説明

ミリ波イメージング装置

【課題】画像を処理することにより、信号可干渉性に起因する歪みを除去した画像を得る
ことができるミリ波イメージング装置を提供する。
【解決手段】図1のミリ波イメージング装置は、受信されたミリ波により像を撮像するミリ波帯撮像器C1およびミリ波帯撮像器C2と、ミリ波帯撮像器C1に接続されるアンテナANT1、ミリ波帯撮像器C2に接続され、アンテナANT1からのミリ波の照射方向と同一の照射方向にミリ波を照射し反射したミリ波を受信するアンテナANT2、を有するアンテナ送受信系とを備え、アンテナANT1とアンテナANT2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされていることで、ミリ波帯撮像器C1の画像とミリ波帯撮像器C2の画像を処理することにより、信号可干渉性に起因する歪みを除去した画像を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像を処理することにより、信号可干渉性に起因する歪みを除去した画像を得ることができるミリ波イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光に対して不透明なある種の媒質は、周波数が30GHzから300GHzにあるミリ波帯電磁波に対しては半透明に振る舞う。こうした媒質には、人間が身にまとう衣類、住宅建材として使用される木材などがある。この性質は隠匿された危険物の察知や、媒質内部の非破壊検査に応用しうるもので、その有用性は極めて大きい。殊にコンクリートの非破壊検査においてミリ波帯の価値の大きいことを本発明の請求者は見いだしている。図10にコンクリート建造物内部の概念図を示している。コンクリート内部には強度を確保する目的で鉄筋が置かれる。この他、さまざまな用途の配管が置かれる場合があり、表面は塗料の類で覆われる。塗料の類によってコンクリート表面が我々が直接視認することは困難な場合が多い。コンクリート内部の鉄筋の配置、配管の配置などを非破壊検知する方法にはマイクロ波パルスを用いる手法、あるいは超音波パルスを用いる手法が知られている。これらはコンクリート内部の構造を把握することに適するものの、コンクリート表面近傍の情報抽出に成功しない。入射パルスと物体からのエコーが重畳してきり分けができなくなることによっている。ところが一方、コンクリート表面にはその欠陥検知に関する非常に大きな情報が含まれるのである。具体的には表面に現れるクラックである。クラックはコンクリート内部の鉄筋の腐食により生ずる強度劣化を初め、その特性診断にきわめて有効な情報である。現況では、これを塗料を透過してかつ十分な空間解像度をもって検知する手法が知られておらず、塗料を剥離して視認で確認するような原始的な検査が行われているにすぎない。コンクリート表面近傍の非破壊検査手法が実現されれば住の安心安全を確保するという、非常に大きな作用がもたらされるであろう。
【0003】
概して媒質を透視する技術には、X線CT、超音波イメージング、核磁気共鳴イメージングなどが挙げられる。X線CTによる場合、X線の透過能が大きいゆえに、媒質よりの反射信号を検知することがむずかしく、X線発生装置とX線検知装置を対向して配置する必要が生じる。媒質透視を行うにあたって、反射信号を検知が可能となれば、単一の送受信器による簡素なシステム構成が可能であり、適用領域の拡大という観点からも強く望まれるところである。また、得られた像は実像の空間スペクトルに該当し、適当な画像処理を介して初めて人が理解できる像となる。像処理を必ず必要とすることもシステム規模の簡素化が難しいものとなる要因をなしている。システム規模の大なることは超音波イメージング、核磁気共鳴イメージングにおいても同様であって、万人が容易に使用することのできるような簡素な透視技術を提供することが求められる。X線はまた健康被害の恐れのあることも欠点といえる。
【0004】
ミリ波帯電磁波は周波数がX線、可視光に比し、格段に小さく、媒質を傷つける恐れはまずもってない。また、反射信号を受けて透視像を得ることが可能であり、大変魅力的なイメージング手法といえる。ミリ波帯電磁波を媒質に照射する際には、なるべく開口の大きなアンテナ(合成開口アンテナを含む)を単独で用いる形態と、アンテナから放射された電磁波を結像レンズ系を用いて媒質中に結像させる形態の二つが考えられる。前者では実像のフーリエ像が得られるために逆フーリエ変換を施す画像処理が不可避となる。内部の散乱過程がX線の場合のように先験的にわからないため、人間による恣意が介在してしまう。後者の場合には結像点の実像がそのまま得られるため、透視像の解釈に恣意が介在しない。一方、結像する方式によれば電磁波パワーを一点に集中させることができ、また物体内部のセンシングを行う場合には、パワー集中が可能な方式には一層魅力がある。しかしながら、物点および像点での十分な集光のためには応分をFナンバーを有するレンズを使用する必要があり、レンズ径および焦点距離に応分の大きさが要求され、コンパクトな撮像装置を実現することは難しい。
【0005】
さて、ところで、反射型イメージングを行う際に、入射ミリ波と散乱ミリ波の干渉性が問題となる場合がある。発振器のコヒーレンス時間が、実用上許される撮像時間を越えてしまうと、像には顕著な干渉縞が生じてしまうのである。散乱波の強度のみに注目する計測を行う場合には、この干渉縞を低減する必要がある。同様の技術がレーザ光源の設計においてなどでは知られるものの1)、ミリ波帯での実効性のある提案はこれまでなされていない。
【0006】
以上を勘案するならば、ミリ波帯電磁波による新しい非破壊検査手法を次のように実現すれば、多大な作用をもつ発明がかなう。
【0007】
(1)コンクリート表面のクラック検知などに成功する媒体を用いていること。
【0008】
(2)十分な空間解像度を有していること。
【0009】
(3)コンパクトで持ち運びができかつ高速撮像が可能であること。
【0010】
(4)反射信号検知の体をなしており対向に検知器を置くなどの煩雑なシステムでないこと。
【0011】
(5)入射波と散乱波との重ね合わせによる干渉縞を低減する機能を備えること。
【特許文献1】特公平9−121069号公報
【非特許文献1】菊地、「レーザ光発生装置、レーザビーコン装置及びレーザ画像表示装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、その目的とするところは、画像を処理することにより、信号可干渉性に起因する歪みを除去した画像を得ることができるミリ波イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1は、アンテナがそれぞれ接続されるとともに、ミリ波が各アンテナから照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像するミリ波帯撮像器C1およびミリ波帯撮像器C2と、ミリ波帯撮像器C1に接続されるアンテナANT1、ミリ波帯撮像器C2に接続され、アンテナANT1からのミリ波の照射方向と同一の照射方向にミリ波を照射し反射したミリ波を受信するアンテナANT2、を有するアンテナ送受信系とを備え、前記アンテナ送受信系が、所定の走査方向に走査されるミリ波イメージング装置であって、アンテナANT1とアンテナANT2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされていることを特徴とするミリ波イメージング装置を用いることによって上述する課題を解決する。
【0014】
本発明の請求項2は、複数のアンテナからなるアンテナアレイがそれぞれ接続されるとともに、ミリ波が各アンテナから照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像するミリ波帯撮像器アレイCA1およびミリ波帯撮像器アレイCA2と、ミリ波帯撮像器アレイCA1に接続されるアンテナアレイANTA1、ミリ波帯撮像器アレイCA2に接続され、アンテナアレイANTA1からのミリ波の照射方向と同一の照射方向にミリ波を照射し反射したミリ波を受信するアンテナアレイANTA2、を有するアンテナ送受信系とを備え、前記アンテナ送受信系が、所定の走査方向に走査されるミリ波イメージング装置であって、アンテナアレイANTA1とアンテナアレイANTA2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされていることを特徴とするミリ波イメージング装置を用いることによって上述する課題を解決する。
【0015】
本発明の請求項3は、各ミリ波帯撮像器C1、C2または各ミリ波帯撮像器アレイCA1、CA2を構成するミリ波帯撮像器は、ミリ波帯発振器OSC1と、ミリ波帯発振器OSC1のミリ波を変調するミリ波帯変調器SW1と、ミリ波帯変調器SW1で変調されたミリ波が与えられるとともにアンテナに接続されるミリ波帯信号分離器と、このミリ波帯信号分離器で分離されたミリ波により像を撮像するミリ波帯検波器D1とを備えることを特徴とする請求項1記載のミリ波イメージング装置を用いることによって上述する課題を解決する。
【0016】
本発明の請求項4は、ミリ波帯撮像器C1、C2の各像またはミリ波帯撮像器アレイCA1、CA2の各像を用いて信号可干渉性に起因する歪みを除去した像を得る装置を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のミリ波イメージング装置を用いることによって上述する課題を解決する。
【0017】
本発明の請求項5は、ミリ波帯撮像器C1、C2の各像またはミリ波帯撮像器アレイCA1、CA2の各像を示す式を微分およびフーリエ変換し、得られた各式と、前記オフセットに相当する位相差とを用いて、信号可干渉性に起因する歪みを除去した像を示す式を得ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のミリ波イメージング装置を用いることによって上述する課題を解決する。
【0018】
本発明の請求項6は、オフセット値がミリ波の波長の1/4の値であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のミリ波イメージング装置を用いることによって上述する課題を解決する。
【0019】
本発明の請求項7は、走査方向と撮像対象物の表面とが平行となるように制御する手段を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のミリ波イメージング装置を用いることによって上述する課題を解決する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アンテナANT1とアンテナANT2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされていることで、または、アンテナアレイANTA1とアンテナアレイANT2一方が他方に対し照射方向にオフセットされていることで、画像を処理することにより、信号可干渉性に起因する歪みを除去した画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1から図9を用いて、本発明に係るミリ波イメージング装置の実施の形態を説明する。
【0022】
図1には本発明の第1の実施の形態の構成をブロック図で表した。ミリ波帯撮像器C1は、内部にミリ波光源を有し、アンテナANT1に接続される。同様に、内部にミリ波光源を有するミリ波帯撮像器C2は、アンテナANT2に接続される。ミリ波帯撮像器C1とミリ波帯撮像器C2は同一の特性を有することが望ましい。
【0023】
ミリ波帯撮像器C1は、その内部のミリ波光源のミリ波がアンテナANT1から照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像する。
【0024】
ミリ波帯撮像器C2は、その内部のミリ波光源のミリ波が、アンテナANT1からのミリ波の照射方向と同一の照射方向に、アンテナANT2から照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像する。
【0025】
撮像の際には、アンテナANT1とANT2からなるアンテナ送受信系が所定の走査方向に走査される。
【0026】
第1の実施の形態では、アンテナANT1とアンテナANT2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされている。詳しくは、アンテナANT1とアンテナANT2の開口配置が照射方向に距離Xだけ互いに異なる。距離Xはミリ波波長程度の軽微なものでよく、設計パラメータであり本来任意である。本実施の形態ではアンテナから照射されたミリ波が撮像対象物によって反射された信号を光学系を介することなく直接撮像する。撮像対象物によるミリ波の回折が顕著でない場合には焦点深度の大きな撮像が実現される。
【0027】
ちなみに結像レンズ系を伴う撮像方式では、アンテナとレンズの距離、レンズと検知対象物の距離を数センチメートルから数十センチメートルの程度設ける必要が生じ、装置のコンパクト化が叶わない。本実施の形態では、撮像器のアレイ化を妨げる要因となりうる結像レンズ系を使用しないので、コンパクトで持ち運びができかつ高速撮像が可能となる。
【0028】
図2には、本発明の第2の実施の形態の構成をブロック図で表した。
【0029】
ミリ波帯撮像器アレイCA1は、第1の実施の形態のミリ波帯撮像器をアレイ化したものであり、複数のアンテナからなるアンテナアレイANTA1が接続される。このとき、ミリ波帯撮像器とアンテナは1対1で接続される。ミリ波帯撮像器アレイCA1は、ミリ波が各アンテナから照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像する。
【0030】
ミリ波帯撮像器アレイCA2は、第1の実施の形態のミリ波帯撮像器をアレイ化したものであり、複数のアンテナからなるアンテナアレイANTA2が接続される。このとき、ミリ波帯撮像器とアンテナは1対1で接続される。ミリ波帯撮像器アレイCA2は、ミリ波が各アンテナから、アンテナアレイANTA1からのミリ波の照射方向と同一の照射方向に照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像する。
【0031】
撮像の際には、アンテナアレイANTA1とANTA2からなるアンテナ送受信系がアレイの並び方向に対して直交する走査方向に走査される。
【0032】
この実施の形態では、アンテナアレイANTA1とアンテナアレイANT2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされている。
【0033】
つまり、第2の実施の形態は、ミリ波帯撮像器並びにアンテナがアレイ状に配置されることを除いては第1の実施の形態の特徴を共有している。
【0034】
このようなミリ波帯撮像器ならびにアンテナのアレイ化によって、撮像対象物の異なる部位の応答を同時に検知することが可能となり、第1の実施の形態に比して一層高速な検査が実現される特徴を有する。アレイ化した場合、結像レンズ系の導入は一層困難を伴う。レンズには収差があり、ミリ波照射領域をレンズ中央部分のみに限局して使用する必要がある。アレイ化によって撮像器の空間スケールが肥大化すると、レンズはそれ以上に巨大なものを使用することが不可避となる。コンパクトな装置化の求められている現況では実効性を伴わない。
【0035】
図3に各ミリ波帯撮像器C1、C2または各ミリ波帯撮像器アレイCA1、CA2を構成するミリ波帯撮像器の構成例を示す。
【0036】
ミリ波帯発振器OSC1の発振周波数f1は、ミリ波帯にあり、このミリ波帯発振器OSC1から出力されたミリ波はミリ波帯変調器SW1に入力される。
低周波信号生成器OSC11は、例えばkHz程度の低周波帯にある周波数の低周波信号を生成し、ミリ波帯変調器SW1は、入力された周波数f1のミリ波帯信号を低周波信号生成器OSC11の低周波信号で変調する。
【0037】
こうした変調作用を例えば強度変調の体裁で行う場合には、ダイオードの整流作用を利用するPINスイッチなどを用いる。
【0038】
ミリ波帯変調器SW1で変調されたミリ波はミリ波帯信号分離器SA1に与えられる。信号分離器SA1は三つのポートを持ち、ポートP1から入力された信号をポートP2に出力し、ポートP2に入力された信号をポートP3より出力する。
【0039】
たとえば、サーキュレータや方向性結合器として知られる素子がこの機能を実現する。この還流性を用いれば、ポートP1より入力された信号をポートP2にわたし、ターゲットからの散乱信号を再びポートP2より受けたのちに、これをポートP3にわたすことができる。
【0040】
ミリ波帯信号分離器SA1のポートP2に与えられたミリ波は、当該ポートP2に接続されたアンテナANT1より空間に放射される。放射されたミリ波は、撮像対象物で反射し、反射した散乱波はアンテナANT1で受信され、ミリ波帯信号分離器SA1の作用で入射波と分離されミリ波帯検波器D1に送られる。ミリ波帯検波器D1は、ミリ波の信号強度に応じた振幅に対し低周波信号生成器の出力信号を参照信号とする位相感応式の検出を行って像を撮像(可視化)する。
【0041】
さて、ここでアンテナANT1とアンテナANT2あるいはアンテナアレイANTA1とアンテナアレイANTA2の間に設定されるオフセットXの意義を図4および図5を用いて説明する。
【0042】
図4(a)に示すように、撮像の対象物にミリ波が入射されると一部が散乱(反射)され、一部が透過する。信号送受信を単一のアンテナを用いて行なう場合には、入射波と散乱波とが重ね合わされて、図4(b)に示すような定在波が誘起されてしまう。散乱計数をΓ、ミリ波の波数をkとすると、振幅二乗強度は空間座標zに対して、
【数1】

【0043】
なる依存性を呈することになる。空間的にアンテナ送受信系を走査する結果、図5に示すように散乱点のz方向の分布を拾って干渉縞が生じてしまう。これを除去し有意義な画像とすることが本実施の形態の効果である。
【0044】
さて、本実施の形態においては、オフセットXを設定した二つの撮像系で同時に撮像対象物を撮像する。
【0045】
図6ではX=λ/4とした場合の、各アンテナと撮像対象物の配置を表している。アンテナANT1と撮像対象物表面の距離をz1、アンテナANT2と撮像対象物表面の距離をz2としている。この場合には
【数2】

【0046】
撮像対象物表面に座標系(ξ,η)、その像面に座標系(x,y)をはり、レンズ系の伝達関数であるポイントスプレッド関数(Point spread function=PSF)をS(x−ξ,y−η)とする。アンテナANT1とANT2とは同一のPSFを有する光学系をなすように設計する。
【0047】
さて、位置(ξ,η)における対象物表面の反射係数をΓ(ξ,η)、z座標値をz(ξ,η)と書くとき、アンテナANT1および2により得られる撮像結果G1(x,y),G2(x,y)はそれぞれ、
【数3】

【0048】
と与えられる。これらの表式は干渉効果が顕著である場合によい近似であってよく実際を反映する。実際をよく反映することについては計測結果をもとに後述する。上記表式において、z1,z2の寄与を排除してΓ(ξ,η)の表式を得ることが、可干渉性に起因する像歪みを排除することを意味している。したがって、上記表式より、Γ(ξ,η)を得るための像処理フローを記述する。
【0049】
式(3)および式(4)をx、yもしくはそれらの関数で微分することをまず行なう。ここでは簡単のため、xで微分する。すると、
【数4】

【0050】
となる。ここで、G1,G2のxに関する偏微分をI1,I2とし、S′はPSFたるSのxについての偏微分を意味する。これらはフーリエ変換によって次のように表される。
【数5】

【0051】
いま、関係式(2)によって、上二式を変形すると、
【数6】

【0052】
となる。式(9)、(10)よりz1を消去すると、
【数7】

【0053】
が得られる。この式から明らかなように、散乱係数Γは、z1,z2に依存しない。このことから、本発明の方法で得られる像は、散乱点のz方向の分布に起因する干渉縞が生じないことが分かる。
【0054】
上記では、関係式(2)が成立する場合を例に説明した。この場合は、表式が簡単になり便利であるが、このことは、z1とz2の隔たりがλ/4の場合に限らず、任意の値に対しても成り立つので、これを説明する。そこで、z1−z2=δ/2とおく。
【数8】

【0055】
であり、書き改めれば、
【数9】

【0056】
と与えられる。上式右辺は、式(9)、(10)と同一である。従って、式(11)を求めたときと同様にして、z1,z2に依存しないΓが得られる。すなわち、オフセット値(z1−z2)が任意の値に対しても、散乱点のz方向の分布に起因する干渉縞が生じないことが分かる。
【0057】
以上の像処理フローの有効性を実測に基づく検証によって明確にする。
【0058】
図7(a)に示すような、ミリ波を入射せしめる面にクラックを設けたコンクリートの塊を撮像対象物とした。撮像に当たってはミリ波周波数を100GHzとした。その波長は空気中で3mmである。図7(b)には可干渉性による像歪みとして与えた解析モデルと実際の適合性を示す計測結果である。これを得るために、クラックの入ったコンクリート表面を2mmを刻みとして3回撮像した。上述の式を参考にすれば、一回目から三回目に得られる撮像結果I1,I2,I3は次のように書かれる。
【数10】

【0059】
ここでδは刻み値2mmを意味する。これらを適当に変形すると、
【数11】

【0060】
を得る。図7(b)は上式右辺の値をx,yそれぞれの位置において求めその値の散布の様をプロットしたものである。いま、δ=2mmであるから、クラックなどのかく乱要因の存在しない場合には、これらは
【数12】

【0061】
となるべきものである。図7(b)には値が−0.5を中心として分布する様が確認される。この結果によって、我々のモデルがよく実際を反映していることが裏付けられた。
【0062】
図8には、撮像された各画像とそれに対して像処理を施した後の画像を示す。図8(a)にはミリ波帯撮像器C1(ミリ波帯撮像器アレイCA1)により撮像された画像を示し、図8(b)にはミリ波帯撮像器C1(ミリ波帯撮像器アレイCA1)により撮像された画像を示す。図8(a)および図8(b)には表面に設けたクラックの像と、可干渉性による像歪みのそれぞれが重畳している様が確認できる。両者を選択的に取り除く方法なしには区別することは困難である。クラックの形状を先験的には知り得ない場合にはこの困難は一層顕著になるだろう。
【0063】
図8(c)には、図示しない装置により各画像を像処理した後の画像を示す。クラックのみがよく協調された画像を得ることに成功している。本実施の形態の有効性が実測によって裏付けられたことを主張するところである。
【0064】
なお、本実施の形態によっては、例えば図9に概念図を示すような理想的な非破壊検査装置を実現することができる。検知対象物に一次元のアレイセンサを近接して走査せしむる構成をとり、センサとともに検知対象内部の透視像がモニタに表示されるという機能を有する。X線、超音波では反射型検知は困難である。またマイクロ波帯レーダでは解像度に難があり、また装置の小型化が困難である。こうしたインタフェースをもって非破壊検査装置が実現されるのは検知媒体としてミリ波を用いることが鍵となっている。本実施の形態はミリ波帯撮像を実効性のあるものとするために不可避の要素を包含しており、きわめて重要な効果を有している。また、ミリ波を用いることによってミリメートル以下程度の空間解像度を確保し、コンクリート表面クラック等の検知にも成功する。
【0065】
上記のオフセット値は任意だが、式(2)に示すように、ミリ波の波長の1/4の値とすれば、式(13)よりも簡略化された式(8)を用いることができ、よって処理負担が少なく、迅速な処理が行える。
【0066】
また、上記式を用いた処理は、走査方向と撮像対象物の表面とが平行な場合に最適な結果が得られる。平行とするために、本実施の形態の装置側の配置を制御する手段を設けても良いし、逆に撮像対象物を回転させるなどしてその配置を制御する手段を設けても良い。具体的には、走査方向と撮像対象物表面とでなす角度を検出する手段と、検出された角度が0度になるように装置や撮像対象物を配置する手段とを設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施の形態の構成を説明する図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の構成を説明する図である。
【図3】ミリ波帯撮像器の構成例を説明する図である。
【図4】信号可干渉性を説明する図であり、詳しくは、図4(a)は、ミリ波信号の伝搬の様子を示す図であり、図4(b)は、定在波の励起を示す図である。
【図5】信号可干渉性に起因する像歪みの成因を説明する図である。
【図6】X=λ/4とした場合の、各アンテナと撮像対象物の配置を表した図である。
【図7】図7(a)は、撮像対象物の概要を示す図であり、図7(b)は、撮像結果のモデルとの適合性を示す図である。
【図8】図8(a)は、ミリ波帯撮像器C1等による画像を示す図であり、図8(b)は、ミリ波帯撮像器C2等による画像を示す図であり、図8(c)は、各画像を合成した後の画像の図である。
【図9】本実施の形態により実現可能な非破壊検査装置の概念図である。
【図10】コンクリート非破壊検査の概要を説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
ANT1,ANT2…アンテナ
ANTA1、ANTA2…アンテナアレイ
C1,C2…ミリ波帯撮像器
CA1、CA2…ミリ波帯撮像器アレイ
D1…ミリ波帯検波器
OSC1…ミリ波帯発振器
OSC11…低周波信号生成器
P1,P2,P3…ポート
SA1…ミリ波帯信号分離器
SW1…ミリ波帯変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナがそれぞれ接続されるとともに、ミリ波が各アンテナから照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像するミリ波帯撮像器C1およびミリ波帯撮像器C2と、
ミリ波帯撮像器C1に接続されるアンテナANT1、ミリ波帯撮像器C2に接続され、アンテナANT1からのミリ波の照射方向と同一の照射方向にミリ波を照射し反射したミリ波を受信するアンテナANT2、を有するアンテナ送受信系とを備え、
前記アンテナ送受信系が、所定の走査方向に走査されるミリ波イメージング装置であって、
アンテナANT1とアンテナANT2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされている
ことを特徴とするミリ波イメージング装置。
【請求項2】
複数のアンテナからなるアンテナアレイがそれぞれ接続されるとともに、ミリ波が各アンテナから照射され撮像対象物で反射して当該アンテナで受信されたときの当該受信されたミリ波により像を撮像するミリ波帯撮像器アレイCA1およびミリ波帯撮像器アレイCA2と、
ミリ波帯撮像器アレイCA1に接続されるアンテナアレイANTA1、ミリ波帯撮像器アレイCA2に接続され、アンテナアレイANTA1からのミリ波の照射方向と同一の照射方向にミリ波を照射し反射したミリ波を受信するアンテナアレイANTA2、を有するアンテナ送受信系とを備え、
前記アンテナ送受信系が、所定の走査方向に走査されるミリ波イメージング装置であって、
アンテナアレイANTA1とアンテナアレイANTA2の一方が他方に対し照射方向にオフセットされている
ことを特徴とするミリ波イメージング装置。
【請求項3】
各ミリ波帯撮像器C1、C2または各ミリ波帯撮像器アレイCA1、CA2を構成するミリ波帯撮像器は、ミリ波帯発振器OSC1と、ミリ波帯発振器OSC1のミリ波を変調するミリ波帯変調器SW1と、ミリ波帯変調器SW1で変調されたミリ波が与えられるとともにアンテナに接続されるミリ波帯信号分離器と、このミリ波帯信号分離器で分離されたミリ波により像を撮像するミリ波帯検波器D1とを備える
ことを特徴とする請求項1記載のミリ波イメージング装置。
【請求項4】
ミリ波帯撮像器C1、C2の各像またはミリ波帯撮像器アレイCA1、CA2の各像を用いて信号可干渉性に起因する歪みを除去した像を得る装置を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のミリ波イメージング装置。
【請求項5】
ミリ波帯撮像器C1、C2の各像またはミリ波帯撮像器アレイCA1、CA2の各像を示す式を微分およびフーリエ変換し、得られた各式と、前記オフセットに相当する位相差とを用いて、信号可干渉性に起因する歪みを除去した像を示す式を得ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のミリ波イメージング装置。
【請求項6】
オフセット値がミリ波の波長の1/4の値であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のミリ波イメージング装置。
【請求項7】
走査方向と撮像対象物の表面とが平行となるように制御する手段を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のミリ波イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−242780(P2006−242780A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59751(P2005−59751)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】