間乾燥し、最後に温度を80℃とし、圧力25Paにおいて6時間保つことにより真空凍結乾燥を行った。この処理により含水量8質量%の淡黄色のミミズ乾燥粉末を得た。
【0037】
(比較例1)
24時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取った生のアカミミズ30kgを平皿に約5cmの厚さに拡げ、この上に水30リットルを加えた。水を加えた後に、その状態で20分間保持した。
次いで、水から生ミミズを取り出し、水洗したのち、ホモジナイザーを用いて10℃において摩砕し、ミミズペーストを調製した。次に、このミミズペーストを吸引脱気して、その中に含まれているガスを除いたのち、ステンレス鋼製トレーに移し、瞬間的に−35℃まで急冷し、この温度に50時間維持して徐々に凍結した。
凍結したミミズペーストを−35℃で圧力0Paを2時間保ったのち、温度25℃まで昇温し、40Paで10時間、次いで40℃、圧力35Paで14時間、次いで65℃、圧力35Paで12時間乾燥し、最後に温度を80℃とし、圧力25Paにおいて6時間保つことにより真空凍結乾燥を行った。この処理により含水量8質量%の淡黄色のミミズ乾燥粉末を得た。
【0038】
(比較例2)
24時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取った生のアカミミズ30kgを平皿に約5cmの厚さに拡げ、この上にクエン酸250gを振りかけた後15秒で純水30リットルを加えて希釈した。
クエン酸粉末を振りかけると、ミミズは一気に黄色い体液を放出した。水で希釈した後に、その状態で20分間保持した。
次いで、汚れたクエン酸水溶液から生ミミズを取り出し、水洗したのち、ホモジナイザーを用いて10℃において摩砕し、ミミズペーストを調製した。次に、このミミズペーストを吸引脱気して、その中に含まれているガスを除いたのち、ステンレス鋼製トレーに移し、瞬間的に−35℃まで急冷し、この温度に50時間維持して徐々に凍結した。
凍結したミミズペーストを−35℃で圧力0Paを2時間保ったのち、温度25℃まで昇温し、40Paで10時間、次いで40℃、圧力35Paで14時間、次いで65℃、圧力35Paで12時間乾燥し、最後に温度を80℃とし、圧力25Paにおいて6時間保つことにより真空凍結乾燥を行った。この処理により含水量8質量%の淡黄色のミミズ乾燥粉末を得た。
【0039】
(比較例3)
24時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取った生のアカミミズ30kgを平皿に約5cmの厚さに拡げ、この上にクエン酸250gを均一に振りかけた。その後、水30リットルを加えて希釈した。クエン酸粉末を振りかけると、ミミズは一気に黄色い体液を放出した。水で希釈した後に、その状態で20分間保持した。次いで、汚れたクエン酸水溶液から生ミミズを取り出し、水洗したのち、塩化ナトリウム250gを振りかけ、その状態で20分間保持した。
次いで、生ミミズを水洗し、ホモジナイザーを用いて10℃において摩砕し、ミミズペーストを調製した。次に、このミミズペーストを吸引脱気して、その中に含まれているガスを除いたのち、ステンレス鋼製トレーに移し、瞬間的に−35℃まで急冷し、この温度に50時間維持して徐々に凍結した。
凍結したミミズペーストを−35℃で圧力0Paを2時間保ったのち、温度25℃まで昇温し、40Paで10時間、次いで40℃、圧力35Paで14時間、次いで65℃、圧力35Paで12時間乾燥し、最後に温度を80℃とし、圧力25Paにおいて6時間保つことにより真空凍結乾燥を行った。この処理により含水量8質量%の淡黄色のミミズ乾燥粉末を得た。
【0040】
(比較例4)
24時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取った生のアカミミズ30kgを平皿に約5cmの厚さに拡げ、この上にクエン酸250gおよび塩化ナトリウム250gを混合して均一に振りかけた。その後、クエン酸250gおよび塩化ナトリウム250gを振りかけた後15秒で純水30リットルを加えて希釈した。
クエン酸粉末および塩化ナトリウムを振りかけると、ミミズは一気に黄色い体液を放出した。水で希釈した後に、その状態で20分間保持した。
次いで、汚れたクエン酸水溶液から生ミミズを取り出し、水洗したのち、ホモジナイザーを用いて10℃において摩砕し、ミミズペーストを調製した。次に、このミミズペーストを吸引脱気して、その中に含まれているガスを除いたのち、ステンレス鋼製トレーに移し、瞬間的に−35℃まで急冷し、この温度に50時間維持して徐々に凍結した。
凍結したミミズペーストを−35℃で圧力0Paを2時間保ったのち、温度25℃まで昇温し、40Paで10時間、次いで40℃、圧力35Paで14時間、次いで65℃、圧力35Paで12時間乾燥し、最後に温度を80℃とし、圧力25Paにおいて6時間保つことにより真空凍結乾燥を行った。この処理により含水量8質量%の淡黄色のミミズ乾燥粉末を得た。
【0041】
[ミミズ乾燥粉末の力価検定]
<測定試料の調製>
上記で得られた各ミミズ乾燥粉末1gに生理食塩水20mlを加えて、1500rpmで1時間振盪行った。これを10000×g、4℃、で15分遠心分離した上清を測定試料とした。
【0042】
<蛋白質定量法>
蛋白質定量は、ブラッドフォード法(M.Bradford,Anal.Biochem.,72:248−254,1976)に従って算出した。
上記測定試料に対して、プロテインアッセイキット(Bio−Rad Laboratories,Inc.)を用いてタンパク質量測定用試料調製を行い、595nmの吸光度を測定した。別途ウシ血清アルブミン(Bovine,Sigma−Aldrich Co.)を用いて作製した検量線によりタンパク質量の換算を行った。
【0043】
【表1】

【0044】
<合成アミド基質分解法>
非特許文献(須見洋行,岡本猛,石井陽一,ルンブロキナーゼ(ミミズ酵素)の力価検定法−フィブリンおよび合成アミド分解能−,薬理と臨床,20:347−351,2010)記載の方法に準じて、合成アミド基質分解活性を測定した。
合成アミド基質は、ウロキナーゼの合成基質であるpyroGlu−Gly−Arg−pNA(BIOPHEN CS−61(44),コスモバイオ(株))をジメチルスルホキシド(DMSO)で5×10−3Mになるよう溶解し調製した。
上記で得られた測定試料0.1mlに、ホウ酸緩衝液(BSB)を0.8mlを加えて2分間インキュベーションした後、合成アミド基質0.1mlを加えて、37℃で5分間反応させた後、405nmの吸光度を測定し、1分間あたりの最大傾き(初速度)より、吸光係数10.79mM−1・cm−1で放出されたpNA量算を出した。得られた結果を下記表2に示す。
また、合成アミド基質分解活性を、タンパク質総量で割ることにより得られる比活性を下記表3に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
<フィブリン平板法>
非特許文献(T.Astrup&S.Mullertz,The fibrin plate method for estimating fibrinolytic activity.,Arch.Biochem.Biophys.,40:346−351,1952)記載の方法に準じて、フィブリン平板を作成し、フィブリン平板法による溶解活性の比較を行った。
フィブリノーゲン(Bovine FractionI−S,Sigma−Aldrich Co.)を終濃度0.5%になるようホウ酸緩衝液(pH7.8:BSB)で溶解した。この溶液10mlにトロンビン(臨床用,富士製薬工業(株))を0.5ml加えてフィブリン平板を作製した。
溶解面積の測定は、各測定試料30μlをのせたものを37℃で4時間インキュベーションにおいて生じる溶解窓の面積を測定することにより行った。また、タンパク分解酵素であるトリプシン(Bovine,Sigma−Aldrich Co.)の検量線を作成し、単位換算を行い、各測定試料中の蛋白質量から、比活性を求めた。結果を下記表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
本発明方法によると、有毒物質が除去された、良質なミミズ乾燥粉末を得ることができる。また、実施例1から明らかなように、本発明の製造方法により製造されたミミズ乾燥粉末は、高い力価の酵素を含む。
一方、比較例1および2から明らかなように、クエン酸処理のみでは水処理のみと比較して酵素活性が、2倍ないし4倍程度であった。また、比較例2および3の結果から明らかなように、クエン酸処理を先に行い、その後金属の塩化物で処理した場合は、クエン酸処理のみと酵素活性はあまり変わらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明方法により製造したミミズ乾燥粉末は、従来方法により製造したミミズ乾燥粉末と同様、血圧調節剤、抗高脂血症剤、糖尿病治療剤、血栓溶解剤などとして有用である。
また、この粉末を純水、アルコールなどにより抽出された溶液を遠心分離し、分子量別に分画することにより、医薬品、化粧品、サプリメントの有効成分として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ミミズをカリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩化物と接触させ、
その後、粉末状ヒドロキシカルボン酸と生ミミズとを接触させ、水で希釈してpH2〜5に調整し、3〜180分間保持した後、生ミミズを水洗し、摩砕し、得られた摩砕物を凍結乾燥することを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項2】
生ミミズをカリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウムからなる群から選ばれる金属の塩化物と接触させ、
その後、生ミミズをpH2〜5に調整したヒドロキシカルボン酸水溶液中に浸漬し、3〜180分間保持したのち、生ミミズを水洗し、摩砕し、得られた摩砕物を凍結乾燥することを特徴とするミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項3】
前記生ミミズを、10〜50時間明所に放置後、体皮に付着する汚物を剥ぎ取ってから、前記金属の塩化物と接触させる請求項1または2記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項4】
前記凍結乾燥が、摩砕物を−18℃〜−35℃で20〜240時間凍結させたのち、真空下で凍結乾燥することにより行われる請求項1〜3のいずれか一項記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項5】
前記金属の塩化物が、塩化ナトリウムである請求項1〜4のいずれか一項記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシカルボン酸が、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、マロン酸およびコハク酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか一項記載のミミズ乾燥粉末の製造方法。

【公開番号】特開2012−219070(P2012−219070A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87779(P2011−87779)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【特許番号】特許第4808822号(P4808822)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(506329948)Well Stone 有限会社 (4)
【Fターム(参考)】