説明

ミリ波撮像装置

【課題】パッシブ型のミリ波撮像装置において、撮像時の反射板の駆動の影響を受けることなく画像を安定して撮像でき、しかも、その撮像画像から、人の足部に隠された物体を正確に検出できるようにする。
【解決手段】被写体2となる人体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することで、被写体2の画像を撮像するミリ波撮像装置において、被写体2から放射されたミリ波帯の熱雑音をラインセンサ12に入射させる経路を、ケース20に設けられた開口部22、反射板16、及びレンズ14にて構成し、しかも、開口部22と反射板16は、ケース20の下方に配置し、ラインセンサ12は、レンズ14を挟んで、ケース20の上方に配置する。この結果、撮像時に装置全体が大きく振動して被写体2の撮像精度が低下するのを防止でき、しかも、被写体2の足部に隠された物体を良好に検知できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより被写体を撮像するミリ波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体等の被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することによって、被写体を撮像し、その撮像画像から、被写体に隠された武器や密輸品等を検知する所謂パッシブ型のミリ波撮像装置が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
この提案のミリ波撮像装置では、レンズアンテナ及びポリゴンミラーを介して被写体を垂直方向に走査し、ポリゴンミラーで反射されたミリ波を、対物レンズを介してミリ波受信用のラインセンサに入射することで、ラインセンサから、垂直方向の走査位置毎に水平方向一ライン分の受信信号を順次取り込み、画像データを生成するようにされている。
【0004】
しかし、この提案のミリ波撮像装置のように、被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音をミリ波受信用のラインセンサに導く経路に2つのレンズを設けたり、被写体を走査するためにポリゴンミラーを使用したりすると、ミリ波撮像装置の部品点数が多くなり、装置の大型化を招くことが考えられる。
【0005】
一方、この提案のミリ波撮像装置に比べて部品点数を少なくすることのできるものとして、ミリ波受信用のラインセンサの正面にレンズを設け、被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音を、反射面を揺動可能な反射板を介してレンズに導くことで、反射板の揺動により被写体を垂直方向に走査しつつ、その走査位置毎に被写体から放射された水平方向一ライン分のミリ波帯の熱雑音をラインセンサに順次入射できるようにしたパッシブ型のミリ波撮像装置が知られている(例えば、非特許文献1等参照)。
【0006】
この非特許文献1に記載のミリ波撮像装置によれば、ミリ波を遮蔽可能なケース内に、反射板とレンズとラインセンサとを略垂直方向に一列に配置し、更に、被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音が反射板に入射し、その反射波がレンズを介してラインセンサに入射されるように、ケースの側壁にミリ波を通過させる開口を設ければよいことから、上記特許文献1に記載のミリ波撮像装置に比べて、部品点数を少なくして、ミリ波撮像装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−241352号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】SPIE(国際光工学会) 2009年4月16日 会報 Volume7309『Passive Millimeter-Wave Imaging Technology XII』73090B-1〜12頁(Fig.5、Fig.10参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1に記載のミリ波撮像装置では、被写体である人の上半身に対向して反射板が配置されるように、ケース内部の上方に反射板及び反射板を回転軸周りに回動させるアクチュエータを設け、その下方にレンズ及びイメージセンサを設けるようにされている。
【0010】
このため、被写体となる人物が胸ポケットや胴回りに隠し持った物体については、撮像画像から検知できるものの、被写体となる人物が、ズボンやスカートに覆われた足部に物体を隠していた場合には、その物体を検知し難いという問題があった。
【0011】
つまり、非特許文献1に記載のように、反射板を人の上半身に対向するよう上方に配置された状態で、反射板よりも下方の足部を撮像する場合、足部から放射されたミリ波(熱雑音)の経路が長くなるため、レンズのピントが合わなくなり、撮像感度が悪くなる。また、人の足部は胴体部分よりも体温が低くなるので、より撮像感度が低くなる。
【0012】
このため、非特許文献1に記載のミリ波撮像装置では、人の足部に物体が隠されていても、撮像画像からその物体を識別するのは難しくなるのである。
また、反射板や反射板を回転軸周りに回動させるアクチュエータをミリ波撮像装置の上方に配置すると、装置の重量バランスが悪くなり、アクチュエータの駆動によって装置全体が揺れて、撮像画像が乱れるという問題も考えられる。
【0013】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより被写体を撮像するパッシブ型のミリ波撮像装置において、撮像時の反射板の駆動の影響を受けることなく画像を安定して撮像でき、しかも、その撮像画像から、人の足部に隠された物体を正確に検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載のミリ波撮像装置は、
ミリ波帯の熱雑音を受信するための複数の受信素子を直線状に配置してなるラインセンサと、
ミリ波帯の熱雑音を前記ラインセンサの各受信素子に入射させるためのレンズと、
被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音を前記レンズに向けて反射する反射板と、
前記反射板を水平方向に配置された回転軸周りに回動させることで、前記被写体を垂直方向に走査し、各走査位置にて前記被写体から放射された水平方向一ライン分のミリ波帯の熱雑音を、前記反射板及び前記レンズを介して前記ラインセンサの各受信素子に入射させる駆動手段と、
前記駆動手段を介して前記反射板を前記回動軸周りに回動させると共に、その回動に同期した複数の走査位置毎に前記ラインセンサの各受信素子から出力される受信信号を取り込むことで、前記被写体のミリ波画像を表す画像データを生成する制御手段と、
ミリ波帯の熱雑音を遮蔽可能な材料にて箱状に形成され、前記各部を収納するためのケースと、
を備え、前記ケース内では、前記ラインセンサが、前記受信素子の配列方向が前記回転軸と略平行な水平方向となるよう、前記レンズを挟んで前記反射板の上方に配置され、
前記ケースの下方側壁には、前記被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音を前記反射板に導く開口が形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のミリ波撮像装置において、
前記反射板は、前記回転軸周りに回動されることにより、所定の回動基準位置にて、前記筐体の開口よりも外側に位置する床面から入射されたミリ波帯の熱雑音を前記レンズに向けて反射するよう構成されており、
前記制御手段は、前記反射板を前記回動軸周りに回動させて前記被写体の画像データの生成を開始する前に、前記反射板を前記回動基準位置に制御することにより、前記床面から入射されたミリ波帯の熱雑音に対応した受信信号を前記ラインセンサから取り込み、該受信信号に基づき、前記画像データに対する補正値を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載のミリ波撮像装置においては、被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音をラインセンサに入射させる経路は、駆動手段により回動される反射板と、この反射板とラインセンサとの間に設けられたレンズとから構成されている。
【0017】
このため、本発明のミリ波撮像装置によれば、上述した非特許文献1に開示されたものと同様、特許文献1に記載のミリ波撮像装置に比べて、部品点数を少なくして、装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0018】
また、ラインセンサ、レンズ、反射板、駆動手段、及び制御手段は、ミリ波帯の熱雑音を遮蔽可能な材料にて箱状に形成されたケース内に収納されるが、このケース内では、ラインセンサが、受信素子の配列方向が回転軸と略平行な水平方向となるよう、レンズを挟んで反射板の上方に配置され、ケースの下方側壁には、被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音を反射板に導く開口が形成されている。
【0019】
このため、本発明のミリ波撮像装置によれば、ケース内の下方に、反射板と反射板を回転軸周りに回動させる駆動手段とを配置することができることから、これら各部とその上方のレンズとにより、非特許文献1に記載のものに比べて、ミリ波撮像装置の重心の位置を低くすることができる。
【0020】
よって、本発明によれば、駆動手段により反射板を回動させた際に、ミリ波撮像装置自体が振動するのを防止し、被写体を安定して撮像することができる。
また、反射板がミリ波撮像装置の下方に配置されることから、人が被写体である場合の撮像感度は、人の上半身よりも足部の方が良くなり、その撮像画像から、足部に隠された物体を検知できるようになる。
【0021】
また、本発明のミリ波撮像装置によれば、非特許文献1に記載されたものに比べて、人の足部の撮像感度が良くなり、人の上半身の撮像感度は低下するが、人の上半身は足部に比べて温度が高いことから、上半身の撮像感度が大きく低下して、人が胸ポケット等に隠した物体の検出精度が低下するようなことはない。
【0022】
よって、本発明のミリ波撮像装置によれば、空港等で危険物をチェックするのに極めて有効な装置となり得る。
なお、ケースの下方側壁に設ける開口は、被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音(換言すれば電波)を通過させるためのものであるため、ミリ波帯の電波を透過可能な材料にて閉塞してもよい。そして、このようにすれば、ケース内に不要なもの(ゴミや埃等)が侵入するのを防止できる。
【0023】
ところで、ミリ波受信用のラインセンサは、反射板による被写体の垂直方向の走査に同期して、被写体の水平方向一ライン分のミリ波画像を順次生成するためのものであるが、ラインセンサを構成する各受信素子は、温度変化等の使用環境によってミリ波の検出感度が変化するため、撮像時には、各受信素子の受信特性を測定して、その測定結果に基づき画像データを補正するようにするとよい。
【0024】
そして、このためには、例えば、各受信素子に基準となる一定レベルのミリ波を入射し、そのとき各受信素子から出力される受信信号の信号レベルを測定して、その測定した信号レベルの基準値からのずれに基づき、補正データを生成するようにすればよい。
【0025】
また、こうしたラインセンサの校正動作は、電波吸収体を使って、各受信素子に入射されるミリ波を一定レベル(略零)にすることが考えられるが、このようにするには、筐体の開口に電波吸収体を配置する必要があり、構造が複雑になる。
【0026】
そこで、ラインセンサの校正動作をより簡単にできるようにするには、請求項2に記載のように、反射板を、回転軸周りに回動された際に、所定の回動基準位置にて、筐体の開口よりも外側に位置する床面から入射されたミリ波帯の熱雑音をレンズに向けて反射するよう構成し、制御手段において、反射板を回動軸周りに回動させて被写体の画像データの生成を開始する前に、反射板を回動基準位置に制御することにより、床面から入射されたミリ波帯の熱雑音に対応した受信信号をラインセンサから取り込み、その受信信号に基づき、画像データに対する補正値を生成するようにするとよい。
【0027】
つまり、本発明のミリ波撮像装置によれば、反射板がケースの下方に配置されていることから、反射板の回動範囲(換言すれば走査範囲)を、被写体画像を撮像するのに要する範囲よりも少し広げることで、床面から放射されるミリ波帯の熱雑音をラインセンサに入射させることができる。そして、床面から放射されるミリ波帯の熱雑音は、床面の材質により異なるものの、床面の材質を変更しなければ、略一定になる。
【0028】
そこで、本発明(請求項2)では、被写体の撮像動作に入る前に、床面から放射される一定レベルのミリ波帯の熱雑音をラインセンサに入射させて、そのときラインセンサから得られる画像データの基準値からのずれを求め、そのずれに基づき、被写体を撮像した際の画像データに対する補正値を生成するのである。
【0029】
この結果、本発明によれば、ケースの開口に電波吸収体を設ける等、ラインセンサ校正のための作業を行うことなく、ラインセンサの校正を行うことができ、ミリ波撮像装置の使い勝手を向上できる。
【0030】
なお、制御手段は、画像データに対する補正値を生成するが、この補正値は、画像データを直接補正するものであっても良いが、その画像データの元になる各受信素子からの受信信号を補正する補正値であってもよく、或いは、各受信素子からの受信信号の出力経路に設けられた増幅回路のゲインを調整するための補正値であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態のミリ波撮像装置の構成を表す概略構成図である。
【図2】図1に示す撮像制御回路で実行される制御処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明が適用されたミリ波撮像装置10の構成を表す概略構成図である。
本実施形態のミリ波撮像装置10は、空港などで乗客が危険物を隠し持っていないかどうかをチェックするのに使用されるものであり、検査対象領域に位置する乗客を被写体2として、被写体2から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより被写体2の画像を撮像し、その撮像画像(画像データ)を外部のディスプレイや記憶装置へ出力するよう構成されている。
【0033】
すなわち、ミリ波撮像装置10は、ミリ波帯の熱雑音を受信するための複数の受信素子(図示せず)を直線状に配置することにより構成されたラインセンサ12、ミリ波帯の熱雑音を集波してラインセンサ12の各受信素子に入射させるためのレンズ14、及び、被写体2から放射されたミリ波帯の熱雑音をレンズ14に向けて反射する反射板16、を備える。
【0034】
そして、これら各部は、ミリ波帯の熱雑音を遮蔽可能な材料にて箱状に形成され、下方の側壁の一部が開口されたケース20内に収納されている。
ここで、ラインセンサ12は、受信素子の配列方向が水平方向となり、各受信素子へのミリ波の入射面が下方を向くように、ケース20内の上方に固定されている。また、ラインセンサ12には、各受信素子からの受信信号をそれぞれ増幅する増幅回路や受信信号をそれぞれ検波する検波回路が内蔵されており、各検波回路により検波された検波信号(ミリ波の受信レベルを表す信号)を後述の撮像制御回路30に出力する。
【0035】
次に、反射板16は、ケース20の側壁に形成された開口部22からケース20内に入射したミリ波を、レンズ14を介してラインセンサ12に導くためのものであり、ケース20内の下方に、レンズ14を挟んでラインセンサ12と対向するよう配置されている。
【0036】
また、反射板16は、ラインセンサ12の受信素子の配列方向と平行な回転軸16aを介して、ケース20内の下方に取り付けられており、反射板16の反射面は、回転軸16a周りに回動可能である。
【0037】
そして、反射板16において、ラインセンサ12と対向する反射面とは反対側の裏面で、且つ、回転軸16aから離れた位置には、反射板16を回転軸16a周りに回動させて、ラインセンサ12に対する反射板16の反射角度を調整するためのアクチュエータ18が設けられている。
【0038】
このアクチュエータ18は、反射板16の反射角度を、図に示す角度範囲Aで変化させることで、レンズ14を介してラインセンサ12に入射されるミリ波帯の熱雑音の放射位置を、被写体2の頭部から足部にかけて変化させるものである。つまり、アクチュエータ18は、被写体2を、頭部から足部にかけて垂直方向に走査させる。
【0039】
また、アクチュエータ18は、反射板16の反射角度を、被写体2の走査領域である角度範囲Aを超えて垂直方向にずらし、図に示す角度Bとすることで、ラインセンサ12に対し、ミリ波撮像装置10と被写体2との間の床面から放射されたミリ波帯の熱雑音を入射させることもできるようにされている。
【0040】
なお、図1から明らかなように、本実施形態のアクチュエータ18は、反射板16の裏面にロッドの先端が接続されて、ロッドの突出量を調整することにより反射角度を調整可能なソレノイドにより構成されている。
【0041】
ただし、アクチュエータ18は、モータを用いて構成してもよい。つまり、モータの回転軸を、複数のロッドを連結したリンク機構を介して、反射板16の裏面に接続するようにすれば、モータの回転により反射板16の反射面を所望角度で変化させることができることから、アクチュエータ18をモータにて構成してもよい。
【0042】
次に、ケース20内のラインセンサ12近傍には、撮像制御回路30が設けられている。
撮像制御回路30は、制御演算用のマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を中心に構成されており、アクチュエータ18を駆動するための駆動回路を備える。
【0043】
そして、撮像制御回路30は、マイコンが予め設定された撮像制御処理を実行することにより、アクチュエータ18を駆動することにより被写体2の撮像位置を垂直方向に走査させつつ、所定の走査位置毎に、ラインセンサ12から水平方向一ライン分の検波信号を順次取り込み、その取り込んだ水平方向一ライン分の検波信号を垂直方向に並べることで、被写体2の撮像画像を表す画像データを生成し、その画像データを外部のディスプレイや記憶装置へ出力する。
【0044】
以下、このように被写体2を撮像するために撮像制御回路30にて実行される制御処理を図2に示すフローチャートに沿って説明する
図2に示す制御処理は、撮像制御回路30に撮像開始指令が入力されてから撮像停止指令が入力されるまでの間、被写体2を撮像するために実行される処理であり、この制御処理が開始されると、まずS110(Sはステップを表す)にて、撮像制御回路30に内蔵された駆動回路を介してアクチュエータ18を駆動することにより、反射板16の反射角度を、ミリ波撮像装置10前方の床面から放射されたミリ波帯の熱雑音をラインセンサ12に導く「角度B」に制御する。
【0045】
そして、続くS120では、この「角度B」位置にてラインセンサ12から水平方向一ライン分の検波信号を読み込み、続くS130にて、その読み込んだ一ライン分の検波信号の基準値からのずれを、画素毎(換言すれば受信素子毎)に算出する。
【0046】
つまり、床面から放射されるミリ波帯の熱雑音は略一定であることから、本実施形態では、床面から放射されたミリ波帯の熱雑音を校正用の基準となる熱雑音として、ラインセンサ12を介して検出し、その検出結果(つまり検波信号)の基準値からのずれを求めることで、温度変化等、ミリ波撮像装置10の使用環境変化に伴う検波信号の誤差を算出するのである。
【0047】
そして、このようにS130にて、検波信号の誤差が算出されると、続くS140にて、その算出された誤差に基づき、今後ラインセンサ12で得られる検波信号を補正するための(換言すれば、検波信号から環境変化に伴う誤差成分を除去するための)補正データを生成し、マイコンのメモリに記憶する。
【0048】
つまり、本実施形態では、被写体2の撮像を開始する前に、S110〜S140の処理を実行することで、ラインセンサ12を介して得られる検波信号(換言すれば画像データ)に対する補正値(補正データ)を求めるのである。
【0049】
そして、S140にてその補正データが記憶されると、S150に移行し、被写体2の撮像を開始する。
すなわち、S150では、反射板16の反射角度が垂直走査用の角度範囲A内で変化するようにアクチュエータ18を駆動して被写体2を垂直方向に走査する、被写体2の走査制御(換言すれば、アクチュエータ18の駆動制御)を開始する。
【0050】
そして、続くS160では、ラインセンサ12から垂直方向1ライン分の検波信号を取り込み、続くS170にて、その取り込んだ一ライン分の検波信号を、S140で記憶した補正データを用いて画素毎に補正し、その補正後の検波信号を記憶し、続くS180にて、垂直方向一走査分の検波信号の取り込みが終了したか否かを判断して、垂直方向一走査分の取り込みが終了していなければ、再度S160に移行する、といった手順で、垂直方向一走査分の検波信号の取り込み及び補正を実行する。
【0051】
次に、S180にて、垂直方向一走査分の検波信号の取り込みが終了したと判断されると、S190に移行して、上記S170の処理で垂直方向の所定の走査位置毎に記憶された全検波信号から2次元画像データを生成し、その生成した画像データを外部装置(上述したディスプレイ等)に出力する。
【0052】
そして、S190にて画像データの生成・出力を実行すると、続くS200にて、被写体2の撮像を継続するか否か(換言すれば、撮像停止指令が入力されたか否か)を判断し、撮像停止指令が入力されておらず、被写体2の撮像を継続する場合には、再度S160に移行し、そうでなければ、S210にて、アクチュエータ18の駆動を停止することで、反射板16による被写体2の走査を停止させ、当該制御処理を終了する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態のミリ波撮像装置10においては、被写体2から放射されたミリ波帯の熱雑音をラインセンサ12に入射させる経路が、ケース20に設けられた開口部22、反射板16、及びレンズ14にて構成されており、しかも、開口部22と反射板16は、ケース20の下方に配置され、ラインセンサ12は、レンズ14を挟んで、ケース20の上方に配置されている。
【0054】
このため、本実施形態のミリ波撮像装置10によれば、非特許文献1に記載のものに比べて重心の位置を低くすることができ、アクチュエータ18により反射板16を回動させた際に装置全体が大きく振動して、装置が倒れやすくなるとか、その振動により被写体2の撮像精度が低下する、といったことを防止できる。
【0055】
また、反射板16がミリ波撮像装置10の下方に配置されることから、被写体である人の撮像感度は、上半身よりも足部の方が良くなり、その撮像画像から、足部に隠された物体を良好に検知できるようになる。よって、本実施形態のミリ波撮像装置10によれば、空港等で危険物をチェックするのに極めて有効な装置となり得る。
【0056】
また、本実施形態では、反射板16をケース20内の下方に配置し、ラインセンサ12をケース20内の上方に配置しているので、ラインセンサ12で得られる検波信号(画像データ)を補正するための補正データを生成する際には、反射板16の反射角度を、床面から放射されたミリ波帯の熱雑音がラインセンサ12に入射されるように制御すればよい。
【0057】
このため、開口部22を電波吸収体で閉塞する等、補正データ生成のための準備をする必要がなく、ミリ波撮像装置10の使い勝手を向上できる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
【0058】
例えば、上記実施形態では、温度等の使用環境変化に伴い撮像画像を補正するための補正データは、ミリ波撮像装置10前方の床面から放射されたミリ波帯の熱雑音をラインセンサ12に入射させることにより算出するものとして説明したが、例えば、図1に示すように、補正データ生成用のミリ波帯の熱雑音をラインセンサ12に入射させるための床面には、予め電波吸収体32を埋設しておくようにしてもよい。
【0059】
そしてこのようにすれば、補正データ生成時にラインセンサ12に入射されるミリ波帯の熱雑音を、より確実に一定にすることができ、補正データの生成精度を向上して、環境変化があっても常時鮮明な撮像画像が得られるようにすることができる。
【0060】
また、上記実施形態では、ケース20の下方側壁には、単に開口部22が形成されるものとして説明したが、この開口部22は、被写体2から放射されたミリ波帯の熱雑音(電波)をケース20内の反射板16に導くためのものであるため、ミリ波帯の電波を透過可能な材料にて閉塞してもよい。そして、このようにすれば、ケース20内に不要なもの(ゴミや埃等)が侵入するのを防止できる。
【符号の説明】
【0061】
2…被写体、10…ミリ波撮像装置、12…ラインセンサ、14…レンズ、16…反射板、16a…回転軸、18…アクチュエータ、20…ケース、22…開口部、30…撮像制御回路、32…電波吸収体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の熱雑音を受信するための複数の受信素子を直線状に配置してなるラインセンサと、
ミリ波帯の熱雑音を前記ラインセンサの各受信素子に入射させるためのレンズと、
被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音を前記レンズに向けて反射する反射板と、
前記反射板を水平方向に配置された回転軸周りに回動させることで、前記被写体を垂直方向に走査し、各走査位置にて前記被写体から放射された水平方向一ライン分のミリ波帯の熱雑音を、前記反射板及び前記レンズを介して前記ラインセンサの各受信素子に入射させる駆動手段と、
前記駆動手段を介して前記反射板を前記回動軸周りに回動させると共に、その回動に同期した複数の走査位置毎に前記ラインセンサの各受信素子から出力される受信信号を取り込むことで、前記被写体のミリ波画像を表す画像データを生成する制御手段と、
ミリ波帯の熱雑音を遮蔽可能な材料にて箱状に形成され、前記各部を収納するためのケースと、
を備え、前記ケース内では、前記ラインセンサが、前記受信素子の配列方向が前記回転軸と略平行な水平方向となるよう、前記レンズを挟んで前記反射板の上方に配置され、
前記ケースの下方側壁には、前記被写体から放射されたミリ波帯の熱雑音を前記反射板に導く開口が形成されていることを特徴とするミリ波撮像装置。
【請求項2】
前記反射板は、前記回転軸周りに回動されることにより、所定の回動基準位置にて、前記筐体の開口よりも外側に位置する床面から入射されたミリ波帯の熱雑音を前記レンズに向けて反射するよう構成されており、
前記制御手段は、前記反射板を前記回動軸周りに回動させて前記被写体の画像データの生成を開始する前に、前記反射板を前記回動基準位置に制御することにより、前記床面から入射されたミリ波帯の熱雑音に対応した受信信号を前記ラインセンサから取り込み、該受信信号に基づき、前記画像データに対する補正値を生成することを特徴とする請求項1に記載のミリ波撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−21954(P2012−21954A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162059(P2010−162059)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(000210964)中央電子株式会社 (81)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】