説明

ミリ波画像処理装置及びミリ波画像処理方法

【課題】 近傍界におけるアンテナ面上での球面波を考慮してマッチトフィルタ処理により画像化を行うことができるミリ波画像処理装置を提供する。
【解決手段】 ターゲットが放射する電波を受信するT字型アンテナ2と、前記T字型アンテナ2が受信した信号をA/D変換するA/D変換部9と、前記A/D変換されたデータのうち、横系の変換出力と縦系の変換出力の信号の組み合わせで相関処理を行う相関処理部11と、視野内の画素ごとにターゲットが焦点とする距離にあると想定して理論的に受信信号を生成した参照関数と前記T型アンテナが受信した球面波の受信信号との相関を取ってターゲットを画像化する画像化処理部15を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する又は静止している対象物が放射または反射するミリ波の電磁波を受信して、ターゲットとしての前記対象物の画像情報を得るミリ波画像処理装置及びミリ波画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体等は、赤外線と共にミリ波を放射している場合がある。また、すべての物体は、その温度と放射係数により決定される強度でミリ波帯の電磁波を放射および反射している。ミリ波の水蒸気及び物質に対する透過性は、赤外線の水蒸気及び物質に対する透過性よりも高い。このようなミリ波を受信して画像処理を行うことにより、霧で視程が遮られた遠方の景色や、厚いコートを着用した近傍の人体等をターゲットとして監視をすることができる。例えば、航空機が霧の中を着陸したり、空港などでセキュリテイゲートを通過する搭乗者などを監視したりする場合である。
【0003】
このようなターゲットを監視する方式としては、特許文献1に示すように、高精度な視野画像を取得して、監視を行う方式が提案されていた。特許文献1に示された技術は、高精度になるにつれて視野内の画像スキャンに時間がかかり移動対象物の画像化が困難になるのに対し、受信素子を複数設置して、スキャンの高速化を図ったものであった。
【0004】
特許文献1において、画像を高精度化するには、アンテナの開口径を大きくする必要がある。しかしながら、ミリ波帯の大型アンテナは、非常に高い工作精度が要求され、その製造が難しく、また、使用環境の温度変化による熱膨張歪み誤差が無視できない。さらに、これらのアンテナは遠方界で十分な指向性と利得が出るように設計されているため、対象物が近距離にある場合には、分解能は却って低下してしまう。さらに、大型の高分解能アンテナで一定の視野角内をスキャンするためには、ビーム幅が鋭くなるほど、分解能あたりの積分時間が十分に得られず、感度が低下するなど、高精度な画像を得るのは困難であった。
【0005】
そこで、特許文献2に示すように、アンテナの微少な歪み,接続ケーブルの温度特性などによる誤差の影響を抑えたレーダ装置が開発されている。特許文献2に示された技術は、対象物からのミリ波を2次元平面アンテナで受信し、その受信信号をA/D変換器でデジタルデータに変換し、そのデジタル信号に対して信号処理部で信号処理して画像データを取得するものである。そして、前記特許文献2では、測定に先立ち、校正信号源から校正信号を出力し、信号処理部の補正器にて位相補正データを得て、測定データの補正を行っている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−331725号公報
【特許文献2】特開2003−177175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に示す処理方式では、遠方に位置するターゲットを監視する場合には、ターゲットからの放射信号は平面波と見なして、十分な高分解能画像を生成できるが、近傍界に位置するターゲットを監視する場合には、アンテナに入射するターゲットからの信号は距離が近いため、平面波とは見なせず、画像のボケを生じるという問題があった。
【0008】
また、受信処理周波数帯域幅が広いほど高感度での受信が実現できるが、ミリ波のアンテナから受信部、さらにデジタル信号に変換するまで、全アンテナ系統の周波数帯域内の位相遅延量が同一でなければならない。これは、装置の製造を難しく高価にしていた。
【0009】
本発明の目的は、ターゲットがアンテナ開口サイズに比べて十分遠くにある遠方界では従来とおりの2次元フーリエ変換処理で高精度画像を生成し、ターゲットが近くの近傍界では参照関数による相関処理で画像化を行い、高精度画像を生成できるミリ波画像処理装置及びミリ波画像処理方法を提供することにある。
【0010】
さらに、本発明の目的は、装置の製造を容易にするため、全アンテナ系統の画像化に使用する全信号帯域に対する位相遅延量が揃っていなくても、系統毎に自由に補正が行え、位相特性を揃えることができるミリ波画像処理装置及び画像処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る画像処理方式を図1に基づいて説明する。二次元に展開されたアンテナとして、図1に示すように、縦系、横系に配列された複数のアンテナ2がアンテナ面1にT字型に配列されているものを例として考える。T字型以外にもL字型、三角形などいろいろな形が可能である。以下、アンテナ面1にT字型に配列された複数のアンテナ2を総称してT型アンテナ2という。
【0012】
本発明においては、信号帯域内位相補正とアンテナ位相補正の2つの位相補正方式と、ターゲットの距離により遠方界画像化処理または近傍界画像化処理を組み合わせて高精細なターゲットの画像化を可能にする。
【0013】
ところで、アンテナ面1は、環境温度の変化寒暖の差、或いは製造誤差等により完全な平面ではなく、歪みが発生する。前記歪みがアンテナ面1に発生すると、そのアンテナ面1に搭載されたT型アンテナ2の物理的な位置関係がずれてしまい、T型アンテナ2が受信する電波の位相にずれが発生し、高精度な画像データを取得することが不可能となる。
【0014】
そこで、本発明の位相補正方式においては、ターゲット4からT型アンテナ2までの距離Rを波長λで割ったものがT型アンテナ2のそれぞれのアンテナで受信する電波の位相φであることに鑑み、校正信号発生部5からT型アンテナ2のそれぞれのアンテナまでの距離Rを波長λで割った計算式、すなわち、φ=R/λに基づいて、T型アンテナ2のそれぞれのアンテナが受信する電波の位相を求めて置く。そして、実測した電波の位相と、計算された電波の位相との差を求め、アンテナ面1の歪み、すなわち、T型アンテナ2のそれぞれのアンテナが受信する電波の位相を補正する。
【0015】
前記実測した電波の位相の情報は、次のようにして取得する。すなわち、T型アンテナ2のそれぞれのアンテナに対する校正信号発生部5からの距離及び位置が既知であるから、前記校正信号発生部5からミリ波帯の微弱電波をT型アンテナ2に向けて発射し、その電波をT型アンテナ2のそれぞれのアンテナで受信し、A/D変換後、T型アンテナ2の全アンテナの信号間で相関積分処理をすることにより、各アンテナ間の位相差の実測データが得られる。
【0016】
前記実測位相情報と、理論計算で求めた位相情報の差分から、各アンテナの位置歪み、受信系の電気長差(位相遅延)による位相歪み量を推定し、アンテナ位相歪み補正関数を作成し、観測時の信号を補正する。
【0017】
もう一つの画像の劣化原因となる位相歪みに信号周波数帯域位相歪みがある。これは、それぞれT型アンテナ2のアンテナの受信系において、T型アンテナからA/D変換までの受信帯域内の周波数により決定される位相特性がT型アンテナ2の縦系及び横系アンテナ2a,2b毎に異なることによる。この位相特性は、校正信号発生部5を用いて計測することができる。上記と同じ試験校正で発信周波数を信号帯域内で上限から下限周波数まで変化させ、基準とする縦系及び横系アンテナ2a,2bでの受信信号の組み合わせで相関積分処理を行うことにより、縦系及び横系アンテナ2a,2bの位相周波数特性D1を計測する。そして、図4に示すように、その特性D1の逆周波数特性のフィルタ関数D2をフーリエ変換して、時間関数のフィルタ係数D3を生成し、A/D変換後のデータにトランスバーサルフィルタとして演算を行い、信号周波数帯域内位相補正を行う。
【0018】
次に、ターゲット4とT型アンテナ2の距離に応じて、T型アンテナ2が受信するターゲット4からの電波について考察し、画像化処理部13による画像化処理を切り替える。
【0019】
すなわち、図1に示すように、T型アンテナ2が搭載されたアンテナ面1の開口寸法をDとし、T型アンテナ2からターゲット4までの距離をRとすると、R<2D/λの場合、すなわち、近傍界の場合(距離R1)、T型アンテナ2が受信する電波は球面波となる。R>2D/λの場合(距離R2)、すなわち、遠方界の場合、T型アンテナ2が受信する電波は平面波としてみなすことができる。
【0020】
アンテナ面1の開口寸法を50cmとし、ターゲット4からの電波の周波数を94GHzとすると、波長λは約3mmとなるから、距離R={2×(0.5)}/0.0003=166.7mとなる。したがって、ターゲット4とT型アンテナ2の間の距離を約100m以上に設定しないと、アンテナ面1の開口寸法が50cmであるT型アンテナ2でターゲット4からの電波を平面波として画像化することができなくなる。ターゲット4が近傍界、例えば5〜6mの位置にある場合には、従来の二次元FFTによる画像化では、ボケが生じる。
【0021】
そこで、本発明に係るミリ波画像処理装置の画像化処理では、アンテナ面1の開口寸法に基づいて、T型アンテナ2が受信する電波の種類、すなわち球面波,平面波を、T型アンテナ2とターゲット4の間の距離Rに対応させて特定し、T型アンテナ2に対するターゲット4の距離に応じて、T型アンテナ2が受信する電波の種類が球面波である場合と、平面波である場合とに切り替えることにより、処理を使い分けることにしたものである。
【0022】
すなわち、本発明に係るミリ波画像処理装置は、ターゲットが放射する電波を受信するT字型アンテナと、前記T字型アンテナが受信した信号をA/D変換するA/D変換部と、前記A/D変換されたデータのうち、横系の変換出力と縦系の変換出力の信号の組み合わせで相関処理を行う相関処理部と、視野内の画素ごとに、ターゲットが焦点とする距離にあると想定して理論的に生成した受信信号を参照関数とし、前記T型アンテナが受信した球面波の相関処理出力と参照関数との相関を取ってターゲットを画像化する画像化処理部を有することを特徴とするものである。
【0023】
また、前記A/D変換部の出力を、あらかじめ測定された位相補正関数によるトランスバーサルフィルタで位相補正を行い、各アンテナ間の位相特性を揃える周波数帯域内位相特性補正部を有している。また、校正信号発信部からの受信処理位相実測値と理論値の電波の位相差に基づいて生成したアンテナ位相歪み補正関数を用いて、受信信号の位相歪みを補正するアンテナ位相特性補正部を有している。
【0024】
本発明によれば、ターゲットからの電波を受信し、前記受信した信号をA/D変換する。そして、前記A/D変換されたデータにT型アンテナ2の縦系及び横系アンテナ2a,2bの位相特性が等しくなるような周波数帯域内位相補正演算を行った後、横系の変換出力と縦系の変換出力の信号の組み合わせで相関処理を行う。さらに、校正信号発生部5の電波を受信したときの実測した相関出力位相と、校正信号発生部5の位置から計算した理論値の電波の位相との差に基づいて生成したアンテナ位相歪み補正関数を前記相関出力に複素乗算して、T型アンテナ2,接続ケーブルの歪み及び電気長(位相遅延)の変化を補正する。
【0025】
前記位相歪み補正後の信号を画像処理部で処理を行い、ターゲットの形状の画像化を行う。この画像化を行う場合、遠方にある対象物を画像化するのと、近傍にある対象物を画像化するのでは方法が異なっている。
【0026】
すなわち、遠方界のときは、T型アンテナ2の縦系及び横系アンテナ2a,2bで受信した信号の全ての組み合わせで相関処理した2次元出力データを二次元FFTすることにより、画像化処理を行う。これに対して、ターゲットが近傍界にあるときは、ターゲットが存在し、焦点を結ばせる距離の視野内の画素毎にターゲットがあると想定して理論的に相関処理後の受信信号を生成して参照関数とする。この参照関数は、画像化処理で出力される画素数分だけ準備される。そしてT型アンテナ2が受信した球面波の相関処理出力と前記参照関数との相関を取って画素毎の出力を計算し、ターゲット4の画像化処理を行う。
【0027】
前記T字型アンテナは、横系と縦系とに複数のアンテナをT字状に配列し電波を受信する構成、或いは最低2組のアンテナを横系と縦系に直線状に移動させてT字状軌跡を形成することにより、電波を受信する構成のいずれを採用してもよいものである。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明によれば、例えば94GHz帯のミリ波高周波を受信してターゲットの監視等を行うパッシブ方式において、縦、横の二次元に展開されたアンテナに対するターゲットの距離の如何に拘わらず、明瞭な画像データを取得することができる。さらに、アンテナや受信系が環境温度変化や機械的歪みを受け、受信信号が位相歪みを受けても、歪みによる位相補正を行って、常に高精細の画像データを取得できる。
【0029】
さらに、画像化に利用する信号周波数帯域内の位相特性がアンテナ素子毎に異なっていても、位相補正で常に高精細な画像を生成することができる。これは、ハードウェアの要求仕様を緩和し、かつ画像化に使用できる周波数帯域を広げる事ができ、高感度化も実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
図2に示すように、本発明の実施形態に係るミリ波画像処理装置は、受信処理表示部3と、校正信号発生部5とを有している。
【0031】
前記校正信号発生部5は、前記受信処理表示部3の二次元に展開されたアンテナ2に対して既知の距離の位置に設置する。前記校正信号発生部5は、ターゲット4からのミリ波に相当する電波をアンテナ2に向けて発射する構成になっている。
【0032】
前記受信処理表示部3は図1に示すように、二次元に展開されるアンテナの最も簡単な校正の一例として、1つのアンテナ面1に複数のアンテナ2をT字型に配列したアンテナを有している。以下、アンテナ面1にT字型に配列された複数のアンテナ2を総称してT型アンテナ2という。T型アンテナ2は、アンテナ面1の横方向に配列された複数の横系(H系)アンテナ2aと、アンテナ面1の縦方向に配列された複数の縦系(V系)アンテナ2bとからなり、H系アンテナ2aとV系アンテナ2bとは図1に示すようにT字状に組み合わされている。なお、図1に示すT字型アンテナ2は、横系と縦系とに複数のアンテナ2a,2bをT字状に配列して電波を受信する構成としたが、これに限られるものではない。最低2組のアンテナ2a,2bを横系と縦系に直線状に移動させてT字状軌跡を形成することにより、電波を受信する構成を採用してもよいものである。
【0033】
前記受信処理表示部3に組み込まれるT型アンテナ2は、アンテナ毎にそれぞれほぼ等しい電気的仕様を有する受信装置を備えている。前記受信装置は図2に示すように、低雑音増幅器(LNA)6と、周波数変換部7と、対をなすローパスフィルタ8a及び8bと、A/D変換部9と、周波数帯域内位相特性補正部10を備えている。これらの構成は、横系アンテナ2aと縦系アンテナ2bの系列毎に独立に備えられている。
【0034】
さらに、前記受信処理表示部3は、T型アンテナ2の全ての系列のデータを入力とする相関器11a及び積分器11bを備えている。そして、積分器11bの出力信号の位相を補正するアンテナ位相特性補正部12と、画像化処理部13と、表示部15と、位相特性関数を発生する制御部14を備えている。
【0035】
前記低雑音増幅器6は、前記T型アンテナ2から出力される受信信号を増幅する。前記周波数変換部7は、T型アンテナ2が受信する受信信号に対して、横系及び縦系の全アンテナ2a,2bの系列がコヒーレントになるように位相同期された局部発信信号で周波数変換を行い、それぞれのアンテナ2a,2bの受信信号からベースバンドの複素信号であるIQ信号(アナログ信号)を出力し、そのI信号を一方のローパスフィルタ8aに、残りのQ信号を他方のローパスフィルタ8bにそれぞれ出力する。
【0036】
前記ローパスフィルタ8a,8bは、周波数変換部のIQ出力信号がA/D変換のサンプリング周波数に対し、サンプリング定理を満足するように帯域制限を行い、高周波成分を除去する。前記A/D変換部9は、ローパスフィルタ8a,8bで高周波成分が除去されたアナログのIQ信号(受信信号)をデジタル信号にA/D変換する。
【0037】
前記周波数帯域内位相特性補正部10は、スルー状態で前記A/D変換部9からのデジタル信号を相関処理部11に出力すると共に、後述する制御部14で時間関数のフィルタ係数D3が設定された際に、前記フィルタ係数D3に基づいて、T型アンテナ2で受信されて復調された前記A/D変換部9からのデジタル信号について、画像化に使用するベースバンド周波数帯域内の位相特性が横系及び縦系の全アンテナ2a,2bの系列とも等しくなるようにトランスバーサルフィルタ演算を実行し、その出力信号を前記相関器11a及び前記積算器11bに出力する。
【0038】
前記相関器11a及び積分器11bは、前記周波数帯域内位相特性補正部10からの出力信号を、H系アンテナ2aとV系アンテナ2bの信号、すなわち縦系の変換出力と横系の変換出力の組み合わせで相関積分処理を行う。
【0039】
前記制御部14は、積分器11bからの出力を、縦系及び横系アンテナ2a,2bの系列間の未補正の位相特性データD1として取得し、前記未補正の位相特性データD1の逆周波数特性のフィルタ関数D2をフーリエ変換により時間関数のフィルタ係数D3として生成する。前記制御部14は、縦系及び横系アンテナ2a,2b系の周波数帯域内位相特性補正部10に前記フィルタ係数D3を設定する。さらに、前記制御部14は、前記位相特性データD1に基づいて、アンテナ位相特性補正関数D4を生成し、そのアンテナ位相特性補正関数D4をアンテナ位相特性補正部12に設定する。
【0040】
前記アンテナ位相特性補正部12は、前記相関器11a及び前記積算器11bからの相関出力に前記アンテナ位相特性補正関数D4を複素乗算して、T型アンテナ2の歪み及び電気長(位相遅延)、アンテナ2と受信信号処理部3とを接続するケーブルによる歪み及び電気長(位相遅延)の変化を補正する。
【0041】
前記画像化処理部13は、前記制御部14からの指令に基づいて、ターゲットとの距離により遠方界のとき使用する画像処理するための二次元FFT処理機能、近傍界のとき使用する画像処理するための参照関数生成機能と、前記T型アンテナ2が受信し処理された前記相関器11a及び前記積分器11bの相関出力と前記参照関数の相関を取ってターゲットを画像化する相関処理機能を有している。前記画像化処理部13は、視野内の画素ごとに、点ターゲットが焦点とする距離にあると想定して理論的に生成した相関積分出力を前記参照関数として生成する。前記表示部15は、前記画像化処理部13からの表示信号を可視映像として表示する。
【0042】
次に、図2に示す本発明の実施形態に係るミリ波画像処理装置を用いて、ターゲットからのミリ波について画像処理する場合について説明する。
【0043】
先ず、本発明の実施形態において、T型アンテナ2が受信する電波が平面波である、すなわち、図1に示すように、ターゲット4がT型アンテナ2に対して遠方の距離R2の位置に存在する場合について説明する。
【0044】
前記H系及びV系のT型アンテナ2で受信された信号は、それぞれ低雑音増幅器6で増幅され、その増幅後の受信信号が周波数変換部7にそれぞれ入力する。縦系及び横系の全てのアンテナ2a,2bに対応する周波数変換部7は、T型アンテナ2の受信信号を周波数変換し、ベースバンド周波数の信号(ベースバンド信号)に変換する。全ての低雑音増幅器6の電気長(位相遅延)は安定しており、全ての周波数変換部7は、縦系及び横系の全アンテナ2a,2bに渡って位相が完全に同期した局部発信信号を用いて前記周波数変換を行う。
【0045】
A/D変換部9は、複数の周波数変換部7からの前記ベースバンド信号を受け取ると、アナログ信号である前記ベースバンド信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号であるベースバンド信号を周波数帯域内位相特性補正部10に出力する。
【0046】
前記周波数帯域内位相特性補正部10は、スルーの状態で前記A/D変換部9からのデジタル信号を相関処理部11に出力すると共に、制御部14からの補正関数に基づいて、デジタル信号としての前記ベースバンド信号にトランスバーサルフィルタ処理を行い、各アンテナ系列間のベースバンド帯域内の位相特性が一定になるように補正を行う。
【0047】
前記補正関数は次のように生成する。まず、校正信号発生器5が発信周波数を信号帯域内で上限から下限周波数まで変化させ、T型アンテナ2に向けて照射する。前記周波数帯域内位相特性補正部10がスルーの状態で出力した前記A/D変換部9からのデジタル信号について、相関処理部11で相関処理を行い、制御部14は、積分器11bからの出力を、縦系及び横系アンテナ2a,2bの系列間の未補正の位相特性データとして取得する。
【0048】
前記制御部14は図4に示すように、前記未補正の位相歪み特性データD1の逆周波数特性であるフィルタ関数D2をフーリエ変換により時間関数のフィルタ係数D3として生成する。前記制御部14は、縦系及び横系アンテナ2a,2bに対応する全ての周波数帯域内位相特性補正部10に前記フィルタ係数D3を設定する。前記周波数帯域内位相特性補正部10は図4に示すように、前記フィルタ係数D3を用いて、A/D変換後のデータにトランスバーサルフィルタとして演算を行い、信号周波数帯域内位相補正を行う。
【0049】
前記相関器11a、積分器11bおよびアンテナ位相特性補正部での処理を図3に基づいて説明する。
【0050】
先ず、前記相関器11aがT型アンテナ2のH系アンテナ2aとV系アンテナ2bの受信信号間で相関処理を行う場合について説明する。
【0051】
図3に示すように、前記相関器11aは、H系アンテナ2aとV系アンテナ2bの信号相互間で相関演算を行う。前記相関器11aによる相関処理により、遠方界にあるターゲットからの放射信号に対しては、H系アンテナ2aとV系アンテナ2bで受信された信号間の、入射方向による位相差が検出され、全アンテナ2a,2b間の相関を求めることにより、アンテナ面1に入射される全受信信号のベクトル合成された位相面を求める。
【0052】
前記相関器11aはH系アンテナ2aとV系アンテナ2bの全ての組み合わせについて相関演算を行い、図3に示すように二次元の相関データD4を取得する。前記積分器11bは、前記相関器11aで相関処理された信号を長時間積分処理し、図3に示すような積分データD5を取得する。前記積分器11bによる積分の結果、T型アンテナ2に対応した前記受信装置の内部で発生する内部雑音が抑圧され、内部雑音レベル以下の非常に微弱な受信信号も画像化することができる。同時に受信処理表示部3内の共通的なスプリアスが存在する場合、そのスプリアスは相関積分処理で抽出される。そのため、受信処理表示部3の局部発信信号としては、共通信号源の逓倍信号ではなく、フェーズドロック発信器等による位相が同期した独立の発信信号を使うことが望ましい。
【0053】
前記積分器11bから出力される積分データは、アンテナ位相特性補正部12で二次元の補正関数が複素乗算され、アンテナの機械的歪みや、ケーブル長の歪みによる位相歪み成分が補正され、画像化処理部13に出力される。
【0054】
前記画像化処理部13は、前記アンテナ位相特性補正部12からのデータを処理して、表示部15にターゲット4の画像データを表示させる。
【0055】
アンテナ面1は、寒暖の差、或いは製造誤差等により歪みが発生する。前記歪みがアンテナ面1に発生すると、そのアンテナ面1に搭載されたT型アンテナ2の物理的な位置関係がずれてしまう。その結果、図5に示すように、計算で求められたT型アンテナ2が受信する電波の位相面T1と、実測した電波の位相面T2とがずれてしまい、高精度な画像データを取得することが不可能となる。例えば、ミリ波帯の94GHzを使用した場合、87ミクロン歪むと、10度の位相誤差が生じて画像の劣化となって現れる。この誤差を修正するため、校正信号発信部5の出力をT型アンテナ2で受信し、その受信位相と理論値の差分を制御部14で計算し、アンテナ位相特性補正部12で補正を行う。
【0056】
上記位相補正の理論値は次のように計算する。ターゲット4からT型アンテナ2までの距離Rを波長λで割ったものがT型アンテナ2で受信する電波の位相φであることに鑑み、ターゲット4からT型アンテナ2までの距離Rを波長λで割った計算式すなわち、φ=R/λに基づいて、計算される。
【0057】
次に、本発明の実施形態において、図1に示すように、T型アンテナ2に対してターゲット4が近傍界の距離R1に位置する場合の画像化処理について説明する。
【0058】
縦系と横系のアンテナ2a、2bで受信されたターゲット4からの放射信号は、相関器11a及び積分器11bで縦系と横系のアンテナ2a,2bの受信信号が相関演算される。図3において、積分器11bで出力される2次元の相関データは、遠方界にターゲットがある場合は現実のアンテナ面上の位相面分布を表しているが、ターゲットが近傍界にある場合は現実の位相面パターンとまったく異なる合成位相面となっている。したがって、前記相関データからターゲット4の画像を得るためには、参照関数を用いた相関処理を行う必要がある。
【0059】
前記参照関数を用いた処理は、画像化処理部13で行われる。すなわち、画像化処理部13は図6に示すように、ターゲット4がある距離(焦点化する距離)R1を推定し、その距離R1で、視野面Sのある1点に電波源となる点ターゲットT1(x,y)が存在したときのアンテナ面1における位相φ(φHn,φVn)を計算する。位相φは、R1/λから求める。
【0060】
前記画像化処理部13は、前記位相の信号を縦系及び横系のアンテナ2a,2bで受信し、相関処理したとして計算した出力を参照関数として生成する。そして、前記画像化処理部13は、前記参照関数と、実際に受信処理した相関積分出力の相関(共役複素数の乗算をして積分)を取ったものを、最初に仮定した点ターゲットの位置の出力成分とするマッチ&フィルタ処理を行う。
【0061】
以上説明した処理を画像化する視野面Sの全面で行い、前記画像化処理部13は、視野内の画素ごとに、ターゲットが焦点とする距離にあると想定して理論的に生成した受信信号を参照関数とし、前記T型アンテナが受信した球面波の相関処理出力と参照関数との相関を取ってターゲットを画像化し、その画像信号を表示部15に出力する。
【0062】
したがって、本発明の実施形態によれば、例えば94GHz帯のミリ波高周波を受信してターゲットの監視等を行うパッシブ方式において、T型アンテナに対するターゲットの距離の如何に拘わらず、明瞭な画像データを取得することができる。さらに、アンテナや受信系が環境温度変化や機械的歪みを受け、受信信号が位相歪みを受けても、歪みによる位相補正を行って、常に高精細の画像データを取得できる。
【0063】
さらに、画像化に利用する信号周波数帯域内の位相特性がアンテナ素子毎に異なっていても、位相補正で常に高精細な画像を生成することができる。これは、ハードウェアの要求仕様を緩和し、かつ画像化に使用できる周波数帯域を広げる事ができ、高感度化も実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように本発明によれば、例えば94GHz帯のミリ波高周波を受信してターゲットの監視等を行うパッシブ方式において、T型アンテナに対するターゲットの距離の如何に拘わらず、明瞭な画像データを取得することができる。
アンテナ歪み補正、信号帯域内位相補正機能を有するため、ハードウェアの実現性が高く、かつ製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係るミリ波画像処理装置の運用構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るミリ波画像処理装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るミリ波画像処理装置の相関積分処理とアンテナ位相特性補正処理を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係るミリ波画像処理装置の信号周波数帯域内位相補正の動作を説明する図。
【図5】実測値と理論値の位相のずれを説明する図である。
【図6】参照関数を用いた処理を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
1 アンテナ面
2 T型アンテナ
3 受信処理表示部
4 ターゲット
5 構成信号発生部
6 LNA
7 周波数変換部
8 LPF
9 A/D変換部
10 周波数帯域内位相特性補正部
11a 相関器
11b 積分器
12 アンテナ位相特性補正部
13 画像化処理部
14 制御部
15 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットからの電波を受信する2次元に配列したアンテナと、
前記アンテナが受信した信号をA/D変換するA/D変換部と、
前記A/D変換されたデータ信号の組み合わせで相関処理を行う相関処理部と、
視野内の画素ごとに、ターゲットが焦点とする距離にあると想定して理論的に生成した受信信号を参照関数とし、前記アンテナが受信した信号の相関処理出力と参照関数との相関を取ってターゲットを画像化する画像化処理部を有することを特徴とするミリ波画像処理装置。
【請求項2】
前記A/D変換部の出力を、あらかじめ測定された位相補正関数によるトランスバーサルフィルタで位相補正を行い、前記T型アンテナの縦系及び横系アンテナ間の位相特性を揃える周波数帯域内位相特性補正部を有することを特徴とする請求項1に記載のミリ波画像処理装置。
【請求項3】
校正信号発信部からの受信処理による実測値の位相と理論値の電波の位相との差に基づいて生成したアンテナ位相歪み補正関数を用いて、受信信号の位相歪みを補正するアンテナ位相特性補正部を有することを特徴とする請求項1に記載のミリ波画像処理装置。
【請求項4】
前記アンテナとして、横系と縦系とに複数のアンテナをT字状に配列したT型アンテナを用いたことを特徴とする請求項1に記載のミリ波画像処理装置。
【請求項5】
前記アンテナとして、アンテナを横系と縦系に直線状に移動させてT字状軌跡を形成することにより、時分割に電波を受信するアンテナを用いたことを特徴とする請求項1に記載のミリ波画像処理装置。
【請求項6】
ターゲットからの電波を受信する受信ステップと、
前記受信した信号をA/D変換するA/D変換ステップと、
前記A/D変換されたデータのうち、横系の変換出力と縦系の変換出力の信号の組み合わせで相関処理を行う相関処理ステップと、
視野内の画素ごとにターゲットが焦点とする距離にあると想定して理論的な受信信号を参照関数として生成する参照関数生成ステップと、
T型アンテナで受信した球面波のアンテナ間の相関出力と前記参照関数との相関を取ってターゲットの画像を生成するマッチ&フィルタステップを実行することを特徴とするミリ波画像処理方法。
【請求項7】
2組以上のアンテナを横系と縦系に直線状に移動させてT字状軌跡を形成することにより、電波を受信することを特徴とする請求項6に記載のミリ波画像処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−256171(P2007−256171A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83119(P2006−83119)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】