ムコール症および他の真菌性疾患を処置するための組成物および方法
本発明は、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む組成物を提供する。この組成物は、鉄キレート化合物であるデフェリプロンまたはデフェラシロクスを含み得る。この組成物中に含まれる抗真菌剤には、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤が挙げられる。本発明はまた、真菌症を治療または予防する方法を提供する。この方法は、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、この鉄キレート化合物は、真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、感染症の治療に関し、より詳細には、日和見性真菌症の有効な治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ムコール症は、接合菌網ケカビ目の菌類により引き起こされる、生命を脅かす感染症である。ケカビ目に属する菌類は、6つの科に分類され、その全てがムコール症を引き起こし得る(非特許文献1;非特許文献2および非特許文献3)。しかしながら、ケカビ科に属する菌類、および特にRhizopus oryzae属(Rhizopus arrhizus)は、圧倒的に感染症の最も一般的な原因である(非特許文献3)。増加しているムコール症の症例はまた、Cunninghamella科のCunninghamella種への感染に起因するものと報告されている(Cohen−Abboら、Clinical Infectious Diseases 17:173−77(1993);Kontoyianisら、Clinical Infectious Diseases 18:925−28(1994);Kwon−Chungら、American Journal of Clinical Pathology 64:544−48(1975)、およびVenturaら、Cancer 58:1534−36(1986))。ケカビ目の残りの4つの科は、疾患のそれほど多くはない原因である(Bearerら、Journal of Clinical Microbiology 32:1823−24(1994);Kamalam and Thambiah,Sabouraudia 18:19−20(1980);Kemnaら、Journal of Clinical Microbiology 32:843−45(1994);Lyeら、Pathology 28:364−65(1996)、および非特許文献3)。
【0003】
ムコール症の病原体は、免疫低下した宿主にほぼ一律に影響を与える日和見病原性菌である(Spellbergら、Clin.Microbiol.Rev.18:556−69(2005))。糖尿病性ケトアシドーシスの患者は、比類なくムコール症に感染し易く、他の菌類による感染症よりもこれらの感染症を発症することが多い。一方、好中球減少および副腎皮質ステロイド療法などの、ムコール症を発症する他の免疫低下症状に罹患している患者の顔では、ムコール症はカンジダおよびAspergillus種により引き起こされるような他の日和見性真菌症よりも発症が少ない。全体として、最近の人口に基づく研究は、ムコール症の発生率は1年間で100万人当たり1.7症例であると概算しており、これはアメリカ合衆国で1年間当たり約500症例に換算される(Reesら、Clinical Infectious Diseases 27:1138−47(1998))。それにもかかわらず、同種間骨髄移植を受けた患者などのよりハイリスクな患者においては、ムコール症の有病率は2〜3%もの高さであると記載されている(Maertensら、Bone Marrow Transplantation 24:307−12(1999);Martyら、N Engl J Med 350:950−52(2004))。さらに、最近の総説は、過去20年間にわたってムコール症の発症率が著明に増加したことを見出した(Gleissnerら、Leuk Lymphoma 45:1351−60(2004))。同様の増加は、主要な幹細胞移植センターによっても報告されている。例えば、報告は、過去20年間にわたってムコール症の発症率が倍増したことを記載している(Marrら、Clin Infect Dis 34:909−17(2002);Kontoyianisら、Clin Infect Dis 30:851−56(2000))。加齢したアメリカ合衆国の人口において糖尿病、癌および臓器移植の有病率が増加していることを考慮すると、ムコール症の発症率は、予測可能な将来もずっと変わらないことが予測される。
【0004】
浸潤性ムコール症に利用可能な治療としては、根底にある病因の逆行、緊急の広範な感染領域の外科手術的デブリードマン、および補助的な抗真菌療法を試みることが挙げられる(Edwards,J.,Jr.,Zygomycosis,p.1192−1199.In P.Hoeprich and M.Jordan(ed.),Infectious Disease,4th ed.J.B.Lippincott Co.,Philadelphia(1989);非特許文献1;非特許文献2;非特許文献4)。アンホテリシンB(AmB)は、浸潤性ムコール症の治療用に認可された唯一の抗真菌剤である(同上)。菌類は、相対的にAmBに抵抗性であるので、高投与量が必要とされ、このことは、しばしば、腎毒性および他の有害事象の原因となる(非特許文献4)。また、感染した病巣の外科的除去(例えば、脳型ムコール症(rinocerebral mucormycosis)の患者における眼の切除)がない場合、抗真菌療法のみが効くことはまれである(Edwards,J.(1989)、上述;非特許文献1)。外科的デブリードマンを高投与量のAmBと併用した場合でさえも、ムコール症に関連する死亡率は50%を超える(非特許文献4)。伝播性疾患を有する患者の死亡率は100%に近い(Husain et ah,Clin Infect Dis 37:221−29(2003))。この容認し難い高い死亡率、および非常に外観を損なう外科手術療法の極度の罹患率のために、浸潤性ムコール症を治療および予防するための新しい戦略の開発が急がれてきた。
【0005】
AmBの腎毒性は、腎毒性がAmBよりも少なく、より高い投与量で、かつより長期間にわたって投与され得るAmBの脂質製剤の使用を臨床医が実際に採用することを促進した(非特許文献1)。ムコール症を有する患者のいくつかの症例の報告は、15mg/kg/日までのアンホテリシンの脂質製剤を用いた治療に成功したと記載している(Cagatayら、BMC Infect Dis 1:22(2001);Ericssonら、Clinical Infectious Diseases 16:585−56(1993);Walshら、Antimicrob Agents Chemother 45:3487−96(2001))。それにもかかわらず、アンホテリシンの脂質製剤で治療された患者の死亡率は高いままであり、このことは、この致命的な疾患の新しい治療薬が必要とされていることを強調する。
【0006】
鉄は、実質的に全ての病原性微生物に、増殖および病原性のため必要とされる(Howard,D.H.,Clin Microbiol Rev 12:394−404(1999))。哺乳類の宿主では、微生物が利用可能な血清鉄は非常に少ないが、これは、血清鉄がトランスフェリンなどの担体タンパク質に高度に結合するからである(Artisら、Diabetes 31:1109−14.(1982))。血清鉄の隔離は、特にRhizopus oryzaeに対する主要な宿主防御機構である(Artisら、上述)。生物体は血清中での増殖が不十分であり、外来性の鉄が添加されたときにこの増殖抑制は無効になる(Artisら、上述;Boelaertら、Journal of Clinical Investigation 91:1979−86(1993))。
【0007】
利用可能な血清鉄のレベルが上昇した患者は、Rhizopus oryzaeおよび他の接合菌類による感染症には独特に感染し易いが、カンジダまたはアスペルギルスなどの他の病原性菌類に対しては感染の程度がより低い(非特許文献1;非特許文献4)。例えば、鉄キレート剤であるデフェロキサミンで治療した患者は、浸潤性ムコール症の発症率上昇が著明であるが、このことは、これらの患者における死亡率が80%を超えることと関連する(Boelaertら、Kidney International 45:667−71(1994))。デフェロキサミンは、ヒト宿主に対して鉄キレート剤として作用するが、そのRhizopus oryzaeに対する効果は全く逆であるように思われる。デフェロキサミンは、シデロフォアとして作用することにより、患者をRhizopus種感染症に罹患させ、このことにより、以前に利用不可能な鉄を菌類に提供する(Boelaertら、(1993)、上述)。Rhizopus種は、還元された鉄の細胞内輸送により、デフェロキサミンの内部移行なしに鉄−デフェロキサミン複合体から鉄を得る(de Lochtら、Biochemical Pharmacology 47:1843−50(1994))。この輸送は、おそらく、高親和性の鉄透過酵素により仲介されている。従って、増加した利用可能な血清鉄は、ムコール症病変形成の危険因子である。しかしながら、鉄キレート化合物は、病原体のシデロフォアとして作用し得るので、通常は治療上の処置に適用可能ではあり得ないであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ibrahimら、(W.E.Dismukes,P.G.PappasおよびJ.D.Sobel(編))「Zygomycosis」、Clinical Mycology,Oxford University Press,New York(2003)p.241−251
【非特許文献2】Kwon−Chung,K.J.およびJ.E.Bennett「Mucormycosis」、Medical Mycology,Lea & Febiger,Philadelphia(1992)p.524−559
【非特許文献3】Ribesら、Zygomycetes in Human Disease,Clin Microbiol Rev(2000)13:236−301
【非特許文献4】Sugar,A.M.(G.Mandell,J.BennettおよびR.Dolin(編))「Agent of Mucormycosis and Related Species」、Principles and Practices of Infectious Diseases、第4版、Churchill Livingstone,New York(1995)p.2311−2321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、ムコール症の病変形成の危険を減少させ得、かつ有効な治療上の処置を提供し得る化合物および方法が必要とされている。本発明は、この必要性を満足させ、かつ関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
要旨
本発明は、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む、組成物を提供する。組成物は、鉄キレート化合物であるデフェリプロンまたはデフェラシロクスを含み得る。組成物に含まれる抗真菌剤には、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤が挙げられ得る。本発明はまた、真菌症(fungal condition)を治療または予防する方法を提供する。方法は、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、鉄キレート化合物は、真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む。本発明により提供される真菌症を治療または予防する方法はまた、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を投与することを含み得る。本発明によれば、真菌症の発症の前に、少なくとも1つの鉄キレート化合物または少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を予防的に投与することを含む方法がさらに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、Rhizopus oryzaeに感染したDKAマウスのDefと鉄と生存率との関係を示す。マウス(各処置においてn>20)を、デフェリプロン(Def)またはDefおよびFeCl3(60mg/kg)で処置して、鉄キレート化の効果を無効にした。LAmB処置アームがコントロールとして含まれた。処置は、感染の24時間後に開始した。*感染未処置または非感染未処置およびFeCl3と比較してp<0.003。
【図2】図2は、Exjade(登録商標)(デフェラシロクス)が、Rhizopus oryzaeに感染した糖尿病性ケトアシドーシスマウスの生存率を改善することを示す。マウス(プラセボについてn=6およびExjade(登録商標)についてn=7)を、2.2×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子(感染被検体の肺から得た臨床単離物)を尾静脈注射することにより感染させた。感染の24時間後、マウスを、連続した7日間にわたって、プラセボ、1、3または10mg/kgのExjade(登録商標)1日2回の経口経管栄養により処置した。*プラセボと比較してp<0.05。
【図3】図3は、Rhizopus oryzaeに感染させ、かつ異なるDefの治療計画により処置したDKAマウスの生存率を示す。マウス(1群当たりn=6)を、毎日(qd)または隔日(qod)で50、100または200mg/kgのDefを合計4回投与することにより感染させ、24時間後に処置した。*感染未処置と比較してp<0.05。
【図4】図4は、実験的ムコール症の、DefとLAmBとの組み合わせでの処置を示す。マウス(感染未処置およびDefについてn=11、ならびにLAmBおよびDef+LAmBについてn=6)をRhizopus oryzaeに感染させ、次いで、24時間後、Def、LAmBまたは両方の薬物の組み合わせを合計4回投与することにより処置した。*未処置感染マウスと比較してp<0.05。
【図5】図5は、Rhizopus oryzaeに感染させ、かつDef、LAmBまたは両方で予防した好中球減少性マウスの生存率を示す。マウス(n=9)を、第1日目に、Def qod、LAmB qdまたは両方を合計4回投与することにより処置した。*LAmBまたはLAmB+Defについて、感染未処置と比較してP<0.05。
【図6】図6は、デフェリプロン、LAmBまたはプラセボで処置したDKAマウス(n=6)の脳Rhizopus oryzae負荷を示す。マウスを、3.8×103個の胞子に感染させ、いずれかの薬物での処置の2回の投与の54時間後に、脳を回収した。データを、中央値および四分位範囲として表示する。y軸は、アッセイの検出の下限を反映する。*多重比較のためのSteel検定により、プラセボに対してP<0.036。
【図7】図7は、銀メタンアミンで染色した壊死性鼻粘膜の凍結切片を示し、ケカビ目に一致する広いリボン様の中隔のある菌糸を有する菌類を示す。倍率840倍。
【図8】図8は、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeにおいてrFTRl遺伝子発現を誘発することを示す。特に、図8(a)は、RT PCRで検出された、鉄富化、鉄キレート(デフェラシロクス)または鉄キレートの無効化(塩化第二鉄で飽和させたデフェラシロクス)条件においてインキュベートされたRhizopus oryzae菌糸由来のrFTRl遺伝子の発現を示す。18s rDNAの発現は、RNA抽出の質を検証するために含まれた。図8(b)は、Rhizopus oryzaeGFP発現ベクターを構築するための戦略を示す略図である。プロモータは、rFtrlpまたはActlpのいずれかで表示する。図8(c)は、鉄富化、デフェラシロクスまたは塩化第二鉄で飽和させたデフェラシロクスを含む培地で増殖させたRhizopus oryzaeの、rFtrlpまたはActlp(共焦点顕微法およびフローサイトメトリにより決定された)により駆動されるRhizopus oryzaeにおけるGFP発現を示す。GFP発現は、共焦点顕微法により、緑色蛍光性細胞によって明らかになり、蛍光性細胞のチャネルFLl(y軸)における百分率は、フローサイトメトリによって明らかにされた。
【図9】図9(a)は、Rhizopus oryzae99−892(2.2×104個)に感染させ、かつ異なる投与量のデフェラシロクスで処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(1群当たりn>7)の生存率を示す。マウスは、プラセボ(ヒドロキシプロピルセルロースキャリア)、デフェラシロクス、または鉄キレート化の効果を無効にするためのデフェラシロクスおよび鉄(FeCl3,10mg/kg)で処置した。*生存率に対してP<0.05。図9(b)は、Rhizopus oryzae99−880(平均1.3×103個の胞子を接種)に感染させ、かつ24時間後に10mg/kgのデフェラシロクス1日2回で7日間処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(同様の結果を有する3つの別々の実験からn=24)の生存率を示す。プラセボと比較して*P<0.003。
【図10】図10(a)は、Rhizopus oryzae99−892(4.2×104個の胞子)に感染させ、かつプラセボ、デフェラシロクス(10mg/kg、1日2回)またはデフェラシロクスおよび鉄で処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(群当たりn=11)の脳および腎臓の真菌負荷を示す。3日間の処置を受けた4日後に、器官を回収した。データを、中央値±四分位範囲として表示する。y軸は、アッセイの検出の下限を反映する。図10(b)は、10(a)で述べたようにRhizopus oryzae99−892に感染させ、かつデフェラシロクス、デフェラシロクスおよび塩化第二鉄、またはプラセボで処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウスのヘマトキシリンおよびエオシンで染色された腎臓切片である。矢印は、組織中のRhizopus oryzae菌糸を示す。倍率400倍。*プラセボまたはデフェラシロクスおよび塩化第二鉄と比較した組織の真菌負荷についてP<0.002。
【図11】図11は、鉄キレートが、鉄過剰マウスと比べて、脾臓Th1およびTh2細胞リンパ球頻度を増加させ、かつ炎症促進性サイトカインのレベルを増加させることを示す。特に、図11(a)は、3.1×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させ、かつ、24時間後に、プラセボ、デフェラシロクスまたはデフェラシロクスおよび塩化第二鉄で処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(n=11)における脾臓Th1およびTh2細胞リンパ球頻度を示す。図11(b)は、11(a)で述べたのと同じマウス(n=11、感染の4日後に犠牲にし、脾臓および腎臓を回収した)のCytometric Bead Array(登録商標)による全器官サイトカイン分析の結果を示す。11(a)および(b)の両方におけるデータは、中央値±四分位範囲で表示する。*プラセボまたはデフェラシロクスおよび塩化第二鉄に対してP<0.02。**デフェラシロクスに対してP<0.05および¥塩化第二鉄に対してP<0.07。
【図12】図12は、デフェラシロクス単独、LAmB単独ならびにデフェラシロクスとLAmBとの組み合わせについてのムコール症に対する効力を示す。この図は、特に、Rhizopus oryzae99−880(平均1.5×103個の胞子を接種)に感染させ、かつデフェラシロクス単独、LAmB単独ならびにデフェラシロクス(10mg/kg 1日2回、7日間)およびLAmB(15mg/kg、4日間)の組み合わせで処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(同様の結果を有する2つの別々の実験でn>16)の生存率を示す。
【図13】図13は、デフェラシロクス単独、LAmB単独ならびにデフェラシロクスおよびLAmBの組み合わせについて、標的の臓器感染の減少における効力を示す。より詳細には、図は、Rhizopus oryzae99−880に感染したマウス(n>7)の脳および腎臓における組織のRhizopus oryzae負荷を示す。これらのマウスでは、処置は、感染の24時間後に開始し、プラセボ、デフェラシロクス(10mg/kg、1日2回)、LAmB(15mg/kg/日)または両方の薬物の組み合わせから構成された。器官を、2回の毎日の処置を受けた3日後に回収した。データは、中央値±四分位範囲として表示する。y軸は、アッセイの検出の下限を反映する。*プラセボと比較してP<0.003。**プラセボ、デフェラシロクスまたはLAmBと比較してP<0.003。*プラセボまたはデフェラシロクスと比較してP<0.01。
【図14】図14は、好中球減少性マウスでのRhizopus oryzae感染の処置における効力を示す。シクロホスファミドで処置したマウス(同様の結果を有する2つの別々の実験からn=19)を、2.7×103個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させた。感染の24時間後、マウスを、プラセボまたはデフェラシロクス(10mg/kg)を毎日(qd)または隔日(qod)で合計5回投与することにより処置した。プラセボと比較して*P=0.037。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、真菌症を治療するかまたは重症度を減少させるための鉄キレート化合物の使用に関する。鉄キレート化合物は、標的の真菌症に対して低いシデロフォアまたは異種シデロフォア活性を有するように選択される。いくつかの実施態様では、鉄キレート化合物は、標的の真菌症に対してシデロフォアまたは異種シデロフォア活性を実質的に有しないように選択される。対照的に、以前には利用不可能であった鉄を菌類に供給するシデロフォアまたは異種シデロフォアとして作用する鉄キレート剤、非シデロフォアおよび非異種シデロフォア鉄キレート化合物は、そのような促進または輸送活性を有しない。従って、本発明の鉄キレート剤は、周囲環境から鉄を除去するのに用いられ得る。抗真菌療法のための鉄キレートの1つの利点は、それが多くの病原性微生物の増殖および/または病原性に必要とされる重要な無機質の利用可能性を減少させることである。
【0013】
1つの実施態様では、本発明は、鉄キレート化合物および抗真菌剤を含む治療用組成物に関する。鉄キレート化合物は、デフェリプロン(1,2 ジメチル−3−ヒドロキシピリジ−4−ル)またはデフェラシロクス(4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル]安息香酸)であり得る。デフェリプロンおよびデフェラシロクスのいずれも、鉄過剰症の治療のための治療上の設定に用いられてきたものであるので、真菌症の治療または予防のための鉄キレート療法に安全かつ有効である。該分野で公知の抗真菌剤は、本発明の鉄キレート剤との組み合わせのために選択され得る。組み合わせは、真菌症の治療または予防において有利である。
【0014】
他の実施態様では、本発明は、真菌症の治療または予防の方法に関する。方法は、標的とする真菌の種に対して非シデロフォアまたは非異種シデロフォア鉄キレート化活性を示す個別の1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を投与することを含む。この方法はまた、鉄キレート剤単独と比較して効力の増強を達成するための抗真菌剤の同時投与を含み得る。鉄キレート化合物は、デフェリプロン、デフェラシロクスであり得るか、または該分野で公知の他の鉄キレート化合物から選択され得る。本発明の方法は、治療的および予防的処置に特に有利であるが、これは、鉄キレートが、真菌の病変形成のための重要な無機質の除去を標的とするからである。
【0015】
本発明は、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む組成物を提供する。
【0016】
鉄は、ほとんどの真菌の系で、増殖、生存および/または病原性のために必要とされる。菌類は、この重要な金属の十分な供給を確実にするための獲得、取り込みおよび貯蔵方法の種々のメカニズムを発達させてきた。本発明の組成物は、この重要な無機質を宿主環境から除去して真菌病原体を中和することを標的とする。本発明の組成物は、利用可能な鉄を枯渇させて真菌病原体の増殖、生存および/または病原性を抑制するための鉄キレート化合物を含む。
【0017】
本発明の組成物は、少なくとも1つの鉄キレート化合物と、少なくとも1つの抗真菌剤との組み合わせを含む。鉄キレート化合物および抗真菌剤の両方を包含することにより、菌類が増殖、生存および/または病原性のために使用する2つの異なる経路を標的とする抗真菌活性が組み合わせられる。2つまたはそれ以上の異なる真菌の経路を標的とすることにより、真菌症の有効な治療上の処置が提供されるが、これは、両方の標的経路の病原的回避の見込みが低いからである。
【0018】
本明細書中で用いられる用語「鉄キレート化合物」または「鉄キレート剤」は、キレート環(単数または複数)を形成するために、2つまたはそれ以上の別の結合部位の間で鉄を結合する化合物を意味することを意図する。鉄と結合または複合体化した鉄キレート化合物を、本明細書中で鉄キレートという。鉄キレート化合物は、2つの別の結合部位を用いて鉄を結合する二座であり得る。本発明の鉄キレート化合物はまた、それぞれ、鉄を3つ、4つまたはそれ以上の別の結合部位で結合する三座、四座または高次多座鉄キレート化合物であり得る。本発明の鉄キレート化合物は、鉄の全ての酸化状態(例えば、鉄(−II)状態、鉄(−I)状態、鉄(0)状態、鉄(I)状態、鉄(II)状態(二価鉄)、鉄(III)状態(三価鉄)、鉄(IV)状態(四価鉄)および/または鉄(V)が挙げられる)に結合し得るキレート化合物を含む。鉄キレート療法は、鉄がその有毒な効果または有害な生理的活性を失うように、インビボで鉄と結合して鉄キレートを形成する鉄キレート剤を用いることを意味する。あるいは、キレート鉄は、感染性生物体に利用不可能になる。
【0019】
本発明の組成物に有用な鉄キレート化合物には、標的の菌類(単数または複数)による鉄の利用を結合および予防し得る任意のキレート剤または他の分子が挙げられ得る。本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物の具体例には、例えば、デフェリプロンおよびデフェラシロクスが挙げられる。これらの鉄キレート化合物の例は、特に有用であるが、これは、それらが真菌症に無関係の治療上の徴候について多数の国で承認されているので、ヒトにおいて安全かつ無毒性であることが十分に特徴づけられているからである。
【0020】
本明細書中で用いられる用語「デフェリプロン」は、1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリジ−4−ルの構造を有する鉄キレート化合物を意味することを意図する。デフェリプロン(Def)はまた、Ll、CP20、FerriproxまたはKelferとしても該分野で公知である。デフェリプロンは、鉄キレート剤のα−ケトヒドロキシピリジンクラスのメンバーであり、例えば、Apotex,Inc(Weston,Ontario,Canada)から市販で入手可能である。
【0021】
本明細書中で用いられる用語「デフェラシロクス」は、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−l−イル]安息香酸構造および373.4ダルトンの分子量を有する鉄キレート化合物を意味することを意図する。デフェラシロクスはまた、Exjade(登録商標)またはICL 670としても該分野で公知であり、N−置換ビスヒドロキシフェニルトリアゾールと呼ばれる三座鉄キレート剤のクラスのメンバーである。デフェラシロクスは、例えば、Novartis,Corp.(Basel,Switzerland)から、例えば、登録商標Exjadeで入手可能である。本発明によれば、用語「デフェラシロクス」、「ICL670」、「Exjade(登録商標)」は、活性成分である4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−1−イル]安息香酸、例えば、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−l−イル]安息香酸またはその医薬上許容され得る塩を意味する。デフェラシロクス、その製造方法およびその用途は、例えば、米国特許第6,465,504Bl号および同第6,595,750 B2号、ならびに欧州特許第EP0914118号に記載されている。4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−1−イル]安息香酸またはその医薬上許容され得る塩を含む医薬製剤は、例えば、国際特許出願第WO2004/035026号に記載されている。
【0022】
他の鉄キレート化合物もまた、本発明の組成物に含まれ得る。このような他の鉄キレート化合物は、該分野で周知であり、例えば、以下に記載するような天然に存在するシデロフォアおよび異種シデロフォア、ならびにデフェリプロンおよびデフェラシロクスなどの天然に存在しない化合物が挙げられる。
【0023】
天然に存在しない鉄キレート化合物は、デフェリプロンなどのキレート剤のヒドロキシピリジン−4−オン(HPO)クラスのメンバー、デフェラシロクス、ジエチレントリアミン六酢酸(DTPA)およびデフェロキサミンなどのキレート剤のN−置換ビスヒドロキシフェニルトリアゾールクラスのメンバーにより例示される。デフェリプロン、デフェラシロクスおよび上記の例示された鉄キレート化合物のいずれか、ならびに該分野で周知の他のものもまた、本発明の鉄キレート化合物含有組成物に含まれ得る。
【0024】
シデロフォアおよび異種シデロフォアには、例えば、ヒドロキサマートおよびポリカルボキシラートが挙げられる。ヒドロキサマートは、N−δ−ヒドロキシオルニチン部分を含み、一般に4つのファミリーの例に分類される。1つのカテゴリーには、ロドトルリン酸が挙げられ、これはN−δ−アセチル−L−N−δ−ヒドロキシオルニチンのジケトピペラジンである。このカテゴリーには、ジメルム酸(dimerum acid)と命名されたジヒドロキサマートなどの誘導体が含まれる。第2のカテゴリーには、コプロゲンが挙げられ、これはN−δ−アシル−N−δ−ヒドロキシ−L−オルニチン部分を含む。コプロゲンはまた、直線構造を有するロドトルリン酸のトリヒドロキサマート誘導体であると考えられ得る。第3のカテゴリーには、フェリクロームが挙げられ、これはN−δ−アシル−N−δ−ヒドロキシオルニチンのトリペプチドおよびグリシン、セリンまたはアラニンの組み合わせを含む環状ペプチドからなる。第4のカテゴリーの例は、フサリニン(フシゲンとも呼ばれる)が含まれ、これは直線的または環状ヒドロキサマートのいずれかであり得る。フサリニンは、無水メバロニン酸によるN−ヒドロキシオルニチンのNアシル化により特徴づけられる化合物である。
【0025】
ポリカルボキシラートは、リゾフェリンと呼ばれるクエン酸含有ポリカルボキシラートからなる。分子は、ジアミノブタンに結合した2つのクエン酸単位を含む。リゾフェリンは、接合菌類門のメンバーに広く分布しており、ケカビ目およびエントモフトラ目において観察されてきた。本発明の組成物において鉄キレート化合物として有用なシデロフォアの他のカテゴリーには、例えば、シデロフォアのフェノラート−カテコラートクラス、ヘミンおよびβ−ケトアルデヒド植物毒素が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物の量は、異なり得るが、一般には、治療有効量、あるいは治療有効量に再構成または希釈され得る量であろう。例えば、本発明の鉄キレート化合物の有効量は、本発明の方法を参照しながらさらに以下に記載される。1つの、いくつかのまたは全ての鉄キレート化合物の量は、これらの例示的な有効量に一致するように、本発明の組成物中に製剤され得る。
【0027】
鉄キレート化合物はまた、短期または長期貯蔵のいずれかのために、治療有効量より多い量で本発明の組成物中に製剤され得、消費者は、製剤を、使用の前に所望の治療有効量に希釈し得る。あるいは、本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物は、凍結乾燥され得るか、あるいは粉末または他の固形剤型で製造され得、消費者は、乾燥製剤を、使用の前に所望の治療有効量に希釈し得る。
【0028】
乾燥または濃縮製剤、あるいは有効量の成分を含む製剤は、鉄キレート化合物および抗真菌剤を単独で、または任意の所望の賦形剤、界面活性剤、等張化剤(tonicifiers)、塩または緩衝液と共に含み得る。希釈または再構成は、製剤を少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤の所望の治療有効量に調整し、かつ任意の追加の賦形剤、界面活性剤、等張化剤、塩または緩衝液を含む医薬上許容され得る媒体中で行われ得る。医薬製剤は周知であり、製剤で実施されている。任意のこのような周知の製剤および医薬製剤成分は、本発明の組成物と共に用いるために適用可能である。医薬製剤、賦形剤、それらの用途、処方および特徴は該分野で周知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、上述;Williamsら、Foye’s Principles of Medicinal Chemistry,5th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2002);Allenら、Ansels Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,8th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2004)に記載されていることを見出し得る。同様に、界面活性剤、それらの用途、製剤および特徴は該分野で周知であり、例えば、Holmbergら、Surfactants and Polymers in Aqueous Solution、上述;Surfactants:A Practical Handbook,K.Robert Lange,ed.、上述、およびVogel,A.I.,Vogel’s Textbook of Practical Organic Chemistry、上述、に記載されていることを見出し得る。
【0029】
本発明の組成物はまた、少なくとも1つの抗真菌剤を含む。本明細書中で用いられる用語「抗真菌剤」または「抗真菌」は、菌類を破壊するか、あるいは真菌の増殖、生存および/または病原性を抑制または予防する薬剤を意味する。抗真菌剤のカテゴリーの例には、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤およびエキノキャンディン抗真菌剤が挙げられる。ポリエン抗真菌剤の具体例には、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体およびアンホテック(amphotec)が挙げられる。アゾール抗真菌剤の具体例には、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾールおよびイトラコナゾールが挙げられる。エキノキャンディン抗真菌剤の具体例には、カスポファンギン酢酸塩およびミカファンギンが挙げられる。多数の他の抗真菌剤が該分野で周知であり、かつ、本明細書中で用いられる用語の意味の範囲に含まれる。
【0030】
少なくとも1つの鉄キレート化合物と少なくとも1つの抗真菌剤との組み合わせは、標的とする真菌症に基づいて選択されるであろう。例えば、アンホテリシンB脂質複合体は、例えば、接合真菌症、(ムコール症)、アスペルギルス症および/またはカンジダ症に対して良好な抗真菌剤であり得、デフェリプロンまたはデフェラシロクスなどの鉄キレート化合物と併用され得る。同様に、上記に例示した抗真菌剤のうちの1つまたは該分野で公知の他の1つは、他の標的とする症状に対して有効または治療的に望ましくあり得、このような他の抗真菌剤のうちの1つを鉄キレート化合物と併用して、本発明の組成物を製造し得る。従って、本発明の組成物は、その鉄キレート化合物成分および成分抗真菌剤成分の両方において適応性を有し、少なくとも1つの鉄キレート化合物および併用される少なくとも1つの抗真菌剤の任意の全ての組み合わせおよび置換を、例えば、単一の製剤にすることを可能にする。
【0031】
従って、1つの実施態様では、本発明は、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む組成物を提供する。鉄キレート化合物は、例えば、デフェリプロンなどのキレート剤のヒドロキシピリジン−4−オン(HPO)クラスのメンバーにより例示される上記の天然に存在しない鉄キレート化合物、デフェラシロクス、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)およびデフェロキサミンなどのキレート剤のN−置換ビスヒドロキシフェニルトリアゾールクラスのメンバーから選択され得る。鉄キレート化合物はまた、例えば、上記のヒドロキサマート、ポリカルボキシラート、シデロフォアのフェノラート−カテコラートクラス、ヘミンまたはβ−ケトアルデヒド植物毒素により例示されるシデロフォアおよび/または異種シデロフォアから選択され得る。
【0032】
抗真菌剤は、例えば、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体またはアンホテックなどのポリエン抗真菌剤から選択され得る。抗真菌剤はまた、例えば、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾールまたはイトラコナゾールなどのアゾール抗真菌剤から選択され得る。抗真菌剤は、さらに、例えば、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンなどのエキノキャンディン抗真菌剤から選択され得る。少なくとも1つの鉄キレート化合物として1つの鉄キレート化合物を有し、かつ少なくとも1つの抗真菌剤として1つの抗真菌剤を有する本発明の組成物の例は、デフェラシロクスおよびアムホテリシオン(amphotericion)B脂質複合体であり得る。
【0033】
本発明の組成物の範囲内に含まれる鉄キレート化合物の量については、含まれる抗真菌剤の量はまた異なり得るが、一般的には、治療有効量、あるいは治療有効量に再構成または希釈され得る量である。例えば、本発明の抗真菌剤の有効量は、さらに以下に記載され、ポリエン抗真菌剤を参照しながら例示される。1つの、いくつかのまたは全ての抗真菌剤の量は、本発明の組成物中、ポリエン抗真菌剤の例示的な有効量に一致するように、あるいはアゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤などの他の抗真菌剤の周知の有効量に一致するように製剤され得る。同様に、および本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物について上述したように、抗真菌剤はまた、短期または長期貯蔵のいずれかのための濃縮形態で本発明の組成物に製剤され得、消費者は、製剤を使用の前に所望の治療有効量に希釈し得る。さらに、本発明の組成物に含まれる抗真菌剤は、凍結乾燥、粉末または他の固形剤型で製造され得、消費者は、乾燥製剤を使用の前に所望の治療有効量に再構成し得る。
【0034】
乾燥または濃縮製剤、あるいは有効量の成分を含む製剤は、鉄キレート化合物および抗真菌剤を単独で、または任意の所望の賦形剤、界面活性剤、等張化剤、塩または緩衝液と共に含み得る。希釈または再構成は、上述したように、またはRemington:The Science and Practice of Pharmacy、上述;Williamsら、Foye’s Principles of Medicinal Chemistry,5th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2002);Allenら、Ansels Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,8th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2004);Holmbergら、Surfactants and Polymers in Aqueous Solution、上述;Surfactants:A Practical Handbook,K.Robert Lange,ed.、上述,and Vogel,A.I.,Vogel’s Textbook of Practical Organic Chemistry、上述、に例示されるように達成され得る。
【0035】
本発明の組成物は、さらに、2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含み得る。2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含むことにより、複数の真菌症を標的化することおよび/または組成物の鉄キレート剤成分における広範な鉄親和性を含むことが可能になる。鉄への異なる親和性を有する鉄キレート化合物の包含は、真菌病原体の回避をさらに予防するのに治療上有利であり得る。
【0036】
本発明の組成物は、一般に、約1〜8個、詳細には約2〜7個、より詳細には約3〜6個、またはさらにより詳細には約4〜5個の鉄キレート化合物を含む。これらの範囲より多数のまたはこれらの範囲の間の鉄キレート化合物もまた本発明の組成物で用いられ得る。例えば、本発明の組成物は、任意の所望の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12あるいはそれ以上の異なる鉄キレート化合物を必須として含む組成物を生じ得る。
【0037】
本発明の組成物は、さらに、2つまたはそれ以上の抗真菌剤を含み得る。2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含むことについて、2つまたはそれ以上の抗真菌剤を含むことはまた、複数の真菌症の標的化を可能にし、かつ/または、増殖、生存または病原性に用いられる異なる真菌の機構の標的化を提供する。複数の抗真菌剤を包含することも同様に、真菌病原体の回避をさらに予防するために、治療上有利であり得る。
【0038】
同様に、本発明の組成物は、一般に、約1〜8、詳細には約2〜7、より詳細には約3〜6、またはさらにより詳細には約4〜5の抗真菌剤を含む。これらの範囲より多数のまたはこれらの範囲の間の抗真菌剤が本発明の組成物で用いられ得る。従って、本発明の組成物は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12あるいはそれ以上の任意の所望の数の異なる抗真菌剤を必須として含む組成物を生じ得る。
【0039】
組成物の例には、デフェラシロクス、およびアンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、トラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンのいずれかの1つまたはそれ以上が挙げられる。デフェラシロクスおよびデフェリプロン、ならびにアンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、トラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンのいずれかの1つまたはそれ以上。特に有用な組成物には、例えば、デフェラシロクスおよび/またはデフェリプロン、ならびにポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤およびエキノキャンディン抗真菌剤に一致するそれぞれのカテゴリーから選択される1つ、2つまたは3つまたはそれ以上の抗真菌剤が挙げられる。従って、本発明は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個またはそれ以上の鉄キレート化合物の任意の組み合わせを、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個またはそれ以上の抗真菌剤の任意の組み合わせと共に提供する。複数の鉄キレート化合物および/または複数の抗真菌剤を含むこのような組成物は、上記したように処方され得る。
【0040】
本発明の組成物はまた、医薬上許容され得る媒体を含み得る。本明細書中で用いられる用語「医薬上許容され得る媒体」は、本発明の鉄キレート化合物と混合される媒体が、ヒトに使用するのに十分な純度および質を有することを意味することを意図する。医薬上許容され得る媒体には、汚染する粒子および生物体を実質的に含まない製剤が挙げられる。従って、該用語は、本発明の鉄キレート化合物と適合性であり、かつヒトに投与される際に安全かつ無毒である媒体を包含することを意図する。このような医薬上許容され得る媒体は、該分野で周知である。
【0041】
本発明はまた、真菌症を治療または予防する方法を提供する。方法は、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、鉄キレート化合物は、真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む。
【0042】
本発明はさらに、真菌症を治療または予防する方法であって、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、鉄キレート化合物は、真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、方法を提供する。
【0043】
本発明の方法は、鉄キレート療法単独または抗真菌療法と併用される鉄キレート療法を含む。前者の方法では、少なくとも1つの鉄キレート化合物を含む製剤を投与する。後者の方法では、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む製剤を投与する。このような製剤は、本発明の組成物に関して上記したように選択および製造される。従って、本発明の組成物は、鉄キレート療法単独に用いるために少なくとも1つの抗真菌剤なしで製造され得るか、または鉄キレート化および抗真菌の併用療法に用いるために、少なくとも1つの抗真菌剤と共に製造され得る。第1の本発明の組成物はまた、少なくとも1つの抗真菌剤なしで製造され得、第2の本発明の組成物は、鉄キレート化合物なしで製造され得る。次いで、第1および第2の調製物を同時に、経時的にまたは鉄キレート化および抗真菌剤の併用療法の代わりに用いられ得る。従って、本発明の組成物に関して上記した教示およびガイダンスは、同様に、少なくとも1つの鉄キレート化合物を単独で含む製剤、少なくとも1つの抗真菌剤を単独で含む製剤、または両方を含む製剤の選択および製造に用いられ得る。
【0044】
本発明の方法に用いるため、少なくとも1つの鉄キレート化合物を含む製剤中の鉄キレート化合物、少なくとも1つの鉄キレート化合物を含む第1または第2の製剤および/または本発明の組成物は、真菌症または該症状の原因となる真菌病原体に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含むように選択される。
【0045】
本明細書中で用いられる用語「シデロフォア」は、生物体による鉄の会合を促進する鉄キレート剤を意味することを意図する。例えば、鉄不足の条件下では、多くの菌類は、鉄の結合および取り込みによる鉄の会合に作用するシデロフォアを合成する。シデロフォアは、一般に、低分子化合物(例えば、約2,000MW未満)であり、細胞の取り込み作用および/または鉄の貯蔵作用のいずれかまたは両方を示し得る。シデロフォアは、利用する生物体により合成される。一般に生物体または種特異性を参照することなく用いられる用語「鉄キレート剤」と比較して、本明細書中で用いられる用語「シデロフォア」は、シデロフォアを産生しかつ利用する生物体または種に関連する、またはこれに対する鉄キレート剤をいう。従って、鉄キレートシデロフォアは、それが鉄の取り込みを促進し、かつ、病原体に使用されるために細胞外環境からの鉄レベルを結合および減少させるが、シデロフォアを産生する生物体により引き起こされる症状を標的とした鉄キレート療法に用いた場合、治療上の価値が低下する。シデロフォアの合成および用途は、例えば、Howard,D.H.,Clinical Microbiology Reviews 12:394−404(1999)に記載されていることを見出し得る。
【0046】
本明細書中で用いられる用語「異種シデロフォア」は、菌類または生物体の利用により産生されないシデロフォアを意味することを意図する。用語「異種シデロフォア」は、異種シデロフォアを利用する生物体または種と関連する、またはこれに対する鉄キレート剤を意味する。シデロフォアと同様に、異種シデロフォアは、利用しない生物体により引き起こされる症状を標的とする鉄キレート療法に用いられる場合、治療上の価値を示す。シデロフォアおよび異種シデロフォアの合成および使用は、例えば、Howard,D.H.,FEMS Immunology and Medical Microbiology 40:95−100(2004)に記載されていることを見出し得る。
【0047】
従って、標的の真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアに対応する鉄キレート化合物は、真菌症を引き起こす真菌病原体により産生または利用されないシデロフォア、または真菌症を引き起こす真菌病原体に利用されない異種シデロフォアを意味する。
【0048】
本発明の、第1のおよび第2の成分製剤を含む、鉄キレート化製剤、組成物ならびに方法は、真菌症を、治療、重症度減少、予防および治癒するのに適用可能である。本発明の鉄キレート化製剤、組成物および方法の特に有用な用途には、真菌症の発症の前の予防的な投与が挙げられる。
【0049】
本明細書中で用いられる用語「治療する」または「治療」は、真菌症を示す臨床症状を緩和することを意味することを意図する。臨床症状の緩和は、例えば、治療される個体の真菌症の少なくとも1つの症状を、処理前のレベルと比較して、または真菌症を有する個体と比較して、減少または低減させることを含む。用語「治療する」はまた、真菌症に関連する病理学的症状、慢性合併症または日和見性真菌症の重症度を減少させることを含むことを意図する。このような病理学的症状、慢性合併症または日和見感染を、ムコール症を参照しながら以下に例示する。ムコール症および他のこのような病理学的症状、慢性合併症および日和見感染はまた、Merck Manual,Sixteenth Edition,1992およびSpellbergら、Clin.Microbio.Rev.18:556−69(2005)に記載されていることを見出し得る。
【0050】
本発明の方法により緩和され得る真菌症の症状には、例えば、発熱、悪寒、寝汗、食欲不振、体重減少、倦怠感、抑うつおよび肺、皮膚または他の病変が挙げられる。他の症状または特徴的徴候には、例えば、原発性、急性または亜急性症状からの伝播、進行性肺炎、真菌血症、肺外伝播の徴候、慢性髄膜炎、網内系(肝臓、脾臓、骨髄)の一般化な関与としての進行性伝播性ヒストプラズマ症および単一のまたは複数の皮膚病変としてのブラストミセス症が挙げられる。例えば、真菌症を有する個体の有効な治療は、治療される個体における1つまたはそれ以上のこのような症状の減少を結果としてもたらすであろう。真菌症の多数の他の臨床症状が該分野で周知であり、本明細書中に記載の本発明の方法を用いる緩和または重症度の減少の指標として用いられ得る。
【0051】
真菌症の診断は、原因である菌類を、例えば、痰、尿、血液、骨髄または感染組織由来の検体を単離することにより確認し得る。例えば、真菌症は、侵入する菌類の特有の形態的特徴に基づいておよび/または抗原の同定に選択的な免疫組織化学などにより、高度な信頼性で病理組織学的に診断され得る。感染症の活性の評価はまた、多くの異なる部位から採取した培地、発熱、白血球数、特定の関与する器官に関連する臨床および研究室でのパラメータ(例えば、肝機能検査)、および免疫血清学的試験に基づき得る。陽性喀痰培養の臨床的意義もまた、組織侵襲の確認により実証され得る。このような実証はまた、Candida albicansなどの共生生物体またはアスペルギルス属などの周囲で流行する生物体について特に有益である。
【0052】
本明細書中で用いられる用語「予防する」または「予防」は、真菌症を示す臨床症状の未然の予防を意図することを意味する。このような未然の予防には、例えば、症状の顕性症状の発症前に、または症状の診断の前に、菌類(単数または複数)による感染のリスクのある個体において正常な生理的指標を維持することが挙げられる。従って、用語「予防する」は、個体を予防的に処置して真菌症の発症から防護することを含む。個体における真菌症の予防はまた、真菌症の発症の抑制または抑止を含むことを意図する。症状の発症の抑制または抑止には、例えば、上記のおよび/または該分野で周知の異常な生理的指標または臨床症状の出現を抑制または抑止することを含む。従って、真菌症の有効な予防には、真菌症に罹患した個体において、正常な体温、体重、心理学的状態を維持すること、ならびに上記の病変または他の病理学的徴候がないことが含まれるであろう。真菌症に罹患した個体には、例えば、AIDS、高窒素血症、糖尿病、気管支拡張症、肺気腫、結核、リンパ腫、白血病または熱傷を有する個体、あるいは真菌症に感染し易い病歴を有する個体が挙げられる。症状の発症の抑制または抑止にはまた、例えば、真菌症に関連する1つまたはそれ以上の病理学的症状の進行、慢性合併症または日和見感染への感染し易さの抑制または抑止が挙げられる。
【0053】
本発明の方法は、広範な多様な真菌症の治療および/または予防に有用である。本明細書中で用いられる用語「真菌症」は、真菌感染により引き起こされる異常な症状を意味することを意図する。真菌感染、すなわちヒトおよび動物の真菌症には、例えば、皮膚の外層に影響する表在性真菌症;Candida albicansにより引き起こされるような、口(鵞口瘡)、腟および肛門領域などの粘膜の真菌感染、ならびに重大な、しばしば致死的疾病を引き起こし得る皮膚および内部器官のより深部の層に影響する真菌感染が挙げられる。真菌感染は該分野で周知であり、例えば、接合真菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、フザリウム症(ヒアロヒホ真菌症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症またはスポロトリクス症が挙げられる。これらおよび他の真菌症は、Merck Manual,Sixteenth Edition,1992およびSpellbergら、Clin.Microbio.Rev.18:556−69(2005)に記載されていることを見出し得る。上記の真菌症の例を、以下にさらに説明する。
【0054】
本明細書中で用いられる用語「接合真菌症」は、ケカビ目およびエントモフトラ目などの接合菌網の菌類により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。エントモフトラ目は、発展途上国で免疫適格性の宿主が主に罹患する、エントモフトラ症として知られる皮下および皮膚粘膜感染の原因である。
【0055】
本明細書中で用いられる用語「ムコール症」は、ケカビ目の菌類により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。ムコール症は、発展途上国または先進工業国のいずれかで免疫が低下した宿主をほぼ一律に襲う、生命を脅かす真菌感染である。ケカビ目に所属する菌類は、6つの科に分類され、その全てが皮膚および深層の感染の原因となり得る。ケカビ科に属する種は、他のいずれの科よりも頻繁に、ムコール症を有する患者から単離される。ケカビ科の中でも、Rhizopus oryzae(Rhizopus arrhizus)は、感染の一般的な原因である。感染の同様のスペクトルを引き起こすケカビ科の他の種の例には、例えば、Rhizopus microporus変種rhizopodiformis、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Mucor種、Rhizomucor pusillusおよびCunninghamella種(Cunninghamella科)が挙げられる。ムコール症は該分野で周知であり、例えば、脳型ムコール症、肺ムコール症、胃腸ムコール症、播種性ムコール症、骨ムコール症、縦隔ムコール症、気管ムコール症、腎臓ムコール症、腹膜ムコール症、上大静脈ムコール症または外耳炎ムコール症(external otitis mucormycosis)が挙げられる。
【0056】
本明細書中で用いられる用語「カンジダ症」は、カンジダ属の菌類により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。カンジダ症は、特に免疫低下した状態の個体において、口、気道および/または腟の皮膚および粘膜で起こり得るか、あるいは血流に侵入し得る。カンジダ症はまた、該分野でカンジダ症またはモニリア症としても知られている。カンジダ属の種の例には、例えば、Candida albicans、Candida krusei、Candida tropicalis、Candida glabrataおよびCandida parapsilosisが挙げられる。
【0057】
本明細書中で用いられる用語「アスペルギルス症」は、アスペルギルス属により引き起こされる疾患の群を意味することを意図する。症状には、例えば、発熱、咳、胸痛および/または息切れが挙げられる。免疫系が弱まった患者または肺疾患に罹患した患者は、特にアスペルギルス症に罹り易い。この真菌症の形態の例には、喘息、嚢胞性線維症および副鼻腔炎の患者に影響するアレルギー性アスペルギルス症;癌患者、化学療法を受けた患者およびAIDS患者などの免疫が弱まった患者において発生率の上昇を示す急性浸潤性アスペルギルス症;身体全体に広範に広がる伝播性浸潤性アスペルギルス症、および耳および他の器官の炎症および病変により特徴付けられる日和見性アスペルギルス感染症が挙げられる。アスペルギルスは、約200の菌類の属である。浸潤性疾患を引き起こすAspergillus種には、例えば、Aspergillus fumigatusおよびAspergillus flavusが挙げられる。アレルギー性疾患の原因となるAspergillus種には、例えば、Aspergillus fumigatusおよびAspergillus clavatusが挙げられる。他のアスペルギルス感染性種の例には、例えば、Aspergillus terreusおよびAspergillus nidulansが挙げられる。
【0058】
本明細書中で用いられる用語「クリプトコッカス症」は、クリプトコッカス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。クリプトコッカス症はまた、Busse−Buschke病としても知られ、一般に、肺、皮膚または他の身体の器官などの身体のいずれの器官にも影響し得る全身感染症としての症候を示すが、最も頻繁には、脳および髄膜などの中枢神経系で発症する。クリプトコッカス症は、AIDSの日和見感染であるが、Hodgkin病または他のリンパ腫またはサルコイドーシスを有する患者、あるいは長期の副腎皮質ステロイド療法を受けている患者もまたリスクが高い。症状には、例えば、胸痛、乾性咳嗽、腹部膨満、頭痛、霧視および錯乱が挙げられる。この真菌症の形態の例には、創傷において起こるような皮膚クリプトコッカス症、肺クリプトコッカス症およびクリプトコッカス髄膜炎が挙げられる。クリプトコッカス髄膜炎は、一般に免疫低下患者において観察されるかまたは評価されていない肺感染症のいずれかからのクリプトコッカス・ネオフォルマンスの伝播から生じ得る。クリプトコッカス・ガッティは、一般に、免疫適格性のヒトにおいて感染症を引き起こす。CSF、痰および尿の培養によるクリプトコッカス抗原(莢膜物質)の検出は、1つの有用な診断方法を提供する。また、血液培養物も、重度の感染症で陽性であり得る。
【0059】
本明細書中で用いられる用語「ヒストプラズマ症」は、ヒストプラズマ属により引き起こされる真菌症を意味することを意図し、ヒストプラズマ・カプスラーツムの胞子の吸入により引き起こされる感染症が挙げられる。ヒストプラズマ症はまた、該分野でDarling病としても知られている。症状は無症候であり得るが、主に肺に影響する急性肺炎またはインフルエンザ様疾病にも進行し得る。ヒストプラズマ症はまた、身体の他の器官および系に伝播し得る。他の真菌症の伝播型と同様に、この伝播性ヒストプラズマ症も致死的であり得る。症状は、曝露後3〜17日以内に起こり得る。しかしながら、非伝播型では、明らかな病気の影響を示さないことが感染者に共通し得る。急性呼吸器疾患は、呼吸器症状、一般的な具合の悪さ、発熱、胸痛および乾性咳嗽により特徴づけられ得る。明らかなパターンはまた、胸部X線でも観察され得る。慢性肺疾患は結核に類似し、数ヶ月から数年にわたって悪化し得る。
【0060】
本明細書中で用いられる用語「コクシジオイデス症」は、コクシジオイデス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。この用語の意味には、コクシジオイデス・イミチスまたはコクシジオイデス・ポサダシにより、特に胞子の吸入によって引き起こされ、発熱および多様な呼吸器症状により特徴づけられる感染性呼吸器疾患が含まれる。コクシジオイデスはまた、該分野でコクシジオイデス症およびvalley熱としても知られている。全身性コクシジオイデス症は、気道から、例えば、皮膚、骨および中枢神経系に伝播し得る。症状の徴候は、症状の完全な非存在から、全身感染および死まで及ぶ。例えば、症候性感染症(症例の約40%)は、発熱、咳、頭痛、発疹および筋肉痛(筋痛)を伴うインフルエンザ様疾患として現れ得る。幾人かの患者は、回復せず、慢性の肺感染症または広範な伝播性感染症(髄膜、軟部組織、関節および骨に影響する)を発症し得る。重篤な肺疾患は、例えば、HIV感染したヒトおよび他の免疫低下したヒトにおいて発症し得る。
【0061】
本明細書中で用いられる用語「パラコクシジオイデス症」は、パラコクシジオイデス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図し、例えば、パラコクシジオイデス・ブラジリエンシスにより引き起こされる慢性真菌症が挙げられる。パラコクシジオイデス症は、多くの内部器官への伝播を有する肺の一次病巣により、頬および鼻の粘膜から皮膚へと広がる目立つ潰瘍性肉芽腫により、および全身性のリンパ管炎により、特徴づけられる。パラコクシジオイデス症はまた、該分野で、パラコクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、Almeida病、Lutz−Splendore−Almeida病、パラコクシジオ肉芽腫および南アメリカブラストミセス症としても知られている。
【0062】
本明細書中で用いられる用語「フザリウム症」または「ヒアロヒホ真菌症」は、フサリウム属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。該症状を引き起こすフサリウム種には、例えば、フサリウム・ソラニ、フサリウム・オキシスポルムおよびフサリウム・モニリフォルメが挙げられる。感染症には、角膜炎、爪真菌症、ならびに時折腹膜炎および蜂巣炎が挙げられる。伝播性フザリウム症の危険因子には、重篤な免疫抑制(好中球減少、リンパ球減少、移植片対宿主病、副腎皮質ステロイド)、コロニーの形成および組織の損傷が挙げられる。免疫適格性患者では、組織崩壊(外傷、重篤な熱傷または異物により引き起こされるもの)がフザリウム症の危険因子である。臨床症状には、難治性発熱、皮膚病変および気道感染症が挙げられる。皮膚病変は、多くの患者において診断につながり得、真菌血症の約5日前に起こる。伝播性フザリウム症は、例えば、血液培養ならびに上記および下記の他の周知の方法により診断され得る。
【0063】
本明細書中で用いられる用語「ブラストミセス症」は、一般に呼吸器感染症として発症し、通常、肺、骨および皮膚に伝播する、ブラストミセス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。ブラストミセス症は、皮膚、粘膜または内部器官の複数の炎症性病変により特徴づけられる。ブラストミセス・デルマティティディスは、蔓延している原因種の1つである。ブラストミセス症の症状には、例えば、発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛および乾性咳嗽を伴うインフルエンザ様疾病;高熱、悪寒、湿性咳嗽および胸膜炎の胸痛を伴う、細菌性肺炎に類似する急性疾病;低悪性度の発熱、湿性咳嗽、寝汗および体重減少を伴う結核または肺癌に似た慢性疾病;発熱、息切れ、頻呼吸、低酸素血症および拡散した肺浸潤を伴う急性呼吸促迫症候群として現れる、急速な、進行性のかつ重篤な疾患;皮膚病変;骨溶解性病変;前立腺炎および/または嗄声を引き起こす喉頭の関与が挙げられる。
【0064】
本明細書中で用いられる用語「ペニシリウム症」は、ペニシリウム属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。種の例はペニシリウム・マルネフェイであり、これは免疫低下した個体における日和見性真菌症の蔓延した原因である。診断は、臨床検体由来の菌類の同定によりなされ得る。皮膚病変、リンパ結節および骨髄の組織診は、病理組織学における生物体の存在を実証し得る。症状には、例えば、発熱、皮膚病変、貧血、全身リンパ節腫脹および肝腫大が挙げられる。
【0065】
本明細書中で用いられる用語「スポロトリクス症」は、スポロトリクス・シェンキイ種などのスポロトリクス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。症状は、リンパ節および皮膚における小結節または潰瘍により特徴付けられる慢性感染として発現する。
【0066】
スポロトリクス症感染は、血液から、例えば、関節、肺、眼ならびに尿生殖器系および中枢神経系などの他の領域へ伝播し得る。一般に、伝播性スポロトリクス症は、AIDS患者、癌患者、化学療法を受けた患者および免疫抑制療法中の移植レシピエントなどの免疫低下した個体において起こる。
【0067】
本明細書中で用いられる用語「有効量」または「治療有効量」は、個体に投与した際に真菌症の伝播の程度、量または割合を減少させるのに必要とされる、本発明の鉄キレート化合物、抗真菌剤または鉄キレート化合物および抗真菌剤の両方の量を意味することを意図する。従って、鉄キレート化合物を参照して用いられる場合の有効量は、標的とする真菌症に関連する少なくとも1つの症状を緩和するのに十分な鉄キレート化合物の量を意味することを意図する。
【0068】
治療上有効であるために必要とされる本発明の鉄キレート化合物、抗真菌剤または鉄キレート化合物および抗真菌剤の両方の投与量は、例えば、治療すべき真菌症、鉄キレート化合物の鉄への親和性、鉄の存在量および濃度のレベル、ならびに個体の体重および症状、ならびに以前のまたは同時に行っている療法に依存するであろう。この方法の特定の用途に有効投与量であると考えられる量は、本明細書中で提供するガイダンスを用いて、当業者により決定され得る。例えば、量は、以下に記載するインビトロまたはインビボアッセイから推定され得る。当業者は、患者の症状は療法の過程の最初から最後まで監視される必要があり、また、投与される組成物の量は、療法の応答に従って調整され得ることを認識するであろう。
【0069】
鉄キレート化合物の有効量の例には、例えば、約0.3〜3.0μg/mlの濃度範囲が挙げられるが、0.01μg/ml以下の低い濃度および10μg/ml以上の高い濃度も含み得る。投与すべき抗真菌剤の量は該分野で周知であり、用語「有効量」の意味の範囲内で本明細書中に包含される。
【0070】
デフェラシロクスの前臨床研究では、例えば、鉄過剰のマモセットにおいて400mg/kg/日までの投与量で実質的に毒性は観察されなかった(Nickら、Adv.Exp.Med.Biol.509:185−203(2002))。しかしながら、非鉄過剰のマモセットへの80mg/kgの投与量での慢性投与後に重篤な毒性が観察され、非鉄過剰宿主においては耐容性がいっそう少ないことを確認した(同上)。それにもかかわらず、非鉄過剰マモセットにおいてさえも、40mg/kg/日までを用いた処置の39週後に毒性は観察されず、亜急性処置(4週)の間、65mg/kg/日までの投与量は、副作用がなく耐容性が良好であった。鉄過剰患者の臨床研究(Nisbet−Brownら、Lancet 361:1597−1602(2003);Galanello et al.J.Clin.Pharmacol.43:565−572(2003);Cappelliniら、Blood 107:3455−3462(2006))では、デフェラシロクスは40mg/kg/日までの投与量で12日まで、慢性投与では数ヶ月から数年にわたって30mg/kg/日までで、耐容性が良好であった。
【0071】
一般に、鉄キレート化合物は、鉄キレート療法の製剤に含まれ、第1のまたは第2の成分製剤および/または本発明の組成物を、約0.01〜10μg/ml、約0.1〜8μg/ml、約0.2〜6μg/ml、詳細には約0.3〜3.0μg/ml、より詳細には約0.6〜2.0μg/ml、なおさらに詳細には約0.8〜1.0μg/mlまたは約0.9μg/mlの濃度で含むであろう。これらの範囲より少ない、多いまたはこれらの範囲内の鉄キレート化合物の濃度および/または量が、鉄キレート療法製剤、第1のまたは第2の成分製剤および/または本発明の組成物に用いられ得る。例えば、1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物は、製剤または組成物内に含まれ得、約0.1μg/ml未満を占める。同様に、製剤または組成物は、特に貯蔵用に処方される場合、約10μg/mlより高い1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物の濃度を含み得る。従って、本発明の方法に有用な製剤または組成物は、実質的に任意の所望の濃度または量、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12μg/mlまたはそれ以上の1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含むように製造され得る。
【0072】
抗真菌剤の有効量の例には、例えば、ポリエン抗真菌剤に関して以下に例示した量が挙げられる。例えば、アンホテリシンBデオキシコール酸塩は、通常、例えば、約10mg/kg体重よりも少ない投与量で投与され、静脈内注射用には約0.25〜1.0mg/kg/日の割合を含み得る。リポソームアンホテリシンB(L−AMB)は、通常、1〜5mg/kgの投与量で投与される。リポソームアンホテリシンBはまた、特に脳疾患において15mg/kg/日の高い投与量で投与され得る。アンホテリシンB脂質複合体(ABLC)は、通常、5mg/kgの投与量で投与されるが、約0.5〜15mg/kgの範囲内にあり得る。アンホテックは、通常、約50〜100mgの単回投与量で投与される。同様に、鉄キレート化合物および抗真菌剤を用いる併用療法には、上記量が化合物および/または薬剤のいずれかまたは両方と共に投与され得るか、あるいは、薬剤の量は多くまたは少なく調節され得る。アゾール抗真菌剤およびエキノキャンディン抗真菌剤の有効量もまた当業者に周知であり、通常、上記範囲内の投与量を含む。
【0073】
本明細書中に提供される教示およびガイダンスを考慮すれば、当業者は、上記に例示した有効量が、例えば、他の活性成分の形態および量に対して調節され得ることを理解するであろう。例えば、少なくとも1つの鉄キレート化合物の投与量が上記に例示した高い範囲内にある場合、所望であれば、有効量を得つつ、少なくとも1つまたはそれ以上の抗真菌剤の量を低減し得る。同様に、少なくとも1つの抗真菌剤の投与量が高い範囲にあるかまたは上記に例示したよりも高い場合、所望であれば、少なくとも1つまたはそれ以上の少なくとも鉄キレート化合物のうち1つまたはそれ以上の量を低減し得る。2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物の投与量および/または2つまたはそれ以上の少なくとも1つの抗真菌剤の投与量はまた、互いに対して調節され得る。このような組み合わせた有効量の全ての他の調節は、本発明の方法において利用され得る。
【0074】
本発明の種々の実施態様の活性に実質的に影響しない修飾もまた、本明細書中で提供される本発明の定義の範囲内に含まれることが理解される。従って、以下の実施例は、例示することを意図するが、本発明を限定することは意図しない。
【実施例】
【0075】
(実施例I)
真菌症の重症度を減少させるための鉄キレート療法
本実施例は、デフェリプロンおよびExjade(登録商標)がムコール症の病変形成を減少させ得ることを示す予備的研究を記載する。
【0076】
動物モデルは、デフェロキサミンまたは遊離鉄の投与はRhizopus種に感染した動物の生存率を悪化させるが、Candida albicansでは悪化の程度がより少ないことを実証したが、このことは、鉄がRhizopus種の病原性に特有に必要とされることを強調する(Abeら、Mycopathologia 110:87−91(1990);Boelaertら、(1993)、上述;Boelaertら、(1994)、上述;Van Cutsem and Boelaert,Kidney International 36:1061−68(1989))。さらに、デフェロキサミンから血清への放射標識された鉄の取り込みのインビトロでの研究は、リゾプスがアスペルギルス・フミガツスおよびCandida albicansよりもそれぞれ8倍および40倍もの多い量の鉄を蓄積することを示した(Boelaertら、(1993)、上述)。このRhizopus種による鉄取り込みの増加は、その血清中での増殖と直線的に相関した(Boelaertら、(1993)、上述)。血清中での増殖の増加は、接合菌類が血管から直接的に浸透および増殖し、結果として疾患の間に血栓症および組織壊死の性向をもたらすための特殊な親和性を説明し得る(Edwards,(1989)、上述;Ibrahimら、(2003)、上述;Venturaら、上述)。
【0077】
上記したように、糖尿病性ケトアシドーシスを有する患者はまた、脳性ムコール症を発症するリスクも高い。これらの患者はまた、利用可能な血清鉄のレベルを上昇させるが、これはおそらく、アシドーシスの存在下での結合タンパク質からの鉄の遊離によるであろう(Artisら、上述)。糖尿病性ケトアシドーシスを有する患者から回収した血清は、酸性pH(7.3〜6.88)の存在下でRhizopus oryzaeの増殖を支持するが、アルカリ性pH(7.78〜8.38)の存在下では支持しない。酸性pHでRhizopus oryzaeの増殖を支持しなかった血清では、真菌の増殖を支持する血清に比べて、利用可能な鉄が少ないことが見出された。さらに、外来性の鉄を血清に添加することにより、Rhizopus oryzaeが酸性条件で大量に増殖することが可能であったが、水素イオン指数>7.4では可能ではなかった。最後に、シミュレートされたアシドーシス症状は、正常なボランティアから回収した血清の鉄結合能を減少させたが、このことは、アシドーシスが、トランスフェリンが鉄を結合する能力を一時的に中断することを示唆する。従って、糖尿病性ケトアシドーシスを有する患者のムコール症への感染し易さの増加は、おそらく、糖尿病性ケトアシドーシスの間に利用可能な血清鉄が上昇することに少なくとも部分的に依存するであろう。
【0078】
ムコール症の病変形成における鉄代謝の役割は、有効な鉄キレート剤を、補助的な抗真菌療法などの抗真菌療法に利用する可能性を可能にする。デフェロキサミンとは対照的に、他の鉄キレート剤は、生物体が鉄を取り込むことを可能にせず、インビトロで鉄存在下でのその増殖を支持しない(例えば、Boelaertら、(1994)、上述を参照のこと)。さらに、デフェロキサミンはモルモットにおいて伝播性Rhizopus oryzae感染を顕著に悪化させるが、他のキレート剤の1つはインビボ感染に影響がなく、他のキレート剤は、感染モルモットの平均生存時間を2倍以上にした(表1)。
【0079】
【表1】
本明細書中に記載のインビトロおよびインビボデータは、デフェリプロンが、ムコール症感染を有効に治療するのに用いられ得ることを示す。表1は、予備的研究の結果を示し、ここで、デフェリプロンは、感染した動物の平均生存時間を有意に増加する。これらの予備的研究は、さらに、デフェリプロンがRhizopus oryzaeに対してインビトロで高活性であったことを示したが、このことは、24時間では静的効果があるが、インキュベーションの48時間では殺菌効果を有する[48時間後の両方について6.25μg/mlの最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺真菌濃度(MFC)]ことを示す。感染したDKAマウスにおいて、ムコール症の一般的な療法であるリポソームアンホテリシンB(LAmB)、またはデフェリプロン(Def)は、プラセボと比較して生存率を28日改善した(Defについて30%の生存率、プラセボについて0%の生存率に対し、LAmBについて52%の生存率、LAmBまたはDef対プラセボについてのログランク検定によりp<0.003;LAmB対Defについてp=0.15)。Defの効力は、マウスへのFeCl3の投与により抑止されたが、このことは、Defが仲介する保護のメカニズムが鉄キレート化であることを確認した(図1)。この後者の薬剤デフェリプロンは、欧州およびインドで鉄キレート剤として臨床使用が承認され、アメリカ合衆国では鉄過剰に基づくコンパッショネート・ユースに利用可能である。
【0080】
他の鉄キレート剤であるExjade(登録商標)(Novartis)は、アメリカ合衆国で鉄過剰患者における臨床使用が承認されている。この薬剤は、インビトロでRhizopus oryzaeに対して、および糖尿病性ケトアシドーシスマウスモデルを用いる動物モデルにおいて試験された。致死量のRhizopus oryzaeに感染させ、かつ1、3または10mg/kgの1日2回のExjade(登録商標)で処置したマウスは、プラセボで処置したマウスよりも長く生存した[ログランク検定により、1mg/kgのExjade(登録商標)について29%の生存率(p=0.03)に対して、3mg/kgのExjade(登録商標)で処置したマウスが40%の生存率(p=0.049)であったのに対して、10mg/kgのExjade(登録商標)で処置したマウスが57%の生存率(p=0.01)であったのに対して、プラセボについての28日間の生存日数は0%の生存率であった](図2)。これらの研究は、ムコール症の治療におけるExjade(登録商標)の使用の効力を実証する。これらの研究は、上記鉄キレート剤が、好中球減少個体におけるムコール症などの他の真菌症、ならびに伝播性カンジダ症およびアスペルギルス症などの他の感染症の治療に適用可能であり得ることをさらに示す。
【0081】
(実施例II)
ムコール症の治療のための鉄キレート療法
本実施例は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)マウスにおけるムコール症の治療または好中球減少性マウスにおけるムコール症の予防における、リポソームアンホテリシンB(LAmB)に対するデフェリプロンの効力の比較を示す。
【0082】
Rhizopus oryzaeは、ムコール症の一般的な原因である(Ibrahimら、(2003)、上述)。ケトアシドーシスの糖尿病患者などの利用可能な血清鉄が上昇した患者は、ムコール症感染症の発症リスクが高い(Artisら、上述)。さらに、デフェロキサミン鉄キレート療法は、患者をこれらの感染症に罹患させる。デフェロキサミンは、異種シデロフォアとして作用して、以前に利用不可能な鉄を菌類に供給する(Boelaertら、(1993)、上述)。従って、菌類が宿主から鉄を除去するのに利用され得ない鉄キレート剤の使用を、ムコール症に対する効力について評価した。Defは、Rhizopus種が鉄を除去するのに利用され得ない鉄キレート剤である(Boelaertら、(1994)、上述)。
【0083】
まず、Rhizopus oryzaeに対するデフェリプロンのインビボ活性を、この研究で評価した。簡便には、Rhizopus oryzae99−880を、糖尿病患者の脳膿瘍から単離した。生物体を、ポテトデキストロースアガー(PDA)上で、37℃で3日間増殖させた。いくつかの実験では、1mMのアスコルビン酸およびフェロジンの存在下でPDA上で増殖させることにより、Rhizopus oryzaeを鉄不足にさせた。0.01%Tween80を含む内毒素非含有PBS中で胞子嚢胞子を回収し、PBSで洗浄し、次いで、血球計数器で計数して、最終的な接種菌を調製した。感受性の試験のため、最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺真菌濃度(MFC)を、Espinel−Ingroff(J Clin Microbiol 39:954(2001))の方法により、Defおよびデフェロキサミンについて決定した。
【0084】
結果を以下の表2に示す。デフェリプロンは、24時間でRhizopus oryzaeに対して静的であったが(MICおよびMFC=それぞれ3.12および100μg/ml)、48時間のインキュベーションでは殺菌性が実証された(MICおよびMFC=6.25μg/ml)。対照的に、Rhizopus oryzaeに鉄を供給することが知られているデフェロキサミンは、Rhizopus oryzaeの増殖を抑制せず(24または48時間後、100μg/ml超のMICおよびMFC)、実際には、視覚での点検によれば、デフェロキサミンを含むウェル中での増殖は、増殖コントロールウェル(鉄キレート剤を含まない)中よりも多かった。
【0085】
【表2】
Rhizopus oryzaeに対するそのインビトロ活性を確認したので、我々は、我々のDKAマウスモデルを用いて、インビボでの伝播性Rhizopus oryzae感染の治療におけるデフェリプロンの役割を評価した。簡便には、インビボ感染のために、210mg/kgのストレプトゾトシンを真菌負荷の10日前に単回で腹腔内注射することにより、BALB/c 雄性マウス(≧20g)を糖尿病にした。ストレプトゾトシン処置の7日後、全てのマウスで糖尿およびケトン尿を確認した。マウスを、尾静脈にRhizopus oryzaeを適切に接種することにより感染させた。接種を確認するため、希釈物でPDAプレート上に線を引き、室温での24時間のインキュベーション期間後、コロニーを計数した。一次効力終点は、死亡した時間であった。二次終点としては、脳の真菌負荷(一次標的臓器)を、2mlの生理食塩水を含むWhirl−Pak(登録商標)バッグ(Nasco,Fort Atkinson,WI)に入れた器官上でピペットを回転することによりホモジナイズすることにより、決定した。ホモジネートを0.85%生理食塩水中で連続的に希釈し、次いでPDA上で定量的に培養した。値をlog10cfug−1組織として表す。マウスに関連する全ての手順は、動物の飼育および世話に関する米国国立保健研究所の指針に従って、研究機関における動物の利用と世話に関する委員会(the institutional animal use and care committee)により承認された。
【0086】
薬物および治療計画については、5%デキストロース水で希釈したLAmBをGilead Sciencesから得、15mg/kg qd(1日1回)で尾静脈から静脈内投与した。デフェリプロン(Apotex Research Inc.)を鉄非含有水に溶解し、50、100または200mg/kg qdまたはqod(隔日)で腹腔内投与した。処置は感染24時間後に開始し、合計4回の投与を続けた。対照群を、希釈液である5%デキストロース水で処置した。
【0087】
いくつかの実験では、鉄キレート化の効力を無効にすることを試みて、飽和投与量の遊離鉄をデフェリプロンと共に投与した。デフェリプロンは、鉄とデフェリプロンの1:3の比で第二鉄(3+Fe)と分子複合体を形成することが知られている。塩化第二鉄(FeCl3、分子量162.22g/mol)およびデフェリプロン(分子量139g/mol)の既知の分子量に基づき、60mg/kgの投与量のFeCl3を計算した結果、18gのマウスに与えられた100mg/kgの投与量のデフェリプロンに対して、顕著に過剰の3+Feが得られた:3+Feのモル数=(0.060g/kg*0.018kg[マウスの体重]/162.22g/mol)=6.5×10−6molに対し、デフェリプロンのモル数=(0.1g/kg*0.018kg[マウスの体重]/139g/mol)=1.3×10−5モル比=1:2モルの3+Fe対デフェリプロンであり、これは飽和した1:3の比を達成するのに必要とされるモル数よりも多い。
【0088】
統計解析を、ノンパラメトリックなログランク検定を用いて行い、マウスの生存時間の差を決定した。感染した器官における組織真菌負荷の差を、多重比較のためのノンパラメトリックSteel検定により比較した。0.05未満のP値を有意であると考えた。
【0089】
最初に、投与量応答を、製造元からの未発表の知見に基づく投与量を用いて行った(50、100または200mg/kgのデフェリプロンを毎日または隔日投与した)。マウスを4.3×103個のRhizopus oryzaeの胞子に感染させ、感染の24時間後にデフェリプロン処置を開始し、合計4回の投与を続けた。結果を図3および1に示すが、これらは、デフェリプロンがRhizopus oryzae感染からDKAマウスを保護することを示す。100mg/kg qodのデフェリプロン投与は、プラセボと比較してDKAマウスの生存率を改善した(p=0.027、図3)。100mg/kg qdまたは200mg/kg qdまたはqodなどのより高い投与量は、生存率を改善せず、50mg/kgのqdまたはqodの投与量も同様に改善しなかった。
【0090】
実施例Iで上記したように、デフェリプロンの効力を、ムコール症の一般的な治療である高投与量LAmBとも比較した。毎日投与されるLAmBの15mg/kgの投与量を選択したが、これは、我々が、この投与量は我々のDKAマウスモデルにおいて1mg/kgのアンホテリシンBデオキシコール酸塩よりも保護することを実証したからである。さらに、デフェリプロンの保護のメカニズムが鉄のキレート化であったことを確認するため、デフェリプロンおよび飽和投与量(60mg/kg)のFeCl3の形態の遊離鉄の効力もまた評価した。デフェリプロンを動物に与えるたびに、FeCl3を毎回静脈内投与した。
【0091】
LAmBまたは100mg/kg qodのデフェリプロンは、プラセボと比較して、生存率を28日改善した(図1、P<0.003、LAmBまたはデフェリプロン対プラセボのログランク検定による)。デフェリプロンで処置したマウスに対するLAmBで処置したマウスの生存率における統計的有意差はなかった(P=0.15)。デフェリプロンの効力は、塩化第二鉄の投与により完全に抑止された(図1)。
【0092】
さらなる研究では、実験的ムコール症のDefとLAmBとの併用療法もまた評価した。簡便には、マウス(感染未処置およびDefについてn=11、ならびにLAmBおよびDef+LAmBについてn=6)をRhizopus oryzaeに感染させ、次いで、24時間後、Def、LAmBまたは両方の薬物の組み合わせで、合計4回の投与で処置した。結果を図4に示すが、これは両方の処置の組み合わせを用いて増強した効力を示す。(*感染未処置マウスと比較してp<0.005)。
【0093】
同様に、Rhizopus oryzaeに感染しかつDef、LAmBまたは両方で予防した好中球減少性マウスの生存率もまた評価した。マウス(n=9)を、第1日目に、Def qod、LAmB qdまたは両方で、合計4回の投与量で処置した。これらの結果を図5に示すが、これらはまた、鉄キレートと併用した抗真菌療法の組み合わせを用いて増強した効力も示す。(*感染未処置に対するLAmBまたはLAmB+Defについてp<0.05)。例えば、プラセボ処置したマウスにおける0%の生存率に対して、予防的Defは22%の生存率を結果として生じる(p>0.05);LAmBおよびLAmB+Defのいずれも、100%の生存率を結果として生じる(両方について対プラセボp<0.05)。
【0094】
脳はこの動物モデルの一次標的臓器であるので、効力のさらなるマーカーとして、デフェリプロン療法が脳真菌負荷に及ぼす影響もまた評価した。マウスを3.8×103個の胞子に感染させ、次いで、LAmB(毎日)またはデフェリプロン(隔日)での2回の投与により処置した。上記研究において、コントロールマウスは、第2の投与量のデフェリプロンが投与される前に死亡し始めた。組織の真菌負荷を測定する前のデフェリプロンの少なくとも2回の隔日での投与の試験を可能にするため、本研究では、デフェリプロンを、感染の30分および48時間後に投与し、一方、LAmBは、感染の24時間および48時間後に与えた。脳を感染の約54時間後に回収した。結果を図6に示すが、いずれの薬物もプラセボと比較して脳真菌負荷を減少させることを示す(P≦0.036)。
【0095】
上記結果は、Def鉄キレート療法が実験的マウスのムコール症を治療するのに有効であり、例えば、好中球減少性の設定において予防的効力を有し得ることを示す。特に、DefはインビトロでRhizopus oryzaeの増殖を抑制したが、デフェロキサミン投与は抑制しなかった。Defは、DKAモデルのムコール症の治療においてかなりの効力を有し、この効力は、LAmBの高投与量療法に匹敵する。Defの効力は、おそらく、鉄をキレート化する能力によるものと思われるが、これは、遊離鉄がその保護を無効にするからである。Def予防法は、ムコール症の好中球減少性マウスモデルにおいて保護効果を拮抗しないように思われた。
【0096】
(実施例III)
ムコール症の治療的処置のためのデフェラシロクス投与
本実施例は、脳型ムコール症のサルベージ療法としての鉄キレート薬であるデフェラシロクスの使用を示す。
【0097】
デフェラシロクス(Exjade(登録商標))は、新規な、第1級の、経口的に利用可能な鉄キレート剤であって、最近、米国(US)食品医薬品局(FDA)により、輸血依存的貧血における鉄過剰の治療用に承認された。本研究は、最大の通常の抗真菌療法が効かない脳型ムコール症を有する脳型ムコール症患者のサルベージ療法としてのデフェラシロクスの使用を示す。
【0098】
糖尿病性ケトアシドーシスを有する40歳の男性が、多尿、多飲症、左眼球後疼痛および左脳神経(CN)Vl麻痺で外部の病院の救急部を受診した。頭部のコンピュータ断層撮影(CT)スキャンは、左楔形および篩骨洞炎のみを示した。患者は最初の24時間で完全な左眼筋麻痺に進行した。脳型ムコール症が疑われ、彼はアンホテリシンB脂質複合体(ABLC)を5mg/kg/日を経験的抗菌薬と共に用いて、副鼻腔炎の治療を開始した。入院2日目、彼は内視鏡で蝶篩骨の探索を受けた。壊死組織または焼痂は見出されず、複数の組織診は非特異的な炎症を示した。真菌培養は陰性であり、特殊染色によって生物体は明らかにされなかった。細菌培養は、稀なエンテロバクター・アエロゲネスのみを増殖させた。
【0099】
次の12日間にわたり、患者は失明を発症し、かつ左眼の眼球突出が悪化した。彼はABLCを続け、さらなる外科手術は行わなかった。眼窩および脳の連続的な磁気共鳴画像形成(MRI)により、左側の汎副鼻腔炎の進行、ならびに左外眼筋の肥厚および異常な増強が明らかになった。
【0100】
入院14日目に、患者は、さらなる管理のため我々の施設に転送された。到着するとすぐに、彼は除核および広範な洞デブリードマンおよび切除による左眼窩の除去を受けた。手術中の知見には、外眼性筋の広範な周囲壊死を伴う虚血性眼球が含まれた。病理学的検体は、ケカビ目の証拠を示した(図7);真菌培養は陰性であった。患者は、リポソームアンホテリシンB(LamB)15mg/kg/日およびカスポファンギン70mg/kg/日を開始した(ポリエン−エキノキャンディン相乗作用を実証する公開されたマウスのデータに基づく)。軌道除去の2日後に行った頭部CTスキャンは、左海綿静脈洞血栓症を示した;この知見は、経過観察MRIで確認した。
【0101】
新しい神経学的知見は存在しなかったにもかかわらず、入院36日目のMRIは、左内部頚動脈に緩徐な流れを有する左海綿静脈洞血栓症の進行を示し、CNVの新たな増強は、進行性ムコール症と一致した。抗真菌療法を継続した。入院71日目に、脳MRIは鞍上窩に新たな増強を示し、かつ、初めて、周囲に浮腫を有する橋に脳幹病変の発生を示した。橋の表在性側面における病変の位置を考慮して、1回投与量の窩内アンホテリシンが投与されたが、患者はさらなる投与を拒絶した。患者は臨床的におよび神経学的に不変のままであった。引き続く画像形成の安定化のため、彼は入院86日目に退院し、外来でLAmBの単独療法を週3回続けた。
【0102】
彼の疾患は、数ヶ月にわたり、臨床でおよびX線検査で安定なままであった。腎不全の悪化のため(0.8のベースラインからCr3.5〜4.0)、退院の10週後、LAmBの投与量を10mg/kgで週2回に減少させ、次いで、退院の4ヶ月後、徐々に週1回まで減少させた。1ヶ月後、繰り返しのMRIは、左中央小脳脚の周囲の浮腫の新たな増強を示し、左小脳橋角は進行性疾患と一致した。
【0103】
実験的鉄キレート剤であるデフェリプロンからのデータ、およびマウスにおけるデフェラシロクスの未発表の知見に基づき、デフェラシロクスを1000mgpoの投与量で(経口で)毎日、7日間にわたって投与した。LAmBを継続した。デフェラシロクス処置の最終日、患者は、躯幹および四肢に、予想される薬疹と一致する紅斑、わずかなそう痒、集密的斑点状丘疹の噴出を発症した。そう痒はジフェンヒドラミンで抑えた。他の有害事象は認められなかった。デフェラシロクスでの処置の1週間後の脳の反復MRIは、左小脳脚に浮腫の解像度を示した。5週間後の経過観察画像形成は、新たな病変を示さなかった。腎不全の悪化(Cr約5.5)、および反復画像形成におけるX線所見の安定性のために、LAmBを中断した。初期診断の10ヶ月後、患者は無症候かつ神経学的に無傷のままであった。
【0104】
ここに記載した患者は、最大耐容量のLamBでの7ヶ月の処置後に進行性ムコール症と一致する新しいX線所見を示したので、高度な外科手術および数ヶ月にわたる抗真菌療法にもかかわらず、明らかに後の浸潤性ムコール症は治癒しなかった。しかしながら、デフェラシロクスでの7日間の処置後、実質的なX線検査の改善が認められた。2ヶ月後、デフェラシロクスを投与し、全ての抗真菌療法を中断した。患者は、病状悪化の徴候がなく、その後、臨床的に無症候およびX線検査で安定のままであった。患者は、キレート剤に起因し得る軽微な薬物反応を除き、デフェラシロクスへの耐容性が良好であった。
【0105】
ここでは、我々は、適切な外科手術の著明な遅れの後に脳幹および海綿静脈洞が関与する進行ムコール症の症例を、デフェラシロクスをサルベージ療法に用いた後に明らかに成功した結果と共に記載した。デフェラシロクスでの処置の正確な効果は、同時に行われるポリエンでの処置により幾分混同させられる。しかしながら、患者は、デフェラシロクスを添加する前の非常に積極的なポリエンでの処置に明らかに失敗した。本症例の有望な結果、ならびに現在の抗真菌療法にもかかわらず、ムコール症の選択肢が限定されかつ予後不良であることを考慮すると、ムコール症の治療における鉄キレート化のさらなる研究が必要とされる。
【0106】
(実施例IV)
インビトロでデフェラシロクスがケカビ目に及ぼす効果
本実施例は、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeの高親和性鉄透過酵素遺伝子(rFTRl)の発現に及ぼす効果を示す。本実施例はまた、ケカビ目の複数の臨床単離物のデフェラシロクス感受性を示す。
【0107】
以下は、本実施例および引き続く実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0108】
Rhizopus oryzaeおよび培養条件
Rhizopus oryzae99−880は、糖尿病患者の脳膿瘍由来の臨床単離物である。Rhizopus oryzae99−892は、臨床上の肺単離物である。Rhizopus oryzaeM16は、化学的変異原性によりRhizopus oryzae99−880から産生したpyrFヌル変異体である(pyrFは、ウラシル合成に必要とされる酵素であるオロチジン5’リン酸脱炭酸酵素をコードする)。この変異体は、プレーティングが1×109個の胞子を超えても、ウラシル栄養素要求性に対して安定な表現型を示す。生物体を、ポテトデキストロースアガー(PDA)[処方/リットル;馬鈴薯デンプン4g、デキストロース20g、アガー15g]上で、37℃にて4日間増殖させた。M16については、PDAに100μg/mlのウラシルを追加した。いくつかの実験では、Rhizopus oryzaeを、ウラシル(CSM−URA)を含まない完全追加培地を追加した酵母窒素ベース(YNB)(YNB+CSM−URA)(Difco/Becton Dickinson,Sparks,MD)上、1mMのアスコルビン酸およびフェロジンの存在下で増殖させることにより、鉄不足にした(YNB+CSM−URA)[処方/l00ml、1.7gのYNB(アミノ酸非含有)、20gのグルコース、0.77gのCSM−URA]。胞子嚢胞子を、0.01%Tween 80を含む内毒素非含有PBS中で回収し、PBSで洗浄し、血球計数器で計数して、最終的な接種体を調製した。
【0109】
Rhizopus oryzaeの高親和性鉄透過酵素遺伝子(rFTRl)の発現分析
コンフルエントPDAプレートから取り出したRhizopus oryzae99−880プラグを、ポテトデキストロースブロス中で、振盪しながら37℃で一晩増殖させた。菌糸を無菌的に回収し、鉄キレート化を試験するための350μMの塩化第二鉄(rFTRlの発現を抑制するため)、350μMの塩化第二鉄および2mMのデフェラシロクス、または添加したデフェラシロクスを過飽和させるための2mMのデフェラシロクスおよび6mMの塩化第二鉄を含む、新鮮なPDBフラスコに移した。フラスコを37℃で1時間、振盪しながらインキュベートした。菌糸を濾過により回収し、乳鉢および乳棒を用いて液体窒素内で粉砕した。全RNAを、RNeasy Plabt Mini(登録商標)キット(Qiagen(登録商標))を用いて、RLC緩衝液で抽出した。RNAを、SuperScript(登録商標)First−Strand Syhthesis System(Invitrogen(登録商標))を用いてオリゴ(dT)プライマーで逆転写し、第1らせんcDNAを作製した。産物を希釈し、PCR法で用いて、Rhizopus oryzaeおよび18srDNA遺伝子のFTR1の発現を検出した。PCRプライマーの配列は以下の通りである:rFTRlについてRhizopus oryzaeを増幅するためのセンスプライマー5’−TCAGAGAAGGACTTGAAGC−3’およびアンチセンスプライマー5’−TAAGTAGCCGTATTGTTCC−3’;ならびに18srDNA遺伝子についてセンスプライマー5’−CATGGTTGAGATTGTAAGATAG−3’およびアンチセンスプライマー5’−AGTCAATGGACGTGGAGTC−3’。PCR産物を、0.1μg/mlの臭化エチジウムを含む2%アガロースゲル上で分離した。両方のプライマーセットは、400bpバンドを増幅するように設計された。
【0110】
緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターアッセイ
rFTRl ORFの1.5kb断片上流を、以下のプライマー対を用いてPCR増幅した:センスプライマー5’−GCTCTAGATCAGTCTCAACACCATCAATT−3’;およびアンチセンスプライマー5’−TGCGGCCGTGCTTTTTAGTTCTCCTTGGA−3’。コントロールとして用いるため、恒常的に発現したアクチンプロモータを含む2.1kbフラグメントもまた、以下のプライマー対を用いてPCR増幅した:センス5’GCTCTAGATGGTATTATCGATTTAGA−3’;およびアンチセンス:5’TACGGCCGCATACCGGAACCGTTATCG−3。増幅した断片を、プラスミドpyr225b(35)のXbaIおよびEagI部位に連結した。GFPを、pGFPB21−43.31(36)、およびいずれかのプロモータのクローン下流から、いずれかのプロモータのプラスミド下流のEagI−SacI部位へと増幅した。最終的に、pyrFのORFを表す2.1kb断片およびその未変性のプロモータをプラスミドのSpeI−ClaI部位にクローン化して、選択マーカーとして供した。rFTRlpまたはACTIpのいずれかにより駆動されるGFPを含むプラスミドを、微粒子銃(Biorad(登録商標))によりRhizopus oryzaeM16に形質転換した。形質転換体を、照射後37℃で5〜7日間増殖したYNB+CSM−URAプレート上で選択した。次いで、単離物を、ウラシル非含有最少培地を含むプレート上で継代形質転換し、プレートを37℃でインキュベートすることにより、ウラシル栄養素要求性について試験した。ウラシル陰性プレート上で選択した精製された形質転換体を、サザンブロット法により分析した。
【0111】
rFTRlpおよびACTIpの発現を、鉄充満培地(すなわち、YNB+CSM−URA)中または鉄不足条件(すなわち、2mMデフェラシロクスを追加したYNB+CSM−URA)で増殖させた形質転換体において研究した。さらに、デフェラシロクスの効果を無効にするため、形質転換体を、2mMデフェラシロクスを追加したYNB+CSM−URA中で増殖させ、6mMの塩化第二鉄で過飽和させた。最終的に、空のプラスミドで形質転換したM16(GFPを有しないpyr225b−pyrF)を、ネガティブコントロールとして用いた。胞子(1×104/ml)を上記培地に播種し、37℃で一晩インキュベートした。1滴の培養物をスライドに載せ、GFPの発現を、Leica DMRXE共焦点顕微鏡で、488nmの励起波長を用いて、Rhizopus oryzaeで可視化した。さらに、各培養物からの1mlの試料もまた用いて、488nmで発光するアルゴンレーザを備えたFACSCaliber(登録商標)(Becton Dickinson(登録商標))装置を用いて、蛍光放出を定量した。胞子を前方および側方散乱によりゲートし、FLlで蛍光測定した。
【0112】
感受性試験
最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺真菌濃度(MFC)を、鉄不足にしたRhizopus oryzae胞子を用いて、Espinel−Ingroffの方法(Espinel−Ingroff(2001)、上述)により、デフェラシロクスについて測定した。殺菌性は、MICとMFCとの間の4倍以上の差であると定義した。
【0113】
治療計画
デフェラシロクス(Novartis Pharmaceuticals,Basel,Switzerland)を、0.5%ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel)に懸濁し、1、3または10mg/kgを2回(毎日)または1日おきに(隔日)経口経管栄養により投与した。感染の24時間後に処置を開始し、合計5回または7回の投与まで継続した。コントロール群を、希釈液、5%デキストロース水および0.5%Klucelで処置した。いくつかの実験では、飽和投与量の遊離鉄を、デフェラシロクスと共に投与した。デフェラシロクスは、鉄とデフェラシロクスとの比1:2で、第二鉄(3+Fe)と分子複合体を形成することが知られている。塩化第二鉄(FeCl3、分子量162.22g/mol)およびデフェラシロクス(分子量373.4g/mol)の既知の分子量に基づき、2.8mg/kgの投与量のFeCl3を計算した結果、18gのマウスに与えられた10mg/kgの投与量のデフェラシロクスに対して、3+Feが顕著に過剰であった:3+Feのモル数=(0.0028g/kg*0.018kg[マウスの体重]/162.22g/mol)=3×10−7mol対デフェラシロクスのモル数=(0.01g/kg*0.018kg[マウスの体重]/373.4g/mol)=5×10−7モル比=1:1.7molの3+Fe対デフェラシロクス、これは飽和の1:2比を達成するのに必要とされるよりも多い。5%デキストロース水で希釈したLAmBを、Gilead Science(登録商標)(Foster City,CA)から入手し、1日あたり15mg/kg(qd)の投与量で、尾静脈から4日間投与した。
【0114】
統計解析
ノンパラメトリックログランク検定を用いて、マウスの生存時間の差を決定した。組織真菌負荷、脾臓のリンパ球頻度および感染した器官における全器官のサイトカインの差を、Mann Whitney U検定により比較した。0.05未満のP値を、有意であると考えた。
【0115】
鉄不足は、Rhizopus oryzae中の高親和性鉄透過酵素遺伝子(rFTRl)の急速な発現を引き起こし、ムコール症の最も一般的な原因であることが示されている(Fuら、FEMS Micorbiol.Lett.235:169−176(2004))。従って、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeから効果的に鉄をキレート化することを確認するため、我々は、インビトロでのデフェラシロクスのRhizopus oryzaeへの曝露がrFTRlの発現に及ぼす影響を定義した。Rhizopus oryzae99−880胞子を、PDB中で一晩インキュベートした。次の日、菌糸を、350μMの塩化第二鉄(鉄充満)、350μMの塩化第二鉄および2mMのデフェラシロクス(鉄枯渇)、または2mMのデフェラシロクスおよび6mMの過飽和塩化第二鉄を追加したPDBに移した。リボ核酸を、各条件で37℃にて1時間増殖させた胞子から抽出し、逆転写PCRを行って遺伝子発現を評価した。rFTRl遺伝子はデフェラシロクスの存在下で発現したが、塩化第二鉄を追加した培地中、またはデフェラシロクスおよび過飽和塩化第二鉄の存在下では発現しなかった(図8a)。
【0116】
キレート化条件下でのrFTRlpの発現およびrFTRlのプロモータ活性を確認するため、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子をrFTR1プロモータによりクローン化した(図8b)。rFTRl::GFP構築物またはACTlp::GFP(恒常的ポジティブコントロール)で形質転換したRhizopus oryzaeM16胞子を、デフェラシロクス、デフェラシロクスおよび過飽和塩化第二鉄、または鉄富化の培地(鉄充満)で一晩インキュベートした。図8cは、増殖条件に関わりなく恒常的に発現したACTlプロモータの制御下のGFPとは対照的に、rFTRlプロモータの制御下のGFPは、鉄キレート化条件(デフェラシロクス)の存在下でのみ発現するかまたは活性であった。共焦点顕微法により明らかなように、恒常的ACTlp::GFP構築物で形質転換されたM16は、増殖条件に関係なく蛍光性であった。対照的に、rFTRlp::GFPで形質転換したM16は、デフェラシロクスの存在下でのみ蛍光性であった。同様に、フローサイトメトリにより、鉄充満条件で増殖された、形質転換されなかったまたはrFTRlp::GFPで形質転換された胞子の1%未満は蛍光性であった。対照的に、rFTRlp::GFPで形質転換されかつデフェラシロクスの存在下で増殖された胞子の43%は蛍光性であった。まとめると、これらのデータは、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeにおいて鉄不足応答を誘発したことを確認した。
【0117】
我々は、次に、ケカビ目の複数の臨床単離物のデフェラシロクス感受性を決定した(表3)。デフェラシロクスのケカビ、非オリゼRhizopus種およびRhizopus oryzaeのMIC90は、3.12〜6.25μg/mlであった。MFCはMICと同様であり、デフェラシロクスは29の単離物のうち28(97%)に殺菌性であった。注目すべきは、デフェラシロクスが極度に高濃度であっても、最初の24時間以内に軽微な増殖が観察されたことである。しかしながら、菌類は、デフェラシロクスが低濃度であっても24時間で死滅し、このことは、デフェラシロクスの殺菌性が、濃度依存的ではなく時間依存的であることを示唆する。さらに、これらの単離物に対するデフェラシロクスのMICおよびMFCは、FDAに承認された開始投与量(20mg/kg/日)で投与した場合、定常状態で薬物が臨床的に達成可能なピーク(約38μg/ml)およびトラフ血清レベル(約17μg/ml)よりずっと少なかった。
【0118】
本実施例は、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeにおいて鉄不足応答を誘発することの実証に加えて、デフェラシロクスがケカビ科の2つの異なる属由来の複数の臨床単離物について殺菌性であったことを示した。
【0119】
【表3】
(実施例V)
インビボでのRhizopus oryzaeに対するデフェラシロクスの効力
本実施例は、ケカビ目に感染したマウスの治療におけるデフェラシロクスのインビボでの効力を示す。
【0120】
以下は、本実施例および引き続く実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0121】
マウスモデル
インビボ感染のため、0.2mlクエン酸緩衝液中の210mg/kgのストレプトゾトシンを、真菌負荷の10日前に単回で腹腔内注射することにより、BALB/c雄性マウス(>20g)を糖尿病にした。ストレプトゾトシン処置の7日後、全てのマウスで、糖尿およびケトン尿を確認した。好中球減少性マウスモデルについては、Rhizopus oryzaeへの感染の2日前に、200mg/kgのシクロホスファミド(Bristol Myer Squibb)の単回の腹腔内投与量をマウスに注射した。この治療計画は、感染に対して第2日〜第5日に汎血球減少症を結果として生じたが、細胞数の回復は感染後第6日目に回復した。マウスを、Rhizopus oryzaeを尾静脈から適切に接種することにより感染させた。接種を確認するため、0.1%トリトンを含むPDAプレート上に希釈物で線を引き、37℃での24時間のインキュベーション期間後、コロニーを計数した。一次効力の終点は、死亡した時間であった。二次終点としては、脳の真菌負荷(一次標的臓器)を、1mlの生理食塩水を含むWhirl−Pak(登録商標)バッグ(Nasco,Fort Atkinson,WI)に入れた器官上でピペットを回転することによってホモジナイズすることにより、決定した。ホモジネートを0.85%生理食塩水中で連続的に希釈し、次いでPDA上で定量的に培養した。値をlog10 cfu g−1組織として表した。最終的に、病理組織学的分析のため、感染した器官をマウスから回収し、10%亜鉛ホルマリン中で固定した。固定された組織を、パラフィン中に包埋し、光学顕微法検査のために5mmの切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。マウスに関連する全ての手順は、動物の飼育および世話に関する米国国立保健研究所の指針に従って、研究機関における動物の利用と世話に関する委員会により承認された。
【0122】
デフェラシロクスのインビトロ活性がインビボでの効力に変わるかどうかを決定するため、我々は、我々の播種性ムコール症のマウスモデルを糖尿病性ケトアシドーシスマウスに利用した。糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、尾静脈経由で、2.2×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させた。マウスを、0.5%ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel)中1、3または10mg/kgのデフェラシロクスの経口経管栄養で、毎日2回(bid)、感染後の日から開始して7日間処置した。ネガティブコントロールマウスを、ヒドロキシプロピルセルロースキャリア(プラセボ)またはデフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄(皮下投与)で処置した。さらなるネガティブコントロールは、塩化第二鉄で処置した非感染マウスからなった。1、3または10mg/kg bidのデフェラシロクスは、コントロールと比較して生存率を有意に改善した(図9a)。
【0123】
別の実験において、デフェラシロクスは、Rhizopus oryzaeの第2の臨床単離物である99−880単離物に対して有効であることが見出された。糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、尾静脈経由で、より病原性が高いRhizopus oryzae99−880の胞子1.3×103個に感染させ、10mg/kg bidのデフェラシロクスまたはプラセボで7日間、上記のように処置した。デフェラシロクスは、プラセボと比較して、Rhizopus oryzaeに感染したマウスの死亡の時間を有意に改善した(図9b)。
【0124】
デフェラシロクスが組織真菌負荷に及ぼす影響を決定するため、糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、尾静脈経由で、Rhizopus oryzae99−892の胞子4.2×104個に感染させた。マウスを、デフェラシロクス(10mg/kg bid)、デフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄、またはプラセボで処置した。処置は感染の16時間後に開始し、毎日3日間にわたって投与した。第4日目に腎臓および脳を取り出し、ホモジナイズし、定量的に培養した。デフェラシロクスは、プラセボまたはデフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄で処置したマウスと比較して、脳および腎臓の両方(一次標的臓器)で真菌負荷が10倍超減少する結果となった(図10a)。病理組織学では、デフェラシロクスで処置したマウスの腎臓は、可視的な菌糸(図10b中、矢印で示す)を有しなかったが、一方、プラセボまたはデフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄で処置したマウスの腎臓は、広範なフィラメント化した菌類を有した。さらに、飽和鉄で処置したマウスは、感染部位への好中球流入の著しい非存在を有したが、一方、好中球流入は、デフェラシロクスで処置したマウスの腎臓において顕著であった(図10b)。
【0125】
デフェラシロクスの直接の抗真菌性効果を示すことに加えて、本実施例は、デフェラシロクスの保護効果が遊離鉄の投与により無効にされ得ることを実証するが、このことは、この薬剤の保護のメカニズムが鉄キレート化を介することを確認する。
【0126】
(実施例VI)
鉄キレート化および過剰の鉄が宿主免疫応答に及ぼす影響
本実施例は、デフェラシロクスならびにデフェラシロクスおよび塩化第二鉄が宿主免疫応答に及ぼす影響の比較を示す。
【0127】
以下は、本実施例および引き続く実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0128】
脾臓リンパ球頻度および全器官サイトカインアッセイ
脾臓リンパ球頻度を、我々が上記したとおりに測定した(Spellbergら、Infect.Immun.71:5756−5764(2003))。簡便には、脾臓のホモジネートを70μmフィルタに通し、その後、0.15M塩化アンモニウムで赤血球溶解させた。細胞を、Cytoperm(登録商標)緩衝液(BD Pharmingen)で透過可能にしたCytofix(登録商標)緩衝液(BD Pharmingen(登録商標))で固定化し、10μg/mlのFITC複合体化抗マウスCD4(クローンRM4−5)、PE複合体化抗マウスIFN−γ(クローンXMG1.2)またはアイソタイプコントロール(クローンR−34)、アロフィコシアニン(APC)複合体化抗マウスIL−4(クローン11B11)またはアイソタイプコントロール(クローンR3−34)あるいはAPC複合体化抗マウスIL−10(クローンJES5−16E3)またはアイソタイプコントロール(クローンA95−1)(全てBD Pharmingenから)で染色した。別々の実験において、CD4+CD25+foxp3+T調節細胞の頻度を、Mouse Regulatory T cell Staining(登録商標)キット(eBioscience(登録商標))を製造者の推奨に従って用いることにより測定した。アポトーシスの頻度は、Annexin FITC Apoptosis(登録商標)キット(BD Pharmingen(登録商標))を用いて決定した。
【0129】
細胞を洗浄し、三色フローサイトメトリを、CaliBRITE(登録商標)ビーズ(BD Pharmingen)で校正したBecton−Dickinson FACScan(登録商標)機器で、FACSComp(登録商標)ソフトウェアを製造者の推奨に従って用いることにより行った。データ獲得の間に、CD4+リンパ球を前方および側方散乱の連続、ならびにFITC−抗−CD4抗体の蛍光によりゲートした。各試料についてのデータを、10,000個のCD4およびリンパ球が分析されるまで獲得した。
全器官サイトカインアッセイ
脾臓および腎臓を、1mlのPBS中でホモジナイズした。ホモジネートを、最大速度でテーブルトップ遠心分離機で4℃にてペレット化した。上清を、Cytometric Bead Array Murine Inflammatory Cytokine(登録商標)キット(BD Pharmingen)を製造者の指示に従って用いて、サイトカインについてアッセイした。
【0130】
飽和塩化第二鉄対鉄キレートで処置したマウスの腎臓で観察される炎症性細胞の流入の変化のため、本実施例では、我々は、デフェラシロクス療法が感染マウスのThl/Th2および炎症性サイトカイン応答に及ぼす影響を決定した。糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、上記のように3.1×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させ、デフェラシロクス、デフェラシロクスおよび塩化第二鉄、またはプラセボで処置した。感染4日目に、脾臓および腎臓を、細胞内および全器官のサイトカインを決定するために加工した。デフェラシロクスは、Th1およびTh2の脾細胞頻度の両方において、飽和塩化第二鉄またはプラセボで処置したマウスと比較して有意な増加を結果として生じた(図11a)。CD4+IL−10+またはCD4+CD25+foxp3+脾細胞の頻度は、群間で有意に異ならなかった(データは示さない)。脾細胞アポトーシスの群間での有意差はなかった(データは示さない)。
【0131】
デフェラシロクス処置マウスは、基準の炎症誘発性サイトカイン、TNFおよびIFN−γの脾臓レベルが、飽和鉄またはプラセボで処置したマウスよりも有意に高かった(図11b)。デフェラシロクスで処置したマウスはまた、IFN−γの腎臓レベルが有意により高かった(図11b)。
【0132】
本研究は、デフェラシロクスが、糖尿病性ケトアシドーシスマウスにおける抑制された炎症反応を非特異的に刺激し、Th1およびTh2リンパ球の両方の頻度、ならびに脾臓および腎臓の炎症性サイトカインレベルを増加させたことを示す。さらに、超飽和鉄投与量の投与によるキレート化の無効化は、感染した腎臓で観察される好中球の数を減少させた。
【0133】
(実施例VII)
マウスのムコール症の治療上の処置のためにリポソームアンホテリシンBと併用されるデフェラシロクス(Exjade(登録商標))
本実施例は、ムコール症の治療のための、鉄キレート剤デフェラシロクス(Exjade(登録商標))およびリポソームアンホテリシンB(LAmB)を用いる併用療法の効果を示す。
【0134】
上述したように、臨床および動物モデルデータは、上昇した利用可能な血清鉄の存在が、宿主をムコール症に罹患させることを示す。上記実施例で例示したように、デフェラシロクス鉄キレート療法は、ムコール症の最も一般的な原因であるRhizopus oryzaeに感染した糖尿病性ケトアシドーシスマウスの生存率を改善することが実証された。補助的療法におけるデフェラシロクスの効力を実証するため、動物モデルマウスのムコール症の治療について、LAmBと併用されるデフェラシロクスの効力を、いずれかの薬剤単独と比較した。
【0135】
方法、動物の手順および試薬は、上記のように行ったおよび/または調製した。簡便には、ストレプトゾトシン誘発DKAを有するBALB/cマウスを、尾静脈経由で2.0×103個のRhizopus oryzae胞子に感染させた。感染24時間後に、以下を用いて処置を開始した:(1)LAmB(15mg/kg静脈投与)の1日1回、4回の投与;(2)デフェラシロクス(10mg/kg腹腔内投与)の1日2回、7回投与、または(3)上記投与量を用いる、LAmBおよびデフェラシロクスの両方。プラセボマウスは、ビヒクルコントロールを投与された。終点は、死亡時およびコロニー形成単位(CFU)であった。
【0136】
上記研究の結果を、図12および13に示す。図12は、ムコール症の治療におけるデフェラシロクス単独およびLAmB単独の単独療法の効力、ならびにデフェラシロクスおよびLAmBの併用療法の効力を示す。結果は、両方の単独療法が、プラセボに比較して生存率を改善したことを示す(デフェラシロクスおよびLAmBについてそれぞれ25%および28%生存率、およびプラセボについて0%、P<0.003)。併用療法は、全ての他のグループと比較して、感染したDKAマウス(群当たりn>16)の生存時間および全生存率の両方を著明に改善した(併用療法について70%の生存率、全ての比較についてログランク検定でP<0.008)。
【0137】
標的臓器に関するこれらの処置の結果を、図13に示す。結果は、単独の薬剤のいずれも、プラセボと比較して脳のCFU(一次標的臓器)を減少させることができなかったことを示す。しかしながら、デフェラシロクスおよびLAmBの両方での併用療法は、全ての他のアームと比較して、脳のCFUを2log超減少させた(P<0.04)。LAmBのみおよび併用療法は、プラセボ処置マウスと比較して、腎臓のCFU(二次的な標的臓器)を減少させ得た(P<0.01)。
【0138】
本研究は、鉄キレート療法および高投与量のLAmBが、DKAにおける実験的ムコール症の治療に等しく効果的であり得ることを示す。LAmBおよびデフェラシロクスでの併用療法は、いずれかの薬剤単独よりも効果的であった。これらのデータは、さらに、ムコール感染症の治療における、アンホテリシンBの脂質製剤を用いた補助的療法としてのデフェラシロクスなどの鉄キレート化の使用の治療上の有効性を実証する。上記結果はさらに、動物モデルのムコール症の治療において、鉄キレート剤デフェラシロクス(Exjade(登録商標))とリポソームアンホテリシンBとを併用した場合、結果として相乗効果を生じることを示す。
【0139】
(実施例VIII)
好中球減少性感染マウスにおけるデフェラシロクスの効力
本実施例は、Rhizopus oryzaeに感染した好中球減少性マウスの治療におけるデフェラシロクスの効力を示す。
【0140】
デフェラシロクスが好中球減少の設定にもまた有効であるかどうかを決定するため、マウスをシクロホスファミドで骨髄除去した。2日後、マウスを尾静脈経由で2.7×103個のRhizopus oryzae99−892胞子に感染させた。初期の投与量応答の研究は、我々が鉄キレート剤デフェリプロンについて上記したように、糖尿病性ケトアシドーシスモデルとは対照的に、至適な結果が毎日ではなく隔日のデフェラシロクスの投与により達成されたことを示唆した(データは示さない)。デフェラシロクス(感染24時間後から開始して、2回の10mg/kgを隔日で5回投与)での処置は、プラセボと比較して、死亡時間を有意に改善した(図14)。対照的に、毎日2回投与されたデフェラシロクスは、プラセボと比較して、死亡時間を有意に改善しなかった。
【0141】
この研究は、好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの最大効力は、糖尿病性ケトアシドーシスマウスモデルにおける頻度よりも少ない頻度の投与を必要とし、かつ、デフェラシロクスは、好中球減少性マウスよりも糖尿病性ケトアシドーシスマウスモデルにおいて幾分より効果的であるように思われることを示す。
【0142】
(実施例IX)
好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの特異的毒性の評価
本実施例は、デフェラシロクスの毎日の投与で処置した好中球減少性マウスにおける毒性評価の結果を示す。
【0143】
以下は、本実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0144】
デフェラシロクスの毒性の研究
好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの毒性を評価した。マウスを上記のように好中球減少性にし、デフェラシロクス10mg/kg2回で毎日または隔日、7日間処置した。3つの異なる群(すなわち、プラセボ、デフェラシロクスでの毎日の処置およびデフェラシロクスでの隔日の処置)からのマウスを第3日目または8日目に犠牲にし、血液を回収し、評価のためにCharles Liver Laboratoriesに送付した。さらに、骨髄スメアを大腿骨から調製し、組織を回収し、亜鉛緩衝ホルマリン中に保存し、パラフィンに包埋し、5μmに切断し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。得られたスライドは、Charles Liver Laboratoriesの認定された獣医学病理学者により検討された。
【0145】
好中球減少性モデルでは隔日でのデフェラシロクスの投与が至適であったので、我々は、好中球減少性マウスにおいてデフェラシロクスの毎日の投与により引き起こされる潜在的な毒性を同定することを試みた。マウスをシクロホスファミドを用いて上記のように好中球減少性にしたが、感染させなかった。マウスを、デフェラシロクス10mg/kgで毎日2回、7日間にわたって、10mg/kg2回の隔日での4回の投与、またはプラセボで処置した。第3日目または第8日目に末端放血を行い、全血球数、血清化学および肝機能検査を測定した。病理組織学を、広範な器官のリスト(脳、心臓、肺、肝臓、胆嚢、脾臓、腎臓、胃腸管(胃、小腸および大腸を含む)および骨髄(両スメアおよび核心)を含む)について行った。白血球数、好中球絶対数、血小板数、ヘモグロビンレベル、血清化学(クレアチニン、血中尿素窒素,または電解質を含む)または肝機能検査(AST、ALTまたはビリルビンを含む)においては、いずれの時点でも、3つの群間での差異は認められなかった。病理組織学によれば、デフェラシロクスに起因し得る臓器特異的毒性は同定されず、造血の変化の証拠は含まれなかった。特に、化学療法による骨髄切除の増悪または骨髄切除から遅延した回復の証拠はなく、臨床検査による腎障害または肝障害のいかなる証拠もなく、また、病理組織学的評価によるいかなる特定の器官毒性もなかった。
【0146】
本研究は、毒性の証拠が見出されなかったので、好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの毎日の投与で活性が減少したことが、このようなマウスにおけるデフェラシロクスの有毒な効果に起因し得ないであろうことを示す。
【0147】
本出願を通して、多様な刊行物が括弧内で参照されてきた。本発明が属する技術水準をより十分に説明するため、これらの刊行物の開示は、その全体が本出願で参照として本明細書中で援用される。
【0148】
本発明を、開示された実施態様を参照しながら説明してきたが、当業者は、上記に詳細に説明した具体的実施例および研究が本発明の例示にすぎないことを容易に理解するであろう。多様な改変が、本発明の趣旨から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、感染症の治療に関し、より詳細には、日和見性真菌症の有効な治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ムコール症は、接合菌網ケカビ目の菌類により引き起こされる、生命を脅かす感染症である。ケカビ目に属する菌類は、6つの科に分類され、その全てがムコール症を引き起こし得る(非特許文献1;非特許文献2および非特許文献3)。しかしながら、ケカビ科に属する菌類、および特にRhizopus oryzae属(Rhizopus arrhizus)は、圧倒的に感染症の最も一般的な原因である(非特許文献3)。増加しているムコール症の症例はまた、Cunninghamella科のCunninghamella種への感染に起因するものと報告されている(Cohen−Abboら、Clinical Infectious Diseases 17:173−77(1993);Kontoyianisら、Clinical Infectious Diseases 18:925−28(1994);Kwon−Chungら、American Journal of Clinical Pathology 64:544−48(1975)、およびVenturaら、Cancer 58:1534−36(1986))。ケカビ目の残りの4つの科は、疾患のそれほど多くはない原因である(Bearerら、Journal of Clinical Microbiology 32:1823−24(1994);Kamalam and Thambiah,Sabouraudia 18:19−20(1980);Kemnaら、Journal of Clinical Microbiology 32:843−45(1994);Lyeら、Pathology 28:364−65(1996)、および非特許文献3)。
【0003】
ムコール症の病原体は、免疫低下した宿主にほぼ一律に影響を与える日和見病原性菌である(Spellbergら、Clin.Microbiol.Rev.18:556−69(2005))。糖尿病性ケトアシドーシスの患者は、比類なくムコール症に感染し易く、他の菌類による感染症よりもこれらの感染症を発症することが多い。一方、好中球減少および副腎皮質ステロイド療法などの、ムコール症を発症する他の免疫低下症状に罹患している患者の顔では、ムコール症はカンジダおよびAspergillus種により引き起こされるような他の日和見性真菌症よりも発症が少ない。全体として、最近の人口に基づく研究は、ムコール症の発生率は1年間で100万人当たり1.7症例であると概算しており、これはアメリカ合衆国で1年間当たり約500症例に換算される(Reesら、Clinical Infectious Diseases 27:1138−47(1998))。それにもかかわらず、同種間骨髄移植を受けた患者などのよりハイリスクな患者においては、ムコール症の有病率は2〜3%もの高さであると記載されている(Maertensら、Bone Marrow Transplantation 24:307−12(1999);Martyら、N Engl J Med 350:950−52(2004))。さらに、最近の総説は、過去20年間にわたってムコール症の発症率が著明に増加したことを見出した(Gleissnerら、Leuk Lymphoma 45:1351−60(2004))。同様の増加は、主要な幹細胞移植センターによっても報告されている。例えば、報告は、過去20年間にわたってムコール症の発症率が倍増したことを記載している(Marrら、Clin Infect Dis 34:909−17(2002);Kontoyianisら、Clin Infect Dis 30:851−56(2000))。加齢したアメリカ合衆国の人口において糖尿病、癌および臓器移植の有病率が増加していることを考慮すると、ムコール症の発症率は、予測可能な将来もずっと変わらないことが予測される。
【0004】
浸潤性ムコール症に利用可能な治療としては、根底にある病因の逆行、緊急の広範な感染領域の外科手術的デブリードマン、および補助的な抗真菌療法を試みることが挙げられる(Edwards,J.,Jr.,Zygomycosis,p.1192−1199.In P.Hoeprich and M.Jordan(ed.),Infectious Disease,4th ed.J.B.Lippincott Co.,Philadelphia(1989);非特許文献1;非特許文献2;非特許文献4)。アンホテリシンB(AmB)は、浸潤性ムコール症の治療用に認可された唯一の抗真菌剤である(同上)。菌類は、相対的にAmBに抵抗性であるので、高投与量が必要とされ、このことは、しばしば、腎毒性および他の有害事象の原因となる(非特許文献4)。また、感染した病巣の外科的除去(例えば、脳型ムコール症(rinocerebral mucormycosis)の患者における眼の切除)がない場合、抗真菌療法のみが効くことはまれである(Edwards,J.(1989)、上述;非特許文献1)。外科的デブリードマンを高投与量のAmBと併用した場合でさえも、ムコール症に関連する死亡率は50%を超える(非特許文献4)。伝播性疾患を有する患者の死亡率は100%に近い(Husain et ah,Clin Infect Dis 37:221−29(2003))。この容認し難い高い死亡率、および非常に外観を損なう外科手術療法の極度の罹患率のために、浸潤性ムコール症を治療および予防するための新しい戦略の開発が急がれてきた。
【0005】
AmBの腎毒性は、腎毒性がAmBよりも少なく、より高い投与量で、かつより長期間にわたって投与され得るAmBの脂質製剤の使用を臨床医が実際に採用することを促進した(非特許文献1)。ムコール症を有する患者のいくつかの症例の報告は、15mg/kg/日までのアンホテリシンの脂質製剤を用いた治療に成功したと記載している(Cagatayら、BMC Infect Dis 1:22(2001);Ericssonら、Clinical Infectious Diseases 16:585−56(1993);Walshら、Antimicrob Agents Chemother 45:3487−96(2001))。それにもかかわらず、アンホテリシンの脂質製剤で治療された患者の死亡率は高いままであり、このことは、この致命的な疾患の新しい治療薬が必要とされていることを強調する。
【0006】
鉄は、実質的に全ての病原性微生物に、増殖および病原性のため必要とされる(Howard,D.H.,Clin Microbiol Rev 12:394−404(1999))。哺乳類の宿主では、微生物が利用可能な血清鉄は非常に少ないが、これは、血清鉄がトランスフェリンなどの担体タンパク質に高度に結合するからである(Artisら、Diabetes 31:1109−14.(1982))。血清鉄の隔離は、特にRhizopus oryzaeに対する主要な宿主防御機構である(Artisら、上述)。生物体は血清中での増殖が不十分であり、外来性の鉄が添加されたときにこの増殖抑制は無効になる(Artisら、上述;Boelaertら、Journal of Clinical Investigation 91:1979−86(1993))。
【0007】
利用可能な血清鉄のレベルが上昇した患者は、Rhizopus oryzaeおよび他の接合菌類による感染症には独特に感染し易いが、カンジダまたはアスペルギルスなどの他の病原性菌類に対しては感染の程度がより低い(非特許文献1;非特許文献4)。例えば、鉄キレート剤であるデフェロキサミンで治療した患者は、浸潤性ムコール症の発症率上昇が著明であるが、このことは、これらの患者における死亡率が80%を超えることと関連する(Boelaertら、Kidney International 45:667−71(1994))。デフェロキサミンは、ヒト宿主に対して鉄キレート剤として作用するが、そのRhizopus oryzaeに対する効果は全く逆であるように思われる。デフェロキサミンは、シデロフォアとして作用することにより、患者をRhizopus種感染症に罹患させ、このことにより、以前に利用不可能な鉄を菌類に提供する(Boelaertら、(1993)、上述)。Rhizopus種は、還元された鉄の細胞内輸送により、デフェロキサミンの内部移行なしに鉄−デフェロキサミン複合体から鉄を得る(de Lochtら、Biochemical Pharmacology 47:1843−50(1994))。この輸送は、おそらく、高親和性の鉄透過酵素により仲介されている。従って、増加した利用可能な血清鉄は、ムコール症病変形成の危険因子である。しかしながら、鉄キレート化合物は、病原体のシデロフォアとして作用し得るので、通常は治療上の処置に適用可能ではあり得ないであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ibrahimら、(W.E.Dismukes,P.G.PappasおよびJ.D.Sobel(編))「Zygomycosis」、Clinical Mycology,Oxford University Press,New York(2003)p.241−251
【非特許文献2】Kwon−Chung,K.J.およびJ.E.Bennett「Mucormycosis」、Medical Mycology,Lea & Febiger,Philadelphia(1992)p.524−559
【非特許文献3】Ribesら、Zygomycetes in Human Disease,Clin Microbiol Rev(2000)13:236−301
【非特許文献4】Sugar,A.M.(G.Mandell,J.BennettおよびR.Dolin(編))「Agent of Mucormycosis and Related Species」、Principles and Practices of Infectious Diseases、第4版、Churchill Livingstone,New York(1995)p.2311−2321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、ムコール症の病変形成の危険を減少させ得、かつ有効な治療上の処置を提供し得る化合物および方法が必要とされている。本発明は、この必要性を満足させ、かつ関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
要旨
本発明は、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む、組成物を提供する。組成物は、鉄キレート化合物であるデフェリプロンまたはデフェラシロクスを含み得る。組成物に含まれる抗真菌剤には、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤が挙げられ得る。本発明はまた、真菌症(fungal condition)を治療または予防する方法を提供する。方法は、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、鉄キレート化合物は、真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む。本発明により提供される真菌症を治療または予防する方法はまた、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を投与することを含み得る。本発明によれば、真菌症の発症の前に、少なくとも1つの鉄キレート化合物または少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を予防的に投与することを含む方法がさらに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、Rhizopus oryzaeに感染したDKAマウスのDefと鉄と生存率との関係を示す。マウス(各処置においてn>20)を、デフェリプロン(Def)またはDefおよびFeCl3(60mg/kg)で処置して、鉄キレート化の効果を無効にした。LAmB処置アームがコントロールとして含まれた。処置は、感染の24時間後に開始した。*感染未処置または非感染未処置およびFeCl3と比較してp<0.003。
【図2】図2は、Exjade(登録商標)(デフェラシロクス)が、Rhizopus oryzaeに感染した糖尿病性ケトアシドーシスマウスの生存率を改善することを示す。マウス(プラセボについてn=6およびExjade(登録商標)についてn=7)を、2.2×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子(感染被検体の肺から得た臨床単離物)を尾静脈注射することにより感染させた。感染の24時間後、マウスを、連続した7日間にわたって、プラセボ、1、3または10mg/kgのExjade(登録商標)1日2回の経口経管栄養により処置した。*プラセボと比較してp<0.05。
【図3】図3は、Rhizopus oryzaeに感染させ、かつ異なるDefの治療計画により処置したDKAマウスの生存率を示す。マウス(1群当たりn=6)を、毎日(qd)または隔日(qod)で50、100または200mg/kgのDefを合計4回投与することにより感染させ、24時間後に処置した。*感染未処置と比較してp<0.05。
【図4】図4は、実験的ムコール症の、DefとLAmBとの組み合わせでの処置を示す。マウス(感染未処置およびDefについてn=11、ならびにLAmBおよびDef+LAmBについてn=6)をRhizopus oryzaeに感染させ、次いで、24時間後、Def、LAmBまたは両方の薬物の組み合わせを合計4回投与することにより処置した。*未処置感染マウスと比較してp<0.05。
【図5】図5は、Rhizopus oryzaeに感染させ、かつDef、LAmBまたは両方で予防した好中球減少性マウスの生存率を示す。マウス(n=9)を、第1日目に、Def qod、LAmB qdまたは両方を合計4回投与することにより処置した。*LAmBまたはLAmB+Defについて、感染未処置と比較してP<0.05。
【図6】図6は、デフェリプロン、LAmBまたはプラセボで処置したDKAマウス(n=6)の脳Rhizopus oryzae負荷を示す。マウスを、3.8×103個の胞子に感染させ、いずれかの薬物での処置の2回の投与の54時間後に、脳を回収した。データを、中央値および四分位範囲として表示する。y軸は、アッセイの検出の下限を反映する。*多重比較のためのSteel検定により、プラセボに対してP<0.036。
【図7】図7は、銀メタンアミンで染色した壊死性鼻粘膜の凍結切片を示し、ケカビ目に一致する広いリボン様の中隔のある菌糸を有する菌類を示す。倍率840倍。
【図8】図8は、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeにおいてrFTRl遺伝子発現を誘発することを示す。特に、図8(a)は、RT PCRで検出された、鉄富化、鉄キレート(デフェラシロクス)または鉄キレートの無効化(塩化第二鉄で飽和させたデフェラシロクス)条件においてインキュベートされたRhizopus oryzae菌糸由来のrFTRl遺伝子の発現を示す。18s rDNAの発現は、RNA抽出の質を検証するために含まれた。図8(b)は、Rhizopus oryzaeGFP発現ベクターを構築するための戦略を示す略図である。プロモータは、rFtrlpまたはActlpのいずれかで表示する。図8(c)は、鉄富化、デフェラシロクスまたは塩化第二鉄で飽和させたデフェラシロクスを含む培地で増殖させたRhizopus oryzaeの、rFtrlpまたはActlp(共焦点顕微法およびフローサイトメトリにより決定された)により駆動されるRhizopus oryzaeにおけるGFP発現を示す。GFP発現は、共焦点顕微法により、緑色蛍光性細胞によって明らかになり、蛍光性細胞のチャネルFLl(y軸)における百分率は、フローサイトメトリによって明らかにされた。
【図9】図9(a)は、Rhizopus oryzae99−892(2.2×104個)に感染させ、かつ異なる投与量のデフェラシロクスで処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(1群当たりn>7)の生存率を示す。マウスは、プラセボ(ヒドロキシプロピルセルロースキャリア)、デフェラシロクス、または鉄キレート化の効果を無効にするためのデフェラシロクスおよび鉄(FeCl3,10mg/kg)で処置した。*生存率に対してP<0.05。図9(b)は、Rhizopus oryzae99−880(平均1.3×103個の胞子を接種)に感染させ、かつ24時間後に10mg/kgのデフェラシロクス1日2回で7日間処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(同様の結果を有する3つの別々の実験からn=24)の生存率を示す。プラセボと比較して*P<0.003。
【図10】図10(a)は、Rhizopus oryzae99−892(4.2×104個の胞子)に感染させ、かつプラセボ、デフェラシロクス(10mg/kg、1日2回)またはデフェラシロクスおよび鉄で処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(群当たりn=11)の脳および腎臓の真菌負荷を示す。3日間の処置を受けた4日後に、器官を回収した。データを、中央値±四分位範囲として表示する。y軸は、アッセイの検出の下限を反映する。図10(b)は、10(a)で述べたようにRhizopus oryzae99−892に感染させ、かつデフェラシロクス、デフェラシロクスおよび塩化第二鉄、またはプラセボで処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウスのヘマトキシリンおよびエオシンで染色された腎臓切片である。矢印は、組織中のRhizopus oryzae菌糸を示す。倍率400倍。*プラセボまたはデフェラシロクスおよび塩化第二鉄と比較した組織の真菌負荷についてP<0.002。
【図11】図11は、鉄キレートが、鉄過剰マウスと比べて、脾臓Th1およびTh2細胞リンパ球頻度を増加させ、かつ炎症促進性サイトカインのレベルを増加させることを示す。特に、図11(a)は、3.1×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させ、かつ、24時間後に、プラセボ、デフェラシロクスまたはデフェラシロクスおよび塩化第二鉄で処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(n=11)における脾臓Th1およびTh2細胞リンパ球頻度を示す。図11(b)は、11(a)で述べたのと同じマウス(n=11、感染の4日後に犠牲にし、脾臓および腎臓を回収した)のCytometric Bead Array(登録商標)による全器官サイトカイン分析の結果を示す。11(a)および(b)の両方におけるデータは、中央値±四分位範囲で表示する。*プラセボまたはデフェラシロクスおよび塩化第二鉄に対してP<0.02。**デフェラシロクスに対してP<0.05および¥塩化第二鉄に対してP<0.07。
【図12】図12は、デフェラシロクス単独、LAmB単独ならびにデフェラシロクスとLAmBとの組み合わせについてのムコール症に対する効力を示す。この図は、特に、Rhizopus oryzae99−880(平均1.5×103個の胞子を接種)に感染させ、かつデフェラシロクス単独、LAmB単独ならびにデフェラシロクス(10mg/kg 1日2回、7日間)およびLAmB(15mg/kg、4日間)の組み合わせで処置した糖尿病性ケトアシドーシスマウス(同様の結果を有する2つの別々の実験でn>16)の生存率を示す。
【図13】図13は、デフェラシロクス単独、LAmB単独ならびにデフェラシロクスおよびLAmBの組み合わせについて、標的の臓器感染の減少における効力を示す。より詳細には、図は、Rhizopus oryzae99−880に感染したマウス(n>7)の脳および腎臓における組織のRhizopus oryzae負荷を示す。これらのマウスでは、処置は、感染の24時間後に開始し、プラセボ、デフェラシロクス(10mg/kg、1日2回)、LAmB(15mg/kg/日)または両方の薬物の組み合わせから構成された。器官を、2回の毎日の処置を受けた3日後に回収した。データは、中央値±四分位範囲として表示する。y軸は、アッセイの検出の下限を反映する。*プラセボと比較してP<0.003。**プラセボ、デフェラシロクスまたはLAmBと比較してP<0.003。*プラセボまたはデフェラシロクスと比較してP<0.01。
【図14】図14は、好中球減少性マウスでのRhizopus oryzae感染の処置における効力を示す。シクロホスファミドで処置したマウス(同様の結果を有する2つの別々の実験からn=19)を、2.7×103個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させた。感染の24時間後、マウスを、プラセボまたはデフェラシロクス(10mg/kg)を毎日(qd)または隔日(qod)で合計5回投与することにより処置した。プラセボと比較して*P=0.037。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、真菌症を治療するかまたは重症度を減少させるための鉄キレート化合物の使用に関する。鉄キレート化合物は、標的の真菌症に対して低いシデロフォアまたは異種シデロフォア活性を有するように選択される。いくつかの実施態様では、鉄キレート化合物は、標的の真菌症に対してシデロフォアまたは異種シデロフォア活性を実質的に有しないように選択される。対照的に、以前には利用不可能であった鉄を菌類に供給するシデロフォアまたは異種シデロフォアとして作用する鉄キレート剤、非シデロフォアおよび非異種シデロフォア鉄キレート化合物は、そのような促進または輸送活性を有しない。従って、本発明の鉄キレート剤は、周囲環境から鉄を除去するのに用いられ得る。抗真菌療法のための鉄キレートの1つの利点は、それが多くの病原性微生物の増殖および/または病原性に必要とされる重要な無機質の利用可能性を減少させることである。
【0013】
1つの実施態様では、本発明は、鉄キレート化合物および抗真菌剤を含む治療用組成物に関する。鉄キレート化合物は、デフェリプロン(1,2 ジメチル−3−ヒドロキシピリジ−4−ル)またはデフェラシロクス(4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル]安息香酸)であり得る。デフェリプロンおよびデフェラシロクスのいずれも、鉄過剰症の治療のための治療上の設定に用いられてきたものであるので、真菌症の治療または予防のための鉄キレート療法に安全かつ有効である。該分野で公知の抗真菌剤は、本発明の鉄キレート剤との組み合わせのために選択され得る。組み合わせは、真菌症の治療または予防において有利である。
【0014】
他の実施態様では、本発明は、真菌症の治療または予防の方法に関する。方法は、標的とする真菌の種に対して非シデロフォアまたは非異種シデロフォア鉄キレート化活性を示す個別の1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を投与することを含む。この方法はまた、鉄キレート剤単独と比較して効力の増強を達成するための抗真菌剤の同時投与を含み得る。鉄キレート化合物は、デフェリプロン、デフェラシロクスであり得るか、または該分野で公知の他の鉄キレート化合物から選択され得る。本発明の方法は、治療的および予防的処置に特に有利であるが、これは、鉄キレートが、真菌の病変形成のための重要な無機質の除去を標的とするからである。
【0015】
本発明は、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む組成物を提供する。
【0016】
鉄は、ほとんどの真菌の系で、増殖、生存および/または病原性のために必要とされる。菌類は、この重要な金属の十分な供給を確実にするための獲得、取り込みおよび貯蔵方法の種々のメカニズムを発達させてきた。本発明の組成物は、この重要な無機質を宿主環境から除去して真菌病原体を中和することを標的とする。本発明の組成物は、利用可能な鉄を枯渇させて真菌病原体の増殖、生存および/または病原性を抑制するための鉄キレート化合物を含む。
【0017】
本発明の組成物は、少なくとも1つの鉄キレート化合物と、少なくとも1つの抗真菌剤との組み合わせを含む。鉄キレート化合物および抗真菌剤の両方を包含することにより、菌類が増殖、生存および/または病原性のために使用する2つの異なる経路を標的とする抗真菌活性が組み合わせられる。2つまたはそれ以上の異なる真菌の経路を標的とすることにより、真菌症の有効な治療上の処置が提供されるが、これは、両方の標的経路の病原的回避の見込みが低いからである。
【0018】
本明細書中で用いられる用語「鉄キレート化合物」または「鉄キレート剤」は、キレート環(単数または複数)を形成するために、2つまたはそれ以上の別の結合部位の間で鉄を結合する化合物を意味することを意図する。鉄と結合または複合体化した鉄キレート化合物を、本明細書中で鉄キレートという。鉄キレート化合物は、2つの別の結合部位を用いて鉄を結合する二座であり得る。本発明の鉄キレート化合物はまた、それぞれ、鉄を3つ、4つまたはそれ以上の別の結合部位で結合する三座、四座または高次多座鉄キレート化合物であり得る。本発明の鉄キレート化合物は、鉄の全ての酸化状態(例えば、鉄(−II)状態、鉄(−I)状態、鉄(0)状態、鉄(I)状態、鉄(II)状態(二価鉄)、鉄(III)状態(三価鉄)、鉄(IV)状態(四価鉄)および/または鉄(V)が挙げられる)に結合し得るキレート化合物を含む。鉄キレート療法は、鉄がその有毒な効果または有害な生理的活性を失うように、インビボで鉄と結合して鉄キレートを形成する鉄キレート剤を用いることを意味する。あるいは、キレート鉄は、感染性生物体に利用不可能になる。
【0019】
本発明の組成物に有用な鉄キレート化合物には、標的の菌類(単数または複数)による鉄の利用を結合および予防し得る任意のキレート剤または他の分子が挙げられ得る。本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物の具体例には、例えば、デフェリプロンおよびデフェラシロクスが挙げられる。これらの鉄キレート化合物の例は、特に有用であるが、これは、それらが真菌症に無関係の治療上の徴候について多数の国で承認されているので、ヒトにおいて安全かつ無毒性であることが十分に特徴づけられているからである。
【0020】
本明細書中で用いられる用語「デフェリプロン」は、1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリジ−4−ルの構造を有する鉄キレート化合物を意味することを意図する。デフェリプロン(Def)はまた、Ll、CP20、FerriproxまたはKelferとしても該分野で公知である。デフェリプロンは、鉄キレート剤のα−ケトヒドロキシピリジンクラスのメンバーであり、例えば、Apotex,Inc(Weston,Ontario,Canada)から市販で入手可能である。
【0021】
本明細書中で用いられる用語「デフェラシロクス」は、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−l−イル]安息香酸構造および373.4ダルトンの分子量を有する鉄キレート化合物を意味することを意図する。デフェラシロクスはまた、Exjade(登録商標)またはICL 670としても該分野で公知であり、N−置換ビスヒドロキシフェニルトリアゾールと呼ばれる三座鉄キレート剤のクラスのメンバーである。デフェラシロクスは、例えば、Novartis,Corp.(Basel,Switzerland)から、例えば、登録商標Exjadeで入手可能である。本発明によれば、用語「デフェラシロクス」、「ICL670」、「Exjade(登録商標)」は、活性成分である4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−1−イル]安息香酸、例えば、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−l−イル]安息香酸またはその医薬上許容され得る塩を意味する。デフェラシロクス、その製造方法およびその用途は、例えば、米国特許第6,465,504Bl号および同第6,595,750 B2号、ならびに欧州特許第EP0914118号に記載されている。4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−lH−l,2,4−トリアゾール−1−イル]安息香酸またはその医薬上許容され得る塩を含む医薬製剤は、例えば、国際特許出願第WO2004/035026号に記載されている。
【0022】
他の鉄キレート化合物もまた、本発明の組成物に含まれ得る。このような他の鉄キレート化合物は、該分野で周知であり、例えば、以下に記載するような天然に存在するシデロフォアおよび異種シデロフォア、ならびにデフェリプロンおよびデフェラシロクスなどの天然に存在しない化合物が挙げられる。
【0023】
天然に存在しない鉄キレート化合物は、デフェリプロンなどのキレート剤のヒドロキシピリジン−4−オン(HPO)クラスのメンバー、デフェラシロクス、ジエチレントリアミン六酢酸(DTPA)およびデフェロキサミンなどのキレート剤のN−置換ビスヒドロキシフェニルトリアゾールクラスのメンバーにより例示される。デフェリプロン、デフェラシロクスおよび上記の例示された鉄キレート化合物のいずれか、ならびに該分野で周知の他のものもまた、本発明の鉄キレート化合物含有組成物に含まれ得る。
【0024】
シデロフォアおよび異種シデロフォアには、例えば、ヒドロキサマートおよびポリカルボキシラートが挙げられる。ヒドロキサマートは、N−δ−ヒドロキシオルニチン部分を含み、一般に4つのファミリーの例に分類される。1つのカテゴリーには、ロドトルリン酸が挙げられ、これはN−δ−アセチル−L−N−δ−ヒドロキシオルニチンのジケトピペラジンである。このカテゴリーには、ジメルム酸(dimerum acid)と命名されたジヒドロキサマートなどの誘導体が含まれる。第2のカテゴリーには、コプロゲンが挙げられ、これはN−δ−アシル−N−δ−ヒドロキシ−L−オルニチン部分を含む。コプロゲンはまた、直線構造を有するロドトルリン酸のトリヒドロキサマート誘導体であると考えられ得る。第3のカテゴリーには、フェリクロームが挙げられ、これはN−δ−アシル−N−δ−ヒドロキシオルニチンのトリペプチドおよびグリシン、セリンまたはアラニンの組み合わせを含む環状ペプチドからなる。第4のカテゴリーの例は、フサリニン(フシゲンとも呼ばれる)が含まれ、これは直線的または環状ヒドロキサマートのいずれかであり得る。フサリニンは、無水メバロニン酸によるN−ヒドロキシオルニチンのNアシル化により特徴づけられる化合物である。
【0025】
ポリカルボキシラートは、リゾフェリンと呼ばれるクエン酸含有ポリカルボキシラートからなる。分子は、ジアミノブタンに結合した2つのクエン酸単位を含む。リゾフェリンは、接合菌類門のメンバーに広く分布しており、ケカビ目およびエントモフトラ目において観察されてきた。本発明の組成物において鉄キレート化合物として有用なシデロフォアの他のカテゴリーには、例えば、シデロフォアのフェノラート−カテコラートクラス、ヘミンおよびβ−ケトアルデヒド植物毒素が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物の量は、異なり得るが、一般には、治療有効量、あるいは治療有効量に再構成または希釈され得る量であろう。例えば、本発明の鉄キレート化合物の有効量は、本発明の方法を参照しながらさらに以下に記載される。1つの、いくつかのまたは全ての鉄キレート化合物の量は、これらの例示的な有効量に一致するように、本発明の組成物中に製剤され得る。
【0027】
鉄キレート化合物はまた、短期または長期貯蔵のいずれかのために、治療有効量より多い量で本発明の組成物中に製剤され得、消費者は、製剤を、使用の前に所望の治療有効量に希釈し得る。あるいは、本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物は、凍結乾燥され得るか、あるいは粉末または他の固形剤型で製造され得、消費者は、乾燥製剤を、使用の前に所望の治療有効量に希釈し得る。
【0028】
乾燥または濃縮製剤、あるいは有効量の成分を含む製剤は、鉄キレート化合物および抗真菌剤を単独で、または任意の所望の賦形剤、界面活性剤、等張化剤(tonicifiers)、塩または緩衝液と共に含み得る。希釈または再構成は、製剤を少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤の所望の治療有効量に調整し、かつ任意の追加の賦形剤、界面活性剤、等張化剤、塩または緩衝液を含む医薬上許容され得る媒体中で行われ得る。医薬製剤は周知であり、製剤で実施されている。任意のこのような周知の製剤および医薬製剤成分は、本発明の組成物と共に用いるために適用可能である。医薬製剤、賦形剤、それらの用途、処方および特徴は該分野で周知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、上述;Williamsら、Foye’s Principles of Medicinal Chemistry,5th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2002);Allenら、Ansels Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,8th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2004)に記載されていることを見出し得る。同様に、界面活性剤、それらの用途、製剤および特徴は該分野で周知であり、例えば、Holmbergら、Surfactants and Polymers in Aqueous Solution、上述;Surfactants:A Practical Handbook,K.Robert Lange,ed.、上述、およびVogel,A.I.,Vogel’s Textbook of Practical Organic Chemistry、上述、に記載されていることを見出し得る。
【0029】
本発明の組成物はまた、少なくとも1つの抗真菌剤を含む。本明細書中で用いられる用語「抗真菌剤」または「抗真菌」は、菌類を破壊するか、あるいは真菌の増殖、生存および/または病原性を抑制または予防する薬剤を意味する。抗真菌剤のカテゴリーの例には、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤およびエキノキャンディン抗真菌剤が挙げられる。ポリエン抗真菌剤の具体例には、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体およびアンホテック(amphotec)が挙げられる。アゾール抗真菌剤の具体例には、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾールおよびイトラコナゾールが挙げられる。エキノキャンディン抗真菌剤の具体例には、カスポファンギン酢酸塩およびミカファンギンが挙げられる。多数の他の抗真菌剤が該分野で周知であり、かつ、本明細書中で用いられる用語の意味の範囲に含まれる。
【0030】
少なくとも1つの鉄キレート化合物と少なくとも1つの抗真菌剤との組み合わせは、標的とする真菌症に基づいて選択されるであろう。例えば、アンホテリシンB脂質複合体は、例えば、接合真菌症、(ムコール症)、アスペルギルス症および/またはカンジダ症に対して良好な抗真菌剤であり得、デフェリプロンまたはデフェラシロクスなどの鉄キレート化合物と併用され得る。同様に、上記に例示した抗真菌剤のうちの1つまたは該分野で公知の他の1つは、他の標的とする症状に対して有効または治療的に望ましくあり得、このような他の抗真菌剤のうちの1つを鉄キレート化合物と併用して、本発明の組成物を製造し得る。従って、本発明の組成物は、その鉄キレート化合物成分および成分抗真菌剤成分の両方において適応性を有し、少なくとも1つの鉄キレート化合物および併用される少なくとも1つの抗真菌剤の任意の全ての組み合わせおよび置換を、例えば、単一の製剤にすることを可能にする。
【0031】
従って、1つの実施態様では、本発明は、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む組成物を提供する。鉄キレート化合物は、例えば、デフェリプロンなどのキレート剤のヒドロキシピリジン−4−オン(HPO)クラスのメンバーにより例示される上記の天然に存在しない鉄キレート化合物、デフェラシロクス、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)およびデフェロキサミンなどのキレート剤のN−置換ビスヒドロキシフェニルトリアゾールクラスのメンバーから選択され得る。鉄キレート化合物はまた、例えば、上記のヒドロキサマート、ポリカルボキシラート、シデロフォアのフェノラート−カテコラートクラス、ヘミンまたはβ−ケトアルデヒド植物毒素により例示されるシデロフォアおよび/または異種シデロフォアから選択され得る。
【0032】
抗真菌剤は、例えば、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体またはアンホテックなどのポリエン抗真菌剤から選択され得る。抗真菌剤はまた、例えば、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾールまたはイトラコナゾールなどのアゾール抗真菌剤から選択され得る。抗真菌剤は、さらに、例えば、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンなどのエキノキャンディン抗真菌剤から選択され得る。少なくとも1つの鉄キレート化合物として1つの鉄キレート化合物を有し、かつ少なくとも1つの抗真菌剤として1つの抗真菌剤を有する本発明の組成物の例は、デフェラシロクスおよびアムホテリシオン(amphotericion)B脂質複合体であり得る。
【0033】
本発明の組成物の範囲内に含まれる鉄キレート化合物の量については、含まれる抗真菌剤の量はまた異なり得るが、一般的には、治療有効量、あるいは治療有効量に再構成または希釈され得る量である。例えば、本発明の抗真菌剤の有効量は、さらに以下に記載され、ポリエン抗真菌剤を参照しながら例示される。1つの、いくつかのまたは全ての抗真菌剤の量は、本発明の組成物中、ポリエン抗真菌剤の例示的な有効量に一致するように、あるいはアゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤などの他の抗真菌剤の周知の有効量に一致するように製剤され得る。同様に、および本発明の組成物に含まれる鉄キレート化合物について上述したように、抗真菌剤はまた、短期または長期貯蔵のいずれかのための濃縮形態で本発明の組成物に製剤され得、消費者は、製剤を使用の前に所望の治療有効量に希釈し得る。さらに、本発明の組成物に含まれる抗真菌剤は、凍結乾燥、粉末または他の固形剤型で製造され得、消費者は、乾燥製剤を使用の前に所望の治療有効量に再構成し得る。
【0034】
乾燥または濃縮製剤、あるいは有効量の成分を含む製剤は、鉄キレート化合物および抗真菌剤を単独で、または任意の所望の賦形剤、界面活性剤、等張化剤、塩または緩衝液と共に含み得る。希釈または再構成は、上述したように、またはRemington:The Science and Practice of Pharmacy、上述;Williamsら、Foye’s Principles of Medicinal Chemistry,5th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2002);Allenら、Ansels Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,8th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2004);Holmbergら、Surfactants and Polymers in Aqueous Solution、上述;Surfactants:A Practical Handbook,K.Robert Lange,ed.、上述,and Vogel,A.I.,Vogel’s Textbook of Practical Organic Chemistry、上述、に例示されるように達成され得る。
【0035】
本発明の組成物は、さらに、2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含み得る。2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含むことにより、複数の真菌症を標的化することおよび/または組成物の鉄キレート剤成分における広範な鉄親和性を含むことが可能になる。鉄への異なる親和性を有する鉄キレート化合物の包含は、真菌病原体の回避をさらに予防するのに治療上有利であり得る。
【0036】
本発明の組成物は、一般に、約1〜8個、詳細には約2〜7個、より詳細には約3〜6個、またはさらにより詳細には約4〜5個の鉄キレート化合物を含む。これらの範囲より多数のまたはこれらの範囲の間の鉄キレート化合物もまた本発明の組成物で用いられ得る。例えば、本発明の組成物は、任意の所望の数、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12あるいはそれ以上の異なる鉄キレート化合物を必須として含む組成物を生じ得る。
【0037】
本発明の組成物は、さらに、2つまたはそれ以上の抗真菌剤を含み得る。2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含むことについて、2つまたはそれ以上の抗真菌剤を含むことはまた、複数の真菌症の標的化を可能にし、かつ/または、増殖、生存または病原性に用いられる異なる真菌の機構の標的化を提供する。複数の抗真菌剤を包含することも同様に、真菌病原体の回避をさらに予防するために、治療上有利であり得る。
【0038】
同様に、本発明の組成物は、一般に、約1〜8、詳細には約2〜7、より詳細には約3〜6、またはさらにより詳細には約4〜5の抗真菌剤を含む。これらの範囲より多数のまたはこれらの範囲の間の抗真菌剤が本発明の組成物で用いられ得る。従って、本発明の組成物は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12あるいはそれ以上の任意の所望の数の異なる抗真菌剤を必須として含む組成物を生じ得る。
【0039】
組成物の例には、デフェラシロクス、およびアンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、トラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンのいずれかの1つまたはそれ以上が挙げられる。デフェラシロクスおよびデフェリプロン、ならびにアンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、トラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンのいずれかの1つまたはそれ以上。特に有用な組成物には、例えば、デフェラシロクスおよび/またはデフェリプロン、ならびにポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤およびエキノキャンディン抗真菌剤に一致するそれぞれのカテゴリーから選択される1つ、2つまたは3つまたはそれ以上の抗真菌剤が挙げられる。従って、本発明は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個またはそれ以上の鉄キレート化合物の任意の組み合わせを、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個またはそれ以上の抗真菌剤の任意の組み合わせと共に提供する。複数の鉄キレート化合物および/または複数の抗真菌剤を含むこのような組成物は、上記したように処方され得る。
【0040】
本発明の組成物はまた、医薬上許容され得る媒体を含み得る。本明細書中で用いられる用語「医薬上許容され得る媒体」は、本発明の鉄キレート化合物と混合される媒体が、ヒトに使用するのに十分な純度および質を有することを意味することを意図する。医薬上許容され得る媒体には、汚染する粒子および生物体を実質的に含まない製剤が挙げられる。従って、該用語は、本発明の鉄キレート化合物と適合性であり、かつヒトに投与される際に安全かつ無毒である媒体を包含することを意図する。このような医薬上許容され得る媒体は、該分野で周知である。
【0041】
本発明はまた、真菌症を治療または予防する方法を提供する。方法は、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、鉄キレート化合物は、真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む。
【0042】
本発明はさらに、真菌症を治療または予防する方法であって、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、鉄キレート化合物は、真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、方法を提供する。
【0043】
本発明の方法は、鉄キレート療法単独または抗真菌療法と併用される鉄キレート療法を含む。前者の方法では、少なくとも1つの鉄キレート化合物を含む製剤を投与する。後者の方法では、少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を含む製剤を投与する。このような製剤は、本発明の組成物に関して上記したように選択および製造される。従って、本発明の組成物は、鉄キレート療法単独に用いるために少なくとも1つの抗真菌剤なしで製造され得るか、または鉄キレート化および抗真菌の併用療法に用いるために、少なくとも1つの抗真菌剤と共に製造され得る。第1の本発明の組成物はまた、少なくとも1つの抗真菌剤なしで製造され得、第2の本発明の組成物は、鉄キレート化合物なしで製造され得る。次いで、第1および第2の調製物を同時に、経時的にまたは鉄キレート化および抗真菌剤の併用療法の代わりに用いられ得る。従って、本発明の組成物に関して上記した教示およびガイダンスは、同様に、少なくとも1つの鉄キレート化合物を単独で含む製剤、少なくとも1つの抗真菌剤を単独で含む製剤、または両方を含む製剤の選択および製造に用いられ得る。
【0044】
本発明の方法に用いるため、少なくとも1つの鉄キレート化合物を含む製剤中の鉄キレート化合物、少なくとも1つの鉄キレート化合物を含む第1または第2の製剤および/または本発明の組成物は、真菌症または該症状の原因となる真菌病原体に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含むように選択される。
【0045】
本明細書中で用いられる用語「シデロフォア」は、生物体による鉄の会合を促進する鉄キレート剤を意味することを意図する。例えば、鉄不足の条件下では、多くの菌類は、鉄の結合および取り込みによる鉄の会合に作用するシデロフォアを合成する。シデロフォアは、一般に、低分子化合物(例えば、約2,000MW未満)であり、細胞の取り込み作用および/または鉄の貯蔵作用のいずれかまたは両方を示し得る。シデロフォアは、利用する生物体により合成される。一般に生物体または種特異性を参照することなく用いられる用語「鉄キレート剤」と比較して、本明細書中で用いられる用語「シデロフォア」は、シデロフォアを産生しかつ利用する生物体または種に関連する、またはこれに対する鉄キレート剤をいう。従って、鉄キレートシデロフォアは、それが鉄の取り込みを促進し、かつ、病原体に使用されるために細胞外環境からの鉄レベルを結合および減少させるが、シデロフォアを産生する生物体により引き起こされる症状を標的とした鉄キレート療法に用いた場合、治療上の価値が低下する。シデロフォアの合成および用途は、例えば、Howard,D.H.,Clinical Microbiology Reviews 12:394−404(1999)に記載されていることを見出し得る。
【0046】
本明細書中で用いられる用語「異種シデロフォア」は、菌類または生物体の利用により産生されないシデロフォアを意味することを意図する。用語「異種シデロフォア」は、異種シデロフォアを利用する生物体または種と関連する、またはこれに対する鉄キレート剤を意味する。シデロフォアと同様に、異種シデロフォアは、利用しない生物体により引き起こされる症状を標的とする鉄キレート療法に用いられる場合、治療上の価値を示す。シデロフォアおよび異種シデロフォアの合成および使用は、例えば、Howard,D.H.,FEMS Immunology and Medical Microbiology 40:95−100(2004)に記載されていることを見出し得る。
【0047】
従って、標的の真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアに対応する鉄キレート化合物は、真菌症を引き起こす真菌病原体により産生または利用されないシデロフォア、または真菌症を引き起こす真菌病原体に利用されない異種シデロフォアを意味する。
【0048】
本発明の、第1のおよび第2の成分製剤を含む、鉄キレート化製剤、組成物ならびに方法は、真菌症を、治療、重症度減少、予防および治癒するのに適用可能である。本発明の鉄キレート化製剤、組成物および方法の特に有用な用途には、真菌症の発症の前の予防的な投与が挙げられる。
【0049】
本明細書中で用いられる用語「治療する」または「治療」は、真菌症を示す臨床症状を緩和することを意味することを意図する。臨床症状の緩和は、例えば、治療される個体の真菌症の少なくとも1つの症状を、処理前のレベルと比較して、または真菌症を有する個体と比較して、減少または低減させることを含む。用語「治療する」はまた、真菌症に関連する病理学的症状、慢性合併症または日和見性真菌症の重症度を減少させることを含むことを意図する。このような病理学的症状、慢性合併症または日和見感染を、ムコール症を参照しながら以下に例示する。ムコール症および他のこのような病理学的症状、慢性合併症および日和見感染はまた、Merck Manual,Sixteenth Edition,1992およびSpellbergら、Clin.Microbio.Rev.18:556−69(2005)に記載されていることを見出し得る。
【0050】
本発明の方法により緩和され得る真菌症の症状には、例えば、発熱、悪寒、寝汗、食欲不振、体重減少、倦怠感、抑うつおよび肺、皮膚または他の病変が挙げられる。他の症状または特徴的徴候には、例えば、原発性、急性または亜急性症状からの伝播、進行性肺炎、真菌血症、肺外伝播の徴候、慢性髄膜炎、網内系(肝臓、脾臓、骨髄)の一般化な関与としての進行性伝播性ヒストプラズマ症および単一のまたは複数の皮膚病変としてのブラストミセス症が挙げられる。例えば、真菌症を有する個体の有効な治療は、治療される個体における1つまたはそれ以上のこのような症状の減少を結果としてもたらすであろう。真菌症の多数の他の臨床症状が該分野で周知であり、本明細書中に記載の本発明の方法を用いる緩和または重症度の減少の指標として用いられ得る。
【0051】
真菌症の診断は、原因である菌類を、例えば、痰、尿、血液、骨髄または感染組織由来の検体を単離することにより確認し得る。例えば、真菌症は、侵入する菌類の特有の形態的特徴に基づいておよび/または抗原の同定に選択的な免疫組織化学などにより、高度な信頼性で病理組織学的に診断され得る。感染症の活性の評価はまた、多くの異なる部位から採取した培地、発熱、白血球数、特定の関与する器官に関連する臨床および研究室でのパラメータ(例えば、肝機能検査)、および免疫血清学的試験に基づき得る。陽性喀痰培養の臨床的意義もまた、組織侵襲の確認により実証され得る。このような実証はまた、Candida albicansなどの共生生物体またはアスペルギルス属などの周囲で流行する生物体について特に有益である。
【0052】
本明細書中で用いられる用語「予防する」または「予防」は、真菌症を示す臨床症状の未然の予防を意図することを意味する。このような未然の予防には、例えば、症状の顕性症状の発症前に、または症状の診断の前に、菌類(単数または複数)による感染のリスクのある個体において正常な生理的指標を維持することが挙げられる。従って、用語「予防する」は、個体を予防的に処置して真菌症の発症から防護することを含む。個体における真菌症の予防はまた、真菌症の発症の抑制または抑止を含むことを意図する。症状の発症の抑制または抑止には、例えば、上記のおよび/または該分野で周知の異常な生理的指標または臨床症状の出現を抑制または抑止することを含む。従って、真菌症の有効な予防には、真菌症に罹患した個体において、正常な体温、体重、心理学的状態を維持すること、ならびに上記の病変または他の病理学的徴候がないことが含まれるであろう。真菌症に罹患した個体には、例えば、AIDS、高窒素血症、糖尿病、気管支拡張症、肺気腫、結核、リンパ腫、白血病または熱傷を有する個体、あるいは真菌症に感染し易い病歴を有する個体が挙げられる。症状の発症の抑制または抑止にはまた、例えば、真菌症に関連する1つまたはそれ以上の病理学的症状の進行、慢性合併症または日和見感染への感染し易さの抑制または抑止が挙げられる。
【0053】
本発明の方法は、広範な多様な真菌症の治療および/または予防に有用である。本明細書中で用いられる用語「真菌症」は、真菌感染により引き起こされる異常な症状を意味することを意図する。真菌感染、すなわちヒトおよび動物の真菌症には、例えば、皮膚の外層に影響する表在性真菌症;Candida albicansにより引き起こされるような、口(鵞口瘡)、腟および肛門領域などの粘膜の真菌感染、ならびに重大な、しばしば致死的疾病を引き起こし得る皮膚および内部器官のより深部の層に影響する真菌感染が挙げられる。真菌感染は該分野で周知であり、例えば、接合真菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、フザリウム症(ヒアロヒホ真菌症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症またはスポロトリクス症が挙げられる。これらおよび他の真菌症は、Merck Manual,Sixteenth Edition,1992およびSpellbergら、Clin.Microbio.Rev.18:556−69(2005)に記載されていることを見出し得る。上記の真菌症の例を、以下にさらに説明する。
【0054】
本明細書中で用いられる用語「接合真菌症」は、ケカビ目およびエントモフトラ目などの接合菌網の菌類により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。エントモフトラ目は、発展途上国で免疫適格性の宿主が主に罹患する、エントモフトラ症として知られる皮下および皮膚粘膜感染の原因である。
【0055】
本明細書中で用いられる用語「ムコール症」は、ケカビ目の菌類により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。ムコール症は、発展途上国または先進工業国のいずれかで免疫が低下した宿主をほぼ一律に襲う、生命を脅かす真菌感染である。ケカビ目に所属する菌類は、6つの科に分類され、その全てが皮膚および深層の感染の原因となり得る。ケカビ科に属する種は、他のいずれの科よりも頻繁に、ムコール症を有する患者から単離される。ケカビ科の中でも、Rhizopus oryzae(Rhizopus arrhizus)は、感染の一般的な原因である。感染の同様のスペクトルを引き起こすケカビ科の他の種の例には、例えば、Rhizopus microporus変種rhizopodiformis、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Mucor種、Rhizomucor pusillusおよびCunninghamella種(Cunninghamella科)が挙げられる。ムコール症は該分野で周知であり、例えば、脳型ムコール症、肺ムコール症、胃腸ムコール症、播種性ムコール症、骨ムコール症、縦隔ムコール症、気管ムコール症、腎臓ムコール症、腹膜ムコール症、上大静脈ムコール症または外耳炎ムコール症(external otitis mucormycosis)が挙げられる。
【0056】
本明細書中で用いられる用語「カンジダ症」は、カンジダ属の菌類により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。カンジダ症は、特に免疫低下した状態の個体において、口、気道および/または腟の皮膚および粘膜で起こり得るか、あるいは血流に侵入し得る。カンジダ症はまた、該分野でカンジダ症またはモニリア症としても知られている。カンジダ属の種の例には、例えば、Candida albicans、Candida krusei、Candida tropicalis、Candida glabrataおよびCandida parapsilosisが挙げられる。
【0057】
本明細書中で用いられる用語「アスペルギルス症」は、アスペルギルス属により引き起こされる疾患の群を意味することを意図する。症状には、例えば、発熱、咳、胸痛および/または息切れが挙げられる。免疫系が弱まった患者または肺疾患に罹患した患者は、特にアスペルギルス症に罹り易い。この真菌症の形態の例には、喘息、嚢胞性線維症および副鼻腔炎の患者に影響するアレルギー性アスペルギルス症;癌患者、化学療法を受けた患者およびAIDS患者などの免疫が弱まった患者において発生率の上昇を示す急性浸潤性アスペルギルス症;身体全体に広範に広がる伝播性浸潤性アスペルギルス症、および耳および他の器官の炎症および病変により特徴付けられる日和見性アスペルギルス感染症が挙げられる。アスペルギルスは、約200の菌類の属である。浸潤性疾患を引き起こすAspergillus種には、例えば、Aspergillus fumigatusおよびAspergillus flavusが挙げられる。アレルギー性疾患の原因となるAspergillus種には、例えば、Aspergillus fumigatusおよびAspergillus clavatusが挙げられる。他のアスペルギルス感染性種の例には、例えば、Aspergillus terreusおよびAspergillus nidulansが挙げられる。
【0058】
本明細書中で用いられる用語「クリプトコッカス症」は、クリプトコッカス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。クリプトコッカス症はまた、Busse−Buschke病としても知られ、一般に、肺、皮膚または他の身体の器官などの身体のいずれの器官にも影響し得る全身感染症としての症候を示すが、最も頻繁には、脳および髄膜などの中枢神経系で発症する。クリプトコッカス症は、AIDSの日和見感染であるが、Hodgkin病または他のリンパ腫またはサルコイドーシスを有する患者、あるいは長期の副腎皮質ステロイド療法を受けている患者もまたリスクが高い。症状には、例えば、胸痛、乾性咳嗽、腹部膨満、頭痛、霧視および錯乱が挙げられる。この真菌症の形態の例には、創傷において起こるような皮膚クリプトコッカス症、肺クリプトコッカス症およびクリプトコッカス髄膜炎が挙げられる。クリプトコッカス髄膜炎は、一般に免疫低下患者において観察されるかまたは評価されていない肺感染症のいずれかからのクリプトコッカス・ネオフォルマンスの伝播から生じ得る。クリプトコッカス・ガッティは、一般に、免疫適格性のヒトにおいて感染症を引き起こす。CSF、痰および尿の培養によるクリプトコッカス抗原(莢膜物質)の検出は、1つの有用な診断方法を提供する。また、血液培養物も、重度の感染症で陽性であり得る。
【0059】
本明細書中で用いられる用語「ヒストプラズマ症」は、ヒストプラズマ属により引き起こされる真菌症を意味することを意図し、ヒストプラズマ・カプスラーツムの胞子の吸入により引き起こされる感染症が挙げられる。ヒストプラズマ症はまた、該分野でDarling病としても知られている。症状は無症候であり得るが、主に肺に影響する急性肺炎またはインフルエンザ様疾病にも進行し得る。ヒストプラズマ症はまた、身体の他の器官および系に伝播し得る。他の真菌症の伝播型と同様に、この伝播性ヒストプラズマ症も致死的であり得る。症状は、曝露後3〜17日以内に起こり得る。しかしながら、非伝播型では、明らかな病気の影響を示さないことが感染者に共通し得る。急性呼吸器疾患は、呼吸器症状、一般的な具合の悪さ、発熱、胸痛および乾性咳嗽により特徴づけられ得る。明らかなパターンはまた、胸部X線でも観察され得る。慢性肺疾患は結核に類似し、数ヶ月から数年にわたって悪化し得る。
【0060】
本明細書中で用いられる用語「コクシジオイデス症」は、コクシジオイデス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。この用語の意味には、コクシジオイデス・イミチスまたはコクシジオイデス・ポサダシにより、特に胞子の吸入によって引き起こされ、発熱および多様な呼吸器症状により特徴づけられる感染性呼吸器疾患が含まれる。コクシジオイデスはまた、該分野でコクシジオイデス症およびvalley熱としても知られている。全身性コクシジオイデス症は、気道から、例えば、皮膚、骨および中枢神経系に伝播し得る。症状の徴候は、症状の完全な非存在から、全身感染および死まで及ぶ。例えば、症候性感染症(症例の約40%)は、発熱、咳、頭痛、発疹および筋肉痛(筋痛)を伴うインフルエンザ様疾患として現れ得る。幾人かの患者は、回復せず、慢性の肺感染症または広範な伝播性感染症(髄膜、軟部組織、関節および骨に影響する)を発症し得る。重篤な肺疾患は、例えば、HIV感染したヒトおよび他の免疫低下したヒトにおいて発症し得る。
【0061】
本明細書中で用いられる用語「パラコクシジオイデス症」は、パラコクシジオイデス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図し、例えば、パラコクシジオイデス・ブラジリエンシスにより引き起こされる慢性真菌症が挙げられる。パラコクシジオイデス症は、多くの内部器官への伝播を有する肺の一次病巣により、頬および鼻の粘膜から皮膚へと広がる目立つ潰瘍性肉芽腫により、および全身性のリンパ管炎により、特徴づけられる。パラコクシジオイデス症はまた、該分野で、パラコクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、Almeida病、Lutz−Splendore−Almeida病、パラコクシジオ肉芽腫および南アメリカブラストミセス症としても知られている。
【0062】
本明細書中で用いられる用語「フザリウム症」または「ヒアロヒホ真菌症」は、フサリウム属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。該症状を引き起こすフサリウム種には、例えば、フサリウム・ソラニ、フサリウム・オキシスポルムおよびフサリウム・モニリフォルメが挙げられる。感染症には、角膜炎、爪真菌症、ならびに時折腹膜炎および蜂巣炎が挙げられる。伝播性フザリウム症の危険因子には、重篤な免疫抑制(好中球減少、リンパ球減少、移植片対宿主病、副腎皮質ステロイド)、コロニーの形成および組織の損傷が挙げられる。免疫適格性患者では、組織崩壊(外傷、重篤な熱傷または異物により引き起こされるもの)がフザリウム症の危険因子である。臨床症状には、難治性発熱、皮膚病変および気道感染症が挙げられる。皮膚病変は、多くの患者において診断につながり得、真菌血症の約5日前に起こる。伝播性フザリウム症は、例えば、血液培養ならびに上記および下記の他の周知の方法により診断され得る。
【0063】
本明細書中で用いられる用語「ブラストミセス症」は、一般に呼吸器感染症として発症し、通常、肺、骨および皮膚に伝播する、ブラストミセス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。ブラストミセス症は、皮膚、粘膜または内部器官の複数の炎症性病変により特徴づけられる。ブラストミセス・デルマティティディスは、蔓延している原因種の1つである。ブラストミセス症の症状には、例えば、発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛および乾性咳嗽を伴うインフルエンザ様疾病;高熱、悪寒、湿性咳嗽および胸膜炎の胸痛を伴う、細菌性肺炎に類似する急性疾病;低悪性度の発熱、湿性咳嗽、寝汗および体重減少を伴う結核または肺癌に似た慢性疾病;発熱、息切れ、頻呼吸、低酸素血症および拡散した肺浸潤を伴う急性呼吸促迫症候群として現れる、急速な、進行性のかつ重篤な疾患;皮膚病変;骨溶解性病変;前立腺炎および/または嗄声を引き起こす喉頭の関与が挙げられる。
【0064】
本明細書中で用いられる用語「ペニシリウム症」は、ペニシリウム属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。種の例はペニシリウム・マルネフェイであり、これは免疫低下した個体における日和見性真菌症の蔓延した原因である。診断は、臨床検体由来の菌類の同定によりなされ得る。皮膚病変、リンパ結節および骨髄の組織診は、病理組織学における生物体の存在を実証し得る。症状には、例えば、発熱、皮膚病変、貧血、全身リンパ節腫脹および肝腫大が挙げられる。
【0065】
本明細書中で用いられる用語「スポロトリクス症」は、スポロトリクス・シェンキイ種などのスポロトリクス属により引き起こされる真菌症を意味することを意図する。症状は、リンパ節および皮膚における小結節または潰瘍により特徴付けられる慢性感染として発現する。
【0066】
スポロトリクス症感染は、血液から、例えば、関節、肺、眼ならびに尿生殖器系および中枢神経系などの他の領域へ伝播し得る。一般に、伝播性スポロトリクス症は、AIDS患者、癌患者、化学療法を受けた患者および免疫抑制療法中の移植レシピエントなどの免疫低下した個体において起こる。
【0067】
本明細書中で用いられる用語「有効量」または「治療有効量」は、個体に投与した際に真菌症の伝播の程度、量または割合を減少させるのに必要とされる、本発明の鉄キレート化合物、抗真菌剤または鉄キレート化合物および抗真菌剤の両方の量を意味することを意図する。従って、鉄キレート化合物を参照して用いられる場合の有効量は、標的とする真菌症に関連する少なくとも1つの症状を緩和するのに十分な鉄キレート化合物の量を意味することを意図する。
【0068】
治療上有効であるために必要とされる本発明の鉄キレート化合物、抗真菌剤または鉄キレート化合物および抗真菌剤の両方の投与量は、例えば、治療すべき真菌症、鉄キレート化合物の鉄への親和性、鉄の存在量および濃度のレベル、ならびに個体の体重および症状、ならびに以前のまたは同時に行っている療法に依存するであろう。この方法の特定の用途に有効投与量であると考えられる量は、本明細書中で提供するガイダンスを用いて、当業者により決定され得る。例えば、量は、以下に記載するインビトロまたはインビボアッセイから推定され得る。当業者は、患者の症状は療法の過程の最初から最後まで監視される必要があり、また、投与される組成物の量は、療法の応答に従って調整され得ることを認識するであろう。
【0069】
鉄キレート化合物の有効量の例には、例えば、約0.3〜3.0μg/mlの濃度範囲が挙げられるが、0.01μg/ml以下の低い濃度および10μg/ml以上の高い濃度も含み得る。投与すべき抗真菌剤の量は該分野で周知であり、用語「有効量」の意味の範囲内で本明細書中に包含される。
【0070】
デフェラシロクスの前臨床研究では、例えば、鉄過剰のマモセットにおいて400mg/kg/日までの投与量で実質的に毒性は観察されなかった(Nickら、Adv.Exp.Med.Biol.509:185−203(2002))。しかしながら、非鉄過剰のマモセットへの80mg/kgの投与量での慢性投与後に重篤な毒性が観察され、非鉄過剰宿主においては耐容性がいっそう少ないことを確認した(同上)。それにもかかわらず、非鉄過剰マモセットにおいてさえも、40mg/kg/日までを用いた処置の39週後に毒性は観察されず、亜急性処置(4週)の間、65mg/kg/日までの投与量は、副作用がなく耐容性が良好であった。鉄過剰患者の臨床研究(Nisbet−Brownら、Lancet 361:1597−1602(2003);Galanello et al.J.Clin.Pharmacol.43:565−572(2003);Cappelliniら、Blood 107:3455−3462(2006))では、デフェラシロクスは40mg/kg/日までの投与量で12日まで、慢性投与では数ヶ月から数年にわたって30mg/kg/日までで、耐容性が良好であった。
【0071】
一般に、鉄キレート化合物は、鉄キレート療法の製剤に含まれ、第1のまたは第2の成分製剤および/または本発明の組成物を、約0.01〜10μg/ml、約0.1〜8μg/ml、約0.2〜6μg/ml、詳細には約0.3〜3.0μg/ml、より詳細には約0.6〜2.0μg/ml、なおさらに詳細には約0.8〜1.0μg/mlまたは約0.9μg/mlの濃度で含むであろう。これらの範囲より少ない、多いまたはこれらの範囲内の鉄キレート化合物の濃度および/または量が、鉄キレート療法製剤、第1のまたは第2の成分製剤および/または本発明の組成物に用いられ得る。例えば、1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物は、製剤または組成物内に含まれ得、約0.1μg/ml未満を占める。同様に、製剤または組成物は、特に貯蔵用に処方される場合、約10μg/mlより高い1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物の濃度を含み得る。従って、本発明の方法に有用な製剤または組成物は、実質的に任意の所望の濃度または量、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12μg/mlまたはそれ以上の1つまたはそれ以上の鉄キレート化合物を含むように製造され得る。
【0072】
抗真菌剤の有効量の例には、例えば、ポリエン抗真菌剤に関して以下に例示した量が挙げられる。例えば、アンホテリシンBデオキシコール酸塩は、通常、例えば、約10mg/kg体重よりも少ない投与量で投与され、静脈内注射用には約0.25〜1.0mg/kg/日の割合を含み得る。リポソームアンホテリシンB(L−AMB)は、通常、1〜5mg/kgの投与量で投与される。リポソームアンホテリシンBはまた、特に脳疾患において15mg/kg/日の高い投与量で投与され得る。アンホテリシンB脂質複合体(ABLC)は、通常、5mg/kgの投与量で投与されるが、約0.5〜15mg/kgの範囲内にあり得る。アンホテックは、通常、約50〜100mgの単回投与量で投与される。同様に、鉄キレート化合物および抗真菌剤を用いる併用療法には、上記量が化合物および/または薬剤のいずれかまたは両方と共に投与され得るか、あるいは、薬剤の量は多くまたは少なく調節され得る。アゾール抗真菌剤およびエキノキャンディン抗真菌剤の有効量もまた当業者に周知であり、通常、上記範囲内の投与量を含む。
【0073】
本明細書中に提供される教示およびガイダンスを考慮すれば、当業者は、上記に例示した有効量が、例えば、他の活性成分の形態および量に対して調節され得ることを理解するであろう。例えば、少なくとも1つの鉄キレート化合物の投与量が上記に例示した高い範囲内にある場合、所望であれば、有効量を得つつ、少なくとも1つまたはそれ以上の抗真菌剤の量を低減し得る。同様に、少なくとも1つの抗真菌剤の投与量が高い範囲にあるかまたは上記に例示したよりも高い場合、所望であれば、少なくとも1つまたはそれ以上の少なくとも鉄キレート化合物のうち1つまたはそれ以上の量を低減し得る。2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物の投与量および/または2つまたはそれ以上の少なくとも1つの抗真菌剤の投与量はまた、互いに対して調節され得る。このような組み合わせた有効量の全ての他の調節は、本発明の方法において利用され得る。
【0074】
本発明の種々の実施態様の活性に実質的に影響しない修飾もまた、本明細書中で提供される本発明の定義の範囲内に含まれることが理解される。従って、以下の実施例は、例示することを意図するが、本発明を限定することは意図しない。
【実施例】
【0075】
(実施例I)
真菌症の重症度を減少させるための鉄キレート療法
本実施例は、デフェリプロンおよびExjade(登録商標)がムコール症の病変形成を減少させ得ることを示す予備的研究を記載する。
【0076】
動物モデルは、デフェロキサミンまたは遊離鉄の投与はRhizopus種に感染した動物の生存率を悪化させるが、Candida albicansでは悪化の程度がより少ないことを実証したが、このことは、鉄がRhizopus種の病原性に特有に必要とされることを強調する(Abeら、Mycopathologia 110:87−91(1990);Boelaertら、(1993)、上述;Boelaertら、(1994)、上述;Van Cutsem and Boelaert,Kidney International 36:1061−68(1989))。さらに、デフェロキサミンから血清への放射標識された鉄の取り込みのインビトロでの研究は、リゾプスがアスペルギルス・フミガツスおよびCandida albicansよりもそれぞれ8倍および40倍もの多い量の鉄を蓄積することを示した(Boelaertら、(1993)、上述)。このRhizopus種による鉄取り込みの増加は、その血清中での増殖と直線的に相関した(Boelaertら、(1993)、上述)。血清中での増殖の増加は、接合菌類が血管から直接的に浸透および増殖し、結果として疾患の間に血栓症および組織壊死の性向をもたらすための特殊な親和性を説明し得る(Edwards,(1989)、上述;Ibrahimら、(2003)、上述;Venturaら、上述)。
【0077】
上記したように、糖尿病性ケトアシドーシスを有する患者はまた、脳性ムコール症を発症するリスクも高い。これらの患者はまた、利用可能な血清鉄のレベルを上昇させるが、これはおそらく、アシドーシスの存在下での結合タンパク質からの鉄の遊離によるであろう(Artisら、上述)。糖尿病性ケトアシドーシスを有する患者から回収した血清は、酸性pH(7.3〜6.88)の存在下でRhizopus oryzaeの増殖を支持するが、アルカリ性pH(7.78〜8.38)の存在下では支持しない。酸性pHでRhizopus oryzaeの増殖を支持しなかった血清では、真菌の増殖を支持する血清に比べて、利用可能な鉄が少ないことが見出された。さらに、外来性の鉄を血清に添加することにより、Rhizopus oryzaeが酸性条件で大量に増殖することが可能であったが、水素イオン指数>7.4では可能ではなかった。最後に、シミュレートされたアシドーシス症状は、正常なボランティアから回収した血清の鉄結合能を減少させたが、このことは、アシドーシスが、トランスフェリンが鉄を結合する能力を一時的に中断することを示唆する。従って、糖尿病性ケトアシドーシスを有する患者のムコール症への感染し易さの増加は、おそらく、糖尿病性ケトアシドーシスの間に利用可能な血清鉄が上昇することに少なくとも部分的に依存するであろう。
【0078】
ムコール症の病変形成における鉄代謝の役割は、有効な鉄キレート剤を、補助的な抗真菌療法などの抗真菌療法に利用する可能性を可能にする。デフェロキサミンとは対照的に、他の鉄キレート剤は、生物体が鉄を取り込むことを可能にせず、インビトロで鉄存在下でのその増殖を支持しない(例えば、Boelaertら、(1994)、上述を参照のこと)。さらに、デフェロキサミンはモルモットにおいて伝播性Rhizopus oryzae感染を顕著に悪化させるが、他のキレート剤の1つはインビボ感染に影響がなく、他のキレート剤は、感染モルモットの平均生存時間を2倍以上にした(表1)。
【0079】
【表1】
本明細書中に記載のインビトロおよびインビボデータは、デフェリプロンが、ムコール症感染を有効に治療するのに用いられ得ることを示す。表1は、予備的研究の結果を示し、ここで、デフェリプロンは、感染した動物の平均生存時間を有意に増加する。これらの予備的研究は、さらに、デフェリプロンがRhizopus oryzaeに対してインビトロで高活性であったことを示したが、このことは、24時間では静的効果があるが、インキュベーションの48時間では殺菌効果を有する[48時間後の両方について6.25μg/mlの最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺真菌濃度(MFC)]ことを示す。感染したDKAマウスにおいて、ムコール症の一般的な療法であるリポソームアンホテリシンB(LAmB)、またはデフェリプロン(Def)は、プラセボと比較して生存率を28日改善した(Defについて30%の生存率、プラセボについて0%の生存率に対し、LAmBについて52%の生存率、LAmBまたはDef対プラセボについてのログランク検定によりp<0.003;LAmB対Defについてp=0.15)。Defの効力は、マウスへのFeCl3の投与により抑止されたが、このことは、Defが仲介する保護のメカニズムが鉄キレート化であることを確認した(図1)。この後者の薬剤デフェリプロンは、欧州およびインドで鉄キレート剤として臨床使用が承認され、アメリカ合衆国では鉄過剰に基づくコンパッショネート・ユースに利用可能である。
【0080】
他の鉄キレート剤であるExjade(登録商標)(Novartis)は、アメリカ合衆国で鉄過剰患者における臨床使用が承認されている。この薬剤は、インビトロでRhizopus oryzaeに対して、および糖尿病性ケトアシドーシスマウスモデルを用いる動物モデルにおいて試験された。致死量のRhizopus oryzaeに感染させ、かつ1、3または10mg/kgの1日2回のExjade(登録商標)で処置したマウスは、プラセボで処置したマウスよりも長く生存した[ログランク検定により、1mg/kgのExjade(登録商標)について29%の生存率(p=0.03)に対して、3mg/kgのExjade(登録商標)で処置したマウスが40%の生存率(p=0.049)であったのに対して、10mg/kgのExjade(登録商標)で処置したマウスが57%の生存率(p=0.01)であったのに対して、プラセボについての28日間の生存日数は0%の生存率であった](図2)。これらの研究は、ムコール症の治療におけるExjade(登録商標)の使用の効力を実証する。これらの研究は、上記鉄キレート剤が、好中球減少個体におけるムコール症などの他の真菌症、ならびに伝播性カンジダ症およびアスペルギルス症などの他の感染症の治療に適用可能であり得ることをさらに示す。
【0081】
(実施例II)
ムコール症の治療のための鉄キレート療法
本実施例は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)マウスにおけるムコール症の治療または好中球減少性マウスにおけるムコール症の予防における、リポソームアンホテリシンB(LAmB)に対するデフェリプロンの効力の比較を示す。
【0082】
Rhizopus oryzaeは、ムコール症の一般的な原因である(Ibrahimら、(2003)、上述)。ケトアシドーシスの糖尿病患者などの利用可能な血清鉄が上昇した患者は、ムコール症感染症の発症リスクが高い(Artisら、上述)。さらに、デフェロキサミン鉄キレート療法は、患者をこれらの感染症に罹患させる。デフェロキサミンは、異種シデロフォアとして作用して、以前に利用不可能な鉄を菌類に供給する(Boelaertら、(1993)、上述)。従って、菌類が宿主から鉄を除去するのに利用され得ない鉄キレート剤の使用を、ムコール症に対する効力について評価した。Defは、Rhizopus種が鉄を除去するのに利用され得ない鉄キレート剤である(Boelaertら、(1994)、上述)。
【0083】
まず、Rhizopus oryzaeに対するデフェリプロンのインビボ活性を、この研究で評価した。簡便には、Rhizopus oryzae99−880を、糖尿病患者の脳膿瘍から単離した。生物体を、ポテトデキストロースアガー(PDA)上で、37℃で3日間増殖させた。いくつかの実験では、1mMのアスコルビン酸およびフェロジンの存在下でPDA上で増殖させることにより、Rhizopus oryzaeを鉄不足にさせた。0.01%Tween80を含む内毒素非含有PBS中で胞子嚢胞子を回収し、PBSで洗浄し、次いで、血球計数器で計数して、最終的な接種菌を調製した。感受性の試験のため、最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺真菌濃度(MFC)を、Espinel−Ingroff(J Clin Microbiol 39:954(2001))の方法により、Defおよびデフェロキサミンについて決定した。
【0084】
結果を以下の表2に示す。デフェリプロンは、24時間でRhizopus oryzaeに対して静的であったが(MICおよびMFC=それぞれ3.12および100μg/ml)、48時間のインキュベーションでは殺菌性が実証された(MICおよびMFC=6.25μg/ml)。対照的に、Rhizopus oryzaeに鉄を供給することが知られているデフェロキサミンは、Rhizopus oryzaeの増殖を抑制せず(24または48時間後、100μg/ml超のMICおよびMFC)、実際には、視覚での点検によれば、デフェロキサミンを含むウェル中での増殖は、増殖コントロールウェル(鉄キレート剤を含まない)中よりも多かった。
【0085】
【表2】
Rhizopus oryzaeに対するそのインビトロ活性を確認したので、我々は、我々のDKAマウスモデルを用いて、インビボでの伝播性Rhizopus oryzae感染の治療におけるデフェリプロンの役割を評価した。簡便には、インビボ感染のために、210mg/kgのストレプトゾトシンを真菌負荷の10日前に単回で腹腔内注射することにより、BALB/c 雄性マウス(≧20g)を糖尿病にした。ストレプトゾトシン処置の7日後、全てのマウスで糖尿およびケトン尿を確認した。マウスを、尾静脈にRhizopus oryzaeを適切に接種することにより感染させた。接種を確認するため、希釈物でPDAプレート上に線を引き、室温での24時間のインキュベーション期間後、コロニーを計数した。一次効力終点は、死亡した時間であった。二次終点としては、脳の真菌負荷(一次標的臓器)を、2mlの生理食塩水を含むWhirl−Pak(登録商標)バッグ(Nasco,Fort Atkinson,WI)に入れた器官上でピペットを回転することによりホモジナイズすることにより、決定した。ホモジネートを0.85%生理食塩水中で連続的に希釈し、次いでPDA上で定量的に培養した。値をlog10cfug−1組織として表す。マウスに関連する全ての手順は、動物の飼育および世話に関する米国国立保健研究所の指針に従って、研究機関における動物の利用と世話に関する委員会(the institutional animal use and care committee)により承認された。
【0086】
薬物および治療計画については、5%デキストロース水で希釈したLAmBをGilead Sciencesから得、15mg/kg qd(1日1回)で尾静脈から静脈内投与した。デフェリプロン(Apotex Research Inc.)を鉄非含有水に溶解し、50、100または200mg/kg qdまたはqod(隔日)で腹腔内投与した。処置は感染24時間後に開始し、合計4回の投与を続けた。対照群を、希釈液である5%デキストロース水で処置した。
【0087】
いくつかの実験では、鉄キレート化の効力を無効にすることを試みて、飽和投与量の遊離鉄をデフェリプロンと共に投与した。デフェリプロンは、鉄とデフェリプロンの1:3の比で第二鉄(3+Fe)と分子複合体を形成することが知られている。塩化第二鉄(FeCl3、分子量162.22g/mol)およびデフェリプロン(分子量139g/mol)の既知の分子量に基づき、60mg/kgの投与量のFeCl3を計算した結果、18gのマウスに与えられた100mg/kgの投与量のデフェリプロンに対して、顕著に過剰の3+Feが得られた:3+Feのモル数=(0.060g/kg*0.018kg[マウスの体重]/162.22g/mol)=6.5×10−6molに対し、デフェリプロンのモル数=(0.1g/kg*0.018kg[マウスの体重]/139g/mol)=1.3×10−5モル比=1:2モルの3+Fe対デフェリプロンであり、これは飽和した1:3の比を達成するのに必要とされるモル数よりも多い。
【0088】
統計解析を、ノンパラメトリックなログランク検定を用いて行い、マウスの生存時間の差を決定した。感染した器官における組織真菌負荷の差を、多重比較のためのノンパラメトリックSteel検定により比較した。0.05未満のP値を有意であると考えた。
【0089】
最初に、投与量応答を、製造元からの未発表の知見に基づく投与量を用いて行った(50、100または200mg/kgのデフェリプロンを毎日または隔日投与した)。マウスを4.3×103個のRhizopus oryzaeの胞子に感染させ、感染の24時間後にデフェリプロン処置を開始し、合計4回の投与を続けた。結果を図3および1に示すが、これらは、デフェリプロンがRhizopus oryzae感染からDKAマウスを保護することを示す。100mg/kg qodのデフェリプロン投与は、プラセボと比較してDKAマウスの生存率を改善した(p=0.027、図3)。100mg/kg qdまたは200mg/kg qdまたはqodなどのより高い投与量は、生存率を改善せず、50mg/kgのqdまたはqodの投与量も同様に改善しなかった。
【0090】
実施例Iで上記したように、デフェリプロンの効力を、ムコール症の一般的な治療である高投与量LAmBとも比較した。毎日投与されるLAmBの15mg/kgの投与量を選択したが、これは、我々が、この投与量は我々のDKAマウスモデルにおいて1mg/kgのアンホテリシンBデオキシコール酸塩よりも保護することを実証したからである。さらに、デフェリプロンの保護のメカニズムが鉄のキレート化であったことを確認するため、デフェリプロンおよび飽和投与量(60mg/kg)のFeCl3の形態の遊離鉄の効力もまた評価した。デフェリプロンを動物に与えるたびに、FeCl3を毎回静脈内投与した。
【0091】
LAmBまたは100mg/kg qodのデフェリプロンは、プラセボと比較して、生存率を28日改善した(図1、P<0.003、LAmBまたはデフェリプロン対プラセボのログランク検定による)。デフェリプロンで処置したマウスに対するLAmBで処置したマウスの生存率における統計的有意差はなかった(P=0.15)。デフェリプロンの効力は、塩化第二鉄の投与により完全に抑止された(図1)。
【0092】
さらなる研究では、実験的ムコール症のDefとLAmBとの併用療法もまた評価した。簡便には、マウス(感染未処置およびDefについてn=11、ならびにLAmBおよびDef+LAmBについてn=6)をRhizopus oryzaeに感染させ、次いで、24時間後、Def、LAmBまたは両方の薬物の組み合わせで、合計4回の投与で処置した。結果を図4に示すが、これは両方の処置の組み合わせを用いて増強した効力を示す。(*感染未処置マウスと比較してp<0.005)。
【0093】
同様に、Rhizopus oryzaeに感染しかつDef、LAmBまたは両方で予防した好中球減少性マウスの生存率もまた評価した。マウス(n=9)を、第1日目に、Def qod、LAmB qdまたは両方で、合計4回の投与量で処置した。これらの結果を図5に示すが、これらはまた、鉄キレートと併用した抗真菌療法の組み合わせを用いて増強した効力も示す。(*感染未処置に対するLAmBまたはLAmB+Defについてp<0.05)。例えば、プラセボ処置したマウスにおける0%の生存率に対して、予防的Defは22%の生存率を結果として生じる(p>0.05);LAmBおよびLAmB+Defのいずれも、100%の生存率を結果として生じる(両方について対プラセボp<0.05)。
【0094】
脳はこの動物モデルの一次標的臓器であるので、効力のさらなるマーカーとして、デフェリプロン療法が脳真菌負荷に及ぼす影響もまた評価した。マウスを3.8×103個の胞子に感染させ、次いで、LAmB(毎日)またはデフェリプロン(隔日)での2回の投与により処置した。上記研究において、コントロールマウスは、第2の投与量のデフェリプロンが投与される前に死亡し始めた。組織の真菌負荷を測定する前のデフェリプロンの少なくとも2回の隔日での投与の試験を可能にするため、本研究では、デフェリプロンを、感染の30分および48時間後に投与し、一方、LAmBは、感染の24時間および48時間後に与えた。脳を感染の約54時間後に回収した。結果を図6に示すが、いずれの薬物もプラセボと比較して脳真菌負荷を減少させることを示す(P≦0.036)。
【0095】
上記結果は、Def鉄キレート療法が実験的マウスのムコール症を治療するのに有効であり、例えば、好中球減少性の設定において予防的効力を有し得ることを示す。特に、DefはインビトロでRhizopus oryzaeの増殖を抑制したが、デフェロキサミン投与は抑制しなかった。Defは、DKAモデルのムコール症の治療においてかなりの効力を有し、この効力は、LAmBの高投与量療法に匹敵する。Defの効力は、おそらく、鉄をキレート化する能力によるものと思われるが、これは、遊離鉄がその保護を無効にするからである。Def予防法は、ムコール症の好中球減少性マウスモデルにおいて保護効果を拮抗しないように思われた。
【0096】
(実施例III)
ムコール症の治療的処置のためのデフェラシロクス投与
本実施例は、脳型ムコール症のサルベージ療法としての鉄キレート薬であるデフェラシロクスの使用を示す。
【0097】
デフェラシロクス(Exjade(登録商標))は、新規な、第1級の、経口的に利用可能な鉄キレート剤であって、最近、米国(US)食品医薬品局(FDA)により、輸血依存的貧血における鉄過剰の治療用に承認された。本研究は、最大の通常の抗真菌療法が効かない脳型ムコール症を有する脳型ムコール症患者のサルベージ療法としてのデフェラシロクスの使用を示す。
【0098】
糖尿病性ケトアシドーシスを有する40歳の男性が、多尿、多飲症、左眼球後疼痛および左脳神経(CN)Vl麻痺で外部の病院の救急部を受診した。頭部のコンピュータ断層撮影(CT)スキャンは、左楔形および篩骨洞炎のみを示した。患者は最初の24時間で完全な左眼筋麻痺に進行した。脳型ムコール症が疑われ、彼はアンホテリシンB脂質複合体(ABLC)を5mg/kg/日を経験的抗菌薬と共に用いて、副鼻腔炎の治療を開始した。入院2日目、彼は内視鏡で蝶篩骨の探索を受けた。壊死組織または焼痂は見出されず、複数の組織診は非特異的な炎症を示した。真菌培養は陰性であり、特殊染色によって生物体は明らかにされなかった。細菌培養は、稀なエンテロバクター・アエロゲネスのみを増殖させた。
【0099】
次の12日間にわたり、患者は失明を発症し、かつ左眼の眼球突出が悪化した。彼はABLCを続け、さらなる外科手術は行わなかった。眼窩および脳の連続的な磁気共鳴画像形成(MRI)により、左側の汎副鼻腔炎の進行、ならびに左外眼筋の肥厚および異常な増強が明らかになった。
【0100】
入院14日目に、患者は、さらなる管理のため我々の施設に転送された。到着するとすぐに、彼は除核および広範な洞デブリードマンおよび切除による左眼窩の除去を受けた。手術中の知見には、外眼性筋の広範な周囲壊死を伴う虚血性眼球が含まれた。病理学的検体は、ケカビ目の証拠を示した(図7);真菌培養は陰性であった。患者は、リポソームアンホテリシンB(LamB)15mg/kg/日およびカスポファンギン70mg/kg/日を開始した(ポリエン−エキノキャンディン相乗作用を実証する公開されたマウスのデータに基づく)。軌道除去の2日後に行った頭部CTスキャンは、左海綿静脈洞血栓症を示した;この知見は、経過観察MRIで確認した。
【0101】
新しい神経学的知見は存在しなかったにもかかわらず、入院36日目のMRIは、左内部頚動脈に緩徐な流れを有する左海綿静脈洞血栓症の進行を示し、CNVの新たな増強は、進行性ムコール症と一致した。抗真菌療法を継続した。入院71日目に、脳MRIは鞍上窩に新たな増強を示し、かつ、初めて、周囲に浮腫を有する橋に脳幹病変の発生を示した。橋の表在性側面における病変の位置を考慮して、1回投与量の窩内アンホテリシンが投与されたが、患者はさらなる投与を拒絶した。患者は臨床的におよび神経学的に不変のままであった。引き続く画像形成の安定化のため、彼は入院86日目に退院し、外来でLAmBの単独療法を週3回続けた。
【0102】
彼の疾患は、数ヶ月にわたり、臨床でおよびX線検査で安定なままであった。腎不全の悪化のため(0.8のベースラインからCr3.5〜4.0)、退院の10週後、LAmBの投与量を10mg/kgで週2回に減少させ、次いで、退院の4ヶ月後、徐々に週1回まで減少させた。1ヶ月後、繰り返しのMRIは、左中央小脳脚の周囲の浮腫の新たな増強を示し、左小脳橋角は進行性疾患と一致した。
【0103】
実験的鉄キレート剤であるデフェリプロンからのデータ、およびマウスにおけるデフェラシロクスの未発表の知見に基づき、デフェラシロクスを1000mgpoの投与量で(経口で)毎日、7日間にわたって投与した。LAmBを継続した。デフェラシロクス処置の最終日、患者は、躯幹および四肢に、予想される薬疹と一致する紅斑、わずかなそう痒、集密的斑点状丘疹の噴出を発症した。そう痒はジフェンヒドラミンで抑えた。他の有害事象は認められなかった。デフェラシロクスでの処置の1週間後の脳の反復MRIは、左小脳脚に浮腫の解像度を示した。5週間後の経過観察画像形成は、新たな病変を示さなかった。腎不全の悪化(Cr約5.5)、および反復画像形成におけるX線所見の安定性のために、LAmBを中断した。初期診断の10ヶ月後、患者は無症候かつ神経学的に無傷のままであった。
【0104】
ここに記載した患者は、最大耐容量のLamBでの7ヶ月の処置後に進行性ムコール症と一致する新しいX線所見を示したので、高度な外科手術および数ヶ月にわたる抗真菌療法にもかかわらず、明らかに後の浸潤性ムコール症は治癒しなかった。しかしながら、デフェラシロクスでの7日間の処置後、実質的なX線検査の改善が認められた。2ヶ月後、デフェラシロクスを投与し、全ての抗真菌療法を中断した。患者は、病状悪化の徴候がなく、その後、臨床的に無症候およびX線検査で安定のままであった。患者は、キレート剤に起因し得る軽微な薬物反応を除き、デフェラシロクスへの耐容性が良好であった。
【0105】
ここでは、我々は、適切な外科手術の著明な遅れの後に脳幹および海綿静脈洞が関与する進行ムコール症の症例を、デフェラシロクスをサルベージ療法に用いた後に明らかに成功した結果と共に記載した。デフェラシロクスでの処置の正確な効果は、同時に行われるポリエンでの処置により幾分混同させられる。しかしながら、患者は、デフェラシロクスを添加する前の非常に積極的なポリエンでの処置に明らかに失敗した。本症例の有望な結果、ならびに現在の抗真菌療法にもかかわらず、ムコール症の選択肢が限定されかつ予後不良であることを考慮すると、ムコール症の治療における鉄キレート化のさらなる研究が必要とされる。
【0106】
(実施例IV)
インビトロでデフェラシロクスがケカビ目に及ぼす効果
本実施例は、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeの高親和性鉄透過酵素遺伝子(rFTRl)の発現に及ぼす効果を示す。本実施例はまた、ケカビ目の複数の臨床単離物のデフェラシロクス感受性を示す。
【0107】
以下は、本実施例および引き続く実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0108】
Rhizopus oryzaeおよび培養条件
Rhizopus oryzae99−880は、糖尿病患者の脳膿瘍由来の臨床単離物である。Rhizopus oryzae99−892は、臨床上の肺単離物である。Rhizopus oryzaeM16は、化学的変異原性によりRhizopus oryzae99−880から産生したpyrFヌル変異体である(pyrFは、ウラシル合成に必要とされる酵素であるオロチジン5’リン酸脱炭酸酵素をコードする)。この変異体は、プレーティングが1×109個の胞子を超えても、ウラシル栄養素要求性に対して安定な表現型を示す。生物体を、ポテトデキストロースアガー(PDA)[処方/リットル;馬鈴薯デンプン4g、デキストロース20g、アガー15g]上で、37℃にて4日間増殖させた。M16については、PDAに100μg/mlのウラシルを追加した。いくつかの実験では、Rhizopus oryzaeを、ウラシル(CSM−URA)を含まない完全追加培地を追加した酵母窒素ベース(YNB)(YNB+CSM−URA)(Difco/Becton Dickinson,Sparks,MD)上、1mMのアスコルビン酸およびフェロジンの存在下で増殖させることにより、鉄不足にした(YNB+CSM−URA)[処方/l00ml、1.7gのYNB(アミノ酸非含有)、20gのグルコース、0.77gのCSM−URA]。胞子嚢胞子を、0.01%Tween 80を含む内毒素非含有PBS中で回収し、PBSで洗浄し、血球計数器で計数して、最終的な接種体を調製した。
【0109】
Rhizopus oryzaeの高親和性鉄透過酵素遺伝子(rFTRl)の発現分析
コンフルエントPDAプレートから取り出したRhizopus oryzae99−880プラグを、ポテトデキストロースブロス中で、振盪しながら37℃で一晩増殖させた。菌糸を無菌的に回収し、鉄キレート化を試験するための350μMの塩化第二鉄(rFTRlの発現を抑制するため)、350μMの塩化第二鉄および2mMのデフェラシロクス、または添加したデフェラシロクスを過飽和させるための2mMのデフェラシロクスおよび6mMの塩化第二鉄を含む、新鮮なPDBフラスコに移した。フラスコを37℃で1時間、振盪しながらインキュベートした。菌糸を濾過により回収し、乳鉢および乳棒を用いて液体窒素内で粉砕した。全RNAを、RNeasy Plabt Mini(登録商標)キット(Qiagen(登録商標))を用いて、RLC緩衝液で抽出した。RNAを、SuperScript(登録商標)First−Strand Syhthesis System(Invitrogen(登録商標))を用いてオリゴ(dT)プライマーで逆転写し、第1らせんcDNAを作製した。産物を希釈し、PCR法で用いて、Rhizopus oryzaeおよび18srDNA遺伝子のFTR1の発現を検出した。PCRプライマーの配列は以下の通りである:rFTRlについてRhizopus oryzaeを増幅するためのセンスプライマー5’−TCAGAGAAGGACTTGAAGC−3’およびアンチセンスプライマー5’−TAAGTAGCCGTATTGTTCC−3’;ならびに18srDNA遺伝子についてセンスプライマー5’−CATGGTTGAGATTGTAAGATAG−3’およびアンチセンスプライマー5’−AGTCAATGGACGTGGAGTC−3’。PCR産物を、0.1μg/mlの臭化エチジウムを含む2%アガロースゲル上で分離した。両方のプライマーセットは、400bpバンドを増幅するように設計された。
【0110】
緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターアッセイ
rFTRl ORFの1.5kb断片上流を、以下のプライマー対を用いてPCR増幅した:センスプライマー5’−GCTCTAGATCAGTCTCAACACCATCAATT−3’;およびアンチセンスプライマー5’−TGCGGCCGTGCTTTTTAGTTCTCCTTGGA−3’。コントロールとして用いるため、恒常的に発現したアクチンプロモータを含む2.1kbフラグメントもまた、以下のプライマー対を用いてPCR増幅した:センス5’GCTCTAGATGGTATTATCGATTTAGA−3’;およびアンチセンス:5’TACGGCCGCATACCGGAACCGTTATCG−3。増幅した断片を、プラスミドpyr225b(35)のXbaIおよびEagI部位に連結した。GFPを、pGFPB21−43.31(36)、およびいずれかのプロモータのクローン下流から、いずれかのプロモータのプラスミド下流のEagI−SacI部位へと増幅した。最終的に、pyrFのORFを表す2.1kb断片およびその未変性のプロモータをプラスミドのSpeI−ClaI部位にクローン化して、選択マーカーとして供した。rFTRlpまたはACTIpのいずれかにより駆動されるGFPを含むプラスミドを、微粒子銃(Biorad(登録商標))によりRhizopus oryzaeM16に形質転換した。形質転換体を、照射後37℃で5〜7日間増殖したYNB+CSM−URAプレート上で選択した。次いで、単離物を、ウラシル非含有最少培地を含むプレート上で継代形質転換し、プレートを37℃でインキュベートすることにより、ウラシル栄養素要求性について試験した。ウラシル陰性プレート上で選択した精製された形質転換体を、サザンブロット法により分析した。
【0111】
rFTRlpおよびACTIpの発現を、鉄充満培地(すなわち、YNB+CSM−URA)中または鉄不足条件(すなわち、2mMデフェラシロクスを追加したYNB+CSM−URA)で増殖させた形質転換体において研究した。さらに、デフェラシロクスの効果を無効にするため、形質転換体を、2mMデフェラシロクスを追加したYNB+CSM−URA中で増殖させ、6mMの塩化第二鉄で過飽和させた。最終的に、空のプラスミドで形質転換したM16(GFPを有しないpyr225b−pyrF)を、ネガティブコントロールとして用いた。胞子(1×104/ml)を上記培地に播種し、37℃で一晩インキュベートした。1滴の培養物をスライドに載せ、GFPの発現を、Leica DMRXE共焦点顕微鏡で、488nmの励起波長を用いて、Rhizopus oryzaeで可視化した。さらに、各培養物からの1mlの試料もまた用いて、488nmで発光するアルゴンレーザを備えたFACSCaliber(登録商標)(Becton Dickinson(登録商標))装置を用いて、蛍光放出を定量した。胞子を前方および側方散乱によりゲートし、FLlで蛍光測定した。
【0112】
感受性試験
最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺真菌濃度(MFC)を、鉄不足にしたRhizopus oryzae胞子を用いて、Espinel−Ingroffの方法(Espinel−Ingroff(2001)、上述)により、デフェラシロクスについて測定した。殺菌性は、MICとMFCとの間の4倍以上の差であると定義した。
【0113】
治療計画
デフェラシロクス(Novartis Pharmaceuticals,Basel,Switzerland)を、0.5%ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel)に懸濁し、1、3または10mg/kgを2回(毎日)または1日おきに(隔日)経口経管栄養により投与した。感染の24時間後に処置を開始し、合計5回または7回の投与まで継続した。コントロール群を、希釈液、5%デキストロース水および0.5%Klucelで処置した。いくつかの実験では、飽和投与量の遊離鉄を、デフェラシロクスと共に投与した。デフェラシロクスは、鉄とデフェラシロクスとの比1:2で、第二鉄(3+Fe)と分子複合体を形成することが知られている。塩化第二鉄(FeCl3、分子量162.22g/mol)およびデフェラシロクス(分子量373.4g/mol)の既知の分子量に基づき、2.8mg/kgの投与量のFeCl3を計算した結果、18gのマウスに与えられた10mg/kgの投与量のデフェラシロクスに対して、3+Feが顕著に過剰であった:3+Feのモル数=(0.0028g/kg*0.018kg[マウスの体重]/162.22g/mol)=3×10−7mol対デフェラシロクスのモル数=(0.01g/kg*0.018kg[マウスの体重]/373.4g/mol)=5×10−7モル比=1:1.7molの3+Fe対デフェラシロクス、これは飽和の1:2比を達成するのに必要とされるよりも多い。5%デキストロース水で希釈したLAmBを、Gilead Science(登録商標)(Foster City,CA)から入手し、1日あたり15mg/kg(qd)の投与量で、尾静脈から4日間投与した。
【0114】
統計解析
ノンパラメトリックログランク検定を用いて、マウスの生存時間の差を決定した。組織真菌負荷、脾臓のリンパ球頻度および感染した器官における全器官のサイトカインの差を、Mann Whitney U検定により比較した。0.05未満のP値を、有意であると考えた。
【0115】
鉄不足は、Rhizopus oryzae中の高親和性鉄透過酵素遺伝子(rFTRl)の急速な発現を引き起こし、ムコール症の最も一般的な原因であることが示されている(Fuら、FEMS Micorbiol.Lett.235:169−176(2004))。従って、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeから効果的に鉄をキレート化することを確認するため、我々は、インビトロでのデフェラシロクスのRhizopus oryzaeへの曝露がrFTRlの発現に及ぼす影響を定義した。Rhizopus oryzae99−880胞子を、PDB中で一晩インキュベートした。次の日、菌糸を、350μMの塩化第二鉄(鉄充満)、350μMの塩化第二鉄および2mMのデフェラシロクス(鉄枯渇)、または2mMのデフェラシロクスおよび6mMの過飽和塩化第二鉄を追加したPDBに移した。リボ核酸を、各条件で37℃にて1時間増殖させた胞子から抽出し、逆転写PCRを行って遺伝子発現を評価した。rFTRl遺伝子はデフェラシロクスの存在下で発現したが、塩化第二鉄を追加した培地中、またはデフェラシロクスおよび過飽和塩化第二鉄の存在下では発現しなかった(図8a)。
【0116】
キレート化条件下でのrFTRlpの発現およびrFTRlのプロモータ活性を確認するため、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子をrFTR1プロモータによりクローン化した(図8b)。rFTRl::GFP構築物またはACTlp::GFP(恒常的ポジティブコントロール)で形質転換したRhizopus oryzaeM16胞子を、デフェラシロクス、デフェラシロクスおよび過飽和塩化第二鉄、または鉄富化の培地(鉄充満)で一晩インキュベートした。図8cは、増殖条件に関わりなく恒常的に発現したACTlプロモータの制御下のGFPとは対照的に、rFTRlプロモータの制御下のGFPは、鉄キレート化条件(デフェラシロクス)の存在下でのみ発現するかまたは活性であった。共焦点顕微法により明らかなように、恒常的ACTlp::GFP構築物で形質転換されたM16は、増殖条件に関係なく蛍光性であった。対照的に、rFTRlp::GFPで形質転換したM16は、デフェラシロクスの存在下でのみ蛍光性であった。同様に、フローサイトメトリにより、鉄充満条件で増殖された、形質転換されなかったまたはrFTRlp::GFPで形質転換された胞子の1%未満は蛍光性であった。対照的に、rFTRlp::GFPで形質転換されかつデフェラシロクスの存在下で増殖された胞子の43%は蛍光性であった。まとめると、これらのデータは、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeにおいて鉄不足応答を誘発したことを確認した。
【0117】
我々は、次に、ケカビ目の複数の臨床単離物のデフェラシロクス感受性を決定した(表3)。デフェラシロクスのケカビ、非オリゼRhizopus種およびRhizopus oryzaeのMIC90は、3.12〜6.25μg/mlであった。MFCはMICと同様であり、デフェラシロクスは29の単離物のうち28(97%)に殺菌性であった。注目すべきは、デフェラシロクスが極度に高濃度であっても、最初の24時間以内に軽微な増殖が観察されたことである。しかしながら、菌類は、デフェラシロクスが低濃度であっても24時間で死滅し、このことは、デフェラシロクスの殺菌性が、濃度依存的ではなく時間依存的であることを示唆する。さらに、これらの単離物に対するデフェラシロクスのMICおよびMFCは、FDAに承認された開始投与量(20mg/kg/日)で投与した場合、定常状態で薬物が臨床的に達成可能なピーク(約38μg/ml)およびトラフ血清レベル(約17μg/ml)よりずっと少なかった。
【0118】
本実施例は、デフェラシロクスがRhizopus oryzaeにおいて鉄不足応答を誘発することの実証に加えて、デフェラシロクスがケカビ科の2つの異なる属由来の複数の臨床単離物について殺菌性であったことを示した。
【0119】
【表3】
(実施例V)
インビボでのRhizopus oryzaeに対するデフェラシロクスの効力
本実施例は、ケカビ目に感染したマウスの治療におけるデフェラシロクスのインビボでの効力を示す。
【0120】
以下は、本実施例および引き続く実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0121】
マウスモデル
インビボ感染のため、0.2mlクエン酸緩衝液中の210mg/kgのストレプトゾトシンを、真菌負荷の10日前に単回で腹腔内注射することにより、BALB/c雄性マウス(>20g)を糖尿病にした。ストレプトゾトシン処置の7日後、全てのマウスで、糖尿およびケトン尿を確認した。好中球減少性マウスモデルについては、Rhizopus oryzaeへの感染の2日前に、200mg/kgのシクロホスファミド(Bristol Myer Squibb)の単回の腹腔内投与量をマウスに注射した。この治療計画は、感染に対して第2日〜第5日に汎血球減少症を結果として生じたが、細胞数の回復は感染後第6日目に回復した。マウスを、Rhizopus oryzaeを尾静脈から適切に接種することにより感染させた。接種を確認するため、0.1%トリトンを含むPDAプレート上に希釈物で線を引き、37℃での24時間のインキュベーション期間後、コロニーを計数した。一次効力の終点は、死亡した時間であった。二次終点としては、脳の真菌負荷(一次標的臓器)を、1mlの生理食塩水を含むWhirl−Pak(登録商標)バッグ(Nasco,Fort Atkinson,WI)に入れた器官上でピペットを回転することによってホモジナイズすることにより、決定した。ホモジネートを0.85%生理食塩水中で連続的に希釈し、次いでPDA上で定量的に培養した。値をlog10 cfu g−1組織として表した。最終的に、病理組織学的分析のため、感染した器官をマウスから回収し、10%亜鉛ホルマリン中で固定した。固定された組織を、パラフィン中に包埋し、光学顕微法検査のために5mmの切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。マウスに関連する全ての手順は、動物の飼育および世話に関する米国国立保健研究所の指針に従って、研究機関における動物の利用と世話に関する委員会により承認された。
【0122】
デフェラシロクスのインビトロ活性がインビボでの効力に変わるかどうかを決定するため、我々は、我々の播種性ムコール症のマウスモデルを糖尿病性ケトアシドーシスマウスに利用した。糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、尾静脈経由で、2.2×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させた。マウスを、0.5%ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel)中1、3または10mg/kgのデフェラシロクスの経口経管栄養で、毎日2回(bid)、感染後の日から開始して7日間処置した。ネガティブコントロールマウスを、ヒドロキシプロピルセルロースキャリア(プラセボ)またはデフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄(皮下投与)で処置した。さらなるネガティブコントロールは、塩化第二鉄で処置した非感染マウスからなった。1、3または10mg/kg bidのデフェラシロクスは、コントロールと比較して生存率を有意に改善した(図9a)。
【0123】
別の実験において、デフェラシロクスは、Rhizopus oryzaeの第2の臨床単離物である99−880単離物に対して有効であることが見出された。糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、尾静脈経由で、より病原性が高いRhizopus oryzae99−880の胞子1.3×103個に感染させ、10mg/kg bidのデフェラシロクスまたはプラセボで7日間、上記のように処置した。デフェラシロクスは、プラセボと比較して、Rhizopus oryzaeに感染したマウスの死亡の時間を有意に改善した(図9b)。
【0124】
デフェラシロクスが組織真菌負荷に及ぼす影響を決定するため、糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、尾静脈経由で、Rhizopus oryzae99−892の胞子4.2×104個に感染させた。マウスを、デフェラシロクス(10mg/kg bid)、デフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄、またはプラセボで処置した。処置は感染の16時間後に開始し、毎日3日間にわたって投与した。第4日目に腎臓および脳を取り出し、ホモジナイズし、定量的に培養した。デフェラシロクスは、プラセボまたはデフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄で処置したマウスと比較して、脳および腎臓の両方(一次標的臓器)で真菌負荷が10倍超減少する結果となった(図10a)。病理組織学では、デフェラシロクスで処置したマウスの腎臓は、可視的な菌糸(図10b中、矢印で示す)を有しなかったが、一方、プラセボまたはデフェラシロクスおよび飽和塩化第二鉄で処置したマウスの腎臓は、広範なフィラメント化した菌類を有した。さらに、飽和鉄で処置したマウスは、感染部位への好中球流入の著しい非存在を有したが、一方、好中球流入は、デフェラシロクスで処置したマウスの腎臓において顕著であった(図10b)。
【0125】
デフェラシロクスの直接の抗真菌性効果を示すことに加えて、本実施例は、デフェラシロクスの保護効果が遊離鉄の投与により無効にされ得ることを実証するが、このことは、この薬剤の保護のメカニズムが鉄キレート化を介することを確認する。
【0126】
(実施例VI)
鉄キレート化および過剰の鉄が宿主免疫応答に及ぼす影響
本実施例は、デフェラシロクスならびにデフェラシロクスおよび塩化第二鉄が宿主免疫応答に及ぼす影響の比較を示す。
【0127】
以下は、本実施例および引き続く実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0128】
脾臓リンパ球頻度および全器官サイトカインアッセイ
脾臓リンパ球頻度を、我々が上記したとおりに測定した(Spellbergら、Infect.Immun.71:5756−5764(2003))。簡便には、脾臓のホモジネートを70μmフィルタに通し、その後、0.15M塩化アンモニウムで赤血球溶解させた。細胞を、Cytoperm(登録商標)緩衝液(BD Pharmingen)で透過可能にしたCytofix(登録商標)緩衝液(BD Pharmingen(登録商標))で固定化し、10μg/mlのFITC複合体化抗マウスCD4(クローンRM4−5)、PE複合体化抗マウスIFN−γ(クローンXMG1.2)またはアイソタイプコントロール(クローンR−34)、アロフィコシアニン(APC)複合体化抗マウスIL−4(クローン11B11)またはアイソタイプコントロール(クローンR3−34)あるいはAPC複合体化抗マウスIL−10(クローンJES5−16E3)またはアイソタイプコントロール(クローンA95−1)(全てBD Pharmingenから)で染色した。別々の実験において、CD4+CD25+foxp3+T調節細胞の頻度を、Mouse Regulatory T cell Staining(登録商標)キット(eBioscience(登録商標))を製造者の推奨に従って用いることにより測定した。アポトーシスの頻度は、Annexin FITC Apoptosis(登録商標)キット(BD Pharmingen(登録商標))を用いて決定した。
【0129】
細胞を洗浄し、三色フローサイトメトリを、CaliBRITE(登録商標)ビーズ(BD Pharmingen)で校正したBecton−Dickinson FACScan(登録商標)機器で、FACSComp(登録商標)ソフトウェアを製造者の推奨に従って用いることにより行った。データ獲得の間に、CD4+リンパ球を前方および側方散乱の連続、ならびにFITC−抗−CD4抗体の蛍光によりゲートした。各試料についてのデータを、10,000個のCD4およびリンパ球が分析されるまで獲得した。
全器官サイトカインアッセイ
脾臓および腎臓を、1mlのPBS中でホモジナイズした。ホモジネートを、最大速度でテーブルトップ遠心分離機で4℃にてペレット化した。上清を、Cytometric Bead Array Murine Inflammatory Cytokine(登録商標)キット(BD Pharmingen)を製造者の指示に従って用いて、サイトカインについてアッセイした。
【0130】
飽和塩化第二鉄対鉄キレートで処置したマウスの腎臓で観察される炎症性細胞の流入の変化のため、本実施例では、我々は、デフェラシロクス療法が感染マウスのThl/Th2および炎症性サイトカイン応答に及ぼす影響を決定した。糖尿病性ケトアシドーシスマウスを、上記のように3.1×104個のRhizopus oryzae99−892の胞子に感染させ、デフェラシロクス、デフェラシロクスおよび塩化第二鉄、またはプラセボで処置した。感染4日目に、脾臓および腎臓を、細胞内および全器官のサイトカインを決定するために加工した。デフェラシロクスは、Th1およびTh2の脾細胞頻度の両方において、飽和塩化第二鉄またはプラセボで処置したマウスと比較して有意な増加を結果として生じた(図11a)。CD4+IL−10+またはCD4+CD25+foxp3+脾細胞の頻度は、群間で有意に異ならなかった(データは示さない)。脾細胞アポトーシスの群間での有意差はなかった(データは示さない)。
【0131】
デフェラシロクス処置マウスは、基準の炎症誘発性サイトカイン、TNFおよびIFN−γの脾臓レベルが、飽和鉄またはプラセボで処置したマウスよりも有意に高かった(図11b)。デフェラシロクスで処置したマウスはまた、IFN−γの腎臓レベルが有意により高かった(図11b)。
【0132】
本研究は、デフェラシロクスが、糖尿病性ケトアシドーシスマウスにおける抑制された炎症反応を非特異的に刺激し、Th1およびTh2リンパ球の両方の頻度、ならびに脾臓および腎臓の炎症性サイトカインレベルを増加させたことを示す。さらに、超飽和鉄投与量の投与によるキレート化の無効化は、感染した腎臓で観察される好中球の数を減少させた。
【0133】
(実施例VII)
マウスのムコール症の治療上の処置のためにリポソームアンホテリシンBと併用されるデフェラシロクス(Exjade(登録商標))
本実施例は、ムコール症の治療のための、鉄キレート剤デフェラシロクス(Exjade(登録商標))およびリポソームアンホテリシンB(LAmB)を用いる併用療法の効果を示す。
【0134】
上述したように、臨床および動物モデルデータは、上昇した利用可能な血清鉄の存在が、宿主をムコール症に罹患させることを示す。上記実施例で例示したように、デフェラシロクス鉄キレート療法は、ムコール症の最も一般的な原因であるRhizopus oryzaeに感染した糖尿病性ケトアシドーシスマウスの生存率を改善することが実証された。補助的療法におけるデフェラシロクスの効力を実証するため、動物モデルマウスのムコール症の治療について、LAmBと併用されるデフェラシロクスの効力を、いずれかの薬剤単独と比較した。
【0135】
方法、動物の手順および試薬は、上記のように行ったおよび/または調製した。簡便には、ストレプトゾトシン誘発DKAを有するBALB/cマウスを、尾静脈経由で2.0×103個のRhizopus oryzae胞子に感染させた。感染24時間後に、以下を用いて処置を開始した:(1)LAmB(15mg/kg静脈投与)の1日1回、4回の投与;(2)デフェラシロクス(10mg/kg腹腔内投与)の1日2回、7回投与、または(3)上記投与量を用いる、LAmBおよびデフェラシロクスの両方。プラセボマウスは、ビヒクルコントロールを投与された。終点は、死亡時およびコロニー形成単位(CFU)であった。
【0136】
上記研究の結果を、図12および13に示す。図12は、ムコール症の治療におけるデフェラシロクス単独およびLAmB単独の単独療法の効力、ならびにデフェラシロクスおよびLAmBの併用療法の効力を示す。結果は、両方の単独療法が、プラセボに比較して生存率を改善したことを示す(デフェラシロクスおよびLAmBについてそれぞれ25%および28%生存率、およびプラセボについて0%、P<0.003)。併用療法は、全ての他のグループと比較して、感染したDKAマウス(群当たりn>16)の生存時間および全生存率の両方を著明に改善した(併用療法について70%の生存率、全ての比較についてログランク検定でP<0.008)。
【0137】
標的臓器に関するこれらの処置の結果を、図13に示す。結果は、単独の薬剤のいずれも、プラセボと比較して脳のCFU(一次標的臓器)を減少させることができなかったことを示す。しかしながら、デフェラシロクスおよびLAmBの両方での併用療法は、全ての他のアームと比較して、脳のCFUを2log超減少させた(P<0.04)。LAmBのみおよび併用療法は、プラセボ処置マウスと比較して、腎臓のCFU(二次的な標的臓器)を減少させ得た(P<0.01)。
【0138】
本研究は、鉄キレート療法および高投与量のLAmBが、DKAにおける実験的ムコール症の治療に等しく効果的であり得ることを示す。LAmBおよびデフェラシロクスでの併用療法は、いずれかの薬剤単独よりも効果的であった。これらのデータは、さらに、ムコール感染症の治療における、アンホテリシンBの脂質製剤を用いた補助的療法としてのデフェラシロクスなどの鉄キレート化の使用の治療上の有効性を実証する。上記結果はさらに、動物モデルのムコール症の治療において、鉄キレート剤デフェラシロクス(Exjade(登録商標))とリポソームアンホテリシンBとを併用した場合、結果として相乗効果を生じることを示す。
【0139】
(実施例VIII)
好中球減少性感染マウスにおけるデフェラシロクスの効力
本実施例は、Rhizopus oryzaeに感染した好中球減少性マウスの治療におけるデフェラシロクスの効力を示す。
【0140】
デフェラシロクスが好中球減少の設定にもまた有効であるかどうかを決定するため、マウスをシクロホスファミドで骨髄除去した。2日後、マウスを尾静脈経由で2.7×103個のRhizopus oryzae99−892胞子に感染させた。初期の投与量応答の研究は、我々が鉄キレート剤デフェリプロンについて上記したように、糖尿病性ケトアシドーシスモデルとは対照的に、至適な結果が毎日ではなく隔日のデフェラシロクスの投与により達成されたことを示唆した(データは示さない)。デフェラシロクス(感染24時間後から開始して、2回の10mg/kgを隔日で5回投与)での処置は、プラセボと比較して、死亡時間を有意に改善した(図14)。対照的に、毎日2回投与されたデフェラシロクスは、プラセボと比較して、死亡時間を有意に改善しなかった。
【0141】
この研究は、好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの最大効力は、糖尿病性ケトアシドーシスマウスモデルにおける頻度よりも少ない頻度の投与を必要とし、かつ、デフェラシロクスは、好中球減少性マウスよりも糖尿病性ケトアシドーシスマウスモデルにおいて幾分より効果的であるように思われることを示す。
【0142】
(実施例IX)
好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの特異的毒性の評価
本実施例は、デフェラシロクスの毎日の投与で処置した好中球減少性マウスにおける毒性評価の結果を示す。
【0143】
以下は、本実施例に記載の手順で用いられる物質および方法を記載する。
【0144】
デフェラシロクスの毒性の研究
好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの毒性を評価した。マウスを上記のように好中球減少性にし、デフェラシロクス10mg/kg2回で毎日または隔日、7日間処置した。3つの異なる群(すなわち、プラセボ、デフェラシロクスでの毎日の処置およびデフェラシロクスでの隔日の処置)からのマウスを第3日目または8日目に犠牲にし、血液を回収し、評価のためにCharles Liver Laboratoriesに送付した。さらに、骨髄スメアを大腿骨から調製し、組織を回収し、亜鉛緩衝ホルマリン中に保存し、パラフィンに包埋し、5μmに切断し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。得られたスライドは、Charles Liver Laboratoriesの認定された獣医学病理学者により検討された。
【0145】
好中球減少性モデルでは隔日でのデフェラシロクスの投与が至適であったので、我々は、好中球減少性マウスにおいてデフェラシロクスの毎日の投与により引き起こされる潜在的な毒性を同定することを試みた。マウスをシクロホスファミドを用いて上記のように好中球減少性にしたが、感染させなかった。マウスを、デフェラシロクス10mg/kgで毎日2回、7日間にわたって、10mg/kg2回の隔日での4回の投与、またはプラセボで処置した。第3日目または第8日目に末端放血を行い、全血球数、血清化学および肝機能検査を測定した。病理組織学を、広範な器官のリスト(脳、心臓、肺、肝臓、胆嚢、脾臓、腎臓、胃腸管(胃、小腸および大腸を含む)および骨髄(両スメアおよび核心)を含む)について行った。白血球数、好中球絶対数、血小板数、ヘモグロビンレベル、血清化学(クレアチニン、血中尿素窒素,または電解質を含む)または肝機能検査(AST、ALTまたはビリルビンを含む)においては、いずれの時点でも、3つの群間での差異は認められなかった。病理組織学によれば、デフェラシロクスに起因し得る臓器特異的毒性は同定されず、造血の変化の証拠は含まれなかった。特に、化学療法による骨髄切除の増悪または骨髄切除から遅延した回復の証拠はなく、臨床検査による腎障害または肝障害のいかなる証拠もなく、また、病理組織学的評価によるいかなる特定の器官毒性もなかった。
【0146】
本研究は、毒性の証拠が見出されなかったので、好中球減少性マウスにおけるデフェラシロクスの毎日の投与で活性が減少したことが、このようなマウスにおけるデフェラシロクスの有毒な効果に起因し得ないであろうことを示す。
【0147】
本出願を通して、多様な刊行物が括弧内で参照されてきた。本発明が属する技術水準をより十分に説明するため、これらの刊行物の開示は、その全体が本出願で参照として本明細書中で援用される。
【0148】
本発明を、開示された実施態様を参照しながら説明してきたが、当業者は、上記に詳細に説明した具体的実施例および研究が本発明の例示にすぎないことを容易に理解するであろう。多様な改変が、本発明の趣旨から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鉄キレート化合物またはその医薬上許容され得る塩および少なくとも1つの抗真菌剤またはその医薬上許容され得る塩を含む、組成物。
【請求項2】
前記鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリエン抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体またはアンホテックから選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記アゾール抗真菌剤が、ポサコナゾール、ボリコアゾール(voricoazole)、フルコナゾールまたはイトラコナゾールから選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
前記エキノキャンディン抗真菌剤が、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物が、デフェリプロンおよびデフェラシロクスを含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
2つまたはそれ以上の抗真菌剤をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記2つまたはそれ以上の抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤から選択される、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
治療有効量の前記鉄キレート化合物、前記抗真菌剤またはそれらの両方をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
医薬上許容され得る媒体をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
真菌症を治療または予防する方法であって、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、該鉄キレート化合物が、該真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、方法。
【請求項15】
前記真菌症が、接合真菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、フザリウム症(ヒアロヒホ真菌症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症またはスポロトリクス症を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記接合真菌症が、ムコール症をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記ムコール症が、脳型ムコール症、肺ムコール症、胃腸ムコール症、播種性ムコール症、骨ムコール症、縦隔ムコール症、気管ムコール症、腎臓ムコール症、腹膜ムコール症、上大静脈ムコール症または外耳炎ムコール症を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ムコール症が、ケカビ目内の感染性因子に関連する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記ケカビ目内の因子が、Rhizopus oryzae(Rhizopus arrhizus)、Rhizopus microporus変種rhizopodiformis、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Mucor種、Rhizomucor pusillusおよびCunninghamella種(Cunninghamella科)からなるRhizopus種から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記カンジダ症が、Candida albicans、Candida krusei、Candida tropicalis、Candida glabrataおよびCandida parapsilosisからなるCandida種から選択される感染性因子に関連する、請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記アスペルギルス症が、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus terreus、Aspergillus nidulansおよびAspergillus clavatusからなるAspergillus種から選択される感染性因子に関連する、請求項15記載の方法。
【請求項22】
前記鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項14記載の方法。
【請求項23】
2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物をさらに含み、各鉄キレート化合物が、前記真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、請求項14記載の方法。
【請求項24】
前記2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物が、デフェリプロンおよびデフェラシロクスを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記予防が、前記真菌症の発症の前に、前記少なくとも1つの鉄キレート化合物を予防的に投与することを含む、請求項14記載の方法。
【請求項26】
真菌症を治療または予防する方法であって、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、該鉄キレート化合物が、該真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、方法。
【請求項27】
前記真菌症が、接合真菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、フザリウム症(ヒアロヒホ真菌症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症またはスポロトリクス症を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記接合真菌症が、ムコール症をさらに含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記ムコール症が、脳型ムコール症、肺ムコール症、胃腸ムコール症、播種性ムコール症、骨ムコール症、縦隔ムコール症、気管ムコール症、腎臓ムコール症、腹膜ムコール症、上大静脈ムコール症または外耳炎ムコール症を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記ムコール症が、ケカビ目内の感染性因子に関連する、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記ケカビ目内の因子が、Rhizopus oryzae(Rhizopus arrhizus)、Rhizopus microporus変種rhizopodiformis、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Mucor種、Rhizomucor pusillusおよびCunninghamella種(Cunninghamella科)からなるRhizopus種種から選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記カンジダ症が、Candida albicans、Candida krusei、Candida tropicalis、Candida glabrataおよびCandida parapsilosisからなるCandida種から選択される感染性因子に関連する、請求項27記載の方法。
【請求項33】
前記アスペルギルス症が、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus terreus、Aspergillus nidulansおよびAspergillus clavatusからなるAspergillus種から選択される感染性因子に関連する、請求項27記載の方法。
【請求項34】
前記鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項26記載の方法。
【請求項35】
前記抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤から選択される、請求項26記載の方法。
【請求項36】
前記ポリエン抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体またはアンホテックから選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記アゾール抗真菌剤が、ポサコナゾール、ボリコアゾール(voricoazole)、フルコナゾールまたはイトラコナゾールから選択される、請求項35記載の方法。
【請求項38】
前記エキノキャンディン抗真菌剤が、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項35記載の方法。
【請求項39】
2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物をさらに含み、各鉄キレート化合物が、前記真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、請求項26記載の方法。
【請求項40】
前記2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
2つまたはそれ以上の抗真菌剤をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項42】
前記2つまたはそれ以上の抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤から選択される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記予防が、前記真菌症の発症の前に、前記少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を予防的に投与することを含む、請求項26記載の方法。
【請求項1】
少なくとも1つの鉄キレート化合物またはその医薬上許容され得る塩および少なくとも1つの抗真菌剤またはその医薬上許容され得る塩を含む、組成物。
【請求項2】
前記鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリエン抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体またはアンホテックから選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記アゾール抗真菌剤が、ポサコナゾール、ボリコアゾール(voricoazole)、フルコナゾールまたはイトラコナゾールから選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
前記エキノキャンディン抗真菌剤が、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物が、デフェリプロンおよびデフェラシロクスを含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
2つまたはそれ以上の抗真菌剤をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記2つまたはそれ以上の抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤から選択される、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
治療有効量の前記鉄キレート化合物、前記抗真菌剤またはそれらの両方をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
医薬上許容され得る媒体をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
真菌症を治療または予防する方法であって、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、該鉄キレート化合物が、該真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、方法。
【請求項15】
前記真菌症が、接合真菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、フザリウム症(ヒアロヒホ真菌症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症またはスポロトリクス症を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記接合真菌症が、ムコール症をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記ムコール症が、脳型ムコール症、肺ムコール症、胃腸ムコール症、播種性ムコール症、骨ムコール症、縦隔ムコール症、気管ムコール症、腎臓ムコール症、腹膜ムコール症、上大静脈ムコール症または外耳炎ムコール症を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ムコール症が、ケカビ目内の感染性因子に関連する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記ケカビ目内の因子が、Rhizopus oryzae(Rhizopus arrhizus)、Rhizopus microporus変種rhizopodiformis、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Mucor種、Rhizomucor pusillusおよびCunninghamella種(Cunninghamella科)からなるRhizopus種から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記カンジダ症が、Candida albicans、Candida krusei、Candida tropicalis、Candida glabrataおよびCandida parapsilosisからなるCandida種から選択される感染性因子に関連する、請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記アスペルギルス症が、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus terreus、Aspergillus nidulansおよびAspergillus clavatusからなるAspergillus種から選択される感染性因子に関連する、請求項15記載の方法。
【請求項22】
前記鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項14記載の方法。
【請求項23】
2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物をさらに含み、各鉄キレート化合物が、前記真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、請求項14記載の方法。
【請求項24】
前記2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物が、デフェリプロンおよびデフェラシロクスを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記予防が、前記真菌症の発症の前に、前記少なくとも1つの鉄キレート化合物を予防的に投与することを含む、請求項14記載の方法。
【請求項26】
真菌症を治療または予防する方法であって、真菌症を有するかまたは真菌症に感染し易い個体に、治療有効量の少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を真菌症の重症度を減少させるのに十分な時間にわたって投与することを含み、該鉄キレート化合物が、該真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、方法。
【請求項27】
前記真菌症が、接合真菌症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、カンジダ症、ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、フザリウム症(ヒアロヒホ真菌症)、ブラストミセス症、ペニシリウム症またはスポロトリクス症を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記接合真菌症が、ムコール症をさらに含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記ムコール症が、脳型ムコール症、肺ムコール症、胃腸ムコール症、播種性ムコール症、骨ムコール症、縦隔ムコール症、気管ムコール症、腎臓ムコール症、腹膜ムコール症、上大静脈ムコール症または外耳炎ムコール症を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記ムコール症が、ケカビ目内の感染性因子に関連する、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記ケカビ目内の因子が、Rhizopus oryzae(Rhizopus arrhizus)、Rhizopus microporus変種rhizopodiformis、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Mucor種、Rhizomucor pusillusおよびCunninghamella種(Cunninghamella科)からなるRhizopus種種から選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記カンジダ症が、Candida albicans、Candida krusei、Candida tropicalis、Candida glabrataおよびCandida parapsilosisからなるCandida種から選択される感染性因子に関連する、請求項27記載の方法。
【請求項33】
前記アスペルギルス症が、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus terreus、Aspergillus nidulansおよびAspergillus clavatusからなるAspergillus種から選択される感染性因子に関連する、請求項27記載の方法。
【請求項34】
前記鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項26記載の方法。
【請求項35】
前記抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤から選択される、請求項26記載の方法。
【請求項36】
前記ポリエン抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体またはアンホテックから選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記アゾール抗真菌剤が、ポサコナゾール、ボリコアゾール(voricoazole)、フルコナゾールまたはイトラコナゾールから選択される、請求項35記載の方法。
【請求項38】
前記エキノキャンディン抗真菌剤が、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項35記載の方法。
【請求項39】
2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物をさらに含み、各鉄キレート化合物が、前記真菌症に対する非シデロフォアまたは非異種シデロフォアを含む、請求項26記載の方法。
【請求項40】
前記2つまたはそれ以上の鉄キレート化合物が、デフェリプロンまたはデフェラシロクスを含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
2つまたはそれ以上の抗真菌剤をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項42】
前記2つまたはそれ以上の抗真菌剤が、ポリエン抗真菌剤、アゾール抗真菌剤またはエキノキャンディン抗真菌剤から選択される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記抗真菌剤が、アンホテリシンBデオキシコール酸塩、リポソームアンホテリシンB、アンホテリシンB脂質複合体、アンホテック、ポサコナゾール、ボリコアゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、カスポファンギン酢酸塩またはミカファンギンから選択される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記予防が、前記真菌症の発症の前に、前記少なくとも1つの鉄キレート化合物および少なくとも1つの抗真菌剤を予防的に投与することを含む、請求項26記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−543788(P2009−543788A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519562(P2009−519562)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/016065
【国際公開番号】WO2008/008537
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(502170175)ロサンゼルス バイオメディカル リサーチ インスティテュート アット ハーバー− ユーシーエルエー メディカル センター (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/016065
【国際公開番号】WO2008/008537
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(502170175)ロサンゼルス バイオメディカル リサーチ インスティテュート アット ハーバー− ユーシーエルエー メディカル センター (11)
【Fターム(参考)】
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